思考と反射。
この二つを徹底的に磨くことは、堀北学に勝つ大前提。
だからこそ、私も、博も、風間も、それを磨き続けていた。
磨き続けていたこれらが、まさかこうして暗殺者対策になるなんてね。
さて、潮田。
あなたは完全に封じられたた。
リミッター解除も持つ生徒たちは、殆どが他の生徒にかかりきり。
なら、ここから全部崩すっ!
「白銀先輩が来るっ!防御陣形!」
盾を拾い上げて、身体を隠しながら一気に突撃する。
幸村の指示に従い、前に出た八人がかりで迎え撃とうとした。
「───無駄ぁっ!」
しかし、真正面からの力技でまとめて吹き飛ばした。
名家の令嬢らしい振る舞いを、これまでずっと意識していた。
だからこそ、戦い方にも品を持たせ続けていた。
それは、全てこの時のため。
誰も彼もに思わせるため。
私がめちゃくちゃはしないって誤認させるため。
ここから私は、名家白銀家の白銀園子じゃない。
私はただの、このクラスの白銀園子なのだから。
幸村啓誠は、その力技に一瞬思考が止まった。
これまでの白銀園子では考えられない、強引な力技。
吹き飛ばされた八人を、片手でのセミオート連射で瞬時に的確に撃ち殺す。
三年Cクラス。80クラスポイント追加。
現在2,902クラスポイント。
余りにも照準が早すぎる。
だからこそ、幸村啓誠と坂柳有栖の判断は早かった。
「坂柳!」
『もうやってます』
ドローン八台で瞬時に囲み、集中砲火。
これまでの白銀園子ならば、瞬時に立ち位置を見極めて躱し切ると判断した。
だが、今の白銀園子はめちゃくちゃなのだ。
アサルトライフルを上空に放り投げ、瞬時にワイヤーガンを抜き、早撃ちでドローンにアンカーを打ち込んで。
ワイヤーで繋がったドローンを、ハンマーよろしく円を描くように振り回して、瞬く間に全機撃墜した。
バッテリーがやられたのか、中々の規模の爆発が起きる。
「───は」
『いやいやいくらすると──』
「どうせ卒業したら使わないもの。幾らでも弁償してやるわ」
ワイヤーガンをホルスターに収め、落ちてきたアサルトライフルをキャッチ。
再びの片手セミオート精密射撃で、着実に防御を削っていく。
盾の隙間に一瞬顔を出した生徒を一人。
足首が外側に出ていた生徒を二人。
三人を瞬時に撃破する。
三年Cクラス。30クラスポイント追加。
現在2,932クラスポイント。
そこで、アサルトライフルが弾切れする。
それを把握した幸村啓誠は、一瞬だけ白銀園子から目を離して、防御陣形を再構築しようと視線を辺りに走らせたところで。
ゼロコンマ数秒で把握しきって、白銀園子に向き合った瞬間。
顔面に弾切れのアサルトライフルが投げ込まれた。
「───がっ」
一瞬、幸村の指示が止まった。
その一瞬で、防御陣形が構えていた盾を足場に跳び越えていた。重さ数キロの盾を持ったまま。
空中でワイヤーガンを発射。アンカーでついさっき撃破された生徒のアサルトライフルを引っ掛けて、手元に持ってくる。
片手空中でワイヤーガンを上空に放り投げる。
ワイヤーガンと繋がったアサルトライフルは円を描き、白銀園子の手元に吸い込まれるように収まって。
着地と同時に円を描いて振り回して、全方位の敵を瞬く間に殺し切った。
三年Cクラス。60クラスポイント追加。
現在2,932クラスポイント。
再び弾切れになったので、起き上がり指示を出そうとした幸村に再び投げつけた。
それを払い落とすワンアクションを取らせた隙にシールドバッシュで三人吹き飛ばし、吹き飛ばし様に盗み取ったショットガンで、纏めて一撃で撃破した。
三年Cクラス。30クラスポイント追加。
現在2,962クラスポイント。
「さて、まだまだ行くわよ」
白銀園子の大暴れは止まらない。
「あんたらは白銀先輩のとこへ!蝶乃先輩は私が止めるっ!」
「頼んだっ!」
雪村あかりは伊吹澪の指示に瞬時に従い、防御陣形の中枢に突っ込んだ白銀園子を追いかける。
その背中をナイフで追撃しようとした蝶乃紫苑は、横合いからの伊吹澪の襲撃で足を止めさせられ、一年Dクラス攻撃陣は、既に白銀園子の元に向かっていた。
(───冷静ね。判断も合理的で的確。
ほんと、めんどくさいのに貼り付かれてる)
「私とまだまだ遊んでもらうからっ‼︎」
「ちっ、そろそろ飽きてきたんだけどっ!」
何度目かの激突。
一瞬だけ蝶乃紫苑は白銀園子を見て。
肩をすくめた。
「全く。楽しそうにしてくれちゃって」
「ふっ、ふふふふ。
楽しいわね。これ」
シールドバッシュで五人纏めて押し込んで、再びゼロ距離ショットガンで全員を撃破。
撃破した生徒からアサルトライフルを奪い取り、脇の下からノールックで背後を射撃。
背中を狙おうとした三人の生徒を瞬殺した。
三年Cクラス。80クラスポイント追加。
現在、3,042クラスポイント。
「───清隆っ!」
『分かっている』
誘導しようと幸村が手榴弾を投げ込んできて。
寧ろ手榴弾に向かって飛び込んで、全力で蹴り返した。
「………はっ?」
幸村に蹴り返された手榴弾は至近距離で爆発。
護衛として近くにいた二人の生徒ごと撃破された。
三年Cクラス。30クラスポイント追加。
現在、3,072クラスポイント。
「───突っこめ!」
龍園翔の指示の元、石崎大地を筆頭とした、一年Cクラスの力自慢と、一年生トップクラスの須藤健が束になって盾で押し込もうとした。
白銀園子は自身の盾を地面に突き立てて、それを足場に大ジャンプして躱す。
空中逆さまの体勢でワイヤーガンとアサルトライフルを同時に構えて発射。
力自慢二名を撃破しつつ、アンカーで盾を引っ掛けて勢いよく手元に引っ張り戻す。
三年Cクラス。20クラスポイント追加。
現在、3,092クラスポイント。
盾を構えながら、フラッグまで一気に突進して。
横合いから二台のドローンが接触寸前の距離で突っ込んでくる。
『弁償は割り勘でお願いします』
「………提案したのは坂柳だろう。せめて六四だ」
『仕方ありませんね』
綾小路清隆は、対地空撃墜弾でドローンのバッテリー部を狙撃する。
盾を横に向けるのとほぼ同時だった。
着弾の衝撃で二種類のペイントが混ざり、小規模爆発で稼働中のバッテリーに引火。
高さ四メートル程度の爆煙が立ち昇る。
(恐らくは盾で防がれるがそれでいい。
この規模の爆発を防げば、衝撃で腕は暫く使えない。
片手を封じてその隙に)
と、高速で思考していた綾小路清隆の視界に。
平然とした様子で突っ込んでくる白銀園子が映っていた。
流石の綾小路清隆も思考が一瞬停止する。
停止して、再起動と同時に理解する。
爆風と同じ方向数メートルは横にずれていた。
そして、盾は手放していた。
つまり。
(────
────
結論に至ると同時に、冷静に狙撃するが。
射線が見えてしまっている狙撃では、まず当たらない。
仕方なく綾小路清隆はライフルを捨てて、真正面から迎え撃つように突っ込んでいく。
フラッグ手前十二メートル程度の地点で、二人は激突した。
「………めちゃくちゃ過ぎません?」
「もう卒業だもの」
そんな一瞬の会話を交わして次の瞬間から、リミッター解除した者同士の超人的な殴り合いが開幕する。
綾小路清隆の右拳を受け流しながら肘で顎にカウンターを仕掛けようとして逸らされる。
白銀園子の前蹴りの初動を膝を蹴ることで防いだ次の瞬間、後ろ回し蹴りが飛んできたので身体を倒して躱し切る。
起き上がりの勢いも利用したヘッドバットを打ち込んだが、鼻血を流しながらも平然と反撃のヘッドバットで返された。
白銀園子は瞬時にしゃがみながら足払いしようとして、跳び上がって躱しながら、その動きを初動に加えての跳び踵落とし。
綾小路清隆の踵落としを、白銀園子は瞬時にサマーソルトキックで迎え撃ち、お互いの蹴りが激突して、激突の風圧が辺りの砂を吹き飛ばした。
互角の威力、いや、性差に加えて重力の分僅かに綾小路が優位だった。
僅かに体勢を崩しながら着地した白銀園子を力任せに押し込んで数メートル吹き飛ばす。
次の瞬間、同じくリミッター解除した龍園翔が、背後から白銀園子へ突っ込んでくる。
綾小路清隆もまた、抜いているハンドガンを向けていた。
即ち、空中で挟み撃ち。
一瞬の着地だけは出来るが、回避は間に合わないだろう。
盾もないので、防御も出来ずに詰みなのだが。
(──ここでしょ、園子)
(やっぱりあなたは最高ね、紫苑)
強引に伊吹澪を突破した蝶乃紫苑が、数メートル側面にいた。
背後から躍りかかってくる伊吹澪は、僅かに間に合わない。
早撃ちでワイヤーガンからアンカーを発射。
アサルトライフルのストックに巻き付けさせて。
銃身を掴んだ紫苑が左から右へと振り切るのとほぼ同時に、一瞬だけの着地の瞬間、地面を蹴って跳んだ。
自身のジャンプと紫苑の腕力を合わせることで、平地で立体機動を擬似的に行い、大きく円を描くように旋回しながら、死地を脱出した。
(───勝ちなさい)
(───任せて)
僅かな一瞬の視線の交錯だけで意思疎通を完了して。
背後からの伊吹澪のナイフで、蝶乃紫苑は撃破された。
一年Cクラス。10クラスポイント追加。
現在、1,227クラスポイント。
砂浜を滑りながら着地。
今のやり取りで、フラッグから六メートルは離れた。
無手だが気にせずフラッグまで突撃する。
(───たった数秒で、たった五人だけれど、もう防御陣形が構築されている。
指揮官は姫野ユキね)
数秒フラッグから離れただけで、追いついてきた一年Dクラス攻撃陣が、盾を構えた防御陣形を構築していた。
姫野ユキの、迅速な判断の賜物だった。
(幸村を撃破したから、もっと混乱が広がると思っていたのだけれど)
走りながら一瞬だけ防御陣形に視線を走らせて、瞬時に理解する。
浜口哲也が、すぐさま指揮を引き継ぎ体勢を立て直していた。
「───やるじゃない。一年Dクラスっ!」
全力疾走の勢いを乗せた飛び蹴りで、五人纏めて吹き飛ばした。
「行かせるかってーのっ!」
指揮官の姫野ユキは、吹き飛ばした後の一瞬の膠着を狙って、シールドバッシュで少しでも抑えようとした。
だが、盾の淵を掴まれて振り回され投げ飛ばされた。
「──っの、バケモンがっ!」
綾小路清隆と龍園翔が構える奥地まで突っ込んで行く。
今度は二対一での激突。
数秒のやり取りの間に、一之瀬帆波と雪村あかりも追いついて、四対一になった。
それでもなお、互角だった。
その戦場にいつでも割って入れる距離で、気絶した生徒の影に隠れている渚は、稔と話し合っていた。
『殺意を消すとバレるなら、殺意をぶつけて誤認を誘うのはどう?』
「暗殺のフェイントですね。でも、今更殺意をぶつけたところですぐにフェイントだと見抜かれて終わると思います」
『そっか。そうだね。じゃあ、
「
確かに、それは良い手かもしれません」
『うん。白銀先輩が殺意以外を読み取って暗殺に備えているなら、逆説的に、殺意以外を敏感に感じ取っているってことになる』
「だからこそ、殺意以外の感情を込めた暗殺で、反射をバグらせる」
『問題は、そんなこと出来るのかってことなんだけど』
「………いや」
潮田渚は思い出す。
兄弟子との決着の時、殺せんせーがしていたことを。
あの虹色の光を。
「………やり方は、もう知っています」
一之瀬帆波は強烈な蹴りを頭部に受けて、地面に叩きつけられた。
瞬時にトドメを刺そうと足を振り上げる白銀園子の顔面に咄嗟に砂を投げ付け、怯んだその隙に背後に周って組み付いた。
「───今!」
一瞬動き止めた隙に、三人が一切に飛びかかってくる。
腕も動かせないので、今度こそ完全に詰みだと全員が思っていた。
しかし、首を絞めている一之瀬の右腕に、白銀園子は全力で噛み付いた。
「痛っ」
肉に歯が食い込んで拘束が緩み、その隙に振り払って、一之瀬の腕を掴んでハンマーよろしく振り回して、綾小路と龍園を吹き飛ばし、雪村を巻き込みながら投げ飛ばした。
血と共に折れた歯を吐き出して、一瞬の隙でフラッグを奪い取っていく。
その姿に、一之瀬帆波は少しばかりの憧憬を抱いた。
(───めちゃくちゃで品もなくて泥臭いのに。
強くて真っ直ぐで、かっこいいなぁ)
受け身を取った綾小路と龍園が起き上がるには、既に二つのフラッグが白銀の手の中にあった。
三年Cクラス。600クラスポイント追加。
現在、3,692クラスポイント。
たった50ポイントだが、この瞬間、CクラスはAクラスになっていた。
それでも完全な勝利を目指して、残りのフラッグにも手を伸ばそうとしたその瞬間。
反射的に振り向きながら、誰もいない背後を殴った。
その目には、巨大が過ぎる驚きと、ほのかな恐怖の色があった。
(────何⁉︎
何なのこれ⁉︎
殺意以外の全てが、なだれ込んでくるっ⁉︎)
ここに来てからの思い出。
ここに来るまでの思い出。
全部で感じた感情を、このナイフに注ぎ込む。
三年E組で感じた全て。
一年Dクラスで感じた全て。
これまでの一生で感じた全て。
僕の全てを、この人にぶつける。
僕の全てで、この人を
虹色の奔流が白銀園子の反射を狂わせる。
狼狽えた様子で辺りを見渡して、感情が突き刺さる方向へと反射的に攻撃するが、そこには誰もいない。
必ず殺す。その一心でリミッターを解除した潮田渚は、浜辺にも関わらず音すら立てずに高速で動き回り続ける。
虹色の奔流は絶えず白銀園子を呑み込み続け、混乱させ続けて。
決定的に波長が乱れた、その瞬間。
「───っ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
「───今度こそ、貰いました」
いつの間にか懐にいた潮田渚は、既にナイフを振り切っていた。
ペイントは、白銀園子の首を横一文字に染め上げていた。
一年Dクラス。10クラスポイント追加。
現在、1,205クラスポイント。
健全な殺し合いを終えて。
二人は穏やかに笑い合っていた。
白銀園子は潮田渚を賞賛する。
潮田渚は白銀園子を賞賛する。
全力で超えて超えられたから、二人はとても穏やかだった。
「……………やっぱり、今年の一年生はやばいのしかいなかったわね」
「……………先輩もやばかったですよ」