あたしはもう人生どーでもいいわー、なんて思いながら、高育に来た。
そりゃさ、人生も最初は嬉しかったし楽しかったよ?
誰よりも前を走ればメダルが貰えた。賞状が貰えた。表彰された。
その度にみんなから褒められた。
お父さんとお母さんからも褒められた。
嬉しくなって走り続けているうちに。
いつの間にか、皆、飽きていた。
あたしはきっと速すぎた。
金メダルも一着の賞状も朝礼での表彰も全部、あたしのものにし過ぎてしまった。
もう誰も、わざわざメダルぐらいじゃ喜ばない。
わざわざ賞状ぐらいじゃ喜ばない。
表彰でも、またこいつかって飽きられるだけ。
本当にどうにかなりそう、ううん。
きっと、どうにかなってた。
『………あ、酒でも飲むか』
今となっては、完全にイカれ切った思考の元、あたしはコンビニで酒を万引きして、捕まって補導されて。
失望し切った親の視線から逃げるように、高育に来た。
陸部を取り敢えず見学して、模擬レースすることになった時に出逢えた。
『………あたし、負けた……?』
『ふーん、整備されてる地面って、こんなに走りやすいのね』
あたしの前を一歩分だけ走っているそいつが、あまりにも強烈だった。
『………ねぇ。名前、なんてゆーの』
『飛騨翔子。あなたは?』
『───猫実詭々。ねぇ、入ろーよ。陸部』
『………えぇ。あなたと競うのは、楽しそうね』
AクラスとDクラス。
優等生と問題児。
勉強出来ないやつと勉強出来るやつ。
野生児と都会っ子。
貧乳と巨乳。
あたしらはきっと正反対だった。
あたしらはきっとここで逢う運命だった。
あたしは運が良かった。
あたしはまた熱をもてた。
だからこそ、全部を楽しもうとした。
クラス間競争も。
翔子との競争も。
全部、全部、全部。
どこまでも欲張りであり続けていた。
そう。今もあたしは、欲張っている。
あたしにリベンジしようとする後輩を、もう一度打ち倒そうとしているのだから。
「あっははははははっ!
あたしにどう勝つのかな朝比奈ちゃんっ!
懐刀をどこで抜く⁉︎」
「あなたに勝てるところで、ですっ!」
朝比奈なずな。
あたしの目には、特に大したことない生徒に映っていた。
いや、頑張ってるのは分かるよ?凄く真剣に取り組んでるし、凄く真剣に鍛えてるなってのもよく分かる。
でもさ、頑張ったら結果が出るってのは、夢物語なんだよね。
まぁ頑張らないと結果が出る芽すら出ないんだけどさ。
でも今は、なんか面白そうな生徒として映ってる。
あたしには速く走る才能があった。それは認める。
あたしには走ることを追求できる才能があった。それも認める。
じゃあ、あたしの全部は才能だけ?
そんなわけないでしょ。
才能だけで生きていけるなら万引きなんてしなかった。
走れるだけで他は全部どうでも良いって思えるほど、あたしはぶっ飛べていなかった。
どうしてもあたしは誰かと競ったり、誰かに褒められたり、そういうのを求めてしまうタチの、割とめんどくさい人間だからさ。
だからなのかな。
なんとなく、朝比奈ちゃんもそういうのを求めているような気がしてた。
朝比奈ちゃんは強くなりたいから鍛えているんじゃなくて。
強くなった先で誰かの隣に立ちたいから、鍛えているんだって思ってた。
その誰かってのは、南雲雅のような気がしてたけど。
でも、南雲雅と別れて敵になった。
それでも尚、鍛えるのをやめない朝比奈ちゃんを見て。
あれ、なんかあたしとはかなり違うのかもって思ったから。
だから、正直ずっと気になってた。
「ねぇ!ちょっと聞いても良いっ!」
「何ですかっ!」
「どうして南雲雅と戦えるのっ?好きじゃないのっ?」
「───好きだから、戦うんですっ!」
お互いにめちゃくちゃに走り回りながら撃ち合って、言葉を投げつけ合う。
好きだから戦う。
それはよくわからない。
翔子は好きだ。でもそれは、親友として、ライバルとしてであって、別に恋愛感情を抱いているわけじゃない。
ボスは好きだ。多分、恋愛対象として。だから、多分ボスとは戦えない。あたしじゃ勝てないって分かってても、傷付けたくないって思っちゃうから。
結局、よく分からないままだ。
だから、あたしは分かりたかったから。
足を止めて、一度戦闘を停止する。
須知ちゃんも影乃も困惑していた。
一度同じようなことに巻き込んだ朝比奈ちゃんだけが、少し呆れていた。でも嬉しそうな顔をしていた。
「………どうせリベンジならさ。
競争しよーよ」
「………ゴールは、フラッグですか?」
「うん。よーいドンじゃ、あたしには勝てないから」
「いいえ。よーいドンで、お願いします」
「………そっか。うん。そうだね。
今の君なら、十回中一回は、あたしに勝てるかも知れない」
「なら、ここでその一回を引いてやりますよ」
二人並んで、いつかのリレーみたいに構える。
あの日は翔子と競争したかった。翔子以外は邪魔だった。
でも、今日は違う。
あたしの競争相手は、ただの後輩。
あたしの相手は、ちょっとだけ面白そうな後輩。
だけど、きっと、あたしの知りたいことを教えてくれる後輩。
だから、楽しみなんだ。
「萌香、合図お願い」
「………はぁ。分かったわよ」
構えて、よーいドンの合図と同時に走り出す。
やっぱり、あたしの前には誰もいない。いなかった。
あたしは誰かの背中を見ながら走ったことはない。
あたしが見てきたのは誰もいない景色。
あたしが見てきたのは翔子の横顔。
そして、あたしが見てきたのはボス達の背中。
ボスも、珠莉も、珠紀ですらも。
たまに、どこまでも冷たい顔をすることがあった。
三人とも、今が楽しいのは嘘じゃないんだと思う。でも、どうしても、たまに。絶対零度なんて言葉でも足りないぐらい、冷たすぎる目をしている。
だから、踏み込めない。
怖いんだ。ボスたちが抱えているものを知ったら、あたしのボス達を見る目まで変わっちゃいそうだからさ。
だから、向き合えない。
だから、目を逸らし続けていた。
ねぇ。朝比奈ちゃん。
朝比奈ちゃんはさ、目を逸らさなかったんだよね。
きっと、向き合ってるんだよね。
何で、君は向き合えたの?
体育祭のリレーで、猫実先輩に言われた通り、私はみんなに負けて、終わった。
強くなろうとしていたのに。
今度こそ、雅の隣で戦いたかったのに。
雅が間違えそうなら、止められるように。
今度こそ、雅が頼ってくれるように。
でも、私はまだまだ弱いままで。
審議だって止めたかった。選挙だって止めたかった。でも、私は弱くて、怖くて、止められなかった。
そんな時に、九十九と話した。
九十九の懺悔を聞いた。
………翡翠先生を止められなかったことを悔やむ、真白先輩の話を聞いた。
………多分、傲慢な話だけど。
私は自分が悲劇のヒロインみたいなものだと、薄っすら思っていた。
それは、九十九も多分同じだった。九十九も、自分が復讐譚の主人公だと思い込んでいた。
違ったんだ。私たちは、何も特別なんかじゃなかった。
私がずっと凄いと思っていた雅も。特別だと思っていた雅も、特別じゃなかった。
堀北先輩も、金石先輩も、誰も彼も。きっと、特別じゃなかった。
特別じゃないから、みんな失敗する。みんな悩む。みんな苦しむ。
私たちの悩みも苦しみも、きっと、私たちだけのものじゃなかった。
私たちの生きている世界は、広かった。
私たちは同じで違う世界を生きていた。
私たちはきっと、同じだった。
だから、逃げたくないって、そう思った。
罪から逃げなかった九十九のように。
罪に向き合った卜部さんみたいに。
罪を抱えて進む雅に。
みんなに負けたくないって思えた。
だから、私は。
私は。
「──今日!あなたに勝ちます!」
瞬間、びっくりするくらいの勢いで、私は飛び出していた。
体感で分かる。きっと今、私はリミッターってやつを壊した。壊せた。
これまで壊せなかったのに。
意識を瞬時に切り替えて、数歩前を走る猫実先輩を追い越して。
フラッグまで、あと二十メートル。
抜かされたことに気づいた猫実先輩は、咄嗟に自身もぶち壊して。
並びかけて、追い抜こうとした。
でも、私の方が、爪先一つ分だけ速かった。
私の手が先にフラッグを取って。
猫実先輩は掴めなかった。
合図する。雅から譲り受けた、私の懐刀。その力で。
「………リベンジ達成です。猫実先輩」
「………あーあ、ふふふっ、楽しかったよ。なずなちゃん」
蓮くんがその首を切り裂いて。
私はリベンジを達成した。
二年Bクラス。10クラスポイント追加。
現在1,116クラスポイント。
雅。私、強くなる。強くなるよ。
雅に勝てるくらい。雅を、今度は止められるくらい。
雅を超えて、私はAクラスで卒業する。
そうしたら、そう、したら────。
「え、えへへへへへ」
『なずなー、トリップしないで、戻って来てー』
み、雅に首輪付けて、一生、私の、隣で………。
え、えへへへへへへへ。
「………あたし、こんな色ボケに負けたの?」
「………多分、その。今この学校で強い人たちは、大体色ボケしてますよ」
影乃蓮は各クラスのリーダー達を思い返して。
自身の所感を伝えた。
須知萌香は何も言わなかった。
三年生側。現在、六十二名。
一、二年生側。現在、百十三名。
三年Aクラス。100クラスポイント追加。
現在。3,642クラスポイント。
三年Bクラス。90クラスポイント追加。
現在。3,112クラスポイント。
三年Cクラス。80クラスポイント追加。
現在。3,772クラスポイント。
三年Dクラス。80クラスポイント追加。
現在3,752クラスポイント。
二年Aクラス。20クラスポイント追加。
現在1,304クラスポイント。
二年Bクラス。20クラスポイント追加。
現在1,136クラスポイント。
二年Cクラス。30クラスポイント追加。
現在873クラスポイント。
二年Dクラス。20クラスポイント追加。
現在127クラスポイント。
一年Aクラス。30クラスポイント追加。
現在1,597クラスポイント。
一年Bクラス。20クラスポイント追加。
現在1,407クラスポイント。
一年Cクラス。40クラスポイント追加。
現在1,267クラスポイント。
一年Dクラス。20クラスポイント追加。
現在1,225クラスポイント。
あら、意外ね。
私よりも先に詭々がやられるとは思わなかったわ。
………もう、私もすぐにやられるわね。
手榴弾を投げ尽くした茜は、学の方に向かわせたし。
「───次で終わらせます」
「………いいえ、終わるのはあなたよ」
私の負けは確定だけど、最後にやらないといけない仕事が残っている。
完全に弾切れになったショットガンを捨てて、ナイフ二刀流。
桃井は居合切りの構えを取って。
私たちは6メートル程度の間合いで静止する。
数秒の先。
私と桃井はほぼ同時に飛び出した。
ナイフで突き込むと見せかけて繰り出した私の蹴りが、切られながらも木刀を打ち砕いた。
二年Cクラス。10クラスポイント獲得。
現在、883クラスポイント。
私の仕事はこれで終わり。
そりゃ、勝てるに越したことはないんだけど、勝てないなら勝てないなりにやりようはある。
例えば、ギリギリまで戦いを引き延ばして、木刀の耐久力の限界まで時間稼ぎするとか、ね。
「………成程。これが狙いですか」
「そうね。私じゃあなたには勝てない。けれど、あなたの強さは木刀を握ってこその強さ。それがなくとも強いは強いけれど、その程度なら、学なら巻き返せる強さだから」
「成程。確かに、これではわたしは終わりですね」
取り敢えず、これで私の仕事は成し遂げた。
後は皆を信じて──。
一人の生徒がやけに長くてでかい鞄を背負って、桃井に走り寄ってきた。
あ、あ、あー、成程成程。
「も、桃井さん!これ!」
「うん。ありがと。和泉」
和泉なすかが取り出したのは、二本目の木刀。
チラッと見えた感じ、鞄の中には後六本ぐらいは木刀があった。
………あ、これ多分、模擬戦中に木刀が折れることも何度かあったんだな、と賢くなった私は察した。
「───わたしに木刀は必須。
なら、無くしたとき用に、対策も取っています」
「………あーあー、私、無駄骨だったわね」
「………強かったですよ、飛騨先輩。これまで戦ってきた人の中では、三番目です」
「そこは一番になりたかったわね」
あーあ、ちょっと、悔いが残る終わり方ね。
去っていく桃井の背を見ながら、そんなことを考えていた。
「───ようやく、ようやく、自由………!」
『うん。じゃあ、暴れちゃえ。緋音ちゃん』
「───うん!うん‼︎」
瞬間、踏み込みで砂が間欠泉のように吹き上がる。
一瞬で防御陣形の最奥に侵入して、綾小路達と数の優位を活かして、持久戦を優位に進めている三年生たちの元に飛び込んだ桃井緋音。
彼らは瞬時に桃井緋音を最警戒して囲むが。
包囲して引き金を引くより一瞬だけ速く木刀が閃き。
砂を勢いよく吹き飛ばしながら、十一人の三年生を一瞬で斬り伏せていた。
二年Cクラス。110クラスポイント追加。
現在993クラスポイント。
「あ、あは、あははははははっ!
ははは、ははははははははっ!
あー、楽しいっ!ねぇ清隆っ!どっちから行く⁉︎堀北先輩か金石先輩っ!」
「まずは金石先輩をオレと渚と緋音の三人が追加で参戦して落とす。そしたら次は、そのまま堀北先輩だ」
「うん。あかり達は防御に専念して。不味くなったら呼ぶ」
「オッケー。頑張ってね渚!」
学校最強の女。
学年最強の男。
学年最恐の男。
三人がついに、本格的に動き出した。
洞窟で十名での防御陣形を取る三年Bクラスは、入り口から身を隠しながら射撃する二年Dクラス攻撃部隊に応戦していた。
防御側指揮官日野曜は流石に違和感を覚える。
(………いくら南雲くんがいるとはいえ、二人だけというのは少な過ぎます。
伏兵も何人か居るはずですが、影も形もありませんね)
銃口の数に差があり過ぎる。
八対二では、とてもではないが突破など不可能。
洞窟による正面突破の強制に加えて、横に広い陣形を取ることで、こちらに向けられる銃口の数は最小限に、角度を付けた集中砲火で、あちらに向けられる銃口の数は最大限に。
完璧な防衛銃撃戦の構え。
この状況でもギリギリ撃ち負けていないのは、南雲雅の射撃精度によるものだろうが。
「………うし。合図きた。三秒後行くぞ、後藤」
「………いや、うん。マジで信じるからな」
防御陣形のうち二人が弾切れになりそうなので一旦再装填させる。
その、本当に僅かな弾幕の隙間が二つ生まれた瞬間に、その隙間に滑り込むように、南雲雅と後藤圭が飛び出して、洞窟に足を踏み入れる。
「───集中砲火!」
日野曜の指示の元、六つの銃口が同時に二人を狙った、次の瞬間。
洞窟の天井が爆ぜた。
高さ六メートル程度のすり鉢型の洞窟の天井に、人二人分程度が落ちれるだけの穴が、小規模な爆発によって空いた。
その穴から、花咲ほむらと森悠政が落下してきた。
「───は?」
(天井に爆弾で穴を開けたと⁉︎人二人だけが通れる隙間になるよう計算して⁉︎
天井を崩して生き埋めなんてことになれば間違いなく退学、それどころか逮捕ですよ⁉︎
いえそもそもそれ以前にお二方が洞窟内に入るのと同時に落下しているということは、あのお二方も生き埋めになる可能性があったんですよ⁉︎
確かに天井を崩しての侵入も警戒はしていましたが、お二方の突入でその警戒が完全に消え去ったタイミングでの爆破と⁉︎)
畳み掛けるように、落ちざまに花咲ほむらはありったけの
「──対閃光システムきーど〜!」
四人は同時にゴーグルの対閃光システムを起動。一時的に電子サングラスとなり、ワイヤレスイヤホンによるノイズキャンセリングも最大に。
結果、ありえないはずの挟み撃ちに困惑したBクラス防御陣形を、莫大な閃光と音響が襲った。
咄嗟に対閃光システムの起動が間に合った日野曜含む六名を除く、再装填に集中していた二名の生徒は、音と光にやられて、完全に動きが止まった瞬間に、南雲雅の早打ちで纏めてやられた。
二年Dクラス。20クラスポイント追加。
現在。147クラスポイント。
「前後に分かれて!三名ずつです!」
日野曜の簡潔な指示の元、三年Bクラス防御側は三名ずつで対処しようとして。
南雲と後藤の鮮やかな近接連係で瞬殺された。
森とほむらの息のあった近接連係で、日野曜を除く二名が撃破された。
最後に残った日野曜を、四人がかりの連係で鮮やかに撃破した。
そうして、ウッキウキの花咲ほむらはフラッグを奪取した。
天井爆破から、僅か二分での出来事である。
二年Dクラス。360クラスポイント追加。
現在487クラスポイント。
「いっえーい!かんっぜんっ勝利ぃー!ねぇねぇどんな気持ち?どんな気持ち?倍の戦力差で完敗してどんな気持──いったぁぁぁいっ!」
「すいませんすいません!こいつ性格終わってるんですすいません!」
「いやー、上手くいったな、近接連係」
「そんなことよりも生き埋めになるんじゃないかってずっとヒヤヒヤしてたんだけど。なんなんお前ら何で平然としてんの怖いよ」
三年Bクラス防御側の生徒は、後藤圭に心から同意した。
特に南雲雅。
何故あんなにも平然と踏み入れられる。後藤圭はかなり躊躇っていたのに。
天井が爆破されて崩落の危険がある洞窟なのに。
「………はぁ、Dクラスは本当に頭のおかしい生徒が入学するんですね」
日野曜は自身のクラスのリーダーにして親友兼三年生やばいやつ筆頭を思いながら、そんなことを呆れたようにこぼした。
だからこそ、少しだけ笑った。
「………やれやれ。どうやら私は、頭のおかしい人に敗北する運命のようですね」
万が一があったら怖いので、全員で速やかに洞窟を出た。
立体機動を可能とするDクラストップスリーは、すぐさま防御側への参戦の為に戻り始めた。
唯一残された立体機動が出来ない後藤圭は、先輩方にずっと土下座していた。
「本当にごめんなさいほんっとうにごめんなさい!
うちの三馬鹿のせいで寿命が縮む思いをされたと思います!
本当にごめんなさい!」
「構いませんよ。死んでませんしね」
「神かっ!
本当にありがとうございます日野先輩!」
後藤圭は心に誓った。
これからは女遊びを控えようと。
あんなヤバい奴らに振り回されている両沢の心労を、少しでも減らさなければならないと。
そう、心に誓った。
なお、二日後。
帰りのクルーザー内で最後の思い出とか言って、金織美浪を口説こうとする後藤と南雲を、まとめて全力で制裁する両沢眞子が居た。
制裁後のグロッキー南雲雅は、朝比奈なずなへのご褒美で献上されたとかされていないとか。
卜部さんと三宅くんとの通算八度目の狙撃戦。
お互いにいたずらに弾を消費していくだけですが。
ようやく、決定的なチャンスですね。
「────見つけましたよ。卜部さん」
私を完全に見失ったのか、辺りを見渡す卜部さんを狙います。
木の葉と枝で作った即席ドームで
ですが、些か詰めが甘かったですね。
そのドームでは場所を取るので狙撃ポイントは限定されます。
そして射角は正面に限定される。
撃ち合いならば確かに有効でしょうが、狙撃戦では機動力の低下を招くだけの愚策です。
「───私の勝ちです。お二人とも」
卜部さんの側頭部を狙撃しました。
狙撃が命中する寸前で。
ワイヤーに弾丸が引っ掛かって、狙撃を逸らされました。
………成程。私を見失ったのはブラフ。
私の狙撃ポイントは見抜かれていたようですね。だからこそ、意図的に跳弾させて狙撃を逸らしてきた。
この瞬間に
違和感を覚えます。
卜部さんは私の狙撃ポイントを把握していた。
必然、三宅くんの狙撃ポイントからでは、私を狙えないことも予想できていたはず。
にも関わらず、三宅くんをあの狙撃ポイントに残していた。
─────まさか。
卜部さんの
ギリギリで間に合いました。
ペイント弾はライフルスコープに命中。
私に命中することはありませんでした。
本当に間一髪でしたね。
「────ちっ、読まれたわね」
『ですが手応えはありました。俺の狙撃はライフルスコープに命中しています』
「…………そう。なら、もう無視していいわね」
即席ドームから顔を出しているライフルは、立体機動の邪魔だと判断した綾小路が捨てたライフル。
私と真白先輩の探り合いの最中に、三宅にこっそり回収させたもの。
回収後の三宅には即席のドームを作らせて、それに隠れての狙撃を複数回見せた。
そうして、私が見失ったフリをして。
私を狙える狙撃ポイントに誘導。
その狙撃ポイントを狙えないポイントに即席のドームと、綾小路が捨てたライフルを使ってデコイを作った。
そして、本命の三宅は私の
撃破は出来なかったけど、スコープは潰せた。
なら、もう狙撃はない。
「………防御側の援護に向かうわ。行くわよ、三宅」
『了解です』
白銀先輩の大暴れで崩れかけたけど、一年Dクラスの奮闘と飛騨先輩を撃破した緋音の参戦で立て直している。
このまま、私たち二人で駄目押しする。
「堕としてあげます。堀北先輩……!」
(………なんか、情念を感じる)
通信越しにその独り言を聞いた三宅は、なんとなくそんなことを思った。
スコープがやられました。
これでは狙撃が出来ません、なんて、この程度で諦めるような人間なら、この学校に入学なんてしていませんよ。
「烏。ドローンを二台下さい」
さて、まずは三宅くんから落としましょう。
「───博、狙撃手が二人向かっています。気をつけてくださいね」
『オーケー珠莉。
「当たったらご褒美を下さいね」
『はいはい。勿論さ』
やる気百倍。元気千倍です。
ドローンカメラの映像を、ゴーグルスクリーンに映します。ふむ。少し、時間がかかりそうですね。まぁ良いでしょう。我慢には、慣れてますから。
さて、お互いに戦力は半分以下にまで削られています。
つまりは。
決着が近いということ。
「────そろそろ、最終局面ですね」