通信を聞いて、堀北鈴音はあちらの作戦を理解した。
「なるほど。防御を捨てての、超短期決戦ね」
『確かに、二倍近い人数差があることを踏まえればこれが最適なように思いますが』
『しかし、フラッグが全損すればあちらの敗北だろう?それ程までに命知らずのギャンブルをするとは思えない』
「防御側に残っているのは剣城先輩一人だけ。Cクラスが本当に誰も残していないとは流石に考えられない」
『おかしいです。その理論だと、一人で二つのフラッグを守っているということになります。それは誰であっても不可能です』
「………………風間先輩ね。何をしたのかしら」
堀北鈴音は、これを仕込んだのが誰なのか理解して。
だからこそ、その思考が読めなかった。
「………フラッグの隠し場所を探るのは一旦後にしましょう。防衛側の状況は?」
『かなり厳しいですね。防御側の指揮官たちが指示を飛ばしてなんとか立て直してはいますが』
浜辺では、弾幕と弾幕の押し付け合いが始まっていた。
一際目立っているのは白銀園子。
他の三年生は盾に隠れての射撃なのに対し、白銀園子は盾を使わず身体を晒している。
にも関わらず、弾丸は一発も当たらない。
無論それは、ただの運などではない。
自身を狙う銃口のほぼ全てを視界に入れて、その向き、角度、視線その他から弾丸が飛ぶ地点を予想して、当たらない立ち位置を取っているだけ。
「……白銀先輩、まさかセミオート……⁉︎」
「うっそだろ。それであの連射と命中精度?」
引き金を引きっぱなしで弾丸を飛ばし続けるフルオートではなく、一発一発で引き金を引かなければならないセミオート。
にも関わらず、フルオートレベルの連射性と、圧倒的な命中精度……!
「………三人撃破」
盾から僅かに覗いた三人の額を連続で撃ち抜いて。
三年Cクラス。30クラスポイント追加。
現在2632クラスポイント。
「………フラッグ三本に、後四人」
取り敢えず暫定で、ここを乗り切るべきラインと割り出して。
それを目指して、戦闘を続けていく。
「!隠してやがったな、天久先輩……!」
防御側指揮官の一人、龍園翔は、天久天馬の精密射撃に苦しめられていた。
今も、盾の隙間を通しての精密射撃で一人撃ち抜いた。
三年Dクラス。10クラスポイント追加。
現在2,112クラスポイント。
「うーん、一人一人殺してくのだと流石に無理ですかねぇ。やっぱりフラッグ取らないとですね」
リロードして再び精密射撃で盾の隙間を狙いながら、天久天馬はクラスメイトに期待することにした。
「とことんぶっ壊しちゃってください。れおたん」
盾が邪魔になったのか放り投げて。
走り回りながら、防御側の生徒たちを蹴散らしていく。
一人を正面から殴り飛ばす。
二人まとめて放り投げる。
三人を回し蹴りで薙ぎ払い。
そして、四人を──。
「───むっ」
かなりの精度の射撃が三人同時に来たので、走り回りながら躱すことに専念した。
残念ながら、狙っていた四人は諦めることにしよう。
『………はぁ。おいバカ上。ちゃんとトドメを刺せ』
Dクラスの生徒に、獅子上が気絶させた生徒たちを撃たせながら、風間はため息を吐いていた。
三年Dクラス。60クラスポイント追加。
現在2,172クラスポイント。
「それよりも、あの三人」
『南雲に桐山に森だな。ふっ、どうやらお前を抑えたいようだぞ?乗ってやったらどうだ?』
「……あぁ。それは楽しそうだ」
盾を拾い上げて、身体を隠しながら突撃する。
三人の射撃は盾に阻まれて通らない。
「ちっ、来るぞ!」
「森っ!」
「分かってる!」
ピンを外した手榴弾を放り込んで牽制する。
獅子上は盾で手榴弾を勢いよく弾き飛ばしながら、大きく跳躍して盾を振り下ろす。
盾は地面に埋まり、砂を勢いよく巻き上げた。
「さぁ、殴り合いといこうじゃないか!」
「くそっ、昔の桃井の同類かよっ!」
南雲は勢いよく高めのボレーシュートを決めるように頭を狙う。
敢えて頭突きで迎え撃つその戦闘狂っぷりにちょっと引いた。
蹴りの反動と頭突きの勢いで、右脚を勢いよく後ろ側に流されて、僅かに体勢を崩してしまう。
その隙をついて右の鉄拳が唸り、南雲の腹をぶち抜こうとしたところで、割って入った森のナイフを躱して二人は一旦距離を取る。
「一対一だと死ぬって言われただろ」
「はっ、お前を信じたんだよ」
「調子のいい奴だな」
「っ!来るぞ!」
今度は凄まじい勢いのタックル。
三人は三方向にバラけて躱す。桐山も森も、昔の桃井タイプならこの状況では一番強い南雲を狙うはずと判断し、南雲もそう予想して。
だからこそ、二人はすぐさま南雲を援護できるように備えていた。
そんな動きをドローン越しに見ていた風間の指示は的確だった。
『──獅子上。桐山だ』
「ふん。良いだろう」
獅子上玲央は、正面の南雲雅ではなく、右手側の桐山を狙って突進してきた。
(───⁉︎昔の桃井のような戦闘狂ではないのか⁉︎)
「一番弱いだろう俺からですか⁉︎」
バックステップで距離を取りながら弾丸をばら撒く。
一人相手ならば、獅子上も躱しながらの接近が可能だ。
瞬く間に距離を詰め、その首を掴んで押し倒した。
「確かに貴様は一番弱い。だが、守備の要だろう」
「ぐっ」
そのまま頭を打ち据えて気絶させようとして。
気配に気付いた。
左腕で頭を庇うと、鬼龍院の勢い強めの飛び蹴りが突き刺さる。
二年Aクラスの攻撃側部隊から単独で向かい、ようやく防御側に合流したのだ。
桐山を離しながら、敢えて大きく後ろに流れて一先ず距離を取った、所で。
背後から星穹恒は頭を狙って薙刀を左から右へ振り切った、が。
右手で受け止められた。
(──反応が速い)
「貴様らも面白いな」
「そうか。なら死ね」
桐山を狙ったことに少しだけ腹を立てたのか、些か冷たい声音と共に。
受け止めて動きを止めた一瞬で懐に飛び込んできた鬼龍院の左脚の蹴り上げを、やはり頭突きで迎え撃った。
勢いよく弾かれて、鬼龍院が数歩たたらを踏んだ所で、左の裏拳で振り向かずに背後の星穹恒の頭部を狙う。
頭を下げながら躱し、薙刀を掴む右手をテコの原理を応用して振り払い、今度は下から掬い上げるように背中を打ち据える、が。
「中々の威力だ。想像以上にやるな」
(痛みへの耐性が尋常でない。ほぼ無反応だと?)
今度は振り向きながらの強烈な右の正拳突き。
躱せないので薙刀の持ち手を盾にして防ぐ、が。
数メートル後ろに吹き飛ばされた。
背後を向いた隙に、鬼龍院は右跳び回し蹴りを延髄に叩き込んだ、が。
「………これでも死なないとはな」
「ふっ、そうだ。この程度は倒れんぞ?」
耐久力が尋常ではない。本当に人間なのか?
「安心しろ。流石に烏間程は、人間離れしていないさ!」
再び振り向き様に左の裏拳。
直撃は避けられないと判断した鬼龍院は、激突の瞬間大きく飛び退きながら受け流す。
しかしそれでもなお凄まじい威力。数メートル後ろに吹き飛ばされ、桐山が身体を張って受け止めた。
「それと比較になる時点でおかしいっすよセンパイ!」
「ていうか烏間先生と知り合いだったんです、ね!」
南雲雅と森悠政のナイフコンビネーションで襲い掛かるが、それら全てを的確に捌き続けてくる。
近接戦闘。その一点において、獅子上玲央は三年生でも頭ひとつ抜けている。
ともすれば、堀北学と金石博、白銀園子すらも上回るほどに強い。
三年生随一の近接格闘術と身体能力の持ち主だ。
一旦獅子上から離れながら戦場を見渡して、星穹恒は眉を潜めた。
桐山と森が指揮を離れた一瞬でさらに削られている。
九重からの残存人数カウントは百四十二名。
三年生側は百十七名だ。
三年Cクラス。30クラスポイント追加。
現在2662クラスポイント。
三年Dクラス。60クラスポイント追加。
現在2232クラスポイント。
一年Dクラス。40クラスポイント追加。
現在1165クラスポイント。
二年Aクラス。20クラスポイント追加。
現在1284クラスポイント。
「……桐山!森!指揮に戻れ!
ここは俺たち三人で抑える!」
「分かった!死ぬなよ!」
「了解っ!」
残った三人。
南雲雅、鬼龍院楓花、星穹恒は獅子上玲央を囲みながら、構えていた。
「はっ、同じ卓を囲んでた奴らで、同じ先輩囲むとはな」
「ならば、誰がこの獲物を頂けるのか勝負するか?」
「構わないが忘れるな。俺たちの目的は獅子上先輩を抑えることだ。それを踏まえて戦うぞ」
「はっ、わーったよ」
「まぁ、構わないさ」
三人の強者に囲まれて。
獅子上玲央は、最高に楽しそうな顔をした。
「───良いだろうっ!まとめてかかってこいっ!」
獅子上玲央の、その挑発に敢えて乗って。
二年生屈指の強者たちと、三年Dクラス最強の生徒がぶつかり合った。
指示を飛ばす葛城の背後から、三年Cクラス最速の生徒が襲いかかろうとして。
ナイフを持つ手を捕まえられて、合気を応用して投げ飛ばされた。
「させませんよ。蝶乃紫苑先輩」
「来たわね。坂柳有栖親衛隊っ!」
「親衛隊二番隊隊長森下藍です」
「…………それ、三年生にも広まっていたんだな」
葛城康平、少し疲れたような声でツッコミのような何かを入れた。
それ、かなり広まってるんだな。
「堀北学公認よ?誇りなさい」
「なんと。それは提唱者として誇らしいです」
嘘だろう。堀北学。
元生徒会長公認なのか?
「占藤メメも言ってたわよ?提唱者には賞状あげたいって」
「是非受け取ります」
「そう。ならそれを敗戦の慰めにしておきな、さいっ!」
背後から襲いかかってきた白石飛鳥と西川亮子を、振り向き様に纏めてナイフで切る。
瞬時に自身のナイフを盾にして防いだが。
「えー、後ろから仕掛けてるんだから当たってよ。
背中に目でもついてるの?」
「影があるんだから分かるわよ」
「やはり、強敵ですね」
強敵ではあるが、だとしても。
三対一で、坂柳有栖親衛隊の連係ならば。
「──伏せてっ!」
「っ!」
「おっと」
らしくない森下藍の大声に従い、白石と西川は頭を伏せる。
二人の頭上をペイントがついたブーメランが通り過ぎて、クルクル回りながら、それを投げた下手人、香月遊真の手元に戻ってくる。
「さて、後輩女子をいじめるのは心が痛みますが、やりましょうか。紫苑さん」
「はいはい。いじめましょうか」
すぐさま二人から距離を取った白石と西川は、森下の両隣に着地した。
「………ちっ、亮子、飛鳥、引き気味に戦いますよ。殺さなくても良いので二人はここに釘付けにします」
「真澄さんいませんけどなんとかなりますか?」
「三七に通信飛ばしといた。いざという時は狙撃飛んでくる」
「それでも足りませんよ?」
そう。この二人の連係を抑えるには、とても。
「幸村に指揮完全に任せてきた。私も入れる」
『今緋音先輩がダッシュで戻っています。それまで堪えてください』
神室真澄もこちら側に来れたようだ。
ついでに連れてきたDクラス身体能力トップツーもここに。
「三七の友達だっけ?俺も手伝うぜ。よろしく」
「俺ら香月先輩抑えた方がいい感じ?」
「いえ。星穹と柴田は蝶乃先輩抑えて。あの人の速さと勝負になるの柴田ぐらいだし」
「りょーかい」
この二人を組ませるのはマズイので、分断して抑える。
そのためには。
「藍。よろしく」
「かしこまりです」
ピンを外した手榴弾を二発投擲。
並んで立つ二人の丁度中間地点に落として。
二人はそれぞれ別方向に回避した、ところで。
柴田颯は、その足の速さで蝶乃に肉薄する。冷静に躱し、香月と合流しようとしたところで、星穹拓人が割って入ってきて、ペイントが塗られたバットをフルスイング。
バックステップで躱し、ナイフとハンドガンを構えた。
「野球部でしょう?人にバットを振っちゃダメじゃない」
「ま、この試験だけの特例ってことで」
「サッカー技術でキックしてる先輩いるし今更でしょ?」
「それもそうね。まぁいい。纏めてお姉さんが、躾けてあげるわっ!」
高速で動き回る蝶乃を柴田が抑え、足を止めた隙に、星穹が攻める。
二対一の戦闘が始まった。
「後輩女子たちが遊んであげるからさっ!ちょっと足止めてこうよ香月先輩っ!」
「すいませんね。僕、そういう遊び人ではないんです」
「変な所で真面目にならないでくださいきめぇです!」
「酷くありません?」
「常日頃からふざけてるからでしょ!」
「いえいえ。真面目な時は真面目ですよ?
ほら、今とか」
親衛隊の高度近接連係。
お互いがお互いをフォロー出来る立ち位置を固定して即応出来るように。
決して殺すつもりではなく、足留めを最優先に。
しかしそれでもなお。
僅かな隙を見逃さず。
「──隙ありです」
「やば」
一瞬の隙をついて、西川の首を切ろうとして。
悪寒を感じた香月は、体勢を崩しながらも慌てて連続バク宙で距離を取る。
香月は目を見開いて驚いた。
もしあのまま西川を殺そうとしていたら、
「………すいません。躱されました」
「大丈夫よ美紀。隠れてて」
「はい」
山村美紀は、風景に溶け込むように消え去った。
目を凝らしてその姿を捉え続けようとしていたが、いつのまにか見失っていて動揺する。
その隙をついて、星穹三七は狙撃して。
『あーもー!なんで狙撃躱すの⁉︎普通躱せないんですけど⁉︎』
「普通じゃないからでしょ」
香月遊真は油断なく二本のナイフを構えながら、真剣な顔で口を開いた。
「…狙撃だけが隠し玉かと思っていましたが、そんなことは無かったですね。成程。
足留め狙いではなく、ここで殺すつもりでしたか」
「ま、六対一だもの。流石にこれで殺せなかったら、有栖に怒られちゃうから」
「奇遇ですね。僕も、後輩女子に殺されて仕舞えば、怖いクラスメイト達に怒られてしまうので」
「思ったよりも苦労してますね」
「えぇ。ですが、楽しい苦労ですよ?」
「奇遇ね。私たちもよ」
坂柳有栖親衛隊と香月遊真は、どちらからともなく激突した。
戦場をドローンカメラで見渡しながら、九重九十九は歯噛みする。
『手が足りない……!特記戦力たちに人を使い過ぎてるっ!』
そもそもこんなに特記戦力をつぎ込んでくるのがおかしいのだ。
こちらはバランス良くバラけさせているというのに。
『───っ!犬山先輩抑えて!』
何より最大の想定外。
防御側でカウントしていた犬山先輩の、大暴れ。
「この程度かっ!」
盾を振り回して射撃を防ぎつつ、殴り飛ばし蹴り飛ばしタックルで纏めて吹き飛ばす。
気絶した生徒達は、すぐさまCクラスの生徒達にトドメを刺されて行った。
三年Cクラス。40クラスポイント獲得。
現在2702クラスポイント。
「囲んで射撃!弾幕で閉じ込めてっ!」
須知萌香の指示通り、犬山護を集団で囲んで、距離を取っての包囲射撃の弾幕で閉じ込める。
確かにこれなら動きを止められる。だが。
『須知さん!Dクラスが来るっ!』
「ぐっ、マズイっ」
側面からDクラスの射撃が突き刺さる。それで二人やられた。
三年Dクラス。20クラスポイント追加。
現在2,252クラスポイント。
体勢を立て直したいが人が足らない。
指揮から離れて特記戦力たちを抑えられる生徒が足らない。複数人で囲んで犬山先輩を抑えている、が。
「桃井はまだ⁉︎」
『今向かってる!』
一人だけだからこそ、桃井緋音は動き易い。
もし桃井がここに来れたら、それでどうにか。
全力ダッシュで森から防御陣形に戻っている途中の桃井は、狐判に通信を飛ばす。
「稔!後どれくらいで着く⁉︎」
『後二分!急いで!』
「くそっ、フリーランニングももう少し鍛えるべきだったなぁ!」
些か近接戦に比重を置き過ぎていたかもしれない。
だがそれでも、桃井緋音に追いつけるような人間は殆どいない。
そう。
殆どいない。
桃井緋音は咄嗟に足を止める。そのまま走っていたら、自分から射撃に突っ込む所だった。
「───っ!」
「お、よく気付いたね」
「………なるほど。だからあなたが、防御側に」
猫実は、ハンドガンを撃てる高さで構えながら笑いかける。
その反対側から、飛騨翔子。
ショットガンを両手に装備していた。
「さぁ桃井。あなたの相手は、私たちよ」
「…………今忙しいんですけど」
「そんなこと言わないでよ。あたしらもあんたと、やり合いたいんだからさぁ!」
二人は同時に飛び掛かり、桃井も木刀を抜刀して迎え撃った。
それをドローンカメラで確認した狐判の判断は早かった。
『赤羽くん!フラッグ捜索切り上げて防御に戻って!今一番近いの赤羽くん達だから!』
「おっけ。みんな戻るよ」
一年Cクラス攻撃側の赤羽業は、榎中と真鍋と伊吹を含めた二十名の攻撃部隊を率いて、急ぎ戻り始めた。
「やっぱ、堀北先輩達があんなに遠いのって、綾小路とか卜部先輩引き留めるつもりで?」
「多分そーだね。にしてもやり過ぎだと思うけどなぁ」
赤羽業は、不思議だった。
確かに、あの二人を遠くに釘付けにするなら、これで良いだろうが。
しかしそれではあの二人も。
「………もし、だよ。赤羽くん。
あの二人が、この距離を一気に動けるとしたら?」
「………確かに、そうだとしたら離れた位置にいる説明もつくけど」
「いやでも物理的に無理っしょ。フリーランニングだけじゃあの距離の森抜けて攻撃側に合流なんて……」
「分かってるけどさ。
でも、もしそれが出来るなら、この配置にも説明がつくじゃん」
そう。説明は、つく。つくが……。
伊吹澪は、訝しげな顔で。
「説明つくけど、じゃあどうやるのさ?」
「それは………………分かんないけど!」
「………………………いやでもそっか。
私らの想像もつかない移動技術身につけてる可能性もある、か」
「そうそう!それそれ!私それが言いたかったの!」
フリーランニングで浜辺に戻りながら、赤羽業は整理する。
もし、本当に、あの距離を踏破できるとしたら。
「………綾小路。卜部先輩。聞こえる?」
『なんだカルマ?』
『どうかしたの?』
「監視してる奴ら今どんな感じ?」
樹上から金石博をスコープ越しに除いている綾小路清隆は、それに少しだけ不思議そうに。
「こっちは今のところ動きはないな。どうかしたのか?」
『こっちもね。静かすぎる気はするけれど』
『真鍋さん言ってたんだけどさ、もし、その人たちが短時間で浜辺まで行けるだけの移動手段があったとしたら、二人を釘付けにした上で有利に攻撃進めるよねって』
「………その理論は分からなくはないが、物理的に──」
オレは、違和感を覚えた。
金石先輩が、片手で黄乃先輩を姫抱きして。
もう片方の手で、
先の言葉が脳裏をよぎり、答えに行き着く。
「────まさか⁉︎」
咄嗟に牽制しようと狙撃したが。
たまたま落ちて来た木の葉に直撃して、狙撃は当たらず。
狙撃地点に気付いた金石先輩は、スコープ越しに笑いかけて、一言。
読唇術も身に付けているオレは、何を言っているのかも分かった。
『お先失礼』
人一人抱えながらダッシュして、大きく跳び、ワイヤーガンから、フック付きのワイヤーを打ち出して。
森の中を、立体機動で移動していく。
「───スパイダーマンみたいなことしてる……。
いや、調査兵団か?」
『………こっちもよ。堀北先輩が橘先輩を抱えて、立体機動で森を高速で移動してるわ。
………目算だと、後七分程度で、浜辺に到着する』
そう、か。
堀北先輩と金石先輩は、立体機動で森を高速で移動することができる。
だからこそ、二人は正反対にいた。
「オレたちを置き去りにして、攻撃側に向かう為に」
『……してやられたわ。森の中を立体機動しているから、狙撃の射線が通らない……!』
『……成程。この状況であの二人まで攻撃側来たら詰みだね。しゃーない。
ひよりさん。近い方の最短経路計算して。俺らで待ち構えて妨害する』
『しかしそれだと浜辺での戦闘に参加出来ませんよ?』
『あの二人参加させる方が最悪でしょ。どっちが近い?』
『金石先輩ですね。堀北先輩は?』
『僕達が対処する。任せてくれ』
『頼りになるねぇ。浅野くん』
金石先輩には、カルマと榎中に伊吹含めた二十名が抑えにかかる。カルマ達にはリミッター解除もあるし、それなら確かに問題は無いはず。
だが、堀北先輩には浅野達が。確か、Aクラス攻撃部隊は現在、橋本がやられて十九人。
鬼頭もいるが、それでどうにか出来るのか……?
身体能力その一点では、AクラスはCクラスに間違いなく劣る。ならば。
「………浅野。オレもお前達の部隊に合流する」
『………正直ありがたいが、どうするつもりだ?合流する頃には、僕以外やられている可能性も……』
「………狙撃を完全に捨てるのは、少し惜しいが」
流石に立体機動の大きな邪魔になるので、狙撃銃と狙撃用マガジンその他諸々を森に捨てる。
そうか。だから二人は、ハンドガンとナイフしか装備していなかったのか。
今始めて見たが、金石先輩に出来たのなら、きっとオレにも出来るはず。
「………まぁ、事故っても超体育着改なら、なんとかなるだろう」
樹上から勢いよく跳び上がって、ワイヤーガンで木を狙って、立体機動を開始する。
ようは、振り子運動の繰り返し、人間ブランコだな。
体幹も相当に超人的で無いと不可能だし、腕力だけで保持しないと駄目だし、常に次のアンカーの打ち込み先を把握し続けないといけないのか。
途中途中で木を蹴ったりして、調整しながら移動する。
………人一人抱えてこれやってるのかあの先輩達。
やっぱおかしいな。
クルーザーのバックアップルームで、なんかおかしいことをし始めた綾小路清隆をドローンカメラ越しに見て、佐倉愛里は困惑した。
「あ、あの、なんか、綾小路くんおかしいことしてます」
「やっぱきよぽんバケモンだわ」
「………今見たばかりですよね?」
坂柳有栖も流石に困惑した。
どうして、今見たばかりなのに、立体機動が出来るのだろうか。
『あー、確かに。俺らに出来ない道理もないか。
准、俺らもあれで先行して金石先輩達先回りするよ』
『………えー?俺も?』
『安心しなよ。事故っても超体育着改あるし。真鍋さんと薮さんワイヤーガン持ってるよね?カートリッジと一緒に借りて良い?
あ、攻撃側の指揮官一旦頼むね』
『良い、けど……??』
『ありがと。うし行くぞー』
『はーい』
あたおかCクラス男子ツートップもまた、立体機動で移動を始めた。
攻撃側Cクラスの生徒達はドン引きしていた。
バックアップルームはまたドン引きしていた。
「ふふ、流石ですね。カルマくんは」
なんか平然と笑ってる椎名ひよりにみんなドン引きしていた。
恐る恐ると言った様子で、九重九十九は、一応確認した。
「シュ、シュウは、その、流石に出来ない、よね?」
『………成程。フリという奴ですね?』
「あ、違、その、待っ」
『ワイヤーガン持って来ておいてよかったです。
綾小路と合流しますし、単独で行っても大丈夫ですね。
鬼頭、一旦指示を頼む』
『………あ、あぁ』
そうして浅野学秀も、ワイヤー立体機動を開始した。
攻撃側Aクラスの生徒はみんなドン引きしていた。
バックアップルームはまたまたドン引きしていた。
「………シュウ、人間、辞めてる」
「………幼馴染が、遠くに行ってます」
彼女と幼馴染は、宇宙を背負った猫の顔をしていた。
人間卒業生徒会一年生男子は、移動しながら作戦会議を実行していた。
「オレと浅野は途中で合流して堀北先輩狙う感じだな」
『この感じなら移動中に射撃を狙えるかもな』
『それ多分俺らもバランス崩して事故る奴だから辞めた方がいいって』
『准に賛成。ぶっつけ本番だし、まだ移動しか出来ないよ』
移動しながら、網倉達が計算した合流地点を確認する。
最初の想定よりも、かなり。
「かなり手前で攻撃開始出来るな。だが、どちらも連係がある」
人数で押し込むのも悪くない選択肢だが、それだと浜辺まで押し込まれる危険性がある。
だからこそ、浜辺からある程度以上は離れた場所で、立体機動で先回りして攻撃する。
そう考えると、リミッター解除できるカルマと榎中は別々に。
………いや。
緋音は、薬無しでもリミッター解除をして見せていた。
ならば。
緋音のライバルのオレにも、同じことが出来るはず。
「…………まぁ、これもぶっつけ本番だが」
「まー、一度見せたら綾小路は出来るよね。
赤羽達も伝聞だけで出来るようになってるのは予想外だったけど」
「………博。少しは人間して?」
『なんというか、我らがリーダーは、やっぱりおかしかったわね』
バックアップ担当の烏麗華は、知ってはいたが、人一人を抱えて森を立体機動する金石にドン引きしていた。
まぁ、最初から予定通りではあったのだが。
「さーて、学?そっちはどう?」
「特に変わりはないぞ?」
通信を受けた堀北学は、橘茜を抱えて立体機動しながら、平然と通信していた。
橘茜は正直絶叫系とか苦手なので顔面蒼白を超えて真っ白だった。
「あ、あああああああのまなまなまなまなまな学くんおおおおおお願いですから通信しながらはやめてくらひゃい」
「俺を信じろ。事故など起こさん」
「し、ししししししんじてますけどこわいものはこわいんです」
「おっと、手が滑った」
「ひぃぃぃぃぃ」
おっそろしいことを言うので咄嗟により強く抱きついていた。
手が滑ってなどいないが、悲鳴をあげながら強く抱きついてくる橘茜が可愛いので。
『こらこら学くん。試験中にいちゃつかないの』
「なんのことだか分からないな?」
「ももももももしかしてさっきのわざとですかぁ⁉︎」
「気のせいだ」
占藤メメの忠告に素知らぬ顔で返して、橘茜の追求も何食わぬ顔で躱しながら、立体機動で移動を続けていく。
ついでに、ちょっとだけ危ない機動も混ぜて見た。
「きゃぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
『こーら!茜ちゃんで遊ばないの!』
悲鳴をあげながらより強く抱きついて来る橘茜。
叱るような口調で警告する占藤メメ。
「しかし可愛いだろう?」
堀北学としては、悲鳴をあげて泣いてる恋人は可愛い。
『確かに可愛いけど』
占藤メメとしても、悲鳴をあげて泣いている親友は可愛い。
「二人ともばかぁ‼︎‼︎‼︎」
橘茜にとっては、自分をこんなにも怖がらせて可愛がって来る恋人と親友は馬鹿だ。
『おいお前ら何試験中にイチャイチャしているコーヒー飲ませるつまりかこの馬鹿墜落して大怪我してしまえこの馬鹿』
風間律としては、試験中に超人のイチャイチャ絶叫アクティビティデートしてやがる
「イチャイチャなんてしてないよぉ‼︎‼︎」
そんな橘茜の絶叫も、堀北学は可愛いと思っていた。
「………ねぇ珠紀。珠紀も怖がってくれない?」
「えー?私のキャラじゃなくない?」
幼少期から平然とジェットコースター乗れるぐらいには絶叫系に強いのだ。寧ろこれを楽しんでいる側なので。
「いやぁ、ちょっと可愛いかもってさ」
「…………きゃ、きゃー、博のばかー」
似合わないと分かっているが、ちょっとは可愛いと思われたいので頑張って見た。
頑張って見たが、多分あんまり可愛くない。
「はははは。中々可愛いじゃないか」
「嘘でしょ?私完全に棒読みだったよ?」
自分でも分かるぐらい棒読みだったというのに。
しかし金石は、機嫌良く笑いながら。
「可愛いと思われたいっていういじらしさが可愛いんだよ」
「……………この馬鹿っ」
赤くなってちょっと照れながらも言い放つ。
「そういうところも可愛いよね」
「……………この馬鹿ぁ」
今度は真っ赤になって顔を隠して言葉を落とした。
『……………私は何を聞かされているのかしらね』
烏麗華は呆れ切った様子でため息を吐いた。
『……………後で私もお願いします。博』
「はいはい。機会があったらね」
通信を聞いていた真白珠莉はおねだりして、金石はさらっと受け入れて流した。
「さて、どの辺りで誰が妨害して来るのかな?」
『四分後に赤羽くんと榎中くんとぶつかるわね』
「ふーん、榎中も出来たんだ。なら、リミッター解除をアイツも持ってるかもね」
なんてことを話しながら、立体機動を繰り返していたところで。
次の木にアンカーが突き刺さらずに、墜落しそになって、咄嗟に木の幹を蹴って勢いを殺しながら、安全に着地する。
もし、アンカーが突き刺さって立体機動を続けていたら。
「わお。三宅かな?」
「みたいね。降ろして博」
「はいはい。お気を付けて、お姫様」
「はいはい。ありがとう王子様」
腕から降りた黄乃と降ろした金石は、適当に会話を交わしながら、ホルスターからハンドガンを抜いた。
「──綾小路が愚痴を言うだけのことはある幸運だねぇ。金石ボーイ」
「やぁ高円寺!君とも遊びたいと思っていたんだ!」
木の影から現れた高円寺六助は、その金髪を輝かせて。
蜂蜜色の髪を輝かせた金石博と黄乃珠紀と向かい合っていた。
「ふむ。狙撃はあるようだけど、僕たちを相手に二対一かい?」
「君たちの連係を孤高に真正面から打ち倒してこそ、だろう?」
余裕そうな笑みで挑発する高円寺六助。
対して金石博も、楽しそうに笑っていた。
「そうかい。なら、遠慮はいらないかな?」
「それはこちらのセリフだとも。遠慮なく、二対一でくるといい」
笑みを浮かべながら数秒向かい合って。
「──速いね」
「──君こそ」
背後の木の幹にペイントが咲く。お互いに早打ちを躱しながら、より笑みを深めて。
「君たちを纏めて打ち倒して、私の強さの引き立て役としよう」
「引き立て役の引き立て役にはならないようにね」
笑い合った二人は同時に宣言した。
「「さぁ───」」
戦闘、開始を。
「シャータイムといこう」
「ゲームスタートだ」