殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 改めて卜部藤乃達がやってることを考えると、これPSYCHO-PASSのメンタルトレースじゃんってなりました。
 
 分かりやすく言うと、メソッド演技と推理と傾向分析の合わせ技ですね。


Cクラス対Dクラス

 僕らは席について、ゆっくりと深呼吸する。

 いつも通り、この瞬間から、僕らは剣闘士(グラディエーター)

 さぁ、始まりのゴングが鳴った。

 決闘(テスト)の、幕開けだ。

 

 

 僕らの相手は、Dクラス。

 だからこそ、数学、国語、化学は、特に入念に対策した。

 数学が得意教科のカルマと、国語が得意教科の椎名さん、理科が得意教科の奥田さんが、この三教科を作ってくると予想したから。

 でも、その、これは、流石に。

 

「やりすぎだよカルマ」

 

 眼下の闘技場にいるのは、カルマが作った問スター。

 中間最終問スターのあの機械龍、にはどうしても及ばないけどさ。

 機械の大蛇に大鷲にグリフォンにペガサスに狼にトナカイに熊に。どいつもこいつもデカくて強くて怖い。

 ………どの問スターも、簡単には殺せないくらいに、強い。

 

「むっっっっっず‼︎何この問スターアホじゃ無い⁉︎」

「口よりも手を動かそうぜ?いや、分かるけどさ」

 

 拓人くんが心から叫んだ。いや、うん。叫びたい気持ちもよくわかるよ。

 柴田くんは、同意しつつも諌めていた。

 

「────さて、僕も、やらないとね」

 

 闘技場の観客席の端の方から、クラス全体の様子を把握する。うん。特に問題はなさそうだね。

 全身の力を自然に抜いて、頭から、真っ逆さまに落ちていく。

 ダイナミックエントリーって奴、かな。

 着地と同時に、抱えているアサルトライフルの安全装置を、解除する。

 

「────勝負だ、カルマ」

 

 機械の大蛇が、注射針の牙を突き立てようとして。

 噛みつきを躱しながら、頭部に着地。そのまま大蛇の身体を走り出す。金属製の鱗のお陰で、僕の足音が反響する。ナイフも銃も通らないか。なら。

 ベルト型の爆弾を、大蛇の中心あたりに巻き付ける。

 激しく身体を唸らせてきたから、跳ね飛ばされたけど。

 

「────まずは、一匹」

 

 空中で、起爆スイッチを起動。

 大蛇の身体は、爆発で真っ二つ。で、終わり。

 着地と同時に、ナイフを抜く。機械の狼が飛びかかってきた。牙を躱しながら、狼の足元に滑り込む。

 やっぱり、関節部は弱いね。足の関節部を切り裂く。

 倒れ込む狼の頭部にアサルトライフルを接射。二体目撃破。

 

「…………あと四十八匹もいるのか」

 

 大鷲が羽をナイフのようにして飛ばしてくる。躱しながら、ワイヤーガンを翼に巻き付けて、引き摺り落として、頭部にナイフを突き立てる。

 三体目完了。

 

 突進してくる、角が高周波ブレード見たくなっている機械のトナカイの角を、ナイフで受け止めて、敢えて大きく後ろに飛び退く。

 壁を背にトナカイの突進を待ち受けて、躱し、壁に激突させて動きを止める。首元にナイフを刺し込み、捻って壊す。

 四体目。

 

 五体目、六体目、七体目。

 

 僕より少しだけ早く、八体目を殺した茅野と、背中合わせで銃を構える。

 

「ぶっちゃけさ、この量とこの難易度、全問殺し切るの無理じゃ無い?」

「茅野もそう思う?」

 

 うん。無理だよね。これ。

 綾小路くんとか堀北さんなら行けたと思うけど。

 

「カルマくん本気出しすぎ〜」

「………まぁ、殺せるだけ、殺し切ろう」

 

 渚は、どこまでも真っ直ぐに、ターゲットを見据えて、飛び込んでいった。

 茅野カエデは、潮田渚のその横顔に見惚れていた。

 すぐさま頭を振って正気に戻って、問スターを殺しにかかっていった。

 

「………青春してるなぁ」

「………?一之瀬、なにぼーっとしてんのよ」

「あっははははは。ごめんごめん。殺しにいこっか」

 

 二人の様子を眺めていた一之瀬の感嘆の台詞に、姫乃は軽くツッコミを入れた。

 

 

 一方、Dクラスでは。

 

「…………坂柳さんがやってるらしいテストトレース、()()()()()()()()()()()()()()()()

「まぁ、種さえ分かれば、そこまで難しくはありませんから」

 

 いや、まぁ。

 三年生にはゴロゴロいるから、そう錯覚しちゃうけどさ。

 普通は無理でしょ。

 

「至極簡単に言えば、これは推理の極地のようなものです。相手の心理、傾向、ありとあらゆる全てを予測し、共感して、その思考を追体験する。

 所謂メンタルトレースという奴ですね」

「あー、でもそれって、結構精神に負荷がかかるアレじゃない?」

「えぇ。それもまた、卜部先輩が休息期間を必要とした理由の一つです。過剰なメンタルトレースによる、目に見えない精神の負荷。そこに加えて事件のストレス」

「後はまぁ、単純に寝不足もじゃない?」

 

 生徒会として仕事をする中で、察したことだけど。

 卜部先輩は相当なワーカーホリックだ。必要とあらば、二徹三徹は当たり前だし、浅野くんの話では五徹いったこともあるらしい。まぁ、本人のスペック高いから、そんだけ寝なくても頭回るけど。

 今となっては、九重先輩がしっかり眠らせているらしいし、大丈夫らしい。

 

「成程。メンタルトレースには負荷がかかる。だから風間先輩は、天久先輩を手元に置きたがってた訳ね」

「医者の卵で、カウンセラーとしての勉強も重ねている天久先輩なら、うってつけですからね」

 

 メンタルトレース出来るのが三人もいる三年Aクラスは、多分ローテーションに加えて、橘先輩がケア要員なんだろうな。

 三年Bクラスは、金石先輩と真白先輩の二人体制に加えて、日野先輩と黄乃先輩のケア要員二人体制。

 で、Cクラスの香月先輩のケア要員は、多分蝶乃先輩って訳ね。

 …………つまり、ひよりさんにも相当負荷掛かっているんだよね。これ。

 

「テスト終わったら出席買ってどこか行こっか。山とか」

 

 精神の負荷とか、その手のものの回復には、自然が一番らしいからね。

 背中合わせで銃を撃ちながらそう言った直後、けたたましい金属音がした。

 後ろを振り返ると、ひよりさんが銃を取り落としていた。

 

「…………大丈夫?」

「大丈夫です気にしないでください」

「…………そう?」

「い、一応、一応確認ですが、それって、奥田さんも一緒に行ったりする奴ですよね?」

「あー、二人で行くつもりだったけど?」

 

 ひよりさんの精神回復というか、メンタルトレースのダメージケアが目的な訳だし、できる限り、人と関わらない方向性で行こうと思っていたんだけど。

 またけたたましい金属音がした。

 

「そ、そんなに、俺と二人きり、嫌、かな?」

「いえ、そういう訳では………」

「そっか。なら、良かった」

 

 

 何が良かったんですかカルマくん。

 何でそんなこと言っちゃうんですかバカルマくん。

 分かってますよ分かってるんですよ。あなたが奥田さんを好きなことも、きっと、私を好きになったりはしないだろうことも。

 でも、あなたが、そんなこと言うから。

 馬鹿。馬鹿。馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿‼︎

 これ以上好きになっちゃダメなのに。

 もう!もう‼︎

 

「カルマくんはバカルマくんです。大バカルマくんです!」

「えっ!何、何で急に⁉︎」

「うるさいです!あなたのせいです‼︎」

 

 この感情は、問スターにぶつけて発散します。

 えぇ。私の感情は、一先ず隠し続けます。

 カルマくんの邪魔には、なりたくないので。

 

 

 二教科目、国語。

 

 一年Cクラスでは。

 

「いやぁ、椎名さんやりすぎだよ」

 

 私の視線の元では、百鬼夜行が闘技場を跋扈していた。

 座敷童子、鬼、妖狐、土蜘蛛、大蛙、付喪神。

 ホント、Dクラスのあの三人。カルマくんに奥田さんに椎名さんの作る問スター、ヤバすぎ。

 代わりと言ったらアレだけど、他の問スターは割と楽に殺せるんだよね。

 まぁ、平均順位でうちのクラスに勝てるの、Aクラスぐらいなんだけどさ。

 

「ま、やりますか」

 

 薙刀をぐるぐる振り回して、座敷童子の首を落として、鬼の心臓を貫いて、妖狐を真っ二つにして、土蜘蛛の頭を貫いて、大蛙を解体して、付喪神を叩き壊した。

 

「…………これさぁ、化学が一番ヤバいんだよね?」

 

 帆波ちゃんと競い合うように問スターを殺しながら、この後、最終七時間目に控えるラスボス。

 奥田さんの作る怪物について、軽く話す。

 

「まぁ、奥田さんが作ってるだろうからね」

「うひゃあ。あんま考えたくないなぁ」

 

 そう。正直な話、数学も国語と化学も、真っ正面から殺せるほど、弱い問スターな訳がない。

 この三教科の平均は、多少低くなっても仕方ない。

 だから、代わりに。

 

「日本史、世界史、英語、物理。この四教科、平均八割後半から九割くらいは殺せるように勉強会やってきたし、実際それくらい殺せると思うけどさ」

「まぁ、全体平均だと、七割後半から八割行けば、上出来ってところだよね」

 

 うん。流石にDクラスが、平均でそこを超えてくるとは思えないけど。

 

「うし、私らは平均引き上げるために!」

「出来る限り殺し尽くす!だね!」

 

 薙刀と日本刀の変則二刀流じゃあ!

 往生せいやぁ‼︎

 

 

 一年Dクラスでは。

 

 椎名さんのテストトレースで、一之瀬さんや茅野さん、渚くんに神崎くんが作る問スターは、完全に対策済みです。

 カルマくんが言っていましたが、俗に言う死に覚えと言う奴ですね。ゲーム用語らしいです。

 それが出来るのと出来ないのとでは、初見の問スターへの対策を立てるスピードが段違いらしいですね。

 

「苦手科目のようですが、いつもよりも手際がいいですね。奥田さん」

「椎名さん!はい!椎名さんのお陰です!」

 

 椎名さんのテストトレースは勿論のこと、普段から図書室で三人で一緒に本を読んでいるお陰ですね。たまに理科室で三人で一緒に実験したりもしていますが。

 あ、でも、最近はカルマくんが生徒会活動で忙しいらしくて、あまり一緒に本を読む機会も実験する機会もないんですけど。

 何だか、ちょっと寂しいです。

 

「この調子なら、クラス平均八割後半は硬いですね」

「そうですね。渚くんたちは、椎名さんがテストトレース出来ることを知りませんし」

 

 テストトレースが出来る相手がいるクラスと、誰も出来ないクラスが点数勝負でぶつかれば、当然出来る方が勝ちます。

 平均点は高いですし、生徒の総合力も十分ですが、渚くんが活躍出来ない以上、私たちの勝ちは、基本的に揺るぎませんしね。

 

「…………勉強会を一学期なら開催できていたら、九割後半から百点は行けた筈ですが」

「そこは、仕方ないのでは?纏まるのに、少し時間が掛かってしまいましたし」

 

 唯一内乱が起きていたのは私たちのクラスだけです。

 それさえ無かったら、もっと優位に進められていたでしょうが。

 …………まぁ、アレのおかげで、結束もだいぶ強まりましたからね。

 

「そろそろ最終問スターですね。準備はいいですか、奥田さん?」

「───えぇ。問題ありません」

 

 最終問スター。椎名さんの予想した通り、オオムカデですね。山を七巻はするレベルのようですが。

 

「────この問スターの殺し方、覚えていますか?」

「勿論です」

 

 薙刀も日本刀も捨てて、和弓を構えます。

 弓に、矢を番えて、引き絞り、狙いは、額。

 溜めて、溜めて、溜めて。

 離れ。

 

「────お見事です」

 

 私の放った矢は、見事に急所に中たりました。

 よし、ですね。

 

 

 三時間目、日本史。

 

 一年Cクラス。

 

 今回の七科目で、一番得意なのは、日本史だね。

 渚くんは英語で、あかりちゃんは国語だっけ?ま、二人ともどの教科も高得点なんだけどね。

 暗記は結構得意なんだよ?人の名前とか好みとか話とか覚えるよりも、ずっと楽だからね。

 槍を振り回して、雑兵たちを吹き飛ばしていく。

 今度は騎馬兵だ。

 斬馬刀に持ち替えて、重心の位置を利用して、振り子のように振り抜いて、馬ごとぶった斬る。

 矢の雨が降ってきた。でも丁度いい。

 斬馬刀の幅広の刀身に隠れて、やり過ごす。

 雑兵たちが矢を番直すよりも早く、私は大砲に火をつけた。

 慌て出したみたいだけど、残念ながらもう遅いよ。

 指を銃のハンドサインにして、指先で標準を定めて。

 片目を瞑って、狙いを定める。

 

「────ばーん」

 

 大砲は文字通り、雑兵たちを消し飛ばした。

 爆風で、ピンクブロンドの髪がたなびく。

 

「…………何よばーんって、あざとすぎでしょ」

「ユキちゃん⁉︎」

「ウィンクまでしてるのもう狙ってるよね」

「あかりちゃん⁉︎」

「これで可愛いのタチ悪いわぁ」

「麻子ちゃん⁉︎酷くない⁉︎ねぇ、酷くない⁉︎」

 

 いや、うん。

 少し狙ってたところはあったけど‼︎

 

「で、誰へのアピールなわけ?」

「いや、別に特定の異性は居ないんだけどね?」

 

 ユキちゃんの言うように、私に特定の異性は居ない。

 あかりちゃんとか堀北さんとか櫛田さんとか見てると、作りたくはなるんだけどね。まぁ、いつのまにか出来てるものだし。

 うーん。気になる人、かぁ。

 

(…………渚くんは、ダメだもんねぇ)

 

 あの夕暮れに染まる路地裏で、彼の特異な才能を初めて見て。頼りにしてはいるけど、でもねぇ。

 

「横取りになっちゃうから、ねぇ」

 

 あんま、意識しないようにはしているからね。

 まぁ、かっこいいと言うより可愛い系だし。

 

「さあて、いくらでも掛かってこーい‼︎」

 

 生徒が作る以上、どうしても難易度は落ちるんだよね。

 寧ろ上がってる数学国語が異常なんだよ。

 これよりヤバいらしい化学は、一旦考えないでおこう。

 

 

 一年Dクラスでは。

 

 日本史、結構得意っていうか、好きなんだよなー。

 戦国武将とか、結構ロマンあるじゃん?

 

「よいしょっと」

 

 切り掛かってくる侍たちの懐を走り回りながら、鎧の隙間に刀を突き入れて、殺し回っていく。

 気分はるろ剣。あ、でも殺しちゃってるから、ちょっと違うか。

 

「おー、絶好調じゃん榎中」

「おっす赤羽。そっちも良い感じじゃん」

 

 交差するように走り回りながら、斬り伏せて突き入れて首を落とす。

 ま、ほんとに椎名さんには感謝感激雨霰、だな。

 

「───てゆーか、対策勉強会あんま顔出してなかったけど、今回は何企んでる訳?Dクラスの悪魔さん」

「悪魔さんって何だよそれ」

「いつのまにかお前についてた渾名だよ。寧ろ小宮たちが積極的に広めてるまであるけどな」

「うっし、後でフルコースだわ」

 

 哀れ小宮。墓参りはする。

 

「対策勉強会にあんま顔出せなかったのは悪かったな。ちょっと、色々悪巧み中でね」

「ほーん。今度は、何するつもり?」

 

 まーたパンデミックみたいなのは勘弁してくれよ?

 

「今、先輩たちと交渉中なんだよね」

「あー、森先輩とよく一緒に帰ってると思ったら、そういうことだったわけ」

「そうそう。二年Dクラスっていうか、森先輩個人とちょっと交渉中なのよね」

「ふーん。龍園は知ってる訳?」

「契約が纏ったら話そうかなって」

「あーあ。龍園振り回されてばっかり」

 

 ちょっと同情しちゃうわ。ま、ちょっとだけな。ちょっとだけ。

 おっと、何かデカ目の大男が、なんかデカ目の大太刀振り下ろしてきたな。

 躱しながら、膝上の辺りを切り裂いて、膝をついたところで、袈裟斬りに。

 斃れ伏した大男を尻目に、他の侍たちを睨み付ける。

 

「ま、今はテストに集中って感じで」

「だな。ちゃーんと全部殺せよ?ひよりさんの対策があったんだし、お前なら出来るだろ?」

「はいはい。ま、今回は俺も、全教科満点狙いますから」

 

 侍たちは刀だったり槍だったり弓だったりを構えてくる。

 二本目の刀も抜刀。二刀流、憧れてたんだよなぁ。

 背中合わせで、赤羽も、二本目抜刀したのが分かる。

 

「さて」

「片付けよっか」

 

 俺たちは同時に、勢いよく踏み込んで。

 飛び出した。

 

 

 四時間目。英語。

 

 英語はなぁ。どうしても苦手なんだよな。

 いやまぁ、そもそも勉強あまり得意じゃないんだけどな。それで三七のやつに死ぬほど煽られてたけど。

 てゆーかあいつ、二ヶ月早く入っただけのくせに、姉面しすぎなんだよ。ちょっとウザいわ。

 

 ハルバードを振り回して、ケンタウロスを思いっきり吹き飛ばす。

 セイレーンを叩き落として、狼男の首を落とす。骸骨男も吹き飛ばす。

 

「いい具合に、英語に慣れてきてるね、拓人くん」

「お、渚!いやぁ、マジで渚のお陰だわ!色々付き合ってくれてありがとう!」

 

 ほんと、渚が同じクラスでよかったわ。

 話しやすいし成績良いし教えるの上手いし。

 将来的に教師目指してるらしいけど、絶対向いてる。てゆうか、俺渚の生徒になりたかったぐらいだわ。

 

「はいはい。調子よすぎだよ拓人くん」

「しゃぁねぇ。このクラス、マジで楽しいからさ‼︎」

 

 いやぁ、施設出だと、小中とちょっとめんどくさかったからな。

 でも、このクラス、全然めんどくさくないの、マジで最高。

 

「…………そっか。良かった」

「おう‼︎」

「おーい拓人!勝負しようぜ勝負!どっちがより高得点取れるかってさ‼︎」

「良いぜ!やろう颯!」

「はいはい。二人ともはしゃぎ過ぎない」

「全く。テストなんだが?」

 

 神崎も渚も、少し真面目すぎだって。

 肩の力、抜いてこーぜ!

 

 俺たち四人は背中合わせで円陣を組んで、それぞれの問スターを殺すべく、武器を構えた。

 

 

 

 一年Dクラス。

 

 英語、かぁ。

 ほんっと、椎名さまさまって感じだね。

 ハルバードで、何とかフランケンシュタインの怪物の腕を落とす。切り落とした腕を踏み台に勢いよく跳び上がりながら身体を捻りつつ、遠心力を乗せて首を落とす。

 今度はヴァンパイア。蝙蝠になって攻撃を躱しやがる。こういう時は聖水だっけ。ビンのコルクを噛んで外して、勢いよくビンを振り回して聖水を撒き散らして、蝙蝠どもを一息に殺し切る。

 慌てて集まって元に戻ったけど、もう遅いよ。

 頭をかち割って、満点解答。

 潮田、英語が得意科目だって奥田が言ってたけど、相当強いな、この問スターたち。

 椎名のテストトレース無かったら、私もっと苦戦してたかも。六割取れたか?

 

「おや。伊吹さん、少し苦戦しているようですね?」

「まぁ、私英語苦手だし」

「ふっふっふっ。私の苦労を水の泡にしないよう、たくさん頑張ってくださいね。伊吹王子?」

「王子言うな」

 

 あの日からどいつもこいつも伊吹王子伊吹王子伊吹王子。

 ほんっと、腹立つ‼︎

 腹立たしげに振り抜いたハルバードは、ゾンビの頭をぶち抜いた。

 

「…………ちっ」

「今私狙ってませんでした?」

「気のせいよ」

 

 えぇ。アンタの後ろにいるゾンビを、最初から狙ってただけだもの。

 

「ま、椎名姫の王子様は、私よりも適役いるし、ねぇ?」

「はいはい。そうですね」

「ちっ、少しは動揺しろよな可愛げのない」

「あなただからですよ?」

「アンタのそう言うとこ、ちょっとウザい」

「はいはい。わかりました」

 

 ………ホント、気に食わないけど、頼りにはしてる。

 ………あの馬鹿ロン毛が王になるとか言ってた時は、とんだクラスになったもんだなって思ってたけど。

 今となっては、まぁ、悪くないんじゃない?

 

「八割から九割は、取ってくださいね?」

 

 ま、コイツのおかげで、たくさん死に覚え出来たし。

 それぐらいは、取らないとね。

 

「はっ、舐めんな。百点取ってやるよ」

「それは頼もしい」

 

 ハルバードで棒高跳びの応用だ。

 二、三メートルは跳び上がって振り回しながら、全体重をかけて振り下ろす。

 デカい狼男は、頭から真っ二つになった。

 

 

 五時間目、世界史。

 

 西洋剣で、メイスを振り回す騎士の鎧の隙間に差し込んで片腕を斬り飛ばす。

 そのまま騎士の首を落とす。

 今度は、盾を構えて突進してくる騎士だな。盾を足場に勢いよく跳び上がり、落下しながら騎士の顔面に突き立てる。

 

「流石だね。神崎くん」

「一之瀬か」

 

 暗記系科目は、俺と一之瀬の得意科目だ。

 自己採点では、日本史は満点に近い。一之瀬ならば、恐らくは満点を取ってくるだろう。

 ………だが、些か、嫌な予感がする。

 

「なんか、不安そうな顔だね?」

「あぁ。Dクラスは、何でもありだからな」

 

 スパイだったりを使って問スターを盗み出している可能性も、否定は出来ん。

 スパイを作れるだけの資金は、持っているからな。

 騎士の首を飛ばしながら、不安点を一之瀬に話す。

 

「あぁ。でも、渚くんの目を盗んで裏切るのは、結構難しいと思うよ?」

「まぁ、それはそうなんだがな」

 

 休み時間でチラッとDクラスの教室を覗いたんだが、些か余裕すぎる気がしたんだ。

 俺たちの作った問スターは、相当な難易度のはずなんだがな。

 

「………なるほどねぇ」

「俺の所感だ。確証はないぞ?」

「うーん。でも、渚くんが言うには、神崎くんの観察力は、学年でもトップなんじゃないかって話だし」

 

 ………何と言うか、一之瀬は、渚のことをよく話すんだよな。

 ………………………もしや、取り合いになったりしないよな?

 辞めてくれ。恋愛関係でクラスリーダーが分裂とか、流石に勘弁してくれ。

 あぁ、いや待て。もしそうなりそうになったなら、渚には頑張って二股して貰えば。

 ほら、綾小路は二股してるし。渚もして良いだろう?

 いやまぁ、渚は、二股とかしなさそうだが。

 

 ………拓人たちのこと言えんな。テストに集中せねば。

 三人纏めて斬り伏せながら、恋愛関係は、一旦目を逸らした。

 

 

 

 一年Dクラスでは。

 

 勉強できない訳じゃないが、流石に勉強会で教える側に回るってのは、気まずかったな。

 ま、教える相手が小宮達で良かったわ。いつものノリで教えられたし。

 てゆーか、わざわざ鎧の隙間に刃を通すより、殴り倒した方が早いわ。ナックルガードあるし。

 兜ごと殴り潰す。

 

「………なぁ龍園。剣って、そう使うものじゃないよ?」

「あぁ?道具をどう使おうが俺の勝手だろ」

 

 赤羽のヤツなんか引いてやがるが、俺からしたら、お前も似たようなもんだからな?

 ま、椎名のやつのおかげで、このペーパーシャッフルは、勝ち確定だからな。気分はかなり楽だぜ。

 

「お、こいつ良い武器持ってんじゃねぇか」

 

 剣を捨てて、死んだ騎士のメイスを奪う。

 軽く素振りして、握り心地を確かめる。おう。完璧だわ。

 

「………多分、こういう殺し方を想定されてる問スターじゃないんだけど?」

「模範解答とか知るか」

「ま、点数取れるならどうでも良いか」

 

 ていうかチラッと聴こえたが、二人きりで山行こうとしてるのこいつマジかよ。

 お前さぁ、マジで責任取れよ?多分椎名、お前から離れられねぇんじゃねぇの。まぁ、奥田も似たようなもんか。

 綾小路みたく、二股すれば良いのに。

 恋愛関係でギスギスになるよりは、多分マシだし。

 騎士の首をホームランする。

 吹っ飛んでいく頭を見ると、少し悩みも薄れていった。

 ま、ストレス発散も兼ねて、殴り殺すか。

 

 

 六時間目。物理。

 

 一年Cクラス。

 

 物理、正直嫌いだわ。

 拓人に前そう言ったら、力強く分かるって同意してくれた。だよな、物理めんどいよな。

 その後、拓人と物理への愚痴で盛り上がり過ぎたので、仲良く渚先生に怒られた。

 渚って、怒るとなんか怖いんよな。

 ゴブリンを思いっきり蹴り飛ばしながら、怒った渚の顔を思い出す。

 薄らと笑ってるのがより怖いんだよな。渚。

 なんか、こう、殺気みたいなのが感じ取れちまうっていうか、なんていうか。

 

「やっぱ苦戦中だよな。颯」

「そっちもか?」

「おう!」

「良い返事すんなよ」

 

 ホント、話してて楽しいやつなんだよな。拓人。

 ま、居心地は良いんだよな。このクラス。つっても、今年はどのクラスもそんな感じらしいし。

 そうじゃなかったら、全クラスから生徒会役員選ぶとか出来ないか。

 

「今んとこどんな感じ?自己採点だと、五百点中四百はいってる計算なんだけど」

「俺も似たような感じだわ。ここである程度殺しとけば、Dにも勝てるだろう」

「いやぁ、まだラスボス化学さん残ってるぞ?」

「奥田が作ってるっていうアレ?そんな奥田やばいのか?」

「渚と雪村がそう言ってるんだし、ヤバいだろ、絶対」

「てなると、物理で頑張って点数稼がないとな」

 

 ………まぁ、本当だったら光線銃で撃ち抜いていく感じなんだけど。

 俺らの場合、殴ったりもして、何とか全問、殺しきらねぇとな。

 

「行くぞ。拓人」

「オッケ」

 

 そこらにあった鉄パイプを二人揃って振り上げて、勢いよく襲いかかった。

 

 

 一年Dクラス。

 

 アンドロイドの急所を、的確に光線銃で撃ち抜いていく。

 部活禁止期間だけでここまで仕上げるのはキツかったけど、椎名の対策問題のおかげで、殺し方はよく分かっている。

 それに、普段から自主勉強重ねてきたし、ね?

 うちの部長、その辺りもちゃんとしてるの、マジで尊敬するわ。

 

「でもさ麻里子。部長一年次ヤバかったらしいよ?」

「えっ、マジ?」

 

 飛騨部長、完璧超人のイメージだったんだけど。

 サイボーグ犬の額を撃ち抜きながら、美野里と会話する。

 

「うん。なんか、成績やば過ぎて、橘先輩に泣きついたんだって」

「それ誰情報?」

「猫実先輩」

「あー、じゃあマジか」

 

 猫実先輩は成績もずっと良いんだよね。

 でもそっか、飛騨先輩、そんなところもあったんだ。

 なんか、親近感湧くわぁ。

 

「それにしても、椎名様は流石ね。テストトレースなんて出来るの、本当に凄いわ」

「はいはい。ていうか風間先輩言ってたじゃん。盲信するな、信仰するなって」

「分かってるよ。忠誠は誓ってるけど、ちゃんと言うべき時は言ってるからね?」

「なら良し。いや、あんま良くないけど、良し」

 

 …………はぁ。マジで、さぁ。

 裏切ろうと、ていうか実際裏切った美野里が悪いのは、百も承知なんだけどさぁ。

 赤羽は、さぁ。マジでさぁ。

 EMPグレネードを投げ込んで、サイボーグ達を一網打尽にしながら、椎名を信仰対象にしていなかった頃の美野里を、思い出していた。

 あぁ。美野里が、どんどん遠くへ行く………。

 

 

 

 そして、七時間目。化学。

 

「やり過ぎ。本当に、やり過ぎ」

「だよね!渚もそう思うよね!」

「うっひゃあ。これ、中間のあの最終問スターと同じくらいやばくない?」

「これで一応範囲通りなんだろう?」

 

 僕らの眼下にいるのは、ジェル状の肉体のなんか、形容し難い何か。

 強いていうなら、小惑星に触手が生えたような、そんな、超弩級の問スター。

 …………これさぁ、どう考えても大学レベルなんだけど?

 

「最悪ここは捨てで良いかなって思ってたけどさ、もし、あかりちゃんの言う通りなら、ここで点取らないとヤバいよね?」

 

 一之瀬さんの言う通り、茅野が気付いた通りなら、ここで可能な限り点を取らないと、不味い。

 

「うん。完全に、見落としてたよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ───そう。卜部先輩と仲が良い茅野は、彼女のメンタルトレースと、それを応用したテストトレースの可能性に行き着いた訳だけど。

 

「ごめん。気付くの遅すぎた」

「いや、あかりちゃんのせいじゃないよ」

 

 Dクラスの不気味なまでの落ち着きようも、全部これで説明がつく。

 ………この可能性に行き着くのが遅れた時点で、この試験、僕らに勝ち目は無かったね。

 

「………私か渚なら、出来るかな、これ」

「共感性は多分十分足りてるけど、知識がどうしても追いつかないよ」

 

 そう。僕と茅野は、ある程度はメンタルトレース出来るだろうけど、そこから先、つまり相手の理解度すらも完全に理解してのテストトレースは、どうしても出来ない。

 多分椎名さんも、文系科目なら完全にトレース出来ると思うけど、理系科目は、少しキツイんじゃないかな?

 まぁ、カルマと奥田さんの補助が入れば、ほぼ完全にトレース出来るんだろうけど。

 

「だよねぇ。ウチのクラスで、これ出来る人居るかなぁ?」

「僕と茅野だけじゃ出来ないから、今度からは、僕たちで傾向と好みを分析して、知識はみんなで話し合って埋める感じで行こう。そうすれば、擬似的なテストトレースが出来るはず」

「つまり、これ以降の定期テストは、平均百から九十後半を安定して取れるはず、ということか」

 

 まぁ、先のことは、今は置いておくとして。

 

「───可能な限り、殺そうか。この問スター」

 

 一之瀬さんの言う通り。

 まだ二年、いや、もう、残り二年だけど。

 それでも、十分に巻き返せる。

 

「よし!最後まで、全力で行こう!」

 

 茅野の号令と共に、僕たちは、ラスボスの問スターに挑んで行った。

 

 

 一年Dクラス。

 

「ぶっちゃけ、もう勝ちは確定だし、俺らのCクラス返り咲きも、確定じゃない?」

「ま、だな」

 

 龍園と二人、ジェル状の肉体の問スター達を見下ろしながら、今後について軽く話す。

 

「榎中が言ってたが、お前、『エンドのEクラス』に何するつもりだ?」

「安心しなよ。利敵行為になるようなことはしない」

「はっ、そうかよ。二千万もクラスの貯金から引っ張り出しやがって。お前金庫番だろうが」

「未来への投資だよ。安心しな。二年生の先輩が卒業する頃には、倍以上は入ってくるからさ」

 

 ま、ワンチャン億超えるかもね。

 

「億超え、ねぇ。なぁ、マジで堀北は何したんだよ?」

「…………ま、始業式を楽しみにしてなよ。特に、浅野くんのリアクションを、ね」

 

 あの人が教師として赴任してくるってなったら、腰抜かすだろうし。

 

「ま、今は、あの問スター殺しとこうよ」

「はっ、これで始業式つまらなかったら、ぶん殴ってやる」

「ふーん?面白かったら?」

「素直に謝るわ」

 

 言いながら、龍園は問スター達に襲いかかった。

 さて、言質は取ったし、龍園の謝罪、ちゃんと録音しとかないとね。

 全身の力を抜いて、観客席から闘技場に落下する。

 ダイナミックエントリーってね。

 

「────今回は、俺らの勝ちだね。渚」

 

 

 

 

 ペーパーシャッフル。

 一年Cクラス対一年Dクラス。結果。

 勝者、一年Dクラス。

 100クラスポイントの追加により、1099クラスポイント。

 敗者、一年Cクラス。

 100クラスポイントの減点により、1083クラスポイント。

 

 来学期より、一年Dクラスは、一年Cクラスへ昇格とする。




 こう、卜部藤乃の時間二時間目で出てきた卜部を責める色んな人たちは、メンタルトレースの暴走で、それまで分析してきた色んな人たちが出てきた感じです。
 事件のストレスは勿論ありますが、メンタルトレースのやり過ぎによる精神負荷と、クラス運営に加えての南雲先輩の妨害の対処に加えてのテスト作成で、睡眠時間がゴリゴリ削れていたのも理由の一つです。
 他の三年生達は、メンタルトレースの負荷も考慮に入れてるので、それ対策のメンバーも当然います。
 一年Aクラスは、坂柳さんと仲の良い女子六人衆が。一年Bクラスは、綾小路くんの恋人二人が。今回昇格した一年Cクラスは、カルマくんと奥田さんが。一年Dクラスは、一之瀬さんが。
 それぞれがケア要員を務める感じですね。
 一年生で他に出来るようになる可能性があるのは、浅野くん、櫛田さん、カルマくんですね。もう少し経験を積めば出来るようにはなります。
 二年生は、各クラスに一人ずつ追加するつもりです。
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