悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る   作:延暦寺

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本日2話目です。


第18話 天然物 VS 養殖物

「それじゃあ、今日はあとはクラスの交流だ。自己紹介でもなんでもやってくれ。まず、お前から自己紹介しとけ」

 

 先生が気だるげに一番手前の右端に居た生徒を指さす 。

 指定された生徒は戸惑いながらも立ち上がり、自己紹介を始めた。

 

「俺は――」

 

 と、特に問題なく自己紹介は進んでいく。

 そして、いよいよお嬢様の番がやってきた。

 

「九条葵ですわ! 九条財閥の一人娘で得意な属性は火。目指すはもちろん最強ですの。優雅に華麗にエレガントな私と同じクラスになれたことを光栄に思いなさい! 九条葵! 九条葵をどうぞよろしくお願いいたしますわぁ!」

 

 どこからか選挙カーのウグイス嬢のように自分の名前を連呼し、お嬢様はしゃなりと席に付く。心なしか周囲に手を振っていた気すらする。

 続いて俺が立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。

 

「佐藤忍です。俺の一族は代々九条家の護衛をしています。お嬢様の従者として恥ずかしくないよう、皆さんと切磋琢磨していきたいと思います。よろしくお願いします」

 

 と、無難な挨拶をこなす。

 一部から殺気混じりの敵意がこもった視線を向けられるが、俺はどこ吹く風で気にせずに着席する 。

 

「えっと、神代栞奈、です。皆さんの中には気づいている方も居ると思いますが、実家は神代重工です。葵様の家と共同でアーティファクトに携わっていただいています。アーティファクト関連でお困りごとがあれば、ぜひ相談に乗らせてくださいね。三年間、よろしくお願いいたします」

 

 お嬢様とはまた別ベクトルの、おっとりとした気品の良さを見せにこりと笑う栞奈 。

 周りの男子からは「ほぉ……」とため息が漏れ、そのお嬢様力を遺憾なく発揮している 。

 だが、まさかそんな可憐な彼女が、ブラックホール並みの胃袋を持つ健啖家とは夢にも思うまい。

 その後も、勇希、カリンと続き、自己紹介は滞りなく終了した 。

 

「よし、全員自己紹介が終わったな。今日はこれで終わりでいいから、後は各自自由に交流していいぞぉ」

 

 ひらひらとやる気なく手を振ると、先生は立ち上がって教室から出ようとし――。

 

「君に決闘を挑む!」

 

 と、突き刺さるような声が上がったことでピタリと止まり、めんどくさそうに振り返った。

 

「え、俺ですか?」

 

 そして、それを言われた当事者である俺は困惑する。

 目の前に立っていたのは、不自然なほどツヤツヤにセットされたライトブラウンのセンター分けをかき上げた男だった 。

 顔立ちは整ってはいるが、全体的に線が細く、顎が少し尖ったキツめの狐顔 。

 

「あぁ、そうだ君だ。先ほどまでは君もどこか良家の人間だと思っていたら……葵嬢の従者というじゃないか。そんな奴が良家のお嬢様に挟まれて座るなんて、身の程知らずにも程があるんじゃないか?」

 

 ……あぁ、はいはい。つまりは美少女2人に囲まれている俺が妬ましいと。

 周りを見渡せば、他の男子からも「俺達もそう思います」と言わんばかりの同意の視線がこちらに集中している。

 

「そこで、この僕……優秀な探索者(シーカー)を輩出する鎌瀬(かませ)家の三男、鎌瀬 戌太(いぬた)が――って待て、何をしている」

 

 俺がスマホを取り出し、手早く画面をタップしているのを見て、鎌瀬が怪訝そうに尋ねる

 

「え? いや、日本国内での決闘は決闘罪になるので、警察に通報しようかと」

「馬鹿か君は!? ここは普通、男らしく受けて立つところだろう!」

「いや、普通とか言う前に法律違反なんで……」

 

 ほら、俺ってお嬢様の従者だし? 主の名誉のためにも前科持ちの犯罪者にはなりたくないというか。

 

「あの、忍さん。十束学園の敷地内では、常軌を逸したルールや賭け事をしない限りは、学生間の決闘は公式に認められていますよ……」

 

 と、栞奈が背後からコソッと耳打ちしてくる。

 知ってるよ、くそ。

 明らかに面倒くさいイベントなのでうやむやにしようと思ったのだが、どうやらダメそうだ。

 

「とにかく! 身の程知らずな君に決闘――模擬戦闘を挑む!」

 

 お、日和って言い直した。

 うーん、絵に描いたような小物だ。

 俺の三下ムーブは養殖だが、こいつの天然物の三下感は新鮮でちょっと面白いな。

 

「忍、相手をしてやりなさい。あなたが私の従者に相応しいことを、思い知らせるのです」

 

 どう断ろうかと頭を悩ませていたが、ご主人様(お嬢様)から直々のご命令が下ってしまっては逆らえない。

 

「……承知いたしました」

 

 俺はしぶしぶ、その挑戦を承諾するのだった。

 

「えー、お前ら決闘すんのかよ……じゃあ、ワタシが監督しないとダメじゃんか。はぁ……めんどくさ」

 

 と、先生は気だるげに頭をかく 。

 普段はダウナー系な彼女だが、こういうところは妙に真面目というか、教師としての責任感があるんだよな 。

 ――だったら責任感を発揮して今すぐこの決闘を止めてくれればいいのに、と思うのは野暮だろうか。

 

 ◇

 

 ゴーレムに乗って移動する先生に連れられ、俺達はそこそこの広さの訓練場にやってきた。

 地面は硬い土で出来ており、周囲は高い石壁で囲まれているコロッセオ風のステージだ。

 

「命に関わるような攻撃は無し。戦意喪失するかリタイア宣言したら終了。死体蹴りするような真似をしようとしたら、ワタシが力ずくで止める。いいな?」

「構いません!」

「わかりました」

 

 目立ちたくないし、適当に良い感じに善戦した風を装って、最後はラッキーヒットでの辛勝くらいに見せておくのが無難だろう 。

 俺はそんなことを考えながら、見た目はただの指抜きグローブにしか見えない汎用アーティファクト『九条式・汎用型グローブ 改三』を両手に装着する 。

 

「フハハハハ、なんだそのみすぼらしいアーティファクトは! 旧式の量産品じゃないか!」

 

 鎌瀬はきらびやかなレイピア型のアーティファクトを構えながら高笑いをする 。

 

「どうやら九条財閥は従者への金はケチるらしい! それとも葵嬢は、それほど君に期待していないってところかな!」

 

 すげぇなこいつ。いくら九条財閥が学園に介入できないからって、ここまで言いたい放題かよ。

 いっそ清々しいほどの三下ムーブに感動すら覚える。

 お嬢様が親に報告したらとか考えないのかな。

 まぁ、お嬢様はそういう事はやらずに真正面からぶっ飛ばすだろうけど。

 

「君のようなみすぼらしい者を従者にしている時点で、葵嬢の才覚も底が知れるというものだ! 天下の九条財閥には、人を見る目はなかったらしいね!」

 

 鎌瀬は憐れむような目を俺に向けて、これ見よがしにレイピアを振るう。

 

「忍」

 

 鎌瀬が悦に入って演説している中、お嬢様に呼ばれ振り返る。

 ニッコリと笑みを浮かべたまま、彼女は親指を立ててそれを横にすると首を掻っ切るジェスチャーをする。 

 ……あぁ、鎌瀬終わったな。

 鎌瀬、お前の敗因はたった一つ。お前は、お嬢様を怒らせた 。

 

 俺は、邪気のない満面の笑みを浮かべながら両手両足に()()を込め、一歩一歩踏みしめるように彼へと近づき、右手を差し出した。

 

「お互い、いい勝負にしましょうね」

「……ふん」

 

 俺が特に悔しがるリアクションを起こさないことに不満なのか、鎌瀬はパンッと俺の差し出した手を激しく弾いた。

 

「生憎、下民と握手するほど僕は安くないのでね」

「そうですか、それは残念です」

 

 俺は、見事にこちらの思惑通りに動いてくれた相手に、内心でほくそ笑みながら距離を取って構える。

 残念ながら、もうこの時点で仕込みは終了した。

 せいぜい無様に舞ってくれ。

 

「準備はいいな? それじゃあ――はじめ」

「この僕のアーティファクト……風裂の細剣(シルフィード・エッジ)の餌食になるがいい!」

 

 風の魔力を纏った鎌瀬が、キザな笑みを浮かべてこちらに向かって直線的に突進してくる――が。

 

「ぬあっ!?」

 

 何かに足を引っかけたかのように、何もない平地で盛大にすっころんだ。

 ズシャーッと勢いよく地面を滑り、容赦なく顔面を土に打ち付ける鎌瀬。

 訓練場に気まずい沈黙が流れる。

 

「大丈夫ですか?」

 

 俺はこれ以上ないほど心配そうな顔をして近づき、再び彼に手を差し伸べた。

 

「うるさい! 僕に触れるな!」

 

 鎌瀬は俺の手を再び激しく弾くと、鼻から出ている血を拭い、立ち上がった。

 俺はわざとらしく肩をすくめながら、素直に再び距離を取る。

 

 ちなみに、先ほど奴が派手に転んだのは、当然だが俺の仕業だ。

 試合直前、奴に近づいた瞬間に、地面にいくつか設置型のトラップを仕込んでおいた。

 罠を踏めば一瞬だけ足元を固定して動きを封じる程度の地味なトラップだ。

 もっとも、周囲や先生にバレないよう最小限の魔力で設置した一回こっきりの使い捨てだが、相手の出鼻を挫くにはこれ以上ない効果を発揮してくれた。

 

「改めて、いくぞ……!」

 

 ツヤツヤの髪をふぁさりとかき上げ、何事もなかったかのように再び突っ込んでくる。

 仮にも十束学園の入試を突破しているのだから、それなりの実力はあるのだろうと身構えていたのだが――あくびが出そうなほどに遅い。

 だが、ここで余裕で避けてしまっては実力がバレる。あえてギリギリで躱しているように見せる。

 

「おっと、危ない……!」

「くっ、先ほどからチョコマカと!」

 

 狙い通り、勝手にムキになって頭に血を上らせてくれる。

 

突風連撃(ソニック・ラッシュ)!」

 

 鎌瀬が盛大な叫び声と共にレイピアを突き出す 。

 風の力によって加速された、目にも留まらぬ連続刺突が俺を襲う 。

 俺は空気の揺らぎと事前の予備動作からすべての軌道を予測し、ひらひらとすべての刺突を紙一重で避けていく。

 

「ぐう……っ!? 下民のくせにぃ!」

 

 そこから怒涛の連撃を繰り出してきたが、そのどれもが俺の衣服にすら掠らない。

 時間が経過するごとに鎌瀬の顔からは脂汗が流れ、呼吸も目に見えて荒くなっていく。

 ……よし、そろそろか。

 

 顔を完全に青ざめさせ、足元をフラフラとさせている鎌瀬の懐に潜り込み、偶然手が当たってしまったかのようなラッキーヒットを装って、盛大に突き飛ばす。

 

「ぐ、があああっ!?」

 

 情けない叫びと共に、鎌瀬は無様に地面へと転がって背中を打ち付けた。

 

「おっと、すみません。あまりにふらつかれていたので、()()()()俺の突きがカウンター気味に当たってしまいました……」

 

 白々しく謝ってみせる。

 まぁ、奴がふらついている原因は俺なんだけどね☆

 仕込みは計2回。

 最初の握手で弾かれた時と、転んだ奴に手を差し伸べて再び弾かれた時だ。

 俺はその際、両手に非致死性の毒を発生させる魔法『毒掌(シガテラ)』を発動していた。

 原作の忍も使用していたスキルで、ゲーム内では一定時間ステータスを低下させるデバフ効果だが――現実でまともに喰らった場合、重めのインフルエンザにかかったかのような強烈な悪寒、倦怠感、そして激しい目まいに襲われる。

 そんな状態で全力で動き回れば、どうなるかは火を見るより明らかだ。

 

「――それまで。見届け人として、これ以上の試合続行は不可能と判断する。勝者、佐藤」

 

 と、そこへ先生が割って入り、気だるげに勝者を宣言した 。

 お嬢様と栞奈への侮辱は万死に値すると思え 。

 なぁに……安心しろ。医務室で治療師(ヒーラー)の先生にデバフを解除してもらえば、すぐに楽になるさ。

 

「ぼ、僕が負け……だと? そんなこと、認められるかぁあああああああ!」

 

 俺が勝負を終えてお嬢様たちの元へ歩き出そうとした瞬間、執念で立ち上がった鎌瀬が、背後からレイピアを構えて襲い掛かってきた。

 

「――はい、ルール違反。言っただろう? ワタシに無駄な面倒を掛ける奴は()()だって」

「ぐえぁ!?」

 

 俺に届くよりも早く、鎌瀬の身体は先生の操るゴーレムによって容赦なく地面へと叩きつけられた。

 鎌瀬は、つぶれたカエルのような無様な悲鳴を上げて、今度こそ完全に沈黙した。

 

 ……うわぁ、こわぁ。

 先生だけは、絶対に怒らせないように生きようと心に誓う俺だった。

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