殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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三者面談の時間 一時間目

 高育三者面談。

 三年生が対象で、一月末から行われる。

 今年は合宿や試験の兼ね合いもあって、十二月半ばから行われてきた。

 

「そういえば、今日は学とメメの日か」

 

 職員室でコーヒーを飲みながら、星穹要は、手帳を確認して、そう溢した。

 

「おや、今日は学くんの三者面談なんですか」

「えぇ。おはようございます。浅野先生」

「おはようございます。星穹先生」

 

 現堀北学の教師と、堀北学の恩師は、実は仲が良い。

 星穹要は、人と仲良くなるのが上手いので。

 

「そういえば、二年後の浅野くんの三者面談、面白いことになりそうですね」

「それもそうですね」

 

 一番緊張するのは、実は真嶋かもしれない。

 二年後の三者面談を想像して、真嶋は、震えた。

 浅野學峯の恐ろしさはよく知っている。実感した。

 いや、その、あの日から星之宮がある意味で怖いのだ。

 ニコニコ笑ってこそいるのだが、それが逆に怖い。

 

「…………なぁ、チエ」

「なんでしょう?佐枝さん」

 

 佐枝さんってなんだ佐枝さんって。

 なんだ、その、凄く腰の低い丁寧な感じは。

 酒が完全に抜けると、こんな感じだったか?

 

「…………なんというか、今のお前は、なんだか懐かしいな」

「ひどいですね。まだ七年程度しか経っていないでしょう?」

「十九の頃から基本的に酒浸りだったからな」

 

 そんなに。

 一年生の担任、坂上と真嶋は、目を合わせて、びっくりしていた。

 

「酒を断つと、こんなにも世界が広がって見えるんですね。なんだか、素晴らしいです」

「あぁ、うん。昔はこんなに気弱で丁寧な感じだったのになぁ」

 

 酒、怖いな。

 

「まぁ、たまの飲み会でたくさん飲むくらいで良いんじゃないか?」

「そうですね。禁酒期間明けのお酒は、なんだか本当に美味しいんです」

「……………まぁ、あの絡みっぷりがなくなるのは、なんだか寂しいがな」

「ふふふ。え、えっと、さ、さえちゃーん。そ、そんなに私に絡まれたいのー?」

 

 なんか、可愛いのでは?

 茶柱佐枝は、そんなことを思った。

 

 

 星穹の隣の机の長杖は、先の独り言を聞いて、少し感心した。

 

「そっちは堀北なのか。僕の方は、金石と日野なんだが」

「あら、そっちも?私は風間と天久よ。天久の方は、姉の方が来るらしいわ」

「私の方は園子ちゃんと紫苑ちゃんだね」

「なるほど。三年のクラスリーダーとナンバーツーの三者面談が、同日に被るとはな」

 

 長杖は、緑茶を啜りながら、続きを話す。

 

「まぁ、金石の保護者が居ないんだよなぁ。便宜上は翡翠なんだが。

 ほら、今全国跳び回ってるだろ?だから多分二者面談って形に───」

 

 そこで、長杖の端末が鳴った。

 非通知の番号だが、なんとなく察した。

 

「あー、もしもし?」

『三者面談だったわね。変装して入るわ』

「退職して二日で戻ってくるの面白いな」

『えぇ。今ちょっと気不味いわ』

 

 特に南雲とばったりあったら気まず過ぎる。あんなに良い感じに別れたのに。

 三者面談で戻ることを同行者の二人に伝えたところ、元ブレイド、現刃(やいば)眞一(しんいち)は、綾小路くんにこっそり会うつもりらしい。

 面白いことになりそうだ。

 

 

 同時刻、綾小路清隆の部屋で。

 

 とても美味しそうな良い匂いで、目を覚ました。

 二日前死ぬほど怒られたし、流石に添い寝は辞めとこう。数日は。

 と、お互いに話し合って決めて、門限ギリギリまで触れ合って、お互いに少し悲しみながら、部屋に戻った。

 二人の体温を感じて起きられないのが、こんなに悲しいなんて。

 理性がゴリゴリ削れていたが、それはそれとして、なんだか辛い。

 

「…………味噌汁の匂い。鈴音か」

 

 鈴音も悲しいと思ってくれたのだろう。

 こんなに早くに、部屋に来てくれるなんて。

 そう、その後ろ姿は、短めの黒い短髪で。

 

「起きたか。おはよう。綾小路。朝餉は既にできているぞ」

「あぁ、アンタ(ブレイド)か。おはよう────アンタ(ブレイド)ぁ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 びっっっっっっっくりした‼︎

 えっはっえっはっアンタぁ⁉︎

 

「なんで⁉︎⁉︎⁉︎殺しに来たのか⁉︎⁉︎⁉︎」

「もう殺し屋はやめた。今は防衛省のエージェントだ。

 それに伴い名も変えた。刃(やいば)眞一(しんいち)と呼べ」

「はっ?はっ?はっ?はっ?」

 

 脳みそが情報を処理できてない‼︎

 

「食器は、この赤色のやつで合ってるのか?青と黄色は使わないようにしたが」

「合ってるけど⁉︎合ってるけど⁉︎なんで⁉︎なんなの⁉︎」

「あぁ。今は月城と共に全国を跳び回ってホワイトルームの内部情報をばら撒いている翡翠恵の護衛をしていてな。

 今日は金石博の三者面談らしいから、学校に戻ってきた。

 俺は、それについて来た形になる」

「待て待て待て待て寝起きの頭が爆発しそうなんだが⁉︎」

 

 翡翠先生がその為に辞めたのは知っていたがお前が同行者なのか⁉︎

 月城が現防衛省のエージェント⁉︎

 今日は金石先輩の三者面談⁉︎

 いや、百歩譲ってそれは置いておくとして、なんで今朝ご飯作ってるんだよコイツ⁉︎

 

 混乱の余り気絶しそうになっていたところで、チャイムが鳴って、鍵が空いた。

 

「おはよう清隆!朝ご飯作りに来た───」

「おはよう櫛田。いつも綾小路が悪いな」

「────ブレイド⁉︎なんで⁉︎」

「今は防衛省のエージェント、刃眞一だ」

「────なんで⁉︎何が⁉︎」

 

 その反応、よく分かる。

 うん。

 そのすぐ後、チャイムがまた鳴って、鍵が空いた。

 

「おはよう。二人とももう来てたの─────」

「おはよう堀北。朝ご飯はもう出来ているぞ」

「???????????????????」

「ブレイド改め、防衛省のエージェント、刃眞一だ」

「??????????????????????」

 

 鈴音は、完全にフリーズした。

 

 オレ達全員が、再起動するまで、五分。

 その間に、全員分のお米と味噌汁を盛り、付け合わせの漬物を皿に載せ、秋刀魚を焼き上げて並べていく、元殺し屋現エージェント。

 再起動してからも、オレ達はまだ、あまりの情報量に、動きが固かった。

 処理落ち前のパソコンみたいだな。

 

「さて、飯を食え」

「いただきます??????」

「いただきます??????」

「いただきます??????」

「いただきます」

 

 あ、美味しい。

 高級料亭の朝ご飯並に美味しい。

 高級料亭の朝ご飯食べた事ないけど。

 ブレイド、じゃなかった刃のやつ食べ方綺麗だな。

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした??????」

「ごちそうさまでした??????」

「ごちそうさまでした??????」

 

 あ、洗い物やらないと。

 あ、調理器具持参してたのか。

 

「マイスポンジあるぞ。汚れが落ちやすい良いやつだ。特別に一つやろう」

「ありがとう??????」

 

 あ、歯磨かないと。

 あ、ブレイド、じゃなかった、刃の歯ブラシない。

 

「マイ歯ブラシは持って来た。気にするな」

「そっか??????????」

 

 あ、制服に着替えないと。

 クローゼットを開けると、そこには三人の制服が。

 

「……………?何故堀北と櫛田の制服がこの部屋にある?」

「あー、いつもここで朝ご飯三人で食べてから登校するし、ここで着替えたほうが楽なんだよね」

「えぇ。効率を重視した結果よ」

「なるほど?????????」

「あ、そっか、今日は脱衣所で着替えないと」

「そうね。清隆くん以外に肌を晒したくはないもの」

 

 刃がいるので、二人は今日は脱衣所で着替えた。

 いつもはリビングで着替えている。

 

「???????????????」

「どうした?」

「…………その、仲が、良いんだな」

「まぁ、付き合ってるし」

「両方と????????????」

「まぁ、その、そうなる」

「なるほど。そうなるのか」

 

 ふぅ。やっと、ある程度の情報を処理できた。

 なるほど、なんで学校に来たのかは分かる。

 ただし、まだ分からないことがある。

 

「なんでお前は朝ご飯を作っていたんだ???????」

「一応客人なんだ。それぐらいの恩返しはするものだろう」

「ホラーでしか無かったんだが????????」

 

 やっぱホワイトルームやばいところだったんだな。オレ以外のホワイトルーム生こんな奴しか居ないのか。

 ※一期生並びに八神天沢は激おこカムチャッカファイヤー。同じにするな。

 

「はぁ、まぁ、うん。

 まぁ、殺し屋辞めれてよかったな」

「まぁ、そうだな。

 烏間にスカウトされて、俺も、新しい生き方を始めてみようと思ってな」

「いつスカウトされたんだ?」

「お前達の卒業式の日だ。依頼の帰り際に、俺だけスカウトされた」

 

 そっ、か。

 烏間先生は、ホワイトルームへの、対抗策を。

 

「月城は、その、元気にやっているのか?」

「あぁ、とても楽しそうにエージェントしているぞ」

 

 防衛省のエージェント、かぁ。

 最近ドラマで見たな。堺雅人のやつ。別班か?

 

「それではない。別班の担当はアジア近辺だろう?我々は主に国内かヨーロッパ、或いは中東だ」

「あー、だからビッチ先生スカウトされたのか」

 

 …………………あれ?

 別班マジであるのか?

 

「名は違うが、似たような組織はある」

「マジでか」 

「マジだ」

 

 凄いな防衛省。

 オレも入れる?

 いや、入るつもりはないけどさ。拷問とか嫌だし。

 

「ふむ。実に楽しそうに学校生活を送れているようだな。安心したぞ」

「親戚の叔父ちゃんか??????」

「似たようなものだろう」

「確かに???????」

 

 また情報量増えた。

 もう処理しきれないって。

 

「恋人達と仲が良いのは大変よろしいことだが、節度はしっかりな」

「あぁ。浅野先生にも怒られたし、今は禁欲期間中だからな。添い寝も出来ていない。

 …………悲しい。辛い」

「まぁ、若者らしくて良いんじゃないか」

「アンタもかなり若くないか?」

「今は二十一だ」

 

 若いな。大学三年生か。

 …………そう言えば、今日で禁欲期間終わるんだよな。

 土日を挟んで、月曜日から合宿か。

 二日前怒られたばかりだが、ここからさらに一ヶ月は流石にきつい。

 ので、その、うん。

 

「あぁそうだ。これを渡しておこう」

 

 渡して来たのは、白いUSBメモリ。

 何が入っているんだ?

 

「月城から、新一年生の担任として、ホワイトルーム一期生が三人送り込まれるとのことだからな。

 なんとか持ち出せた、一期生の情報だ。一部だけだが、確認しておけ」

「担任教師として、ホワイトルーム一期生がか?」

 

 ホワイトルーム生に教師とかできるのか。いやできまい。

 

「一期生は、今の所お前と八神達以外で唯一の成功作。

 その実力は、生半可なものではない」

「まぁ、油断はしないさ」

「奴らだけがお前達を知っているというのは、流石に不公平だからな。まぁ、俺にできるのはこれぐらいだ」

「十分だ。ありがとう」

 

 ホワイトルーム一期生。

 話でしか聞いたことの無い、オレ以外に存在していた、ホワイトルームの成功作。

 

「そう言えばお前は、ホワイトルームの何期生だったんだ?」

「二期生だな。感情を殺すカリキュラムを試験的に導入された世代だ」

「改めて思うが、なんだってこんな、共感性のかけたサイコパスを生み出すようなカリキュラムを?」

「一番の目的は、従順な成功作を作る為だ。

 一期生はとてもでは無いが、従順ではなかったからな」

 

 あぁ、そういうこと。

 だからアイツ、オレが勝手に動き出して、あんなに怒ってたのか。

 成功していたはずの一期生が、感情のせいで、まともに言うこと聞かないから。

 

「ふーん。思ったよりも単純な理由だったんだね」

「そうね。感情を無くせばより優れた人材になる、みたいな妄想が理由だと思っていたのだけれど」

 

 着替え終わって出て来た二人は、アイツのその動機を、とてもあっさりと罵倒した。

 そうだよな。そう思うよな。

 

「一期生、ねぇ」

「どんな人たちなのかしら。気になるわ」

「あぁ、それと、一期生が教師として送り込まれるから、対策として、イリーナも来年からここに赴任する。

 一年Dクラスの担任だ」

「マジで⁉︎⁉︎」

「マジだ」

「うわーい!やったー‼︎」

 

 桔梗、すっごい嬉しそうだな。

 まぁ、桔梗はビッチ先生大好きだったからな。

 

「では、俺はこのあたりで失礼する。

 縁があれば、また会おう」

 

 刃は、窓から飛び出して消えていった。

 オレらよりも動きのキレがエグいなおい。

 

「なんか、強烈だったね」

「だな」

 

 強烈なんて言葉じゃ役不足な気もするが。

 

「あ、そうそう。清隆くん。今日の放課後、三者面談でお父さん来るのだけれど、どうする?」

「あぁ、その、色々説明して、謝罪もしなくちゃだしな」

「あー、私、先部屋でご飯作っとくね」

 

 まずは、その、しっかり謝罪しないと。

 

 

 そして放課後、堀北学と占藤メメは、廊下で並んで待っていた。

 

「…………良かったのか。綾小路議員との対立は、お前には関係ないだろう」

「まだ言ってるの?覚悟は決まってるわよ」

 

 しかし、この為に家族との縁まで切るなんて。

 

「ま、とっととなんとかしましょう?そうすれば、縁を切る必要もなくなるもの」

「そうだな。一年以内に終わらせる予定だ」

「うんうん。仕送りも無しで大学生活なんて、ねぇ?」

「…………気にするのはそこなのか」

 

 やはり、自由で、強い。

 そこは素直に尊敬に値する。

 夕焼けで優しい赤色に彩られた横顔を、ちらりと見ながら、堀北学はそんなことを思った。

 今度は、占藤から。

 

 

「大学は、やっぱり東大なのね」

「まぁな。占藤もだろう?」

「えぇ。にしても意外ね。ハーバードとか行かないの?あなたなら行けるでしょう?」

 

 浅野先生は、ハーバード卒だった、のよね。

 海外留学とかは、興味ないのかしら。

 

「まぁ、それよりもやりたいことが出来たからな。国内で色々と、な」

「ふぅん?何がやりたいの?」

「あぁ、総理大臣になろうと思ってな」

「????????????????」

 

 なんて?なんで?

 あなたは何を言っているの?

 

「あ、あなたは、その、政治の世界とか、興味無さそうだと思っていたのだけれど」

「あぁ。別に政治の世界に興味があるわけではないが、妹は多分、重婚出来る国に三人で移住するだろう?」

「そう、ね」

 

 多分、金石くんとかもそうするわね。

 会うことが難しくなるのは、少しばかり寂しいけれど。

 

「だから、総理大臣になって、日本を重婚出来る国にしようと思ってな」

「あなたは何を言っているの?????」

「多分大学を卒業したら結婚するだろうから、まぁ、社会人になってから二年程度、か」

「二年で総理大臣なるつもりなの?????」

「丁度二十五歳になるからな」

「議員歴0年で成るつもりなの??????」

 

 本気で言ってるのが怖い。でも、出来そうなのも怖いのよね。

 国会なんて、多分ここよりもずっとヤバいところな気がするけれど。

 

「別に一緒に暮らしたりはしないが、父さんや母さんが会いたい時に簡単に会えるようにしたいからな」

「そんな理由で総理大臣やるつもりなの????」

 

 重婚合法化なんて、日本を思いっきり変えるものなのに。

 それを為す目的が、家族が簡単に会えるようにする為だなんて。

 正気?頭の良いアホだったわね。

 

「…………それに、綾小路が、友達と離れ離れになったりするのは、ダメだろう。

 アイツは、もっと幸せに生きて良いはずだ。

 これまでずっと、空っぽの人生を送らされて来たんだから。

 これからは、楽しいことばかりの人生でないと、割りに合わない」

 

 まぁ、その気持ちも分かるけれど。

 でも、その。

 

「思ったよりも、気に入ってるのね」

「まぁな。なんというか、放っておけないんだ。将来的には、家族になる男だし」

「そう。まぁ、頑張りなさい。応援してるし、手が必要なら協力するわ」

「あぁ。そうさせて貰う」

「学。待たせたな」

 

 そこで、知らない男の人、多分、学くんの父が、話しかけて来た。

 思ったよりも、普通の人なのね。

 

「久しぶり。父さん。鈴音にはもうあったか?」

「あぁ。なんだったら、ここまで案内してくれたのは、鈴音と清隆くんだ」

「綾小路にももう会ったのか」

「まぁな。一応、デコピンはしておいた。どうやら学が、たくさん殴ったようだからな」

「ふっ、まぁ、二股はともかくとして、奴なら安心して任せられる」

「そうだな。二股はともかくとして、鈴音のことをとても大切にしてくれる子だ」

 

 会話を聞いていた私は、思わず笑ってしまった。

 常識的で、けれど、良識的な大人なのね。

 学くん達のお父さんは、私に目を向ける。

 

「おぉ。お前の彼女か?学?」

 

 私も、学くんも、固まった。

 な、るほど。二人並んで待っていたから、そう勘違いするのも無理はない、わね。無理はない、のだけれど。

 き、気まずいなんてものじゃないわね。

 

「い、いや。彼女は、その、恋人ではないんだ」

「そ、そうです。ま、学くんの友達の、占藤メメと申します。いつも学くんには助けられています」

 

 自分で言っててちょっとだけ辛いわね。

 まぁ、流石に、そろそろ吹っ切れる、よね?

 

「あ、あぁそうなのか。すまないね。勘違いして」

「堀北さん。学。時間ですので、入ってください」

 

 ヨウ先生の呼び掛けに従って、学くんとお父さんは、教室に入っていった。

 学くん、時々発想がヤバいのよね。

 生徒達からの信頼をより得る為に、より生徒が楽しく学校生活を過ごせるようにする為に、生徒の意向をより簡潔に反映させる為に、商業施設に食い込むなんて。

 それで出来ちゃったのも、凄いわよね。

 

「…………重婚の、合法化ねぇ。日本はあなたの遊び場じゃないのよ?」

 

 全く。頭の良いアホよね。

 重婚の合法化なんて。……………なん、て。

 …………………………あ、あれ?私にとっても好都合だったりしない?

 

「──────っ‼︎」

 

 思わず立ち上がってぐるぐる歩き回ってしまう。

 考え込む時は、こういうことするのが癖なのよ。

 いえ、そんなのどうでもよくて。

 

「わ、私も、結婚できる??????」

 

 い、いやいやいやいやいや。いやいやいやいやいや……………。

 あ、あり、なのかしら?

 待ちなさい。落ち着きなさい占藤メメ。深呼吸よ深呼吸。

 

「すー、はー、すー、はー、すー、はー」

 

 よし。落ち着いたわ。

 色々情報を整理しましょう。

 学くんの目標は重婚合法化。

 学くんと茜ちゃんは多分結婚するとして。

 茜ちゃんを、納得させることができる、かしら。

 わ、私なら、その、多分出来る、かな?

 

「いやそうじゃなくて」

 

 で、でも、重婚の合法化は学くんがやることだし。

 そ、そうよね!合法化した人だし、一番初めに制度使って貰えば!うん!

 

「あっ、でも藤乃どうしましょう」

 

 ふ、藤乃も、その、ねぇ?

 あっ、でも私学くんに振られ───てない‼︎

 告白したけど答え要らないって私から言ったんだった‼︎

 じゃ、じゃ、じゃあ、アリ、なのでは…………………?

 

「い、いやいやいや。で、でもでもでもでも」

「なーにしてんのよ愚妹」

「あいたっ」

 

 うう。お姉ちゃん、力強すぎ。

 ていうかお姉ちゃんなの?お母さん達は?

 

「ふーん。なんか、変わったわね。ここに来る前は、人間なんてどうでも良い、みたいなのを隠そうともしてなかったのに」

「うるさいわね」

  

 三年もあれば変わるわよ。当たり前でしょ?

 

「まぁいいわ。で、あんたどうすんのよ」

「あー、卒業したら、一回一人暮らししてみよっかなって。完全に一人になりたいから、連絡とかも取らないし、住所も教えないわ。ま、つまりは縁を切るって事になるわね」

「なにそれ?駆け落ち?」

「違うわよ。バカ」

「まっ、好きにしたら。母さん達には、私から言っとくわよ」

「………ありがと」

 

 うん。そうよね。

 学くんとのあれこれは一旦おいといて、今は、綾小路議員を、なんとかしないとね。

 とっとと終わらせましょう。

 

「さて、メメ。それから、占藤さん。どうぞ」

 

 さぁ、三者面談を、始めましょう。

 

 

 三年Bクラスの教室では。

 

 呆れた顔の金石と長杖が、マスクにサングラスに帽子を被った翡翠を見ていた。

 それで変装のつもりなのか?

 

「ねぇ先生。アホなの?」

「うるさいわね」

 

 自覚はあるのか、目を逸らしながら、軽く金石の額にデコピンする。

 せっかく良い感じに別れられたというのに。

 

「まぁ、それは置いておくとして、結局金石は、何になるつもりなんだ?」

「大学在学中には起業して、そのうち海外に本社を構えようかなって」

「なるほどねぇ。ま、お前ならどうとでも出来るだろうよ」

「頑張りなさい。博。応援してるわ」

「はいはい。ありがとうね」

 

 ……………本当。綾小路と話せて良かったよ。

 復讐心を忘れたわけじゃない。でも、それ以上に。

 僕は、この学校が楽しかったんだって、そう思えたから。

 ……………まぁ、僕も、その、二股しちゃったのは、かなり良くない影響を受けているけど、ね。

 

「ふふふふ、ねぇ、博。

 あなたは今、何を感じているのかしら?」

「うーん。楽しくて、嬉しい、かな。

 きっと、この三年間は、僕の人生最良の時間だったから。

 ────今のところは、ね」

 

 別にここが頂点な訳じゃない。

 ここから先も、人生は続いていくんだから。

 だから、僕は、さっさと全部を終わらせて。

 後は、幸せになる為に、生きようと思う。

 

「ま、お前さんの教師になれたのは、おじさんの人生でいちばんの幸運だったぞ」

「えぇ。私もよ。あなたを育てられたのは、私の人生いちばんの幸運だったわ」

「はっははははははは。嬉しいこと言ってくれるな」

 

 それはそれとして、学、綾小路。

 最後の特別試験、君たちに挑戦するよ。

 

 覚悟しなよ。

 最後に勝つのは、僕だ。

 

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