荷物を片付けながら、同じ部屋になった櫛田さんに、その、渚の顔がまた見れなくなっちゃったから、相談しようと思ってたんだけど………。
「櫛田さん、大丈夫?」
「だいじょばない」
いつもだったらみんなに挨拶するんだけど、今日の櫛田さんは、誰にも話しかけずに速攻で荷解きを終わらせて、後はひたすら壁に向かい合って、体育座りしてた。
そ、そんなにお姫様抱っこが恥ずかしかったのかな。でも、体育祭でもうされてたよね?
「く、櫛田さん、何かあったの?」
「…………………私の口からは、とても」
王さんは、憐れみの目を櫛田さんに向けていた。
何があったの………?
「そ、その、悩みがあるなら、聞くよ?」
「な、悩みとかじゃ、なくて、その……。
ちょっと、ね。バスで、やらかし、まして」
「凄いやらかしでした」
「やめてぇ……………」
き、気になる、けど。
あ、あんまり、聞かない方が、良いのかなぁ?
「やーやーくーしだーちゃーん‼︎あっ、雪村ちゃんも!じゃじゃーん‼︎ほむらだよ〜‼︎」
うわ出た。
え、花咲先輩同じ部屋なのか。
櫛田さん、凄い絶望した顔してる。
「ねーねー?なーんでお姫様抱っこ、されてたの〜?」
「き、聞かないでください………」
懇願するけど、多分この人これぐらいじゃ止まらないよなぁ。
「つーまーりー、櫛田ちゃんはぁ、まともに立てないぐらいぃ、疲れてたってぇ、ことだよねぇ?」
「やめてぇ………」
「やめませーん。さぁさぁ、ここでもんだーい!まともに歩けないぐらい疲れるようなことってぇ、なんだと思うぅ?はぁい王ちゃん‼︎」
「………その、黙秘で」
「ありがとうみーちゃんっ‼︎」
王さんは隠したけど、でも、なぁ。
「じゃあぁ、星穹ちゃん‼︎」
「はい!マラソンですっ‼︎」
Aクラスの星穹三七さんは、そう答えて櫛田さんにウィンクしてきた。
「ほ、星穹さん……‼︎」
「ふふふ、武士の情けってやつだよ!」
それ、分かってるってことじゃん。
いやまぁ、言わなかっただけ十分なんだけどさ。
「えぇー?でもさぁー、マラソンだったら、なぁんで、金土日の三日間ー、櫛田ちゃんを見たって人がぁ、いなかったのかなぁ?」
「え、それは、その、えっと、その……!三日間ぶっ通しでマラソンしてたとか‼︎」
「や、やめてください花咲先輩」
いつもだったら殺意滲ませた怖い顔で威圧し始めてるところなんだけど、なんか、その、羞恥が強すぎるのか、いつもよりも、反撃できない、のかな?
ていうか櫛田さん、星穹さんの三日間ぶっ通しを聞いて、なんか、もっと赤くなってる?
「そういえばぁ、鈴音ちゃんとぉ、綾小路くんもぉ、見なかったよねぇ?」
「うぅ、そ、その、それ以上は……」
「ち、な、み、にぃ、この写真、見て見てぇ?」
「えっなに、………、はぐぁぁぁああぁぁあ‼︎」
え、何、写真に何が写ってたの?
何の写真?
※日本で一番有名な毒蛇が描かれた瓶を買い物カゴに入れた瞬間の写真です。
「あ、あ、あ、あ、あそこに居たんですか⁉︎」
「いやぁ、なぁんか、買い物してたら、独り言が面白かったからさぁ」
「ぴぇ………」
櫛田さん、真っ赤になって絶望してる。
仕方ない。助け舟、出しますか。
「─────花咲先輩」
そっと、カバンのポケットから、花咲先輩のコスプレ写真をチラ見せする。
メイドと、ステージ衣装、その他諸々。
森先輩に渡したものとは別に、プリントしたものだ。
データも保存してある。
「……………あははははは。失礼しました〜」
それ以上は写真をばら撒くぞ、という脅しに屈して。
花咲先輩は、逃げた。
「あ、ありがとうあかりちゃん‼︎」
「うんうん。良きにはからえ」
まぁ、なんだかんだで恩があるし。
綾小路くん止めてくれなかったら、私のせいでクラスメイト死んじゃうところだったしなぁ。
「それはそれとして何があったのか凄く気になるなぁ」
「私も正直詳しく知りたいです」
「私もっ‼︎大丈夫、絶対話さないからっ‼︎」
好奇心くすぐってきた櫛田さんが悪いってことで!
私と王さんと星穹さんはにじり寄ってきた。
「う、ううううううう。
ひ、秘密だよ?約束だよ?」
「うんうん勿論‼︎」
「約束は守りますよ。桔梗ちゃん」
「うんうんっ、こう見えて口は硬いからねっ!」
「ひ、引かないでね?」
誰にも聞かれないように、耳元で。
「え、えっと、ね、き、清隆と、その、ね?ふ、冬休み中、やりすぎだったから、禁欲期間を設けようって話に、なりまして」
「うんうん」
「どれくらいの頻度なのか正直気になります」
「ね。ワンチャン毎日だったり?」
「…………それに関しては黙秘で」
「わお」
「それは凄いです」
「綾小路くんやっるぅー」
「え、えっと、その、そ、それで、その、禁欲期間中は、添い寝だけして」
「ちょっと待って」
「少し待ってください」
「ちょっとタンマで」
禁欲期間ってご存知?
「そ、添い寝は、さ。逆効果じゃないかな?」
「え、えっと、それはもう挑発では?」
「あ、綾小路くん、耐えられたの…?」
我慢できなくなって寝込み襲ってきたらどうするのさ。あ、もしかしてそれならそれでばっちこいだったりする?
「……………え、っとね。
しょ、正直、寝込み襲ってきたなら、それはそれで、その、ね?だったし。
で、でも、清隆は、ちゃんと堪えるって、信じてたし。実際耐えてたし。
そ、そ、それ、に、こ、こ、ここまで、その、焦らしたら、その、発散日、凄いことに、なるかなぁって」
「………わ、わぉ」
「………ひゃ、ひゃあ」
「………あ、あははは」
想像以上に爛れてた‼︎進みすぎっ‼︎
ていうか綾小路くんよく耐えたねっ‼︎
「そ、その、浅野先生にも怒られたから、二日間ぐらい、添い寝もしない日を作って、ね?
……………そ、それで、その、発散日に、その、私が、ご飯、作りまして。
……………鰻重と、牡蠣とアサリのクリームシチューと、山芋の和風サラダ、作り、ました」
「……………やっっっっっっばぁ。綾小路くんのこと、煽りすぎじゃない?」
「……………し、新婚さんがやることでは………?」
「……………あ、あたしらも、恋人できたらこうするべきなの………?」
やりすぎ。本当にやりすぎ。今日の夜からそういうことしますよって宣言してるようなものじゃん。
好きな人にそんなことされて、理性壊れない人はいないって。しかも一週間も焦らされてるんだよ?
そりゃまともに立てないぐらいやられちゃうよね。
もうこれさ、新婚夫婦がやるやつじゃない?恋人できても真似できないって。
「…………え、えっ、と、そ、その、それだけじゃ、なくて、ですね」
「え、まだあるの?」
「もう既にだいぶやってるんですけど」
「正直怖いよね」
「ま、まだ、あります。
そ、その、シチューに、隠し味、として、です、ね。
に、日本で一番有名な毒蛇が描かれたアレを、入れました………っ」
「………………わ、わぁ」
「………………う、売ってたんですね。学校に」
「………………か、隠し味で入れて良いやつじゃない……」
綾小路くん壊れちゃうって。
壊れちゃったのか。壊れちゃったから二人とも徹底的にやられちゃったのか。だから立てなかったのか。
「バス車内本当に凄かったですよ」
「やめてぇ…………………………」
あぁ、ゲロ甘だったのね。
まぁ、そうなるよね。うん。
「………………さっきさ、星穹さんが丸三日って言って、ビクついてたよね?」
「………………うぅ」
その反応で、私たちは、察した。
「ま、まー、そこまでやったら、ねぇ?」
「さ、三人とも体力凄いですね」
「一回あたりフルマラソンぐらい疲れるって話だけど」
三人とも性欲強くない?フルマラソン何回分なの?
やっば。見る目変わりそう。
「…………ね、ねぇ桔梗ちゃん。そ、その、さ、首の、赤い跡って、さ。
な、なんか、首輪、みたい、だね……」
「ひぅ…………」
「なんかそんなこと前も言ってたね」
「うぅ…………」
「ど、ドMさんだね………」
「あぅぅ………」
もう『あぅあぅ』しか言えなくなってる。
ま、まぁ、うん。私の悩みとか、ちょっとちっぽけだったかも?
ディープキス程度は、ねぇ?
「あ、そろそろ時間じゃない?これから訓練でしょ?」
「初日から訓練なんて、ハードスケジュールですよね」
「まぁそうだね。────みんなー、そろそろ訓練の時間だし、外出るよー!」
『はーい』
私と櫛田さん生徒会役員だし、こういう時は仕切らないと。櫛田さんは、しばらく仕切りとか出来なさそうだけど。
「あ、雪村さん。その、狐判さん、今、居なくて………」
………?なんか、同じクラスの人なのに、あんまり仲良くないのかな?
…………、あ、この人あれだ。体育祭のリレーでわざと転んだ人だ。
えっと確か、和泉先輩だっけ。
「あ、本当ですか?連絡先知ってる人って」
和泉先輩、多分知らないから私に言ってきたのか。
「………あ、花咲先輩知ってます?」
「うん知ってるよ〜。電話するねー」
「お願いします」
花咲先輩は、端末を操作して、狐判先輩と通話してた。
あ、そうか、花咲先輩と和泉先輩一緒の部屋なのか。気まずくない?
「あ、もしもし稔ちゃん?そろそろ訓練の時間だよ〜。外出て集合だってさ〜」
『あ、ごめんね。すぐに戻るよ。───
『はぁ、はぁ、ふぅ。はい。今夜もお願いします。
「……………うん?」
花咲先輩は、何だか、固まっていた。
どうしたんだろう?
「先輩?どうかしました?」
「あっ、うん、えっと、うん。連絡ついたよ。すぐに戻るって。うん」
なんか、動揺してる?
えっ、何?どうしたの?
「……………ね、ねぇ雪村ちゃん。潮田くんって、その、どんな人なのかな〜って」
「な、渚くん、ですか………?な、何で……?」
「いや、その、何となく」
「え、え、えっと、その、た、頼りになる人、ですよ?」
「ふ、ふ、ふぅーん?」
花咲先輩は、何だか、変な顔で、黙りこくっていた。
え、何?どうしたの?
「───ごめんね。お待たせ。早速訓練行こっか」
「あ、はい」
狐判先輩は、何ともない様子で部屋に戻ってきて、そう切り出した。
何してたんだろう?ちょっと気になる。
私たちは外に出た。花咲先輩が、一番最後に部屋を出て、鍵を掛けて。
「あ、ほむらちゃん。鍵は私が預かるね。訓練終わったら、早く休みたいし」
「あ、うん」
………?なんか、花咲先輩、変な顔してる。
どうしたんだろう。
「………ね、ねぇ、稔ちゃん。気付いてないかもしれないけど、通話、切り忘れてたよ?」
「………あ、さっきの?……………な、内緒で、ね?」
「う、うん」
二人は、微妙な顔で、黙り込んで。
なぜだか花咲先輩は、私をチラチラ見ていた。
「……………え、稔ちゃんまさか、後輩から略奪したり、しない、よね?」
「し、しないよ。そういうんじゃないから」
二人は、コソコソと二人きりで、内緒話していて。
凄く気になったけど、取り敢えず、放置していた。
外に出て、クラス毎に分かれて、整列する。校庭みたいに広いなここ。
一年間お世話になった男の人が、朝礼台の上で、堂々と立っている。
やばい。嬉しすぎる。
「今回の試験で、訓練の監督を務めることになった、防衛省の烏間惟臣だ。
去年の椚ヶ丘三年E組の副担任もこなしていたから、知っている人は知っているだろう」
生徒会は、堀北先輩達が、どういう流れで今回の試験の準備をしたのか知っている。
堀北先輩は、坂柳理事長と交渉して、授業計画及びスケジュールを調整して、二月と三月初めに訓練と試験の予定を入れて。
金石先輩は、無人島の使用権と、バスやクルーザーの使用権を、学校側と交渉して入手して。で、風間先輩の交渉も手伝って。
白銀先輩は、一ヶ月間使用できる訓練施設兼宿泊施設を二カ所見つけて。
風間先輩は、防衛省と交渉して、訓練期間の教官と試験で使う武器とか諸々を調達した。
「今回の試験は、防衛省の協力の元実施される。
これは、去年の椚ヶ丘中学の三年E組、即ち、進学校の落ちこぼれと呼ばれた生徒たちが、僅か一年で遅れを取り戻し成長した裏に、
はぇー、風間先輩それ材料に交渉したんだ。
確かに、それが理由なら、烏間先生が派遣されるのも道理だね。
「なので諸君達は、ここで訓練を行いつつも、ある程度の授業もこなしてもらう。
非常にハードではあると思うが、我々も出来る限りサポートするので、安心して欲しい」
ようは、一ヶ月体験版暗殺教室、だよね。
ちょっと、楽しみ。
「それから、私は三年生の方も監督する都合上、ここに居られない日も二週間ほど発生する。そこは、留意してくれ」
と、そこで、烏間先生の部下の人たちか、台車を持ってきた。
そこに載っているのを見て、私ら元E組は、思わず笑っちゃった。
「去年のE組で使用された、通称
諸君らには、これを支給する」
外見的には、昔使ってたアレとそんなに変わらないんだ。
性能的には、寧ろ昔のより高性能になってる。すご。
説明書読んでた帆波ちゃん感心していた。
「ほぇー、これ来たまま潜水とか出来るんだ。すご」
「防火性もヤバいわね。消防服レベルじゃない」
ユキさんもビックリしてる。改めて考えるとこれヤバいよね。
防刃防弾で、潜水服兼消防服で、それでいて動きやすい。
「あ、塗料とかも簡単に載せられるんですね。迷彩とかも自由自在なんですか」
「美術部の本領発揮って感じ?」
千尋ちゃん美術部だし、迷彩とか強そうだな。え、過剰な性能抑えてなくない?寧ろ前のより過剰じゃない?
「さて、それでは、更衣室で着替えてきてくれ。
着替え終わったら、訓練を、始めよう」
そうして、訓練が始まった。
まずは軽くグラウンド十周。一年AクラスとBクラスから。他のクラスは射撃練習。
あ、坂柳さんはもちろん見学。
ただ、見学しながら、ドローンの操縦練習もやってるみたい。
教わって数分で完璧にマスターしたのか、走ってるAクラスの人とテーブルゲーム部の人たちにドローンでちょっかい出してる。
「くそっ!耳元で飛ばすなよ坂柳っ‼︎プロペラの音虫みたいでうざいんだよっ‼︎」
『戸塚くんがサボらないように見張ってるんですよ。ほら、ちゃんと走ってください』
「サボらねぇし走ってるわこの性悪女っ!」
「ほう。このドローンスピーカーもついているんですね。全長二十センチ程度なのに。有栖、聞こえますか?」
『聞こえてますよ藍さん。これ凄いですよ、連続稼働時間五時間だそうです』
「それは凄い。幾らするのか考えたくもないですね」
「お前らほんと邪魔っ‼︎」
そういうリアクションするから狙われるんじゃないかな。
「左失礼」
四周目の戸塚くんの左側を抜き去った、五周目の綾小路くん。無自覚に煽ってる。
「ほらちゃんと走ってください戸塚弥彦。綾小路清隆に周回遅れの差を付けられていますよ」
『そうですよ戸塚くん。ちゃんと走ってください』
「お前らほんと邪魔っ‼︎‼︎」
「さて、お先に失礼しますね。戸塚弥彦」
「抜かすなゴラァ‼︎」
あっさり抜かした森下さん。身体能力高いなぁ。
さて、うちのクラスは、と。
「うーん、なんか当たんない。なんで?」
帆波ちゃんちょっと苦戦してる。あー、これ、アレだね。
「ちょっとトリガー引く力強すぎだね。それで銃口ブレちゃってる。もっと柔らかく引くといいよ」
「………おぉ、当たった。ありがとうあかりちゃん!」
「いいっていいって」
これうちのクラスは私も見た方がいいな。
男子は渚に任せるか。
「うぉっ、渚すげー!全部真ん中じゃんっ!」
「やっぱすげぇな渚は」
拓人くんと柴田くんは、全部的の中心を撃ち抜いた渚に興奮してる。
渚はちょっと困ってるな。
「はははは。二人ともちゃんと練習したらすぐに出来るよ。射撃は練習量が大事だからね」
「渚。的には当たるが中心からは外れる。どうすれば良い?」
神崎くんはあっさり聞きに行けるの強いな。
渚は一度神崎くんの射撃を見せてもらって。
「もうちょっと右肘落とすといいよ。それで狙い通りに飛ぶと思う」
渚に言われた通り、ハンドガンを持ってる右手の肘を少しだけ落として、完璧に中心を撃ち抜いた。
割と射撃の才能あるんだな神崎くん。
「助かった。困ったらまた教わると思うが、頼めるか?」
「全然良いよ」
私らが見切れない人は防衛省の人が教えてる。
さて、他のクラスは、と。
「片手撃ちで全部ど真ん中って、赤羽ほんと器用だよな。俺全然当たんないんだけど」
ポケットに左手を突っ込みながら、的の中心を撃ち抜いていくカルマくんに、石崎くんは感心していた。
「お前が不器用すぎんだよ。もっと肩の力抜きなって、物理的に。それで当たるよ」
「………おー、当たった。ありがと」
Cクラスはカルマくんいるし。
「龍園射撃下手すぎでしょ。なんで隣の的撃ち抜いてんだよ狙いファンタジスタ過ぎるだろ面白」
「おめーは射撃も普通にうめぇの腹立つな榎中。もはやウゼェわ」
「あー、龍園は肩の力抜いて照準ちゃんと合わせて引き金に力入れずに狙いなよ。准は言うことないわ」
素直にアドバイス聞いて狙うけど、一切当たらない龍園くん。
それから暫く、カルマくんと防衛省の人複数人がかりで教えてるんだけど、無理だったみたい。
隣の的のまた隣とか撃ち抜いてる。
「逆に才能あるね。もはや凄いわ」
「ウゼェ」
弾幕貼るときは役に立つかも?
女子の方はどうだろう。
「奥田さん射撃上手いの意外ー」
的確に的の中心を撃ち抜いた奥田さんに、真鍋さんが話し掛けていった。
「え、えっと、その、趣味で、ちょっと」
「ふぅーん。ねぇ奥田。どうしても左側にちょっとズレちゃうんだけど、どうすれば良い?」
伊吹さんの照準も姿勢も、特に問題なさそうだけど。武道経験者だからかな?姿勢も良いし。
「ちょっと見てもいいですか?………あー、手首に力入り過ぎてますね。それで発砲の瞬間にブレてます。もっと力抜いてみてください」
「…………お、当たった。ありがと」
椎名さんは、結構当たってる。
「もう少し中心狙いたいのですが、どうしたら良いんでしょう?」
「もう少し足開いてみましょう。重心を真上から落とすイメージで。それで狙ってください」
「…………当たりました。ふふ。奥田さんは流石ですね」
「えへへへへ。ありがとうございます!」
Cクラスも大丈夫そうだね。
二年生の方だと。
「なるほど。射撃も実質計算なのね」
数発撃って完全に理解した卜部先輩は、そこから常に真ん中を撃ち抜き続けてる。
うっわ、着弾点全部同じ。やっば。
「やはり射撃も出来るのか。凄まじいな」
「桐山も普通に出来てんじゃん」
「九重の方が出来ているだろう?」
「私はシューティングで慣れてるから」
二年Aクラスは学習早いな。もう殆どの生徒が出来るようになってる。流石。
「なぁ桐山。射撃教えてくれないか?」
鬼龍院先輩ちょっと苦戦してる。意外。
「構わんが、俺より九重か卜部の方が」
「私は桐山が良いんだ」
うわぉ、攻めてるなぁ。
「そうか。なら、もう少し上を狙うと良い。エアガンだからな。結構落ちやすいぞ」
「…………そうする」
うわぉ、ノーリアクション。ちょっと可哀想かも。
「上過ぎるな。もう少し下………これ、直接やった方が早いな」
「うぇっ、ちょっ」
背後から抱きつくように、右手を添えて、狙いを付けさせる桐山先輩。
密着されて動揺してる鬼龍院先輩。
的しか見てない桐山先輩。
的と桐山先輩を交互に見てる鬼龍院先輩。
教えることしか考えてない桐山先輩。
教わる体で距離詰めようとした鬼龍院先輩。
「狙いはこんな感じだ。撃ってみると良い」
「あ、あぁ。うん。…………当たった、な」
「後は反復するだけだ。鬼龍院ならすぐに出来るようになるだろう」
「あ、あぁ」
…………あ、わざと照準ずらしてる。
さてはまたさっきみたいに教わるつもりだな。
なんか、乙女だなぁ。鬼龍院先輩。
「そ、その、ま、また上手く当たらなくなったから、そ、その、もう一度、さっきのを、だな」
「構わんが」
味占めたな鬼龍院先輩。ちょっとニヤついてる。
卜部先輩、ちょっと羨ましそう。堀北先輩居たら同じことしてたかも?
二年Bクラスはどうだろう。
「お、当たった。恒くん教えるのも上手いし射撃も上手いね。流石」
「まぁ、射撃はそこまで難しくはないからな」
星穹先輩射撃も普通に上手いんだ。
朝比奈先輩も、上達早いな。流石。
「うわー、なんか変なとこ飛んじまう。恒ー、どうすりゃ良いー?」
「見たところ、片目で狙いを付けているからじゃないか?両目で狙うことを意識してみろ」
「両目で…………お、当たった」
二年Bクラスも普通にみんな優秀だね。流石、元Aクラスって感じかな。
二年Cクラスは、と。
「当たらん。何故じゃ何故当たらんのじゃ」
「いやー、私にもサッパリ。防衛省の人は何か原因わかります?」
「いえ、多分さっきの龍園くんと同じ人種ですね。逆に才能があります」
桃井先輩壊滅的に射撃下手。
隣の的の隣の的に当たってる。なんかさっきも居たなこんな人。
須知先輩器用だな。普通に上手い。
「まぁ、なんとなくそうなんじゃないかって思ってたけどね」
「稔は何故そんなに当たるのじゃ?」
「これって実質計算だからね」
「その理論でいけるのアンタぐらいじゃない?」
男子の方はどうなんだろ。
「お、当たった。アドバイスありがとうございます烏間教官っ!」
「かまわない。それに、高山くんが器用なのもあるだろう」
高山先輩。確か、リレーで桃井先輩からバトン貰った先輩だっけ。
リード貰ってたのもあるけど、身体能力普通に高かったな。二百メートル走とか、一着取ってたっけ。
他の人も、そんなに苦戦してない。Cクラス身体能力高い人多いし。出来る人が出来ない人に自然と教えてるから、上達も早いな。
あ、和泉先輩、やっぱり一人でやってる。
苦戦してるな。どうしよ。
「和泉ちゃん。もうちょっと下狙うといいよ」
「……、当たりました。……えっと、その、ありがとうございます。須知さん」
「良いって良いって」
須知先輩見てるなら、あんま気にしなくて良いか。
二年Dクラスは、と。
「森やっぱ器用だな。もう当たるじゃん」
「後藤は力み過ぎだ。余分な力は要らないぞ?」
「ほー、…………あ、当たった」
森先輩割となんでも出来るの流石だな。
まぁ、でも。
「南雲お前やっぱやばいな。全部ど真ん中じゃねぇか」
「まぁ、実質計算だからな」
南雲先輩凄いな。ていうかその理論聞くの三回目なんですけど。
「………流石に、全部同じ着弾点、とはいかないか。まだ練習不足だな」
まぁ、うん。
これに関しては、卜部先輩がなんか変なんだよ。
卜部先輩多分狙撃手できると思う。
「ふーん。思ったよりも簡単なのね」
「両沢は器用ね。私は上手く当たらないわ」
「……多分、狙いが少し、右寄りじゃないかしら」
「…………当たった。よく分かったわね」
両沢先輩、割と射撃の才能あるかも?
「…………あ、あんま当たんないなー、ハルくん教えてー?」
「ほむらが当たらないの意外だな。教えるのは良いけど、一回見せてくれ」
「う、うん」
あ、あー、なるほどなるほど。
花咲先輩、鬼龍院先輩の真似してるな。うん。
そういうところは可愛いんだよなぁ。
「うーん、なんでだ?特に問題なさそうなんだけど」
「な、なんでだろうね?」
多分わざと照準ずらしてる。
ほらほら、早く後ろから抱きつきなよ森先輩。
それでニヤけた瞬間写真に収めたいから。
「ちょっと烏間教官呼んでくるわ」
「あちょっ」
あちゃー、森先輩、真面目だから。
Dクラスの女子たちから、可哀想なものを見る目で見られてる。
可哀想に。つまんないなぁ。
アドバイス一発で直った。
森先輩は烏間先生凄いって素直に尊敬してるけど、多分花咲先輩、最初から普通に出来たんだろうな。
「よし、一年ABクラスの代わりに、今度は二年ABクラスがグラウンド十周だ」
『はーい!』
一年Aクラスの射撃、どんな感じだろ。
「さっすが器用万能。射撃も完璧だな」
「そういう橋本も、普通に上手いな」
「サーブと感覚的には似てるからな」
まぁ浅野くんはできるよね。知ってた。
男子は割とみんな出来てる。戸塚くんはちょっとだけ苦戦してたけど、葛城くんのアドバイスですぐに直った。
女子はどうだろ。
お、星穹さん凄。
「三七さん凄いですね。全部ど真ん中です」
「まー弓道やってるからねー、的狙うのは慣れてるよ‼︎
それに、飛鳥も的に当たってるじゃん!」
「真ん中に当てたいんです。アドバイスとかあります?」
「うーん、分かんない!あたし基本感覚でやってるからアドバイスとか無理!」
E組にも居たな、ああいうの。
岡野さんとか倉橋さんとか、多分アドバイスとか出来ない人種だと思う。
「もう少し効き目で狙うのを意識してみるといい。反対側の目はあくまで補助のつもりで」
「………当たりました。ありがとうございます。烏間先生」
「………あぁ、気にするな」
女子はわりと問題なさそう?
神室さんが教わる体で密着狙うかと思ったら、普通に真面目にやってた。
あー、まぁ、他二人よりも割と進んでる関係だしなぁ。
Bクラスどんな感じだろ。
うわ、三宅くん凄。
「やるな三宅。全部ど真ん中じゃないか」
「弓道やってるからな」
狙撃手出来そうだね。三宅くん。
弓道部こういう時やっぱり強い。
「綾小路は流石だな。着弾点全て同じじゃないか」
「まぁ、慣れてるからな」
綾小路くん射撃術千葉くんと同率一位だったからなぁ。
普通に狙撃手も出来るし。
「健逆に凄いな。なんで?」
的確に的に当てていく池くんが、何故か隣の隣の隣に当たっている須藤くんに、逆に感心していた。
「俺が聞きたいわ。清隆、なんか分かるか?」
「逆に才能があるとしか言えないな。オレにも分からん」
「ならもう直すの無理じゃね?」
男子は割と大丈夫そうだな。
須藤くん?龍園くんとか桃井さんと同じだし。
女子の方は、と。
「うーん、なーんか当たんないな?」
「もうちょっと、照準上目に合わせるといいよ」
「………お、当たった!桔梗ちゃんありがとう!」
「良いって良いって」
櫛田さん、ようやく落ち着いて来たみたい。
まぁ、結構単純な人だから、他の人にお礼言われてる内に気にならなくなったんだろうな。
「流石堀北さん。全部ど真ん中だね。しかも片手で」
「片手を空けとくと、ナイフとか色々持てるもの」
堀北さん射撃術速水さんの次に上手かったな。E組四位だっけ。
「な、なんか、当たらない、ですね」
「ねぇー?なんでだろ」
「佐倉さんはもう少し脇を絞めるといいわ。長谷部さんは、銃口が左にブレてる」
「………あ、当たりました‼︎ありがとうございます!」
「お、当たった。ありがとうほりぴー」
「構わないわ」
射撃はどのクラスもある程度出来るね。
多分全クラスの走り込み終わったら、ナイフ術やって終わりかな。
全クラスの走り込みが終わって。
予想通り、ナイフ術だ。
軽く素振りして、二人一組で組み手、なんだけど。
「烏間せんせー、これよりも射撃練習した方が良くないですか?」
後藤先輩は、まぁ、予想通りの言葉を口にした。
「ふむ。何故そう考える?」
「いやだって、こんなに至近距離でナイフが当たらない事はないでしょう?
それよりも射撃練習した方がいい気はしますけど」
うん。そう考えるのも良く分かる。
私らも最初はそんなこと思ってたし。
てなると、多分。
「そうだな。ならばこうしよう。君と森くんの二人がかりで来るといい。どちらかがナイフを当てられたなら、射撃練習に入っていいし、今日の訓練を終了しても良い」
「マジっすか!やるぞ森!」
「………………………はぁ」
森先輩は、敗北が見えているのか、とても嫌そうな顔をしている。
久しぶりに烏間先生のアレが見れるぞって、ちょっとワクワクしてたんだけど。
「────烏間先生。その役目、私が変わっても?」
「…………浅野先生」
これは、予想外かも。
「後藤くんは、私のクラスの生徒なので」
「………………わかりました」
ジャケットを脱いで、ネクタイを外して。
浅野先生は、戦闘態勢に入った。
「…………そうですね。南雲くん、それから社くんも来てください。
四対一でいきましょう」
「…………分かりました」
「うぇ、はぁ、しゃーないか」
後藤先輩、森先輩、社先輩、南雲先輩と、浅野先生が、向かい合う。
今にも始まりそうなところで、森先輩が、声を上げた。
「───浅野先生。作戦会議の時間を下さい」
「………構いませんよ」
あ、もしかして森先輩、ガチで勝ちに行くつもり?
四対一程度じゃハンデにもならない事、分かってそうなんだけど。
先輩たちは、地面に図を描いたりして、真面目に作戦会議していた。
「作戦会議とかいるか?四対一だし、浅野先生アラフィフだし、正直普通に勝てると思うけど」
「あほは黙ってろ。おい森、本気で勝つ気なのか?」
「勿論だ。四対一なら、僅かだけど勝ちの目はある」
社佑は、確信している。
浅野學峯は、四対一程度でどうにかなるような男ではないと。
森悠政は、分かっていると思ったのだが。
「………森、勝算は、どのくらいだ?」
「良くて一割。正直ほとんど負け確だ」
南雲雅に問いかけに、森悠政は、平然と答える。
それを聞いて、後藤も、少し真面目に聞くことにした。多分口を挟むとあほって言われるのでお口チャックで。
「ならなんで、作戦会議なんかする?」
「──────勝つためだ」
「殆ど勝てないって分かってるのに?」
「負けるにしても、経験積んでおこうってことかよ?分からなくはねぇがよ」
「いや違う。負けるつもりはない。
その言葉に、社は、心から驚き。
後藤は、よく分からなくて。
南雲は、心から、笑った。
「─────だな。それが一番いい」
「あぁ。簡単な作戦だが、頭に入れてくれ」
「……………わぁったよ」
「オッケー!」
そんな自クラスの男子陣トップ4を見て。
水澤蘭は、少し呆れていた。
「馬鹿どもね。勝てるわけないじゃない」
「………………かもね」
コンビを組んでいる、花咲ほむらは同意する。
歩き方を見れば分かる。
その上で、常に完璧な脱力。
浅野學峯の実力は、おそらく、堀北学をも、上回りかねない。
「まぁ、烏間先生よりは、勝ちの目はあるでしょうけど」
「それも、そうだね」
技術だけなら、烏間先生と浅野學峯に、そこまで大きな差は無さそうだが。
単純な話、烏間惟臣の方が、若い。
だから、二人が組み手をした時、烏間惟臣に軍配が上がるだろう。
だがそれは、彼らが浅野學峯に勝てるという話ではない。
「でもさ、それで諦められるような、物分かりの良い人なら」
花咲ほむらは、知っている。
だって、あの十日間、ずっと、向き合っていたんだから。
そして何より、
森悠政は、とんでもない、負けず嫌いだ。
「…………きっと、わたしは、好きになってないよ」
そして、それは。
「────ふふふ。やっぱり、雅はそうでなくちゃ」
南雲雅も、同じである。
浅野學峯は、そっと、目を細める。
「────準備は、良いですね?」
後藤は、やる気を漲らせて。
社は、仕方なく。
南雲と、森は、本気で。
「この作戦、おれらがキーだ」
「分かってる。勝ちに行くぞ」
そうして、四対一の組み手が、始まった。
烏間先生のアレをやるつもりだったら、いつの間にか浅野先生が来て、なんか南雲先輩と社も参加してた。
勝手に動き出してるこいつら。