バックアップルームで、王美雨はらしくもなく声を荒げていた。
「単独で挑むなんて向こう見ずすぎです!
せめて赤羽くん達と合流してからにしてくださいっ!
今すぐ撤退して時間稼ぎを!
聞こえてますか、高円寺くん!」
その悉くを、高円寺六助は聞こえているにもかかわらず無視していた。
王美雨は歯噛みする。
確かに高円寺六助は強い。
だが、だが……………!
「──まぁ、暴走はある程度想定内なので、そこまで焦らなくても良いですよ。王さん」
「っ、ですがっ!………っ」
坂柳有栖の言葉に思わず噛みつこうとして振り向いた。
しかし、そのあまりにも冷たすぎる眼差しに、思わず絶句した。
「愛里さん。ドローンを一機戦場に。
金石先輩達が天久先輩の精密射撃のように、何かを隠している可能性は十分にあります。
どうせ高円寺くんはここで死にますが、それを引き出すことぐらいは出来るでしょうし」
「───はい。分かりました」
佐倉愛里は平然と受け入れて、ドローンを一機戦場に送り込んだ。
バックアップルームは誰も彼も、高円寺の勝利を期待してはいなかった。
確かに高円寺六助は強い。常識はずれの化物で、日本屈指の怪物だ。
だが、そんなもの、相手も同じなのだ。
金石博もまた、常識はずれの化物で、日本屈指の怪物なのだから。
日の当たらない深い森で、二人の怪物はぶつかり合う。
高円寺六助の全身の筋力を乗せた鉄板すらも貫通する威力の右ストレート。しかし平然と片手で受け止めて捻り上げる。
すぐさま空いた左手の手刀を首元に叩き込もうとしたが、それもまた片手で容易く受け止める。少なくとも、手刀でビンくらいは切断できる威力のはずだ。
お互いに足を振り上げて胸板を蹴り、吹き飛ばしあいながら体勢を整えて、高円寺六助が前に出ようとした瞬間に黄乃珠紀の射撃が不意を着く。僅かに止まったその瞬間には、既に金石は高円寺の目前に。
ダッシュの勢いを乗せた蹴り下ろしは、防御の構えを取った腕ごと身体を地面に叩きつける。しかし叩きつけられる寸前に右手一本で無理やり抑えて跳躍し、金石を跳び越え身体を回転させながら背後に着地。
着地した高円寺の顔面を狙って蹴り抜かれた黄乃の右脚と、振り向きざまに蹴り抜かれた金石の右脚が、前後から挟むように頭を狙う。
両腕をクロスさせて捕まえて、振り回して投げ飛ばそうと力を込めたその瞬間、額を黄乃が銃で狙っている事を目視。
咄嗟に両手を離しながら前に体重移動で飛び込み黄乃の背後に回り、振り向きながら優しく軸足を払い、倒れた隙にナイフで優しく殺そうとしたところで。
「──紳士的なのは良いことだけど、それで死んじゃ世話ないよ?」
軸足の脚力だけで宙返り。
高円寺の振り向きざまの足払いを躱しながら。
遠心力と重力と筋力を乗せた上からの叩きつけるような蹴り下ろしで、高円寺の頭を蹴り抜いた。
一瞬だけ高円寺の意識が飛ぶ。ゼロコンマ数秒程度だがそれで十分。
着地とほぼ同時に脚を折り畳みながら背後を蹴り抜き、その顔面に弾丸と錯覚するような威力の蹴撃が直撃して、あまりに勢い良く後ろに倒れた。
勢いが良過ぎたので、蹴りが入るのとほぼ同時に身体を倒して衝撃を逃がしたのだろうと判断。間髪入れず射撃。
高円寺は仰向けに倒れた状態から腹筋だけの力で両脚を振り上げて身体をその勢いで浮かせて、手も使わずの連続バク宙で距離を取った。
最初に浮かべていた微笑を貼り付けたまま、高円寺は油断なくボクシングの構えで構えたところで。
金石は目を細めて理解する。
「なるほど。君は女性を殴ったり蹴ったりは出来ないのか。なら珠紀の手を借りるのは流石にフェアじゃないね。僕一人でやろう」
「ふっ、二対一で構わないと──」
高円寺が言い終えるよりも先に、約5mはあった距離を文字通り瞬きの間に消して、左拳でボディブローを打ち込んだ。
反応できなかった訳ではなく、咄嗟に右手で捕まえようとはしたのだが、捕まえようとした右手ごと打ち込まれたのだ。
「うん。分かり易い言葉でいえば、一人で十分、というやつかな?」
「───舐めるな」
左の腕を振り抜いて頰狙いのフック。
身体を回転させながら躱して横面に強烈な回し蹴り。
そこで回転を止めず、もう一度横腹に回し蹴り。
そしてコークスクリューブローを胸板に打ち込み、スーパーボール宜しく吹き飛ばす。
高円寺は地面を数度跳ねて、樹木に叩きつけられた。
「………高円寺が手も足も出ていない。
強すぎる。綾小路があそこまで警戒するわけだ」
三宅明人は金石博の側頭部を狙って狙撃するが、頭を下げて躱して来た。
そのままクラウチングスタートの姿勢から猛烈ダッシュ。咄嗟に転がりながらその場を離れた高円寺はその蹴りを躱した。
重い音が森中に響く。
蹴り抜いた右脚は木の幹に埋まっていた。
「………読まれてるな。狙撃のタイミング。狙いも。
ポイント変えないと話にならない」
すぐさまそう判断した三宅は、登っていた樹木から飛び降りて。
寸前まで居た場所に、狙撃が通り過ぎたのを確認した。
「………予想通り、真白先輩も見てたか。
間一髪だったな」
着地と同時に身体を隠す。
狙撃が飛んで来た方角に身を晒さないようにしながらも、別の狙撃ポイントに走り出した。
「ふむ。あの高さを飛び降りれるとは。
狙撃だけでなく、身体能力もかなり高い生徒ですね」
真白珠莉は三宅明人の動きを予測する。
三宅明人が次の狙撃ポイントに着くとしたらどういうルートを走るのか。
まぁ、流石にメンタルトレースするには材料が足らないのでそれは無理だが、その身体能力を踏まえて計算、予測する。
「………成程。常に狙撃が来るだろう方角からは身を隠してますね。ですが」
計算、並びに予測完了した地点に跳弾して飛ぶように、狙撃。
木の幹や木の葉、枝に割れないようにかすりながら跳弾して、反対側の方角から、三宅の背中を撃ち抜いた。
筈だったが。
「………防がれましたね」
撃破判定は降っていないということは防がれたということ。
跳弾狙撃を初見で防ぐなど不可能。にも関わらず防いだということは。
瞬時にその狙撃ポイントから真白は離れた。
予想通り、直前までいた場所に狙撃が命中する。
「───やはり、卜部さんも出来ますか」
「………躱された。跳弾狙撃は真白先輩も出来るのね。三宅」
『えぇ。間違いないです。綾小路のアドバイス通りに背後を警戒しておいて正解でした。
万が一を考えて背負っておいたライフルに当たって防げましたね。運も良かったです』
おそらく私の狙撃ポイントを読まれていた。
私は三分前までは堀北先輩を抑えていた。そこから堀北先輩の位置を踏まえて三分前の私の狙撃ポイントを割り出していた。
そこから先輩自身は三宅を
そして真白先輩を狙うのに最適かつ割り出していた私の狙撃ポイントに最も近い狙撃ポイントに私がいると予測していた。
だから、私がいるであろうポイントの方角に、枝や葉で作った即興の盾を構えていた。
その盾を躱すために、跳弾狙撃で先輩が守っている五時の方角から十一時の方角を撃ち抜いたけど。
………直前の跳弾狙撃を防がれたことで、私も跳弾狙撃が出来ることに確信を得た。
これ以降は警戒が強まるからこの瞬間しかないと思って狙撃したけど、その思考も読んでいたのね。
だから瞬時にあのポイントから離脱した。
つまり、私と真白先輩の狙撃勝負は、どちらが相手に読まれずにポイントを読めるのかの勝負。
「………ふふ、面白くなって来たじゃない……!」
通信で聞こえて来たその独り言を聞いて。
三宅明人は。
(………やっぱこの人戦闘狂のケがあるよな)
なんてことを考えた。
高円寺六助は一方的に攻め立てられていた。
反撃の初動は常に潰されて、一方的に殴られ蹴られ打ちのめされる。
いつか、綾小路清隆が堀北学にそうされたように。
「ふむ。成程成程。なんとなく分かったよ。
大して疲れてはいないが小休止しながら、目の前の男の消えない闘志の宿る目を見た。
「君にとっては、衝撃だったんじゃないかい?
───あの綾小路清隆が。
君が認めた強者が一方的に打ちのめされて、一本取ることしかできなかったという現実は。
自信がなくなった、いや、君はそんなに弱い人間ではないか。
ならば、試してみたくなった?
いや、確かめてみたくなったのかな?
綾小路と同じ様に、圧倒的な差がある相手と戦った時。
自身は果たして、一矢報いる事ができるのか。
自身は、綾小路より強いのか弱いのか」
高円寺六助という絶対的な自信と実力を備えていた男は。
一方的に打ちのめされても尚、翳らない意志を向けていて。
「うん。今の君は、間違いなく綾小路よりも弱いよ」
その言葉に、僅かに目を揺らして動揺した。
「だって、学よりも弱い僕にここまでやられてるんだよ?それに、今の君では僕に一矢報いることもできなさそうだ」
「………………はっ、やってみないと、分からない、だろう」
ふらりと立ち上がりながら睨みつけてくるが。
常に抱えていたその自信に、僅かな揺らぎが見えていた。
「…………成程ねぇ。
答えを導きたいんだね。高円寺六助。
自身と綾小路にある差を、どうやって埋めたら良いのか分からない。
恋人の差なのか、それとも友人の差なのか、経験の差なのか。
まぁ、恋人に関しては、あそこまで想い合える恋人にはね。うん。
それを埋めたいから、積極的に友人を作ろうとしていた。
それを埋めたいから、僕に挑んで、明確な格上との戦いの経験を積もうとした」
「………ふっ、私は私のままで強い。
それだけの、話だ」
「うん。それだけの話だ。
君は君でしかない。
どれだけの綾小路の後を追おうとしたところで、君は強くなれない。
だって、その道は綾小路だから強くなれた道だ。
同じ道を歩いたところで、君は強くなれない」
綾小路清隆は自身の抱えているそれが、歪み切ったものであると知った。
しかし、その歪みを恩師に肯定されて。
歪みに向き合い、より強くなった。
だからこそ、本来は圧倒的な差があるはずの実力者を相手に勝利できた。
桃井緋音という怪物を圧倒できた。
では、高円寺六助に何か歪みがあるのかといえば。
そんなものはない。
ただただ純粋に能力が優れていているから。
自分の実力を適切に評価して疑っていないから。
だから、強い。
だから、強くなれない。
「強くなるには、まず自分を疑わないとね。
今までの自分は正しかったのか。
今までの自分は強くなかったのかって」
「…………金石ボーイは、疑ったと?」
「うーん、まぁ、うん。
疑ったよ。たくさん疑って今がある」
ここにくる前、姉を実質的に殺されたあの時からずっと。
自分で自分を疑い続けた。
このままでいいのか。こんなに弱くて復讐なんて成せるのかって。
そうやって疑い続けて成長し続けて、そうして今がある。
成長するものは誰も彼も、一度は己を疑っている。
少なくとも、金石博はそう思っている。
「さて、アドバイス終わり。
君を残すのも面倒だし、今の内に
自身や学、白銀には流石に劣るが、それ以外の生徒には単独でも勝ち筋はある。
だからこそ、今この絶好の機会で
不意に、甲高い巻き取り音が響いた。
「ありゃりゃ。ちょっと時間使い過ぎたかな?」
薄く笑いながら、ワイヤーを巻き取りきって襲い掛かってくる赤羽業を視界に入れて。
「───っっっ!」
初手から文字通り全力。
即ちリミッターを解除して。
身体能力三十六倍で殴りかかって来た。
躱したが、拳は地面にめり込んでいた。
「………わお。こりゃすごい。ミンチになっちゃいそうだ」
「そーすか!まぁ、そんなことにはならないだろうけどっ!」
「初手からこれか。気合い入ってるね」
「あんた相手なら、これくらいしないと、ね!」
少し遅れて戦場に到着したら榎中は、木から飛び降りながら、リミッターを解除して黄乃を狙う。
「女子殴るの申し訳ないけど試験なのでっ!」
「別に良いわよ。殴り返すし」
「───良いっすね!
そういう人のが、やりやすいっ!」
三十六倍の一撃なんて、まともに受けたら確実に死ぬ。
だからこそ、細かく動き回って躱し続けて、隙を見て攻めて打ち倒そうとした。
しかしまぁ、中々隙がない。
金石も黄乃も攻撃を躱しながら合流して、背中合わせで会話する。
「うーん、思ったより速く切ることになりそうだ。
練習通り、ついて来てくれ」
「勿論。ちゃーんとついて行きますよー」
「………なら、安心だ」
前後挟み撃ちでの同時の拳撃。
しかしそれは、真正面から受け止められた。
二人はあまり驚愕はしなかった。
いやまぁ、同じこと出来た人を知ってるので。
「………まぁ、だよねぇ」
「ぶっちゃけ出来るよなって思ってました」
金石博もリミッターをぶち壊していた。
「………さて、ここからが、本当のゲームだ」
纏めて振り払って投げ飛ばす。
着地と同時に身構える二人を真正面から見据えながら。
金石博は楽しげに笑った。
目の前に立ち塞がっている二人の後輩を見て。
堀北学は楽しそうに、超人アクティビティを終了した。
「ほう。俺の相手は、お前達か」
「えぇ。リベンジさせて貰いますよ。堀北先輩………いや、義兄さん」
「………まぁ、将来的にはそうなるか」
「わ、私のこと義姉さんって呼んでも良いですよ?」
「じゃあ、茜義姉さんで」
「あっ、なんか良いです!なんか良いです学くん!」
「………あの、僕もいるんですけど」
何かこう、家族トークみたいなのに割って入るのは難しいが。
しかし、義兄さんか。
「ふっ、僕も学先輩のこと、兄の様に思ってましたよ」
その瞬間、隣からエゲツナイ殺気が漏れて来て、慌てて弁明した。
「待て落ち着け綾小路これに堀北さんは関係ないというか僕があくまで学先輩に勝手に思っていることでな」
「知っている。知っているから安心しろ」
ならその殺意を収めてくれ。
「ううむ、浅野が、弟、か…………。
正直、うん」
「何嫌そうな顔してるんですか少し腹立ちますね」
「ほら、父親が、な?」
「何も言えない………」
教師としては最高クラスだが、その、父親としては、うん。
そんな風に気の抜ける会話をしながらも、彼らはお互いに色濃く殺意をぶつけ合っていた。
向かい合って構えを取る。
「さて、始めようか。
お前達が相手なら、初手からこれを使って行くべきだろう」
次の瞬間。
僅かに揺れを感じる程の踏み込みで、堀北学はミサイルの様な勢いで、二人の懐までかっ飛んできて。
そのまま二人の腹を同時に打ち抜こうとして。
確りと受け止められた。
「───ふっ、お前達も、か」
「まぁ、原理がわかれば、出来ないこともないですし」
「あなたなら、身につけてるでしょうし……!」
三人はリミッターを解除していた。
全員三十六倍の殴り合いが開幕した。
浜辺に近い森で。
桃井緋音は、飛騨翔子と猫実詭々と戦闘を開始していた。
ゾーンに入り、待ちの姿勢。
飛騨の右手のショットガンが
猫実がその瞬足で背後を取って連射。
振り向きながらそのペイント弾の全てを、桃井は容易く斬り落とした。
「いやぁ、なんていうか、ボスよりヤバいかもしれないの見たことなかったなぁー」
「そうね。もしかしたら、学以上かもしれない」
「………そうですか。なら、とっとと倒れてくださいよ」
「そりゃ無理だ」
「仕事はちゃんと」
右手のショットガンに弾を込め直して。
一瞬で懐に潜り込んで、今度は殆どゼロ距離でショットガンが
「果たさないとね」
全力での長距離バックステップで、ぶち撒けられるペイントの範囲外に逃げ切って。
背後に来ることは読めていたので、振り向きながらの横薙ぎで胴体を狙う。
跳び上がって躱した猫実は、振り抜いた桃井の木刀の先端に着地して。
瞬時にナイフを突き出してくる。
顔を傾けながら躱しつつ、勢いよく振り上げて下から切り上げようとして、先端から跳び降りられて距離を取られた。
「今の漫画みたいじゃない?よくない?」
「……正直良かったです。漫画みたいで」
「純粋ねぇ」
油断なく構えながら、いっとき深呼吸。
(…………使うべきか、使わないべきか。
でも、わたしがこれできるの知らないし)
自身の手札にして切り札を切ろうかと考えていたところ。
稔から通信が。
『───緋音ちゃん!フラッグ一つ取られた!』
「………急がないとダメだね」
獅子上玲央が一瞬の隙をついて一年Cクラスのフラッグを奪い取ったらしい。
三年Dクラス。300クラスポイント追加。
現在2,532クラスポイント。
それを聞いた桃井緋音の判断は早かった。
自身の枷、即ちリミッターを解除して。
地面が僅かに揺れるほどの勢いで踏み込み突進する。
比喩抜きで目にも留まらぬ速さで接近した桃井の。
全力で振り払った木刀は。
二人に一切かすらずに躱された。
「…………あなたたちも、ですか」
「まぁ、要は思い込みだものね。これ」
「そうそう。原理が分かれば出来ないことはないよ」
リミッターを解除した三年女子身体能力ツートップと。
「…………関係ありません。纏めて倒します……!」
同じくリミッターを解除した学校身体能力最強の生徒は。
片方は楽しそうな笑みを浮かべて。
もう片方は出来る限り真面目に、しかし隠しきれない楽しそうな笑みを浮かべて。
とても楽しそうにぶつかり合った。
現時点での各戦場を確認して、堀北鈴音は眉を顰めた。
良くて互角。それだけ。
「………これでは、士気にも関わるわね」
『………ですが、どうしようもないでしょう?BクラスとDクラス攻撃部隊が戻って来ていますが、しかし』
一之瀬帆波と雪村あかり。
二人の指揮官は戦況を立て直しつつ、花咲ほむらと共に、白銀園子を牽制し続けている。
だが、指揮と牽制にかかりきりになり、他のところに手が出せない。
「ゲームチェンジャーが必要ね。単独で戦況をひっくり返す一手を打てる生徒が」
『ゲームチェンジャーとなり得る生徒は全員別の場所に──』
「まだ一人いるわ」
『彼を使うのは流石に速いのでは?』
「いいえ、彼じゃなくて、うちのクラスのサブリーダー」
『………え、僕?』
急に名を呼ばれて、平田洋介はびっくりした。
心の底からびっくりした。
『平田くんに何が出来ると?』
「今防御側が苦戦している最大の理由。防御側だと誰もが予想していたが故に、対策らしい対策を打てなかった犬山先輩の存在」
『………確かに、そうですが』
「だから平田くん。あなたが勝ちなさい」
指示を受け取った平田洋介は、深呼吸で精神を落ち着かせる。
犬山護。特記戦力Aの生徒。
最低二十人で挑むべき生徒。
それを、僕が?
でも─────。
「………分かった。それが指示なら、刺し違えてでも───」
『いいえ。指示は
相打ちで倒せとは一言も言ってないわ』
「……………で、でも、相打ちでも勝てるか………」
『少なくとも、私は勝てると思ってるわ』
いつもこうだ。
堀北鈴音が誰かに指示を出すときは。
いつも真っ直ぐあなたなら出来るとか、そういうことを言ってくる。
やる気の出し方をよく知っている。
人の乗せ方をよく知っている。
人の気持ちがわかっている。
だから、たまに腹立たしくて。
「…………本当に、僕に出来ると?」
『出来ると信じている人間は、この世に最低三十九人居るわ』
その数字の意味が分からないほど、平田洋介は愚かじゃない。
五人の攻撃部隊の顔を見る。
全員、笑っていた。平田洋介を信じていた。
あぁ。クソ。
平田洋介は、内心で、らしくもない悪態をついた。
「ふふっ、大役だね!洋介くん!」
「…………みたいだね」
「えっと、確かこういうときは。うん!」
軽井沢恵は平田洋介と向かい合って。
真正面から櫛田桔梗の教えを実践した。
「信じてるけど、その、えっと、えっと、か、か、か、勝てたら!ご、ごご褒美、あげます!」
『おお〜〜』
「ギャラリー五月蝿い!」
Bクラス攻撃陣は感心した。
堀北鈴音からそれを伝えられた櫛田桔梗は、『成長したね。恵ちゃん』などと言っていた。
「ご褒美、かぁ。………うん。なんだかすごく、やる気出て来たかも」
「そ、そ、そう?あ、で、ででででも!あ、あんまりえっちぃのは、その、ダメ、だから………」
「日和るなー」
「ご褒美でしょー」
「それくらいやりなよー」
「ギャラリー五月蝿いっ!」
そんなやり取りを見ていた平田洋介は笑った。
笑って、真剣な顔で大暴れする犬山護を見据えた。
自分たちが浜辺近くの森に来るまでに、守備隊はかなり削られていた。
合流した一年Dクラス攻撃部隊二十名を踏まえても。
現在、残存人数百三十二名。
三年生は百一名。
三年Aクラス。20クラスポイント追加。
現在3,542クラスポイント。
三年Bクラス。40クラスポイント追加。
現在2,982クラスポイント。
三年Cクラス。80クラスポイント追加。
現在2,782クラスポイント。
三年Dクラス。60クラスポイント追加。
現在2,592クラスポイント。
二年Bクラス。40クラスポイント追加。
現在1106クラスポイント。
二年Cクラス。60クラスポイント追加。
現在843クラスポイント。
一年Cクラス。60クラスポイント追加。
現在1,207クラスポイント。
「………うん。勝ってくる」
「信じてるよ。洋介くん」
平田洋介は弾幕飛び交う戦場を全速力で駆け抜けた。
犬山護の背中を狙って数発。
気配に気付いた犬山護は、振り向きながら盾を構えて銃撃を防いだ。
しかし、平田洋介は盾ごと犬山護を殴り飛ばした。
「………ほう。まさか、一対一か?」
「………えぇ。タイマンで行きましょう」
そうして。
第一ラウンドを終わらせる戦いが始まった。