殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 今回はあまりキャラ崩壊はしていないはず。


最強たちと中間対策(前編)

 

 5月上旬、鈴音、桔梗、俺を教師陣として、特に危ない赤点組(池、山内、須藤)を見ることにした。

 

 この辺りは5月1日の会議で決まったことだ。

 

『茶柱先生が言っていたけれど、定期テストで赤点を取ると一発退学、それがこの学校よ。言いたいことがあるのは理解するけど、そういうルールがあるのだから諦めるしかないわ。

 一人でも退学者を出したらどれだけクラスポイントに響くか分からない。だから、赤点組には出来る限りのサポートととして、成績優秀者による勉強会を開催するわ。

 私、清隆くん、桔梗さん、平田くんはもちろんのこと、幸村くんにも手伝ってもらうつもりよ。お願いできるかしら?』

『あぁ。俺としても異論は無い』

 

 幸村はこの一ヶ月、プールの一件などで、俺と平田に近い位置の男子だとクラスから認知されている。ちょっとカッコいい言い方をすれば、幸村はDクラス男子No.3といったところだろう。

 

『今回開く勉強会には、できる限り参加してほしいの。()()()()()()()()()()()()()()()()。クラス全体の成績を底上げするのに必要なものだから』

 

 そこで一度言葉を切って、鈴音は高円寺へ視線を向ける。

 まともに動かすのは難しい。しかし、小テストの結果からも、その能力の高さは伺える。

 この男(高円寺)が講師として参加すれば、それだけで大幅なプラスになると考えて良い。

 

『……この中には、Aクラスに上がることに興味を持たない人もいるでしょう。それでも、少しでもクラスの評価が上がれば、もらえるポイントも増える。良い暮らしは、したいでしょう?高円寺くん』

『ほう、私に講師をしろというのか?堀北ガール。それには些か、材料が弱いねぇ。私が動くに値しない』

『なら、貸しだと思っておけばどうかしら?』

『………ほう?』

『私たちに、貸しを作れると考えれば、どうかしら』

『たちというからには、君だけでは、無いのだろう?』

 

 そんなことを言って、高円寺は露骨に俺をみた。

 ……何故奴の中で俺は好敵手(ライバル)みたいな扱いを受けているんだ。

 だがまぁ、仕方ない。

 

『……あぁ、俺にも貸しを作れるぞ、高円寺。もしお前が望むなら、叶えられる限りの要望には応えよう』

 

 顎に手を当てて考え込む高円寺。メリットとデメリットを秤に乗せているのだろう。

 

『ふぅむ。叶えられる限りとは、どの辺りまでかな?例えば、堀北ガールか櫛田ガールのどちらかと、二人きりのランチなどは──』

『…………揶揄うな。()()()()()()()()()

『すまない。あまり怒らないでくれたまえ。……ふむ。まぁ、その辺りが無理だとしても、まぁ良いだろう。君たちほどの人間たちに貸しを作れるならば、悪くはない』

 

 全く、この男は本当に。憤慨しながらも、高円寺という成績優秀者を講師に持って来れたのは素直に嬉しい。

 しかし、何故こんなにも静かなんだ?

 何故か桔梗は崩れ落ちているし、鈴音は教卓に突っ伏している。

 桔梗はチョークを持ったまま崩れ落ちたので、黒板に変な波線が走っている。鈴音なんか、勢いが強すぎたのか、額が赤い。いや、全体的に赤い、熱か?桔梗も赤い………体調不良か?

 

『桔梗?どうした、熱でもあるのか?』

『あ、い、いや別に、そ、そういうわけじゃ……』

 

 崩れ落ちた桔梗を覗き込むようにしながら、掌を当てて熱を測る。

 

『………ぴぇ』

 

 ……奇声をあげて倒れたな。いよいよまずいかもしれん。横抱きにして運ぼうとする。何故か女性陣から歓声が上がった。

 

『あー、少し待て、綾小路』

『茶柱先生、ですが、もし桔梗に何かあったら』

 

 思わず桔梗を支える手に力が入る。また、女子たちから歓声が上がった。……桔梗はここまで嫌われてしまったのか?倒れて歓声を上げられるなんて。せっかくビッチ先生に色々教わっていたのに。

 多分、そんな感情が顔に出ていたんだろう。

 茶柱はすごく疲れた顔をしながら訂正してきた。

 

『あー、その、なんだ。女子が歓声を上げているのは、別に櫛田が嫌いだからとかそんなわけではないぞ』

『!うんうん!そうだよ綾小路くん!むしろ私たちは応援してるんだから!』

『あっ、堀北さんも同じくらい応援してるからね!』

『そう、なのか。なら良かった……?』

 

 何故、応援していると倒れた時に歓声が上がるのだろう。

 あれが、ボクシングとかにある倒れた選手に声かけるあれなのか?

 

『とりあえず櫛田は私が運ぼう。お前は堀北を落ち着かせつつ、会議を進めてくれ』

 

 そう言って茶柱は桔梗を背負って保健室に向かっていった。

 ………何故女子たちは勿体無いとでも言いそうな表情なんだ?

 

 とりあえず突っ伏していた鈴音の肩に手を置いた。

 そしたら猫みたいに跳ね上がって、すごい勢いで窓際まで下がった。凄いな。木村よりも速かったんじゃないか?

 

『鈴音?大丈夫か?熱があったりするのか?』

『いえ全然大丈夫よ熱があるとかそんなんじゃないわええ全然大丈夫むしろ調子がいいくらいだから今は一旦近づかないで触らないでお願いだから』

『……そ、そうか?……その、もしかして俺は何かしてしまったのか?』

 

 鈴音がそんなに俺を拒否するなんて、相当なことをしてしまったのだろうか。

 

『いえそういうわけではないというか別に悪いことではないというか強いて言うならもう少し踏み込んで俺のも──違う違う違う違う今のは忘れて、忘れてっ‼︎‼︎』

 

 ?俺のも、なんだ?

 

『どういうつもりで()()()()()()()()()とか言ったのとか聞きたいとか思っていないと言うかあなたの中で私たちは誰のものなのとかそう言うことを聞きた──いわけじゃない!今の質問は口が滑ったと言うか何と言うかとにかく忘れて忘れてっ!忘れなさい!』

『いや、単純に鈴音たちがトロフィーというか賞品みたく扱われて腹が立ったというか。そんな安っぽいものじゃないというか。その………』

『いえわかったいつもの()()()()なのね別にがっかりなんてしてないわがっかりしてないし納得したから一旦ちょっとだけ離れてちょうだいこのままだと会議の進行に支障が出る』

 

 と、そこで長谷部が天高く手を上げた。

 

『はーい副議長、質問がありまーす』

『?俺にか?』

『はい』

 

 そうして長谷部は真剣そうな顔で、目だけを楽しそうに輝かせて、質問する。

 

『もし仮に、純粋に親睦を深めたいから食事の提案をしていたのだとしたら、副議長はどう思いますか?』

 

 俺は思わずため息をつく。

 

『いや、高円寺はそんな男じゃないだろう』

『──いいやそこのガールの言う通り、私は景品として彼女達との食事を求めたのではなく、純粋に親睦を深めたいだけさ』

 

 ここでお前が割り込んでくるのかよ。

 しかし、これはどうなんだ?

 高円寺の感情が分からん。桔梗なら分かりそうなのに。

 

『ほう、高円寺くん、もしかして結構()()()()()()()?』

『ふふふふふふ。こんなに面白いんだ。少しは遊ばなくてはね』

『うっわ、趣味悪っ』

『ならば聞こうガール。君は、どう思う?』

『ぶっちゃけ言うと────めっちゃおもろい』

『黙りなさい何も面白くないわ副議長この質問には答えなくていい考えなくていい却下よ却下議長権限で却下するわ』

『はい!副議長!』

 

 今度は軽井沢か。

 

『どうした?』

『私も長谷部さんの質問の答えが気になります!ぶっちゃけどう思いますか!』

『却下よ却下答えなくていいわ清隆くん答えないで考えないでもしどうでもいいかもなんて考え──なくていいわ何でもないわ何も聞いていないあなたは何も聞いてないわ良いわね』

『ほら、議長も正直気になるって言ってます!』

『言ってない言ってないわ軽井沢さん少し黙りなさい議長権限議長権限よ議長権限で発言の権利を剥奪するわ』

『あっひどーい!おーぼーだー!』

『大丈夫!任せて恵!』

『!千秋任せた!』

 

 今度は松下か。

 

『却下よ却下松下さんの質問は却下よついでに佐藤さんの質問の権利も剥奪するわ』

『えぇーー!!』

『くっ、次は私のつもりだったのに……!』

『大丈夫………!まだ私がいる!』

『頼んださつき!』

 

 今度は篠原なのか?

 

『却下よ却下篠原さんの発言の権利も剥奪するわこれ以上揶揄うのを辞めなさい怒るわよほんとに怒るわよ』 

『は、はい!』

 

 今度は、佐倉、だと⁉︎

 

『佐倉さんなら安心ね建設的な意見を希望するわ早く質問してちょうだいそしてこの流れを断ち切ってちょうだい』

『……は、はい議長。…………ふ、副議長!しょ、正直に答えてください!………こ、高円寺くんと堀北さん達が食事に行ってたらどう思いますか!』

『なっ……あ……っ』

 

 予想外すぎて鈴音は完全に固まった。

 女子たちは空前絶後の大盛り上がりである。

 

『よく言った、よくぞ言った佐倉さん!』

『いよっ、Dクラスの女神っ!』

『本日の主役は佐倉さんだ!皆のもの、伏して拝みなさーい!』

 

 えっと、こう言う時ってどうすればいいんだ?

 

『その、答えたほうがいいのか、長谷部?』

『うんうんきよぽん。私たちはきよぽんの正直な気持ちが知りたいなぁ』

『待ちなさい長谷部さんきよぽんってなによきよぽんって』

『うわっ、ほりぴー復活はや』

『質問に答えなさいきよぽんってな───ほりぴーって私のこと?』

『ほりぴーが堀北さんで、きよぽんが綾小路くん。さぁきよぽん、答えなさい!ぶっちゃけどう思うの⁉︎』

『答えなくていい答えなくていいわ清隆くん私が他の男と仲良くしてたらどう思うかなんて考えなくていいの』

『ほりぴーは他の男と仲良くすることなんてないもんね。仲良くする男はたった一人でしょ?』

『えぇそのと───待って違う今のは口が滑ったと言うか動揺のあまりうっかりしていたというか今のはとにかく違うの違うから違うからっ』

 

 うーん、しかし、多分答えないと会議が進まない気がするんだよなぁ。

 

『あー少し待ってろ、今整理してる』

『待って待ちなさい清隆くん整理なんてしなくていいわ答えなくていいの今までのやり取り全部忘れてちょうだい』

『でも答えないと進まないぞこれ』

 

 しかし、これほどにあたふたしてる鈴音は初めてみたな。

 そういえば前原は言ってたな。普段クールな女の子があたふたしてる瞬間ほど可愛い時はないって。ギャップ萌えはクール系こそ至高だとか。

 なるほど、何となくわかる気がする。

 今の鈴音はそこはかとなく可愛い。これがギャップ萌えか。

 

 しかし、鈴音と桔梗が他の男と、か。うーん?…………………………

 

『あーその、自己紹介の時も言ったが、家から出たこともないから、こういう、感情的なアレを上手く言語化するのは苦手なんだが』

『うんうん!』

 

 女子たちは一斉に相槌を返した。

 鈴音はまた教卓に突っ伏していた。

 

『何と言うか、こう、胸の中に、よくないものがいるような、こう、なんというか』

『モヤモヤしたってこと?』

 

 あー、佐藤の言うそれだ。

 すごく当てはまってる。

 

『それだな。こう、モヤモヤした』

『おぉ〜〜』

『………この、バカ………』

 

 何がお〜〜なんだ?

 鈴音は何かつぶやいたみたいだが、小さすぎて分からん。

 

『じゃあさじゃあさ、そこいるのが自分だったらどう思う?』

 

 自分だったら?

 いや、そんなの。

 

『いつも通りじゃないか?』

『うんそうだねごめん』

 

 ………結局この質問はなんだったんだ?

 

『えっと、そろそろ議会を再開したいんだが、?鈴音、どうした?何故固まっている?』

 

 教卓の上に突っ伏したまま鈴音は一向に動かなくなった。

 

『ごめんね綾小路くん。堀北さんは一旦使い物にならなさそうだから、ここからは僕が引き継ぐね。書記と副議長お願いね』

 

 平田は軽井沢と長谷部に、鈴音を席につかせるように指示を出した。

 俺が連れて行こうとしたら、幸村に止められた。

 

『もう勘弁してやれ』

 

 何を?

 

 その後、平田議長での会議は順調に進んだ。

 

 

 結局あの質問は何だったんだ?まぁ、それは一旦置いておくとして。

 とりあえず図書室で勉強会の開幕だ。飴の桔梗と、鞭の鈴音、監視の俺、割といいバランスの教師陣ではなかろうか?

 流石に真面目に勉強を教える時は、いつもみたく迫ってはこないので、俺の精神衛生上にも大変良い。可愛い女子に勉強を教えてもらえるということで、やる気マックスだった三馬鹿だが、その勢いは徐々に徐々に弱まっていった。

 

「櫛田ちゃんなんで急にxが出てきたんだ?問題文のどこにも外国人なんかいないのに?」

「えっと、それはね、分かりやすくするためだよ。例えば1リンゴとか5蜜柑とかで式を作ってたら面倒でしょ?」

「………?そう、なのか?」

「……うん。そういう感じなの」

「櫛田先生!この記号は何て読むんですか!」

「えっと、それはね、π(パイ)っていうの。円周率は分かるかな、3.14で計算するやつ。毎回3.14って計算するの面倒でしょ?だからこの記号で省略するの」

「……やっべぇ、櫛田ちゃんの口からパイって単語が出た事実だけで興奮する!」 

「………え」

 

 池も須藤もまじかこいつ、みたいな顔で見ているぞ山内。

 桔梗も心の底からドン引きした顔してるぞ山内。

 鈴音も青筋立てているぞ山内。

 烏間先生直伝殺人拳骨いくか山内。

 

「櫛田先生!うっかりド忘れしちゃいました!もう一回この記号の読み方を教えてください!」

「えっやだ」

「塩対応!………だがそれもいい!」

「…………気持ち悪い」

 

 思わず心の声が漏れてしまう桔梗。

 全面的に同意する鈴音。

 こいつ本気で言ってんのか?と山内の正気を疑う池と須藤。

 殺人拳骨の用意をする俺。

 

「くっ、だが俺は諦めない、櫛田先生!今度こそ、この記───ごぁっ!」

「真面目にやれ」

 

 烏丸先生直伝殺人拳骨。頭髪が吹き飛んだり数センチも盛り上がったタンコブができたりはしないが、その三分の一程度の威力はある。

 山内は机に突っ伏した。

 うん。これからは俺が山内を見るとしよう。

 

「えっと、須藤くんはどんな感じかな?」

「ぶっちゃけ何も分からん。何が分からないのかも分からん」

「……そ、そうなんだ」

 

 潔いな。内容は大分あれだけど。連立方程式の基礎問題だぞ。中学校一年生レベルだぞ?分かるか須藤、お前今高一だぞ?

 

「っっっ、ふぅー」

 

 うん。ため息を吐こうとして、寸前で堪えたんだな。偉いぞ、成長したな鈴音。

 

「……計画を練り直すわ。もっと手前から始めていきましょう」 

「……具体的には?」

「…最悪小学生の範囲からも検討するわ」

「よし分かった。一旦確認テスト作るからちょっと待ってろ」

 

 生涯最高速度でテストを作る。こいつらをどうにかするためには一分一秒も無駄に出来ん。

 その間に鈴音と桔梗は他の教科の出来も確認していた。目がどんどん死んでいったので、数学だけが特にやばいというわけではないらしい。予想通りだが。 

 

 さて、おおよそ15分でとりあえずの確認テストを作った。これを解いてもらってから、本格的にスタートだな。

 テストを解き終わり、丸付けしている間、短いが休憩時間になる。最高で中2の問題なのに、何でこいつらはこんなに疲れ果ているんだ?

 先が思いやられるなぁ。

 

「とりあえず暫くは放課後2時間は勉強会だね」

「あぁ。そうでもしないと間に合わん」

 

 まぁ多分、この三人で教えるなら2時間もいらないが、少しでも勉強する癖をつけておかないとな。

 だが2時間は長すぎると思ったのか、須藤が反論した。

 

「2時間は長すぎるだろ。その間部活はどうなんだよ?」

「部活どころか学校も辞めることになるが、それでも良いなら練習に行っても良いぞ」

「………こんなことしてたらレギュラーも取れなくなんだろうが」

「どうせ朝練はするんだろう?その密度を増やせ。それから、勉強会終わりに軽い筋トレでもやれ」

 

 と、そこで須藤が立ち上がった。我慢の限界らしい。

 早すぎだな限界が。

 ……いや、俺の言い方も悪かったか?

 

「もういい、こんなのやってる時間あったらボール触ってるほうがマシだ」

「ちょ、ちょっと待ってよ須藤くん!もうちょっと、もうちょっとだけやってみようよ」

「……ちっ、どうせ俺には無理なんだよ。だから代わりにバスケするしかないんだよ俺は!勉強なんかできなくても、プロになっちまえば関係ねぇ」

 

 いやぁ、それは、なんか違う気がするぞ、須藤。そんな感じのことを考えていた生徒たちもいたが、そいつらは盛大に怒られた。うん。あれは凄かった。あんなに近くで発生する竜巻なんて、日本じゃ見れないだろうな。

 

「待ちなさい。須藤くん」

 

 立ち上がり須藤を睨む鈴音。その目は鋭く、逃げることなど許さないと言いかねない光があった。 

 

「あなたがどんな思いでバスケをしてきたのか、今どんな思いでバスケをしているのか分からないけれど、これからバスケをしていく中で、怪我や事故、あるいはそういう不幸に遭わなくても、老化でまともにバスケができなくなったとき。あなたはどうするのかしら?」

 

 鈴音の意見は、どこまでも現実的だった。

 

「………ちっ、んなもん考えてバスケするわけねぇだろ」

 

 須藤の意見は、どこまでも理想的だった。

 

「いいえ、考えなくてはダメよ。……生きるということ、大人になるということはそういうことよ。あなたが、バスケを糧に、日々を生きる為の金を稼ぎたいのなら、考え続けなければならないの。それができなくなったときに、どうするのかを」

 

 バスケを糧に、生きるということ。

 それはつまり、バスケに生かされているということ。

 

「……俺は!金が欲しいからバスケをするんじゃねぇ!」

 

 あぁ。その志は立派だ、須藤。

 目的と手段を間違えてはいない。プロになることが目的であって、そのためにバスケを極める。実に単純で明確な論理だ。

 金を稼ぐために、スポーツのプロになる人もいるだろう。それを否定するつもりはない。優劣を付けるつもりもない。気持ちの強さで勝負が決まるなんて、そんな非論理的なことを言うつもりはない。

 究極的には、両者は同じなのだから。

 

「動機はどうあれ、プロになるとはそういうことよ。スポーツをすることで金を得るの。そしてスポーツである以上、生涯現役なんて、あり得ない。………あなたは、バスケットボーラーでいられなくなった時、潔く死ねるかしら?本気でそう思えるなら、止めはしないわ。でも、そこまで狂えないのなら、逃げ道は作っておきなさい」

 

 鈴音のいうことも、間違いなく正しい。

 もし、自分の命も何もかも、バスケットボールに捧げられるのなら。それが出来なくなるなら死んだ方がマシだと、心の底から思えるのなら。止めはしない。

 だが、須藤は、()()()()()()()

 怒りっぽいことをよくないことだと理解している。

 プールの時、これ以上はまずいということを理解できていたように、荒っぽい中にも、一定の理性がある。あるからこそ、そこまで狂えない。

 

「はぁ?それと勉強が何の関係があんだよ」

「もし、怪我や事故、あるいは老化で、バスケが出来なくなったとしても、誰かにバスケを教える指導者になる道はある。………そして、その道を歩くには、知識と知恵が、必ず必要になるの。だからこそ、今は、勉強すべきよ」

 

 須藤は、それに激昂した。

 

「ふざけんなっ!()()()()()とでも言いたいのかお前は!」

 

 あるいは、それはずっと、須藤が言われ続けてきたことだったのかもしれない。

 

()()()。須藤くん、私は、()()()()()()()()()()()()と言っているの」

「………はぁ?」

「私たちはまだ子供よ。だからこそ、今から足場を作るの。いつか歩く時に、問題なく歩けるように」

 

 鈴音は須藤のネクタイを掴んで、強く引っ張った。睨みつけるような視線を向ける。

 そして強い殺気を突きつける。刀のように鋭い殺気。須藤の心臓を貫く刀が見えるようだった。

 須藤は、殺気に貫かれ、呼吸すらうまくできないようだ。

 

「………いつか私たちが受け取った言葉を、あなたにも送るわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、よ」

「やい、ば、あん、さつ?」

「………要約すると、最低二つは武器を用意しておくこと。それが出来ない人間は、大人を名乗る資格はない、という意味ね」

「武器が、二つ……」

「えぇ。あなたはもう、バスケットボールという一つ目の刃を持っている。けれど、それだけでこれから生きていけるほど、この世界は甘くないわ。……もう一つ、武器を持っておきなさい。その武器が、あなたを大人にしてくれる。あるいは大人になった時、あなたの力になってくれる」

「それが、勉強だってお前は言いたいのか?」

「いいえ。勉強は手段よ。この勉強の果てに、あなただけの第二の刃を見つけなさい。……歩き方(学び方)が分からないなら、私たちに聞きなさい。道案内(勉強会を開くこと)ぐらい、なんてことないわ」

 

 鈴音がネクタイから手を離すと、須藤はフラフラと後ろに数歩下がる。

 そして、力が抜けたのか床にへたり込んだ。

 

「………何だって俺なんかのためにここまでする」

 

 思いがけず溢れた本音、と言った感じだろう。

 須藤としても、さすがに分かっているのだろう。自分がどれほど出来ていないかを。

 そして、そんな自分に付き合うことが、どれだけのマイナスなのかも、何となく分かるはずだ。

 

「そりゃ、まぁ、クラスメイトだしな」

「うん。退学になっちゃうのは、寂しいもん」

「安心しなさい。私たちにとってこの程度、負担でも何でもないわ」

 

 まぁ、俺たち全員、元E組(落ちこぼれ)だからな。色々複雑な事情で落ちただけだけど。

 

 どん底からの這い上がり方は心得ている。お前たち程度、なんてことはないさ。

 

「席について、ノートを開いて、ペンを持ちなさい。さぁ、須藤くん。私たちの勉強会(暗殺)を始めるわ。──……死ぬほどきついけど、覚悟するように」

 

 さて、これから忙しくなるぞ。





 
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