悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る   作:延暦寺

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第23話 七つの大罪 ー傲慢ー

「どこまで行くんです?」

 

 突如自室を訪ねてきた鎌瀬についていき、人気のない演習用のダンジョンを歩く。

 鎌瀬の雰囲気に押されているのか、ダンジョン内のモンスターは襲ってくることはない。

 

「最奥までだ。そこでなら邪魔が入らないだろう」

 

 そう言って鎌瀬はどんどん奥へと向かっていく。

 そのまま最奥にやってくると、当然ながらここのダンジョンのボスが居るのだが、鎌瀬はすべてが真っ黒な闇で塗りつぶされた長剣(ロングソード)を取り出し――。

 

平伏セヨ(グラビティフォール)

 

 魔法を発動すると、ズンッとダンジョンボスは叫び声を上げる間もなく地面に叩き潰され絶命する。

 その魔法を見て、俺は確信する。――いや、確信してしまう。

 

「天墜剣ゼノルシア……」

 

 傲慢を司り、重力属性の魔法を操る遺物(レリック)で、原作ではお嬢様が使用していた武器だ。

 この世界では、あろうことか鎌瀬がそれを手にしていた。

 俺のつぶやきに、鎌瀬は少しだけ目を見開く。

 

「――へぇ、これのこと知ってるんだな。すごいだろう、これ。どんどん力が湧いてくるんだよ」

「誰からもらった?」

 

 俺はもはや敬語をやめて問い詰める。

 

「白亜さんって方さ。あの人は本当に素晴らしいよ。俺の気持ちに寄り添ってくれるだけじゃなく、こんなすごい遺物(レリック)をくれるんだからね! おかげで……お前をぶち殺せる!」

 

 白亜の名前が出てきたことで、やはりあれは見間違いじゃなかったのかと確信する。

 どういうわけか明らかに早く動き出している。

 だが、それよりも今は鎌瀬だ。

 

「っ! ちい!」

 

 風属性を使い加速した鎌瀬はためらいなく俺の首を狩ろうと剣を振る。

 俺はすぐさまバックステップをし辛うじて避ける。

 何とか避けれたが、明らかに決闘時よりもスピードが速い。

 これが大罪の遺物(レリック)の力だ。どんな雑魚でも絶大な力を得ることができる。

 

「やっぱり、教室での態度は演技だったってわけか」

「当然だろう? あれはあくまで、ゼノルシアに慣れるための時間稼ぎさ。屈辱だったよ、平民である君に頭を下げなければならないなんてね……。だが! おかげ君への殺意は天井知らずだ! さぁ、このゼノルシアの錆となれ!」

 

 俺は構えながら、身体強化を自身にかける。

 ある意味、ゼノルシアは因縁の相手だ。

 こいつを現時点で何とかできるのはある意味ラッキーだと前向きに考えることにしよう。

 原作では中盤以降のボスの為、かなり強めに設定されている。

 だが、現実では宿主が鎌瀬なこと。

 さらに浸食こそ進んではいるが、魔人化までは到達していないので、勝ち目は十分にある。

 もし、魔人化していたら、鎌瀬が相手だったとしても俺1人じゃ勝てなかっただろう。

 

「体調は万全だ。もう二度とお前に遅れは取らない! 平伏セヨ(グラビティフォール)!」

 

 先ほどダンジョンボスを圧殺した魔法が俺に襲い掛かる。

 一見すると不可避の魔法。

 だが、実際は一定範囲に超重力を発生させるだけだ。

 

 だからこそ、発動地点さえ読めれば避けられる。

 瞬間、先ほどまで俺が立っていた場所が見えない重力に押し潰され、地面にクレーターが穿たれる。

 

「相変わらずちょこまかと! 避けるだけしか能のない雑魚が! 重力嵐(グラビティ・テンペスト)!」

 

 その後も、避け続ける俺に業を煮やした鎌瀬は、漆黒の竜巻を発生させた。

 

「ぬ、おおおっ⁉」

 

 瞬間、ズズ……っと体が竜巻へ引き寄せられる。

 

「避けるなら避けられなくしてしまえばいい! この竜巻は貴様を引き付けるぞ!」

 

 なにそれ知らん! 原作に無い技使わないでもらっていいですか!

 

 大罪の遺物(レリック)にはそれぞれ固有の属性があり、持ち主の元々の属性に加えて使用ができる。

 お嬢様は火+重力だった。

 鎌瀬は風+重力といったところだろう。

 

 属性が違えば使う魔法も変わるってわけだ……!

 

「ほらほら、自慢のスピードで逃げたらどうだ!」

 

 高笑いを上げる鎌瀬。

 実際、重力が強すぎて抜け出すのは難しい。

 

 なら――逆に突っ込む!

 

「馬鹿なっ⁉」

 

 抵抗をやめ、俺はそのまま竜巻へ飛び込む。

 俺は全身に闇を纏い、そのままさらに二つの魔法を同時発動する。

 瞬間、脳が焼けるような激痛が走った。

 魔法は、同時に使用する種類が増えるほど脳に負担が掛かるのだ。

 

「うおおおおおっ!」

 

 頭の中が沸騰しそうになる。

 鼻血が垂れるが、構うものか。

 

「ハハハハ! 逃げられないと見て自ら飛び込んだか!」

 

 竜巻の中で切り裂かれる黒い影を見て、鎌瀬は愉快そうに笑う。

 

「ハハハハ……ふん、この程度だったか佐藤。所詮、僕とお前じゃこれだけの差があったんだよ」

「ドーピングしておいて随分と偉そうだな」

「何っ⁉」

 

 背後から聞こえた声に、鎌瀬が振り返る。

 だが――遅い。

 

闇穿ち(ハートブレイク)!」

 

 拳に込めた闇の魔力が、針のように鎌瀬の心臓を穿つ。

 

「……ガッ!?」

 

 衝撃で体が浮き、鎌瀬の全身がビクンと痙攣する。

 

「確かに、俺とお前じゃこれだけの差があったな」

「馬鹿、な……じゃあ、あの竜巻の中に居たのは……」

 

 鎌瀬が消えかけた竜巻を見る。

 そこにあった黒い影は、役目を終えたように霧散していった。

 

「あれは……囮、か……っ」

「正解。賞品は安らかな眠りをプレゼントだ」

 

 俺はそのまま奴の顎を打ち抜き、気絶させる。

 完全に動かなくなったのを確認すると、手に握られていたゼノルシアを蹴り飛ばした。

 

「――ふう、何とかなったな」

 

 もし魔人化していれば、遺物(レリック)と宿主は一体化しているため、

宿主ごと殺すしかない。

 原作でも、お嬢様は既に魔人になって登場していたので、生存の道はなかった。

 だが、鎌瀬はまだ魔人化していなかったので、こうやって遺物(レリック)と引き離しさえすれば安全だ。

 運が良かったな。

 

「いててて……やっぱ竜巻に突っ込むのは無茶だったか」

 

 俺は傷だらけの身体を見下ろす。

 さっき使ったのは三つの魔法だ。

 魔法防御を上げる魔法。

 自分と同じ姿の分身を作り出す闇分身(ドッペルゲンガー)

 そして、影から影へ移動する影歩(シャドウステップ)

 

 自分自身も闇を纏って輪郭を潰すことで、分身との区別を曖昧にし、鎌瀬の影へ潜り込んだというわけだ。

 

「父さんに鍛えられててよかったよ……」

 

 三つの魔法の並行使用とか、もう二度とやりたくない。

 鎌瀬ですらこれだけ苦戦するとなると、残りの大罪の遺物(レリック)が恐ろしくなる。

 

 ……もう絶対、一人では戦わないようにしよう。

 

 ――ゴボリ。

 

 不意に、嫌な音が響いた。

 バッと振り向けば、蹴り飛ばしたゼノルシアから黒いモヤが立ち上っている。

 それはやがてあっという間に鎌瀬を取り込むと人型となり、ゼノルシアを握り締めた。

 

「――理ヲ外レタ者ヲ脅威ト認定。破壊セヨ、破滅セヨ。我ハ傲慢、ゼノルシア」

「……は?」

 

 なんだ、これ……?

 

 遺物(レリック)はラスボスの悪意が込められた武器だ。

 だが、自ら動くなんて聞いたことがない。

 

「とにもかくにも、やば――」

 

 言い終えるより早く、ゼノルシアは俺の背後に立っていた。

 瞬間、全身から鮮血が噴き出す。

 

「あ、あああああっ⁉」

 

 いつ斬られた!?

 

 理解が追いつかない。

 痛みで思考がまとまらない。

 

 黒い影は、徐々に異形へと変貌していく。

 

「あ、あぁ……」

 

 ねじくれた角。

 漆黒のドレス。

 頭上には王冠のような黒き輪。

 空虚な眼窩の奥で、赤い光だけが妖しく揺れている。

 

 その姿は、原作で見た()()()()()()()()そのものだった。

 

「ひれ伏せ愚民。眼前に居るは傲慢の王ゼノルシア」

 

 流暢になった声と共に、ゼノルシアが剣を上段に構える。

 

「我が一刀の元に死を与えよう――重力覇断(ギガブレイク)

 

 振り下ろされた剣から、質量の塊のような黒き刃が放たれる。

 

 死。

 

 その一文字が脳裏をよぎった瞬間――。

 

「ぬおおおお!!」

 

 巨大な影が俺の前へ割って入る。

 

爆風刃(アックスボンバー)!!」

 

 轟音と共に暴風が吹き荒れる。

 漆黒の刃は乱入者によって弾き飛ばされた。

 

「おう、忍! ずいぶんと強そうな奴と戦っておるのう!」

 

 くるりと振り返り、黒古田院は不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

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