殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 好きなゲームは崩壊スターレイルです


 五月21日、17時50分ごろ。
 間違えて投稿してしまいました。申し訳ありません。


Aクラスの天才たち

 

 高育のボードゲーム部部長、3年Aクラスの占藤メメ(せんどうめめ)は、3年トップのチェスプレイヤーだ。

 彼女はこの三年間、堀(・)北(・)学(・)を(・)除(・)き(・)敗(・)北(・)し(・)た(・)こ(・)と(・)は(・)な(・)い(・)。(・)

 

 そんな彼女は、今、追い詰められていた。

 

(何⁉︎何なの、この子!本当に一年生⁉︎まるで、まるで堀北くんみたいな……!)

 

 途中までは、そう、途中までは、問題なかった。何なら優勢ですらあった。

 教科書通り、定石通りの安全策を取り続けてきたので、所々に奇策を織り交ぜ、混沌を広げ、着々と駒をとっていたところ。

 ミスとも言えないミスを犯した、占藤の隙を、彼は見逃さなかった。

 そこから一気に攻勢に出て、今、逆に追い詰められている。

 

「チ(・)ェ(・)ッ(・)ク(・)で(・)す(・)、(・)占(・)藤(・)先(・)輩(・)」

 

(……っ!………駄目ね。これは、完全な詰み)

 

「投了(リザイン)よ。浅(・)野(・)く(・)ん(・)」

 

 まさか、堀北学を除き、自分に土を付けるのが、一年生だとは思わなかった。

 

「うわー、嘘でしょ。メメ先輩が負ける?何コイツ、化け物?」

 

 2年Bクラス、九重九十九(ここのえつくも)。この高育において、派閥争いにもクラス間競争にも興味を持たない、非常に珍しい生徒。アナログデジタル問わずゲーム全般が好きであり、IT関連にも造詣が深い。

 少(・)な(・)く(・)と(・)も(・)、(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)に(・)お(・)い(・)て(・)、(・)学(・)年(・)ト(・)ッ(・)プ(・)の(・)実(・)力(・)を(・)誇(・)る(・)。

 

「う、うん。あのメメ先輩が負けるなんて……」

 

 2年Cクラス、狐判稔(こはんみのる)。弱気な性格の影響で、実力の全てを出せず、常に下位に甘んじている、才(・)能(・)の(・)面(・)で(・)は(・)、(・)テ(・)ー(・)ブ(・)ル(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)部(・)最(・)強(・)の少女。

 

「いやはや!これは予想外じゃ、これほどの実力者が入学してくるとは!」

 

 2年Cクラス、桃井緋音(ももいあかね)。特徴的な口調の、お調子者な少女。その口調は漫画の影響らしい。文学部と兼部しており、二(・)年(・)ト(・)ッ(・)プ(・)ク(・)ラ(・)ス(・)の(・)身(・)体(・)能(・)力(・)の持ち主。

 

「なるほど、腕をあげたわね、浅(・)野(・)」

 

 2年Bクラス、卜部藤乃(うらべふじの)。低身長がコンプレックスの、学(・)年(・)ト(・)ッ(・)プ(・)ク(・)ラ(・)ス(・)の(・)頭(・)脳(・)の持ち主。元(・)椚(・)ヶ(・)丘(・)中(・)学(・)校(・)生(・)徒(・)会(・)書(・)記(・)でもある。

 

「アッハハハハハ!メメ先輩、だっさーい!一年生にぃ、負けるなんてぇ」

 

 2年Dクラス、花咲ほむら(はなさきほむら)。常に人を煽らなければ気が済まない、小柄で可愛らしい見た目に相反するような性格の悪さの少女。2(・)年(・)生(・)の(・)中(・)で(・)も(・)、(・)最(・)も(・)可(・)愛(・)い(・)と(・)評(・)判(・)の生徒。人気配信者でもあるらしい。

 

 女子のみで構成された高育テーブルゲーム部。

 上級生からあ(・)る(・)情(・)報(・)を得るために、知り合いのいるこの部活に乗り込んだ浅野は、見事に賭け試合に勝利した。

 

「お見事ね。こ(・)れ(・)が(・)報(・)酬(・)の(・)一(・)年(・)生(・)時(・)の(・)過(・)去(・)問(・)よ(・)」

「ありがとうございます。占藤先輩」

「……にしても、早すぎないかしら?ま(・)だ(・)入(・)学(・)5(・)日(・)目(・)よ(・)?(・)」

「こういうのは、早(・)け(・)れ(・)ば(・)早(・)い(・)ほ(・)ど(・)良(・)い(・)で(・)す(・)か(・)ら(・)」

「そう。……ねぇ、うち(ボードゲーム部)に入るつもりはない?」

「お誘い、ありがとうございます。申し訳ありませんが、別のところ(生徒会)から、既にお誘いをいただいていますので」

「……ま、堀北くんが君を逃すわけないよね」

「言われてるよぉ、藤乃ちゃぁん。堀北先輩とぉ、おんなじ生徒会にいたのにぃ、誘われることもなかったぁ、ふ・じ・のちゃぁーん?」

 

 煽れるチャンスがあったら煽る。それがほむらの信念である。そんな信念捨ててしまえ。

 藤乃のアイアンクローを喰らうほむら。低身長とは思えないくらい痛そうである。

 

「はぁ、こいつはホントに。

 生徒会に入るなら、南(・)雲(・)雅(・)には気を付けなさい。浅野。今は堀北先輩が押さえつけてるから大人しいけど、何かの拍子にまたやらかしかねないわ」

「……卜部先輩がそう言うほどとは、とてつもなく危険なようですね。その南雲雅は」

「……まぁね。少なくとも、あいつがいる限り、生徒会に入るつもりは無いわ」

「いっだだだだだ、は、入るつもりがないじゃなくてぇ、誘われなかったぁ、だけじゃなぁい?あがががががが、いっだぁぁぁい!ちょっ、強すぎ」

 

 テーブルゲーム部とは思えないバイオレンスな空間からは目を逸らして、浅野は改めて、メメたちに礼を言う。

 

「ありがとうございました。占藤先輩。と(・)て(・)も(・)有(・)意(・)義(・)な(・)時(・)間(・)で(・)し(・)た(・)。……部活には入れませんが、個人的に遊びにきても良いでしょうか?」

「えぇ。いつでもいらっしゃい。歓迎するわ」

「次は私とやろーよ、浅野」

「楽しみにしてます、九重先輩」

「う、うん。気、気が変わったら、いつでも入部して良いからね……?」

「前向きに検討しますよ、狐判先輩」

「うむ、あれじゃな、遠回しなお断りの言葉というやつじゃな!」

「そんなぁ」

「ははははは。………本当に、楽しそうな部活ですね」

「ま、たまの息抜きぐらいには役に立つと思うわ。頑張りなさい、浅野」

「いっででででででで、浅野くぅん、助けてぇ」

「えぇ、卜部先輩、紹介ありがとうございました」

 

 最後に一度、こちらに向けて礼をして、浅野は部室を後にした。

 

「……凄い子ね。もうあそこまで知っているなんて」

「まぁ、浅野ですから」

 

 あの浅野理事長(最強の先生)の息子である。さもありなん、といったところだろう。

 

「こ、今年はAクラスが落ちることは無さそうですね」

「いっだだだだ、いやぁ、そう、とも、限らないんじゃ、なぁい!ふー、抜けたぁ」

 

 何とかアイアンクローから抜け出したほむらは、稔の分析を否定する。

 

「なぜそう考えるのかしら?」

「かぁんたんですよぉ、メメせんぱぁい。さっきの試合、浅野くんは決め手となった一手以外は、定石通りの動きでした。決め手を打つ時も、極限までリスクを減らすように動いてた」

「ん、そうじゃったか?」

「うん。ほむらの言う通り、教科書通りの安全策を取り続けて、勝(・)ち(・)筋(・)が(・)見(・)え(・)た(・)瞬(・)間(・)、(・)派(・)手(・)に(・)攻(・)勢(・)に(・)出(・)て(・)た(・)。悪くないゲーム運びだね」

「えぇ。腕(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)は(・)上(・)が(・)っ(・)た(・)け(・)ど(・)、(・)打(・)ち(・)方(・)の(・)癖(・)は(・)変(・)わ(・)っ(・)て(・)な(・)い(・)わ(・)」

「そぉんな浅野くんがぁ、ど(・)ん(・)な(・)打(・)ち(・)方(・)を(・)し(・)て(・)く(・)る(・)の(・)か(・)、(・)ど(・)れ(・)く(・)ら(・)い(・)強(・)い(・)の(・)か(・)も(・)分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)相(・)手(・)に(・)ぃ(・)、(・)五(・)十(・)万(・)ポ(・)イ(・)ン(・)ト(・)も(・)賭(・)け(・)て(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)を(・)挑(・)ん(・)で(・)き(・)た(・)ん(・)だ(・)よ(・)ぉ(・)〜(・)。リスクを取ってでもぉ、この4月中にポ(・)イ(・)ン(・)ト(・)を(・)増(・)や(・)し(・)て(・)ぇ(・)、(・)少(・)し(・)で(・)も(・)リ(・)ー(・)ド(・)を(・)広(・)げ(・)た(・)い(・)っ(・)て(・)、(・)こ(・)と(・)じ(・)ゃ(・)な(・)ぁ(・)い(・)?(・)」

 

 あごを人差し指と親指で挟みながら、緋音は思考をまとめ、言語化する。

 

「なるほどのぅ。あの浅野が、多(・)少(・)の(・)無(・)茶(・)を(・)し(・)て(・)で(・)も(・)、可能な限りリードを広げておきたいと考えるほどの相手が、他のクラスにいるというわけか」

「ふぅ〜〜ん?浅野クラスが後最(・)低(・)一(・)人(・)は(・)い(・)る(・)ってこと?同じ学年じゃなくて良かった〜」

「あんたそういうのには興味ないじゃない」

「あー違う違う。安(・)全(・)圏(・)か(・)ら(・)バ(・)ッ(・)チ(・)バ(・)チ(・)の(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)が(・)見(・)れ(・)る(・)ん(・)だ(・)よ(・)?(・)め(・)っ(・)ち(・)ゃ(・)楽(・)し(・)そ(・)う(・)じ(・)ゃ(・)ん(・)」

「……せ、性格の悪いことを……私には真似できないや……」

「はぁ、少しは真面目に取り組みなさい」

 

 なるほど。

 ほむらはアホっぽく見せているが、その実、2年生の中でも高い実力を持っている。彼女の見識は、基本的に当たるものだ。

 そう考えると、

 

(最強の元、優秀な生徒たち(堀北学と、過去最高のAクラス)による蹂躙劇な、私たちの代。予想外の大穴と、その奴隷(南雲雅と、2年Aクラス)による、下剋上からの君臨の藤乃たちの代。そして、優秀な生徒たちの複数クラスでの殴り合い(最強たちの戦国時代)な、浅野くんたちの代)

 

「確かに、面白いことになりそうね」

 

 過去最高のAクラスの一員である、占藤メメは、後輩たちの競争に思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 この高育において、カラオケボックスは、防音性抜群の密室であり、密談にはもってこいの施設である。

 指定されていた部屋に入ると、既に他の二人(坂柳と葛城)は待っていた。

 

「すまない。少し遅れた」

「いや、構わん」

「えぇ。ですが、学秀くんが時間に遅れるなんて、らしくないですね」

 

 ついさっき貰い受け、コピーしたプリントを机の上に置きながら一応の弁明をする。

 

「こ(・)れ(・)を手に入れるのに手間取ってね。過去最高のAクラスという評判は、伊達ではなかったよ」

「………これは、過(・)去(・)問(・)か(・)?(・)」

「なるほど、2、3年の先輩から巻き上げてきたんですね」

 

 思わず苦笑する浅野。少々過激な思考すぎるのでは?

 

「ははっ、2年生の方は、同じ中学校の先輩から貰ってね。3年生の方で手間取ってしまった。あれほどの実力者と一局指せたことは得難い経験だったけどね」

「へぇ、あなたがそう褒めるほどの実力者が、この学校にいるとは。是非手合わせ願いたいものです」

「あぁ、今度紹介しよう」

「ふふふふっ、楽しみです」

「あー。うん。趣味の話をしてるところ悪いんだが、浅野、何(・)故(・)過(・)去(・)問(・)を(・)?(・)」

「あぁ、この学校の出題傾向を見るために必要だと思ったから、多(・)少(・)の(・)リ(・)ス(・)ク(・)を(・)負(・)っ(・)て(・)で(・)も(・)取(・)り(・)に(・)行(・)っ(・)た(・)ら(・)、(・)思(・)わ(・)ぬ(・)副(・)産(・)物(・)だ(・)っ(・)た(・)」

「……えぇ、そのようですね。一(・)言(・)一(・)句(・)違(・)わ(・)ず(・)、(・)全(・)く(・)同(・)じ(・)問(・)題(・)で(・)す(・)」

「………なるほどな。抜き打ちで行われたとされる小(・)テ(・)ス(・)ト(・)、一(・)学(・)期(・)中(・)間(・)テ(・)ス(・)ト(・)は、全く同じ問題が、2年連続で出ている」

 

 葛城は眉間に皺を寄せ、有栖は楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「なるほど、赤点で退学が考えられる以上、そうならないための救済策、というわけか」

「えぇ。そしてこの小テスト、最(・)終(・)3(・)問(・)だけ、難易度が異次元です。普通の高校生では解けないでしょう。────私は解けますが」

「あぁ、………僕も解けるが」

「俺は無理だ。つまり、これは過去問の存在を示唆するための小テスト、ということだろう」

 

 五英傑での話し合いを思い出す理解の早さ。有栖は既に知っていたが、やはり葛城も相当にやるようだ。

 

「なるほど、浅野の考えは分かった。………満点を取ることを考えられていない小テストで、ク(・)ラ(・)ス(・)全(・)員(・)で(・)満(・)点(・)を(・)取(・)る(・)。………間違いなく、大幅な加点となるだろう」

「あぁ。これを知ったのは偶(・)然(・)だが、これを活かさない手はない」

「えぇ。これに関しては賛成です。───さらに差を広げる為に、もう一手、打ちましょう」

 

 この五日間で、坂柳有栖はそれなり以上に危険だと知った葛城は身構え、有(・)栖(・)と(・)似(・)た(・)こ(・)と(・)を(・)考(・)え(・)付(・)い(・)て(・)は(・)い(・)た(・)浅(・)野(・)は、顔を顰めた。

 

「……有栖、君の一手は、問題を変えた過去問を他のクラスに配ることで、平均点を下げさせることか?」

「えぇ。まず、小テストの過去問はそのまま配ります。それと全く同じ問題が来れば、殆(・)ど(・)の(・)生(・)徒(・)は(・)中(・)間(・)も(・)過(・)去(・)問(・)と(・)全(・)く(・)同(・)じ(・)問(・)題(・)が(・)来(・)る(・)と(・)考(・)え(・)る(・)で(・)し(・)ょ(・)う(・)。………しかし、中間の過去問は、内容が違っていたら(内容を変えてしまえば)どうなるでしょう?」

 

 全く、悪辣なことを考える。

 

「丸(・)暗(・)記(・)で(・)乗(・)り(・)切(・)ろ(・)う(・)と(・)す(・)る(・)ク(・)ラ(・)ス(・)ほ(・)ど(・)、(・)退(・)学(・)者(・)を(・)出(・)す(・)だ(・)ろ(・)う(・)な(・)」

「……確かに、有効な手だと認めよう。だが坂柳、それは道理に適っていない」

「………そういうところはつまらないですね、葛城くん。あなたは、どうですか、学秀くん?」

 

 浅野は、顎に手を添えて考え込む。

 ……有栖は、こう考え込む時の学秀に、浅野學峯(知る限りで一番の怪物)と同じような気配を感じる。

 そして、顔を上げた浅野は、告げる。

 

「やろう」

「浅野っ!」

「ふふふっ、ええ、えぇ!そう言うと思っていましたよ!学秀くん」

 

 顔を顰め、声を荒げる葛城に反するように、満面の笑みを浮かべる坂柳。

 坂柳の狙いはDクラスだ。生徒個人の実力が最も低いのはあのクラスだ。まずはあのクラスを徹底的に叩きのめす。そうして、綾小路清隆に見捨てさせるのだ。こんなクラスに用はないと。

 そうして、堀北鈴音(憎き恋敵)から奪い取ってやるのだ。

 その後、あの堀北鈴音(色ボケクソビッチ)をそこらの男にでも襲わせて、穢させて、壊し尽くして、私と綾小路くんが結ばれる瞬間を、見せつけてやる。

 

「ただし、やり方は変える」

「どういうつもりだ?」

「……何を、変えるというのですか?」

 

 浅野は、嘗て害する努力を怠った為にした敗北(椚ヶ丘学園祭)を思い起こしながらも、間(・)違(・)え(・)て(・)い(・)た(・)父(・)の(・)教(・)え(・)に反した行動をとった。

 

「基本的な内容は変えない。ただ、真(・)嶋(・)先(・)生(・)と交渉して、数学の最終問題だけを、過去問と変えてもらう」

「──それに何の意味があると」

「他クラスの成績優秀者が満点を取るのを防げる、可能性が生まれる」

「だから、それに何の意味があるのかと言っているんです!」

「落ち着け、坂柳」

 

 ふー、と深呼吸した有栖は、ブスッとむくれながら言い捨てる。

 

「私は、……確かに個人的な感情(堀北鈴音を倒す)もありますが、クラスのためになる戦術を話したつもりです。………学秀くんのそれは、クラスのためになりません。むしろ逆です」

「………あぁ。俺も同じ意見だ、浅野。他クラスが満点を取る可能性を減らせるのは、良いだろう。だが、俺(・)た(・)ち(・)の(・)ク(・)ラ(・)ス(・)が(・)満(・)点(・)を(・)取(・)る(・)可(・)能(・)性(・)も(・)減(・)る(・)ぞ(・)」

 

 教師が、テストに出す問題を予め生徒に教えるわけがない。

 過去問という形で出してきているのが特殊なのだ。

 

「確かにその通りだ。それまでは地図通りに進めば良かったのに、最後の最後だけは、自分で地図を引かなくてはならない。……はっきり言って仕舞えば、無駄でしかない」

「そこまで分かっていながら何故」

「プライドの話だ。葛城」

「プライド?」

「あぁ。自分だけが知っているやり方で勝ったとしても、僕(・)は(・)納(・)得(・)で(・)き(・)な(・)い(・)」

 

 あの時、二(・)学(・)期(・)期(・)末(・)テ(・)ス(・)ト(・)の(・)、(・)あ(・)の(・)問(・)題(・)。

 解き方は分かっていた。それでも、時間は足りなかった。

 何故、赤羽たちは解けたのか。それだけがどうしても気になって、教わりに行ったことがある。

 分(・)か(・)っ(・)た(・)の(・)は(・)、(・)自(・)分(・)が(・)初(・)歩(・)的(・)な(・)見(・)落(・)と(・)し(・)を(・)し(・)て(・)い(・)た(・)と(・)い(・)う(・)、(・)事(・)実(・)。

 

「僕(・)は(・)、(・)勝(・)て(・)た(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)勝(・)負(・)に(・)、(・)自(・)分(・)の(・)力(・)で(・)挑(・)ん(・)で(・)負(・)け(・)た(・)。………この敗北を、屈辱を雪ぐなら、僕は僕の力で、今度こそ勝たなければならない」

 

 過去問の内容を変える。なるほど、確かにそれなら、確実に勝てるだろう。

 だが、そんな勝利に意味はない。

 少なくとも、浅野学秀にとっては。

 

「有栖。君はどうだ?こんなやり方で勝って、君は納得できるのか。…………胸を張って、綾小路に会えるのか?」

「っ………それは………」

 

 もし仮に、坂柳有栖が、堀北鈴音に宣戦布告されていなければ、平然と答えただろう。

 会える、と。

 だが、今は、違う。

 自(・)覚(・)し(・)た(・)、(・)さ(・)せ(・)ら(・)れ(・)た(・)。(・)自(・)分(・)の(・)抱(・)い(・)て(・)い(・)る(・)感(・)情(・)は(・)、(・)恋(・)な(・)の(・)だ(・)と(・)。

 ずるをして勝って、隣にいる権利を、得られたとしても。彼(・)は(・)、(・)有(・)栖(・)を(・)見(・)な(・)い(・)。(・)

 だって、彼の隣には、本(・)気(・)で(・)彼(・)に(・)向(・)き(・)合(・)お(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)人(・)が(・)、(・)既(・)に(・)い(・)る(・)か(・)ら(・)。(・)

 もし、彼を振り返らせたいのならば、有栖は本気で、真正面から、堀北鈴音と、もう一人(二人の強敵)に、勝たなくてはならない。

 

 そんなこと、分かっていたのに。

 

(私は、目先の勝利に、目が眩んでいた……?)

 

 愕然とする。自分は、自分という存在は、こんなにも感情に振り回されるのか(子供じみているのか)と。

 握り締めた手の甲に、雫が落ちる。泣いている?ま(・)さ(・)か(・)、(・)自(・)分(・)が(・)?(・)

 

「お、おい浅野、言い過ぎじゃないか?」

 

 生粋の兄でもある葛城にとって、自分よりも幼そうな少女が泣くところなんて見て仕舞えば、当然、心配するし、泣かせた相手を責めもする。それが例え、坂柳有栖であっても。

 それでも浅野は、葛城の静止を振り切って、有栖に向き直る。

 有栖の前で跪き、その手を取る。彼女を慰めるように。……これから、彼女を傷付けるのに。

 

 知っている。幼(・)馴(・)染(・)だ(・)か(・)ら(・)。

 有栖は、一目見ただけのあの少年に、ずっと。

 世界全てに絶望していたであろうあの少年に、ずっと。

 世界には、希(・)望(・)だ(・)っ(・)て(・)た(・)く(・)さ(・)ん(・)あ(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)、(・)教(・)え(・)た(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

 

 だが、少年(綾小路清隆)はもう、希望を知った。愛を知った。恋を知った。………哀しみを、怒りを、喜びを知った。

 有栖の知らないところで、有栖の知っていた少年(嘗ての綾小路清隆)は、有栖の知らない少年(今の綾小路清隆)になっていた。

 

 そんなこと、堀北鈴音に会う前から、分かっていたのに。

 父の伝手で、E組での彼を撮った写真を見た時、彼は、確かに、心から。

 笑っていたのだから。(楽しそうだった)

 

「………勝(・)と(・)う(・)、(・)有(・)栖(・)」

 

 嘗て、有栖の知っていた少年は、今、有栖の知らない少年として、目の前にいる。

 

「僕(・)は(・)、(・)負(・)け(・)た(・)。(・)何(・)も(・)か(・)も(・)届(・)か(・)ず(・)に(・)」

 

 自分の、最も大きな傷を、晒して。

 

「…(・)…(・)…(・)君(・)も(・)、(・)負(・)け(・)た(・)。(・)何(・)も(・)出(・)来(・)ず(・)に(・)」

 

 坂柳有栖を(私のことも)傷付けて。

 

「悔しくて、苦しくて、悲しくて、泣いてしまいたいなら」

 

 嘗て、自分がそうしたように。

 

「それを糧に、立て」

 

 今、自分がそうしてるように。

 

「そ(・)し(・)て(・)………」

 

 そう、そ(・)し(・)て(・)。

 

「今(・)度(・)こ(・)そ(・)、(・)勝(・)つ(・)。(・)で(・)し(・)ょ(・)う(・)?(・)」

 

 天才とは、9(・)9(・)%(・)の(・)努(・)力(・)と(・)、(・)1(・)%(・)の(・)閃(・)き(・)で(・)あ(・)る(・)。

 かの発明王トーマス・エジソンは、そう言った。

 

 ならば、真の天才とは、きっと、9(・)9(・)9(・)%(・)の(・)努(・)力(・)と(・)、(・)1(・)%(・)の(・)閃(・)き(・)なのだ。

 最後の最後、必ず勝つための、たった1%を追い求めるものなのだ。

 

 ならばもう、有栖に近道(邪道)は必要ない。何度負けようとも、最後の1%を手に入れるまで、進み続けるのみ。

 

 

 そう、何せ。

 

 真の天才(恋する乙女)は、無敵なのだ。





 勝手にテーブルゲーム部と浅野くんの先輩を生やしました。
 オリキャラではありますが、モデルはいます。

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