悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る 作:延暦寺
「旦那ぁ! な、何でここに⁉」
俺は、そこに居るはずのない人物に驚きの声を上げる。
ていうか、思わず叫んでしまい傷がめっちゃ痛い。
一応、この世界には回復魔法はあるが、あいにくと俺は使えない。
ひとまず闇の魔力を纏い、無理やり止血する。
「お前が、誰かと出ていくのが見えたんでのう。何やらただ事ではない雰囲気を悟ってこっそりついて来とったんじゃ。……どうやら予感は的中だったようじゃな」
「旦那……いや、兄貴。助かります」
旦那という、そんなわざとらしい三下的呼称はもう似合わない。
彼は漢の中の漢。
もはや敬意を込めてそう呼んだ。
「言ったじゃろ。困ったことがあれば何でも手伝うと。……で、アイツはなんじゃ?」
黒古田院は目の前の魔人――ゼノルシアをちらりと見ながら尋ねてくる。
相手も突然の乱入者に様子を見ているようだ。
「正直、わかりません。
だが、目の前のアレを果たして同じとしていいのかどうか。
「ふむ――よくは分からんが、四捨五入したら魔人でええじゃろ! ワシらの敵であることが分かればいい!」
大雑把だが非常にさっぱりした物言いで、巨大な斧のアーティファクト、
「愚かな。傲慢の王たる我の前に立ちはだかるか。ならば二人まとめて重力に押し潰されるがいい。
「ぐぬおっ⁉」
「ぐぐっ……!」
クンッとゼノルシアが手を動かすと、とんでもない重力がのしかかり地面に膝をつく。
鎌瀬が使った
地面に押し潰され、無理やり閉じた傷が開く。
「こんなもん……っ、なんてことは……ないわぁ!」
超重力に押し潰されそうになりながらも、黒古田院はグググッと立ち上がると斧を構える。
「
力をため、奴の
斧から放たれた風の刃がゼノルシアへ向かう。
奴がそれを剣で弾いた瞬間、俺達にかかっていた重力が軽くなる。
どうやら魔人でも複数の魔法を維持するのは難しいらしい。
「
動けるようになった瞬間、俺は立ち上がり魔法を発動する。
すると、ぽつぽつと小さな闇の球が浮かび上がり、ゼノルシアを囲んでいく。
「小賢しい――」
周囲の闇球を無警戒に切り裂こうとした瞬間。
闇球から無数の針が飛び出し、ゼノルシアを貫いた。
奴の性質は【傲慢】。
だからこそ、その油断が隙になるのだ。
「兄貴!」
俺が叫ぶと、黒古田院は俺の意図を察し、斧を構えたままハンマー投げのように回転を始める。
すると竜巻が発生し、どんどん巨大になっていく。
「
そして、竜巻が最大になるとそのまま斧を手放す。
竜巻を纏った回転斧がゼノルシアへと襲い掛かった。
「――ガアアアア! 重力反転――
自身を拘束する針を無理やり弾き飛ばしたゼノルシアは剣を掲げる。
瞬間、この空間の重力が反転した。
ふわりと臓物が浮くような感覚。
そして――空へと落ちる。
「なんじゃぁ⁉」
奴へ飛んでいった斧だけでなく、巨体の黒古田院までもが浮かび上がる。
「天に堕ちよ、地に堕ちよ。
「ぐうっ!」
重力が狂ったように変化する。
上へ。
下へ。
横へ。
体が振り回され、脳が揺さぶられる。
ただでさえ出血で意識が遠のきそうだというのに、これはまずい。
「まるでジェットコースターに乗っている気分じゃ……っ」
「くそ、このままだと……!」
なんとかしたいが、俺と黒古田院は絶賛シェイク中だ。
このままでは脳が完全に攪拌され、待つのは死。
何か……何か手はないのか……!
――いや、そうだ!
「兄貴! 体は頑丈ですか!」
「んおおお⁉ 自慢じゃないが今まで一度も怪我したり病気になったことはないわい!」
「そいつは重畳! 俺を信じて任せてくれますか!」
「よくわからんが分かった!」
頼もしすぎる返事だった。
「何をする気かは知らんが、無駄な事だ」
「グアッ⁉」
ゼノルシアが手を動かすと、俺は天井へ叩きつけられる。
だが逆にそれはチャンスである。
俺は即座に闇を操作し、天井へ闇のアンカーを打ち込む。
まだ引っ張られる感覚はあるが、もう飛ばされない。
そのまま影を伸ばし、飛び回る黒古田院の足を捕まえた。
「兄貴、俺が今からアイツに兄貴を吹っ飛ばします。いけますか?」
「――なるほど、ワシに任せろ!」
説明は足りない。
それでも黒古田院はニヤリと不敵に笑う。
ほんと、どこまでも頼もしい人だ。
「いつでも行けるぞ!」
ググッと足に力を込め、全身に風を纏う黒古田院。
「行きます……合体魔法・人間砲弾!」
闇をバネのように変形させ、一気に射出する。
風の力でさらに加速した黒古田院は、まさに砲弾そのものだった。
「チェストオオオオオ!」
「なんだと……!」
流石のゼノルシアも予想外だったのだろう。
黒古田院と共に吹き飛ばされる。
その衝撃で
だが、このままではじり貧だ。 また使われれば俺達は終わるだろう。
……仕方ない、アレを使うしかないか。
「兄貴、申し訳ありませんが時間稼ぎをお願いします! 奴を倒せそうな手段が一つだけあります!」
「任せろ!」
打てば響くとはこのことだろう。
頼もしさしかない漢である。
「――させるか」
「こっちの台詞じゃあ!」
ゼノルシアがこちらへ向かおうとするが、斧を拾い上げた黒古田院が立ちはだかる。
肉薄し、魔法を使う暇を与えぬよう連撃を浴びせていく。
「オラオラオラオラ!」
「人間風情が!」
激しい打ち合いが続き、その間に俺は自身へ魔法を発動する。
いつか来る魔人戦のために血反吐を吐きながらも覚えた切り札だが、まさかこんなに早く使う日が来るとは思わなかった。
俺は長い詠唱を始める。
闇が噴き出し、体を侵食していく。
「魔人よ!
黒古田院の声が響く。
軋む体に耐えながら、俺は詠唱を続けていく。
「お望み通り喰らわせてやろう! これが我の全身全霊の――
ゼノルシアが再び剣を上段に構えると、剣に魔力がチャージされ――巨大な重力の刃が放たれる。
「ぐおおおおおお!」
黒古田院はそれを正面から斧で受け止める。
まだだ。
もう少しだけ耐えてくれ――。
はやる気持ちを抑えながら、脂汗を浮かべつつ詠唱を続け……ついに詠唱が完成する。
「
闇が全身を覆う。
骨が軋む。
筋肉が悲鳴を上げる。
通常の身体強化よりもさらに数段上の最大魔法。
身体への負担は非常に大きい……だが、その代償に魔人すら屠る力が宿る。
「ガ、アアアアアアアアア!」
さらにもう一つ代償もある。
体力が凄まじい勢いで削られていくのだ。
意識を失いそうになりながらも、俺はゼノルシアへ突っ込む。
「
その瞬間。
黒古田院が最大級の
すげぇよ、あんた。
まさに最強の漢だ。
「てめぇは……お嬢様の仇だ。眠っていろぉぉぉぉ!」
内心で黒古田院に賞賛を送りながら拳を振りかぶる。
ゼノルシアが目を見開き慌てて剣を構えるが遅い。
奴の剣を――その拳で叩き砕いた。
「――――!」
剣が折れた瞬間、ゼノルシアは声なき断末魔を上げ、黒い霧となって霧散していく。
そして中から気を失った鎌瀬が現れ地面へ倒れていく。
同時に、俺も力尽きて倒れ込む。
遠くで黒古田院の叫びが聞こえる。
その声を最後に、俺の意識は闇へと沈んでいったのだった。