殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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クリスマスの時間 四時間目

 今までにないくらい緊張しながら、両手を擦り合わせて、シュウを待つ。十五分前は早過ぎたな。うん。

 ……………いつから、好きになっちゃったのか、なんて、考えなくても分かる。

 あの日、シュウと一晩ゲームしたあの日。

 あの日に、私はシュウに落とされた。殺された。

 ……………真澄には、本当に、申し訳なかったんだけど。

 

『許すとか許さないとかそういう話じゃないことは分かっていますが、九十九先輩なら、まだ許せます。

 それはそれとして、私は堀北達見たく二股許すとかは出来ません。

 ………なので、恨みっこは、なしでいきましょう』

 

 ………そうだね。恨みっこはなしだ。

 この恋愛(ゲーム)、勝つのは私だよ!

 

「───お待たせしました。九十九先輩」

「うぅん。別に、そんなに待ってないよ」

「嘘ですね。指も耳も赤過ぎます。すいません。僕も、もっと早く来るべきでした」

「………ま、そうだよ。でも、シュウが謝る必要なんて、ない」

 

 ………わ、わ、私、が、シュウと、その、デートするって、なって、う、嬉しくて、舞い上がってた、だけ、だから。

 

 ど、どうだ‼︎

 なずな直伝『ど直球火の玉ストレート攻撃‼︎』

 ※南雲にはうまく使えなかった。

 

「…………そ、そう、ですか」

 

 て、照れてる!効いてる!効いてるよなずな‼︎ありがとう‼︎

 私もめっちゃダメージ受けてるけど‼︎

 

 よ、よーし………‼︎

 

「で、でも、その、さ。

 もし、その、シュウが、申し訳ないって、思ってる、ならさ」

 

 手、繋いでよ。

 指、あっためて、くれる?

 

 ど、どうだ……?

 鬼龍院直伝『謝罪を逆手に手を繋ごう作戦』

 ※桐山は普通にカイロ渡して来て終わった。

 

「────全く。しょうがないですね」

「…………ひゃぁっ」

 

 に、握って来た……!

 ギュッて、ギュッて………!

 ゆ、ゆ、指、絡めて来て…………!

 

「…………先輩の、手。

 小さくて、柔らかくて、可愛らしい、ですね」

 

 シュウは、親指で、撫でてくる。

 親指で、私の、指を、撫でながら。

 上記のセリフを、話して来ました。

 はい。もう無理です。心臓が持ちません。

 

 顔、見せられない…………。

 シュウの顔、見れない………。

 

 

 物陰に潜む、橋本正義、吉田健太、葛城康平は、浅野の修行の成果を、確認していた。

 

「流石だぜ浅野。完璧な女たらしだ。もう俺が教えることはねぇな」

「神室に殺されても知らんよ?」

「安心しろ。初詣は二人きりらしいぞ?」

「うぅむ。まぁ、同時デートとかしていないし、まだ付き合っているわけでもないからな」

 

 流石に告白はまだされていないが、最近神室は浅野の分のお弁当を作ってくるようになったし、九十九は浅野が完全下校時間に帰るのを律儀に毎回待ってから一緒に帰っているしで、さすがの浅野も気付いたらしい。

 ううむ。

 綾小路から、その、先達としてのアドバイスを貰うべきところだが、あれは参考にならんからな。

 

「百戦錬磨のチャラ男たるこの俺の、女を口説き落とすテクニック……!

 浅野の顔でやれば、威力は単純計算で八倍………!

 このまま二人纏めて落としてくれても良いんだぜ浅野………!」

「お前本当性格悪いよな」

 

 吉田健太の直球の罵倒を、しかし橋本には大して効いていなかった。

 

 

 

 や、ヤバい………!

 なんか、今日のシュウヤバい………!

 

「イルミネーション、のんびりゆっくり、見てまわりましょう」

「う、うん。そうだね」

 

 凄く丁寧なエスコート………!

 歩幅、完璧に合わせてくれてる。

 な、何⁉︎いつものノンデリはどこいったのさ⁉︎

 

「ねぇ、先輩。今日の服、凄く可愛いですね。髪型も、先輩らしくて、綺麗です」

 

 服は藤乃が。

 髪型は稔が。

 みんながたくさん、考えて。

 この、クリスマスに相応しい、最高に可愛い私を、作ってくれて。

 シュウが、そう、褒めてきてくれて。

 

 私は、もう、今日だけで何度殺された(好きになった)か分からない。

 

「あ、ありがとう。

 シュ、シュウも、その、カッコいいよ?」

「────ありがとうございます。先輩」

 

 私は綺麗なイルミネーションよりも。

 ずっと、シュウを眺めていた。

 …………これってさ、性別逆じゃない?

 まぁ、いいかな。

 

「…………楽しいですか?先輩」

「うん!楽しくて、嬉しい……!」

「────それなら、良かったです」

 

 ─────────あぁ。もう、ずるいよ。シュウ。

 私が楽しいことを、心から嬉しいって、そんな顔、してくれちゃってさ。

 もう、もう、さ。

 私もう、シュウ以外見れなくなっちゃうよ………。

 

「…………」 

 

 ────今、好きっていったら、どうなっちゃうんだろう。

 付き合って、くれるのかな。

 それとも、一旦、保留になっちゃう、のかな。

 それとも、断られちゃう、のかな。

 ねぇ、シュウ。

 シュウの中で、私と真澄、どっちの方が、大切なの?

 

「先輩?」

 

 好き。

 好きって、言いたい。

 言いたいのに、言えない。

 

「私、は───」

「…………はい」

 

 心臓が、爆発してる。

 色んな感情が、私の中で暴れてる。

 口から、言葉が、飛び出そうになって。

 

「…………綺麗だね。シュウ」

「────はい。そうですね」

 

 うぁぁぁぁあああぁぁ。

 意気地なし!意気地なし!意気地なし!

 何だよ『私は、綺麗だね。シュウ』って!

 ナルシストかっ‼︎

 

 ツーショット撮ったり、ちょっとオシャレなレストランでご飯食べたり。

 楽しかった。本当に、楽しかったよ。シュウ。

 

「───先輩。今日は、ありがとうございました」

「うん。私も、今日はありがとう。シュウ」

「これ、プレゼントです」

 

 シュウが、カバンから取り出したのは。

 最新型の、ゲームコントローラー。

 色気がないプレゼントだって、みんなは言うんだろう。※橋本は流石にセンスが無さすぎると罵倒していた。

 でもね、私にとっては、本当に嬉しいんだ。

 シュウは、私のことを、ちゃんと考えてくれたから。

 私が喜ぶプレゼントを、用意してくれたから。

 だから、私も。

 

「ありがとう。───これ、私からのプレゼント」

 

 シュウは何が好きなのか。

 シュウは何が嬉しいのか。

 たくさん、来る日も来る日も考えて。

 そうして、イヴの日に、ようやく買えた。

 

「これは?」

「その、校則に違反しない範囲での、アクセサリー、です」

 

 ぶっちゃけ何買えば良いのか分かんない。なんだよ趣味・特技『人の上に立つこと』って。

 だから、たくさん考えて考えて考えすぎて知恵熱出して。

 最終的に、アクセサリー………指輪に落ち着きました。

 ……………王冠の飾りがついた、指輪。

 人の上に立つ人、だから、その、王冠、です。

 

「…………その、どう、かな?」

 

 シュウは、無言で指輪を箱から取り出して。

 自分の、右手の人差し指に、嵌めた。

 照明に指輪を翳しながら、シュウは、嬉しそうに笑った。

 

「────ありがとうございます。先輩」

 

 そうして。

 寮の前で、私は、シュウと別れることになって。

 見送る時も、凄く、丁寧で優しくてカッコよくって。

 ……………お別れか。いやまぁ、今際の別れでも何でもないんだけど。

 なんか、寂しいよ………。

 

「────シュウ!」

「どうかしましたか、せんぱ───」

 

 飛び出で、少しだけ、背伸びして。

 私は、シュウの頬に、唇を、押しつけた。

 

「…………せん、ぱ───」

「こ、こ、こここ、言葉で、言え、なかった、から」

 

 こ、これが、私の、気持ちだよ。

 

 藤乃直伝『告白できないならキスしなさい作戦』

 ※殆ど冗談のつもりだった。

 

「い、いいいいいい一旦答えとか良いからっ‼︎」

 

 私は逃げ帰るように、女子寮に飛び込んで。

 エレベーターに乗り込んで。唸りながら、太ももを擦り合わせたり、して。

 部屋に戻って、ベッドに飛び込んで。

 毛布に潜って、唸りながら。

 両足をばたつかせて、顔を隠して、ぐるぐる回っていた。

 

「─────ぁああぁああああああああ‼︎」

 

 隣の部屋の卜部は、上手く行ったことを察して。

 微笑ましげに笑っていた。

 

 

 

「ほら!洋介くん!」

「ちょ、はしゃぎすぎだよ。雪降ってるし、危ないって」

「じゃ、じゃあ、転びそうになったら受け止めてよねっ‼︎責任重大だよっ‼︎」

 

 うぅ。ちょっとあざと過ぎない?

 い、いやでも、桔梗ちゃんは、こうした方がいいって言ってたし!

 

『良い?平田くんは間違いなく強敵だよ。清隆とは別ベクトルで理性が強すぎるからね』

 

 それは本当にそう。

 普通に自慢だけど、あたし結構可愛い顔してるし、スタイルも結構良い自覚はある。

 ……………まぁ、うん。高校デビュー死ぬほど頑張ったし。

 虐められないように、強気で、明るくて、でも可愛い感じで。

 そう。曲がりなりにもあたし可愛いんだ。そんな可愛いあたしが、秘密を明かして、お互いに利害を一致させて付き合っている。

 だから、その、実は洋介くんは、やろうとすれば、あたしを好きなように使えたりする。あたしの弱味握ってるわけだしね。

 いやまぁ、そんな扱いしてくるような人だったら、普通に無理だったんだけどね。

 ……………今思い返すと、冷静じゃなかったなぁ。あたし。

 ま、まぁ、そのお陰で、洋介くんの奪い合いで、大分リードを取れたのは間違いないんだけどね‼︎ぶっちゃけアドバンテージ無しでみーちゃんとやり合うとか負ける気しかしない‼︎

 小柄で庇護欲をそそる可愛らしさで頭も良くて料理上手とか、みーちゃんちょっと強すぎだって‼︎

 うちのクラス、というかこの学校そんなのばっかだけど‼︎

 特に金織先輩強すぎるって‼︎あの人と同学年で好きな人の取り合いとかになったら絶対無理‼︎試合終了‼︎初回サヨナラコールド負けです‼︎

 

『良い?平田くんの理性は、大分硬い。だからこそ、一瞬の躊躇いも見せちゃダメだよ?

 あざと過ぎるくらいに可愛く攻め立てるの。めちゃくちゃ恥ずかしいだろうけど躊躇っちゃダメだからね?

 それはそれとして、寄り掛かり過ぎてもダメだからね。片方が一方的に依存している恋愛関係は、基本的に上手くいかないから』

『……………分からなくはないけどさ。

 綾小路くんと桔梗ちゃん達の関係って、割と共依存じみてない?』

『あー、まー、そうとも言える、かなぁ?』

 

 なんかもうさ、綾小路くんは堀北さんと桔梗ちゃんなしじゃあもう生きていけないんじゃない?ってぐらいゾッコンだし、逆もまた然り、何だよね。

 なんかもう、お互いにゲキオモ感情の殴り合いだよね。ノーガードで絶対ノックアウトさせてやるって感じ。

 

『……………言っとくけど、あたし桔梗ちゃん達みたいなノーガード戦法無理だよ?恥ずいし』

『んまぁ、うん。だよねぇ』

 

 それはそれとして、今あたしやってるの、それに限りなく近いかもしれない。

 

「思ったよりも寒いねぇ。手袋持ってきたら良かったよ」

「そうだね。カイロあるよ?使う?」

「ブー‼︎彼氏ポイント減点ですっ‼︎」

 

 両手でバッテンを作ってそんなことを述べているどこからどう見てもあざと過ぎな女子高生がいました。あたしです。

 何だよブーって。

 あざと過ぎだよ。

 普通に死ぬほど恥ずい。無理。

 

「良いですか洋介くん。今回の模範解答は、『そうだね。手繋ごっか』です‼︎」

 

 左手を差し出しながらそんなことを述べるあまりにもあざと過ぎな女子高生がいました。はい。あたしです。

 もし、他の人が同じことやってるのを見たら、ドン引きしてるでしょう。

 

「はいはい。手、繋ごっか」

「…………ん、合格、です」

 

 でも手を繋げたから全部よし‼︎

 

『良い恵ちゃん。手を繋げたら、ここからもっと攻めていくんだよ。これはスタートラインだからね。

 まずは指を絡めよっか』

『桔梗ちゃん先生っ‼︎それはあまりにもえっちなのでは⁉︎』

『?そこから指で手の甲だったり指だったり撫でるよ?』

『えっちです‼︎えっちです‼︎‼︎えっちです‼︎‼︎‼︎』

『女は度胸だよ。恵ちゃん』

 

 お、お、お、お、女は度胸ぉぉぉぉ‼︎

 

「ちょっ、その、軽井沢、さん………」

「こ、恋人同士だし、こんなの、普通、でしょ?」

「そ、うだね」

 

 や、指を、か、絡めて。絡めてぇ………‼︎

 な、撫で、撫で、撫で撫で撫で撫で撫で………‼︎

 ─────撫でるのは無理ぃ‼︎

 脳裏で桔梗ちゃんが『まぁそこまで行ったならよし』って一応の合格点をくれました。

 よし!

 

「……………凄く、明るくなったよね。軽井沢さん」

「……………うん。みんなのお陰だよ」

 

 

 あの日のことを思い出す。

 麻耶と千秋とさつきと桔梗ちゃん。

 洋介くんに守ってもらうために、付き合い始めたばかりの頃。五人で遊びに行った時。

 

『いやぁ、まさか恵ちゃんが平田くん捕まえるとはねぇ』

『なぁにその顔は?良い、千秋。あたしは可愛いの。あたしの手に掛かれば、平田くんでもイチコロよ』

 

 …………本当は、利害が一致しただけなんだけどね。

 まぁ、でも、あんなにイケメンな彼氏を捕まえたってだけで、あたしの安心感は、結構強まった。

 

『それで言うと、桔梗ちゃんでも落とし切れていない綾小路くんヤバくない?』

 

 麻耶の言うことも分からなくはないんだけど、いやでもあれ実質もう落ちてるようなものじゃん。

 多分どっちか振るとか無理そう。

 

『並の男子だったら性欲に負けて付き合ってるよね。桔梗ちゃん胸でかいし。堀北さん綺麗な脚してるし』

『ねぇさつき。ちょっと、その、あまりにも直球すぎて、ちょっと恥ずいって言うか、気まずいって言うか』

『それ桔梗ちゃんが言う?』

 

 それは本当にそう。

 

 あぁ。ほんと、あたし変わってる。変われてる。

 ちゃんと一軍女子やれてる。

 誰かに虐められるんじゃない。誰かを虐める側に回れてる。

 ………………まぁ、多分実際そう言うことすると、堀北さんと桔梗ちゃんに、めちゃくちゃ絞られるだろうケド。

 プールの時の桔梗ちゃん凄かったし。怖かったし。

 あぁ、堀北さんも怖かったな。うん。

 

 …………………中学の時に二人がいたら、何か変わってたのかな。

 

『─────恵ちゃん‼︎』

『─────え?』

 

 その日ね、校舎の壁の補修工事中だったの。

 それで、仕上げのペンキ塗りの最中でね。

 ペンキが入ってるバケツが、あたしの頭上に落ちてきた。

 咄嗟にあたしを守ろうとして、でも間に合わなくて。

 あたしと桔梗ちゃんは頭から、ペンキを被って。

 

『うわ、ちょっ、桔梗ちゃん達大丈夫⁉︎』

『すいません‼︎本当にすいません‼︎』

『あー、まぁ、制服分弁償してくれたらそれで』

『もっと文句言って良いし気にしていいと思うけど?』

『私は大丈夫だよ、さつき。恵ちゃん、大丈夫?』

 

 ─────色んなものが、蘇ってくる。

 辛い。苦しい。痛い。恥ずかしい。─────死にたい。

 身体が震える。勝手に、口が動く。

 古傷が、疼く。

 

『ご──ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい──』

 

 ごめんなさい。ごめんなさい。根暗でごめんなさい。

 ごめんなさい。ごめんなさい。気持ち悪くてごめんなさい。

 ごめんなさい。ごめんなさい。不細工でごめんなさい。

 ごめんなさい。ごめんなさい。生きててごめんなさい。

 

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめ────。

 

 首筋に、柔らかくて、暖かい感触が、走って。

 何だか凄く、楽になった(殺された)

 

『──────大丈夫。大丈夫だよ。恵ちゃん』

 

 ねぇ。桔梗ちゃん。

 ありがとうね。

 

 桔梗ちゃんの部屋で、シャワーを借りて。

 みんなは、あたしを気遣って。

 何だか、ちょっと、居心地が悪くて。辛くて。そんな時に。

 

『────実は、私ね』

 

 桔梗ちゃんは、過去を明かした。

 

 器用で、頭も良くて、ずっと一番で。

 みんなにずっと、褒められてて。でも、椚ヶ丘に入って、自分よりも上なんて、幾らでもいることに気付いて、褒められなくなって。

 辛くて、苦しくて、褒められたくて、お礼を言って欲しくて───みんなが嫌がることをやり始めたら、褒められて、お礼を言われて。

 めんどくさいし、嫌だったけど、みんなが嫌がることを、やり続けて。みんなの愚痴とか、聞き続けて。みんなの秘密を握ることが、快感になって。

 ────でも、辛かったから、誰にも見つからないように、吐き出してて。

 ────そうして見つかって悪者になって。

 ────耐えられなくなって、全部壊した。

 

『きっと、中学の頃の私だったら、池くん達にあんなこと言えなかったよ。

 だって、嫌われたくなかったから。

 まぁ、その、それでも、私の過去の罪が、消えるわけじゃないんだよね。

 たくさんの人を傷付けたのは、事実な訳だし』

『……………だからいつも、私らが秘密を話そうとすると、あんなこと言うんだね』

 

 そう。さつきとか、千秋とかが、秘密を桔梗ちゃんに話そうとしても。

 桔梗ちゃんは毎回、こう言うの。

 

『────A secret makes a woman woman──だよ?女の子の秘密は、秘密だから、魅力的なの』

 

 ちょっとかっこいいなって、みんな、そう思っていたんだけど。

 

『うん。中学の恩師の教えだよ。あの人たちのお陰で、色んなものに向き合えたんだよね』

『………………正直、さ。それって桔梗ちゃん悪くなくない?』

 

 うん。麻耶の言う通りだ。

 だってみんな、桔梗ちゃんに、色んなものを押し付けてたんだから。

 

『………………うん。清隆たちは、そう言ってくれたんだ。

 ──────だから、ね』

 

 私は恵ちゃんに、こう言いたい。

 恵ちゃんが、どんな地獄を見てきたのか、私は聞かないけど。

 みんなにそう言ってもらったから、私は、こう言うよ。

 

『──────謝ることなんてない。恵ちゃんは絶対、何も悪くないから』

『──────ぁ』

 

 あたし、泣いてた。

 声を上げて、泣いてた。

 

 あたしはきっと、その時に救われた。

 

『───ふぅん。平田くんは、知ってるんだね』

『………まぁ、うん。守ってもらいたかった、から』

『平田くんが良い人でよかったねほんと。それ言い触らされたくなかったらヤラせろとか言って来たら、恵ちゃん断れないでしょ』

『………うぅ』

『あー、さつきが虐めたー』

『酷ーい』

 

 いやでもほんと、おっしゃる通りです。

 

『いやー、でも恵ちゃんの小中治安悪くない?』

 

 麻耶の言う通り。あたしの地元、多分治安悪いよね。

 

『あー、うん。まぁ、私のとこもまぁまぁ悪かった、かなぁ?』

『ていうか桔梗ちゃん椚ヶ丘だったんだね。去年の例のクラス、桔梗ちゃん何か知ってたりする?』

『あー、まー、そのー』

 

 さつきの言う例のクラスが何なのか、まぁ、みんな察してた。

 あれ凄かったよね。地球壊す超生物が担任とか、どこの漫画だよって話。

 

『……………そういやさ、あのクラスって、成績が悪い生徒だけじゃなくて、素行不良の生徒も落ちるらしいね』

 

 ……………鋭いな千秋。

 

『……………黙秘で』

 

 それもう答えだよ桔梗ちゃん。

 

『てことは綾小路くんと堀北さんも?』

『黙秘で』

 

 あー、そうなるか。

 千秋思ったよりも頭良いな。

 

『ほぇー。実際どんな一年だったの?何か、ニュースでやってるのとは、大分違ってそうだけど』

『うん。桔梗ちゃんの言う恩師って、多分超生物だよね?』

『黙秘でっ‼︎』 

『えぇー?教えてよー!恵ちゃんも聞きたいよねっ‼︎』

『う、うん。聞きたい、かも』

『……………もー、しょうがないなぁ』

 

 まぁ、特大の秘密は、もう明かした後だったし。

 割とあっさり、桔梗ちゃんは、あの一年を。

 『暗殺教室』の思い出を、語ってくれた。

 桔梗ちゃんの部屋で、丸一晩の、秘密の女子会。

 

『成程。桔梗ちゃんのお師匠さんは、ハニトラの達人だったわけだね』

『烏間先生絶対めちゃくちゃカッコいいやつ‼︎良いなぁ』

『なんか、面白い先生だね。殺せんせー。良い先生だったんだね』

 

 さつきの、その言葉に。

 桔梗ちゃんは、不意を打たれたみたいに、一瞬固まって。

 泣いちゃった。

 

『────うん。すっごく、良い先生、だっ、た、よ………』

 

 そっ、か。

 そう、だよね。辛い、よね。

 大好きで、大切で、尊敬する先生が、悪者だって、みんなに言われて。

 みんなに、殺すべきだって、そう言われて。

 

 そうして最後に、自分たちの手で、殺した。

 

『────殺せんせーは、ね。骨の髄まで、先生だったんだ。

 自分の命すら、教材にしちゃうぐらいに』

 

 それは、きっと。

 どこか、残酷な、話でもあった。

 

 あの日、桔梗ちゃんに救われて。桔梗ちゃんの涙を見て。

 それから、色々と考えるようになった。

 

 桔梗ちゃんは、後悔なく、あの一年を終えられたのだろうか。

 桔梗ちゃんにとって、殺せんせーは、どんな人だったんだろう。

 ───後悔しない終わりって、何だろう。

 そんなことを考えながら、眠りについたある日。

 

 なんか、変な黄色いタコが、夢に出て来た。

 

『───うぎゃあ⁉︎』

『にょいやっ⁉︎』

 

 何かエロ本読んでるっ⁉︎本物だ!本物の殺せんせーだ!

 

『───なんで⁉︎』

『ヌルフフフフフ。先生は先生なんですよ。軽井沢さん。

 悩める生徒を教え導くのが、先生の仕事なのですからっ‼︎』

 

 な、成程。さ、流石は殺せんせー。流石マッハ20。

 

『さて、軽井沢さん。あなたは、何に悩んでいるのでしょうか』

『先生!いきなりお悩み相談に入るのはちょっと難しいです‼︎整理の時間を下さい‼︎』

 

 五分後。

 殺せんせーはマッハ20で反復横跳びしながらあや取りして待ってた。

 情報量多いな。

 

『さて、整理はつきましたか?軽井沢さん』

『い、一応、一応つきました』

 

 後悔はしたくないこと。

 でも、何で後悔するのか、分からないこと。

 ───未来のことが、想像できないこと。

 

『極論を言ってしまえば、本当に一切の後悔がない終わりなんて、あり得ないのです』

『極論だ………』

『えぇ。暗殺教室の終わりは、ハッピーエンドで、でも、人によってはバッドエンドだと感じるでしょうし』

 

 ────そう、かもしれない。

 例え、そういうものとして始まった教室だとしても。

 例え、みんながそれを選んだとしても。

 

 それでも、大好きで大切な先生を、自分たちの手で殺して終わり(卒業)なんて、どうしても、辛いだろう。

 

『────それでも、何度繰り返したとしても、彼らは同じ選択をしたでしょう。

 何故だか、分かりますか』

 

 答えは、分かりきっていた。

 だって、桔梗ちゃんは、きっと。

 恋も暗殺も勉強も、ずっと全力だったから。

 今を、全力で生きてるから。

 

『────今を、全力で、生きて、選択したから、だと思います』

 

 いつだって、あの子達の、教室には。

 銃と、ナイフと、先生がいた。

 

 殺せんせーの顔は、バラエティの音と一緒に、真っ赤な○模様に変わっていた。

 き、桔梗ちゃんの、物理的に顔色が変わるって、こういうことだったんだ。

 

『そう!今を愛し、今を生きる!後悔しない生き方の一番確実な方法は、それですっ‼︎

 ─────それ即ち、愛なのですっ‼︎』

『先生!愛はどこから来たんですか⁉︎』

 

 なんか急に愛が生えて来た⁉︎

 何で⁉︎

 

『まぁ、愛でもなんでも良いんですよ。軽井沢さん。

 ─────大事なのは、殺る気(やる気)です。それを燃やせる動機なら、愛でも殺意でも恋でも勝ちたいでも楽しみたいでも良いんですよ。

 そして、あなたはきっと、愛を理由にした方が、良いと思いました』

 

 そうして、いつの間にか、下校時間のチャイムが鳴っていた。

 何となく分かる。きっと、夢から覚める時間だ。

 たった一晩の、夢の授業が、終わる時間。

 

 いつの間にか、山奥の教室にいた。

 あたしは、何を言えば良いのか、何となく分かったから。

 たった一人だけど、号令する。

 

『────起立!』

 

 立ち上がって、いつの間にか握っていた、ハンドガンを構える。

 桔梗ちゃんは朝礼でやってたらしいけど、まぁ、一回これやりたかったし。

 

『────気をつけ!』

 

 狙いを定めて。

 

『────礼!』

 

 引き金を引く。

 

『ありがとう!殺せんせー!』

『えぇ。頑張ってください。軽井沢恵さん』

 

 あなたの学校生活に、幸があらんことを。

 

 そうして、あたしは目を覚ました。

 

『……………愛、かぁ』

 

 愛について考えながら、学生生活を送っていく中で。

 多分、堀北さんと桔梗ちゃんのは、愛なんだろうなって、何となくそう思った。

 じゃあ、あたしの、いつのまにか抱いていた、この、洋介くんへの感情は、何なんだろうって。

 

 さつきに言われて、気付いた。

 洋介くんは、あたしを自由に使えるはずだった。

 あたしは洋介くんに逆らえないから。

 ────でも、洋介くんは、あたしを守ってくれていた。

 特別でこそなかったけど、あたしは洋介くんに守られてた。

 いつの間にか、洋介くんって呼んでいて。

 いつの間にか、洋介くんを、目で追うようになっていて。

 いつの間にか、洋介くんを好きなのだろう、みーちゃんに、取られたくないって、そう思っていて。

 ───────いつの間にか、洋介くんが笑っているのを見て、嬉しく思って。

 この感情って、何なんだろうって。

 

『あの、金織先輩。恋と愛って何が違うんでしょう』

 

 放課後の被服室で、金織先輩にそう聞いていた。

 手縫いの刺繍で、丁寧に飾り付けしながら、金織先輩は答えた。

 

『自論ですが、自分を幸せにして欲しい、が恋。

 自分が幸せにしたい、が愛。

 両者の違いは、こんなところだと思います』

『して欲しいと、したい』

『えぇ。もしくは、寄り添って欲しいと、寄り添いたい、とも言い換えれますね』

 

 ───────そっ、か。

 だから、あの三人は、愛の三女神なのか。

 

 橘先輩も、堀北さんも、桔梗ちゃんも。

 寄り添って欲しいんじゃない。

 寄り添いたいと、そう思っているから。

 

 ────────あたしは、洋介くんに、どうして欲しい。

 ────────それとも、どうしたい。

 

 そう考えた時に、答えは、あっさりと出た。

 

『なので、あなたの平田くんへの感情は、愛と呼べるものだと思います』

『そうですねぇぇぇええええ⁉︎』

 

 バレてた⁉︎

 

『あなたと距離の近い人は、全員気付いていると思いますが』

『マジですか⁉︎』

『彼氏アピール露骨でしたからね』

 

 そんなに⁉︎

 恥ずいっ⁉︎

 えっ、だから最近やけにみんなからの視線が生暖かいの⁉︎

 利害の一致だし、とか言い張ってたくせにベタ惚れじゃん、とか思われてたってこと⁉︎

 

『────あなたはきっと、誰かに寄り添って欲しいと、そう思って、誰かに寄り添ってもらっている時よりも。

 誰かに寄り添っている時の方が、幸せに笑える人だと思います』

 

 そういう人を、世間一般的には、愛情深い人と言うのですよ。

 

 先輩がくれた、シルクのハンカチ。

 そこに刺繍された花は、ベゴニアだった。

 

 

 

「ねぇ。洋介くん」

「何だい?」

 

 怖い、けど。

 でも、あたし、君を愛したいから。

 

「一回別れよっか」

 

 出来る限り、軽く。

 あっさりと。

 

「…………どうして?」

 

 始まりはね。利害の一致だったよ。

 あたしは誰かに守って欲しかったから。君は、特別を作りたくなかったから。

 でも、ね。

 

「────もう、あたしはね。

 誰かに守ってもらわなくても、大丈夫なんだよ」

 

 強くなれた。そんな気がする。

 そんな気がするで、きっと、大丈夫。

 

「それはね。君が、守ってくれてたから。

 みんなが、そばにいてくれたから」

 

 君に守られていたから、安心できた。

 安心できたから、桔梗ちゃんたちと一緒にいられて。

 一緒にいてくれたから、心を曝け出せて。

 そうして、救われた。

 

「……………そっか、なら、僕はもう。お役ごめんだね」

「うん。今までありがとう」

「どういたしまして」

「─────それから、もう一つ、良い?」

 

 金織先輩に裁縫を教わって。

 ガタガタの失敗作が、たくさんできたけど。

 ちゃんと、綺麗な、成功作。

 

 君への、クリスマスプレゼント。

 ベゴニアが刺繍された、ハンカチ。

 

『これはお手本です。あなたは、これを出来る限り、再現するように』

 

 いきなりゼロから作るのは、流石に難しいからね。

 知ってる?洋介くん。

 ベゴニアの、花言葉はね。

 ───愛の告白、だよ。

 

「あたしね。洋介くんが好き。洋介くんを愛したい。

 だから、ちゃんと、付き合いたいの」

 

 洋介くんは。

 少しだけ、困ったように笑って。

 

 ────でも、ちゃんと、ハンカチを受け取って。

 

「…………うん。付き合おうか」

 

 そう、言ってくれた。

 

 雪が降る、クリスマスの日に。

 あたし達は、本当の、恋人になれた。




 軽井沢さんの諸々は完全に自己解釈ですね。
 まぁ、原作だと、綾小路くんの為に動いている時が、一番イキイキしてると思うので。えぇ。
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