悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る   作:延暦寺

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第19話 ダンジョン講座

 翌日、教室にある鎌瀬の席はぽっかり空いていた。

 停学や退学処分にはなっていないようだが、流石にあれだけの醜態を晒して次の日に平然と登校できるほど、彼の面の皮は厚くなかったらしい。

 

「それにしても、昨日の勝負は本当に凄かったね。忍君、あんなに強かったんだ」

 

 登校するなり、勇希が目を輝かせて話しかけてきた。

 

「オーホッホ! 当然ですわぁ! 私の従者ですもの! あんな、身の程を知らない()()に負けるわけがありませんわぁ!」

 

 勇希の称賛に対し、お嬢様はまるで自分のことのように胸を張って嬉しそうに語る。

 節穴の部分に、凄まじい殺意がこもっていた気がするが、気づかなかったことにしよう。

カリンからも「やるじゃない(ニコッ)」とお褒めの言葉をいただき、栞奈からも「流石です」と賞賛される。

 

「いやー、まぐれだよ。彼もなんか具合が悪そうだったし、たまたまラッキーヒットしただけだよ」

 

 周囲から注がれる羨望の視線を受け流しながら、俺は手を振って否定する。

 皆から褒められるのは悪い気はしないが、流石に少しこそばゆい。

 アイツはお嬢様をバカにしていたので、人の目が無ければもっとボコっていたのだが……まぁ、とりあえずはあれで許してやる。

 先生からも制裁くわえられてたし。

 

 

 そうそう、昨日の事があってか男子生徒からの視線は多少なりともマイルドになっている。

 それでも、嫉妬の視線がチクチクするが、こればっかりは甘んじて受け入れよう。

 

「ういーっす、授業の時間だオラァ。席につけー」

 

 俺達が話していると、ヨレヨレの白衣を羽織った先生が、死にそうな足取りで教室に入ってくる。

 目の下のクマが一層濃くなっているので、どうせまたソシャゲか何かを徹夜で周回していたのだろう。

 これでいて、実際は強いのだから詐欺にもほどがある。

 昨日の決闘後の様子を思い出し、俺はブルリと震える。

 

「1限目はダンジョン学だ。最初の授業だし、歴史でも軽く振り返ってみようか」

 

 そう言って、チョークを気だるげに走らせ、黒板に乱雑な文字をカッカッと書き込んでいく。

 

「大昔、各地に何の前触れもなくダンジョンが現れた。未知の怪物たちの襲撃に対し、当時の近代兵器はほとんど通用せず、人類は一方的に蹂躙されるしかなかった。これが第一次ダンジョン災害だ」

 

 当時の事は知らないが、ゲーム内の回想や、この世界で目にした当時の資料映像は、目を覆いたくなるほど凄惨なものだった。

 主要都市が文字通り一晩で壊滅していく絶望的な状況から、よくぞここまで盛り返したものだと、人類の底力には素直に感心してしまう。

 

「あわや人類滅亡か、という瀬戸際で、ダンジョンから溢れ出た魔力に適応し、異能を行使する人間が現れ始めた。当時は覚醒者、現在では探索者(シーカー)と呼ばれる存在だ。うちの学園長もその生き残りだな」

「先生! 学園長ってめちゃくちゃ若くて美人ですけど、本当は何歳なんですか!?」

 

 最前列の男子生徒が、身を乗り出すようにして手を挙げた。

 それは俺も気になっている。

 見た目は20代のエッチなおねーさんだが、実年齢は公式情報にもなく謎に包まれているのだ。

 

「あー、残念ながらそれはワタシも知らん。だが、災害当時からあの人の見た目は変わっていないらしい。……いいかお前ら、だからといって興味本位で学園長の年齢を探ろうなんて絶対に考えるなよ? 過去にその領域に踏み込もうとした馬鹿どもが――何人も行方不明になっている」

 

 いつもはやる気のない先生が、この時ばかりは声音を落とし、恐ろしいほど真剣な表情で告げた。

 あまりのリアルな緊迫感に、質問した生徒はごくりと息を呑んで硬直する。

 

「――なんてな、冗談だ。ま、どっちにしろレディの年齢を詮索するもんじゃない。もちろん、ワタシの年齢も詮索厳禁だ。……分かったな?」

 

 じろりと据わった目で教室全体に睨みを利かせる神馬瀬那(28歳)さん。怖いので誰も目を合わせようとしない。

 

「で、どこまで話したっけ……。あぁ、そうだ。探索者(シーカー)たちの活躍でどうにか人類は滅亡を免れ、最初の災害を乗り越えた。その後、落ち着きを取り戻した各国が改めてダンジョン内部を調査したところ、未知のエネルギーや資源がゴロゴロ眠っていることが発覚した。そこからはまさにゴールドラッシュさ。一攫千金と夢見る命知らずどもが、我先にと飛び込んでいった。これがダンジョン黎明期の始まりだ」

 

 その黎明期において、ダンジョン内から回収された超常の兵器――遺物(レリック)が発見され、それを解析して誰でも安全に扱えるようにした人工遺物(アーティファクト)の量産化に成功したのが、九条財閥と神代重工だ。

 使い手を選ぶレリックに対して、誰でも一定の性能を引き出せるアーティファクトは、またたく間に世界中へ普及し、現代のダンジョン攻略における必須装備となった。

 

「中にはダンジョンは神の恵みだという奴も居るが……ダンジョンの発生原因は未だに分かっていない。また、中にはダンジョンの瘴気の影響か、モンスター化する人間もちらほら見られるようになった」

 

 そう、ダンジョンの原因は作中では明かされず最終盤になってようやく分かるのだ。

 異星からの侵略者である無貌の捕食者ナイア・ラ・ソトスが、地球を餌場として侵略にやってきたと。

 奴の餌は人間の強烈な感情。

 特に怒り、嫉妬、絶望、そして底の抜けた物欲といった負の感情が大好物。

 より高品質な絶望を効率よく収穫し、己の忠実な眷属を増やすために、奴がダンジョンを通じて人類に与えたのが遺物(レリック)だった。

 邪神の悪意が宿ったレリックは強大な力を発揮する反面、使用者の精神を汚染し、完全に闇に呑まれた者は理性を失った魔人へと成り果てる。

 先生の言うモンスター化の正体がこれだ。

 

 そして、ナイアが作り出した中でも最悪のレリックが、人間の感情を極限まで増幅させる大罪シリーズ。

 傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲――そして、()()だ。

 邪神ナイアは、他者を排斥し争いを生む正義こそを、人間の独善が生み出す果てしなき大罪の一つだと嘲笑い、定義した。

 その正義を司るレリック――アストレアの所有者として選ばれてしまったのが、勇希だ。

 

 邪神の誤算は正義を単なる人間のエゴや罪だと侮っていたこと。

 勇希の胸に宿る正義は、見返りを求めない無償の愛であり、世界を守るための純粋な自己犠牲。

 それゆえに彼は、呪いのレリックの精神汚染をねじ伏せ、デメリットなしで行使する。

 人間を理解しきれなかったがために、邪神は敗北することになる。

 

 ……まぁ、進め方次第では力に呑まれ闇堕ちしてしまう魔人ルートもある。

 その際は人類の敵となり、バッドエンドだ。

 

(……あれ? これ、めちゃくちゃマズいのでは……?)

 

 授業中、俺の脳裏に最悪の可能性が電撃のように走った。

 お嬢様の破滅フラグさえ叩き折れば、あとは安泰な学園生活を送れると高を括っていたが、そもそも世界を救う要である勇希が闇堕ちしたら、その時点で詰むのでは?

 ゲームならに正しい選択肢を選ぶだけで回避できた。

 だが、現実のこの世界には選択肢ウィンドウなんて表示されないし、セーブ&ロードも不可能。

 

「……? ……♪」

 

 恐る恐る、勇希の様子をちらりと窺う。すると、視線に気づいた彼は小首を傾げた後、満面の爽やかスマイルでこちらに向かって親しげに手を振り返してきた。

 

 

 胃が……。胃がキリキリと痛み出す。誰か俺に強力な胃薬をください……。

 

 とんでもない可能性に気づいてしまった俺はSANチェックです。(失敗)

 その後は授業の内容が全く頭に入らないまま、気が気じゃない状態で午前中を過ごす羽目になった。

 

 ◇

 

「はぁ……」

「先ほどからどうなさったの、忍。そんなに深いため息ばかりついていると、幸せが逃げていってしまいますわよ?」

 

 午前中の授業が終了し、食堂に向けて歩いている最中、お嬢様が怪訝そうな顔で覗き込んできた。

 

 実はお嬢様だけじゃなくて勇希も闇堕ちの可能性もあるんですよぉ~……何てことは言えるはずもない。

 

「いえ、申し訳ありません。少々、自分たちの……今後の将来について、思いを馳せてしまいまして」

「しょ、将来……!?」

 

 俺の言葉に、なぜかお嬢様は目を見開き、みるみるうちに耳の付け根まで真っ赤に染め上げていった。

 両手を口元に当てて、何やらおろおろと視線を彷徨わせている。

 あれ? なんか俺、変なこと言ったか?

 

「――進んでいるわね」

「ねー」

「あ、あの二人は、小さい頃から主従であり幼馴染として、ずっと一緒の時間を過ごしてきましたので……。ま、まぁ、わ、私も同じ幼馴染ではあるのですけれど……っ」

 

 少し後ろを歩いていた勇希とカリン、そして栞奈の三人が、なぜか一定の距離を保ちながら生温かい視線をこちらに送ってきた。

 

 ……何なんだ一体。おいそこ、主人公。

 俺は今、お前の将来設計について真剣に頭を悩ませているんだぞ。

 決して他人事じゃないんだからな、まったく。

 

「し、忍! な、何を一人で悩んでいるかは知りませんが、貴方はずっと私の側に居るんですのよ! どこかへ行ってしまうなんて、万に一つも許しませんからね!」

 

 お嬢様は上気した顔を隠すようにぷいっとそっぽを向きながらも、強い口調で俺の腕の袖口をきゅっと掴んできた。

 

「え? あ、はい。それは勿論です。どこへも行きませんよ。(従者として)ずっとお傍におります」

 

 俺が当然の義務として力強く頷くと、お嬢様は「……ふん、なら良いですわ」と、どこか嬉しそうに満足げな笑みを浮かべて手を離した。

 

 その後、どうせ1人も2人も面倒を見るのは変わらないと吹っ切った俺は、思考を切り替えて、午後の活動に向けた気合を注入すべく、食堂で学食特製のメガ盛り唐揚げ定食を注文したのだった。

 

 あ、ちなみに栞奈さんは、朝食に負けず劣らず、俺のメガ盛りを遥かに凌駕する超ドカ盛りのラーメンとチャーハンセットを、涼しい顔で爆食していました。

 本当にあの小さな体のどこにそれだけのブラックホールが格納されているんだろうね。

 神代重工のかがくりょくってすげー!。

 

 




 勇希の武器は言うなればサ○ンナイト3の主人公の武器みたいな感じです(激古)
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