綾小路くんよりも良い男を捕まえてやります。
まぁ、つまり、私ももっと、レベルを上げないといけないわけです。
思い立ったが吉日なので。
「一局打つだけで5,000ポイント!勝ったら15,000ポイントだよ‼︎奮ってご参加下さい‼︎」
「ご、ご参加、下さい………」
オールナイトまどか☆マギカの翌日の放課後。
正面玄関すぐの廊下で、机に腰掛けて、チェス盤を置いています。三七さんの社交力は見事ですね。美樹さんは、その、影が薄いので。まぁ、そこが長所なんですけどね。
メメ先輩と、それから藤乃先輩からのアドバイスです。
強くなりたい。もっとレベルを上げたいなら。とにかく、たくさん人を知りなさい、と。
それなら、これが一番良いと、そう判断しました。
ただ対話するよりも、沢山のことを、これで知れますからね。
「すまん。ポイントは要らないから、俺と一局お願いできるか」
「え?ポイントいらないの?5,000ポイント結構高いよ?」
「あぁ。別に良い」
あら、幸村くんですか。
別にこう言う場でなくとも、部室で打てるのに。
「まぁ、ファーストペンギンがいた方が、後の奴らもやりやすくなるだろう?」
「お気遣いありがとうございます」
「…………その、いや、いい」
ただ黙々と、幸村くんと勝負します。
えぇ、言葉を交わす必要なんて有りません。
私にとってチェス盤は、言葉よりも雄弁なので。
「うーん、正直よく分かんない!美樹さん分かる?」
「わ、私も、よく分からないです」
「幸村は結構強いよ。二年生とも良い勝負するし、有栖相手にも、十局やれば、一局は勝てる」
「あ、真澄ちゃん。ポスターもう貼れた?」
「えぇ。事情を話したら、藤乃先輩が、許可を出してくれたわ」
生徒会室では、アイアンクローを喰らっている綾小路がいたが、まぁ、気にしなくて良いだろう。
真澄さんの言う通り、決して油断ならない相手です。幸村くんは。
良くも悪くも教科書通りを徹底しています。だからこそ、崩しづらい。
教科書に載っているようなものは、一番強いから、基本的に載っているんです。極論を言えば、教科書通りに最適解を打つ。それだけで、基本的に勝てます。
えぇ。基本的に。
「あ、崩れた」
真澄さんは、気付いたようですね。
一手のミスから、加速度的に穴が広がります。
実力が完全に同等なら、幸村くんは基本的に負けませんが。残念ながら、現時点では、私の方が強いので。
えぇ、つまり。
「
「………
まぁ、私の勝ちですね。
ですが、これでは意味がありません。
「…………すまんな。俺では、坂柳の練習相手は力不足のようだ」
「…………えぇ。そうですね」
「清隆が、その、すまなかった」
それだけ言って、幸村くんはさっさと去りました。
…………本当に、真面目な人ですね。
「────次は、僕が相手しても良いかい?ポイントは、要らないから」
「平田くん、ですか」
Bクラスの調整役。首脳陣の一角で、多くの人は、あまり重要視していませんが、少なくとも、彼が居なければ、櫛田さんの負担は倍増していたでしょうね。
えぇ、まぁ、構いませんよ。
「綾小路くんが、ごめんね」
「別に、あなたが謝ることでは無いですよ」
さて。
…………ふむ。なんと、いいますか。恐れていますね。何を恐れているのでしょう。
…………輪が乱れること、でしょうか。
ふむ。成程。
「安心してください。私は別に、Bクラスを荒らしたいから、こんなことをしている訳では有りませんよ」
「…………別に、そんな不安は、抱いていないけど」
「嘘はつかない方がいいですよ。まぁ、綾小路くんたちを、恨んでいるとか、そういうわけではないので」
「…………そっか。なら、良かったよ」
「心配症、とは、少し違いますね」
「そうかな?」
何、でしょう。
…………動かないと、自分で自分が許せない。
…………あぁ。なるほど。
「あなたはずっと、限界なんですね」
「─────ッ!」
「駒の動かし方を見れば、その人のことは分かります。あなたは、ずっと後悔しているんですね。ずっと自分を責めている」
「少し、黙って」
「動かなかった後悔。人への絶望。それから、自分への絶望、でしょうか」
「………チェスだけで、そこまで分かるんだね」
「最近、出来るようになりました」
まぁ、これ以上暴き立てる趣味はないですし。
「
「
…………過去を抱え込んでいる人って、思ったよりも多いのでしょうか。
「次、オレがやってやるよ。坂柳」
「龍園くんですか。まぁ、楽しめそうな相手ですね」
龍園くんは、前二人とは違って、普通にポイントを受け取りましたね。
まぁ、こういうの、得意な方ではあるんでしょうね。龍園くんも。
ただ、どちらかというと、ルールに従って戦うよりも、ルールの穴を突きたい龍園くんとしては、突くことができる穴の殆どないチェスは、やりづらいみたいですね。
「…………龍園くんは、赤羽くんに、色々と複雑な感情を抱いているんですね。憧憬、敵視、それから、あ、呆れ?」
「あー、まぁ、綾小路がちゃんと二股してんだから、お前もそうすれば良いのにって感じだ」
「う、うーん。二股は、基本的に良くないので、やらせない方がいいと思いますよ?」
「いや、アイツならちゃんと二股出来るだろうよ」
「ちゃ、ちゃんと二股って……」
「ようは、どっちも同じくらい大事に出来るだろってことだよ」
おっと、ちょっと上手い一手ですね。
「なんだか、男女関係に造作が深いようですね」
「…………あー、いや、そこまで恋愛に詳しいわけじゃねぇが」
ふむふむ。こう来ましたね。
なら、こう来るでしょうし、こうしましょう。
「自分の中に、相手をどこまで入れられるか。恋愛関係、ひいては人間関係は全部、そういうものだと思ってる。
ただ恋愛は、基本的に一人以上入れるのはむずいんだよな。器の話だ。コップ一杯分しか入んねぇグラスに一杯以上入れりゃあ、どうしても溢れちまう」
「溢れるなら、捨てるしかない、と」
「もしくは、最初からその器がデケェヤツだな。恋愛は、注ぎ合いだからな。
器がデケェやつは、沢山注がれても大丈夫だし、沢山注ぎ返せる」
「成程。赤羽くんならそれが出来ると」
「ま、そんなところだ」
「それはそれとして
「あー、
ふむ。龍園くん、思ったよりも、恋愛関係ピュアですね。
まぁ、色々とある意味で純粋な人間だから、でしょうが。
「次は私がお相手しよう。リトルガール」
「良いですよ高円寺くん。ただし条件があります。私が勝ったらその呼び方を辞めるように」
「あぁ。ポイントは要らない。その程度の施しなど、私は望まないからね」
……………やはり強いですね。高円寺くん。定石も何もないめちゃくちゃな指し方なのに、相当強い。
「思ったよりも、堪えていないようだね」
「割と吹っ切れましたから。皆さんのおかげです」
羨望、でしょうか。
あぁ、成程。そういうことですか。
「天才は孤独、ですが、それだけではありませんよ」
「……………私は、何も言っていないが」
「私に取ってチェス盤は言葉よりも雄弁ですからね」
多くの人と関わって、成長していく綾小路くんへの羨望、ですかね。まぁ、出逢いとしか言えませんね。
………でも、あなたが彼と同じ出逢いをしていたとしても、成長、或いは、変われていたかどうか、ですと正直疑問が残りますね。
「あなたの自分は、非常に強いですね。強すぎるぐらいに強い」
「無論だとも。私に並び立てる存在など、居ない」
「居なかった、の間違いでしょう?」
「………exactry」
「綾小路くん。堀北さん。櫛田さん。幸村くん。平田くん。他のクラスでは、学秀くん、葛城くん、私、潮田くん、雪村さん、一之瀬さん、赤羽くん、龍園くん、椎名さん、こんなにも沢山、あなたに並ぶだろう生徒がいます」
「………そうだね。私は、恵まれている」
「なのに、自分は成長できていないと、そう思っている」
「変わる必要などないと、そう思っていたのだがね」
間違いなく、最も変わったのは、高円寺くんのクラスです。
大なり小なり、全員が少しづつ変わっていって。
高円寺くんは、あまり変わってはいない。いえ、多少は変わっているのですがね。
「あなたはそれでも良いと思いますがね」
変わらなくても強いままでしょうし。
「…………私は私のままで強いからね」
それでもどこか、綾小路くんのように。
心から愛せる誰かを、求めている、と。
「出逢いさえあれば、あなたもそういう人が出来るでしょうね」
「出逢いさえあれば、ね」
まぁ、そういうのは、時の運ですし。
それはそれとして、私の勝ちです。
「
「了解した。坂柳ガール」
…………もっと強い人来ませんかね。いえ、高円寺くんもすごく強かったんですが。
「ごめん。僕も良いかな?ポイントは、良いや」
「あら、潮田くんですか。構いませんよ」
…………三年E組、どういうところだったんでしょうか。
少し、気になりますね。
「────あなたに取って、綾小路くんは、どういう人だったのでしょうか」
「…………そうだね。凄い人、だったよ」
凄い、ですか。
そうですよね。彼は、凄い人です。本当に。
「…………僕が、殺せないかもしれない人だった。他の人に、そんなことを思うことは、あんまり無かったのに」
「お、思ったよりも、凄いことを言ってますね」
…………そう、なんですね。この人は、暗殺の天才だから。
この人に、殺せない人は、ほとんどいない。
「うちの体育教師とか、あと、浅野理事長なんかは、殺せる気しなかったけどね。
最近だと、堀北会長も殺せる気しないや」
「……………思ったよりも、多い、ですね」
「……………まぁ、絶対に殺さなきゃいけないってなったら、どんな手を使ってでも殺しに行くよ。僕が死なない程度のね」
捨て身、ではありますが、ある程度は、自己を大切にしようという意識がある。
後天的に、身に付けた感じでしょうか。
「やっぱ強いね。坂柳さん。勝てる気しないや」
「それはこちらのセリフですね」
クラス間競争において、ルールの穴を突くのはまだしも、行き過ぎれば、彼が動き出します。
そして、そうなれば。
いつの間にやらクラスは半壊しているでしょうね。
「まぁ、ならばこちらは、ルールの範囲で叩き潰せば良いだけなので」
「そう簡単に、ウチが潰せるかな?」
「確かに、リーダーのお二人が生徒会の広報という、人を惹きつけやすい役職に就いたいま、人脈というあなたたちの武器の一つが、より強力になることでしょう」
「選挙みたいな人気勝負になれば、僕らと勝負になるのは、会長副会長会長秘書のいる、綾小路くんのクラスぐらい」
「えぇ。人気勝負、社交勝負では、分が悪い」
だからこそ。
「勝てるところで確実に勝つ。それだけの話です」
私は、勝ちます。
色んな人に、綾小路くんに。
「
「
それから、色々な人と指しました。
朝比奈先輩は予想以上に強かったです。少し危なかったですね。
森先輩も強かったですが、少し教科書通り過ぎますね。幸村くんレベルの完成度は流石に高望みですかね。
三七さんの幼馴染の先輩は、かなり強かったですね。朝比奈先輩と同等レベルです。
南雲先輩ともやりたかったですね。かなり強いでしょう。あの先輩。
金石先輩は大分強い上でめちゃくちゃでしたね。定石も何もあったものじゃありません。高円寺くんに似ていました。何とか勝てましたが。もう一回やったら負けそうです。
白銀先輩も強かったですね。真面目な人なので、やりやすくはありましたが。
神崎くんは、何というか、幸村くんと平田くんのちょうど真ん中、と言ったところでしょうか。幸村くんほど合理的ではないですが、平田くんほど融和主義ではないですね。
椎名さんとも打ちました。やはり相当強いですね。心の中を覗かれているように感じました。まぁ、かなり悩みを抱えているようですが。
一之瀬さんも強かったですね。真面目一辺倒のようで、割と大胆な一手も打ってきます。あの二人から、色々と吸収しているのでしょうか。
意外なところだと王さんですね。成績優秀なのは知っていましたが、こういうのも、得意なようですね。まぁ、勝ちましたが。
人の数だけ、打ち方がある。
人の数だけ、世界がある。
言葉にすると、至極単純で当たり前のことですが、こういうことをしないと、実感が湧かなかった気がします。
テーブルゲーム部は、何だかんだで、みんな似たもの同士なところありますから。みんな割と自己中というか。
唯一の例外は、佐倉さんぐらいですね。長谷部さんも、まぁまぁ例外よりです。
だから、あそこでどれだけ打っていても、こういう、全く見たこともない世界を見ることは、無かったと思います。
まぁ、そのおかげで、気付きたく無かったことに気付いてしまいましたが。
私、まだ綾小路くんのこと、全然好きです。
決着がついたのに、いつまでも思い続ける、なんて、無様で惨めなことは、したくありません。
でも、まだ、心の中で、ずっと残っています。
いきなり他の人を好きになろうとか、無理でしたね。
どれだけ振り切ろうとしても、人生の半分懸けて、好きでいたんですから。
…………色んな人と指して、色んな人を知る中で、そこに気づけました。
気付いちゃいました。
でも、何ででしょう。あんまり、辛くはないです。
何で、でしょう?
「───ねぇ、次、私が相手でも良いかな?」
「えっ、き、君は、ちょっと………」
「は、はい。やめておいた方が、お互いの為だと、思います」
「………ていうかどのツラ下げて来たのよ」
皆さんの反応と、それから、声だけで、顔を見ずとも、誰かなんて分かります。
そういえば、あなたとは、打ったことがありませんでしたね。
「良いですよ。打ちましょうか。櫛田さん」
「ありがとう。坂柳さん。こっちからポイント払いたいぐらいだよ」
強い、ですね。
ですがやはり、堀北さんと綾小路くん程では、ありません。
私優勢で、進んでいきます。覆ることはないでしょうね。
「あっははははは。勝てる気しないや」
「うふふふふふふ。嫌味ですか?」
彼の隣を射止めたくせに。
「や、やっぱり、やめておいた方が………」
「もう氷点下通り越してマイナス20℃だよ‼︎凍り付きそうで怖い‼︎」
「…………ホットココア、買ってくるわね」
「あ!逃げんな真澄‼︎」
「に、逃しません………!」
「くっ、離しなさいよ‼︎」
何だか賑やかですね。本当、苦笑してしまいます。
…………あぁ。そうだったんですね。
「…………そっか。なら、大丈夫、かも?」
「何が、大丈夫何ですか」
まぁ、大体予想は付きますがね。
「うーん。多分予想ついてるよね?わざわざ口に出さない方が、お互いの為だと思うけど」
「えぇ。私たちは、予想がついています、が」
「………あー、なるほど」
真澄さんたちが、わちゃわちゃしながらも、こっそり聞き耳を立てていますね。
彼女たちに、私の口から説明するのは、少し、恥ずかしいです。
「────私ら潰すつもりなら、容赦しないよって、伝えとこうかなって。
その必要は、無さそうだけどね」
…………お願いですから、そこで止まってくれませんかね。
「何でそう思ったの?」
三七さんなら、聞きますよね。知ってました。
「あー、えっと、そのー」
櫛田さんの、言って良いのか、という視線には、全力で否を叩きつけておきます。
お茶を濁してください。
それはそれとして、少しだけ、硬直状態ですね。
「ま、うん。坂柳さんも出逢いに恵まれたってことで」
「?それってどんな出逢いなの?ぶっちゃけ今のところ最悪な出逢いの部類だと思うけど」
「三七さん。お口チャックです」
これ以上深掘りはされたくないので。
少し、攻め方を変えますか。
「えー!でもでも気になるよ‼︎どんな出逢いなの?綾小路くんへの失恋よりも、大きなものなんだよね‼︎」
「やめてください………」
言葉にされると、思ったよりも恥ずかしいです。
私のチョロさを突きつけられるようですね。
取り敢えずここで。
「三七。そこまでにしておきなさい」
ありがとうございます。と、言いたいところなんですが。
ニヤニヤが、止められていませんよ。真澄さん。昨日のからかいの反撃のつもりですか。かなり効くのでやめてください。
あ、これはいやらしい手ですね。なので、ここを抑えて、と。
「───有栖の中で、私らが綾小路と同じか、それ以上に大きな存在になってたことなんて、本人に言わせるのは、ねぇ」
こ、こいつぅ………‼︎
あ、この一手は上手いですね。
「ええそうですよ‼︎八年想い続けていた人と同じかそれ以上に、一年未満しか過ごしていない貴女たちは大切になっていましたよ‼︎
これで満足ですか‼︎」
我ながらちょろ過ぎます。本当に。
あ、ここ危ないですね。
「あ、あ、あ、あ、有栖ちゃぁ〜ん‼︎」
「何ですか急に抱き付かないで下さいびっくりするじゃないですかあなたのそういうところが──」
「あたしも大好き〜〜‼︎」
「ぐ、ぐぅ」
「ぐうの音も出ないわね。………私も大好きよ。有栖」
「わ、私も、有栖さんのことが、大好きです」
「むぐぅぅぅぅ」
「うっふふふふふ。頬の緩み、隠せてないよ?坂柳さん」
「うるさいですうるさいですうるさいです‼︎」
あぁもう。あぁ、もう。
えぇ。えぇ。消えてなんて、くれません。
綾小路くんが、好きだという想いも。
みんなが、大好きだという、想いも。
私は、綾小路くんには、選ばれませんでした。
それは、もうどうしようもないんです。出逢いが遅れてしまったから。彼の大切が、運命が、もう、埋まってしまっていたから。
そうして、空っぽになりそうになった心に。
でも、私の心の中に、たくさん、入って来ました。
「………………私も、皆さんが、大好きです」
えぇ。そうですね。
わざわざ、新しい恋なんて、今は、探さなくてもよかったんです。
私の周りに、こんなにも沢山。
埋めてくれる、大切な人たちが、いたんですから。
「………………私は、謝ったりは、しないよ」
「………………えぇ。それでいいです」
「──────でも、君には、幸せになって欲しいって、そう思う」
「──────一応、感謝は、しておきます」
「うん。じゃあ、
「………………え、あっ‼︎」
いつの間にか、詰んでいます。
あ、この人、私を動揺させて、ミスを誘発しましたね‼︎なんて汚い‼︎
「ふっふっふっふっ。15,000ポイントもーらい」
「汚いです‼︎ずるいです‼︎再戦を要求します‼︎」
「勝てば良かろうなのだ〜〜」
「むぐぐぐぐぐぐぐ」
ムカつきます!うざいです!杖で小指突きまくっていますが、大して効いていません!
むぐぐぐ‼︎
「────皆さん!くすぐりの刑です‼︎」
「りょーかい‼︎」
「は、はい‼︎」
「おっけ」
「えっ、あっ、ちょまっ‼︎」
三人がかりで全身を擽ります。
脇の下、脇腹、首筋の裏。
ところで、首元の絆創膏は、何なんでしょうね。腹立たしいですね。
「あっ、ちょ、そこダメ───あははっ‼︎」
「思ったよりもくすぐったがりだね‼︎もっといじめちゃうよー‼︎」
「良いですよ三七さん。どんどんやっちゃってください」
「───あっ、そこは本当にダメ────あぁんっ」
美樹さんがお腹をくすぐろうとしたところ、急に喘ぎました。
みんなびっくりして止まります。
櫛田さんは瞬時に、お腹を抑えて隠しました。すっごい真っ赤です。
知、知識としては知ってましたが、そ、その……。
「………そこまで、調教されていたんですね……」
「言い方っ‼︎」
「いや、そこそうなってんのは相当よ?」
「うわー、うわー、引く。変態すぎ。どっちも」
「へんたっ⁉︎」
三、三七さん………。
幾ら何でも、その………。
変態呼ばわりは………。いや、そうとしか言えないんですけどね。
「ち、違う違う違う‼︎清隆がっ!清隆が、勝手に、私の、私の、身体を………っ!」
「その割には、ノリノリだったような気もするのだけれど?桔梗さん?」
「す、鈴音………」
あら、堀北さん、綾小路、くん………?
「何故、そこまでボロボロに?」
「………まぁ、その、アレだ。妹さんを僕にください的な」
「あぁ。堀北会長と」
あぁ、なるほど。
他の学生からの文句を、辞めさせるためですね。
いや、幾ら何でも左手折るのはやり過ぎでは?他にも色々骨を砕かれたようですが。
「………オレが、言って良いことなのか、分からないが」
「えぇ。どうぞ」
おそらく、ある程度は前から、私の様子を見ていたのでしょうね。
真澄さんたちに、視線を一瞬走らせて。
「───良い、友達たちだな」
「えぇ。私の、最高の、友達たちです」
だから、まぁ。
割と早くに、あなたを、完全に吹っ切れる気がします。
「ねぇ、堀北。櫛田って、どれだけノリノリだったの?」
「最初こそ嫌がってはいたのだけれど、後半になるにつれて、『もっと叩いて』だとか、『もっとぐちゃぐちゃに』、だとか。
側から見てて、すごく、悦びながら──」
「やめてぇぇぇぇ‼︎」
「ドMさんだね」
「うにゃぁぁあぁぁぁ‼︎そ、そういう鈴音だって、く、首輪とか、その………」
「…………あなたも、でしょう?」
「どっちもドMだったんだね」
う、うわぁ。
アブノーマル過ぎて、引きます。
七時すぎで、私たち以外いなくて良かったですね。
もし、他に生徒がいたら。
生徒会長と会長秘書はペットプレイ好きの調教済みなドMだと、広められていたことでしょう。
というか、綾小路くん鬼畜すぎません………?堀北会長、もうちょっとボコボコにしても良かったと思いますよ。
「なんか、有栖ちゃん、付き合わなくて正解だったかもよ?有栖ちゃんの身体だと、絶対持たないよ。これ」
「み、みたいですね。わ、私に被虐趣味は無いので……」
「私にも無いよ‼︎」
「…………多分、私は、少し」
「そのうち櫛田さんも堀北さんみたくドMになりそうだね」
「ねぇこの子ノンデリ過ぎない⁇」
三七さんには、そういうところあるので。
「…………なぁ、オレは、どんな気持ちで、この会話を聞いていたら良いんだ?」
「笑えばいいんじゃない?…………後、殴ったのは、ちょっとやり過ぎた」
「いや、そこは別に良いんだが」
「あっそ。ま、今度
「なんで⁉︎」
「…………なぁ、本当に、オレはどんな気持ちでいればいいんだ?流石に気まずいんだが?」
「わ、笑えば良いと思います」
「お、おう」
…………なんか、ぐだぐだで終わりましたね。
チェス盤は、代わりに、綾小路くんたちが片付けてくれるそうです。
お言葉に甘えて、私たちは、寮に帰りました。
「いやー、うん。あの三人進み過ぎじゃない?」
「は、はい。今年のクリスマスとか来年の夏休みとか凄そうですね」
「……………大丈夫よね?学生結婚、妊娠、退学、みたいな事には……」
「流石に、流石にそこまで理性がないことはしないと思いますけど」
「大学生になったらヤバいよ絶対。四六時中ヤッテそう。有栖ちゃんだと身体保たないんじゃない?」
「あ、あの、三七さん。流石に恥ずかしいので、それくらいで……」
あの、ノンデリというか、直球過ぎるというか。
せ、性に奔放?何でしょうか?
「あっ、いやいやいやいや!あたし貞操観念はしっかりしてるから‼︎まだ処女だから‼︎」
「大声でそんなこと言わないっ‼︎」
真澄さん。ナイスです。
「あーそうだ。明日の放課後、『廻天』観に行くんだよね。何時だっけ?」
「十七時半ですね」
「ケ、ケヤキモールに直行して、時間まで、のんびりしてますか?」
「ま、それで良いんじゃない」
日も暮れた夜の道を、四人でのんびり、歩きます。
…………三日月は、もう殆ど、砕け散ってしまっていますね。
「今更だけどさ、ペーパーシャッフルの事前対策とか殆どしてないけど、良かったの?」
「────あぁ、対策は、もう終わりましたよ」
今日のこれは、私が強くなる為であると同時に、
「────安心してください。私たちの勝ちは、もう確定です」
実は、Bクラスは、やってはいけないことをやってしまっています。
次はみんなで映画鑑賞。その次で、種明かしです。