「よし。じゃあ行くわよ」
『推定される隠し場所をナビゲートします。
急いでください』
CDクラスのフラッグを奪いに、堀北鈴音チームが。
「山村さんと星穹さんが切り札だ。
切りどころは、神室さんに任せるよ」
「りょーかい。で、あんたは大丈夫なの?平田」
「うん。まぁ、基本的に指揮に徹するけどね」
Aクラスのフラッグを奪いに、平田洋介チームが。
「よーし!ま、三人いれば充分だしね!」
「プラスで後藤もいるし結構楽にいけそうだな」
「防御は任せたぞ。社。指揮できるの社しか残ってないからな」
「ちっ、わぁったよ。
………フラッグ、ちゃんと取ってこい」
「もちろんだっつーの」
Bクラスのフラッグを奪いに、Dクラストップスリープラス後藤圭が。
そうして、三チームが離れたタイミングから、少し。
再び、開戦の狼煙がわりに、白煙が昇り竜よろしく立ち上っていく。
『補助いる?』
「必要ありません」
完全に予測して、綾小路清隆はそれを撃ち落とした。
「………ライフル貸してくれた南雲先輩には感謝だな」
自身のライフルは森に置きっぱなしなので。
今度は三つ。だが。
三連射で全てを撃墜。
五つ。七つ。
数が増えても、一切関係はない。
全てを問題なく撃墜し続ける。
と、そこで。
「なるほど。そう来るか」
今度は上ではなく、水平に。
真正面から防御陣形目掛けて飛んで来たそれを、咄嗟に反応した星穹拓人がフルスイングで打ち返した。
「ナイスバッティング!盾の裏まで下がって!」
「オッケー!」
狙われそうになったが一之瀬の迅速な指示により間一髪でセーフ。
森に推定で隠れている三年生チームは、煙幕をばら撒いて。
その隙に、陣を展開。
「───射撃開始!」
「迎撃開始!」
煙幕を挟んで、白銀と桐山のそれぞれの指揮の元、弾幕の押し付け合いが始まった。
そして、その隙に。
煙幕に隠れながら大きく迂回して、右側から金石博を筆頭とした別動隊が襲撃する。
だがそれは、読めていた。
「──っおっと」
綾小路清隆の狙撃で一瞬、金石博の足を止めた。
その隙に。
浅野学秀と赤羽業が襲いかかる。
「あら、読まれてたよ。学」
ほぼ同時に左側に回っていた堀北学の足を、潮田渚が一瞬だけ姿を見せることで遅らせ。
その隙に、鬼龍院楓花、星穹恒が襲いかかる。
「ほう。上手い暗殺者の使い方だな」
この二人は確実に抑える。
勝利の為にはそれが必須。
だからこそ、初手から切り札を切る。
「合わせろ!星穹!桐山!」
「分かっている!」
リミッターを壊した鬼龍院の隙を埋めるように、恒は薙刀を振るい、その二人を桐山が指揮する防衛隊の一部が援護する。
「浅野くん!」
「分かっている!」
リミッターを解除した上で、棒倒しでの経験を応用した連係攻撃。
それに加えて、葛城の指揮する防衛隊の一部の援護。
さらに。
「おっと」
常にどちらも狙える位置にいる綾小路清隆の狙撃。
それに加えて、一瞬姿を見せた潮田渚による暗殺への警戒。
実質的な五対一。
「うーん、これは少しキツイかな?」
『徹底してきたな。実にいやらしい』
暗殺を警戒しながら狙撃を躱して、防衛隊の援護射撃を躱して、高度な連係を見せてくる一、二年生それぞれトップクラスの実力者を捌く。
「突破にはだいぶ掛かるねこりゃ」
『中央は白銀たちに任せるか』
中央では。
納めた木刀に左手を添えながら、桃井緋音は瞑目していた。
完全にゾーンに入っており、彼女の間合いに入ったものは、一瞬で斬り伏せられるだろう。
そんな彼女の間合いへと平然と踏み込んでくる三年生が二人。
すぐさま居合切りへと移行、瞬き一つの間に二人まとめて斬り殺そうとした。
その二人は、抜刀とほぼ同時に間合いの外へ飛び退いていた。
「じゃあ、再戦と行くわよ。桃井」
「おねーさんたちが、遊んであげる」
桃井緋音は下段で木刀を構えつつ二人を見据えて。
ボソリと小声で合図する。
「おっと?」
瞬間、十機のドローンが小銃を展開。
猫実詭々を包囲射撃。
立ち止まった状態からのストップアンドゴー。刹那で最高速へと至った彼女は、その包囲から抜け出して。
抜け出したその瞬間に、幸村啓誠の投げ込んできた手榴弾に誘導され、綾小路清隆の狙撃で狙われる。
それらすらも回避しきったが、桃井から少しばかり離れ過ぎてしまったところで。
桃井の友達がナイフを持って飛びかかって来た。
それすらも躱すが、飛騨と完全に引き離されてしまった。
「はい。そこまでですよ」
「………ふーん、須知ちゃんにあたしが止められるかな?」
須知萌香はかなりの実力者。
しかし、猫実詭々を単独で足留めなど不可能だ。
「やってみないと分からない、なんて、実力差の分からない愚者の台詞ですからね。
大丈夫ですよ、先輩」
「…………ふーん、なるほど」
猫実は背後から襲いかかってきた後輩を片手で抑え。
反撃のナイフで仕留めようとした。
しかし須知萌香が割って入り、仕方なくその後輩を解放した。
もう一人の後輩の射撃も躱して、三人を視界に入れた。
「────まぁ、二人も暗殺者がいたんだから、三人目、四人目、五人目も警戒するよ。
後何人いるのかな?」
「さぁな。後一人かもしれないし二人かもしれないし三人かもしれないぞ?」
「ふぅん。なるほどねぇ。
南雲の腰巾着とばかり思ってたけど、違ったのか。
腰巾着というよりは懐刀だったわけね、影乃蓮」
「で、今は私の懐刀ですよ。猫実先輩」
視線を朝比奈なずなに向けた時には、もう影乃蓮の姿は無かった。
目を剥く隠密性と気配遮断。
なるほど。これはこれで、厄介な暗殺者の使い方だ。
「──ふぅん。三人なら、あたしを抑えられるって?」
「──リレーのリベンジです。
あんなこと言ったくせに、勝って卒業なんて許しませんよ?
私が勝つので、ギャフンと言って卒業してくださいね」
「──あー、割と根に持つタイプ?
ごめんねー、あたし、正直だから、さぁっ!」
飛び込んできた猫実を受け流して、朝比奈と須知の
それすらも振り切って、二丁拳銃で応戦。
三対一の戦闘が繰り広げるその少し隣で。
「───ぐっ!」
「二対一を挑んできた時点で、わたしと一対一では勝ち目がないと教えてくれたようなものです」
飛騨翔子は横薙ぎの一撃をショットガンを盾に防ぎ、鍔迫り合いで押し込まれる。
力押しでは勝ち目がない。
「わたしの親友の策です。
分断して各個撃破。
まぁ、猫実先輩の方は足止めで十分です。
この後そっちも貰うので」
「はっ、自分が貰われる側かもしれないって考えはなかったの?」
桃井の背後に回り込んでいた橘茜の牽制射撃。
鍔迫り合いを解きながらその射撃を木刀で防ぎ、至近距離でショットガンをぶちかまそうとしたので、空いた片手で銃身を掴んで無理矢理逸らす。
もう片方のショットガンで狙おうとしたが、桃井の振り抜いた木刀でショットガンを打ち払われて、後方に吹き飛ばされた。
「翔子!」
形成不利と判断した橘茜は、手榴弾を組み合う二人の足元に投げ込み。
ほぼ同時に組み合いを解いて勢いよく距離を取る。
爆発。撒き散らさせるペイントを、桃井緋音は木刀で悉く打ち払う。
飛騨翔子はすぐさま吹き飛ばされたショットガンを回収しようとして。
桃井の投げたナイフで足を止めた。
「………へぇ。投擲も出来るんだ。器用ね」
「えぇ。三日で身につけました。剣術だけだと負ける人が居るので。
投擲だけでも足りませんがね」
「………茜。引き気味に援護お願い」
「うん」
橘茜の援護は危険だ。
先程のように、完全に勝てた筈の状況から仕切り直しを強制される。
だが、猫実詭々と組んでいる時程の危険性ではない。
ほぼ同時に二人はリミッターを外し、超人的な領域での近接戦闘を開始する。
空いた片手にナイフを装備して、一秒間に三回突き込む。
一撃目は躱し、二撃目は晒し、三撃目は防ぐ。
反撃一閃。
跳び上がり頭上を超えて躱しながらショットガンが炸裂する。
全力で振り抜いた木刀の風圧でペイントを吹き飛ばしつつ、万が一がないように後方へと飛び退き躱し切る。
両足を地面につけた瞬間、微かな揺れを伴う踏み込みとともに、一瞬空いた5メートル程度の間合いが刹那で踏み潰された。
振り抜こうとしたが、柄頭を足裏で抑えられ振り抜けなかった。
再びの高速近接戦。しかし数秒で追い詰める。
橘茜の投げ込んできた手榴弾で、また強引に仕切り直し。
「………ちっ」
「ふ、ふふふふ。
世界は、こんなにも広かったのね」
「……………えぇ。
世界は広くて、面白いですよ」
そうして、また。
飛騨翔子と桃井緋音は激突した。
「………堀北も博も完全に抑えられてる。
飛騨がやられるのは時間の問題ね」
戦場全体を俯瞰して指揮を出していた白銀園子は、それぞれの戦場をそう評価した。
一之瀬と雪村の近接連係を防ぎつつ、姫野の指示のもとの援護も躱し、瞬足で割って入ってくる柴田を受け流し、一瞬だけ姿を見せた潮田に気を取られたところで綾小路の狙撃。
それも躱したところで、再び一之瀬と雪村の近接連係。
この一連の流れからどうしても抜け出せない。
「………厄介ね。綾小路。潮田」
直接的に暗殺するのではなく、敢えて一瞬だけ姿を晒すことで、こちらの注意を引き続けている。
そして、常に綾小路清隆の狙撃が、反撃の初動を潰し続けている。
まさしく完全無欠の防御戦術。
「………紫苑。崩せるかしら」
「なんとか振り払えた!このまま狙撃手を──っ!」
その脚で半ば強引に突破し、フラッグの近くで狙撃体勢を取る綾小路を狙おうとして。
龍園に腕を掴まれ投げ飛ばされる。
空中で身を翻し着地した瞬間。
横合いから強烈な回し蹴り。
受け止めてその一年女子の顔を見る。
「………へぇ。貴女が相手なの。伊吹澪」
「うちの王様の命令、あんたを抑えろって、ねぇ!」
伊吹と蝶乃は、走りながら近接格闘を開始した。
「あらら。紫苑さん足止め喰らっちゃいましたか。
仕方ありません。僕が行きます」
「────行かせないよ。香月ボーイ」
防御陣形を突破してそのまま狙撃手を狙おうとしたところで、高円寺六助に阻まれる。
少し意外だ。リベンジで金石を狙うと思っていたのに。
「ふふ、まさか彼に怖気付いたのですか?
君も案外、大したことないですかね?」
「はっ、まずは君を斃してから、というだけの話さっ!」
香月遊真のストレートを首を傾けて躱し、反撃のフックを肘で防ぎ、横蹴りを膝で防がれて、前蹴りの初動を足裏で潰して、お互いの肘打ちを掴み止める。
超至近距離で向かい合った二人は、お互いに余裕そうな笑みを浮かべたまま、移動しながら殴り合う。
そうして、森へと消えていった。
「意外だな。お前が指揮に専念するなんて」
狙撃で堀北学の反撃の初動を潰しながら、フラッグの近くで指揮に専念する龍園翔に声をかけた。
「はっ、王様は玉座でふんぞり返ってるものなんだよ」
「そんなことしてたらカルマに蹴り落とされるんじゃ?」
「うっせ」
指揮に専念するのは勿論だが、それ以上に。
「この防衛戦の要はオメェだからな。
いざというときはリミッター解除もある俺がつくのは妥当な選択だろ。
ま、オメェに護衛なんていらねぇだろうから、どこかが押し込まれそうになったらそこに飛び込むがな」
「一番そうなりそうなのは朝比奈先輩達のところだな。どちらもリミッター解除は持っていないし」
解除はまだしていないが、もし猫実がその札を切れば、抑えきれない筈。
だが妙だ。なぜその札を切らない?
「はっ、切るわきゃねぇだろ。
後輩からリベンジ申し込まれたんだ。先輩として、迎え撃ってやるってなるに決まってる。
体育祭のリレーなんか顕著だろ」
まさかのバトンスルーはあまりにも強烈だった。
多分体育祭のハイライトだ。
「………そういうものか」
件の猫実を狙撃で牽制しながら、綾小路は納得していた。
入り江近くのAクラス防御陣形をスコープ越しに偵察した星穹三七は、本当に嫌そうな顔をした。
「金織先輩ライフル持ってるやだー。
だからこそ、防御側には彼女を置いていたのだろう。
いざという時は、反撃で狙撃手を減らすのが狙えるから。
「どうする平田。
リミッター解除のある榎中で崩すか?」
「うーん、でも、多分それ前提の防衛してくるんじゃない?神田先輩がその程度で落とせるとは思えないって」
「でも、初手で榎中を放り込むのが最適解に近いわね。
最大戦力を私らで援護する。
十人であの防御を攻略するなら、これしかない」
平田率いる攻撃部隊。
平田洋介、神崎隆二、榎中准、神室真澄の各クラスサブリーダーに加えて、坂柳有栖親衛隊の、合計十名。
現状組める最高戦力と言っても過言ではない。
(ま、俺が飛び込むのが正解にしても、それだとなぁ。
多分フラッグ取るのちょっとキツいよな。
出来るなら取りたいけど、まぁ、負けるよりはこっちの方がいっか。
カルマ達なら、フラッグなしでも十分なくらいのポイントは稼げるでしょ)
榎中准は取り敢えずクラスメイトを信じた。
(ここで確実にフラッグを取る。
Dからの脱却には、それが大前提。
最後には全員出し抜けるように動かないとな)
神崎隆二は最後には全員出し抜けるように。
(私らがAクラスを維持するなら、フラッグは取れた方が話が速い。
まぁ、学秀たちなら、フラッグなしでもどうにか出来ると思うけどね。
楽に行けるなら楽に行くべきでしょ)
神室真澄は改めて目標を設定した。
(向こうには堀北さんと小野寺さんの二人がいる。
これなら、フラッグは二つとも取れる可能性が高い。
うん。僕が無理に取りに行く必要はないかな)
平田洋介はそう結論づけた。
「まぁ、色々思惑はあるだろうけど、勝利が目標なのは全員同じだし。
まずは、それ目指して行くよ」
そうして、Aクラス防御陣形を攻略するために、十人は動き出した。
Bクラスの防御陣形を改めて見る。
洞窟という点が実に厄介だ。
あーでもないこーでもないと話し合いが難航したところで。
Dクラストップスリーのうち、
後藤圭は心から思った。
(うちのトップスリーヤバいのしかいねぇー)
と。
坂柳有栖のナビゲートに従ってその泉に四人が到着すると、向かい側のほとりで足だけを水に入れながら、剣城海が歌っていた。
その歌声はあまりにも美しく、ほとりで歌うその姿には、セイレーンのような独特な色気を感じさせる。
咄嗟に射撃したが、木刀で容易く防がれた。
「───ふふっ、律が言っていた。
ここに隠してあるのを見破れるとしたら、椎名ひよりだと」
『………椎名さん。お呼びですよ』
坂柳有栖はドローンの操縦権を椎名ひよりに切り替えた。
『風間先輩にこうお伝えください。
初歩的なトリックでしたよ。と』
「ふふふふっ、まぁ、律はモリアーティと呼ぶには脇が甘いからな」
そう。裏切者を切り捨てて、役立たずを切り捨てて、そういう冷たい人間なのは、確かで。
でも、詰めが甘くて脇も甘い、そんな隙だらけな人間でもあるのだから。
「───律は私たちのリーダーだ。
そして私は、律と白銀に全てを任された、最後にして唯一の砦」
水に沈むよう加工された木刀を四人に突きつけながら。
剣城海は、自身の築き上げた砦へと四人を招待する。
「───さぁ、私の領域で迎え撃ってやろう。生徒会長。私の後輩達。
一つだけ言っておくとしたら。
水中戦に限るなら、私は堀北学よりも強い」
近接戦闘に限るなら、堀北学と同レベルなのが獅子上玲央ならば。
水中戦に限るなら、堀北学を上回るのが剣城海である。
「────なら、ちょうど良い予行練習ですね。
本番前の練習は、本番よりも強敵で行うべきですから」
堀北鈴音は投げ返す。
先輩など所詮、堀北学の前座なのだと。
「ふふふふふっ、そういう後輩の心を折るのが、今から楽しみだ」
笑いながら滑り落ちるように、剣城海は泉に沈んでいった。
装備してきた銃は一つを除いて捨てて、ナイフだけを手に持って。
堀北鈴音を筆頭とした水中要塞攻略部隊が、ほとりに近づく。
(──なんとしてでもフラッグは取る。
ほむら達なら、絶対にBのフラッグは奪える。
だから、最後にはこの三人を出し抜いて、私が二つまとめて取れれば。
900クラスポイントの追加で一気にCに登れるし、Bの背中に手が届く)
両沢眞子は腹の中でそう考えていた。
(──一本だけでもいいので、必ずフラッグは取らないとですね。
一本でも取れれば、私たちのクラスはAクラスを確実に維持できますし)
雲雀めぐるはそう目標を設定した。
(私らがAクラスになるには、一本でもフラッグを取れればほぼ確実。
鈴音と二人なら、二本取るのも不可能じゃない)
小野寺かや乃は、絶対勝利のマインドを設定した。
「色々思惑はあるでしょうけど、まずは剣城先輩をどうにかしないと話にならないわ。
そこだけは忘れないでちょうだい」
堀北鈴音は全員を言い含めた。
そうして四人は、要塞へと潜水した。