高育を選んだ理由としては、その、兄姉があまりにも凄すぎるので、そこそこ優秀止まりの私だと、ちょっと居心地悪かったんですよね。
なので、全寮制で学費も掛からないここにしました。
まぁ、その、進学率就職率百%に魅力を感じていたのかといえば、あんまり感じていなかったんですけどね。
医者を目指す以上、勉強は必ずこなさないと駄目ですし。人を助ける仕事ですからね。当たり前です。
なので、正直Aクラスになってもなぁというのが、入学式の後すぐに、Sシステムの種明かしを行うりったんの話を聞いて浮かんだ感想でした。
りったんとはバスで隣の席だったので、早い段階から仲良くなったんですよね。
小さくて可愛いけどなんか怖そうな人だなって思ってましたっけ。
『良いか諸君。
入学式で先輩達のクラスを見れば分かることだが、Aクラスから昇順に人数が減っている。
これが何を意味するのか、今から説明してやる。
学校で人数が減る=退学。
人数が少ない=退学者が少ない。
退学者が少ない=優秀なクラス。
これらを組み合わせると、クラス分けは評価順だと判断できる。
つまり、Cの僕たちは最下位一歩手前程度だと評価されたということだ。この僕がその程度の評価だと?めちゃくちゃな評価基準だな。気に入らん』
隣に先生いるのにそんなこと言って良いんでしょうか。
なんか面白そうに笑ってますね、黒井先生。それで良いんですね。
『そしてそれを踏まえれば答えは自ずと導かれる。
諸君らはこう考えなかったか?進学率就職率百%は、本当のことなのか、と。
例えば僕が宇宙飛行士になりたいとか言っても叶えてくれるのか、と。
まぁ、現実的じゃないよな。当たり前だが』
あ、あー、だから評価順なんですね。なるほど。
『発想を変えよう。
進学率就職率百%が現実的じゃない。
されど、国営のこの学校で、そこまで露骨な嘘はつかない。
つまり、この一点は間違いなく真。
この一点が真であると仮定し、同時に現実的だと仮定したならば。
クラス分けが評価順であることも踏まえれば、進学率就職率百%の恩恵は、Aクラスしか享受できないと考えられる』
う、うわ〜。
これ事実だとしたらちょっとその、詐欺では?
税金で運営されてるのに?
『────さて、黒井千歳。
僕の推理に穴があったか?』
『さぁね。
私からは何も』
『なるほどな』
それもう答えじゃないですか。
それから四月はみんな真面目に授業受けたりしてたんですけどね。
生活態度でBには勝てませんでした。
唯一の減点要素になり得る香月くんを、白銀さんがポイント払って抑えたそうなので。
Aは、まぁ、はい。
ほりたんはこの時からヤバかったですね。
りったんと同じく入学式時点で気付いたらしく、初手でクラスに共有してリーダーの座を確立。
そこから普通に完璧に模範的に生活して、まさかのマイナス0。
わぉとしか言えません。
Dは、その、はい。
確か、八百ポイントは無くしてましたね。
つまり、最初の方こそ、完全に三つ巴だと思っていたんですよね。
ダークホースがあまりにもめちゃくちゃでした。
一年終わりには私たちは抜かされて、二年生半ばにはBクラスも抜かされて。
そのままAクラスも抜かすのかと思っていたんですが。
ほりたんとめめたんと金織さんとあーたん。
この四人だけだと、金石くんとようたんと黄乃さんと真白さんに猫実さんの五人をどうにかするのは難しいのでは、なんて思ってましたし、それは事実だったんですが。
成長しきった神田くんと勉強も身につけた飛騨さんの参入で、下馬評をひっくり返して完全勝利。
高育始まって以来の最高峰の特別試験とか呼ばれてるらしいですよ?
でまぁ、私たちはDクラスに落ちてましたね。
一回Cクラス抜かせそうだったんですが、白銀さんに巻き返されました。
だから、まぁ。
多分もう勝てないなぁって、みんな薄ら思ってたんですよね。
この時点で、もう四人退学してました。
Aクラスにどうしても入りたくて裏切ろうとして、全校生徒の前で断罪された一人目、近藤真彦くん。
負けが込んでいる上で独裁的なりったんに反抗して、クラスリーダーの座を退学をかけて挑んで惨敗した二人目、甲斐ニイカさん。
りったんがれおたんやうみたんを使って時折打っていた暴力的な反則スレスレの一手にトラウマを刺激されて、心が折れた三人目、涼風愛佳さん。
勝利を諦めきって、クラスを巻き込んで盛大に自爆しようとした、ちょっとめんどくさかった四人目、赤坂哉太くん。
まぁ、その、ズタボロでした。
りったんがどれだけ立て直そうとしても。
れおたんやうみたんや私がどれだけ手助けしても。
どうしようもない時は本当にどうしようもないんですよね。
余命わずかな重病人に、助かる見込みのない患者に、どれだけ延命治療しても意味なんてないんです。
それでも諦めきれないりったんが、哀れでした。
りったん一人なら、いくらでもAクラスに行けたんです。
私たちみたいな足手纏いなんて、無視すればよかったんです。
だから、その、この特別試験はうってつけでした。
満場一致特別試験。
これでクラスポイントを稼ぐついでに、私が退学になることで、りったんに他クラスに行く選択をさせようかなと。
クラスが勝てるに越したことは無いんですけどね。
でも、無理なので。
せめてりったんだけでも、一番上に行って欲しかったところもあります。
クラスを勝たせたいのも事実でしたが。
『おい。誰だ賛成に票を入れた馬鹿は。
たかだか200クラスポイントになんの価値がある』
『───価値はありますよ。りったん』
さて、私の最後の仕事ですね。
引き継ぎはもう、うみたんに任せましたし。
『─────は?』
『200クラスポイントさえあれば、Cクラスに戻れますし』
まぁ、戻れたところで、何ですけど。
『おい、天馬、何、言って』
『私なら、別に退学になっても特に問題ないので。
医学部への受験勉強は、どこでも出来ますからね』
ほら、やる気もない生徒なんて、いくらいても邪魔なだけでしょう?
私の代わりはうみたんにやって貰えますし。
私の能力なんて、いくらでも変えも効きますし。
だから、ね。
だから、もう、私たちなんて、無視しちゃってください。
とっととAクラスに移籍しちゃってください。
りったんは一人でも生きていけるでしょう?
だって、りったん一人なら、ほりたんにも勝てるかもしれないんですから。
………良くないですね。
クラスメイトよりも、りったんを優先するなんて。
『ま、待て天馬。何言って』
『ほら、私は賛成に入れ続けますよ。
早く皆も賛成にしてくださいね。
そうしないと、どでかいマイナスになりますよ?』
で、まぁ。
四回目の再投票で、賛成が三十四人になりました。
それでも、りったんは反対に入れ続けました。
れおたんもまた、ずっと反対していました。
『もう。強情ですねりったんは』
『当たり前だ!何で裏切者でもないのに退学させなくちゃならない!』
『だから言ってるでしょう。
私の能力には変えが効きますし、Cクラスに戻れるなら私を退学にさせてもお釣りが来ますから』
『来るわけが無いだろう!寧ろ損しかない!』
まぁ、私はもう、どっちでも良かったんです。
多分、競争に絶望してたと思います。
私は医者を目指していました。
誰かの命を助け続ける家族に憧れてました。
そうありたいと思っていました。
でも、この学校で実際にやることは、誰かを蹴落として、誰かを傷付けることでした。
私は、こんなことがやりたくて勉強していたんじゃないんです。
裏切者を粛清するのも、絶望した人を見送るのも、もう疲れました。
でも、何も残せずにこの学校を去るのは、何だか負けた気がします。
なので、まぁ、一度でもクラスを勝たせられるなら。
りったんを一度でも、勝たせられるなら。
それはきっと、何かを残せた気がするので。
『………ねぇ。りったん。
大丈夫ですよ。退学になったって死ぬわけじゃないんですから。
いつか、また会えますから』
『いやだ………!いやだ………!』
れおたんも諦めたのか、八回目からは賛成に入れ始めました。
でも、りったんだけはずっと。
ずっと。
『………なんで、りったんは諦めないんですか?』
それは、色々な意味がありました。
無理ですよ。ほりたん達に勝てるわけありません。
金石くんにも、白銀さんにも、勝てるわけありません。
この学年の終わりは、もう決まりきってます。
一番上がほりたんたち。
その下に、金石くんか白銀さん。
そのもう一つ下に、どちらかが。
そうして最後に私たちです。
えぇ。それが、終わりです。
りったんに分からないわけがないんです。
なのに、どうして。
『いやだ………!いやなんだ………!
僕はもう、諦めたくない…………!』
メンタルトレースで疲れ果てて。
そうして部屋に泊めたときに、何度か寝言で聞いたことがあります。
四人への謝罪を。
りったんは、本当は誰も退学になんてさせたくなかった。
誰も退学になんてしたくなかった。
それでも、誰よりも秩序を。
クラスの秩序を重んじているから。
裏切者は粛正して、叛逆者も粛正して、もう戦えないと膝を折った弱くて優しい人は介錯して、なんかやばいやつはちょっと引きながらも粛正して。
そしてその度に、傷付いてました。
『………もう、良いでしょう。
このクラスで戦い続ける限り、りったんは傷つき続けます。
だから、Aクラスに移籍してください。
だって、どうしようもなく、このクラスは弱いんですから』
だから、もう。
私たちなんて、放っておいてください。
もう、あなたを、傷付けたくないんです。
『───ふざけんな!天馬の馬鹿!あほ!』
『えぇ、ちょっと、馬鹿って、えぇ?』
『弱いとか言うな!弱くない!誰も弱くなんてない!
近藤も甲斐も涼風も赤坂も!
みんな、弱くなんてなかった!』
『──────』
『なんでアイツら裏切ったんだ!なんで諦めたんだ!
なんで、なんで諦めてるんだ!
ふざけんな、馬鹿天馬!』
『─────っ』
りったんは泣いてました。
泣きながら子供みたいに、怒ってました。
子供みたいな理想を叫んでました。
『僕は!僕は、絶対に諦めない!
絶対に、絶対に諦めない!
何度負けても、何度泣いても、何度傷付いても、絶対に諦めない!
このクラスで勝つ!そう、決めたから!』
九回目の投票。
反対は三人でした。
十回目の投票。
反対は七人に増えました。
十一回目には半分を超えました。
十二回目には三十五人でした。
『…………ほんと、りったんは子供みたいですね』
『…ずび、なんだよ、わるいか』
『…………ほんと、仕方のない人です』
十三回目。
反対で、全会一致でした。
多分、初めて。
この特別試験で、みんなが心からりったんを認めたと思います。
私たちDクラスは、本当の意味で、一つになったと思います。
あの四人も、ここにいて欲しかったですね。
あ、赤坂くんは、ちょっと、その、はい。
ドローンを通じて、戦場を見渡します。
フラッグの近くにいるのは、綾小路くんとりゅーたん。
うーん、単独突破は無理ですね。
砂浜に完全に偽装した超体育着改で潜伏しながら、そんなことを考えます。
あと一本。あと一本フラッグを奪えれば、ポイント的にはAクラスです。
れおたんの大暴れのおかげですね。
匍匐前進で大きく迂回しながら、フラッグ近くまで来ています。これ以上は気付かれるでしょうね。銃なんて抜いたらもっと怪しいです。
砂浜偽装のペイントをしてくれたくまたんに感謝ですね。
首元に下がっているそれを確認します。
さて、ここから賭けです。
りゅーたん。君はどこまで私を理解しているのか。
それを賭けます。
匍匐前進から立ち上がりながら、走り出します。
すぐに気づきましたね綾小路くん。少しはびっくりしましたか?あなたを驚かせたのなら、私も思ったよりも凄いのかもしれませんね。
流石に走りながらだと精密射撃とか無理ですね。
ほぼ乱射しながら突っ込みます。
ま、当たりませんよね。これで当てられる方がおかしいんです。
ですが、私は当てられませんが、ドローンからなら。
「───伏せろ龍園!」
りゅーたんの頭を狙った精密射撃。
ドローンからなら問題なく出来ますから。
綾小路くんの指示に反応して伏せましたね。
これで反撃はまだ来ません。後十五メートルといったところですね。
ドローンの残弾は八発。
私は走りながら、ドローンからの精密射撃を繰り返します。
後六発で十二メートル。
後四発で九メートル。
後二発で六メートル。
残弾ゼロで三メートル。
ビーチフラッグみたく、勢いよくスライディングしますが。
「───手こずらせやがったな、天久先輩」
「………押し倒すのは如何なものかと」
スライディング途中の背中に乗られました。
動けませんねこれだと。
あ、髪紐片方切れちゃいましたね。左側が解けました。
こめかみにハンドガンを突きつけられます。詰みというやつですね。知ってました。
そこで、私から数メートル後ろで砂浜に擬態していた、くまたんにあみたんにながたんが突っ込んできます。
綾小路くんはサブアームのハンドガンでその三人を狙っていますね。
────今が、
実はずっと、ネックレスみたいに首から下げてました。
服の下に隠していたんです。
だから、今この瞬間まで、気付かなかったでしょう?
チェーンを口で引っ張って、手榴弾を見せつけるように出しました。
びっくりしてますね、りゅーたん。
「───貰いました」
歯に引っ掛けて、ピンを抜きます。
「───離れろ!」
反応早いですね。予測してましたか。
りゅーたんと綾小路くんは咄嗟に離れました。
私はすぐに立ち上がり、フラッグめがけて再度飛び込みます。
二人とも目を見開きましたね。
ええそうです。この手榴弾、ブラフですよ?
自爆はもう辞めました。
目的の為なら手段を選ばない。
似ていますね。こういうところは。
違いがあるとすれば、りゅーたんは他者にも犠牲を強いますが、私は全て自分で完結しているということ。
その違いも理解しているりゅーたんは、ここで私が自爆して、二人まとめて戦闘不能にすると、予想するだろうと賭けました。
賭けには勝てたみたいです。
飛び込んでフラッグを一つ奪います。
その瞬間に、私の背中にペイントが咲いたのが分かりました。
振り向くと、既に立ち上がっていたりゅーたんが私を、綾小路くんが向かってくる三人を撃ち殺していますが。
一年Bクラス。30クラスポイント追加。
現在1,377クラスポイント。
一年Cクラス。10クラスポイント追加。
現在1,217クラスポイント。
三年Dクラス。300クラスポイント追加。
現在3,672クラスポイント。
たった100ポイントです。
それでも今は。
私達がAクラスです。
フラッグをドローンに掲げます。
見せつけます。
ねぇ、りったん。
自慢してください。たくさんたくさん、胸を張ってください。
あなたが信じてくれた私たちは。
あなたが弱くないと言ってくれた私たちは。
今この瞬間、この学校で一番強いんです。
たくさん負けました。
たくさん傷付きました。
たくさん泣きました。
今、やっと、私たちは。
「───えへへへ、私たちの、勝ちですよ」
色々なものに勝ちました。
ドローン越しに、その瞬間を目に焼き尽けた風間律は、笑っていた。
待機所で膝をつきながら、端末越しにその映像を見た獅子上玲央も、笑っていた。
三年Dクラスの生徒達は、みんな、笑っていた。
自身のコンソールに雫が落ちる。
分かっている。一瞬、一時超えられただけだ。
すぐに埋められる程度のポイントでしかなくて、多分、最後までAクラスのままで終わることはできなかった。
それでも、今は。
今だけは。
僕たちのクラスが。
この学校で一番強いんだと。
僕のクラスメイト達は、僕の友達達は、僕の親友は。
凄くて、カッコよくて、強いんだぞって。
そう、自慢したくなった。
「──ほら、涙、拭いときなさい。
Aクラスの、風間律」
占藤メメからハンカチを受け取って、涙を拭ってから。
笑ってやる。
たった一時の勝者として。
「──どうだ占藤。僕らのクラスは凄いだろ」
僕は凄い。
僕の友達だって凄いに決まっている。
僕らは凄いに決まっている。
だから僕らは。
今、確かに勝てたんだ。
「──お前達!まだまだこれからだ!
一人でも多く撃ち殺せ!一本でも多く奪い取れ!
勝ち続けるぞ!
だって僕たちは、凄いんだから!」
そうだ。まだまだこれから。
僕たちは、まだまだこれからも続いていくんだ。
水中では、小野寺かや乃が壁に叩きつけられていた。
同時に挟み撃ちで泳ぎ迫る両沢と雲雀を、水中とは思えないほど軽やかで優雅な動きで木刀を振るい、捌き、打ち据え、吹き飛ばす。
金属音が響く。
ワイヤーガンでアンカーを壁に打ち込み、水中を勢いよく突進して、蹴りを入れながら壁に叩きつけた堀北鈴音は。
それでもなお、どこまでも楽しそうで、嬉しそうな笑みを浮かべる剣城海に警戒して、一瞬そこから離れて。
その瞬間、振るわれた木刀で、壁まで叩きつけられた。
(────あぁ。身体が軽い。
息が出来ないのにこんなにも楽だ。
こんなにも嬉しくて、こんなにも自慢したくなって。
────律。天馬。獅子上。
私も勝つよ)
木刀をより強く握りしめて。
全力で壁を蹴って、一息に堀北鈴音のいる反対側の壁際まで。
その突撃をワイヤーガンで身体を引き付けて躱しながら、驚愕する。
突き込まれた木刀は、岩壁に深く突き刺さっていた。
今、剣城海は。
クラスで勝ちたいという思いだけで。
友達を自慢したいという思いだけで。
リミッターを、ぶち壊していた。
(───さぁ、堀北鈴音。
さぁ、後輩達。
───勝つのは私だ。私たちだ)
まずはここで40クラスポイント。
そうしたら、陸に上がって浜辺に乱入して、後500ポイントぐらい稼いでやる。
(───私たちは、まだまだこれからなんだから)