殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 問題回!
 絶対賛否両論ある!


決意と選択の時間

 鈴音と桔梗の、トリックオアトリートの二択。

 つまり、二人に悪戯されるか、オレが二人を食べるか。

 こんなの、もう。

 

「ト、トリック、で」

 

 もう、悪戯しかないだろう。

 

「分かったわ。たっぷり悪戯してあげる」

「覚悟してね?」

 

 あ、やばい選択肢選んだかもしれん。

 いや、オレが二人を食べるよりは流石にマシだと思うが。

 

「じゃあ、まずは──」

「────いただきます」

 

 あっ、結局食べるんですね。

 

 

 二人がかりの暗殺(ディープキス)でまずは失神寸前まで攻める。

 これがこの二人の基本戦術で、夏休みにオレに盛大に反撃されて失神させられた経験から編み出した戦術だ。

 そこに、衣装やら何やらで誘惑して動揺させ、反撃の芽を潰して、その気にさせる。

 だから、今回もベビードールという衣装で誘惑して動揺させようとしている。

 

 分かっていても基本的にどうしようもない。

 オレの中に、二人を大切にしたい、好きだという気持ちがある以上、二人のそういう艶姿に動揺しないのは無理だから。

 

 正直なところ、今もはちゃめちゃに動揺している。

 

 鈴音の白いベビードール姿は、清楚でありながら凄まじく色っぽくて、しなやかでありながらよく鍛えられた肢体を、欲をそそる形にラッピングしている。

 

 桔梗の赤いベビードール姿は、扇情的で誘惑的で蠱惑的。豊満でそれでいて無駄のないスタイルを、食らいつきたくなるようにラッピングしている。

 

 お菓子の包装のコスプレというのも、納得してしまう。

 

 鈴音という、冷たくも美しく爽やかで涼やかな、一晩中食べていたいと思うようなお菓子と。

 桔梗という、情熱的で可愛らしく艶めいて輝かしい、一晩中味わいたいと思うようなお菓子を、魅力的に、ラッピングしているのだから。

 

 カーテンをキッチリと閉めて、そろそろ冬なので、夜も深くなり、暗い部屋の中で。

 鈴音の指先が、オレの二の腕を摩り、胸板を摩り、誘惑してくる。桔梗が、そっと、オレに抱きつきながら、その肢体を押し当てて、額がぶつかるほどの至近距離で、目を合わせてくる。

 オレは、桔梗の暗殺(ディープキス)を、真正面から受け止めた。

 

「………あら、珍しいわね」

 

 鈴音の言う通り、オレは、抵抗らしい抵抗をしない。

 桔梗のキステクで、意識が飛びそうになるが、寧ろ、迎え入れるように舌を動かす。

 

「───ぷはっ」

 

 オレと桔梗の間に、銀の糸が橋をかけ、ぷつりと切れる。

 暫くの間、オレは桔梗と、無言で見つめあっていた。

 

「‥……、なんか、抵抗らしい抵抗、しないね?」

「………まぁ、そうだな」

 

 正直、その、色々覚悟を決めたというか、何というか。

 オレの中で、答えが出た。

 

「………ここで、いろんな人に出会った」

 

 椚ヶ丘での一年は、オレを人にした。

 一人一人、一つ一つの思い出全部が、心から大切だと思える教科書だった。

 読み終わってもなお、捨てることなど出来なくて。

 本棚に、大切に、大切に仕舞い込んでいた。

 でも、心のどこかで、或いは、オレの理性が告げていた。

 あんなに素晴らしい先生にも、あんなに素晴らしい友たちにも、もう、会うことなど出来ないと。

 ここが、最高だと、そう思っていた。

 

 ここに来て、もう一年近く経つ。

 ここでもまた、本当に、色々な人に出逢った。

 初めは、Dクラスを愚かな人々の集まりだとは思っていた。

 だから、正直、期待はしていなかった。寛治も、春樹も、健も。………きっと、啓誠すらも。

 でも、彼らは、変わった。確かに前を向いて、確かに成長して。この三人に釣られるように、Dクラスは、みんなが伸びて、成長して、ここまで来ている。

 …………無人島試験で、まず間違いなくDクラスの底辺だった、寛治と春樹が大金星を上げたから。

 一番のきっかけは、きっと、そこだった。

 鈴音の言う、人の可能性。

 オレは、それに触れた。それを、もう一度知れた。

 啓誠も、寛治も、春樹も、健も、佐倉も、長谷部も、誰も彼も。前に進み続けていて、成長して、進化し続けている。

 あぁ、そうだ。E組が特別じゃない。

 あそこが最高じゃない。

 

 世(・)界(・)は(・)、あ(・)そ(・)こ(・)で(・)終(・)わ(・)り(・)な(・)ん(・)か(・)じ(・)ゃ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

 だから、というわけでもないけど。

 世界を、たくさん知れたから。やっと、自信を持って、確かに言える。

 あの日、殺せんせーが、どうしても死ぬということに、絶望していた。オレにとって、初めて、世界を色付けてくれた人だから。

 白しかなかったオレの世界に、あの人の黄色が刻まれて、鈴音の黒が、桔梗の黄色が、渚の青が、カルマの赤が、茅野の緑が、奥田の紫が、いろんな色が、オレの中に刻まれていって。

 だけど、最初の黄色が、どうしても消えるということを知って。

 オレは、どうしようもなく、悲しかったんだ。

 

 こんな感情知らなかったから、どうしたら良いのか分からなかった。

 悲しみを、覆い隠すために、無理やり好奇心で蓋をした。

 

 先生を殺したら、どんな感情になるのか。

 或いは、友達と殺し合いしたら、どんな気持ちになるのか。

 無理やり、それを知りたいと思いこんで。

 ……………オレを、殺せるかもしれない、渚と。

 白い部屋でも見れなかった、暗殺の天才と、殺し合ったとき、オレは、どう思うのか、知りたくて。

 

 だから、鈴音と桔梗が、オレと殺し合うと知って。

 少し、がっかりしたのを、覚えている。

 

 ……………今、思えば。

 あの時のオレは、渚に、止めて欲しかったのかもしれない。

 オレを止められるとしたら、渚だけだと、そう思っていたから。

 

 だが、解答は、全く違った。

 

 オレは、堀北鈴音と、櫛田桔梗に、殺された。

 

 二人が、オレを、殺してくれた。受け止めてくれた。

 ………当たり前だが、殺し合いなんて、誰も受けてくれるとは、正直思っていなくて。

 でも、二人は、ちゃんと受け止めて、ちゃんと向き合って、ちゃんと、オレを殺した。

 

 ───今なら、ちゃんと、オレも向き合える。ちゃんと、言える。

 

「不誠実だってことは、百も承知だ。

 二人に嫌われるかもしれないことも、分かっている。他の生徒に嫌われるかもしれないことも分かっている。

 ………それでも、答えは出た。

 ───オレは、選ばないことを選ぶ。

 鈴音、桔梗、オレは、二人が、好きだ」

 

 嫌われるかもしれない。

 拒絶されるかもしれない。

 それでも、オレは、ちゃんと、オレの気持ちで向き合いたい。

 

「……………わ、わぁ」

「……………ま、まぁ、予想は、していたけれど」

 

 鈴音も桔梗も、赤くなりながら、同時に、動揺もしていた。

 

「……………まぁ、うん。私ら、殺し屋だし?倫理観求めるのは、ちょっと違うし?

 うん。まぁ、うん。二股でも、まぁ、別に」

「何、ていうか、ちょっと、意外よね。あぁ、いや、二股の可能性は、その、考えてはいたのだけれど、でも、答えを出すとしたら、ホワイトルームに決着がついてからだと、そう思っていたのだけれど」

 

 そう、だな。

 ホワイトルームに決着をつけてから、と。

 オレの業を濯いでからって、ずっと、そう思っていたのだが。

 

「金石先輩に、言ってしまったからな。

 あの男の為に命を賭けるのは釣り合っていないって。

 …………そう考えた時、あの男を殺すことと、二人に、ちゃんとオレの気持ちを伝えること。

 オレの中で、どちらの方が重要なのかを考えたときに、圧倒的に後者だった」

 

 桔梗が、元二年C組と、死ぬ気で向き合ったように。

 鈴音が、オレのために、命を賭けて、ブレイドと戦ってくれたように。

 

 オレも、綾小路篤臣と、向き合おうとして。

 …………拒絶、された。

 悲しかったわけじゃない。…………いや、きっと、悲しかった。

 オレも、みんなみたいに、当たり前のように、親に甘えて、喧嘩したかったから。

 

 ────でも、松雄は、オレのために、文字通り全てを捧げてくれた。

 申し訳なくて、感謝して、でも、もう会えないだろうことが、悲しくて。

 ────それ以上に、泣きそうなぐらいに、嬉しかった。

 あぁ、二人のおかげだ。

 二人が、一度、松雄への罪悪感を、殺してくれたから。

 だからちゃんと、この気持ちに気付けた。向き合えた。

 

 なぁ、松雄。

 全部終わったら、また、アンタと暮らしたい。

 アンタにおかえりって言ってもらえたあの一年を、もう一度。欲を言えば、オレが、仕事するようになるまで。

 そして、いつか。いつかでいい。許してくれるなら。

 あなたと、あなたの息子の人生を、台無しにしたオレだけど。

 許してくれるなら。

 あなたを、お父さんって、そう、呼びたい。

 

「…………確かに、オレと、あの人は、血が繋がっている。

 金石先輩は、オレを復讐の対象にはしない。そう言ってくれたけど。

 そう思わない人も、他にいるだろう」

 

 血の繋がりとは、そういうものだ。

 例え、オレとあの男に、家族であった時間など、無かったとしても。

 それでも、血は、繋がっているから。

 

「…………でも、もう、良いんだ」

 

 綾小路篤臣の作った地獄から、多くの悲劇が生まれた。

 実の息子のオレは、どうしても、それに関わらなければならない。

 その覚悟は、もう、出来たけど。

 その上で、言える。

 

「──……アイツに縛られて、言いたいことも言えない、伝えたい気持ちも伝えられないなんて、馬鹿馬鹿しい。

 オレは、オレの幸せを掴みたい。

 その邪魔だから、アイツを、排除するけど、でも、それだけだ」

 

 アイツの罪を背負うつもりはない。

 極論を言えば、アイツが勝手に死んでもそれで良い。

 …………まぁ、その、言葉にすると、開き直ったって、ことになる。

 

「あっははははは。そっかぁ。………うん!それで全然良いと思う‼︎」

「まぁ、ちゃんと、あの男はどうにかしないとダメだけど。他のみんなにも迷惑だもの」

「それは勿論。あの男は、必ず終わらせるさ」

 

 これ以上、みんなに窮屈な思いをさせたくはないからな。

 まずは、綾小路篤臣を、殺さなければ。

 まぁ、最低でも、政界追放と、あとは、刑務所に入って貰わないと。

 

「……………まぁ、その、オレの答えは、こんな感じだ」

 

 十ヶ月近くは掛かったが。

 その、本当に、待たせてごめんというか。

 

「ま、私は別に良いけどね。正直今とあんまり変わんないっていうか。………あ、でもそっか、名実ともに、二股クソ野郎になっちゃうね」

「…………その、坂柳さんは、どうするの?」

 

 そこに関しては、その。

 せめて、それぐらいは、誠実でないと。

 

「────改めて、断ろうと思う。

 …………心から、申し訳ないとは、思うが」

 

 坂柳にとって、オレを想うことは、大きな原動力にもなっていただろうから。

 まぁ、その、神室と浅野には、殴られても文句は言えないが。

 ………卜部先輩にも、怒られそうだな。

 

「………そっ、か」

「それが、あなたの選択なら、私も、別に構わないわよ」

 

 ───さて。

 つまり、晴れてオレたちは、恋人同士というわけで。

 つまり、もう、我慢とかしなくて良いわけで。

 

「───さて、トリートを頂くとしよう」

 

 幸いにも今日は金曜日。明日明後日と、三日程、たっぷり時間はあるからな。

 心ゆくまで、ご馳走様するとしよう。

 

「………あっはははははは。やっとかぁって気持ちと、あーこれやばいかもって気持ちが、同居してる」

「………そうね。まぁ、散々誘惑した私たちの自業自得よね」

「なら、やめるか………?」

「いや、全然」

「───さぁ、召しあがれ。もう、限界じゃないかしら?」

 

 鈴音の言う通り、もう、色々限界が近い。

 それはそれとして、包装を破り捨ててまでお菓子にがっつくのは、ムードが無いので。

 オレたちは、暗殺(ディープキス)しあいながら、丁寧に丁寧に包装を剥がして。

 

 三日かけて、心ゆくまで、二つのお菓子を堪能した。

 

 

「…………あー、喉痛い、足震えすぎ、ていうか今日絶対立てないよこれ。あ、シャワー浴びないと」

「シーツもちゃんと洗わないとダメね」

「洗濯はオレがやっておく。オレの部屋だしな」

「…………そう言えばさ、こんなのよく売ってたよね」

「まぁ、コンビニなら売ってるわよね」

「…………五箱は、使ったな」

「ていうか初体験三○はヤバくない?」

「公認二股の時点で今更でしょ」

「まぁ、世間一般からは酷く外れている自覚はある」

 

 身支度を終えた鈴音と桔梗を、日が昇る前に、女子寮に送り届けようとしたところ。

 走り込みしようと、靴紐を結んでいる伊吹澪と、遭遇した。

 伊吹は、オレたち三人を見て、硬直した。

 さて、伊吹から見たオレたちを、想像してみよう。

 

 蕩けた顔で、オレに抱きつくように、左腕にしがみついて上気した頬の、鈴音。

 私、凄く幸せです、と言いたげな、力の抜けたふにゃふにゃな笑顔で、右腕にしがみついている、桔梗。

 そして、二人とも、足が、震えている。

 

「…………………お、お盛んなのね」

 

 伊吹澪(思春期女子)には刺激が強すぎるな。刺激が強すぎると鼻血が出るというのは、本当らしい。漫画だけだと思っていた。

 

「…………………その、秘密で、頼む」

「…………………わ、分かった」

「えへへへへへへ、ちょっと恥ずかしいねこれ」

「えぇ。でも、今更でしょう?」

「しょ、将来的に、海外移住でも、するつもりなのかしら?」

「…………………まぁ、選択肢の一つでは、ある」

「ひ、避妊は、したの………?」

「…………………ムッツリめ」

「やーいムッツリ〜」

「ムッツリね。伊吹さん」

「いやこれに関してはアンタらがいやらしいというか………」

 

 うん。オレたちにそんなこと言われたく無いよな。うん。

 桔梗は、足を振るわせながら、伊吹の傍まで歩いていって。

 こっそり、耳打ちした。

 

「───五箱は、使ったよ」

「五、⁉︎えっ、ちょ、そんな、いやだって、ひ、一箱た、確か、えっと、えっと」

「───私らが使ったのは、一箱五個入りだったよ」

「五個入り………⁉︎……え、え、え」

 

 伊吹は、オレと、鈴音と、桔梗を、交互に高速で見て。うわ、漫画でしか見たことないぞ。目がぐるぐる渦巻いている。

 

「………や、やば………」

 

 恐れ慄いていた。赤い雫が、ポタポタと、滴り落ちている。側から見たら殺人現場だな。

 

「────他にも、色々、教えてあげようか………?」

「やめて、出血多量で死ぬ」

 

 割と冗談には見えないんだよな。

 本当に出血多量で死んじゃいそうだ。

 

「う、うわ。うわうわうわうわ」

「今日は走るのを辞めておいた方が良いわよ。そんな状態で走ったら、身体に良くないわ」

「こんな状態になったのは誰の際だと………」

「その、ティッシュ、使うか?」

「良い‼︎は、話さないから安心しなさい‼︎」

 

 逃げるように、伊吹澪は、部屋に戻った。

 

「えへへへへへ。いやー、うん。うん……………やり過ぎたー」

 

 伊吹の反応が良かったから、たっぷりからかったようだが。その、色々と、浮かれ過ぎだな。桔梗。

  

 それはそれとして。

 

「………今日の学校は、どうする?」

「予告通りなら、今日から、特別試験期間なわけだし。説明とかは、直接聞いた方がいいでしょうし」

「私らちゃんと歩ける気がしないからエスコートしてよね?」

「………はい」

 

 二人が女子寮に入るのを確認して。

 速攻で寮に戻って、今日の授業で使う教科書等を準備して、部屋を出て、女子寮の前で、待ち合わせする。

 

 その、矢島だったり、木下だったりの、運動部朝練組は、寮の前で待つオレを、少し不思議そうに見てから、あまり気にせずに、練習に向かっていた。

 

「………ありゃ、おはよう綾小路くん。どうしたの?」

「あぁ、おはよう一之瀬。気にしないでくれ」

「………?」

「あ、帆波ちゃんごめん!ちょっと遅くなった!後おはよう‼︎」

「おはようあかりちゃん!気にしないでいいよ!早速走ろっか」

「………おはよう、茅野」

「おはよう綾小路く………ん?」

 

 一之瀬と茅野をなんとか誤魔化して、待つ。

 二人は、よく分からない、という顔をしながらも、並んでランニングに向かっていった。仲、良いんだな。

 

「おはよう綾小路!」

「小野寺か、おはよう」

「鈴音か櫛田でも待っているのか?」

「…………まぁ、そんなところだ」

 

 小野寺は、そのまま走りに行った。

 …………今気付いたが、これ、坂柳に会ったら、気まずいなんてものじゃないよな。

 

「あれ、綾小路じゃん。どうしたの?」

 

 …………神室か。神室かぁ。

 

「おはよう。まぁ、待ち合わせ中でな」

「…………ふーん」

 

 あー、あー、気まずい。

 本当に気まずい。

 

「…………そう言えばさ、この土日、堀北と櫛田は、どこにいたんだろうね?寮の部屋には、居なかったみたいだけど」

「…………黙秘で」

 

 無言でオレを睨む神室。そうだよな。神室は、怒るよな。

 

「…………有栖は、何で、ダメなわけ」

「…………優先順位の話だ」

「…………そう。あの一年は、そんなに、大切なわけね」

 

 神室は、勢い良く、オレの右頬を叩いた。

 

「有栖じゃ、こんなに痛くできないから」

「………あぁ。ちゃんと、決着はつける」

「あっそ」

 

 神室はとっとと、走りに行った。

 

「友達想いの良い子ですね。神室真澄は」

「………確か、Aクラスの森下か」

「えぇ。初めまして。最低小路清隆」

 

 最低呼ばわりも、甘んじて受け入れるしかないな。

 坂柳をフっておきながら、公然と二股してるんだから。一年Aクラス女子は、特に怒るだろう。

 

「あなたの選択にどうこう言うつもりはありませんし、神室真澄ほど坂柳有栖に友情を抱いているわけでもないので、殴ったりはしませんが。

 ─────個人的には、あなたのことが嫌いですね」

 

 それだけ言って、森下は、部屋に戻った。

 

「………あの、綾小路くん」

「………びっ、くりした」

 

 い、いつから居たんだ。

 

「は、初めまして。一年Aクラスの、山村美樹です。………その、神室さんと森下さんが、すいませんでした」

 

 …………そこから、見てたのか。

 E組にいたら、すごい才能だったんだろうな。

 

「いや、良い。あの二人のリアクションは、何も悪くないからな。…………坂柳は、慕われているんだな」

「し、慕われているというよりかは、可愛がられている感じですね。みんなの妹、みたいな?

 だ、だからこそ、その、何と、言いますか」

「……あぁ。オレの選択が、許せないんだろう」

 

 二人に嫌われる可能性も、他の誰かに嫌われる可能性も、考えていた。

 三人から、一人を選ぶんじゃなくて。

 三人から二人を選ぶなんて、余りにも、最低だったから。

 

「まー、うん。モテると大変だねーって感じ?」

「あっ、西川さん。おはようございます」

「うん。山村さん。おはよう」

「………Aクラスの、生徒か」

「うんうん。そうだよ。西川亮子。よろしくねー副会長さん」

「あぁ。よろしく」

「ま、あんまり気にしなくて良いんじゃない?誰かを好きになるのも、選ばないのも、個人の自由だし。

 嫌うのも怒るのも、個人の自由だけどね」

「………分かっている」

「ん。…………一個だけ質問。

 もし、坂柳さん以外の女子、例えば、一之瀬とかが告白してたら、どうしてた?」

「………、鈴音と桔梗以外は、きっぱり断っていただろう。それが、誰であろうと、変わらない」

「そっ、か。なら、まぁ、良いや」

 

 西川は、それだけ言って、部屋に戻った。山村も、同じように。

 今度は、金髪の、優しい雰囲気の女子生徒が。

 

「初めまして。副会長さん。白石飛鳥です」

「初めまして。Aクラスの生徒か?」

「まぁ、そうですね。…………あなたは、選ばないことを、選んだんですね」

 

 ………なん、だ?

 憎悪、か?

 何故?

 

「一人だけ、勝手に進んでいくんですね。ずるいです」

「……………なぁ、どこかで、会ったことがあるか?」

「さぁ、どうでも良いことじゃないですか?」

 

 白石は、とっとと部屋に戻った。

 戻り際に、怒りの目を、叩きつけながら。

 

「やっばい!朝練遅れる〜〜!お、副会長!おはよう!」

「あぁ。おはよう。えっと」

「あぁ、あたしは三七(みな)!星穹三七(ほしぞらみな)だよ!一年Aクラスの生徒なんだ‼︎」

「…………あぁ。『アリス』の姉役の」

「うんそうそう!それがあたしだよ!」

「星穹って、三年Aクラスの担任の先生の、血縁者なのか?」

「あー、ヨウ先生は、あたしのいた児童養護施設の経営者の旦那さんだよ!だから、血縁関係では無いかな‼︎二年生にも一人と、一年生にももう一人居るんだよ‼︎」

「そう、なのか」

「うん!そうなの!あー、そうだ、副会長白石さん分かる?うちのクラスの生徒で友達なんだけど。こう、金髪で泣きぼくろのあるめっちゃ可愛い子‼︎

 あんなに怒ってるの、初めて見たんだよね。あっ、そうそう。森下さんも、なんか凄い不機嫌だった。あの子たち、あんな顔するんだって感じでさ。森下さんは分かるよね?始業式と体育祭であんなに目立ってたし!

 なんか知らない?」

「…………………オレが原因だろうな」

「えー?なに、二人まとめてフったとか?」

「…………………フったのは、坂柳だ」

「あー、有栖ちゃんフったんだ。あの子小さくて可愛くてイイ性格してるのに。何?他に好きな子いるの?あ、そっか、本命堀北さんだっけ?あれ?櫛田さんって話も聞くけど」

「…………………あー、その、どっちも選んだから、それでって感じだ」

「…………あー、あー、なるほど。有栖ちゃんだけが選ばれなかったって感じ?」

「まぁ、そんな感じだ」

「あっははははは。そりゃ怒るわ。気を付けなよ?有栖ちゃんイイ性格してるから。怒ったら怖いよ?」

「………坂柳の性格が良いとは、言わないんだな」

「ま、そういうところも可愛いけどね!」

 

 弓袋を肩に担ぎながら、袴姿の、元気の良い明るい少女は、ずっと明るいまま、玄関を出ようとして、扉に弓袋をぶつけて、盛大にすっ転んだ。

 

「いったたた」

「だ、大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫!気にしないで!」

 

 少女は、軽やかに走って、外に出て数歩程で、振り返った。

 

「ま、有栖ちゃん泣いたら、あたしらに任せてよ!ちゃんと慰めておくからさ!

 その代わり!堀北さんと櫛田さんを、絶対に泣かせないこと‼︎」

「あぁ。言われるまでも無い」

「なら良し‼︎いや二股は良くないか。まぁ良し‼︎」

 

 凄い喋るな。あの子。

 あんなに落ち着いた演技してたのに。

 

「大人気ですね。副会長さん」

「椎名か」

「おはようございます」

「あぁ。おはよう」

「まぁ、三人に告白されて二股しておきながら、一人は振るとか、普通に最低ですからね。二股の時点で最低ですが。

 これくらいは、甘んじて受け入れてください」

「あぁ。覚悟の上だ」

「……………少しだけ、堀北さんたちが、羨ましいですね」

 

 カルマくんは、私を好きにはならないでしょうし。

 

 そう言い捨てて、椎名は、さっさと学校に向かった。

 

「おはよう。待たせてしまったわね。……………その、神室さん、かしら?」

「あー、まぁ、そんなところだ」

「いつもだったら怒るところだけど、これに関しては、ねぇ」

「分かってるさ。ちゃんと、受け止める」

 

 鈴音は、オレの腫れた頬を見て、すぐにそれに気付いたようだった。

 敵には容赦ない桔梗も、これに関しては、あまり敵視できないようだ。

 

「……………少しだけ仮眠を取ったけれど、まだ全然足に力入らないし、違和感もすごいわね」

「ねぇ。あ、あと首元とかに跡つけ過ぎ!絆創膏とコンシーラーだけじゃ隠し切れないから!」

「その、すまん」

 

 殆ど丸三日は、ハッスルしすぎだな。

 その、二人は、まともに歩けそうに無いので、オレの腕にしがみつくように歩きながら、登校したので。

 まぁ、その、うん。

 教室に、着いたところで。

 

「ま、マジかアイツ!清隆のやつ、やりやがった‼︎あの野郎マジでやりやがった‼︎」

 

 健は机をバンバン叩きながら、称賛と驚愕と畏敬を混ぜて。

 

「う、うわー。引くけど、まぁ。うん。幸せの形は、人それぞれだもんな。うん。

 いややっぱ引くわ」

 

 寛治は、少し、引きながら。

 

「あー、うん。うん。ま、うん。─────取り敢えず、小指詰めさせるか」

 

 春樹は、冷静に狂いながら。

 

「…………………ま、そうなるよな」

 

 坂柳とも交流のある啓誠は、何とも言えない顔で。

 

「あー、まー、慰め会は、必須だね」

「うん。そうだね」

 

 長谷部と佐倉は、坂柳をどう慰めるかを考えていた。

 

「…………ま、責任は、ちゃんと取ってるし。うん。僕が口を出すことでもないしね」

 

 平田は、静観の姿勢で。

 

「うーん。うーん。これもまた愛‼︎きっと、愛‼︎」

 

 軽井沢は、無理やり納得して。

 

「ふむ。まぁ、それもまた、君の選択、か」

 

 高円寺は、静かに納得していた。

 

 

 その日の、放課後。

 

 オレは改めて、坂柳と向かい合っていた。

 

「…………その、すまない。オレは、やっぱり、坂柳とは、付き合えない」

「堀北さんと櫛田さんとは付き合えるのに、ですか?」

「あぁ」

「…………まぁ、分かってましたけどね」

 

 坂柳は、必死に笑みを貼り付けながら、それでも気丈に言い放った。

 

「二股するような最低男は、こっちからお断りです」

「…………あぁ」

「手は貸しますよ。父様に不名誉な罪を被せた綾小路篤臣は、破滅して貰わないと困りますから」

「…………あぁ」

「…………………、さようなら。私の初恋」

 

 最後まで、坂柳は、笑っていた。

 涙は、最後まで見せなかった。

 向かい合ったら、怒ってしまうから、という理由で、神室のかわりに付き人を務める浅野は、オレを心配して、少しだけ怒って、でも、嬉しそうだった。

 

「……………嬉しいとは、思う。

 あの地獄を見た僕たちは、君が、そこから抜け出せていることを、嬉しいとは、思う」

「……………あぁ」

「……………まあ、有栖も、最初からこうなることは、きっと分かっていたからな。

 あまり気に病むな、とは、言っておく」

「……………ありがとう」

「それはそれとして、少し怒るぞ」

「あぁ。それでいい」

「まぁ、その、何だ。…………二人を、泣かせるなよ」

「勿論だ」

 

 覚悟は決めた。答えは出た。

 これで、突き進むと、そう決めた。

 だから、もう、迷わない。




 ま、Aクラス女子からは敵視されるよね。
 もし綾小路くんがどっちか選べてたら話は別ですが、選ばないのを選んだのでこうなりました。
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