殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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桐山生叶と南雲雅

 自己評価ではあるが、俺は、実力者だと、そう思っていた。

 

 ここに来るまで、俺は勝ち続けてきた。

 俺より強いやつに、会ったことはなくて。

 でも、俺は、ここで───。

 

 卜部藤乃に、出会ってしまった。

 

『………えっと、その、自作なのは、嘘じゃないの』

 

 奴が、先輩から、過去問を買ったのなら、納得できた。

 俺にも同じことが出来るはずだと、そう、思い込めて。

 

 だが、卜部は。

 俺の想像など、容易く踏み越える、化け物だった。

 

『だから言ったでしょう。作ったって』

 

 出来るはずがない。そんなこと。

 授業を受けているだけで、教師の作るテストを完璧にトレースするだと?

 そんなこと、出来るはずがない。

 だが、本物の過去問と、卜部の自作テストは、一言一句、違わなくて。

 

 俺は、初めて出会った。

 まず間違いなく、俺を上回る、天才に。

 奴には、勝てない。

 そう、諦めて。味方であることに、感謝した。

 

 だから、卜部が、負けた時。

 

 入学前の俺なら、チャンスだと、そう思っていただろう。

 卜部に勝ったやつに勝てたら、俺の方が、卜部よりも強い証明になる、と。

 ───だが、目の前で、見せつけられてしまった。

 俺では逆立ちしても勝てないと、そう思わせる怪物に。

 

 そんなやつに勝った南雲に、俺が勝てるはずがない。

 事実として、九重と二人がかりでも、南雲には勝てなかった。

 諦めたから、俺は、南雲につこうとして。生徒会で、共に職務をこなす中で、気付いてしまった。

 

 南雲は、確かに天才だ。

 まず間違いなく、俺よりも強い。

 ───だが、どうしようもないぐらい、ボロボロだった。

 

 なぜ、そうなったのか、簡単に分かった。

 

 卜部に勝つ為に、南雲は、ここまでやった。自分が、罪悪感で苦しんで壊れてまで、勝った。

 

 …………尊敬は、した。形はどうあれ、南雲は卜部に勝ったから。

 …………心配も、した。南雲の心は、大きな傷を負っていたから。

 ────俺は、何をするべきか、考えた。

 

 結論、現状維持。

 

 俺は、このBクラスに居続けることを選んだ。

 勝つ為に心をすり減らすぐらいなら、このまま。

 

 卜部も九重も鬼龍院も、クラスの運営から外れたのなら、なぜ、俺は残っているのだろう、と。そう考えて。

 なら、もう、クラスに拘らなくても良い、と、そう思った。

 

 南雲が作ろうとしているAクラスチケットで、俺だけが、Aクラスで卒業出来れば、それで良い。

 

 卜部は、自分を優先して、テーブルゲーム部で休んでいるし、九重も、同じことをしていて、鬼龍院なんか勝手に放り出したんだし、俺も、それで良いだろうと、そう考えた。

 そんな、時に。

 生徒会の仕事をこなし続ける中で。

 書類の裏紙に、堀北先輩が作った、問題が、載っていた。

 これが、期末テストで出た、あの最終二問だということなんて、簡単に分かった。

 

 それが、何を指しているのか。

 堀北先輩が、何の為にこんなことをしたのか、どうしても、聞きたかった。

 

『…………俺は、欲をかいた』

 

 堀北先輩は、懺悔した。

 南雲と卜部を両取りしようとして、結局、どちらも取りこぼしてしまったことを。

 

『あえて一度南雲の心を折って、自分たちの都合の良い方向に誘導しようとした⁉︎

 卜部を、それに付き合わせたんですか⁉︎』

 

 ────何故、卜部はそれを教えてくれなかった。

 知っていたなら、全力で止めた。

 そうしていれば、青井は───。

 ────そんなに、俺たちを、信じられなかったのか。

 

『…………あぁ。あの日、傘を届けようとした卜部を、俺は引き留めた。

 より、追い詰める結果になると、そう、合理的に判断したから』

 

 この、人は。

 きっと、生徒会長に向いていない。

 …………もし、より良い方向に、変革しようだなんて動かなければ、もっと楽に生徒会長をこなせていたし、向いていた。

 でも、変革しようとしてしまった。

 ────向いていないことをしようとして、盛大に、失敗した。

 

 南雲や、きっと、卜部と同じように。

 俺も、堀北学先輩に、憧れていた。

 憧れていたから、その本質に気づけなかった。

 この人は、優しいんじゃない。

 

『…………俺は、浅野先生を、止めたかった。

 だが、椚ヶ丘の元では。俺が教わった、あの人のやり方を続けていれば、不可能だったから。

 だから、離れることにして。

 …………結局、教わったやり方しか、できなかった』

 

 ────この人は、合理的で。支配的で。

 それを、変えようと足掻いて、変わらなかった人だった。

 

 この人は、完璧なんかじゃ、無かった。

 

 

 改めて考える。

 俺は、何をすべきか。

 

 化物だと思っていた卜部は、普通の人間で。

 天才だと思っていた南雲も、普通の人間で。

 完璧だと思っていた会長も、普通の人間で。

 

 ────なら、俺は?

 

 俺は何をすべきだ。何が出来る。

 ────何が、したい。

 

 何故、Aクラスでの卒業に拘った。

 俺が強いということを証明する為?違う。

 

 何故、卜部達の補助に回ることをよしとした。

 アイツらに任せた方が確実に勝てると思ったから?違う。

 

 ─────そう、か。

 

『………怖かったのか、俺は』

 

 本当は、俺は実力者なんかじゃないことに、気付くのが。

 

 怖かったから、全部卜部に任せていた。

 負けたとき、俺が弱いわけじゃないって、言い訳出来るから。

 

 怖かったから、南雲につこうとした。

 強い方に着くのが、賢いんだって、実力があるんだって言えるから。

 

 ───怖かったから、クラスを見捨てようとした。

 俺がクラスを率いて負けたら、それは、俺が弱いことの証明になるから。

 

 きっと、元一年Aクラスの全員が、そうだった。

 卜部に任せれば、それで良い、と。そうすれば問題なく勝てると、そう、思考を止めていた。

 

 

 俺は、どうしたい。何がしたい。

 

 自分で自分に問い掛ける。

 

 俺が実力者であることを証明したい。

 

 なら、卜部の仇を取る為に、南雲に挑むか?

 

 …………いや、今の俺では、南雲には勝てない。

 事実、体育祭では、南雲の妨害を防げずに、負けた。九重と二人がかりでも。

 

 なら、南雲につくか?

 

 …………いや、それは、実力者なんかじゃない。

 何も、変われていない。強くなれていない。────卜部に任せれていた時から、何も。

 

 ────なら、どうする?

 

 俺が俺に問い掛ける。

 もう、結論は出た。

 俺の、すべきことは。

 

『────現状維持、だな』

 

 このクラスを、B(・)ク(・)ラ(・)ス(・)の(・)ま(・)ま(・)に(・)す(・)る(・)。

 南雲に勝てないことなど百も承知。

 いつか卜部が戻ってくることに賭け───否、卜部が戻ってくると信じて。

 俺は、少しでも、卜部が、勝てるように。

 ─────このクラスで、勝てるように。

 

『─────勉強会?まぁ、良いけどさ』

『ありがとう。神里』

 

 クラスメイト達に声を掛けて、まずは勉強会から始めることにした。

 俺が、予想していた以上に、クラスメイトは集まって。

 多分、みんな、卜部に全てを任せてしまったことを、後悔していた。

 

 人が増えれば、必然、負担も増える。

 

 成績優秀者複数人がかりで教えてこそいるが、それでも、手も頭も足りなくなってきたから。

 卜部か、九重か、あるいは───。

 

 二学期の終わり頃、さっさと教室を出て行こうとする鬼龍院を、呼び止めた。

 

『何だ桐山。私の時間は貴重だ。こんなことに──』

 

 鬼龍院は、固まった。

 俺が、頭を下げたから。

 

『────手を、貸して下さい』

 

 このクラスは、変わろうとしていた。

 俺は、変わろうとしているこのクラスに、自分を重ねていたから。

 だから、俺は───。

 

『…………おい桐山。頭でも打ったのか?お前が頭を下げて、あまつさえ、私に頼むだと?』

『正気だ。俺は、このクラスを勝たせたい。だから───』

 

 お願いします。手を貸してください。

 

 鬼龍院は、暫く、考え込んで。

 

『…………まぁ、少しぐらいなら』

 

 鬼龍院を講師に持ってこれたから、勉強会の効率は、大きく上がった。

 鬼龍院は、熱心に教えを乞う生徒たちを見て、何だか、楽しそうな顔をしていた。

 何故か講師役の俺と神里と雲雀にも教えてきた。どう考えてもこれ大学でやるような問題だろう。少しは加減してくれ。死ぬ気で解くが。

 

『────私は、見誤っていたのかもな』

 

 鬼龍院は、とても小さな声で、口の中で噛み殺すように喋っていたので、何を言ったのかは、分からなかった。

 

『最近、勉強会開いてるんだって?』

『そうだが』

 

 生徒会の仕事をこなしていると、南雲が話しかけてきた。

 

『───オレに、勝つつもりか?てっきり、オレにつくものだと思っていたんだがな』

『………そうだな。お前が、実力で卜部に勝ったなら、ついていたかもしれん』

『おいおい。この学校は、結果が全て、結果が実力だ。

 結果は明確だぜ?オレは、卜部に、勝った』

『───代わりに、大きな傷を負った。癒えることの無いだろう、大きな傷を』

『………だとしても、お前に負けるほどじゃない』

『実力差など、とっくのとうに理解している』

 

 このクラス屈指の実力者たる九重と二人で、南雲に好き勝手に荒らされた。

 だから、俺では南雲に勝てないことなど、百も承知だ。

 だとしても、何もしなければ、何も変わらない。

 俺は、実力者になれない。

 俺は、まだ、強くない。

 

 だからこそ。

 

 俺が、強くなる為に。

 

『お前には言っておこう。俺の勝利条件は、お前に勝つことじゃない。卜部が戻ってくるその時まで、このクラスを、Bクラスで居続けさせる。

 それが、俺の戦いだ』

 

 お前の背中も、卜部の背中も、堀北先輩の背中も、まだまだ遠い。

 だが、だが───。

 俺は、俺に出来ることをやるだけだ。

 

『俺は、お前に勝つ』

『────ハッ、ぶちのめしてやるよ』

 

 

 桐山生叶率いる、一年Bクラス並びに、二年Bクラスは、南雲雅に一度も勝てず、しかし、一度も決定的な敗北を刻むことはなく。

 その時点で、彼らは、勝利していた。

 

 

『おい鬼龍院。何故、卜部を追い詰めるようなことを言った』

 

 体育祭の時、南雲の妨害を、一年生が完璧に防ぎ切った時。

 鬼龍院は、卜部を追い詰めるようなことを言った。

 らしくない。こいつは、そんなことをするような人間じゃない。

 鬼龍院は、顰めっ面で、目を逸らす。

 

『…………はぁ。話したくないなら、別に良い』

 

 鬼龍院は、口を開く。

 

『────気に入らん』

『何がだ』

『…………桐山も、神里も、雲雀も、他のみんなも、本気で変わろうと、戦っているというのに。

 一体いつまで、放ったらかしにするつもりだ』

 

 …………驚いた。

 お前、そんなこと言うんだな。

 

『…………何だその顔は。鳩が豆鉄砲喰らったような顔をして』

『あぁ、いや。思ってもいないことを、言ってくれたからな。

 …………その、なんだ。二年近く過ごしてきたが、良いやつだったんだな。鬼龍院は。

 その、だな』

 

 ありがとう。鬼龍院。

 

 素直にそう礼を言うと、鬼龍院は、地面を見つめ出した。

 夕暮れのせいか、その頬が、赤く染まっている気がする。

 

『……………はぁ、調子狂うぞ。……………おい桐山。お前、本気でクラスリーダーになるつもりはないのか』

『クラスリーダーは卜部だ。俺は、アイツが戻ってくるまでの代理にすぎん』

『……………つまらん』

『折角、強い奴がクラスにいるんだ。…………それに、アイツだって、このままで終わることを、良しとする奴じゃない』

『……………、まぁ、そうだな』

 

 

 そして、アイツが、戻ってきた時。

 

『────ようやく、俺もお役御免だな』

『…………桐山。ここまでありがとう』

 

 放課後、教室で、二年Bクラスの全員は、久しぶりに、作戦会議を始めることになった。

 

『…………ごめんなさい。あなたに、全部押し付けてしまって』

『私からも、ごめん。途中で放り出して』

『別に気にするようなことじゃない。休むことも、必要なことだからな』

『…………少しは、気にしても良いんじゃないか?お前は、その、たくさん、苦労したんだし』

 

 卜部も九重も、何だったらクラス中の全員が、鬼龍院に、驚愕の視線を向けていた。

 

『な、なんだよ。そんなに変か?私がこういうことを言うのは』

『……………あ、頭打った?大丈夫?』

『おい九重。それはどう言う意味だ?』

『落ち着きなさい二人とも。そう、ね。桐山には、後で色々奢るわ』

『あーうん。私からも、色々奢るよ』

『まぁ、受け取れるものは受け取っておく。鬼龍院も、これで良いか?』

『……………ふん』

『これでいいとさ』

 

 九重と卜部は、鬼龍院を、ジロジロと見ていた。

 窓の外を眺める、鬼龍院の横顔は、夕陽が差し込んできたからか、赤く染まっていた。

 

『そ、そうなったのね』

『やっば。めちゃくちゃ気になる』

『そこ二人、本題からズレるなよ』

 

 そう、本題。

 即ち。

 

『つっても、今から生徒会長は無理じゃねぇか?』

 

 神里の言うことは、よく分かる。

 いくら卜部でも、流石に、な。生徒会に入って二週間で、生徒会長選挙に勝てるとは思えん。

 

『………その、公約は、ある程度は考えてあるの』

 

 ………ふむ。確かに、この公約の内容は見事だが。

 

『聞いてくれるわけ無くない?だって、一年以上何もしてないんだよ?』

 

 相変わらず、手厳しいな。雲雀は。

 そう。信頼も実績も殆どない。それどころか、心配すらされている卜部で、どう聞かせる?

 

『そこなんだけど。ねぇ、桐山。同じ生徒会の後輩として、一(・)之(・)瀬(・)さ(・)ん(・)の(・)こ(・)と(・)、ど(・)う(・)思(・)う(・)か(・)し(・)ら(・)』

『…………一之瀬か。優秀だし、真面目だし、何より、優しい良い奴だ』

『…………なるほど。一之瀬と組むつもりか。しかし、それでもどうしようもないぞ?』

『うん。鬼龍院の言う通り、それでも、まだ、足りない』

『えぇ。だからこそ、発想を変えるの』

 

 ────組むんじゃなくて、組みに来させるの。

 

 

 討論会を見ながら、卜部の一手を考える。

 実に見事な一手だ。確かにこれなら、信頼と実績を外付け出来る。

 問題は、この程度の一手では、南雲を崩せない、はずなのだが。

 

「………妙だな。南雲のやつ」

「あー、桐山もそう思った?」

 

 幾ら何でも動かなすぎるぞ。堀北さんもここまで好き勝手やっているのに。

 

「ふむ。───………いや、まさかな」

 

 何かに気付いたな鬼龍院。聞かせてくれ。

 

「何に気付いた?」

「……………勘、だが。自分を悪役として、終わらせるつもりなんじゃないか」

「たし、かに。それなら、理由は、着けられる、ね」

 

 自然と、手を固く握りしめていた。

 ────認められるか、そんなこと。

 俺は、このクラスは、まだ。

 

 

「お前に勝てていない。勝ち逃げなど許さん。ちゃんと、俺たちと、戦え」

「…………もう、ずっと負けてんだよ。オレは。

 卜部と一年Aクラスを潰すために打ってきた手は、全部事前に潰された。

 期末テストの勝負も、もし本気でやってたら、絶対に負けていた。

 懐に潜り込んで、弱点探って、勝つしかなくて。

 その戦い方すらも、翡翠先生に教えられたものでしかない。

 鬼龍院に言われた通りだよ。こんな勝ち方しか出来なかった時点で、オレは、弱かった。

 …………なのにオレは、そこから、目を逸らして」

 

 だからなんだ。

 この馬鹿野郎。

 

「お前の事情も、お前が抱えている罪悪感も、今はどうでも良い。

 お前を犠牲に捧げて、学校を変えられたとて、そんなもの、長続きするわけがない。

 お前には、責任を果たしてもらう。

 ─────俺たち全員が、負うべき責任から、お前だけ逃げることなど許さん」

 

 俺も、卜部も、九重も、鬼龍院も、堀北先輩も、お前も、全員が、間違えたから。

 だから、俺たちは、その間違いをどうにかしないといけない。

 変えられるチャンスが、目の前にあるから。

 これを変える為に、本気で挑まないといけない。

 

「─────休んでいい。止まってもいい。

 だが、最後には、必ず戻ってこい。

 俺たちと戦え。今度こそ、決着を付ける」

「───……もう、ついてるって言ったろ」

「ふざけるな。こんなの決着じゃない」

 

 お前に、卜部に、俺は、勝ちたいから。

 だから、まずは、やれることを積み重ねてきた。

 だから、逃がさない。

 だから、退学なんて、認めない。

 お前が悪役になって終わりなど、絶対に。

 

「……………休学の権利を買ったのは、金石先輩で、合ってますよね」

「あぁ。権利を行使する権利があるのは、金石だ」

「つまり、お前に拒否する権利は無い」

「──……えぇ?オレ当事者なのに?」

「ふっ、散々苦労を掛けさせられたからな。………まぁ、選挙で決着をつける、という卜部の願いは叶わんが、それは、また別の形で叶えてもらおう」

 

 申し訳ないが、今はそれよりも、コイツをどうにかするのが優先だ。

 思い詰めすぎで抱え込みすぎだ。一旦休んでろ、この馬鹿野郎。

 

「卜部も九重も休んだ。お前も、休む番だ」

「………………はぁ、分かったよ」

 

 ────さて、卜部には、謝らないとな。

 

 

 強引に南雲を部屋まで送って、暫くは休ませることを、生徒会並びにAクラスに連絡する。

 割とあっさりと了承された。

 本当、ここまで心配されるのを、ありがたく思っておけよ。全く。

 

「…………桐山」

 

 堀北先輩は、眩しそうに、俺を見ている。

 

「────感謝する。俺では、きっと、止められなかった」

「まぁ、あなたなら、南雲に悪役をやってもらったほうが、合理的だと判断するでしょうし」

「…………そうだな。好都合だと思っていた俺がいたことは、否定できない」

「合理と効率で変えられるなら、もっと楽に変わっていますし、もっと前から変わっています。

 まぁ、どちらも必要ではありましたがね」

 

 この人が土台を作れていなければ、ここまでの改革を成し遂げられなかった。

 高い実力と、効率的で合理的な思考で持って、この学校の軽度の問題点を着実に変えてきたから、学校側から、生徒会長に与えられる権限も増えていった。

 それがあるからこそ、ここまで大規模な改革を成し遂げられる。

 全ての前提には、この人がいた。

 

「───…………そう、か」

「あなたのしてきたことは、決して無駄ではなかった。

 そこは、自覚して良いと思います」

 

 この人がいなかったら、何も変わらなかっただろう。

 ……………今更だが、何故綾小路がここにいる?

 ……………なる、ほど。いずれ家族になる男だもんな。うん。

 

 (なんか、変な勘違い?されてる気がする)※あまり勘違いでは無い。

 

「その、桐山先輩は、南雲先輩のことを、どう思っているんですか」

「そう、だな。いつか超えるべき壁の一人で、心配になる相手で、たまにムカつくやつで」

 

 それで、まぁ、友達、だな。

 

「…………ありがとう、ございます。桐山先輩」

「…………なぜ、お前が礼を言うのかは分からんが、まぁ、受け取っておく」

 

 南雲雅も、卜部藤乃も、きっと、運が悪くて。

 それでも、二人のそばに、桐山生叶がいたのは、運が良かった。

 

 

「本当、変わったね。桐山は」

「まぁ、自覚はある」

「前はもっと、みんな見下してる感じあったのに」

「俺より強い人間に、たくさん会ってきたからな」

「…………まぁ、私としても、今のお前の方が、好ましいぞ?」

「ふっ、鬼龍院楓花にそこまで言われるとは、実に光栄だ」

「…………あー、まー、その、頑張れ。鬼龍院」

「うるさい黙れ」

 

 夕焼けで伸びる長い影。

 並んだ三人分の影は、同じ方向を向いていた。歩きながら、両手を頭の後ろに組む九重九十九は、改めて、決意を固めた。

 

「…………ま、責任は、取らないとね」

 

 藤乃は、責任取って、南雲をちゃんと殺そうとして。

 南雲は、責任取って、全部背負って死のうとして。

 桐山も、責任取って、私らが休んでいる間のこのクラスを、引っ張り続けた。

 

 私だけ、逃げるのは、ダメだよね。

 

 端末を操作する。連絡先は、朝比奈なずな。

 

 私も、向き合わないと。

 まぁ、うん。

 みんなにとって、頼りになる、先輩だし。

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