悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る   作:延暦寺

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第9話 それゆけやれゆけ、我らがお嬢様

火弾(ファイア・バレット)! 火弾(ファイア・バレット)! もう一つおまけに火弾(ファイア・バレット)ですわぁ~!」

 

 試験用ダンジョンに挑み始めて数分。

 お嬢様の圧倒的な魔力量により、並み居るモンスターが次々と粉砕されていく。

 最初は上級魔法を連発しようとしていたので、最後に魔力が枯渇する未来を察した俺が何とかなだめて下級魔法に抑えさせたのだ。

 当初は「出し惜しみなど九条の名が廃りますわ!」とぶー垂れていたお嬢様だが、「お嬢様がわざわざ本気を出すまでもありません。最小の魔力で最大の結果を出してこそ、真の強者です」と煽てたところ、あっさり納得してくれた。

 相変わらずチョロくて愛しいお方だ(曇りなき眼)。

 

「粉砕! 玉砕! 大喝采!」

「流石はお嬢様です! その圧倒的なお力のおかげで、俺の出番がまるでありません!」

 

 揉み手をして、これでもかと褒めちぎる。

 

「当然の結果ですわ。ほら、私のことは良いから忍もさっさとモンスターを倒しなさい。私が受かっても、従者である貴方が落ちては意味がありませんもの」

「……ッ! 従者への細やかなお心遣い! 感服いたしました!」

 

 俺は懐から取り出した目薬をこっそり差し、嘘泣きで感動を演出しながら獲物を仕留める。

 実際は、お嬢様を煽てる傍らで撃ち漏らしを処理してポイントを稼いでいるのだが、お嬢様の慈悲を無下にする必要はない。

 

 お嬢様が仕留めやすいように俺が先制でこっそり削り、お嬢様が派手な魔法でトドメを刺す。

 ますます上機嫌になったお嬢様の快進撃は続き、俺たちは通路の先で、一組の男女がモンスターと交戦している場面に出くわした。

 

「ギシャアアア!」

 

 相手は全長二メートルほどの蜥蜴戦士(リザードマン)

 雄叫びを上げながら黒光りする大鉈を振り回す怪物を、二人の受験生が巧みに避けながら戦っている。

 

「勇希! 私が気を引くから、その隙に!」

「分かったよ、カリン!」

 

 金色のツインテールを激しく揺らしながら、両手に構えた短剣で肉薄するのは――メインヒロイン、月城(つきじょう)カリン。

 よりにもよって、ここで原作主人公様と遭遇するか……。

 俺は内心で舌打ちしながらも、二人の戦いを観察する。

 

 カリンの装備は雷属性のアーティファクトで、名前は震天動地(フル・アクセル)

 自身の神経と筋肉に微弱な電流を流して身体能力を爆発的に引き上げる、スピード特化の装備だ。

 お嬢様が一撃必殺のパワータイプなら、彼女は手数で敵を翻弄するスピードタイプ。まさに対極の性能と言える。

 

「今よ!」

「でりゃあああ!」

 

 カリンがリザードマンの体勢を崩した瞬間。

 ツンツンした赤髪の少年――天導勇希(てんどう ゆうき)が、身の丈ほどもある白銀の大剣を振り抜いた。

 その武器こそが、原作のラスボスが用意した()()()()()シリーズの一つ。正義を司る遺物(レリック)――アストレア。

 

 八つの大罪シリーズはどれも破格の性能を持つ。

 ただし、その分ラスボスの影響も強いため、使い続けるとラスボスの眷属である魔人に堕ちてしまう地雷武器だ。

 

 原作ではお嬢様もレリックに魅入られ、その結果として破滅を迎えることになる、俺にとっては忌まわしい代物でしかない。

 ちなみに、アストレアが持つ固有能力は『逆転の加護(ジャイアント・キリング)』。

 自身のHPが低いほど、または格上の相手、魔力量の差が大きい相手ほど攻撃力に補正がかかるという、お嬢様にとって最悪のメタ能力だ。

 

「やったわね、勇希!」

「ああ、この調子でいこう!」

 

 リザードマンを沈めた二人が嬉しそうにハイタッチを交わす。

 主人公として彼を見れば、快活で正義感の強い好少年なのだが……俺たちの破滅フラグの中心人物だと思うと、どうしても複雑な気分になる。

 

「先ほどの魔力量2500の方ですわね。随分と泥臭い戦い方をしていらっしゃること」

 

 ばあああああ!? 

 お嬢様ぁ!? 何でこのタイミングで喧嘩売っちゃうんですかぁ!?

 原作では入学式の日に接触するはずだったから、完全に油断していた。

 本物の主人公とヒロインに出会えたので無意識に気が緩んでいたのかもしれない。

  

「む! 何よ急に……誰よあんた」

 

 勝利の余韻に水を差され、カリンが不機嫌そうにこちらを睨む。

 

「君は……確か、九条葵さん。魔力量22000の……」

 

 勇希の言葉に、カリンも思い出したらしく「ああ、あの高飛車な」と小さく呟いた。

 うちの高飛車なお嬢様がほんとすみません。

 謝ってないけど、謝ったってことにしてください。

 

「で、その魔力量トップ様が何の御用?」

「別に用などありませんわ。ただ、魔力の少ない平民のくせに――」

「お嬢様ぁ! こんなところで立ち止まっては、時間の無駄です! さあ、次へ行きましょう!」

 

 これ以上、致命的な暴言を吐く前に、俺はお嬢様の腕を引いて強引に進行方向へ歩き出す。

 

「あんもう! なんですの急に……。まあ、たまには強引な忍も悪くありませんわね」

 

 後ろで何やら頬を染めながら不穏な独り言が聞こえてくるが、今はスルーだ。

 とにかくこの場から離れたい一心で、俺は主人公たちの視線を背中に感じながら、さっさとその場を立ち去った。

 

 ◇

 

「――ふぅ、ここまで来れば大丈夫か」

 

 主人公様たちの視界から外れたところで、ようやく足を止める。

 

「あの、忍……手……」

「え? ……うわぁぁぁぁ、申し訳ありませんッ!」

 

 顔を赤くし、消え入りそうな声で呟くお嬢様。

 その視線の先を見れば、俺が彼女の柔らかな手を、ガッシリと握りしめているのが目に入った。

 俺は弾かれたようにその手を離し、即座に地面に額を擦り付けんばかりの勢いで頭を下げる。

 

「別に、か、構いませんわ。ですが、貴方は従者で私は主人。気軽に手を握るなど、十万年早くてよ! 次は……その、事前に許可を取りなさい!」

 

 彼女は真っ赤な顔をさらに上気させ、ぷいっと顔を背ける。

 あばばばば、やっぱりお怒りだ! 

 そりゃそうだ、いくら主人公から遠ざけるためとはいえ、名門九条家の令嬢の手を無断で引いて爆走したんだから。

 これ、実家にバレたら父に物理的に消される案件じゃないか?

 

「……」

「……」

 

 お互いに次の言葉が出てこず、奇妙に気まずい沈黙が流れる。

 くそ、ここに栞奈がいれば、癒やしオーラでこの空気をなんとかしてくれたものを……!

 

 などと、この場にいない癒やし枠に思いを馳せていると、通路の先からけたたましい悲鳴が聞こえてきた。

 

「あ、あんなの勝てるわけがない!」

「逃げるんだよぉ!」

 

 血相を変えた受験生たちが、我先にと通路を逆走してくる。

 

「あ、あんたら! この先に樹の化け物がいる! 挑むのはやめておけ、あれは絶対に勝てるようにできてねぇ!」

 

 すれ違いざまに忠告を残し、彼らは入口へと消えていった。

 『ダンブレ』の二次試験は、周回ごとにボスの種類が変動する仕様だが――。

 樹の化け物ってことは、今回は呪縛の古木(トレント・エルダー)か。

 

 ボスエリアの中央に根を張る、植物系の大型モンスター。

 無数の蔓を鞭のように操り、捕らえた受験生の魔力を根こそぎ吸い取る攻撃をしてくる。

 だが、植物である以上、お嬢様の火属性魔法とは相性がいい。

 

「お嬢様、どうやらこの先にダンジョンのボスが君臨しているようです。これ以上無理をする必要はありませんが……どうなさいますか?」

「愚問ですわ、忍! もちろん、倒しますわよ!」

 

 ですよねー!

 先ほどまでの気まずい空気が霧散したことに、俺は内心で胸をなでおろしながら頷く。

 

「わかりました、どうやら樹のモンスターとのことなので、きっとお嬢様なら倒せるでしょう」

 

 お嬢様と共に通路を抜けると、そこは巨大なドーム状の広場になっていた。

 中央には見上げるほどに巨大な人面樹が鎮座しており、張り巡らされた蔓が、逃げ遅れた数名の受験生を捕らえて宙吊りにしている。

 

「お嬢様、まずは受験生たちを救い出し、『九条葵』への信奉を集めるべきかと。彼らの感謝は、学園生活における大きな資産となるでしょう」

「一理ありますわね。下々の者に手を差し伸べるのも、持てる者の務め。……行きますわよ!」

 

 お嬢様が優雅に腕を掲げ、規格外の魔力を練り上げた、その瞬間。

 

「やあああああッ!」

 

 俺とお嬢様の間に、弾丸のような速度で赤が割り込んだ。

 印象的なツンツンした赤髪。そして、その手に握られた白銀の大剣。

 

 我らが主人公、勇希が、まるで計算し尽くされたタイミングで飛び込み、受験生を拘束していた蔓を一閃して救い出したのだ。

 

 ……にゃああああああん!(オリチャーが崩れる音)

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