合宿所は、三年生と一、二年生では別なんだよね。
まぁ、そんなの当たり前だよね。敵なんだし。
「いやぁ、にしても、綾小路と櫛田ヤバくね?」
「だねぇ」
バスから姫抱きで降りてきた二人を思い出す。いやぁ、あそこまで行っちゃうと、ねぇ?
揶揄うこっちが恥ずかしいときって、あるよね。
大部屋は、各クラスごっちゃなんだけど、俺と准は同じ部屋だったから、話しながら部屋に向かう。
男子は十六人十部屋なんだよね。一、二年生の各クラスから二人って感じ。
でも確か、二年Dクラスは男子十六人で、二年Bクラスは十九人、二年Cクラスは十九人だったから、何部屋か少ない部屋ができるはず。
さて、俺らの部屋はっと。
「ん、赤羽に、榎中か」
お、浅野くんも同じ部屋なのね。
「うぃー、久しぶりだなー、榎中〜」
「うぃー、久しぶり〜、橋本〜」
准はほんとに、人脈広いんだよなぁ。まぁこいつの場合、一之瀬さんとかと同じように、打算とか無いんだけど。
「お、准も同じ部屋なのか。今夜枕投げしようぜ」
「颯!久しぶり!おっけ!枕ダンク決めてやんよ!」
「お、なら俺は枕ボレー決めてやるぞ!」
「なら俺は枕スマッシュだな」
柴田とも知り合いなのね。
ていうか枕ダンクなんだよ。枕ボレーってなんだよ。枕スマッシュってなんだよ。
楽しそうだなおい。
「お、外村ー!またスプラやろーぜ!」
「ふ、ふふふふ。か、構いませんぞ榎中氏。それはそれとして今少しだけ離れて欲しいでござる。いつもよりも圧倒的に陽キャオーラ激しすぎて拙者燃え尽きそうでござる」
「は、ははは。交友関係本当に広いね。榎中くん」
「あー、悪い、君とは会ったことないよな?記憶違いだったらほんとにごめんなんだけど」
「あ、うん。僕が一方的に知ってるだけだから。うん。沖谷京介だよ。よろしく」
「沖谷ね!よろしく!改めて、俺は榎中准!呼びやすい方で呼んでくれ!」
「う、うん、よろしく、榎中くん」
相対的に地味よりのBクラス男子二人。というか外村と普通にゲームとかしてるのか。
あいつ交友関係広すぎない?
「お、後藤パイセンも同じ部屋なんすかっ!」
「おうよっ!また1on1しよーぜ!」
「良いっすよ!」
普通に先輩とも仲良いのかよ。マジで?
「………………広報でも、普通に出来そうだな」
「だねぇ。流石に一之瀬さん茅野ちゃんコンビには勝てなかったけど」
いやぶっちゃけ准の交友関係舐めてたわ。
あいつやば。
「あっ!桐山先輩こんにちはっ!引き継ぎの時はお世話になりました!」
「あぁ。こんにちは、榎中。生徒会の仕事はどうだ?」
「万事順調ですっ!先輩の引き継ぎのお陰です!」
「ふっ、お前が優秀なのもあるだろう」
「じゃあ俺四先輩六ですねっ!」
「おいおい。俺が六なのか?七は欲しかったぞ?」
「正当な評価ですよ!」
「こいつめ」
‘
桐山先輩は、和やかに笑いながらポカリと叩いた。
桐山先輩気難しい人だったのに。
「…………僕でも、あそこまで気安い関係にはなれなかったぞ………?」
「浅野くんは割と素で見下すから仕方ないよね。先輩に好かれる性格はしてないでしょ」
荷解きしながらそう返す。
いやほんとに。割と素で見下しがちだからなぁ、浅野くんは。
「というより意外だな。お前が名前呼びするなんて」
「ん?そう?渚とかひよりさんとか愛美さんとか名前呼びしてるじゃん」
「綾小路は名前呼びしてないだろう?」
「いやー、綾小路くん名前呼び出来るの、堀北さん櫛田さんぐらいでしょ。あ、幸村もか」
実質的な綾小路の直弟子だから、幸村は普通に名前呼びしてるけどさ。
それ以外であいつ名前呼び出来るやつ、少ないんだよなぁ。
「まぁ、そういうものか」
「浅野くんも、名前呼びするの堀北先輩と占藤先輩と九重先輩と坂柳さんと神室さんぐらいじゃん。
ていうかなんで卜部先輩は名前呼びとかしないの?」
「好きな人以外の異性から名前呼びされるのが嫌な人だからな。割とその辺真面目だぞ?頭が硬いとも言えるがな。
家族と錯覚するぐらい付き合いが長いならともかく」
「ふーん。そういうもんなんだ。え、それって卜部先輩、中学の頃からずっと堀北先輩好きだったってこと?」
「初めて会った時からそうだったぞ。なんであんなに分かりやすいのに、学先輩は気付かないんだろうな」
「それ、浅野くんが言う?」
「お前にだけは言われたくないがな」
こういうとき、同じ高校で良かったって思う。
中学の時は、ここまで気安い関係にはなれなかったし。
「なぁカルマ!ここ土日とか宿から出て街出ても良いんだよなっ!」
「そーだよー、実質的な修学旅行でもあるからね」
この学校修学旅行無かったからなぁ。
特別試験の訓練も兼ねて、土日は出れる範囲で街に出てOKなんだとか。
「確か、ポイントの一部を申請して現金に両替するんだったか」
「そうそう。ま、一日辺り二万円までだけどね」
「高校生には破格だな」
合宿所は、山に面して海も近い場所。
試験会場は無人島だからね。山と海の両方で訓練を重ねられるように、白銀先輩が手配したらしい。
三年生は、確か、京都の方だったな。
俺らは鎌倉だけど。
「鎌倉か。赤羽は鎌倉時代だと誰が一番好きなんだ?」
「うーん、悩むけど、義時かなぁ。裏から操ってる黒幕って感じの人じゃん」
「なるほど。お前好みだな」
「そういう浅野くんは?」
「義経だな。あの暴れっぷりは実に痛快だった。まぁ、僕は義経のような死に方はしたくないが」
「納得。浅野くん結構子供っぽいとこあるし」
「おい」
はいはい。怒らないで。
はい、荷解き終わりっと。
「なぁカルマ、時間あるし、合宿所見て回ろーぜ」
「お、良いね。行こっか。他の奴らは?」
「荷解きまだ終わってないってさ」
「一ヶ月分の荷物をこんなに早く終わらせられるのお前らぐらいだわ」
終わってるの俺と浅野くんと桐山先輩と准だけか。
まっ、仕方ないね。
「鍵は開けといてねー」
さーて、探検始めますか。
「中々広いな。それに、隅々まで清潔にされている」
桐山先輩、結構な綺麗好きだったな。
そんな桐山先輩が素直に褒めるってことは、相当綺麗なんだろうな。
「いやー、それにしても、よくこんな良い合宿所取れたもんだわ。それも一ヶ月。
名家パワーすげー」
いやほんと。白銀先輩の名家パワーが無かったら、一ヶ月もの長期合宿出来る合宿所なんて見つからなかったでしょ。
あの人も凄いわ。
ロビー、ラウンジ、屋上、食堂、それから温泉と、諸々。
合宿所というより高級旅館じゃねこれ。
「カラオケあるってよカルマ!また龍園の美声聞こうぜ!」
「お、良いねぇ。アルベルトのイケイケ洋楽ロックも聞きたいけど」
Cクラスだと、龍園、アルベルト、金田、准、俺は、よくカラオケとか行く。作戦会議でもあるけど。准は生徒会入りしてから首脳陣に引き上げられた。て、それがひと段落ついたらのど自慢大会だ。
ただ、金田は基本的に歌わないんだよな。つまんね。
「どうせだったら他クラスの奴らも呼びたいよな。浅野は来る?」
「ふっ、良いだろう。僕の熱烈なギターソロを見せてやる」
「動画撮って神室さんと九重先輩に売るか」
「結構ポイントになりそうだな」
そしたら、浅野くんは、そっと、目を逸らした。
「……………その、どちらも既に、その動画は持っている」
わお。それは凄い。
「え、それって二人きりでカラオケデートしたとか?」
「………………まぁ、その、真澄と、な」
「密室二人きりは中々ヤバいだろ。え、ヤバない?」
「そうか?鬼龍院とよく二人カラオケとか行くが」
「桐山先輩は参考にならないですから」
「九重先輩とは?密室二人きりイベントとかあったの?」
「………………その、まぁ、先輩の部屋で、一晩泊まったことはある」
「はいアウトー」
「アウトオブアウトー」
「それは流石にアウトだろう」
「いやあれは緊急避難というかなんというか」
「ふーん。で、神室さんの部屋に泊まったことは?」
「………………丸一晩眠らずにボードゲームしかしなかったが」
「はいアウトー!」
「かんっぜんにアウトでっせ浅野ー!」
「浅野。それは本当にアウトだぞ」
「い、いやいやいや!二人の部屋に泊まったことはそれ以外、その………」
言い淀んだね浅野くん。あるんだね浅野くん。
「さぁさぁキリキリ吐きなよ浅野くん」
「そうだぞ浅野。キリキリ吐け」
「先輩命令だ。白状しろ」
桐山先輩思ったよりもノリいいな。
それはそれとして、さぁさぁ、さぁさぁ‼︎
「…………その、だな。
冬休みの、生徒会休暇期間でな。九十九先輩と、遊園地デートに、行ってだな。
寮まで送ったところ、その、二人プレイ用のゲーム、手伝ってくれって、言われて、な。
…………それで、その、一晩、泊まったことが、ある」
「わぉ。どう思います准くぅん?」
「淫らですっ‼︎非常に淫らですっ‼︎生徒会書記として、より詳細な情報開示を求めますっ‼︎具体的には一線を越えたのですかっ‼︎」
「そういうことはしていないっ‼︎」
いやぁ、おもしろ。
まぁさ、これまでそういういじり方してた綾小路が、もう揶揄うのも恥ずかしい領域に行っちゃったからさ。
浅野くんとかしか揶揄えるやついないんだよね。
森先輩は無自覚過ぎてつまんないし。
朝比奈先輩は、凄く弄り甲斐あるから、最近のお気に入り。弄りすぎるとたまに須知先輩怖いし、イケメン二人組も怖いけど。
茅野ちゃんと、後一之瀬さんもか、凄く弄り甲斐あるから、まぁ、おもちゃはたっぷりあるんだけど。
あれ、全然面白いな。
やっぱ生徒会さいこー。
「浅野、お前達も見て回ってるのか」
「森先輩。こんにちは」
お、森先輩も来たか。
綾小路と高円寺もいる。
高円寺はめちゃくちゃ綾小路に絡んでいる。
綾小路はめちゃくちゃめんどくさそうにしている。
ほーん、この三人同じ部屋なんだ。
「なぁ綾小路、色々と聞かせてはくれないか?君と堀北ガールと櫛田ガールの、熱く激しく強烈な夜のことを!」
「黙れ本当に黙ってくれ頼むから」
はー、やっぱ綾小路おもしれー。
揶揄うこっちが恥ずかしいけど。高円寺、よく平気だな。
「あの感じ高円寺はとっくのとうに階段登ってると見た」
「あー、まぁ納得だわ」
それ言ってる准もとっくに越えてそうだけど。
高円寺、大企業の御曹司だし普通に顔も良いからな。それ以上にナルシストの変人だけど。
「ふふふふふふふ、いやはや、私も先輩達を相手にある程度の経験はあるが、君ほど熱烈な関係ではないのでね。
実に興味深いじゃないか」
「……………森先輩助けて」
「あー、その、高円寺、そこまでにしてやれ」
素直だなー森先輩。
助けてって言われたら、多分助けちゃうんだろうな。誰であっても。
「いやはや、しかし、その気配はなんとなく感じ取っていたが、君がそこまでサディストだったとはね。
ふふふふ、雌猫を二匹躾けるのは楽しかったかい?」
……………あー、うん。
多分高円寺的には、その、揶揄いのつもりだったんだろうけど。
それは、その、アウトと言いますか、なんと言いますか。
越えちゃいけないラインって、あるよね。
「─────殺す」
綾小路清隆のアイアンクロー!
高円寺六助に効果は抜群だ!急所に当たった!※特性硬い爪。
あー、そういやこの前、生徒会室で、卜部先輩となんか話してたな。
あれだ、花咲先輩にアイアンクローかましたけど、余り効いてる気がしなかったってあれか。
大体一週間ぐらい前。
真剣な顔で、綾小路は、お悩み相談をしていた。
『オレの方が、間違いなく卜部先輩よりも握力は強いはずです。掴み方も完璧でした。
卜部先輩。オレのアイアンクローには、何が足りないのでしょうか』
そっと、砂糖とミルクをしこたまぶち込んで、苦さが完全に消え去った元ブラックコーヒーを、ソーサーの上に置いて。
卜部先輩は、ゆっくりと、口を開いた。
『─────良いかしら、綾小路。
アイアンクローは、握力じゃないの。無論、握力は必須だけれど』
綾小路は、唾をゴクリと飲み込んで。
その極意を、授けられた。
『─────アイアンクローの極意を授けてあげる。
握力で握るんじゃなく、殺意で握るの。
希望ではなく決意よ。決意を込めて、握るの』
『…………殺意、潰す、希望ではなく、決意』
『そう。それを込めるだけで良いのよ。それを込めるだけで、相手の頭蓋骨を軋ませることができるわ』
『────ありがとうございます卜部先輩。
極意を、掴めました』
そう。今こそ、卒業の日だ。
いつの間にか、二人は荒波打ちつける断崖にいた。
何故か、修行着を纏った卜部藤乃は、腕を組んでいて。
何故か、修行着を纏った綾小路清隆が、ひざまづいて。
『────行きなさい。綾小路。
私の、一番弟子』
『────行ってきます。卜部先輩。
オレの、師匠』
それを見ている生徒会員の心は完全に一致していた。
即ち。『何これ』、である。
そして、今。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぉぉぁぁ‼︎」
頭蓋骨をミシミシ言わせながら、絶叫する金髪の偉丈夫が居た。というか高円寺六助だった。
絶対痛いやつ。絶対やばいやつだって。
「ちょ、綾小路、その、落ち着け」
「オレは落ち着いてます森先輩」
「落ち着いてる人間は人の頭を潰そうとしないっ!」
「
「頭が潰れたら人は死ぬぞっ!」
「えぇ。そのつもりです」
あー、めっちゃ怒ってる。めっちゃ怒ってるよ綾小路。こっわー。
「ちょ、お前ら止めるの手伝えっ!」
「いやー、でも今のは高円寺が大分アウトな気がしますけどね」
「そうだな。これに関しては、高円寺がアウトだろう」
「桐山先輩もそう言ってますよ。森先輩」
「だ、だとしてもっ!おれは高円寺に恩があるっ!恩人が殺されそうなら、助けてやりたいものだろうっ!」
森先輩は、綾小路を羽交締めして引き剥がそうとするが、一向に離れる気配はない。
流石に、流石に、綾小路が卵よろしく頭ペシャンコにするところは見たくないので、全力で止めた。
「…………これは流石に理不尽ではないかね」
右手で頭を抑えながら、高円寺は文句を言う。
いや、でもさぁ。
「さっきのはアウトじゃない?」
恋人雌猫呼ばわりされて怒らない人いないと思う。
「まぁな。ライン越えってやつだろ」
「あぁ。流石にデリカシーが無さすぎるぞ。僕でも言わない」
「俺は余り恋愛関係に造作があるわけではないが、高円寺の発言は、流石に良くないとは思うぞ」
「いや、でも、確かに高円寺の発言は良くなかったけどさ」
高円寺は、半ギレで。
とんでもないことを暴露した。
「櫛田ガールに『ご主人様』呼びさせていたのだが?」
「アウトー‼︎」
「100%中の100%アウトー‼︎」
「それは綾小路が悪いぞ。アウトだ」
「すまん綾小路。おれは擁護できないわ。アウト」
「………………?恋人に、『ご主人様』呼び………?」
ほら!聞いたことない世界聞かされて、桐山先輩処理落ちしてるじゃん‼︎
アウト過ぎっ‼︎
「………………それに関しては、桔梗が、その、勝手に」
「本気で止めなかったということは興奮したんだろう?」
「どうなんだよ綾小路」
「興奮したのか綾小路」
「アブノーマルだぞ綾小路」
「生徒会室ではやめろよな綾小路」
「あ、あああああ綾小路は、そそそそその、ここここ恋人に、どどどどどんな扱いををををを………?」
高円寺の気持ちめちゃくちゃわかる。
俺でも聞きたい。面白すぎる。
ていうか桐山先輩動揺しすぎだって。
「蝶よりも花よりも大切に扱っていますよ」
「疑わしいぞ綾小路!」
「本当なのか綾小路!」
「普段からペット扱いしていたりはしないだろうな?」
それ言ってる浅野くんが一番恋人そういう扱いしてそうなんだけどね。首輪つけて散歩させててもイメージ通りなんだけど。
「巫山戯るな。お互いに尊重している関係に決まっているだろう」
「でも『ご主人様』呼びには興奮したんだろ?」
火の玉ストレート投げたな准。綾小路一瞬固まったぞ。興奮したんだな。
「…………………それとこれとは話しが別だ」
「なるほど。自分以外が二人をそういう扱いするのは絶対に許さないと」
「おいなんだその解釈は」
「なるほど。それは殺されかけても仕方なかったね。すまなかったな綾小路」
「おい待て何を納得してる高円寺」
「独占欲強いな」
「思えば綾小路にはそういうところがあったな」
「えっ、なになにめっちゃ気になる教えて高円寺っ!」
「ふっ、いいだろう。教えてあげようじゃないか榎中ボーイ。あれはペーパーシャッフルの試験中───」
「二人とも殺す」
「「うぎゃぁあぁぁぉぁぁあ‼︎」」
綾小路清隆のアイアンクロー‼︎
榎中准と高円寺六助に効果は抜群だ!
急所に当たった!
榎中准と高円寺六助は倒れた!
「さて、そろそろ時間だし、
「そうするか。高円寺は、ちゃんと部屋に連れ帰れよ?」
「知らん」
綾小路は崩れ落ちた高円寺を放置して、とっとと部屋に戻った。
森先輩は、高円寺を背負って、部屋に戻っていく。
割と体力あるな。高円寺筋肉も凄いから絶対に重いんだけど。
「准は俺が運ぶね」
「頼んだぞ」
この後は外出て早速訓練。
で、確か、今回の試験、
防衛省からの援助を取り付けたのは、確か風間先輩だったな。
ま、今度お礼しとかないとね。
次回!烏間唯臣、参戦!