殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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堀北学の時間

 初めて、浅野先生に会った時。

 心から、恐れを抱いて、憧れた。

 構えを取るだけで分かった。あの人は、信じられないくらい高みに居た。

 俺では届かないほど強かった。

 

『初めまして。私は、堀北学です。お名前を伺ってもよろしいでしょうか』

『構いませんよ。私は、浅野學峯です。御用件は?』

『一手、手合わせ願います』

 

 知りたかった。

 この人は、果たしてどれほど強いのか。

 圧倒的だった。一方的だった。完全に、敗北して。

 そうして、歓喜した。

 毎日。毎日毎日毎日毎日。

 あの人にズタボロにされて、負けて、負けて、何度も挑み続けた。

 強くて、でも優しい人だと思っていたから。

 この人に追い付きたいと、そう、心から思っていたから。

 そうして、ある日。

 椚ヶ丘に、入学すると決めた時。

 

『───学くん。君は、優しくならないでくださいね』

『………それは、どういう?』

『他者を苦しめて、他者より上に立って下さい』

『………それが、本当の強さだと言いたいんですか?』

 

 俺は、この人を、きっと優しい人なんだと、思っていたから。

 こんなことを言ってくるなんて、信じられなかった。

 そうして、椚ヶ丘で過ごす中で、E組を知った。

 

『………どうして、こんな学級を。

 こんなのやっていいことでは無いのに………』

 

 優しい人だと、思っていた。

 優しい人だと、信じていた。

 否定したいと、思ってしまった。

 

 そんなの、間違っているのに。

 

 誰かを自分の思う道に動かそうとした時点で、俺も、浅野先生と何も変わらなかった。

 浅野先生のように、誰かを踏みつけにすることを肯定していた。

 俺は結局、本当の意味で、優しい人間になれなかった。

 

 強くあれ。他者に優しくあれ。

 

 そんな理想に真っ向から歯向かってしまったのは、俺だった。

 俺は、俺は、優しい人間なんかじゃない。

 俺はきっと、浅野先生の強さにだけ、憧れた人間だった。

 浅野先生に勝ちたいという感情を、外向けに、綺麗に綺麗にラッピングしていただけだった。

 俺は、所詮、その程度、で。

 

『………なぁ、橘』

『はい。なんでしょう?』

『………もし、俺が生徒会長を辞めたいと言ったら、どうする?』

『………そう、ですね。

 ふふっ、ちょっと恥ずかしい話ですけど、ついていくだけですよ』

『───────、』

『………私は、学くんの強さだけに憧れたんじゃないんです。学くんは、強くて優しいから』

『………俺は、優しくなどない………』

『いいえ。優しいです。あなたにだって否定させませんよ。………あぁでも、少しだけ違うかもしれませんね。あなたは、優しくあろうとする人だから』

『………俺は、南雲の心を、弄んだ。

 ………卜部も、巻き込んだ。

 ………そうして、誰も彼もを、傷付けて……』

『でも、学くん。

 私の目を見て下さい。

 私の声を聞いて下さい。

 あなたは、確かに、たくさんの人を傷付けました。

 後輩達だけじゃない。この学校での競争の過程で、どうしても、他クラスの生徒からは、退学者が出てしまったりしました。

 でもね。学くん。あなたがいたから、私たちも、強くなれたんですよ。

 私たちは、きっと、生きていく限り、誰かを傷付ける生き物で。

 でも、生きていく限り、誰かを助けられる生き物なんだと、私は思います。

 あなたのお陰で、そう思えました。

 あなたは、Aクラスのみんなを纏めていた。

 同じ道は歩めなくとも、あなたの歩いてきた道は、確かに、クラスのみんなの道標になっていた。

 だから、私は、あなたが好きなんです』

『───、俺、は………』

 

 諦めたくない。こんな俺を、好きだと言ってくれた茜を、裏切りたく無い。

 俺は、まだ、強いままでいたい。

 そうだ。そんな、ちっぽけな個人の感情でしかなくても。

 それでも、挑む理由には、なるだろう。

 だから俺は、俺が生徒会長の器などではないことなど理解して。

 寄り添えないことなど理解して。

 それでも、この学校の生徒会長で居続けた。

 出来ることを、全て、やり続けて。

 

 

『………学。もう、良いんじゃないかい?』

『………何がだ?』

『………もうさ、君は、やりたいように生きていいよ。誰かの呪縛に囚われる必要なんて、ないだろう?』

『………囚われているつもりなんてないんだがな』

『私からしたら、君はずっと、浅野學峯に囚われているように思える』

『そう、か?』

『ふっ、私たちの負けだよ。学。私たちでは変えられなかったものも、今年の一年生達なら、簡単に変えられるからさ』

『後輩達に全てを任せろと?そんな無責任が許される訳が───』

『………無責任じゃないよ。私たちは、必ず学校を去る。それは、学校だけじゃない。人生もだ。

 必ず終わりは来る。そういう時に、何を残せるのか。何が、残せたのか。

 そういうものがあるから、私たちは、終わりを笑顔で迎えられるんだ。

 そして、学。

 君はもう、そういうものを、残せているよ。

 だから、無責任なんかじゃない』

 

 ………そう、なのだろうか。

 

 

 文字通り、全校生徒に祝福されて。

 俺は、どうしてこんなに祝われるのか、よく分からなくて。

 どうして、誰も彼もが、嬉しそうな顔をしているのか、分からなくて。

 

『アホね。そんなの、学がたくさん頑張って来たからよ。頑張って来た人には、幸せになって欲しいでしょ?』

『……そう、なのか?だが、その、俺は、誰かのために──』

『そんなのどうでもいいのよ。動機なんてなんだっていい。確かに、あなたは色々なものを変えた。

 少しでも、この学校の生徒達が、生きやすくて笑いやすい学校を、頑張って作って来た。

 自覚しなさい。馬鹿学。

 あなたはちゃんと、高育最高の生徒会長よ』

 

 そう、なのか?

 

 

 あの日、桐山の言葉に、俺は救われた。

 俺は、確かに、沢山間違えた。

 

『沢山間違えたから、今が、あるんでしょう』

『………そう、だな』

『私たちもそうですよ。学。私たちは、沢山間違えました。だから、今があるんです』

『………なぁ、金織。お前はどうして、服を作るんだ?』

『………笑ってくれた人がいたから。理由なんて、それで十分なんです。

 それでも、残るものは、必ずあるから』

 

 俺は、きっと。

 浅野先生のようになりたいから、色々なことをやって来て。

 たったそれだけの理由でしかなくて。

 それでも、残ったものがあったから。

 きっと、俺の三年間は。

 沢山間違えた三年間は。

 間違いだけじゃ、なかったんだ。

 

 

『最後に、みんなに残して去るつもり?』

「あぁ。俺という生徒を、みんなの記憶に刻みつけて、終わりにする」

『ふふ、欲張りね。もう、あなたは彼らの記憶に、しっかり残ってるわよ?』

「それでもだ。後輩達に教えたい。孤高の強者の、寂しさというものを」

『はぁー、馬鹿ね。あなたを孤高になんてさせないわよ』

「メメは、俺のことを、どう思っている?」

『私は、あなたに救われたりなんてしない。私は、あなたを追いかけたりしない。私は、あなたを支えたりしない。

 私は生きたいように生きる。その道が、たまたまあなたと重なっているだけ。

 だから、あなたが好きなのよ』

「………そう、か」

『終わらせましょう。私たちの三年間を』

「………あぁ。そうだな」

 

 

 そうして。

 堀北学は、綾小路清隆達と、向かい合って。

 地面に落ちていた盾を、勢いよく踏み付け跳ね上げさせ左手に装備する。

 そして、落ちていたアサルトライフルを蹴り上げて、右手に握り込む。

 綾小路清隆達も、ナイフと銃を、同時に構えて。

 お互いに、同じセリフを、溢した。

 

「───ねじ伏せてやろう」

「───ねじ伏せてやります」

 

 お互いに、全てを賭けて、ぶつかり合った。

 

 ドローン達は、空中を飛び交って生徒達を撃ち殺していく。

 

 一年Aクラス。40クラスポイント追加。

 現在1,667クラスポイント。

 

 二年Aクラス。50クラスポイント追加。

 現在1,384クラスポイント。

 

 三年Aクラス。60クラスポイント追加。

 現在3,872クラスポイント。

 

 最後の最後なので、最早バッテリーなどどうでもいい。だからこその、全開戦闘。

 ドローンドッグファイトの、本領発揮なのだが。

 

(い、いやいやいや、何してんのメメ先輩っ!)

(ただ、ドローン同士がぶつからないように、生徒にぶつからないようにドローンを操作しているんじゃない。常に堀北先輩に合わせた動きで、なんて。

 ───今の堀北先輩は、実質的な、二十丁拳銃)

 

 ドローン十九機の自動小銃は、『神の領域』へと至った占藤メメの操作、照準により、堀北学の矛であると同時に、その本体で弾丸を防ぐ盾にもなっている。

 故に、今の堀北学に、対応できない距離は無い。

 文字通りの、全距離対応(オールレンジ)攻撃。

 

 だからこそ、浅野学秀は、既にライフルを構えている。

 

『とりあえず一機突っ込ませる。そしたら後は頼んだよシュウっ!』

「勿論ですっ!」

 

 堀北学に突っ込んでいったドローンが、盾を構えた堀北学に、激突する寸前で。

 浅野学秀の、撃墜ペイント弾狙撃が命中。

 ドローンが激しく爆発して。

 その爆風に巻き込まれて、堀北学の近くで旋回していたドローンのうち、四機が爆風で煽られて撃墜された。

 盾を手放しながら、爆風と同じ方向に受け身をとって、ダメージを抑えようとした堀北学の回避先には。

 

『予想通りです。カルマくんっ!』

「分かってるっ、よ!」

 

 赤羽業が回り込んで、蹴り込んだ。

 防ぎながら反撃して、僅かにカルマの体勢を崩して、殺そうとして。

 その瞬間に飛び込んで来ている桃井緋音に、妨害された。

 

『──緋音ちゃん』

「うん!分かってる!」

 

 桃井の突きを、空いた左手で掴み止めた。

 握力のみで木刀を握り潰して。

 

(────ここ!)

 

 桃井は、必殺の毒ガススプレーを吹き掛けた。

 勝つためならなんでも使う。あの一週間で、綾小路清隆に教えられたことで。

 

 桃井が毒を使ってくることも、堀北学は読んでいたので、その一瞬だけ息を止めて凌ぎきった。

 そして次の瞬間、返(・)し(・)の(・)ガ(・)ス(・)ス(・)プ(・)レ(・)ー(・)が(・)、桃(・)井(・)を(・)飲(・)み(・)込(・)ん(・)だ(・)。

 

「────がっ」

 

 狙撃しようとスコープを覗き込んでいた浅野も。

 体勢を整えて、突っ込もうとしていた赤羽も。

 緋音との連係で、削ろうとしていた綾小路も。

 心の底から驚愕して、一瞬でも止まった。

 

「一ヶ月あったからな。勉強して作っておいた」

 

 堀北学はこの一ヶ月で、毒ガスを作れるようになっていた。

 堀北学はすぐさま、毒で倒れている桃井を撃ち抜こうとして。

 

「───桃井さん!」

 

 自身の身体を盾にした和泉に庇われた。

 

 三年Aクラス。10クラスポイント追加。

 3,882クラスポイント。

 

 毒で震える脚でなお、なんとか走り出して、堀北学から逃げようとして。

 いつの間にか正面に回り込んでいるドローンに、撃ち殺されそうになって。

 

(───ちく、しょう。こんな、とこで………)

 

 瞬間、ドローンにワイヤーアンカーが撃ち込まれ、振り回され撃墜された。

 

「無事か。緋音」

「うん。助かった」

「毒の影響は?」

「………多分、今の状態だと、リミッター解除もゾーンも無理」

 

 こちら側の最高戦力の一角が、この一手で、殆ど完全に潰された。

 綾小路清隆の視線は、ついでのようにセミオートの精密射撃で六人を撃ち殺した堀北学。

 リミッター解除による超高速移動のついでに、八人を殺した潮田渚が、堀北学を殺そうと背後から襲いかかるところだった。

 

 三年Aクラス。60クラスポイント追加。

 現在3,942クラスポイント。

 

 一年Dクラス。80クラスポイント追加。

 現在1,605クラスポイント。

 

 虹色の奔流が、堀北学を飲み込む。

 

(───白銀を殺した殺し技か。

 なるほど、確かにこれならば、反応など不可能だな)

 

 だからこそ、堀北学は、敢えて。

 隙を作った。

 アサルトライフルの残弾管理をわざと間違えて、弾切れで引き金を数回引いて見せて。

 

(───誘われてる。本当だったら、リスクを承知してでも突っ込む場面。僕がやられるにしろやられないにしろ、隙を増やせるから)

 

 そうして増えた隙をついて、カルマか綾小路くんか浅野くんが決める。

 だが───。

 その程度で勝てるとは、思えない。

 

「…………隆二」

『分かった』

 

 神崎隆二の狙撃が、堀北学の側頭部を撃ち抜こうとして。

 咄嗟に、堀北学は、大きく仰け反って躱した。

 

(───狙撃。………成程。神崎隆二。そこまで出来るとはな)

 

 この一瞬。

 この刹那。

 絶対に、逃さない。

 

「姫野さん!」

「オッケ!」

 

 姫野ユキが狙撃と同時に投げ込んでいた、閃光音響弾(スタングレネード)。

 対閃光システムを起動して、ゴーグルを電子サングラス状態にしていた潮田渚は、閃光の中を突き進んで、堀北学の懐に飛び込んだ。

 毒ガス攻撃にも備えて、息を止めながら。

 閃光で目をやられかけてもなお、堀北学はそれに反応した。

 数多の感情が凝縮されて、虹色に輝いているナイフを、手首を弾いて防ごうとして。

 潮田渚は、そのナイフを、空(・)中(・)に(・)置(・)く(・)よ(・)う(・)に(・)捨(・)て(・)た(・)。

 

(─)

 

 本当に、僅かに、堀北学の思考が、停止する。

 その、一瞬未満で刹那未満の隙を。

 微細な波(・)長(・)の(・)乱(・)れ(・)を(・)つ(・)い(・)て(・)。

 潮田渚のクラップスタナーが、直撃する。

 

「───っ、っっっっ」

 

 反射で舌を噛んでダウンを防ごうとして。

 潮田渚のクラップスタナーで、乱(・)れ(・)た(・)波(・)長(・)を(・)つ(・)い(・)て(・)。

 潮田渚の影に隠れて飛び込んでいた櫛田桔梗の、クラップスタナーが、再び直撃する。

 

「──っ、っ!ぐっ」

 

 それでも、なお。

 どこまでも純粋な意志の力だけで、堀北学は、堪えようとして。

 いつの間にか、飛び込んでいた南(・)雲(・)雅(・)の(・)ク(・)ラ(・)ッ(・)プ(・)ス(・)タ(・)ナ(・)ー(・)が、直撃する。

 南雲雅のクラップスタナーは、未だ未熟。

 成功率は四割程度。

 だが、この瞬間。

 潮田渚と櫛田桔梗のクラップスタナーで、ひたすらに波長を乱せた瞬間ならば、容易く突ける。

 堀北学は、膝をついた。

 そうして、渚が二本目のナイフを抜いて、とどめを刺そうとして。

 ドローン達の射撃を躱すために、三人とも飛び退いた。

 『神の領域』へと踏み込んだ占藤メメによる、堀北学を守る為のドローン配置。

 あらゆる動きを完璧に予測しているからこそ、一瞬意識を失っている堀北学を殺そうとした生徒は、逆に撃ち殺される、絶殺のキルゾーン。

 もし、堀北学の意識が戻って仕舞えば、その瞬間に、完全敗北は確定する。

 一度喰らったクラップスタナーを、二度も三度も喰らうような、甘い人間では無いのだから。

 だからこそ、この瞬間に殺したい、が。

 それでも、ドローン防御陣を突破するのは、本来不可能なのだ。

 だって、『神の領域』へと踏み込んだ占藤メメの防御陣を掻い潜れるとしたら、同じく、『神の領域』へと踏み込んだ生徒しかいない。

 他の生徒からの銃撃も瞬時に躱せるように、ゾーン状態は維持しなければならない。

 最高速で堀北学に辿り着く為に、リミッター解除も維持しなければならない。

 結論。占藤メメの作ったドローン防御陣を踏み越えるには、堀北学と同じように、三種を併用するしかない。

 だから、綾小路清隆は、踏み込んだ。

 

(───感覚で、分かる。

 オレが、三種を併用出来るのは、十秒が限界。

 ………学義兄さんの懐に飛び込むには、二十一秒かかる。

 つまり、十一秒、足りなくて)

 

 だからこそ、最初の十一秒、完全に予測されているドローン射撃を躱さなければならない、が。

 文字通り、全方位から放たれたそれを。

 併走している桃井緋音が、悉く切り落とした。

 

(───毒を喰らってもなお、この動き)

『磨きが掛かってるわね!緋音!』

「この一ヶ月、強く、なれたからっ!」

 

 元部長と部員は、薄らと笑いながら、お互いの目標に向かって、戦い続ける。

 堀北学を守る為。

 綾小路清隆を、届ける為。

 だが、桃井緋音は、途中で崩れ落ちる。

 毒が回っているのだから、当然だった。

 

 堀北学まで、残り、十六秒。

 

 ドローンからの射撃が、より苛烈になる、寸前で。

 坂柳有栖が突っ込ませたドローンが。

 九重九十九のドローンが。

 浅野学秀の狙撃が。

 盾となり、綾小路清隆の道を、さらに切り拓く。

 

『──勝て!』

『勝ってください!』

「進め、清(・)隆(・)!」

 

 最初の友達(浅野学秀)の声を背に受けて。

 綾小路清隆は、笑いながら、突き進んでいく。

 

 堀北学まで、十三秒。

 

 再びの、包囲射撃。先程よりも、苛烈さは増して。

 今度は、盾を片手に飛び込んできた赤羽業が。

 ワイヤーアンカーで、一機を引き摺り落とした雪村あかりが。

 直撃寸前の弾丸を、ナイフを盾に防いだ潮田渚が。

 綾小路清隆の道を、更に切り拓いた。

 

「行けよっ清(・)隆(・)っ!」

「行って!」

「超えて!」

 

 嘗ての最高の友達(クラスメイト)たちに、背を押されて。

 綾小路清隆は、笑いながら、走り続ける。

 

 堀北学まで、残り、十一秒。

 

 最後の包囲射撃。苛烈さで精密で隙もなくて。

 飛び込んできた櫛田桔梗が、その身体を身代わりにして、防ぎ切った。

 

 三年Aクラス。10クラスポイント追加。

 現在3,952クラスポイント。

 

「頑張れ。清隆」

「…………あぁ」

 

 最愛の人の言葉に、背を押されて。

 綾小路清隆は、また、踏み込んでいく。

 

 堀北学まで、あと十秒。

 

 全ての準備は、整った。

 一時的に、味覚と嗅覚を、切り捨てる。

 占藤メメの全てを予測して、僅かに身体を揺らしながら、走り出す。

 精密射撃は、綾小路清隆に届かない。

 咄嗟に投下した手榴弾も、いとも容易く排除される。

 占藤メメの防御網は、この瞬間、完全に攻略された。

 

 堀北学まで、0秒。

 

 意識を取り戻した堀北学が、咄嗟にナイフを振るうよりも、一瞬だけ速く。

 綾小路清隆のナイフが、その首を切った。

 

 一年Bクラス。10クラスポイント追加。

 現在1,457クラスポイント。

 

 綾小路清隆一人では、勝てなかった。

 

「…………よく、頑張ったな。清隆」

「…………義兄さんこそ」

 

 最後に、後輩達に超えられて。

 堀北学の三年間は、幕を下ろした。

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