殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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三者面談の時間 二時間目

 白銀家。

 アイヌの豪族をルーツに持つ、非常に長い歴史を持つ、北海道随一の名家。

 だからこそ、私は、幼少期から英才教育を施されて来た。

 

「────園子、分かっていますね。

 クラスでの勝利に、これ以上拘るのは辞めなさい。

 彼らは、あなたの足手纏いでしかないわ」

 

 母は、こういう人だ。

 家の名誉を何よりも重んじる、そんな人。

 足手纏いとかそんなわけない。でも、反発したら、絶対怒るから。

 

「日本の上流階級、俗に言う名家と呼ばれる家は、この学校の仕組みも皆知っています。

 分かりますか、園子。白銀家の令嬢たるあなたが、Aクラスで卒業出来ないということは、我が家の名誉にも泥を塗ることとなります。

 それは、決して許されることではありません」

「…………存じております」

 

 私は、恵まれて生まれた。

 名家に生まれて、名家の教育を受けて、それに応え続けて。

 大変でこそあったけど、家の名を背負うんだから、当然だと思っていた。

 私は、白銀園子だから。

 

「本来ならば、一度たりとも敗北を刻んではいけなかったのですよ。

 相手が堀北学だとしても関係ありません。あなたは勝たなければならなかった」

「……………存じております」

 

 知ってる。知ってるのよ、そんなこと。

 お母様に言われなくても、分かっているわ。

 嘗て、私は、勝つ為に。能力の劣るクラスメイトを切り捨てて。切り捨てたからこそ、私は、決して負けてはならなかったのに。

 本気も引き出せずに、学達に完敗した。

 遊真がいなければ、クラスはバラバラになっていたし、紫苑がいなければ、私は今も、きっと。

 

「あのような一般の者に負けるだけでも認め難いのに、よりにもよって金石博にも負けるなんて。あんな、みずぼらしい孤児に───」

「失礼ながらお母様。そのような発言は、お母様の品位を下げるお言葉であると、畏れ多くも進言致します」

 

 これは、ダメだ。それだけは、認められない。

 それだけは、私が私である為に、守らなければならない、一線だ。

 

「─────へぇ。言うじゃない」

 

 ……………わ、笑った?

 怒ると思ってたのに。

 

「なら、改めて聞くわ。園子。

 あなたにとって、今のクラスは、足手纏いかしら?」

 

 少しだけ、何だか、お母様に近づけた気がする。

 だから、安心して、言い返せた。

 

「────いいえ、私の力で、私の誇りで、私の支えです」

 

 彼らが居なければ、今の私は居ない。

 今の、白銀園子は、居ない。

 

「そう。なら、何も言うことはないわ。

 最後まで、このクラスの白銀園子として、鍛え挑み戦いなさい。

 白銀家の名誉を背負って戦うなんて、そんなことよりも、あなたはきっと、このクラスの白銀園子として戦った方が強いもの。

 好きに生きなさい。好きに戦いなさい」

 

 ────それ、は。

 

「嘗てのあなたは、これを言われたところで、悩むだけだったでしょうけど。

 今のあなたは、ここで三年間、戦い抜いたあなたは。

 もう、大丈夫だもの」

 

 別に、家を背負うことが、嫌だったわけじゃない。

 家の為に生きることも、嫌だったわけじゃない。

 でも、何となく、思っていた。

 私は、白銀園子以外の、何かになりたいって。

 でも、そう、だった。お母様に言われて、ようやく、気付けた。

 私はもう、名家白銀家の、白銀園子じゃない。

 このクラスの、みんなのクラスリーダー、白銀園子。

 ──────この三年で、それになっていた。

 

「それで、あなたは、何になりたいのかしら?」

「卒業したら、大学で、沢山学んで」

 

 その後は、もう、決めている。

 この三年で。クラスのみんなと一緒に、戦い続ける中で、答えに辿りついた。辿り着けた。

 

「そうして、家を、継ぎます」

 

 別に、家が嫌いなわけじゃない。

 寧ろ好きだった。

 みんなで雪掻きした思い出も、沢山雪だるまを使ったことも、牧場で馬に乗ったことも、何もかも。

 ここに入学するまでは、そう生まれたから、そう言っていた。

 でも、もう、違う。

 私が、そう生きたいから。

 

「……………そう。

 ちょっとだけ、悲しいけれど、でも、嬉しいわ、園子」

「お母様…………」

 

 お母様は、門脇先生に、向き合って。

 ゆっくりと、頭を下げた。

 

「あなたのお陰です。門脇先生。

 園子がここまで強くなれたのは、間違いなく、あなたが、担任でいたからです」

「頭を上げてください。白銀さん。

 私は教師です。当たり前のことを、やって来たまでですよ」

 

 そう。門脇先生は、当たり前のことだけを、教えてくれた。

 だからこそ、私はきっと、強くなれた。

 

「……………いい教師、それに、いい三年間だったようね」

「えぇ。お母様。今がきっと、最良の時間です」

 

 でも、今で終わりになんか、しない。

 

「ここから先も、最良の時間にし続けます」

「その意気やよし。突っ走りなさい。園子」

「はい!」

 

 多分初めて、お母様と、笑い合えたかも。

 

 

 三年Dクラスの教室では。

 

 僕の親は、変人だ。

 

「ここが高育かぁ、テーマパークみたいだなぁ」

「どのあたりにテーマパーク要素あるんだよ馬鹿親父」

「いや実際に遊園地敷地内にあるじゃん。あれ俺も遊んでいいやつ?」

「良いわけないだろ馬鹿」

「それにしても先生お綺麗ですね。この後ご飯とかどうです?てかLINEやってる?」

「娘の前で担任口説くなこのクソ馬鹿親父‼︎また母さんに怒られるぞ‼︎」

「愉快なお父さんね。面白いじゃない」

「褒められちゃったね。律」

「皮肉に決まってるだろ大馬鹿クソ親父‼︎」

 

 あぁ、本当に疲れた。

 まだ本番に入ってもいないのに。

 

「さて、風間の希望は、と。

 ふーん、一般企業に就職、ねぇ。議員とかどう?あなたなら、多分総理やれるんじゃない?」

「おー、良いなぁ総理。娘が総理なんて、すっごい自慢だぞ」

 

 全く。無責任なことを。

 なれるわけないだろう。

 

「…………僕に上に立つ器はない。この三年で、痛いほど学んださ。

 だから、人の上に立つ仕事にだけは、就かない」

「あら、あなた、ちゃんとリーダーやれてるじゃない」

 

 それは、結局のところ、みんながやるつもりがないだけだ。

 

「…………事実として、僕のクラスは、今最下位だ。二年生末までは、Bクラスまで後一歩だったのに」

「あぁ。あの時期から、白銀覚醒したものね。それでもなお、Bクラスの座を守り続けている金石も、常に上に居続けている堀北も、確かに相当に強いわね」

「そいつらに比べたら、僕なんて、大したことはない」

 

 赤羽が、あと二年早く入学してくれたら。

 アイツさえ同じ学年だったなら、勝てたかもしれない。

 同じクラスに、アイツさえ居てくれたなら。

 

「ふぅん?少なくとも私は、あなたは人の上に立てる人だと思うわよ。風間」

「だとしたら、裏切る人間なんて出て来なかったさ。堀北も金石も白銀も、裏切者なんて一人も出さなかった」

「まー律は小さいからな。その辺りは母さんの血だ」

「………………うるさい」

 

 黒井は、残念そうに。

 でも、少しだけ、怒っていた。

 

「──────ねぇ、風間。あなた、自分がリーダーじゃなければ、なんて思ってない?」

「………………まぁ、そう、だな」

「それは、クラスメイトへの侮辱よ。あなたを信じて、あなたに着いてきた、他のクラスメイトへの、ね」

「そんなわけない。アイツらは、上に立つのが僕でさえなかったなら、きっと───」

「そのアイツらが、あなたが上に立つことを認めて、従っていたのよ。

 その意味を、もっと、理解しなさい」

「……………分かったよ」

 

 一年生を見ていると、自信がなくなりそうになる。

 堀北鈴音なら、赤羽業なら、恐らく、このクラスをもっと上まで導けるはずだ。

 そう、思って。

 

「律は気にしすぎだぞー?もっーと気楽に行きなよ!」

「親父は気楽すぎるんだ!」

「ふふふふふ。あなた達は、足して二で割るくらいでちょうど良いのかもね」

 

 ……………そう、か。

 僕も、もっと、気楽に生きても、いい、のかも。

 

「その、黒井。

 進路、考え、直したい………です」

「構わないわ。卒業まで待つわよ?

 卒業してからでも、風間からなら、別に良いけどね」

「………ありがとう、ございます」

「良い先生だな。律」

 

 あぁ。そうだよ。親父。

 僕にとっては、きっと、良い先生だ。

 

 

 天久天馬の強い要望により、天久鷹央は、嫌々ながらも三者面談を引き受けた。というより姉に引き受けさせられた。

 運転手は当然小鳥にやらせるとして。

 

「…………迷ったな」

「…………迷いましたね」

 

 まぁ、初めてきた学校だし、しょうがないな。

 というかなんで、僕は有給を取ってまで、鷹央先生の三者面談に付き添っているのだろうか。

 

「おい小鳥。地図とかないのか」

「持ってるわけないでしょう」

「なんだ、使えんな」

「ひどくないですか?」

 

 しかし、ここが、高育。

 国内最難関の高校。鷹央先生に歳の離れた妹がいることは知っていたけど、その妹が、ここに通っているなんて。

 僕一応受けたけど落ちたんだよなここ。

 にしても、凄いよなここ。チラッと見えたけど観覧車があったし。学園都市、というやつか。

 

「…………あのー、もしかして、保護者の方ですか?」

「うひゃっ」

「わっ」

 

 鷹央先生が凄くびっくりしたから、僕までびっくりしてしまった。

 お団子ヘアーの女子高生が、申し訳なさそうに、頭を下げていた。

 

「驚かせちゃってごめんなさい。私、ここの三年生の、橘茜って言います。えっと、どちらのクラスの生徒さんの三者面談ですか?案内しますよ」

 

 凄く礼儀正しい、優しい良い子だ。

 とても可愛らしい顔立ちだし。

 

「……………おい小鳥、女子高生は犯罪だぞ」

「そんなつもりはありませんって。というより、なんで僕たちが保護者だと?」

 

 どちらかというと、僕は保護者の保護者なんだが。

 

「ここは基本的に外部の人が来れませんし。あなた方の顔も見たことありませんでしたから。それに、首にかけている来客証もありますからね。

 今は三者面談期間中ですから」

「………………ほう。存外優秀な生徒なんだな。アホそうな顔なのに」

「ちょっ、先生‼︎」

 

 アホそうな顔って‼︎

 女の子は流石に怒ったらしい。初対面でこんなこと言われて怒らない訳がない。

 

「そ、そう、ですか。

 不法侵入者のようなので、警備員呼びますね」

「違う違う違う違う違いますごめんなさい‼︎ほら、先生も‼︎」

「ちょ、やめ、アホそうな顔にアホそうって言って何が悪い‼︎それに褒めたろ!存外優秀だって!」

「そんな取ってつけたような褒め言葉なんて意味ないですよっ‼︎」

 

 残念ながら肉体的には弱々の先生なので、至極あっさりと頭を下げさせることができた。

 凄く悔しそうだけど、これに関しては仕方ない。

 

「あら、茜先輩?どうしたんですか?」

「鈴音さんに、綾小路くん。案内しようとしたら、こちらの女性がアホそうな顔とか言ってきたんですよ?酷くないですか?」

 

 とてもかっこいい顔の、少しだけ表情の薄い男子生徒と、短い黒髪の、大人っぽい綺麗な女子生徒は、頭を下げさせられている女性、即ち鷹央先生に、非難するような視線を向けた。

 高校生にこんな視線向けられることをもっと重く受け止めてください。

 

「どういう流れでそうなったんですか?」

「なんか、男性の方が、なんで三者面談の保護者だって分かったのかって聞いてきたので、理由を説明したら、存外優秀だなって。

 アホそうな顔さえなかったら、ただの褒め言葉だったんですけどね」

 

 大人っぽい女子生徒は、深い溜息を吐いた。

 聞こえないくらい声を抑えながら、三人でやりとりしていた。

 まぁ、でも、その、鷹央先生、五感鋭いからなぁ。

 

「三者面談、先生によっては、大変なことになりそうね」

「ですね。保護者がこれって、やばくないですか」

 

 あぁ、力強くなった。

 たぶん、本人的には失礼なこと言われたんだろうなぁ。ただの事実なんだけど。

 

「お、なんか面白そうなのやってるじゃーん。どうしたの?」

「そちらの、えっと、中学生、でしょうか?」

「いえ、来客証を下げているので、大人だと思います」

 

 また増えたな。

 赤い髪の優男みたいな生徒。おさげに眼鏡の優等生。おっとりした本を抱えた文学少女。

 

「カルマか。まぁ、その、アレだ。橘先輩が初対面でアホっぽい顔って言われて、な」

「へぇー、なんか面白い人だね」

「相変わらずね。赤羽くんは」

「ま、まぁ、初対面で失礼なことも言うのは、カルマくんもですから」

 

 全員友達らしい。なんだか仲が良いな。

 

「……………もしや」

 

 文学少女が、目を見開いて僕たちを観察している。

 

「─────確認です。あなたは、天久天馬先輩の、保護者ですか?」

 

 そこで、鷹央先生は、暴れるのを完全にやめた。

 大丈夫そうなので手を離すと、立ち上がりながら、鷹央先生は少女をジロジロと観察する。

 

「ほう。なぜそう考えたのか、話して貰おうか」

「………はい。私は今日、天馬先輩に、『放課後教室に来てください』とメッセージを受け取ったので、三年Dクラスの教室に向かうところでした。

 天久先輩が、どうしてこのようなメッセージを送ってきたのか、あなた達を見て、確信しました」

 

 天馬って、鷹央先生の妹さんの、天久天馬さんだよな。

 同じ部活の後輩とかなのかな。仲が良さそうだし。

 

「中学生と錯覚するほど小柄な女性と、鍛え上げられた肉体の成人男性。そして、天然で毒を吐く傍若無人な態度!」

 

 この子も天然で毒を吐いている気がする。

 

「間違いありません!完全に特徴と一致しています!あなたこそ、現代のシャーロック・ホームズと名高い、天医会総合病院の診断医にして名探偵!『天久鷹央』先生なんですね‼︎」

「────ほう。私のファンか。見る目があるな」

 

 鷹央先生のファンか。見る目がないな。

 

「サインください‼︎」

「いいだろういいだろう。幾らでも書いてやる。他にもサインが欲しい奴はいないか?」

 

 分かりきっていたことだけど、少女以外は誰も欲しいとは言わなかった。

 

「いや、その、凄い人なのかもしれませんけど、初対面でアホっぽいとか言ってくる人のサインとか、いらないです」

 

 うんうん。そうなるよね。

 

「茜先輩に同意ですね」

「まぁ、そうだな。幾ら何でも初対面でそれは、なぁ」

「ていうか、結構ニッチな人じゃない?売っても金にならなそうだしいらない」

「は、はい。多分この学校で、親族の天久先輩と、椎名さん以外知っている人いないと思います」

 

 なんか若干一名転売しようとしている子がいる。転売は、その、良くないぞ。

 

「待ってください橘先輩!天久先生は天才なんです!天才とはすぐそう言う人間なんです!」

「学くんとか天才ですけどそんなことありませんよ?」

「…………………くっ」

 

 言い負かされた。ファンの子でも、これ以上は擁護出来ないらしい。

 

「…………まぁ、天馬さんのお姉さん、なんですね。

 三年Dクラスの教室まで案内します。着いてきてください」

 

 ありがとう。本当に、ありがとう。

 手っ取り早く自己紹介も済ませて、案内してもらう。

 Dクラスの教室に行くまでの間、綾小路くんと赤羽くんとは、よく話していた。最後尾では、色々な事件の話を椎名さんが質問して、鷹央先生が答えていた。奥田さんは、鷹央先生に、医薬品について質問していた。

 奥田さんの質問、思ったよりもレベルが高いらしい。鷹央先生も楽しそうに答えていた。

 先頭の堀北さんと橘さんは、とても仲良さげに話しが弾んでいる。

 

 と、そこで教室に着いたらしい。とても近未来的な扉だ。

 

「ここが教室です。と、天馬さん」

「あーたん!おや、すずたんたちもいるんですね。

 あら、しーたんはもう、お姉ちゃんと会ったんですね。サプライズのつもりだったんですが」

「いえそんな!本当にありがとうございます!天馬先輩‼︎」

 

 凄く楽しそうだったな、椎名さん。

 ミステリーが大好きらしい。

 

「いえいえ。お役に立てたのなら何よりです!

 それじゃあお姉ちゃん、三者面談、いきましょうか!」

「はいはい。分かったよー」

 

 半ば引きずられるようにして、鷹央先生は、教室に連れ込まれた。

 ……………三者面談が終わるまで、暇になったな。

 

「そういえば、小鳥遊先生って、天久先生と付き合ってるんですか〜?」

「そんなんじゃないよ。ただの上司と部下だから」

 

 赤羽のヤツ、とても楽しそうにそんなこと聞いてくるな。こういう揶揄い方するヤツなのか。

 全く、あの人とはそんな関係じゃないのに。

 

「本当かな〜?だって先生、わざわざ有給取ってまで付き添ってるんでしょ〜?」

「目を離すと何しでかすか分からないからね。今も不安だよ」

「ふ〜〜〜ん?」

 

 尊敬はしてるけどね。そういう信用も信頼もない。

 というか、そういう赤羽こそ。

 

「赤羽は、奥田さんと椎名さんのどっちと付き合ってるんだ?」

「いや、まだ付き合ってないよ」

「ふーん。ま、告白はあまり躊躇ない方がいいよ。というか、二人侍らせてるの中々に悪い男だなぁ」

 

 とか言ったら、赤羽がすっごく悪い笑みを浮かべている。

 綾小路は、ヤッベ、とでも言いたげな顔だ。どうかしたんだろうか?

 

「悪い男っぷりなら、綾小路の方が圧倒的に上だよ。なんたってこいつは、公認二股男だからな」

「ふ、二股⁉︎公認⁉︎」

「黙れバカルマ。本当に」 

 

 綾小路は一瞬で腕を捻り上げた。うっわ、間接極まってる。赤羽絶対痛いやつじゃん。

 いや、それよりも。

 

「ふ、二股してるんだ、綾小路。最近の高校生は凄いな」

「流石に綾小路くんは外れ値ですよ?」

 

 椎名さんはそう訴えるけど、正直赤羽も、割とどっちにも同じような感情向けているというかなんというか。

 

「あ、あれ?綾小路は堀北さんと付き合ってるんだっけ?」

「そうですよ」

 

 改めて、堀北さんを見てみるけど、高校生とは思えないくらい、大人っぽくて綺麗な人だ。

 この子だけでも相当に凄いのに、さらにもう一人だって?

 なんか、男として負けた気がする。いや、二股は良くないんだけど。あ、でも、公認って言ってたな。そう考えると、その、ありなのか?

 

「ち、ちなみに、もう一人はどんな子なの?」

「写真あるよ?見る?」

「腕を折るぞ大バカルマ」

「いっでででででで、愛美さん!任せた!」

「わ、わぁ」

 

 捻り上げられていない片腕で、奥田さんに端末を投げる。

 慌てながら、画面をぽちぽち押すけど、ロックは外せないらしい。

 そこで、ひょいと端末を取った椎名さんが、あっさりロックを外した。

 …………ん?今何かおかしかったような。

 

「これが櫛田さんですね」

「あ、あぁ、ありがとう」

 

 うっっっわ。この子も可愛いな。アイドルとか出来そうだ。

 マジか。綾小路マジか。なんか男として完全に負けた気分。

 

「いやー、凄いね。綾小路は」

 

 とても気まずそうに、目を逸らしている。

 最近の高校生は本当に進んでるな。

 

「ん?茜、どうしてここに?」

「学くん!鈴音さんにお呼ばれしたんです。お父さんにもご挨拶を、と」

 

 これまたメガネのイケメンが来た。 

 男の人も一人連れてる。三者面談帰りなのかな。

 橘さんと仲良さげだし、お父さんに挨拶するらしいし、恋人なのかな。

 

「ほーう。この子が学の彼女かぁ。可愛い子じゃないか」

「初めまして!橘茜です!学くんとは、今年の十月ごろからお付き合いをさせて頂いています!」

「おぉ、中々良い子じゃないか。全く、学も隅におけないなぁ」

 

 ああいうのを見ると、微笑ましいって気持ちになるんだよな。どちらかと言うと親視点で見ている気がする。

 僕も歳をとったなぁ。

 

「そうだそうだ。この後、金石さんたちのお母さんと一緒にご飯行く予定なんだ。茜くんも来るかい?」

「良いんですか?是非!」

「鈴音と清隆くんはどうする?」

 

 チラリと二人は目を合わせて、とても申し訳なさそうな顔で、謝罪した。

 

「ごめんなさい。お父さん。今日は、桔梗さんがもうご飯を作って待っていてくれてるの」

「本当にすいません」

 

 凄いちゃんとしているんだな。最近の高校生は。

 

「そうかー、なら仕方ないな。

 二年後の三者面談では、一緒に食べよう」

「えぇ、そうしましょう」

「その時は是非」

 

 三人は場を離れて、待っていたらしい六人と合流した。どうしてうち一人はあんなに怪しげな格好しているんだ?顔隠しているのか?なんで?

 

「……………なぁ、鈴音。あれって」

「気にしちゃダメよ。見なかったことにしてあげましょう」

 

 と、そこで三者面談も終わったのか、鷹央先生と天馬さんが教室から出て来た。

 良かった。追い出されたわけではないのか。

 

「なぁ天馬。これ、私必要だったか?普通に姉貴でよくないか?」

「真鶴お姉ちゃんは忙しいでしょう?」

「私だって働いてるんだぞ‼︎」

「はいはい。忙しい中来てくれてありがとう‼︎」

「んっ、ぐっ、全く、全く、天才の私をそんなに雑に扱って許されるのは天馬ぐらいだからな?」

「えへへへへっ、お姉ちゃん大好き〜〜」

「うわぁ、抱きつくな‼︎くっ、そぉ」

 

 仲良いんだな、ここの姉妹。

 と、そこで鷹央先生に抱きついていた天馬さんは僕に気付いたのか、姿勢を正して、とても丁寧にお辞儀をして来た。

 

「あっ、あなたが小鳥遊先生ですね。自己紹介が遅れてすみません。天久鷹央の妹、天久天馬と申します。

 いつも姉がお世話になっています」

「あっ、はい。小鳥遊優です。いつも鷹央先生のお世話をしています」

「うぉいこら小鳥‼︎いつ私がお前の世話になったと⁉︎」

「すいません」

 

 今とかお世話してますよ。

 

「ふふふふふふっ、いやぁ、お姉ちゃんにこんなに優しくてかっこいい彼氏さんが出来るなんて。なんだか嬉しいです」

「おいこら天馬‼︎こいつは私の彼氏なんかじゃないぞ‼︎」

「えー?違うんですか?小鳥遊先生」

「違うよ。ただの上司と部下だから」

 

 僕が釣り合わないからな。鷹央先生は天才だし。でもなんかこの学校、鴻ノ池みたいなやつ多いのか?それとも高校生はそんなものなのか?

 それだと鴻ノ池精神年齢高校生ってことになるけど………。

 そんな間違ってないか。

 

「ふーん………?ま、いっか!」

 

 天馬さんは、とても可愛らしくて魅力的な笑顔を浮かべた。

 そうして、鷹央先生の手を引いて、歩き出す。

 

「小鳥遊先生も、一緒にご飯食べましょう!お姉ちゃんの普段の仕事、教えてください!」 

「まぁ、それぐらいなら全然良いよ」

 

 お酒はあまり飲ませないようにしないとな。

 でも、慣れない子供達への対応も頑張っていたとは思うし、少しくらいは良いのではなかろうか。

 

「案内ありがとう。何かあったら天医会総合病院へ、よろしく」

 

 まぁ、病院の世話になんて、ならない方がいいんだけどな。

 

 

 その日の夜。

 現生徒会がよく来る焼き肉屋で。

 三年クラスリーダー+橘茜、追加で保護者達の食事会が開かれていた。

 保護者の方の席では、堀北父と翡翠が上手いこと調整役をこなしている。

 白銀母と風間父は中々に強烈なので。

 

 生徒の方の席では。

 

「いやー、それにしても、この面子で焼き肉なんて、初めてじゃないかい?」

 

 ご飯をおかわりしながら、金石は軽い調子で楽しそうに。

 

「まぁ、クラス間闘争があるものね。リーダー間で仲が良いなんて、珍しいもの」

 

 丁寧に自分で焼いた肉を食べながら、白銀は姿勢良く。

 

「ふん。日常生活にまで対立を持ち込めば無駄に疲れるだけだ。そんなこと、愚か者がすることだろう」

 

 サンチュで包んで肉を食べながら、風間はいつものように尊大に。

 

「そうだな。改めて、試験の立案・計画・実施に手を貸してくれてありがとう」

 

 お互いに目も合わせず、茜が使おうと思っているだろう塩を渡したり、使おうと思っていたタレを渡されたり。すごく自然にいちゃつく二人。

 

「珠紀連れてくれば良かったな。翡翠先生にも会いたがっていたのに」

「やめてよ。糖分強すぎて肉が甘くなるわ」

「そうだな。僕らの世代の男どもは、ゲロ甘な奴しかいないし」

 

 堀北学を筆頭に、あまりにも恋人への感情が強すぎる。そして同時にストレート過ぎる。正直引く。

 

「そう言えば、どうして珠紀ちゃん来なかったんですか?」

「珠莉のお世話中。絵描き始めると、ご飯とか食べなくなるから」

「典型的な芸術家気質だな。真白は。画家やるんだろう?」

「うん。パトロンは僕がやろうかなって」

「ふぅん。今のうちに肖像画とか描いてもらおうかしら」

「家に飾るつもりか?だったら白銀家に飾られてもおかしくはない名画家にならないとな」

「安心してくれ風間。珠莉の才能は本物だ。間違いなく世紀の大芸術家になれるだろう」

「ほう。なら俺も描いて貰おうか。総理大臣の肖像画を描く栄誉を授けてやる」

「なんかその物言い三流の悪役みたいだね」

「流石にひどくないか?」

「典型的なやられ役の小物の台詞だな。実力はやられ役とは程遠いが」

「まぁ、それはそれとして、負けるつもりはないわよ」

「当然。最後に勝つのは僕だ」

「何をいう。ここから全部ひっくり返してやるから、覚悟しろ」

 

 金石は、いつものように、自信に溢れた強気な笑みで。

 白銀は、礼儀正しく背筋を伸ばし、真正面から睨み笑いながら。

 風間は、いつも以上に不敵で、何処と無く気楽に笑いながら。

 

 真っ直ぐ、堀北学に、宣戦布告を、した。

 

「────ふっ、受けて立つ。全員まとめて、捩じ伏せてやろう」

 

 堀北学は、ちゃんと受け取って。

 宣戦布告を、投げ返した。

 

 彼ら彼女らにとって、間違いなく今が人生最良で最高で。

 これから先も、最良で最高にし続けるが。

 それはそれとして、思い出に残る、三年間が。

 

 もうすぐ、終わる。




 次回を挟んで合宿開始です。
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