「まずは整理しよっか」
赤羽業は思考する。思考しながらも、金石博と黄乃珠紀を抑え続ける。
「卜部先輩の『神の領域』は、あの人たちも出来た。
ならば、僕たちにも出来るはずだ」
浅野学秀も思考する。思考しながらも、絶えず二人を抑え続ける。
『問題はあの三人がどうやって入っているのか、ということですね。
椎名さん。何か意見はありますか?』
坂柳有栖も思考する。
『………卜部先輩は自力でメンタルトレースに辿り着いた人。
彼女はメンタルトレースの第一人者と言っていい』
椎名ひよりも思考する。
「ってことは、あれは多分、メンタルトレースの応用なんだよね?」
雪村あかりも思考する。
「メンタルトレースは強烈な自己催眠。マインドコントロールの一つ。思い込みでリミッターを壊しているように、思い込みで計算能力を爆発的に上昇させている?」
綾小路清隆も思考する。
「………いや、プラセボ効果に出来るのは、体にかけられたリミッターを壊すところまで。
脳味噌の計算能力を一時的に増大なんて、そんなことは出来ない」
赤羽業は思考を続ける。
「プラセボ効果とは違う何か、か。………考えられるものとしては、ホーソン効果やピグマリオン効果か?いや、そんな生易しいものじゃないな」
浅野学秀も思考を続ける。
『…………脳機能の増大ということは。
…………使っていたものを切り捨てて、空いた分を?』
坂柳有栖は思考する。
『────なるほど。愛美さんが以前作っていた、ゾンビ薬と同じようなものですか。
やっていることは同じですが、最終的な狙いは逆なんですね』
椎名ひよりも思考する。
「あぁそっか。脳機能を削って、その分を筋肉増大やら維持やらに回していた奥田さんのと違って、身体機能を削って、その分を計算に回してたんだ」
雪村あかりも思考する。
「つまり、メンタルトレースの応用で身体機能を削って、計算能力に回していたのか。
とすると、どの身体機能を削っていたのか、というのが唯一の疑問だな」
綾小路清隆も思考する。
「狙撃に支障が出ないってことは、多分運動神経は残してた」
赤羽業は思考する。
「それから視界もだな。何も見ずに狙撃なんて出来ない」
浅野学秀も思考する。
『一時的に削っても問題ないもの。味覚、嗅覚、触覚、聴覚でしょうか』
坂柳有栖も思考する。
『それから色覚、痛覚も一時的に削っても問題ないはずです』
椎名ひよりも思考する。
「結論として、卜部先輩がやってたのは、メンタルトレースを深化させて、感覚を一時的にカット。そうして生まれたリソースで計算能力を一時的に爆発的に増大させるってことか」
雪村あかりも思考する。
「…………恐らく、オレ達なら出来るな」
綾小路清隆はそう結論付けた。
「いや、俺と浅野くんは、多分まだメンタルトレースの経験が足らない」
「そうだな。有栖も辞めておいた方がいい。最悪心停止するかもしれないからな」
脳機能増大に伴う酸素消費量増加による心拍の増大。
坂柳有栖の病弱な心臓では、恐らく耐えきれない。
『………こんなにも障害を恨んだのは、生まれて初めてですね』
『私なら多分入れますけど。
私が入ったところで、ですよね』
「戦場に今いる私と綾小路くん。入るためには一時的に離脱しないと。
………うん。リミッター解除のある綾小路くんに残ってもらうのが最適解かな?
成功率落ちるとは思うけど」
それが最適解と判断して、成功率は落ちるだろうが、雪村あかりに入ってもらおうとした。
「───話は聞かせてもらったよ。綾小路の穴埋めは私が務めよう」
「………頼んだ。六助」
「うむ。頼まれた」
高円寺六助と綾小路清隆は交代して、綾小路清隆は戦場からギリギリまで離れて、瞑目してメンタルトレースを深化していく。
一方その頃、二年生達は。
『藤乃がやってたのはメンタルトレースの応用。ここまではいい?』
九重九十九は思考する。
「うんうん。そこは確定でいいんじゃない?」
花咲ほむらも思考する。
「どのように応用しているのか、ということだな。マインドコントロールによる強力なプラセボ効果の可能性もあるが」
鬼龍院楓花も思考する。
『うぅん。プラセボ効果で出来るのは元々制限されている機能を外すところまで。
制限されている範囲を超えての最大稼働は、プラセボ効果じゃ出来ない』
狐判稔も思考する。
「となると、制限されている範囲を超えられるだけのリソースを確保しているという可能性は?」
星穹恒も思考する。
「あー、それが一番ありそうだな。てなると、その分のリソースをメンタルトレースの応用で持ってきているってことになる」
南雲雅も思考する。
『………そっか、私やほむらがやってるのとは逆なんだ』
九重九十九は思考する。
「みたいだね。限界まで内側に人格を展開するんじゃなくて、自分だけの人格を限界まで深く理解して把握する」
花咲ほむらも思考する。
「自身の精神を一つ残らず完璧に掌握し尽くして、余分なものは切断しているのか」
鬼龍院楓花も思考する。
『確かに。それなら切断して生まれたリソースを回して計算能力を増大させられる。
切断しているとしたら、身体能力に大きな影響が出ないもの。五感のうち、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。
多分、色覚と痛覚も削っているかもしれない』
狐判稔も思考する。
「やり方は分かった。出来るとしたら誰だ?」
星穹恒も思考する。
「このメンツで考えるならほむらしかいないだろ。オレも鬼龍院も恒も覚えたてだし。抜けた穴は誰が埋めるかって話だな」
南雲雅は結論付けた。
「指揮は大岡に預けてきた。俺もこちらに入る」
『よし。桐山は一時的に抜けるほむらの穴を埋めて。ほむら、やれるね?』
「もっちのろんだよ〜」
桐山生叶と交代した花咲ほむらは、一時的に戦場から可能な限り離れて、瞑目して、メンタルトレースを深化する。
「またここに来たのか」
「オレ一人では難しいかもな。手を貸してくれ」
「いいだろう。オレも知りたいからな」
「さて、どんな景色が見えるんだろうな」
自身の精神を完全に掌握する。
まずは触覚を切断する。
次に聴覚を切断する。
次に味覚。
最後に嗅覚。
そして色覚。
何も感じない。何も聞こえない。何も味がしない。何も匂わない。色は無い。
代わりに、思考がどこまでも広がっているのが分かる。
一秒で出来ていた計算が、0.001秒で出来るようになっているのが分かる。
視界で揺れる木の葉から、辺り一帯の風の流れを計算する。
弾丸の重さを考慮に入れて。
ハンドガンの性能も考慮に入れて。
自転の影響も考慮に入れて。
湿度も気温も考慮に入れて。
右手に持ったハンドガンを、上空に掲げて。
ワンマガジンを撃ち切った。
色の消えた世界の中で、金石先輩は笑いながらオレを見ている。
言葉は聞こえないが、先輩の唇から何を言っているのか把握した。
『ようこそ、
オレは殺せんせーの影を踏めたらしい。
それがすごく嬉しかった。
「………わぁ、君は誰?」
「いまあなたのしんぞうになってるひとだよ」
「………あー、臓器の記憶ってやつだっけ。そっか、深くまで入ってきたから、話せるのか」
「うん。わたしはまどか」
「わたしはほむらだよ。
…………ありがとう。まどか。あなたの命のおかけで、わたしは生きているからさ」
「れいをいわれるようなことじゃないよ。わたしはそのためにうまれたんだから」
「…………?どういうこと?」
「いまはそれよりもだいじなことがあるでしょ?
てつだうから、もっとふかくまでもぐろっか」
「…………うん。そうしよっか」
精神を完全に掌握する。
まずは触覚。
次に嗅覚。
そして味覚。
そしたら聴覚で。
最後に色覚。
ついでに痛覚。
わお。世界が広がった気がするよ。
うっわぁ、あの日の藤乃ちゃん、こんな感じだったんだ。そりゃ、七人がかりでも読み切れる訳だよ。
風に揺れる木の葉の動きで、風速計算。
弾速計算。
飛距離計算。
重力加速度計算。
自転の影響計算。
弾丸の重量計算。
オールクリア!
「───人力ミサイル!発射〜〜〜!」
ま、狙撃じゃ無いから、ミサイルってよりかは誘導弾だけどね!
狙撃でこれやるのは頭おかしいね!知ってたけど!
色の消えた世界の中で、堀北先輩が笑っていた。
読唇術、最近身に付けといて良かったよ。
『ようこそ、
これでようやく影踏める程度かぁ。
うちの担任、やっっっばぁ!
「あっはっはっはっ。やっぱ凄いね
「
「あーらら。敵に塩を送っちゃったか」
鼻血を流しながらもやや血走った目で、二人の天才は笑いながら弾切れになったハンドガンを捨てた。
「───ほう。流石は浅野先生の教え子で占藤の後輩、そして卜部の友達だな。
まさかお前が入れるとはな」
「わたし一人じゃ、ここには来れなかったよ。わたしの中のこの子のおかげ。みんなで話し合ったおかげ。目の前で見せてくれたあなたのおかげ。
───兄弟子さん?覚悟はいい?」
「───かかってこい、妹弟子」
鼻血を流して血走った目で、二人の天才は同時にハンドガンを投げ捨てた。
四人はすぐさま共有する。
「───今から示したポイントに、射撃が降る」
「───そこに一人ずつ追い込んで、殺す」
「───指定ポイントに釘付けに出来れば、わたしたちの勝ち」
「───卜部の狙撃も合わせて、あちらは十八発」
「───オレ達には十二発」
「───いつどこに降ってくるかは分からないけど」
「───多分一分間の間には、全弾落ちてくる」
「───この一分で勝負を決める」
「───さぁ、最後の一分を始めよう」