冬休みももう終わり間近。
藤乃ちゃんは、クラスのみんなと遊んでばっかり。
稔ちゃんはなんか最近付き合い悪いし。
九十九ちゃん?絶賛浅野くん攻略中。今日は遊園地デートだってさ。
緋音ちゃんは、なんか最近ジムだったり武道場だったり頻繁に通ってるからあんま弄れない。
つまんないし、ハルくんたくさん弄り倒してやろー、と。
スキップしながら、生徒会室前まで来て、手鏡で前髪を整えてから、と。
「たーのーもー!」
「出禁です」
秒で追い出された。
ポイって。
鈴音ちゃん酷くない?ねぇねぇ酷くない?
「あのー、大人しくするし、仕事手伝うのでー」
「信用出来ません」
綾小路くんにアイアンクロー喰らって放り出された。
このアイアンクロー痛いけどまだまだだね。藤乃ちゃんの頭蓋骨がミシミシ言うあの痛さを再現できてはいないし。
「ねーねー、お茶汲みでもするからさー」
「却下です」
雪村ちゃんに両脇抱えられて運び出された。
なんか、すごい屈辱的な運ばれ方なんですけど。
「試験前のアレはー、そのー、本当に謝るのでー」
「……………何でそんなに生徒会室に居たいんですか?」
「えっと、それは、その………つまんないからハルくん弄りたくて」
「おれかよ」
むー!でも!悪いのハルくんだからね⁉︎
折角の生徒会完全休暇期間中なのに、南雲くんをクラスに馴染ませるためにクラス会主催するなんてさ!
自分がモデルやって稼いだポイント全部クラス会の為に使うとか思い切り良すぎだよ!
確かに、確かに南雲くんがクラスに馴染むためにはこういうの必要だっただろうし、実際ある程度は打ち解けられたけどさ!
それで冬休み前半にあった休暇完全に潰れちゃったじゃん‼︎
わたしだってハルくんと遊びたかったのに!
「生徒会の仕事が終わりさえすれば自由なんでしょ⁉︎じゃあわたしも手伝うからさ、残り時間はわたしと遊ぼうよ!
映画とかカフェ巡りとかさ!」
そしたらなんか、ハルくん以外の生徒会役員たちの目が、きらーんって輝いていた。
面白そうって顔に書いてある。
やっばー、多分やらかした?
「なるほどなるほど。それなら花咲先輩にはお仕置きも兼ねてお茶汲みしてもらいますか」
「そうだな。茅野。衣装とってきてくれ」
「かしこまり!」
「あーごめんなさい。用事思い出したので帰ります〜」
「一之瀬さん」
「まっかせて!絶対に逃がさないから!」
い、一之瀬ちゃんやっぱ身体能力もたっかいなぁ。
に、逃げられないや。
「………あー、その、だな、お仕置き自体は全然良いんだが」
「なんでよっ!止めてよっ!」
「あれおれもまぁまぁ被害者だったからな?それはそれとして、その、あんまイジメすぎるようなお仕置きは、その、出来る限り控えて欲しいんだが」
「ハ、ハルくん……‼︎」
ありがとうハルくん………‼︎
「大丈夫ですよ森先輩。給仕に相応しい格好でお茶汲みして貰うだけですから」
「あっ、そう?それなら良いや」
「何も良くないっ‼︎」
綾小路くんは何言ってるの⁉︎
給仕に相応しい格好って、格好って、そんなの………‼︎
「おっ待たせ〜‼︎てってれ〜改造メイド服〜‼︎」
「えっ、何これ………。アキバじゃないんだよここ⁉︎ここ学校だよ⁉︎」
膝上丈のミニスカート。
谷間を出すような、そんな赤と白のエプロンドレス。
そして、ウサ耳風のブリム。
萌えっ萌えのコッテコテ。真っ当な羞恥心の持ち主なら、多分マネキンが着ているのだけでも引くレベル。
えっ、えっ?
コレ、着るの⁉︎
「さぁ、お着替えの時間ですよ花咲先輩」
「男子諸君は一旦退出してね!これから着替えさせるから!」
ハルくんと綾小路くんと葛城くんは素直に退出した。
そして、鈴音ちゃん雪村ちゃん一之瀬ちゃん須知ちゃんが、良い笑顔でわたしににじり寄ってくる。
そ、その、なんというか、えっと。
「や、優しくして欲しいなーって」
か、顔、ちょっと怖いかなーって。
「大丈夫ですよ花咲先輩。可愛い服を着るだけですから」
「いや、その、鈴音ちゃんの言うように確かに可愛いは可愛いけど、それはそれとして、かなりキツイじゃんそれ‼︎
実質罰ゲームじゃんその服‼︎」
その露出度!そのウサ耳!そのスカート丈!
かなり罰ゲームだよこのメイド服‼︎
「良いじゃないですか。森先輩も喜びますって」
「………………な、な、な、なんでハルくんの名前を⁉︎」
「渾名呼びとかかなり分かりやすいですよ?他人を揶揄う側に回るのは椎名さんたち以来だし、とても楽しませて貰います」
う、バ、バレてる⁉︎
「まぁまぁ。この可愛さなら、森先輩もドキッとしますよ。多分」
「い、一之瀬ちゃん………?き、君って、こう言うことするタイプじゃ、その、無かった、ような………?」
「あっはははははは。たくさん弄ってくれましたからね」
あ、あー、普通にちょっと腹立ってたの?
それに関しては素直にごめんなさいとしか言えない。
「ま、私なんか被害ほぼゼロだったけど、それはそれとして、ね?こんなに楽しそうだしさ」
「ねぇ須知ちゃん!君ちょっと自由人すぎない⁉︎わたしが言えたことじゃないけどさ‼︎」
「本当にそうだね」
に、逃げるんだよぉ‼︎
秒で捕まって着替えさせられた。ぐすん。
わ、わたし身体能力も高い方のはずなのに‼︎
「男子諸君〜帰ってきて良いよ〜」
綾小路くん、ハルくん、葛城くんが、戻ってきた。
咄嗟にソファーの裏に隠れる。
え待って。コレ男子に見られるの大分恥ずいんだけど⁉︎
「隠れてはいけませんよ花咲先輩。これは、お手入れでもありますから」
「そうですよ花咲先輩。脅迫は最低なんですよ?」※教師を脅迫した生徒の言葉です。
うううううううぅ…………。
ど、どんな反応するのか、ちょっと、怖い。
「────でも、もし、可愛いって言ってくれたら、嬉しいですよね?」
「い、一之瀬ちゃん⁉︎い、いや、その、確かに、嬉しい、ですけどぉ」
「うんうん。是非森くんの感想聞かないとね?」
「ちょっ、やめ、押さない………わぁ」
ソファの裏から押し出されて、ハルくんの目の前に。
ぅ、う、うううう。は、は、恥ずい………。
綾小路くんはチラリとわたしの着ているメイド服を見て、それから鈴音ちゃんに視線を向けた。
あ、今脳内で鈴音ちゃんにこれ着せてるな?出来のいい脳みそそんなのに使わないでよ。
「───茅野さん。後で、そのメイド服どこで買ったのか教えてくれる?」
「あー、うん。お店の住所送っといたよ」
「ありがとう。桔梗さんに、今日中に買っておいて貰うわね。───楽しみにしててね?」
「………………あぁ。楽しみにしておく」
何ナチュラルにいちゃついてんだよこのやろー。
何で他の生徒会役員はもう慣れてるんだよこのやろー。
「あー、その、綾小路達なら恐らく大丈夫だろうが、本当に、節度はしっかりな?」
「分かっている。せめて大学を卒業してからだ」
何が?とは聞かない。聞いちゃいけない。
だって、その、分かりきってるもん。
「────あら、在学中に起業するなりして、収入の目処が立ったなら、別に卒業を待たなくても構わないわよ?
まぁ、私も桔梗さんも、大学卒業はするけどね」
一瞬、時が、止まった。
────それって、つまり、その〜。
「…………言ったな?責任、取るし取らせるぞ?」
「────勿論。覚悟の上よ」
あー、うん。
今多分、完全に綾小路くんの理性がぶっ壊された気がする。
大学入ったらヤバいってこれ。
「わ、わ、わぁ、つ、強すぎる…………!このカップル………!す、進みすぎ!」
「ひ、ひぇぇぇ。こ、これが、同級生、なの………⁉︎」
「………櫛田ちゃんも同じこと絶対言うのがほんと怖いわね。お互いに愛がデカすぎるのよ」
女性陣は一周回って引いていた。
「…………葛城。多分、お前は今、選択を間違えたぞ?」
「…………そのようですね」
まー、そのー、うん。
披露宴には呼んでね!
その先に行ってるかもしれないけど‼︎産婦人科とか!
「さて、気を取り直して、と。
さぁ森先輩。会長命令です。この服装の花咲先輩、どう思いますか?」
「凄く可愛いと思うぞ」
また、時が、止まった。
再起動した綾小路くんが、攻めた。
「では、具体的にどの辺りを可愛いと思ったんでしょう。副会長命令です」
「別に命令する必要は無いぞ?
うーん、と、だな。
まずは靴だな。赤い可愛い靴に、そのピンクのリボン。可愛い顔立ちのほむらのイメージに合っているし、ほむらの可愛さがより引き立っている。良い意味で少女感が強い」
あ、なんか、マズイ気がする。
「次に、ニーソックスだな。
身長は低いけど、ボディバランスは凄い良いんだよな。足も細くて身長と比較すると長くて綺麗だから、ニーソックスのお陰でそれが目立っている」
咄嗟に足を掌で隠した。
あ、ヤバい。顔熱い。めっちゃ熱い。
な、なんなのハルくん……!なんで一切照れずに真面目にこんな褒め方出来るの………⁉︎
「次はスカートだな。
ここまで短いと普通は下品に映るんだが、ほむらの場合はそこまで含めて魅力になっている。ほむら自身が、隙だらけのようでほとんど隙がないからな。短いと不安になるけど、ほむらだったらそんなミスは絶対に犯さないって安心できるし。
だからこそ、自分の可愛さとか、そういう魅力を最大限引き出せるスカート丈になっているんだよな。
まぁ、正直それで出歩いてほしくはないんだけどさ」
な、なんなの⁉︎なんなの⁉︎なんなの⁉︎
魅力的とかあっさり言わないでくれます⁉︎そのくせチラッと独占欲みたいなの見せてくるのなんなんですか⁉︎
「えっと、次はエプロンドレスか。
白と赤なのが、よく似合っているよな。ほむらのイメージカラーにぴったりだ。雪村は凄いな。ほむらの持つ明るさとか楽しげな雰囲気と、何処と無く危ない雰囲気も上手く引き出している。
……………強いていうなら、上に一枚羽織って欲しいかな。ノースリーブなのもそうだし、スカート丈が短いのもそうだが、風邪ひきそうで少し怖い。今は冬だし。
あぁそうだ。おれのジャケット貸すよ」
平然と、わたしに歩み寄ってきて。
ジャケットを、羽織らせてきました。
あ、なんか爽やかな匂いする。好きかも。
いや違くて。
「うん。これで安心できる」
なんか、頭、撫でてきた。
…………………は?は?は?
あ、あれ?わたし、告白したっけ⁉︎
えっ、こんなの、もう彼女にやるやつじゃん⁉︎
えっ、えっ⁉︎
「んで最後は、このブリム?だったっけ?これか。
うーむ。兎、ねぇ。
まぁ、確かに。兎が一番イメージに合っているんだけど。可愛いしな。
ま、こんなところかな」
「……………えっと、その、森先輩って、花咲先輩と付き合ってます?」
「……………?いや、付き合ってはいないぞ。どうした綾小路」
「えっ、と、その、か、仮に、仮にですよ?この衣装を着ているのが恋人だったら、どうしますか?」
「……………?多分、今よりももっと言葉を尽くして褒めた気がする」
「……………ひ、ひぇぇ」
も、もう怖い………!
ハルくん、怖い………!
付き合ってないのにこれ⁉︎
えっ、もし、その、付き合っちゃったりしたら、わたしどうなるの⁉︎
もう既に大分褒め殺しにされてるんだけど⁉︎
えっ、これ以上は本当に心臓破裂して死んじゃうよ⁉︎折角移植したのに⁉︎
「………………綾小路と同等かそれ以上にやばいのが、生徒会に潜んでいたとはね」
「はい。これは予想外でしたね須知先輩」
「でもあかりちゃん。多分、森先輩の方は、自覚ないかガチで好意ないかのどっちかだよ?」
「………………自覚なしならまだ良いのだけど、好意なしなら、いつか刺されそうね。森先輩」
女性陣!
わたし五感鋭い方だから聞こえてるよ!
声潜めてても聞こえちゃうんだよ!
でも鈴音ちゃんの言う通り、せめて自覚なしで合って欲しいかなぁ。………わたしは何を考えているの⁉︎
「────さて、仕事に戻りましょうか」
うぅ、わたしこの格好でお茶汲みするのかぁ。
恥ずい………。
とか思ってたけど、ぶっちゃけあんま恥ずかしくないかも。
だってみんなわたしの事見ないもん。書類とパソコンしか見ていないもん。
真面目だなぁ。
時間とかコップの中身とか諸々を考えながら最適なタイミングでお茶を出す。
ふっふーん。言わなくてもいつの間にか飲みたいタイミングでお茶がある。
この楽っぷりを味わうが良い!
「あ、葛城くんそれ違うよ。それ喫茶店AじゃなくてBのやつだよ」
「………そのようですね。ありがとうございます」
「はーい。あ、これ追加のラムネだよ」
「感謝します」
ラムネは良いよ〜。
テーブルゲーム部はラムネ消費量えぐいからね。みんな沢山食べてるし。
「うし、コピー開始、と」
「はーい、回収してきたよー。これで合ってる?」
「はい。ありがとうございます」
お、今日の一位は雪村ちゃんかぁ。
…………なんか、堀北ちゃんと綾小路くん、少し仕事が遅い?
まさか今更さっきのやり取りが恥ずかしくなったの?
今更過ぎるし、どうせ綾小路くん、大学生になったら死ぬ気で起業して、諸々の準備済ませるくせに。
ここ、多分子沢山なのかなぁ?
あー、でもちゃんと考えて計算しながらやってそう。
「…………、ふぅ、紅茶〜〜〜」
「ご用意は済んでおります。お嬢様〜」
「うむ。苦しゅうない」
「本日の御茶菓子は、六種マカロンとベイクドチーズケーキでございます」
「うむ。感謝する。花咲メイドよ」
いつの間にかつけ髭用意して、完全にメイドに世話されている貴族役をやり切っていた。
あ、待ってこれ思ったよりも楽しいかも。
「あ、そうだ。この後も付き合ってもらいますよ?」
「………………何に?」
「コスプレ大会」
………………えっ?
メイドで終わりじゃないの?
生徒会の仕事も完全に終わって、わたしとハルくんは並んで歩いていた。
ハルくんの手元には、わたしのコスプレ写真×二十数枚が。
くそうあいつら、写真ハルくんに押し付けやがって。
……………ぶっちゃけ恥ずいけどちょっと嬉しいじゃないかこのやろう。
「サンタにドレスにアイドルに、雪村は衣装集めるのが好きなのか?」
「多分そうじゃない?あ、あとその写真、絶対絶対絶対絶ぜっ〜たい、外に漏らさないでよ?」
「はいはい。分かってるって」
まだ日も暮れていない時間帯。
…………今からなら、その。
あ、改めて誘うの、やっぱ恥ずいな。
いやだって、実質デートなわけだしさ。
「───どうするほむら、映画でも行くか?」
「………ねぇハルくん。そういうこと、眞子ちゃんとかにもしてるの?」
………その、二人は一時期、まとめ役(南雲の指示伝達係)みたいなのやってた訳だし、さ。
「そういうこと?………あー、男女二人で遊ぶことか?いや、ほむらだけだな」
「そっ、っっっっっか」
あ、のさぁ。
なぁんでサラッとそういうこと言っちゃうのかなぁ。
嬉しくなっちゃうじゃん。…………バカ。
「………映画見て、さ。
その後は、喫茶店でも行こうよ。感想言い合ってさ」
「オッケ。見たい映画とかあるか?」
「あー、あ、最近話題の『オデュッセイア』とか!」
「洋画とかも見るのか」
「入院中暇だったから映画とか沢山見てたよ」
「あー、成程」
まぁ、その。
恥ずかしくなるぐらいコッテコテの恋愛映画見て、意識させるのも手の一つなんだろうけど、さ。
生徒会室だともう愛がお互いに死ぬほど重いカップルの恋愛模様が上映されてるからね。日常的に。
雪村ちゃん曰く、なんか冬休み入ってからやけに距離が近い、とか。
一之瀬ちゃん曰く、なんか櫛田さん一週間休んだと思ったら、綾小路くんとの距離が大分近くなった、とか。
須知ちゃん曰く、頑張って理性働かせているんだろうけど、生徒会室で隠れて頰キスとかしてる、とか。
藤乃ちゃん曰く、あまりにゲロ甘過ぎて砂糖吐きそうだった、とか。
本人達的には、ちゃんと節度ある付き合いに頑張ってしているんだろうけどね。
クリスマスとか絶対凄かったでしょ。
てゆうか今日は多分、その、メイド服で、多分その、ねぇ?
「あの三人見てるとさ、わたしらも恋愛関係とか作りたくなるよね。うん」
「まぁ、その気持ちは分からんでもないぞ」
多分今のところこの学校で一番の勝ち組あの三人だと思う。
次点で堀北先輩と橘先輩。同じラインに金石先輩達かな?
「ま、わたしらは後一年勝負の年だし」
「だな。そろそろ冬休みも終わって、三学期が始まるし」
─────そう。
三学期から、新しい、『エンドのEクラス』が、始まる。
「……………実際どういう人なんだろうな、浅野學峯さんって」
「なんかすっごい合理的な人らしいよね。怖い人だし強い人なんだって。by藤乃ちゃん」
「そういや卜部は椚ヶ丘か」
「まー、今生徒会長副会長会長秘書会計会計監査広報全員椚ヶ丘だからねぇ」
「改めて考えると椚ヶ丘率高いな。たまに椚ヶ丘あるあるで盛り上がる訳だ」
「ふーん。どんなあるあるなの?」
「くぬどんは可愛いか可愛くないかとか、制服は高育と椚ヶ丘どっちの方が好きか、とかだな」
「くぬどんってアレだっけ、マスコットだっけ?」
正直あんま可愛くないと思うんだけどなぁ。
「それに関しては全会一致で可愛くないだったな」
「わぁ可哀想に」
只今ニート中のくぬどんはどうなっているのだろう。
廊下を並んで歩きながら、タイミングを見計らって手を握ろうとするも。
花咲ほむらはどうしても、手を握ることができなかった。
その、恥ずかしいので。
「結局、今日も泊まり、かぁ」
「………そうね。その、少し落ち着かないとダメよね」
「ねぇ。十ヶ月近いアタックの末で、色々ブレーキ壊れてるし」
「………その、多分オレは我慢できる気がしない」
「我慢を覚えなさい。私たちがどっちも生理だったらどうするのよ」
「禁欲期間を設けるか」
「………期間明け絶対やばいから、絶対二人がかりで行こうね?」
「………そうね」
それは、それとして。
「ねぇ鈴音。こういうのは本当にやめよう?色々ヤバいって。マニアックすぎだって」
「あら?あなたも楽しそうにご主人様呼びしてたじゃない。お仕置きもとても悦びながら受け入れていた癖に」
「それは!なんか、その、今日はおかしくなっちゃっただけで……!」
「いつもそうじゃないの」
と、そこで坂柳からLINEが来た。
『少し良いですか』
『構わない』
『父の代理で理事長を務める人が個人的に話がしたいと』
『護衛も兼ねて来てください』
『恐らくは』
『ホワイトルームの刺客でしょう』
眉を寄せる。
成程、そこにねじ込んできたか。
少し、それは、不味いか?
いやでも、あの人なら大丈夫か。
嘗て坂柳成守のいた理事長室で。
その男は、穏やかに笑っていた。
「────やれやれ、綾小路先生もお人が悪い」
男は、綾小路篤臣の指示を思い出していた。
『綾小路清隆を退学にさせろ。ついでに、三年E組の生徒達も』
確かに、超生物を暗殺はした。
確かに、世界を救いはした。
それでも彼ら彼女らは、どこまで行っても学生で。
だからこそ、この学校の改革も何もかも、大人がバックにいなければどうしようもないのだ。
そうして、その大人が、敵に回ってしまえば。
「井の中の蛙、大海を知らず。まぁ、高い勉強料だと思ってください。
反抗期も行き過ぎれば、縁を切られることもありますから」
月城常成は、大人なのだ。
そう。井の中の蛙、大海を知らず。
だからこそ、教えなければ。
例え相手が、どれ程の大人であったとしても、授業をしなければ。
何せ、私は、教師なのだから。
「いよいや復帰ね。あなた。あなたも学秀も家にいないなんて、なんだか寂しいわ」
「すまない。だが、成守の頼みだからな。────それに」
堀北鈴音。
あの、学くんの後を追うことしかできない、期待外れだった少女が、これ程までに育つとは。
これだから、教師という仕事は、辞められない。
「──────私もまた、初心に帰るとしよう」
いつかのように。
のびのびと、『良い生徒』に、育って貰えるように。
椚の葉のネクタイピンを、最後につけて。
その男は、家を出る。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい。學峯。
久しぶりの担任、頑張ってね」
嘗ての支配者。
椚ヶ丘の大魔王。
超生物に、初代死神に並ぶ、怪物。
「あぁ。頑張るさ」
浅野學峯は、妻に見送られて、新しい職場へと、出発した。
月城!参戦!タイマースタート!
次回、『対峙の時間』。