僕にとって、世界は遊び場でした。
僕に分からないものはなく、僕に出来ないものもなく、僕に勝てないものもない。
世界は退屈で、既知で、つまらない。
高育は、全国から優秀な生徒が集まるそうなので、面白そうだから選びました。
初日で驚きましたよ。まさか、国営の学校で詐欺じみたことをするなんて。
まぁ、気付いたからと言って、わざわざクラスメイトに教えてやる義理もないですけど。
授業とか聞かなくても分かりますしくっだらないですからね。
殆ど無視して好きなことやってたんですが。
『ねぇ香月くん。
真面目に授業を受けてちょうだい』
『まったく、委員長だからって口うるさいですよ白銀さん。別に迷惑にはなっていないでしょう?』
『なっているわ。ポイントが減るもの』
『───へぇ。あなたも、気付いていたんですね』
思ったよりも、優秀なようですね。
まぁ、僕には及びませんが。
『………そう。なら、いくらで動くのかしら』
『一授業につき、そうですねぇ。
まだこの時期ですし、3,000ポイントなら、受けてあげても良いですよ?』
『おい香月、お前──』
『大丈夫よ。護』
僕の端末に九万ポイント。
やれやれ、判断が早いですね。
まぁ、ここまで払われたからには、ね?
『交渉成立よ。まさか、金だけ受け取って後は無視、なんて、つまらない真似はしないでしょう?』
『当然です。払われた分の仕事はこなしますよ』
そんじょそこらのAクラスなら、このクラスが勝っていたでしょうね。
何せ、初月で残したポイントは、77,000ポイント。
普通ならAクラスレベルだったんですが。
文字通り一切減らさないのは予想外でした。
やけに凄いですね。堀北学くん。
『……ふぅん。強いのね。堀北学』
風間律も中々やりましたね。
75,000ポイント。
どうやら、僅差だったようです。
少しだけ面白そうだったので、授業は真面目に受けることにしました。
まぁ、退屈はしなさそうな相手だったので。
今思えば、傲慢でしたね。
あの日の特別試験で。
櫻葉さんという役立たずを切り捨てた後の特別試験で完敗して。
僕もまた、堀北学に完敗して、実感しました。
(…………世界は、広かったんですね)
貯水タンクで寝っ転がりながら、そんなことを考えます。
世界は広い。まぁ、文だけだと実感なんて湧きませんが、実際に体感すると分かりますね。
世界は、広かったんです。
だから、クラスメイトを、積極的に揶揄うようにしました。
関わるようになりました。
彼らは幼稚で、愚かで、子供で。
だからこそ、一緒にいて楽しいんです。
彼らは僕と対等でした。
彼らは僕の友達でした。
特に犬山くん。
ほんっと、思考飛びすぎの変人でしたが、それでもお気に入りでした。
いつか、君と競いたいなんて考えてました。
恥ずかしいので、話したことはありませんが。
ねぇ。高円寺くん。
どれだけ賢くても、どれだけ強くても、僕たちは所詮高校生だったんです。
だから、一人にならないでください。
たくさん関わってください。
たくさん挑んでください。
たくさん負けましょう。
僕たちは負ける度に強くなれる生物なんです。
人間って、そういうものなんですよ。
「凝りませんねぇ高円寺くん!
ここは僕のバトルフィールド!
僕が作った、僕だけが有利に戦える場!
君一人で勝ち目はありませんよ!」
高円寺くんが動く度、そこら中に仕込まれたブービートラップが連鎖的に起動します。
ワイヤーが拘束しようとして、仕込み銃が起動して、兎に角色々襲いかかっていきますが。
いやぁ、この子やばいですねぇ。
全てを強引に踏み潰して来ます。
ま、伊達に一人で全てをひっくり返せると評価されていませんか。
この子と綾小路くんが間違いなく一年生二強。いや、学校でも上位でしょうね。
僕でも良くて互角程度。
それが、怪物、高円寺六助という存在。
ただし、準備が整っている僕の戦場に足を踏み入れるというなら、話は別ですがね。
「───高円寺っ!」
おっと、このフィールドに飛び込んでくる度胸のある生徒がいるとは。
山内春樹くん、ですか。
至って平凡、になった生徒。
初期を思えばあまりにも素晴らしい成長ですね。
ふむ、どうやら高円寺くんと仲も良いようですし、コンビネーションでもあるのでしょうか。
「………ピエロボーイか」
「ま、お前が苦戦するような奴に勝てる気はしないけど、弾除けぐらいには使っ──」
高円寺六助の手刀が、山内春樹の首筋を打つ。
一撃で完全に気絶した山内春樹を踏み付けにしながら、高円寺六助は、香月遊真を、相変わらず余裕を持った微笑みで見据えていた。
「…………えっと、何してるんです?」
「いや何、弾除けにしようかなとも考えたが、そんなことに使うには勿体無いのでね。
香月ボーイとは、一対一でやり合いたい」
仲間すら気絶させて足蹴にする高円寺に、ついに限界を迎えたのか、ドローンスピーカー越しに王美雨は激怒した。
『───ふざけないでくださいっ‼︎
何を考えているんてますか馬鹿なんですか真面目にやってくださいっ‼︎
良い加減にっ、してくださいっ‼︎』
許せる筈がない。
幾ら、学校でも上位の実力があるのだとしても。
この試験の為に、友達達の為に、本気で変わろうとしていた少女を、王美雨は知っているからこそ。
一週間前の夜。
全員が眠ろうとしているその時に、不意に、山村美紀の顔色が、余りにも悪いことに気づいた星穹三七が、心配の声を掛けようとしたところで。
『ちょっ、美紀ちゃ、大丈夫?』
『大、丈夫、で、…………っぅっ、ぅぇ、ぉぁ』
『み、美紀ちゃん⁉︎美紀ちゃんしっかりして!』
突然の、出来事だった。
山村美紀は、病気の子猫のように、その日の夜食べたものを吐き出していて。
全員一瞬止まった中で、狐判稔だけが、迅速に処置を開始していた。
横向きにして、窒息しないように。
指示を飛ばされる前に、タオルと水を持って来た雪村あかりと供に、丁寧に介抱していくのを見て。
大岡翠が、微かな怒りを交えて、詰問する。
『───随分と、落ち着いてはるし、慣れとるなぁ。
まさか、あんさん、潮田くんにやっとること、山村さんにもやってるんやないよな?』
『うん。やってるよ。本人に頼まれたから』
『………分かっとるん。
あれは、平然としておる潮田くんが異常なだけや。
親しい人と隣で生活するだけで、今みたいに、吐くほどの罪悪感を抱くのも当然な練習やで』
本来、メンタルトレースを持たない山村美紀では、潮田渚のやっているような練習は出来ない。
だからこそ、雪村あかりの演技指導と、狐判稔の話術に加え、潮田渚の波長を見抜く観察眼により、擬似的な自己催眠状態を作り出し、潮田渚もやっているように、親しい友人を夢の中で手にかける訓練を行なっていた。
その効果は絶大で、短期間で優秀な暗殺者に確かに育ち。
代わりに今のように、大きく傷付いていた。
『………確かに、効果は絶大だったね。それは認めるよ。稔ちゃん。
今の山村ちゃんは、多分暗殺者としてもかなり優秀なんじゃないかな?
………でも、さ。
それって、この子をこんなに追い詰めてまで、やることなの?』
『………うん。正しくないことなんて、分かってるよ』
これが良くないことなど、ほむらに言われるまでもなく、稔はもう理解している。
理解していて。
しかしそれでも。
『………攻め、ないで、くださぃ……』
『み、美紀ちゃん……!美紀ちゃん、や、やめようよ!こんな練習、絶対良くないってっ!』
『………ゃだ』
『なんでっ‼︎』
山村美紀は、星穹三七の袖に、弱々しく縋りつきながら。
『………私、影が薄いの、ぃやだった。
………私だけ、何も出来ないのが、いやだった。
………私だけ、取り柄もないのが、辛かった』
『美紀、ちゃん……』
『………私も、みんなに、みんなの友達として、胸が張れる私になりたかった。
………好きな人の、隣に立てる私になりたかった。
………変わり、たい、から』
強かった。
その少女の心は、意思は、余りにも、強かった。
『美紀、ちゃ、』
『………応援、してくれる?』
強くて、少しだけ、ずるかった。
星穹三七は、一瞬だけ、稔とあかりを殴りそうになって。
すぐさま、自分の頬を打ち据えた。
『………もぅ、何やってるの?』
『………ごめんね。何も悪くない二人を、殴りそうになっちゃったからさ』
そっと、袖を掴む手を、両手で包み込んで。
星穹三七は、ちゃんと見据えながら、宣言する。
『………うん。あたしは、ちゃんと応援するよ。
美紀ちゃんが、頑張りたいと思い続けるなら。
変わりたいと、思い続けるなら。
あたしは、美紀ちゃんに寄り添い続ける』
安心したように、笑って。
山村美紀は、力尽きるように、眠った。
その日のことを、王美雨は、覚えているからこそ。
変わりたいという少女の願いを、よく知っているからこそ。
『なんっで!
なんであなたは変わらないんですかっ!
ついさっき思い知ったでしょうっ!一人じゃどうにもならない時があるって!
なのになんでまた一人になるんですか!
なんで、誰かと戦うことを拒絶したんですかっ!』
喚くようなそんな声を無視して、気絶した山内春樹を蹴り飛ばして、木に叩きつけた。
完全に意識を失っているのか、山内春樹は、もはやピクリとも動かなかった。
「……………少しばかり、お灸を据えないといけませんね。高円寺くん」
「おや、なぜあなたが怒るのかな?香月ボーイ」
「僕は君の先輩ですから」
瞬間、香月遊真の姿が消えた。
懐に飛び込んで、ナイフを真下から切り上げる。
上体を逸らしながら躱して、反撃の足蹴を防ぎ、掴み放り投げた。
空中で体勢を翻しながら、山内春樹に着地する。
わざと、なのだろう。
「………はぁ。
そこまでして、自分に手を貸そうなどと思い上がった愚者に、腹が立ちましたか?
君が、そこまで愚かだとは、思いませんでしたよ」
「愚か?それこそ愚かだよ香月ボーイ。
私は、孤高にして最強だ。
他者に手を貸すこともなく、他者に手を借りることもない。
ようやく目が覚めたよ。何分このクラスは変わりすぎているからね。混乱してしまった」
劇の主役と錯覚するほどの、大袈裟な動きで両手を広げて。
高円寺六助は、自信に満ち溢れた様子で、宣言する。
「───私は、一人で強いのだから」
そうして、二人っきりの殴り合いが開幕した。
実力は確かに互角。
しかし、バトルフィールドの優位はそう簡単には覆らない。
今も、ブービートラップで飛んできたワイヤーに腕を囚われて動きを止めた瞬間に、香月のコンビネーションパンチが顔面に炸裂する。
飛んできた矢を掴み取れば、その隙に脇腹を蹴り抜かれて。
飛んできたナイフを指で挟み止めれば、その隙に顎を拳で打ち抜かれて。
罠で初動を潰されて、一方的に打ちのめされる。
距離を取るたびに、敢えて山内春樹を踏みつけにしながら、香月遊真に向かい続けて、打ちのめされ続ける。
一人で、戦い続けている。
………ねぇ。
高円寺くん。君は、これで良いんですか。
一人で戦い続ける選択で、君は良かったんですか。
寂しいに決まってるじゃないですか、そんなの。
みんなで笑えた方が楽しいに決まってるじゃないですか。
みんなで頑張った方が楽しいに決まってるじゃないですか。
みんなで勝てた方が嬉しいに決まってるじゃないですか。
何度負けても、みんなとなら、楽しめるんです。
みんなとなら、何度でも挑めるんです。
僕は、このクラスに入れて幸せでした。
この学校に入れて、僕は、嬉しかったんですよ。
君は。
君は、そうじゃ、無いんですか。
君にとってクラスは、友達は、そんなにどうでも良かったんですか。
友達と一緒に、頑張ったときが。
そうして、何かを成せた時が、一番楽しいのに。
そんな当たり前の事実なのに、この少年がそれを放棄したのが、少しだけ悲しかった。
木にもたれかかって、頭を下げている少年に、香月遊真はハンドガンを突きつけて。
「………まぁ、これを機に、学んでください。
一人で強いことは、一人になることではないのだということを」
そう、言って。
引き金を引こうとして。
「───今だ。
香月遊真の背中に、ペイントが咲いた。
一年Bクラス。10クラスポイント追加。
現在、1,387クラスポイント。
「…………は?」
「てっっっっめぇマジでふざけんなよ高円寺ゴラァっ!
めっちゃ背中痛えじゃねぇかよ‼︎」
香月遊真は、背後に立つ、ハンドガンを構えた山内春樹に。
本気で、困惑した。
「え、は?え。
ま、まさか、全部、嘘だったとでも……?」
山内春樹を気絶させたのも。
わざと蹴り飛ばして、木にぶつけさせたのも。
態々何度も勢い良く踏みつけにして見せたのも。
全ては、山内春樹は気絶しているということを、懇切丁寧に見せつけるため。
香月遊真を、騙し切る為。
「………山内ボーイがこの戦場に現れた時点で、私は、
私の全ては、彼の
ふっ、お楽しみいただけたかな?
私と、山内ボーイの、競演を」
「競演とかじゃねぇよ人の首に思いっきり手刀ぶち込んだ上で木に蹴り飛ばして何度も勢い良く踏みつけやがってマジ許さねぇ」
「ふっ、すまなかったな。山内ボーイ」
「ちっ、お前はどうせ謝らないと───えうそ今謝った⁉︎高円寺が⁉︎俺に⁉︎」
山内春樹、驚愕の絶叫。
『…………えっ。
な、なんで私には何も……?』
「敵を騙すには、まず味方からというだろう?」
『………………え。
いや、え、これ、え。
と、取り敢えず、その、怒鳴ってごめんなさい』
王美雨、困惑の謝罪。
「いや王が謝ることじゃねぇというか側から見たらマジで高円寺がいきなり暴走してるように見えたししょうがねぇっていうか」
「………、いや、それよりも、なんで君アレで
高円寺くんかなり本気で蹴ってましたし勢い良く踏みつけてましたよ」
「あー、雪村師匠の演技指導の賜物だよ。
取り敢えず、死体の演技は完全に身に付けたからな!今回の試験で一番役に立ちそうだし!」
山内春樹の、
それもまた、この一ヶ月で磨きがかかっていた。
つまるところ。
「………なるほど。
僕は最初から、君たち二人の掌の上だったわけですね。
………最後の最後で、完敗とは。
………ごめんなさい。皆さん」
少しだけ、悔いを残しながらも。
香月遊真の高育は、終わった。
「………全く遊真のやつ。
なーに、完敗してんのよ」
「はっ、当たり前じゃん。
むしろ光栄に思いなよ。アイツに騙された、二人目の客なんだから、さぁっ!」
伊吹澪に張り付かれて、園子の元にも遊真の元にも行けなかった。
ほんっと、厄介な後輩ね。
何より余りにも冷静が過ぎる。
私を倒すんじゃなくて、止めることに極限まで集中している。
だからこそ、崩しづらい。
「………ちっ、やけに山内春樹の評価が高いのね。まさか惚れたの?」
「はっ、そんな安っぽいものなわけないでしょーがっ!」
「………いや、その発言はその発言で問題しかないというか別ベクトルで重いというか」
兎に角、どうにか振り払って、園子の元に向かいたい。
この至近距離じゃ、煙幕ばら撒いたって意味はない。
このまま単独で居続けたら、園子が削り殺される。
「………うし、いっそ纏めて乱入するか」
私から離れないなら、そうするしかない。
戦場を横断するように全力ダッシュ。
そして、園子の戦場へと、伊吹澪を引き連れながら飛び込んだ。
「───園子!」
「───紫苑!」
それだけで、二人の意思疎通は完全に終了した。
紫苑は、マガジンを一つ投げて寄越して。
園子は、銃身を掴んで、ストックで殴り付けるために振りかぶって。
紫苑は、その子の背中を狙う一之瀬と雪村を纏めて迎撃して。
園子は、アサルトライフルのストックで伊吹を殴りながら、マガジンを装填して。
二人は背中合わせになって、それぞれ銃とナイフを構えていた。
「………使うわ」
「オッケー」
瞬間。
伊吹澪の懐に、白銀園子が踏み込んでいる。
ガードの上から腹を蹴り飛ばして、数メートルは吹き飛ばした。
一之瀬達は、それを見たことがあるので、分かった。
「………やっぱり持ってるよね。リミッター解除」
「………うん。引き気味に戦って、時間稼ぎだね」
リミッター解除は、最悪骨折やら断裂やらの大怪我の可能性も大いにあるからこそ、あまり長時間の運用は出来ない。
だからこそ、長時間の遅滞戦術で、削るつもりだったのだが。
「………私は、そんなに甘くないわよ」
引き気味に戦おうとした次の瞬間には、古武術の縮地を応用した技術で、懐に飛び込んでいた。
一撃で一之瀬と雪村の二人を纏めて吹き飛ばす。
と、その瞬間に。
「今!」
姫野の合図で、
鼓膜と視界を完全に潰して、この瞬間。
死神が、歩み寄る。
(───視界も聴覚も完全に封じた。
殺気も消して殺せばそれで)
潮田渚のナイフが、白銀園子の首を切ろうとして。
寸前で、掴み止められた。
瞬時に柔術を応用して、渚を地面に叩きつける。
「っかはっ……!なんっ、で」
「この状況で目潰しなんて、暗殺に来るって事は読めるでしょう?
殺気を消す。それは確かに完璧な暗殺術の一つなのでしょうね。普通の人間なら、いえ、そんじょそこらの人間なら、防ぐこともそもそも気付くことすら出来ないでしょう」
だが。
この三人は、少しだけ、違う。
「この学校でやり合うって事はね、あらゆる感情への理解を深めないといけないの。
理屈と感情、論理と情動、思考と反射。
それらへの理解も深められない人間が、堀北学と並び立つことなんて出来ない」
身体能力の問題で、戦場に立つ事の出来ない風間律も含めて。
「だからね、殺気だけ隠したって、意味はないの。
だって、殺気以外の感情は、そこにあるから。
殺気以外が全部分かるなら、殺気が分からなくても防ぐのは簡単よ」
そう。
金石博、白銀園子、風間律。
この三人は、磨き続けていた。
理屈を理解し、穴を見抜き、そこを塞ぐ、或いは突く思考。
感情を察知し、直感で反応し、奇襲を防ぐ反射。
どちらも磨き切らなければ、堀北学と渡り合うことなど出来ない。
だからこそ、殺気だけ消しても意味などない。
だって、殺気以外は、あるのだから。
「対策としては、感情を全て完全に消し去ることなんだけど、それって基本的に無理なのよね。
だって、感情もなしに、人の隙を突くなんて出来るはずもないもの」
人の隙を突くには。
感情の隙間を、思考の隙間を、理解できなければ話にならない。
だからこそ、暗殺者は、本当の意味で感情は消せないのだ。
「渚っ!時間は俺たちが稼ぐっ!
一旦引けっ!」
「っ、うんっ」
星穹拓人と柴田颯が、数秒だけ足止めして、すぐに死ぬ。
現三年Cクラス。20クラスポイント追加。
現在2,822クラスポイント。
ゾーンと、リミッター解除。
鍛え上げて来た基礎スペックにそれらを載せる事で、単純で、シンプルな、最強となる。
「───悪いけれど、フラッグは、貰うわ」
白銀園子は、瞬く間に防衛線を突破して、最奥まであと一歩まで、飛び込んでいた。
『………渚くん。どうしよっか』
「………僕たちが身につけた殺し方は、意味がなかった」
『………つまり』
「………えぇ。つまり」
『「今ここで、新しい殺し方を身につける」』
それをすれば勝てる。
ただそれだけの、単純な話だった。