初詣。元旦は、生徒会も完全にお休みらしいから、ちょうど良かった。
まぁ、その、うん。
ガッツリ、決めて来たなぁ。私。
手鏡で結い上げた髪の毛と、振袖が崩れていないか、確認する。
じ、自分で言うのもなんだけど、凄く可愛い、よね?
手伝ってくれた親衛隊のみんなは、凄く可愛いって言ってくれたし。
「すまない。少し待たせてしまったな。それから、明けましておめでとう」
「あけおめ。別に、全然待ってないよ」
ていうか集合時間十五分前じゃん。
いや、私が言えたことじゃないけどさ。
「その振袖、本当に似合っているぞ。可愛いな」
「……………は、はぃ。ぁ、あり、がとう」
ちょ、直球過ぎ………。
照れる。マジで。
「さて、行こうか。────真澄」
「っっっっっ!は、は、はぃ」
な、ななななななな名前呼び⁉︎
な、何⁉︎今日の浅野強くない⁉︎
さ、さりげなく手を握って来たし‼︎
なんか指絡めて来たし‼︎
指で手の甲だったり指だったり撫でて来たし‼︎
あ、あの鈍感っぷりはどこいったの⁉︎
「足元、気を付けて。少し滑りやすいからね」
「う、うん。あ、ありがとう」
いつもは私が有栖にやってるような、エスコート。
浅野はすごく丁寧に、それをやってくれる。
私の心臓、持ちそうにない………。
「……………浅野くん、多分誰かに仕込まれてますね」
「あー、飛鳥もそう思う?私的に橋本くんが第一候補なんだけど」
坂柳有栖親衛隊で、絶賛デバガメ中です。
飛鳥さんと亮子さんの言う通り、多分橋本くんに仕込まれたんでしょうね。
幼馴染をチャラ男に引き摺り込もうとするなんて。
これは、少しばかりお仕置きしないとですね。
「橋本くんは多分酷い目に遭うとして、浅野くんの顔でアレは、真澄に効果抜群どころじゃないんじゃない?」
「剣舞四倍弱点タイプ一致急所に匹敵するでしょうね」
「な、何の話、ですか?」
「メガグソクムシャでも死ぬということです」
「本当に何の話ですか?」
「今度ポケモンやりましょう。おそらく有栖はサイクル戦とか好きだと思います。みがまも毒毒びし戦法とかとても楽しげにやってくるでしょう」
「………サイクル戦とは………?」
後日、藍さんに教えられながらポケモン対戦を始めました。
個人的に好きなポケモンはカバルドンですね。とても使いやすいですし。
ビジュアルだけならミミッキュですが。
ここの神社は、学校設立と同時に建立された神社らしい。
敷地内に神社まであるの何だか凄い。祀られている神様は天神様──『菅原道真』、の分体なんだとか。
まぁ、学校だし。
「学問の神様以上に相応しい存在はいないよね」
「そうだな。大学受験前とか、凄い賑わうらしいぞ?」
そっかぁ。
まぁ、そうなるよね。
でも実際、先輩たちって受験勉強いつやってるんだろう?メメ先輩はAクラス特権なくてもどこの大学でも受かると思うけど。
「まぁ、Aクラスの生徒が足を運ぶことは少ないがな」
「それもそうだね」
そう。Aクラスの生徒がわざわざこの神社に初詣に来るとしたら。
基本的に、デートでしかない。
……………なので、こういうこともある。
「む、浅野か」
「あけましておめでとうございます。浅野くん。と?」
「あぁ。こちら、友達の神室真澄さんです」
「あ、あけましておめでとうございます。橘先輩、堀北先輩」
茜の名に相応しい、明るい赤色の振袖姿の、とても可愛らしい橘先輩と。
黒いコート姿の、堀北先輩。
つまり、デートの真っ最中、ということだ。
…………でも、そっか。
まぁ、友達だもんね。仕方ないよ。
「────ほう、本当に、ただの友達、か?」
びっ、くりした。
堀北先輩、揶揄ったりするんだ。
橘先輩は、ちょっとむくれながら、脇腹を突っついた。
「こら。あんまり後輩揶揄っちゃだめですよ?」
「だが、二人ともAクラスだろう?わざわざこの神社に二人きりで初詣に来る理由など、デート以外にあるのか?
────指を絡ませながら、手を結ぶくらいのようだしな」
浅野は、少し、困ったように、後頭部をかいて。
いや、でも、浅野からしたら、ただの友達でもおかしくはないわけで。
私が一方的に好きなだけ、かもしれないし。
「────まぁ、学先輩の言う通り、ですね。
ただの友達、よりは、
────息が、止まった。
びっくりし過ぎて、心臓止まってた。多分。
浅野の言葉を理解して、噛み砕いて、解釈して。
心臓が、暴れ出した。
勢いよく俯く。
ダメだ。浅野の顔が見れない。
私の顔、絶対に見せられない。
────だって今、恥ずかしいくらい真っ赤だ。
「────ほう。友達より進んだ関係、か」
やめてください。
言葉にしないでください堀北先輩。
もっと、恥ずかしくて。
何だか、嬉しくなっちゃいますから。
「えぇ。そうですね」
それって、どんな関係なの、とか。
浅野は、どう思ってるの、とか。
聞きたいけど、怖くて、聞けないよ……。
橘先輩は、何処と無く呆れた顔で、堀北先輩を見ていた。
「全く、少し大人げないですよ学くん。いくら他の人にたくさん揶揄われたからって」
「いいや、そういうつもりはないぞ?」
「本当ですか?」
「あぁ。誓って本当だ」
「なら私の目を見て言ってください」
先輩は頑なに、橘先輩から、目を逸らしていた。
それってもう答えじゃない。
「──────学くん?」
「まぁ、その、何だ。
他の奴らの気持ちがよくわかったというか、何というか」
あぁいうのを見ると、揶揄いたくなるな。
「……………もう」
橘先輩は、嬉しそうに呆れた顔で笑って。
浅野は、困った顔で、少しだけ、赤くなっていて。
私は、ずっと、俯いていた。
一方その頃。坂柳有栖親衛隊は。
「何だか意外ですね。あの堀北元会長が、友達以上恋人未満の二人を揶揄ったりするなんて」
「だよね。清廉潔白なイメージ、っていうか、そこまで俗物じゃないイメージだったんだけど」
「というか、先の浅野くん、中々攻めましたね」
「だねぇ。真澄可哀想なぐらい真っ赤だよ」
飛鳥さんと亮子さんは、真面目にデバガメしています。
真面目にデバガメとは一体?
「うわー!大凶!最悪‼︎」
「あっ、私大吉でした」
「こういうのって末吉が一番微妙ですよね。ちなみに私は中吉です」
「………あ、私大吉ですね」
残り四人は、籤引き引いてます。
まぁ、クリスマスもこんな感じでしたし。真澄さん慰めていたの開始数分だけでしたし。
ううむ。私としては、真澄さんを応援したいのですが。
…………正直、九十九先輩には、幸せになってほしいです。
「御神籤引こうか、真澄」
「う、うん。そ、そう、だね。が、が、学、秀」
「──────っ、」
ついさっきまで俯いていたから。
ちょっと、その、上目遣いになって。
凄く頑張って、名前呼び、しました。
し、し、仕返しだよ?
いきなり名前呼びして来て、本当に、ビックリしたんだからね?
うぅー、でも、九十九先輩見たく、あだ名呼びとか、やってみたいかも。
流石にハードル高いけど‼︎
ていうか先輩、早い段階で渾名呼びじゃん‼︎
なんか、ずるい‼︎
「あ、私、大吉だ」
「僕もだ」
恋愛運は、と。
『良縁あり。早く定めてよし』、か。
………………いや、その。
ノータイムで告白というか、そういうのするのって、難しいからね?
あっさり言わないで貰えます⁉︎
「むむむむむむ」
「何だか、良くないことが書いてあったみたいだね」
「………ま、大吉だからって、何もかもが完璧ってわけじゃないしね」
「まぁ、僕もそんな感じだからな」
ちょっと面白くて、笑っちゃった。
一方その頃。坂柳有栖親衛隊は。
「お、このお守り可愛いじゃん!安産祈願だけど‼︎まぁ良いや、買っとこ‼︎」
「ねぇ三七さん。分かっているとは思いますが、お守りはアクセサリーではありませんよ?」
「良いじゃん別に。ほら、見知らぬ妊婦さんの安産を祈願する気持ちがあれば、ね」
「そうそう‼︎亮子の言う通り!────あたしは祈ってるんだ、全ての子供が、両親のもとで、幸せに生きていけることを────なんてねっ‼︎」
「境遇的にガチなのでは、と思ってしまったじゃないですか」
この前サラッと教えて来ましたけど、何ですか赤ん坊の頃に裸で雑に捨てられていたって。
重過ぎて何も言えませんよ。何で笑いながらそんなの言えるんですか。
もう。三七さんは明る過ぎて偶に目が焼けそうです。
「…………な、なんかみんな、いつのまにかデバガメとかどうでも良くなってますね」
「まぁ、他人のデートなんて大して面白くないですからね。丁度良いですし、美紀は学業促進のお守り買った方が良いのでは?」※中間学年一位から期末学年一位。
「うぅ、確かに」※中間学年五十位から期末学年二十位。
「校内順位で見れば普通に上位寄りなので、あまり気にしなくて良いと思いますがね」※入学以来学年一位キープ。
「そうそう!二学期の期末は満点多かったし!順位とか実質飾りだったもん!」※学年十五位から学年一位。
「有栖さんのお陰ですね。点を落としがちな綾小路くんのところを、早い段階から対策できたので」※学年十三位から学年一位。
「だね。あそこの対策進んでなかったら、こんなに満点取れなかったと思う。ま、私なんか最後の化学でちょっとしくちゃったんだけどね」※学年二十三位から学年二位。
「買います………」
美紀さんは何だか煤けています。
いつも真面目に勉強していますし、授業もすごく真面目に受けているんですけどね。
ツーショット撮ったり。
神社の近くにある、なんか、高級そうな料亭でお昼済ませたり。
ちょっと恥ずかしいけど、振袖で、ケヤキモールとか。
足は自然と、ケヤキモール内のテーブルゲーム専門店に向いていた。
「あ、真澄さんに、浅野くん。明けましておめでとうございます」
「こちらこそ、あけましておめでとうございます。稔先輩」
「あけましておめでとうございます。稔先輩」
テーブルゲーム部は、頻繁に新作のボードゲームを入れている。
まぁ、部員以外(実質部員の浅野及び卜部除く)とやるよりは、分かりやすいルールの将棋だったりチェスだったり囲碁だったりをやるんだけど。
部員だけで集まる時は、割とマニアックなゲームもやったりする。
で、そういうボードゲームは、基本的に部長が買い揃えている。
………でも、元旦からなんて。
「………あー、成程。お二人は初詣デート中なんですね」
「………そ、そう、で、すね。は、初詣、デ、デ、デ、デート中、です」
「───えぇ。真澄の言うように、デート中です」
うううううぁぁああああああぁぁあぁ。
あっさり!あっさり認めないでよぉ!
い、いや、肯定したの私だけどさぁ!
は、恥ずかしい………。
よ、ようやく少し落ち着いて、顔見れるようになったのに………。
「………うぅ。私はどっちを応援すれば良いの?」
………まぁ。
部が荒れるようなことには、ならないので。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。稔先輩。
どっちが選ばれても恨みっこなしって、約束してますから」
「………そっ、か。
そ、その、それって、その、実質、告白、じゃないかな?」
「……………………あ」
……………………あ。
や、やっちゃった?
やばい、また、顔、見れない。
一方その頃、坂柳有栖親衛隊は。
「ほんっと、ケヤキモール何でもあるよね。これ全部国税で仕入れてるんでしょ?納税者の皆さんありがとうございます!」
「ですね。納税者の皆さんのおかげで私たちはとても楽しく学校生活を送れているわけです。生徒諸君、もっと感謝しましょう」
「何故藍さんが代表者面しているのでしょう。それ、生徒会長の仕事では?」
「生徒会長森下藍です。どうぞよろしく」
「うわぁ。サポートする他の役員大変そう」
「すごく自由な人ですからね。制御不能とも言えますが」
「酷い言い草ですね飛鳥。流石に生徒会長になったりしたら真面目にやりますよ。そもそもやる気はありませんが」
「やる気があったとしても堀北さんと浅野くんと卜部先輩に勝てるの?」
「は?勝ちますが?」
「いやー、キツイでしょ」
「さ、流石に無理だと思います」
まぁ、藍さんなら良いように転がされることはないでしょうが、普通に正面から殴り倒されて負けるでしょうね。
藍さんが弱いのではなく、他の候補者達が強すぎるだけです。
「────ですが、勝ち目はあります」
ほう。何やら秘策があるようですね。
聞かせてもらいましょうか。
「ズバリ────お色気作戦です」
「聞くに値しませんね」
「論外すぎるって」
「ちょっと真面目に聞こうかなって一瞬でも考えたの時間の無駄だね」
「えぇ。もう少し驚くような作戦を期待していたのですが」
「え、えっと、その、お色気勝負になったら、堀北さんかなり強いのでは?」
乗らなくていいんですよ美紀さん。聞くに値しませんから。
「チッチッチッ。堀北鈴音のお色気は、特定個人、即ち綾小路清隆にのみ向けられているものです。その他の生徒に向ける事はないでしょう」
「…………まぁ、それはそうですね」
堀北さんが綾小路くん以外に色仕掛けを仕掛ける事はなさそうです。
櫛田さんは、必要とあれば色仕掛けぐらいはするでしょうが。
「そして、卜部藤乃の身体はお世辞にも色気があるとは言えません。有栖と良い勝負なので」
「それは確かにそうだね」
藍さんと三七さんは後でたっぷり虐めてあげます。
「───となれば、お色気勝負なら、私の方が有利です。三人の中では一番胸大きいですし。
男子にお色気勝負で負けるはずがありません」
「───異議あり!お色気勝負でも浅野くんは強いよ!」
亮子さんは何を持ってそんなことが言えるのでしょう。
というか幼馴染に色気がある云々あまり聞きたくないのですが。
「───ほう、どの辺りに色気があると?」
「まずは顔だね。顔が良い男子は色気もあるものだよ」
「しかし顔なら私も負けてはいませんよ?」
「次に鎖骨。イケメンに相応しい完璧な太さの鎖骨だよ!バランスが素晴らしいよねっ!」
そこまでにしておいてください。
五歳くらいの頃一緒にお風呂に入ったりしたんですよ。実質的に弟みたいなものなんですよ。弟の鎖骨が色っぽいだとか聞きたくありません。本当に。
「やめてください。幼馴染のそういうの聞きたくありません」
「あーでも、お色気勝負になったら、浅野くん多分本気でお色気鍛えてくるよ?」
「やめてください三七さん。これ以上話を広げないで」
泣きそうになりながら懇願します。
流石に申し訳ないのかそこで終わりました。
目薬は万能薬ですね。
──────さて、探しにいかないと、ですね。
「さて、では、実質告白してしまって怖くなって逃げた真澄を探しに行ってあげましょう」
皆さんちゃんと気付いていたようですね。
「…………浅野くんはさ、正直どっちの方が好きなの?」
一旦頭冷やしてくると言って、逃げるように退散した神室真澄を見送って。どうやら、有栖さんたちが探しに行っているようなので。
狐判稔は、そう、浅野学秀に問い掛けている。
「…………一緒にいて楽しいのは、九十九先輩です。
…………でも、一緒にいてくれると助かるのは、真澄です」
「あー、成程。
ようは、感情論的には、九十九ちゃんと付き合った方が、大体同レベルだから、話しが合うし競い合えるし楽しい。
合理的には、真澄ちゃんと付き合った方が、寄り添ってくれるし手伝ってくれるしで、色々と助かるってことだね」
「…………そうですね。恋愛に合理を持ち込むべきではないとは、思っているんですが」
「そこは別に良いと思うけど。まぁ、恋愛を楽しむだけじゃなくて、将来的に結婚することまで視野に入れるなら、の話だけどね」
…………流石に、重いのでは。
「んー、でも、九十九ちゃんも真澄ちゃんも、多分そこまで考えてるよ?あの子達、結構重い子だから。
それに、浅野くんは真面目な子だからね。相手がそこまで考えているってなったら、自分もちゃんとそこまで考えるタイプだと思うけど」
「…………まぁ、そうですね」
「九十九ちゃんなら、多分浅野くんがどんなに速く進んでも、どこまで遠く進んでも、ちゃんと着いていけるし、いざという時は助けにもなれる」
九重九十九は間違いなく、それくらい実力もあるし優秀だ。
「真澄ちゃんは多分、浅野くんがどんなに速く、どんなに遠くに進んでも、どんなに置いていかれても、追いつこうとするし、ちゃんと帰りを待っていられる」
神室真澄は間違いなく、それくらい献身的で健気だ。
「まぁ、少なくとも言えることがあるとしたら、どちらを選んでも絶対に損はしないだろうってことかな。
二人とも自分でちゃんと立ちながら、浅野くんも支えられるし」
君自身が掴み取った幸運だよ。
この二人に、選ばれているって事はさ。
「………………そう、ですかね」
「そうだよ。合理で考えるだけじゃなくて、ちゃんと感情も大事に出来る人だから。
感情の為に、動ける人だから。
そういう人だから。ううん。色んな人から学んで、君がそういう人になったから。
だから二人は、君を好きになったんじゃないかな」
ま、二人とも、これがすごく難しい問題だって事は分かってるだろうし、暫くの回答時間を貰ったとしても、良いと思うけどね。
「………そう、ですね」
「………あー、ところで何だけどさ。話大分変わるけど、良い?」
「はい。何でしょう」
浅野くんってさ、潮田くんのこと、どれくらい知ってる?
…………逃げてしまった。
実質告白してしまったから。………その、怖くなった。
正直な話、私、九十九先輩に勝てる気がしない。
九十九先輩と浅野は、勝率五分。
対して、私と浅野は、二割もない。
…………たかがチェスの勝率でって、多くの人は思うだろうけど。でも、私が浅野よりも大分弱いということは、証明されているわけで。
…………つまり、私は、浅野が困っているときに、きっと助けになれないんだ。
スペックでもスキルでも、私は九十九先輩に勝てない。
九十九先輩は、浅野と同じくらい強くて。
ハッキングっていう、唯一無二のスキルがある。
浅野が困っているとき、九十九先輩なら、助けになれる。
じゃあ、私は?
私は、浅野が困っているとき、何が出来るの?
………………とても、性格の悪いことを言うけど。
九十九先輩が、もっと自分勝手なやつだったら良かった。
周りなんてどうでも良いって、そんな人だったら良かった。
でもあの人は、とても優しい人だから。
藤乃先輩に寄り添い続けていた、その優しさも。
最後まで、学校を壊して、何もかもをめちゃくちゃにする事はなかった、その優しさも。
何より、私を助けるために、危ない橋を平然と渡れる、その優しさも。
その優しさに救われたから。
─────だから、勝てないって、そう思ってしまう。
スキルでも、スペックでも、優しさでも。
私は、きっと、────。
「九十九先輩には遠く及ばないので、諦めてしまいそう、ですか」
「……………デバガメしてたの」
「あなただって、以前似たようなことしていたでしょう?」
「うっさい」
いつもよりもずっと、無愛想で。
いつもよりもずっと、辛そうです。
なら、ちゃんと慰めてあげましょう。
「どうせ、スキルでもスペックでも優しさでも負けてて、勝てる気しないって思っているのでしょう?」
「…………うっさい」
図星ですが。全く。
少しばかり、自己肯定感が低すぎますよ。
「言っておきますが、あなたの優しさは、九十九先輩にだって負けてませんよ?」
「……………は?」
全く。
本当に、全く。
少しは、自覚してくださいよ。
「─────私がどれだけあなたに助けられてきたと?
毎日のように、わたしが転ばないように。私が倒れないように。私に何かあったときに、すぐさま対応できるように。
緊急時の蘇生の為に、心臓マッサージのやり方、練習してたの知ってますよ?」
「な、なんでそれを………⁉︎」
「隠してるつもりでしょうが、潰れた2リットルのペットボトルのゴミ、普通に見つけたので」
真澄さんと喧嘩して、騙されていることに気付いて、部屋に乗り込んだときに。
脱衣所にゴミ袋に入れて隠してあった、潰れた2リットルのペットボトルの山、ガッツリ見てしまったので。
「家、家探しじゃん⁉︎」
「………まぁ、その、たまたま見つけてしまったので」
これに関しては、本当にたまたまですね。
まぁ、とにかく。
「脅して無理矢理従えている私の為に、そこまでやるぐらいですし。
自覚ないでしょうが、あなたは相当優しいですよ」
「……………その、緋音先輩達が、心肺蘇生のやり方、勉強したって聞いて、私、後追いしただけだし」
「めんどくさ」
「めんどっ⁉︎」
とっとと受け入れてくださいな。
そうして。
「とっととちゃんと告白してください。まぁ、どんな結末になったとしても、私たちがちゃんと慰めてあげるので、安心してください」
まぁ、私は前にそうしてもらいましたし。
今度は、あなたの番ですよ。
「…………はいはい。分かったわ」
さて。弟と親友の恋模様を、これ以上観察するのはアレなので。
「皆さん。カラオケとか行きませんか?」
「お!良いね!新春歌うま大会やろうよ‼︎歌姫は誰だ!ってね」
「言っとくけど、私負ける気しないから」
「大門先生みたいですね」
「ど、どちら様でしょう?」
「なん、ですと………⁉︎」
「今となっては古いですからね、ドクターX。私普通に見たことないです」
「ば、馬鹿な……⁉︎」
藍さん、本当に色々知ってますね。
まぁなので、こういうこともありますが。
カラオケに向かっているところ、稔先輩に遭遇しました。そういえばさっきお店にいましたね。
「明けましておめでとうございます。稔先輩」
「初めまして!星穹三七です!明けましておめでとうございます!」
「初めまして。白石飛鳥です。明けましておめでとうございます」
「森下藍です。明けましておめでとうございます。狐判稔先輩」
「西川亮子です。初めまして。明けましておめでとうございます」
「や、山村美紀、です。は、初め、まして。あ、明けましておめでとう、ございます」
流石に六人は、ちょっとびっくりしたようですね。
まぁ、普通に人見知りなところ、ありますから。
「わ、わぁ、………えっと、は、初めまして。狐判稔、です。えっと、今は、テーブルゲーム部の、部長、やってます。
あ、明けましておめでとうございます………!」
美紀さんとは、なんだかシンパシーを感じているご様子。
視線だけで通じ合っていますね。
「あ、そうだ。有栖さんにも聞いておきたいんですけど、潮田くんって、どんな人なんですか?」
「正直、あまり関わりがありませんが、まぁ、嘘を見抜ける人、らしいですよ?」
暗殺教室主席の話は、私の口からは言わない方がいいですね。
まぁ、そのうち稔先輩は気付くでしょうが。
「潮田くんかぁ。可愛い男子ランキング一位ってことしか知らないですね」
「わ、私も、そもそも私、友達殆どいないので………」
「体育祭で、大分身軽に動き回っていたのは知っていますが」
「あたしは幼馴染がたくさん話してくるから知ってるよ‼︎教師志望なんだって‼︎中学の恩師が憧れらしいよ!」
「ふむ。潮田渚は教師を志望しているのですね。成績もかなり優秀ですし、納得です」
六人の情報を整理して、稔先輩は、何度か頷きました。
「─────みんなありがとう。参考になったよ」
まぁ、稔先輩のことですし。
大体のことは、察しが付くのでは?
ボードゲームの山を抱えなおして去る稔先輩を見ながら、そんなことを考えていました。
(……………潮田くんと浅野くんは同じ中学。でも、中学時代に関わりは殆どない。
─────学業は優秀。身体能力、というより身軽さは高め。
─────将来的には、教師志望。
─────成績はかなり優秀。
─────嘘を、見抜ける)
歩きながら、情報を整理する。
(中学時代に関わりが殆ど無かった。つまり他クラスの可能性が高い。生徒会長をしていて交友関係も広いはずなのに関わりがない。つまり、本校舎の生徒では無かった可能性が高い。
あの身軽さ、なんらかの訓練を受けたと見るのが妥当。普通の部活動ではあぁはならない。動き方が実践的過ぎる。
椚ヶ丘の本校舎の生徒ではない、実践的な訓練を受けたと思われる、去年卒業した生徒)
「………………やっぱり、E組卒業生」
(多分、堀北さんと櫛田さん、綾小路くんもE組の可能性が高い。三人ともDクラス、つまり不良品っていう評価が下された。
あの学力、あの身体能力、あの協調性で不良品なんて、普通は考えられない。
だとしたら、中学時代に何らかの大事件を起こした可能性が高い。
椚ヶ丘でそんなことをしたら、ほぼ間違いなくE組行き。
───ここと仲の良い赤羽くん奥田さん雪村さんも、恐らくはE組)
「──────そして、可愛いランキング一位。
言い換えれば、
(去年のE組は、超生物の暗殺に関わっていた。そしてそれは、多分報道にあるような、脅して脅されての関係じゃない。地球を壊す超生物に本気で脅されていたのなら、トラウマなんてレベルじゃない。
そして、その教師に憧れて、教師を目指している。
────つまり、凄く良い先生をしていた)
「訓練により、ああいう実践的───
(つまり、
去年のE組は
「何度やっても、私は単独で藤乃さんから戻って来れない。でも、潮田くんは戻ってきた」
(どうして潮田くんは戻って来れたのか。どうして私は戻れないのか。メンタルトレースについて、改めてメメ先輩に聞いて、何となく分かった。
──────最初に、自身を殺して、理解して共感して分析した他者を貼り付けて。何とか引き剥がして、戻ってくる。
この、引き剥がすで、私は止まる。
─────発想が、違うのだとしたら。
……………多分、潮田くんは)
「引き剥がす、ではなくて、
(自覚的にか無自覚的か。あの日の反応から見て恐らく無自覚。
他のE組卒業生なら全員同じことができる可能性。は、多分ない。
藤乃ちゃんは、雪村さんの練習に付き合っていた。つまり、引き剥がす──あの子達に合わせて殺す──イメージを作る練習が必須だった)
「潮田くんは、多分そういうの無しでできてた」
(藤乃ちゃんを、簡単に殺せる。あくまでイメージの中だけど。
結論。潮田くんは、多分。いや、間違いなく)
「────暗殺教室の、主席卒業生」
狐判稔は、思考する。思考する。思考する。
(全学年合同の特別試験。全三年生対全一、二年生合同の、特別試験。
多分、単純に学力を競うようなものじゃない。だったら一ヶ月もの準備期間は要らない。
全クラスで合宿をする以上、クラスの垣根を超えた連携も求められる)
「…………発案者は、堀北学先輩」
(あの人なら、どんな試験を用意する?
藤乃ちゃんの話を合わせて考えると、
いや、そこは良い。大事なのは、E組に何らかの期待をしていたということ。
多分、妹さんに)
「あの人の目的は多分、私たちへの最後の試練。
変わりゆくこの学校の中で、変わる前の学校の、最後の卒業生たる自分たちを超えてみせろ。という、試練。あるいは儀式」
(そして、その、対象は。
私を含めた全校生徒、ではなくて。
藤乃ちゃんたちを含めた、元椚ヶ丘卒業生。特に、暗殺教室の生徒たち)
「……………あの人は、多分」
E組の得意分野で戦うつもり。
即ち、暗殺で。
「……………多分、サバイバルゲーム型の特別試験」
だと、すれば。
まず間違いなく。
一番の強敵は。
「分かりきっていることだけど、堀北先輩。
──────一ヶ月の準備期間だけじゃ、多分間に合わない」
(でも、一ヶ月近くフライングで準備すれば、まだ、勝ち目はある。
藤乃さんと綾小路くんが組さえすれば、堀北先輩をなんとかできるかもしれないけど。
堀北先輩一人に、最高戦力二人をぶつけたら、他のところで、───多分、金石先輩に押し込まれて負ける。
でも、潮田くんが、二ヶ月近く準備したなら。
「────勝つには、これしかない」
(暗殺者の手の内は、絶対に知られちゃいけない。
だからこの二ヶ月の準備は、私と潮田くんだけで進める。
……………問題は)
「……………わ、私潮田くんの連絡先知らない………」
しょうがない。浅野くん経由で教えてもらおう。
そして、その後は。
「……………ひ、一人で話せるかなぁ」
元ボッチのコミュ力、舐めないで欲しい。
「急にどこか行ってごめんね。学秀」
「いいや、構わない」
店の前で合流して、散歩も兼ねて、少し遠回りして、寮に帰る。
もう、日も暮れそうだ。
今度は、私から、手を繋いだ。
ゆ、指を、絡めて。
そして、撫で、る。
「…………っ、真澄?」
「──どうか、した?」
「………いや、何でも」
手を繋ぎながら、指を絡めて。
お互いに指を撫で合って、いる。
私の人差し指が、学秀の手の甲を、そっと撫でる。
学秀の親指が、私の小指の付け根を、そっと、撫でる。
な、なんか、いやらしい。
でも、やめたく、ない。
もっと、触れて、いたい。
まだ、冷たくて。
道は、解け始めた雪で、少し湿っていて。
この道が、永遠に続いて欲しい。
「────あ」
でも、道にだって、終わりがある。
もう、寮の前。
─────あぁ。
─────やだなぁ。
「…………今日は、楽しかったよ」
「────そうか。なら、良かった」
「…………じゃあ、またね」
「…………あぁ。また」
繋いだ手を離す───のがどうしても嫌だったから。
強く握りしめて、力一杯、引き寄せた。
親に無理やり習わされた合気道。正直めんどくさかったけど、やってて良かった。
前のめりになった浅野の、その、綺麗な唇に。
そっと、キスをした。
「…………好きだよ。学秀」
「真澄、僕は───」
うん。知ってる。
アンタは真面目で、ちゃんとしているから。
「─────大丈夫。いつまでも、待ってるから」
手を離して、寮に入って。
「─────でも、都合がいい女には、ならないからね?」
振り向きながら、そんなことを言って。
エレベーターに乗り込もうとしたところで、九十九先輩に、会った。
「えっ、と、真澄って、八階、だよね?」
「はい。そうですね」
密室で二人きり。
いつもなら、ただの、部活の先輩後輩ってだけで。
でも、今は。
同じ人を好きになった、
だからこそ、友達だ。
「────今日、告白して、キスしました」
「────わ、私だって、プレゼント渡して、キスしたし。実質告白したし!」
「私、唇に、キスしましたよ?」
「く、唇⁉︎」
先輩は、赤く染まりながら、恐れ慄いていた。
ふふふ。一歩リード、と言ったところかしら?
「絶対に、私を選ばせてやります」
「ま、負けない、から。シュウに、私を、選ばせる、から!」
そうして、先に、八階。
エレベーターから降りるところで、私は九十九先輩と、笑い合った。
笑い合って、火花を散らして。
そうして、扉が閉まった。
部屋の前で、掌を見る。
なんだか、温かい。
唇に、塗っていたリップグロスが、少し、拭われているのが分かって。
ちょっと、恥ずかしい、かも。
「うふふふふふ」
ちょっと浮かれてた。
うん。ちょっと浮かれてたんだ。
「えっ、と、その、頑張ってください!真澄さん!」
─────一瞬、固まった。
油を指していない機械みたいに、隣の部屋の扉を、見る。
鍵を開けて、ドアノブに手をかけてる、美紀が、いた。
「み、美紀?その、いつ、から?」
「えっ、と、その、人酔いしちゃって、カラオケ大会、先に帰らせてもらって。
その、玄関前で、話しかけようかなって思ったんですけどね」
「……………………もしかして、同じエレベーターに乗ってたりしたの」
「は、はい!お、応援してます!」
整理しよう。
美紀は玄関前で私に話しかけようとしていた。
──────つまり、私のキスとか告白とか、その後の諸々も見られている。
なるほど。なるほど。なるほど。
「───ねぇ美紀、ちょっと、部屋に来てくれる?」
「………えっと、その、誰にも、話しません、よ?」
「いいからいいから」
「は、話しません!話しませんから!」
「いいからいいから」
手首を掴んで、関節を極めながら。
美紀を部屋に、連れ込んだ。
────さて、口封じの時間だ。