悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る 作:延暦寺
「はい、初めてのダンジョン実技お疲れ様ぁ。みんな、よくできてました」
すべてのペアがダンジョンを攻略し、早乙女先生は話し出す。
「くじ引きだったので、慣れないペア、知り合いのペア、色々あると思います。カメラで中の様子を確認していましたが、ちゃんと話し合いお互いの強みなどを活かしていて流石は入学試験を突破しただけはありますね」
と、皆を褒める中、チラリとお嬢様とカリンの方を見る。
「まぁ、中には上手くいかなかった人も居ますが授業はまだ始まったばかり、徐々に連携力などは鍛えていきましょう」
その他にもダンジョンで立ち回り方など、総評を述べていき授業は終わりとなった。
「なんでアタシたちが最下位なのよっ」
教室に戻る途中、カリンがぷりぷりと怒る。
なんでって、ねぇ……?
「私の射線にどなたかが入ってくるのが悪いのですわ」
「守ってもらわないと狙われ続けるアンタが悪いんでしょ!」
と喧嘩を始める二人。
うーん、仲が悪い。
普段はここまで険悪ではないのだが、最下位という不本意な結果がギスギスさせている。
「まぁまぁ、今回は運悪く二人アタッカーだったんだから仕方ないよ。俺はカリンにいつも助けられてるよ」
「そうですよ、お嬢様。お嬢様の価値は先ほどのだけで決まるわけではありません。これを糧に、より成長していきましょう」
と、俺と勇希がたしなめることでなんとかその場の空気を換えていく。
「ふ、二人とも……なんか、仲良くなってますね」
そんな様子を見ていた栞奈が俺と勇希の姿を見てそんなことを漏らす。
「そういえば……なんか距離近くなってない?」
栞奈の言葉にカリンも疑わしげな表情でこちらを見てくる。
まぁ、勇希の目的や人となりもわかったし、元々俺個人としては彼を嫌いではなかったので、距離が近くなったと言えばなったのかもしれない。
「俺と忍くんは同じ目的を持ってるってのが分かったからね。ねぇ?」
「まぁ……確かに?」
「もー、なんかそっけないなぁ。照れてるの?」
と、勇希はウリウリと俺の脇腹をつついてくる。
「ちょっと忍? 貴方は私の従者ですわよね? ダメですわよ?」
「何がダメなのかはわかりませんが、俺は何があってもお嬢様の従者なので安心してください」
しっかり目を見つめてそう伝えると、「ならいいですわ」とお嬢様は満足げに頷いた。
その後も雑談をしていると、俺はそこに居るはずのない人物を見かけ、全身にゾワリと悪寒が駆け巡る。
「馬鹿な……!」
急いでその場に向かうが、既にその場には誰も居ない。
「ちょっと忍、急に走り出してどうしたんですの」
お嬢様を筆頭に不思議そうにしながらこちらに向かってやってくる。
「あ、いえ……なんでもありません。ちょっと走りたくなりまして」
俺は早鐘のようにドクンドクンとのたうち回る心臓を無理やり鎮め、笑顔で答える。
そうだ、こんな時期に居るはずがない。
だが、あの長い銀髪と、豪奢な司祭服を見間違えるはずもなかった。
ナイア・ラ・ソトスを神と崇める邪教集団、
その幹部、
原作では、お嬢様に
だが、あまりにも早すぎる。
奴らの存在が明らかになるのは中盤以降。
お嬢様も原作でそのあたりから様子がおかしくなり、後半に差し掛かって魔人として覚醒し勇希に討たれる運命となる。
少なくともこんな序盤に出てきて良い敵ではない。
「ちょっと、忍? 汗がすごいですわよ?」
「え、あ……」
お嬢様の声に我に返ると、気づけばびっしょりと汗をかいていた。
「ほ、本当に大丈夫ですか?」
「具合が悪いなら医務室に行った方がいいんじゃないの?」
栞奈やカリンも心配そうにこちらを見てくる。
「本当に大丈夫。心配かけてごめん」
と、俺は笑みを浮かべてそう答える。
まだ、本当に見間違いという可能性もある。
たまたま似た特徴の人物を見かけ、無意識に原作と結びつけてしまった可能性もある。
そう思い込もうとするが、嫌な予感だけは拭えなかった。
それに言ったところで「何でそれを知っている?」と疑問を持たれる。
実はこの世界はゲームと同じ世界で俺は展開を知っている、といえばこいつらならアッサリ信じてくれるかもしれない。
だが、それを言ったことでどこに影響が出るか分からない。
それに、本当にただの見間違いだった場合、俺はただただ無暗に騒ぎを広めただけの奴になる。
お嬢様には、そういった破滅の運命があったと知らないまま幸せに過ごしてほしい。
その後、俺は何とか取り繕いながら一日を過ごすのだった。
寮に帰ってきて、お嬢様たちと別れると考えをまとめるために自室へと向かう。
「おう、忍! 浮かない顔をしてどうした!」
「黒古田院の旦那……」
その途中、入寮テストで出会った巨漢……黒古田院に話しかけられる。
「他の人にも言われましたが、そんな分かりやすいですか?」
「そうじゃな、まるで重いものを予想外に背負ってしまったような、そんな悲壮感が漂っておる」
まさにそのものずばりで、彼の観察眼の鋭さに内心舌を巻く。
「お前には入寮テストで世話になった。ワシに出来ることならなんでもするぞ」
俺は、その言葉で少しばかり気持ちが軽くなる。
――彼に伝えてしまおうか。
一瞬、そんな考えが浮かぶ。
彼は原作でも登場しなかったキャラだ、彼に手伝ってもらっても大きな影響は起きない可能性がある。
まぁ、そもそもが既に白亜が現れた時点で原作は大幅に変わっている可能性は大だが……。
いや、やめておこう。
こういうことに巻き込むのは違う。
「ありがとうございます。ですが、大丈夫です。もし、何かあればお願いしますね」
「おう、約束じゃぞ!」
豪快に笑う黒古田院と別れ、俺は自室へと入る。
「――まず、状況を整理しよう」
本来、四災の連中――特に白亜は序盤では絶対に出てこないはずだ。
お嬢様とは寮以外では基本付きっきりだし、闇堕ちする気配もないから、お嬢様に関しては問題ないだろう。
「……いや、待て。原作でも白亜は『以前から学園に潜入していた』と言っていたはずだ」
時期は明言されていなかったが、このくらいの時期から潜入していたと考えれば、たまたま見かけてもおかしくない。
なら……まだ、事は起こしていない?
奴らも、学園長に発覚しないよう慎重に動いているはずだ。
学園長は決して無能ではない。
むしろ原作でも、世界最高峰クラスの実力者として描かれていた。
だが、
末端は使い捨て、記憶操作や自害すら厭わず、尻尾を掴ませないことで有名だった。
原作でも学園長は奴らの存在自体は察知していた。
それでも決定打を掴めず、水面下で探り合いが続いていたはずだ。
だが、嫌な予感が拭えない。
「なんだ……? 俺は何を見逃している……?」
白亜が渡すのは傲慢の
適合者は文字通り、傲慢な人間――プライドの高い人間だ。
しかし、お嬢様は傲慢は傲慢だが、光の傲慢(?)に育っている。
さらに、原作主人公である勇希とも今のところは関係も良好である。
「――鎌瀬?」
と、そこで俺は一人の人物に行きつく。
お嬢様と同じくプライドが高く非常に傲慢な人間だ。
そして、以前決闘で俺にボロ負けしてプライドを傷つけられた。
そんな人間が俺に恨みを抱かないどころか、素直に非を認めて謝罪するか……?
だが、あまりにも原作のお嬢様と酷似している。
ステータスの差は比べるまでもないが……大罪の
トントン。
嫌な予感がどんどん積み重なっていくと、不意に扉がノックされる。
扉の向こうからは重厚な魔力が流れてきて、嫌な汗が流れてくる。
できれば無視をしたい。
だが、扉の向こうに居る人物がそれを許さない。
俺は意を決して扉を開けると、そこには不自然なほどツヤツヤにセットされたライトブラウンのセンター分けをかき上げた男――鎌瀬戌太がそこに立っていた。
「やぁ、佐藤。ちょっと話をしないか」
ヌラリと……ねばつくような笑みを浮かべながら、瞳に深淵をたたえる鎌瀬はそう言うのだった。