殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 思ったよりも長くなった。


秀才たちとストーカー事件(前編)

 

 ショッピングモール近くの広場。

 そこで単語帳を開きながら、幸村輝彦は人を待っていた。

 眼鏡を直しながら回想する。

 自室にいたところ、深夜といっても過言ではない時間に、綾小路から電話がかかってきた。

 深夜と言っても、幸村はその時間まで勉強していたので、別に寝ていたわけではない。

 

『こんな夜更けにどうした、綾小路』

『……あぁ。寝れそうにないんで、無駄話ついでに、情報共有をな』

『……はぁ?』

『佐倉について、必要だろう情報を入手したんだ』

『……なるほど。その情報()()教えてくれ』

『……情報、()()、か?』

『……………少しなら、無駄話にも付き合ってやる』

『感謝する』

 

 その後二時間は付き合わされた。綾小路許すまじ。

 ただ、共有された情報は、確かに有効ではあった。

 

(……まさか佐倉が名の知れたアイドルだったとはな。今回の件、ファンの暴走と考えた方が自然だな)

 

 その前提があるのと無いのとでは、犯人の絞り込みに、大きな違いが出るだろう。

 さて、後はこの情報、どこまで共有しておくべきか。

 

(付き添いの先輩方の一人ぐらいには、話しておくべきか?長谷部には話さない方がいいだろうな)

 

 良くも悪くも、長谷部は感情的な人間だ。あまり暴れられても困る。

 ならば、情報は絞って、暴れることを少なくすることだな。

 

「やっほー幸村っち!待ったー?」

「……少しはな」

「うわーその返しはモテないよー?ここは、今来たとこだしって返しとくものだからね?」

「……はぁ。別にモテたいわけじゃない」

「………ゆ、幸村くん。きょ、今日はありがとうございます」

 

 佐倉愛里にとって幸村輝彦は、勉強会で勉強を見てくれた講師の一人だ。彼が勉強ができること、優しいことをよく知っているので、警戒の必要性が薄いこともわかっているが、それでもどうしようもないところはある。

 こういうところは、最早生来の気質である。

 

 三人で談笑しながら(長谷部が頑張った)数分ほど待っていると、全体的に小さい年上とは思えない女生徒と、思ったよりも上背のある女生徒が来た。

 おそらく、テーブルゲーム部の先輩たちだろう。

 

「すまないわね。少し待たせたかしら?」

「いえ、それほどは」

「おっ、早速勉強してんじゃーん」

「はぁ。実際そこまで待っていないだろう?」

「………何というか、あれじゃな!漫画見た感じの二人じゃな!頭脳派男子と直感系女子!これは滾るのう!」

「滾らない落ち着きなさい。後輩がびっくりしちゃうでしょ」

 

 特徴的な口調の女子を嗜めて、低身長の女子は、あらためて三人に向き直った。

 

「私は卜部藤乃。2年Bクラスよ」

「妾は桃井緋音。2年Cクラスじゃ」

「1年Dクラスの幸村輝彦です」

「同じく!長谷部波瑠加です!」

「……お、同じく、佐倉、愛里、です」

「そう。幸村に長谷部に佐倉、ね。聞いていた名前通りのようね」

「それで、佐倉殿は今日はどうするんじゃ?妾たちは付き添ってくれとしか言われておらぬが」

「……は、はい。………えっ……と……。」

 

 モタモタしながら、佐倉は鞄からカメラを取り出した。だが、レンズのあたりにヒビが入っており、とても写真が撮れそうではなかった。

 

「なるほど。これを買い替えたいのか?それとも修理か?」

「……あっ、その……修理、です………」

「そうなると、あのカメラショップになるね。この学校にカメラショップは一つしかないし」

「学校にカメラショップがある方が珍しい気がするがな」

「ま、ここは学校で都市と言っても過言ではないからのう。カメラショップぐらいはあるじゃろう」

「………都市というより、檻じゃないかしら?」

 

 藤乃のそんな言葉に、幸村たちは固まった。

 それは、確かに。この学校の異常性を、示しているように思われた。

 

「……これ藤乃。後輩たちを怖がらすでない」

「………そうね。訂正はしないけれど」

 

 ()()()()()()使()()()()()()()()()()幸村はそう思い付き、話し出す。

 

「………卜部先輩の言うように、この学校は、学校というより社会の縮図のような気がします」

「……何故そう考えるのかしら、幸村」

 

 頭の中で、話す内容を整理しながら、幸村は語る。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「社会において、失敗、或いは敗北がそのまま人生の終着点となる機会は、確かにあるでしょう。この学校は、その構造をそのまま再現しているように思います。……まぁ、学校でやるべきことではないでしょうが」

 

 幸村の、ある意味現実的なその言葉に、卜部は頷いた。

 

「……そうね。社会の構図を経験した生徒が社会に出たのなら、そのまま活躍できるでしょう。けれど、それは学校でやるべきことではないわね。………まぁ、選んだ時点で、こんなの言い訳でしかないけれど」

 

 後悔を滲ませる卜部に、三人は思わず押し黙り、緋音はこの雰囲気を何とかしようとした。

 ()()()()()()()()()

 

「とりあえず!カメラショップに向かうとしよう!さぁ、妾に着いてくるのじゃ!」

「お、おーーーー‼︎‼︎」

「……お、おーーー」

 

 無理矢理盛り上げようとする長谷部と、律儀に付き合う佐倉のおかげで、一瞬場を満たしかけた悪い雰囲気は消し飛んだ。

 ノリノリで進む緋音に付き合うように、長谷部と佐倉はその後をついていった。

 少し遅れて、卜部と幸村。丁度いいタイミングなように思った幸村は、情報の共有をしようとして。

 

「何か()()話したいことでもあるのかしら、幸村」

 

 先回りするような卜部の言葉に、一瞬幸村は固まった。

 

「………気付いていましたか」

「まぁね。敢えて場の空気を悪くして、私と二人きりになる時間を作るつもりだったんでしょ?」

「……えぇ。桃井先輩は、場の空気を保とうとする人だと思いました。積極的に佐倉に話しかけたり、話の進行を進めようとしたり。

 そんな人なら、場の空気が悪くなったとき、そういう空気を直すために、積極的に動くハズだと予想しました。

 長谷部は、楽しい空気感を大事にするやつです。そんな長谷部なら、桃井先輩の動きに乗るでしょう。佐倉も、まず間違いなく長谷部の動きに追従する。

 そうなれば、怪しまれず、自然に、卜部先輩と二人きりになれるだろう、と」

「……ふん。悪くないわね。人の動きを上手く操っている」

 

 ……恐らく、卜部の言葉は、思わず溢れてしまった言葉でしかなかったのだろうが。しかし、十分なきっかけではあった。ただ、櫛田ならば、場の空気を一度崩す必要もなく、自然と二人きりにできるだろうが。

 幸村は、そういうことが得意ではないので。

 

「先輩も、分かっていて乗ったでしょう?」

「まぁね。あんな風に、わざわざ私の発言に乗る理由なんてない。貴方は、そういう無駄を嫌う人でしょう?」

「……えぇ。まぁ」

 

 幸村輝彦という人間は、基本的に理屈で動いている。

 こうなっているのだからこうなるハズだ、というように、世界や人を数学に当てはめているような考え方をしている。だからこそ、理屈に合わないものを嫌う。

 しかし、1年Dクラスで、綾小路清隆を筆頭とした、Dクラス首脳陣の方針を、間近で見ていくことで、理屈に合わない、けれど必要なことも確かにあるのだと理解した。

 中間テストの過去問も、そんなものがあるとわかった時点ですぐさま公開するのが理屈では正しい。だが、首脳陣はすぐさま公開することもなく、そもそも公開することもなかった。

 結果として、赤点は一人も出なかったし、それまで真面目に勉強もしてこなかったクラスメイトが、自発的に勉強するようになった。

 ……まず間違いなく、過去問を公開するよりも良い結果で終わっているだろう。

 あの一件は、幸村の考えを変える大きなきっかけとなった。

 

「それで、何を私に話しておきたいのかしら」

「佐倉についてです。先輩ならば、他の人に話すこともないでしょう」

 

 そして、幸村は端的に説明する。

 佐倉がアイドルであったこと。今回のストーカーが、ファンの暴走である可能性を。

 

「………なるほどね。一見すると、あの子は確かに地味だし、人と関わるのが得意なタイプでも無い以上、ストーカーが彼女を間近で観察する機会は、少ないでしょうし」

「えぇ。佐倉に特別な仲の男子がいたことはなかったことも把握してます。そもそもまだ一ヶ月半程ですし、早々恋仲になるのは珍しいでしょう」

 

 例外の一つである平田と軽井沢は、何というか、好き合っているからよりも、お互いに都合が良かったからのように思う。

 かなり極端な例ではあるが、櫛田や堀北のように積極的に関わりにはいかないのだ、軽井沢は。

 まぁ、彼女等は特別な例であるにしても、好きな異性に向ける感情とは、ある種の強さがあるように思う。しかし、軽井沢の感情は、あまりにも弱いのだ。

 だからこそ、幸村としては、お互いに利益となるからこそ、便宜上付き合っている関係なのでは、と予想している。………あまり人に話すことでは無いので、内に秘めているだけだが。

 

「───わざわざカメラショップに付き合って欲しいってことは、そこの店員の可能性が高そうね」

「同意です。卜部先輩。もしくは、他の生徒に日常から付き纏われているから、という可能性もありますが、綾小路と堀北が、一昨日から今日の朝まで佐倉と一緒にいたそうですが、怪しい視線は感じなかったらしいので、その可能性は低いかと」

 

 綾小路としては、当日付き添えないことへの詫びのため。堀北としては、相談を受けておきながら、積極的に解決のために動けないことへの贖罪として。二人は一昨日から今日の朝。つまり水木金曜日の間、佐倉と共に学校生活を過ごしていた。その中で、佐倉に向けられた視線は少なく、怪しさも無かった、らしい。

 詳しくは知らないが、二人とも、いや、櫛田も含めた三人はそう言った視線に敏感だ。そんな彼らが感じなかったのなら、生徒にストーカーがいるという可能性は、一旦排除して良いだろう。

 となると残る可能性は───。

 

「生徒以外の誰か。教職員か、施設の従業員」

「教職員の可能性は、生徒と同じく校内の人間であることから除外。残ったのは、施設の従業員、というわけね」

 

 そんなふうに、二人で佐倉のストーカーを絞り込んでいく。

 前を歩く佐倉も長谷部も、桃井が注意を引いている。二人きりで会話している幸村と卜部に、視線を向けることはない。

 やがて五人は、カメラショップに到着した。

 

「いらっしゃいませ。本日のご用件は?」

「うむ。この子のカメラが壊れてしまったようでな。修理を頼みたいのじゃが」

「…………わかりました。カメラを見せて下さい」

「佐倉殿。カメラを貸してくれぬか?」

「……は、はい。お願いします」

 

 自然な形で桃井が間に入り、佐倉と店員の橋渡しをしている。桃井は気遣いのできる人間なので、佐倉が人見知りなのを考慮して、代わりに話しているだけだろうが、結果的にはファインプレーだろう。

 長谷部は、あたりのカメラを見て回っていた。

 まぁ、桃井が既にいるのに態々補助に入る必要は無いし、店員がストーカーの可能性も知らないので、店を見てまわりつつ、着いてきた奴がいないかを確認しているのだろうな。

 

「見てゆきむー!これ監視カメラじゃない⁉︎」

 

 ……………案外。興味があっただけかもしれない。

 

「というかゆきむーは俺のことか?」

「?うん。ダメだった?」

「…………好きに呼べ」

 

 ダメと言っても辞めそうには無いので、さっさと諦めるに限る。

 と、どうやら、桃井たちの方に動きがあったようだ。

 

「パーツの入荷を待つ必要があるので、このカメラはこちらで預かります。入荷次第すぐに修理を完了させて、()()()()()()()()()()。というのはどうでしょう?」

「おおっ!それは良い!佐倉殿。どうする?」

「……あっ、ええっと、その」

「こちら、書類になります。ここに住所の記載と契約の署名をお願いします」

「……あ、の」

 

 店員が怪しいなんて考えもしていないのだから、こういう動きになるのも普通だろう。

 事前の知識なしで、この店員が怪しいということに気付ける人間は、少ないだろう。綾小路、堀北、櫛田の誰かなら、問題なく見破れそうだが。

 

「なら、俺が変わりに受け取ろう。それで良いか?」

「は、はい!お願い、します………!」

 

 店員と桃井の間に、幸村は入り込んできた。住所の欄に自身の部屋を埋めていく。

 そのまま契約の欄も埋めようとしたところ。

 

「………しかし、カメラを受け取るのは、本人でないと」

「本人がそれで良いと言っているのよ。何か問題があるのかしら」

 

 なおも食い下がる店員に、卜部は正論をぶつけていく。

 

「………万が一、盗まれたりしたら、大事になるので」

「………?目の前で代わりに受け取ると言っておるのじゃぞ?盗むも何もないであろう」

「…………そう、ですね」

 

 苦し紛れの言い訳も、あっさりと桃井が断ち切った。

 

「………!ねぇねぇ佐倉さん!そろそろ()()()()()だし、急がない?」

「…………?……!は、はい!そ、そうですね!お店にも、悪いですし………」

 

 異変に気付いたのだろう長谷部の機転に従い、この場を離れることにした。店を出る際、幸村は軽く牽制する。

 

「そういうことなので、俺の部屋まで頼みます。安心して下さい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………………はい。そういうことでしたら」

 

 苦々しい顔で、幸村を睨み付ける店員を無視して、一行はその店を去った。

 

 

 

 

 ある程度店から離れたところで、長谷部は佐倉をベンチに誘導した。桃井と幸村は、自然に壁になって、佐倉を隠している。

 右隣に座った卜部が、佐倉に話しかけた。

 

「大丈夫かしら。お水の用意があるの。飲むかしら?」

「……は、はい。いただき、ます」

 

 一口水を飲んで、佐倉は深く息を吐き出し、脱力した。

 

「………ねぇ、佐倉さん。あの店員、いつからあんな感じなの?」

 

 左隣の長谷部が、佐倉にそう聞いてきた。

 あの店員への怯えようからして、過去にも何度か、同じような目にあっているのだろうと考えたのだろう。

 

「…………はじめは、オススメのカメラを紹介してくれて。良い人だと、思ったんです」

 

 佐倉は、憔悴した様子で語り出した。

 

「…………わたし。人見知りで、弱気で。……話しかけられて、ビックリしちゃったんですけど、詳しく説明してくれたり、初回特典とかで、割引してくれたりして」

 

 話しながらも、左手が震え始める。

 

「………でも、暫くお店に通っていたら、途中から、何だか、変、で」

 

 自分を抱きしめるように二の腕をさすりながら、あの店員の異常さを訴える。

 

「………本当に、ずっと、一瞬たりとも視線を逸らさずわたしを見ていて、その、お会計の時、とかも、やけに配達をお勧めしてきて。

 今日、幸村くんが書いてくれたあの紙も、もう何度も見てるんです………。

 ………勘違い、なのかな、とか思ってたんです、けど」

 

 一度、書いてしまったことがあるのだとか。そのときは、郵送で届けてくれるだけだったので、直接来たりはしなかったが。

 それ以来。隠し撮りされた写真と、手紙が届くようになったらしい。

 

「……い、『いつも見ているよ』とか。………『今日も目があったね』、とか………そんな、内容ばっかりで」

 

 幸村も、桃井も、卜部も、長谷部も。

 想像を遥かに上回る深刻なストーカー行為に、青くなる。

 

「………………あ、挙げ句の、果てに………か、隠し、カメラ、で、ス、スカートの、中を、と、盗───」

「もう良いよ。佐倉さん」

 

 そう言って、長谷部は佐倉を抱きしめた。

 頭を撫でながら、優しく、諭すように。

 

「大丈夫。私たちが、ちゃんと守るから。…………勇気を出して、話してくれてありがとう」

 

 佐倉は肩を震わせ始めた。

 

「………ゆ、勇気、……なんて。………、私が、ちゃんと、嫌だって、言えて、たら」

「そんなことないわ」

 

 自分を卑下しようとする佐倉を、卜部は否定した。

 

「貴女は立派よ。だって、ちゃんと助けを求められたもの」

「………そ、そんなの………じ、自分じゃ、どうにもできなかった、だけで……」

「……いいえ。それで良いのよ。人間、一人じゃどうにもできないことなんて、いくらでもあるもの」

「うむ。適材適所というやつじゃ。この手の悪者は、妾たち風紀委員に任せておけ!」

「……………この学校に風紀委員なんてないでしょう」

 

 真面目なのかふざけているのか分からない桃井に、幸村は冷静につっこんだ。お陰で、少しばかり、空気が軽くなった気がする。

 

「………今回の件、教職員に話せば動いてくれるわ。証拠の手紙もあるでしょう?」

「………はい……でも」

「……うん。大事には、したくないんだね」

「………しかし、そうなるとカメラに関連したものを買いに行くときは、どうするのじゃ?あそこぐらいしか選択肢はないのじゃぞ」

「俺か綾小路、堀北か櫛田、それか桃井先輩、卜部先輩、それから長谷部に頼めば良い。いくらでも付き合ってくれるだろう」

「郵送のものが必要なときはどうするのじゃ?」

「女子の部屋を知らせるわけにもいかないでしょう。俺の住所で。奴が手紙と写真以上を送ってこないということは、さすがに乗り込むことはリスクがあると判断しているということ。

 あの契約書にサインさえしなければ、大丈夫だと思います」

「けれどそれだと、あなたが危険なんじゃないの」

「…‥、それならそれで、傷害で引っ張れるでしょうし」

「………ちょっと。それは笑えないよゆきむー」

「……は、い。わたし、も、それは嫌です」

「……分かったよ。夜道には気をつけるし、直接受け取ることもしない。それで良いか?」

 

 せめてもの安全策を取る幸村。

 他の四人は、一応の納得を見せた。

 

「佐倉さん。連絡先を交換しておきましょう。もし、何か動きがあったなら、すぐに教えてちょうだい」

「うむ。妾とも交換しておいて欲しいのじゃ」

「は、はい!」

「これで今日終わり〜〜、なんて、なんか寂しいからさ。みんなで少し遊ばない?」

「!うむ!賛成じゃ!」

「えぇ。そうしましょう」

「まぁ、多少は付き合うさ」

「…‥はい!その、お店、とか、見て回りましょう!」

 

 それから、五人はショッピングモール中を、遊び回った。

 

 雑貨店によると、そこにはウサギのような長い耳のカチューシャがあった。

 

「わっ、なにこのウサ耳カチューシャ、可愛い〜〜〜」

「………は、はい。何というか、長谷部さんとか、桃井先輩に似合いそうな気がします」

「?いや、こういうのは藤乃の方が似合うじゃろう?ちっこいし」

 

 カチューシャをつけてようやく、藤乃の身長は緋音に並ぶ。その、耳の長さは、だいたい15センチなので。

 

(まぁ、それぐらいの差は、あるよな)

 

 ………はたから見ると、小学校高学年か、中学一年生ぐらいなので。

 

「…………………今、猛烈に失礼なことを考えていないかしら?三人とも」

「いえ全然!」

「……は、はい。ま、全くそんなことは」

「気のせいでしょう」

「痛いのじゃ痛いのじゃ痛いのじゃ!頭が、頭が潰れるぅぅ」

 

 藤乃のアイアンクローを喰らう緋音から、三人はそっと目を逸らした。

 罰として、緋音は藤乃の好物を買いに行かされた。全速力で走り去る緋音を見て、三人の内心は一致した。

 

(桃井先輩速いな)

(桃井先輩速い)

(速いな。学年、いや学校でもトップクラスじゃないか?)

 

 その後、女性服専門店では。

 

「じゃーん!どうゆきむー?」

「あぁ、似合ってるぞ」

「ど、どうでしょうか、幸村くん」

「あぁ、似合ってるぞ」

「うーむ。妾に可愛い系はあまり合わないような気もするが、どうじゃ幸村」

「いえ、似合ってますよ」

「………つまらないわね幸村。もう少し褒め言葉のバリエーションを増やしなさい」

「………俺にそういうのは期待しないでください」

 

 その後、気に入った服を何着か買う女性陣。

 荷物は幸村が持った。一応、男子なので。………多分、桃井の方が強いが。

 

 その後も、色々なお店を見て回った。カフェで女性陣がそれぞれの注文を食べさせ(あーんしたり)あったり。(桃井と長谷部は、幸村にも食べさせた)

 四人の手で、幸村をコーディネートしたり。(服のセンスは、佐倉が一番良かった)

 カラオケで歌い合ったり。(藤乃が一番上手かった)

 夜遅くまで、五人で遊び回っていた。

 

 夜も遅いし、周りも暗いので。女子寮の前まで、幸村は佐倉たちを送って行った。

 

「んじゃゆきむー。また月曜日に!」

「……、あぁ。またな」

 

 楽しそうに笑いながら手を振る長谷部を見送る。

 

「ふっふっふ。今度テーブルゲーム部に遊びに来ると良いぞ。楽しいゲームになりそうじゃ」

「えぇ。時間があったら顔を出します」

「………まぁ、時間があったら、将棋でも」

「……そうですね。卜部先輩との将棋は、楽しそうです」

 

 ワクワクしている桃井と、期待を滲ませる卜部は、そう言って連れ立って帰って行った。

 

「…………きょ、今日は、ありがとう、ございました。その、えっと、とても、助かりました」

「いや、礼には及ばん。当然のことをしたまでだ」

「………それ、でも、です。ありがとう、ございました」

「…………あぁ。また何かあったら、すぐに知らせてくれ。すぐに行く」

「………はい………!」

 

 何度も頭を下げた佐倉は、幸村がその場を離れるまで残るつもりのようだったので、先に部屋に帰ることにした。

 自分の部屋で、佐倉は、連絡先と、一枚の写真を見ていた。

 雑貨店で買ったコルクボードを下げ、そこに写真を貼り付ける。

 

「えへへっ」

 

 嬉しそうに、幸せそうに笑った佐倉は、写真を、流石にプライバシーの観点から、四人の顔は隠して。

 個人ブログに載せることにした。

 

『今日は友達たちと一緒に一日中遊び回りました!とっても楽しかったです!』

 

 そんなブログを見て、殆どのファンは楽しそうで良かったですね、といったコメントを残す。

 疲れていたので、佐倉は細かくコメントを見ずに、寝ることにした。

 

 更新されていくコメントの中に、一つ。

 

『あの男は誰?雫ちゃんの何?浮気はダメだよ。僕がいるのに。絶対に許さない』

 

 そんなコメントがあったことも、佐倉は知らなかった。

 その日の夜。

 幸村は報告を兼ねて、綾小路と通話していた。

 

『なるほど。その店員が、推定雫のファンだと』

「あぁ。最初からそういう感じだったらしいからな。一目惚れかファンのどちらかだろう。………あの状態の佐倉を雫だと判断するとは、相当熱心なファンだったようだな」

『……いや、現在雫は雑誌に関連した仕事はしていないが、個人ブログに自撮り写真を投稿していたりはするらしい。その背景から、職場と現在通っている高校が同じことまでは、把握していたと考えていい』

「………なるほど。嫌なピースの埋まり方だな。……いずれにせよ、佐倉は大ごとにはしたくないらしい。どうにか穏便に済ませたいんだが」

『……あぁ。やりようはいくらでもあるだろうな』

「……あまり暴力的なのはダメだぞ」

『そんなことしないが』

 

 二人の話し合いは二時間半は続いた。

 ………多分、お互いにとって歴代最長な気がする。なんか無駄話が多くなってしまったような。

 

 

 翌週の火曜日、佐倉の元に再び写真と手紙が届いた。

 その写真見て、佐倉は絶句し、そして決意した。

 

(……、わたしが、何とかしなくちゃ……!)

 

 勇気があると、長谷部と卜部は言ってくれた。

 なら、それを、証明するときだ。

 

 





 後編はなる早であげますね。
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