殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 割と楽しく書けた。


秀才たちとストーカー事件(後編)

 

 その日の佐倉は、何かがおかしかったと、幸村は思っていた。

 何だか、思い詰めているような、責任感に押し潰されそうな、そんな気配。

 ただ、本人が何でも無いと言うので、それ以上踏み込めなかった。

 

「佐倉さん、大丈夫?体調悪く無い?」

「……は、はい。大丈夫、です。心配しないでください」

「そ、う?なら、良いんだけど」

 

 長谷部のことも、どこか、避けているような。

 

「………なぁ、清隆。佐倉、少し変じゃないか?」

「……どの辺りにそう感じたんだ?」

「何となく……いや。()()()()()()なんて、普段の佐倉なら言わないはずだ」 

「………確かに、らしく無いな」

 

 何かがあったのだろうことは分かるが、それが何かまではわからなかった。

 ただ、幸村は、虫の知らせと言うべきか、何と言うか。嫌な予感を、ずっと感じていた。

 

 その日の放課後。

 初夏なので、日もまだ高い。日光が入り込む教室で、長谷部が慌てた様子で、一人で辺りを見渡していた。最近は、ずっと佐倉と一緒だったので、珍しい光景だ。

 まるで、誰かを、探しているような。

 

「────長谷部、どうかしたのか」

「!ゆきむー!佐倉さん見なかった⁉︎」

 

 今日、常に感じてきた虫の知らせが、現実のものになった。

 

「見ていない」

「そ、そんな………。さ、佐倉さん、電話しても出なくって……!」

 

 幸村も電話をかけてみたが、電源が切れているか、あるいは、切っているのか。連絡は一切つかない。

 少なくとも、2週間は一人にならない。そう、佐倉と約束したはずなのに。ここ数日は、佐倉のそばには、長谷部か幸村、二人が無理なら堀北か櫛田、あるいは綾小路が控えていた。佐倉の、安全の為に。

 佐倉は、約束を破ったりはしない。なら、その行動に出たのは、何らかの理由が、あるはず……。いや、そこを考えるのは後回しだ。

 

「──長谷部、先輩方に連絡してくれ。清隆!手を貸せ!」

「う、うん!」

「おう。とりあえず鈴音と桔梗には連絡した。あと、池たちにもな」

「助かる。人手は多いほど良い」

 

 そうして、幸村と綾小路は駆け出した。だが、校内の敷地は広大。幸村、綾小路、堀北、櫛田、長谷部。テーブルゲーム部の桃井、卜部と、残り四人の先輩たち。池、須藤、山内。合わせて十三人で、探し出せるのか……?

 

(いや、まだ放課後になってそこまで時間は経っていない。なら、まだそんなに遠くには行っていないはず………)

 

 しかし、学校の周辺には居なかった。

 ならば、ショッピングモールの近く、か?いや、カメラショップの近くには寄り付かないはず……。

 

「ダメだ。池たちも見つからなかったらしい」

 

 須藤は体育館の近く、池と山内は寮の周辺を、それぞれ探し回ったそうだが、見つからなかったらしい。

 

「……ちっ、分かってはいたが、虱潰しだと時間がかかり過ぎるな」

「ある程度目星はつけておくべきだろう。……ショッピングモール周辺は、一番可能性が低そうだが」

 

 そう、可能性が低いからこそ、テーブルゲーム部の先輩から二人だけが、今見て回っているが。

 他の八人は、校舎の周辺を………。

 ───いや、待て。

 

「そもそも、佐倉は何故一人になった……?」

 

 考えるのを後回しにしたが、そこがハッキリすれば、何か分かるはず………。

 

「自分の安全を考えるのなら、その選択は取らないだろう。佐倉は人一倍臆病だ」

「確かにな。自分の為に一人になったんじゃないのだとしたら」

「────………誰かの、為、か?」

「誰の為だと、お前は考える?」

 

 思考する。思考する。思考する。

 

(佐倉の交友関係を踏まえれば、俺たちの誰かの為。……だ、とすれば。俺たちの誰かを特定するのは、重要じゃない。

 俺たちに、()()()()()()()()()()()()()、と考えたのか?

 そう、だとしたら。佐倉は──)

 

「……一人で、ストーカーと話をつける為に……?」

「あぁ。俺もその可能性が高いと踏んでいる。だとすると……」

 

 場所は、ストーカーが指定している可能性が高い。ならば──。

 

「人目につかない、路地裏か、或いは──!」

「監視カメラのない海沿い、だな」

「そして、ショッピングモール周辺!」

「恐らく、その可能性が一番高い。幸い、その辺りに他のクラスだが友達が何人かいるらしい。今頼んだ」

「助かる。俺たちもすぐに向かうぞ!」

「あぁ。二手に分かれるぞ」

 

 二手に分かれて暫くして。

 あたりに人の目も監視カメラとないことを確認した綾小路は、頼りになる同級生(電子戦最強)を呼ぶ。

 万が一にも、律の存在がバレてはいけないので、最新の注意は払うべきだ。

 

「律、遠隔で佐倉の携帯の電源を入れられるか?」

『電源は入りましたが、位置情報は寮の中ですね。持ち歩いていないと考えるのが妥当かと』

「………徹底しているな」

『佐倉さんのパソコンのデータを拝見しました。該当するメールは確認できません。通話の可能性が高いですね』

「履歴は?」

『……どうやら、ショッピングモール付近。西川広場から徒歩数分の路地裏のようです』

「詳細な位置情報を頼む」

『地図データを送りました。恐らくは、ここかと』

「………俺だと遠いな」

『えぇ。ですが丁度、幸村さんが近くに向かっています。位置情報を送信しますか?』

「頼む」

 

 綾小路からのメッセージが、幸村のスマホに届く。

 確認すると、そこにあるのは位置情報だけ。だが。

 

(───……恐らく、佐倉の位置情報。どうやったかは、今はどうでも良い。丁度俺が近い。すぐに向かうべきだ)

 

 幸村は、全速力で走り出した。急ぐべきだ。このままだと、佐倉が危ない。

 

 

 夕暮れ時の路地裏で。

 生徒も教師も、施設の従業員も顔を出さないような、そんな場所で。佐倉愛里と、ストーカーは向かい合っていた。

 

「来てくれてありがとう!雫ちゃん。やっと、二人きりだね」

「……どの、口、が……!」

 

 今朝ポストに届いたのは、ストーカーの電話番号だけが記された手紙と、写真。

 長谷部と、幸村の、写真。

 幸村の写真は、ご丁寧に、顔をナイフで抉られていた。

 どちらも、一人きりのタイミングで撮られた、隠し撮り。

 少々鈍い佐倉でも、流石に分かる。これは、脅迫だ。

 長谷部を襲うことも、幸村を刺すことも、簡単にできるという、脅迫。

 …………これ以上、みんなを巻き込むわけには、いかない。

 

「………ずっと、迷惑でした……!写真も、手紙も……!もう、良い加減にしてください!これ以上何かするのなら、け、警察に、訴えます!」

 

 これまでに送られてきた写真も手紙も、ご丁寧に纏めて、投げ捨てる。刺激することなんて分かる。……多分、ただじゃすまないだろうことも。それでも、それでも。

 

(勇気を、出さなきゃ……!守られるだけじゃなくて、私も、友達を………!)

 

 投げ捨てられた手紙と写真を見ながら、ストーカーは俯いている。僅かに、肩が震え出す。

 

「ひどい………。ひどいよ、雫ちゃん。……僕たちは、両想いなのに………。僕の想いを、無下にするなんて……」

 

 悍ましい。狂気と、恋慕のような何かが混じり合った、狂気じみた感情。怖い。気持ち悪い。

 だけど。だけど──!

 

「……あなたは、わたし(佐倉愛里)が好きなんじゃない。あなたが好きなのは、画面の向こうの、都合の良いわたし()です。………そもそも、わたしは、あなたが嫌いです」

 

 顔を歪ませながら、歪な笑みと涙を浮かべて、ストーカーは、近付いてくる。

 

「……違う。そんなはずない。……そうだ、あの眼鏡だ。あいつが、君を、雫ちゃんを、誑かしているんだ。……僕が、目を覚まさせてあげる………!あいつから、君を解放してあげる……!助けて、あげる……!」

 

 怖い。涙が、溢れてくる。足が震える。逃げたい。けれど。ここで逃げたら、コイツは、きっと。

 

「わたしは、わたしの意思で、幸村くんたちといます!目なら、ずっと、覚めてます!あなたの助けなんて、いりません!」

 

 肩を掴まれる、体重をかけて、押し倒される。背中を強かに打って、衝撃が走る。痛みが、広がる。

 血走った目と、歪み切った笑み。抵抗する佐倉を、力任せに抑えようとする。

 眼鏡がズレる。涙が溢れる。怖い。痛い。でも、だけど───。

 思い出す。………楽しかった。優しかった。嬉しかった。

 

(───この人は、正気じゃない。きっと、警察に捕まる前に、わたしの周りの人たちを、傷付ける。

 幸村くんも、長谷部さんも、卜部先輩も、桃井先輩も、堀北さんも櫛田さんも綾小路くんだって、何されるか分からない。()()()()()()()()()()()()()

 

 ……人が、苦手で。自分を、表に出すことが、怖かった。

 写真も、モデルも、確かに好きだった。カメラの前にいる時のわたしは、今のわたしよりも、かっこよくて、可愛くて、美しい。

 だから、そのまま、その道を進んだって良かった。でも、だけど。

 

(わたし、は、()()()()()()()

 

 このままが、嫌だと、少しでも、人と話せるようになりたかった。だから、この学校に来た。

 ここに、わたしが知る人も、わたしを知る人も、ほとんどいないから。

 

(みんな、優しかった。変わろうとしたわたしを、受け入れて、くれた)

 

 思い出す。あの時、勇気を出して、自分の意見を出してみた。

 あの時、他の女子たちは、佐倉を認めてくれた。クラスの一員に、なれた気がした。

 助けを求めた時、精一杯頑張って、わたしを助けようとしてくれた。

 

(でも、それだけが、友達じゃない。助けられるだけじゃない。わたし、だって……───!)

 

 ……コッソリと、ポケットに閉まってたものを、握りしめる。

 

 

『幸村さん!急いでください!』

「……っ!はぁ、君、は……⁉︎」

『綾小路さんの友達です!そんなことよりも、速く!』

 

 走りながら、掛かってきた電話に出ると、聞いたことのない女子の声が聞こえた。清隆の友達、らしい。今急いでいるんだが。

 

『佐倉さんの通販履歴の中に、ポケットナイフがありました!届いたのは、今日です!』

 

 幸村の脳裏に、いくつかの単語がよぎる。

 

(ナイフ。ストーカー。『心配しないで』。……まさ、か………。佐倉のやつ……!)

 

 暑苦しくなったので、ジャケットを脱ぎ捨てる。ネクタイを強引に解く。

 

『ルートを指示します!そこを左!』

 

 疑問を挟む余地なんてない。殆ど反射で、幸村はその指示に従った。

 

『次は右!』

 

 入り組んだ道、整備も殆どされていない。

 狭いし、汚れているし、針金も飛び出てる。コンクリートに擦って、擦り傷が増える。針金に引っかかって、細い切り傷が出来る。ワイシャツに引っかかって、一部が切り裂かれる。

 だが、確かに、この道は。

 

(間に、合った……──!)

 

 大幅に、時間を短縮できた結果。

 佐倉を押し倒しているストーカーを、タックルして、引き剥がす。

 清隆の烏間式ブートキャンプで身につけた、巴投げの応用。疾走の勢いを利用して、回転しながら、強引に投げ飛ばす。

 これなら、筋力はそこまで必要ない。

 

「ゆ、幸村くん⁉︎何で……⁉︎」

「……探し回ったに、決まってんだろ……。いいから、逃げるぞ……!」

「……で、でも……!」

「いいから……!」

 

 そこで、ストーカーの金切り声が響く。

 発狂したストーカーは、ジャケットからサバイバルナイフを取り出した。

 

「何だよ……!邪魔すんなよ……!雫ちゃんは、僕のだぞ……!」

「ふざけんな………!()()()()()()()()()()()()

 

 息を吐きながら、幸村は構える。

 思い出せ。思い出せ───!

 

(例のブートキャンプで、ある程度は教わった。()()()()()()()()()()()()───!)

 

 発狂しながら向かってくるストーカーの、ナイフを持つ右手に意識を集中する。

 

『相手が武器を持っていて、自分が持っていない時は、間合いを十分に意識しろ』

 

 ナイフを突き立てようと、右手を突き出してくるので、ナイフの刃に触れないように、内側から、手首を、弾く!

 右手は、大きく外側に開く。当然、握ったナイフも大きくズレる。当然、空振る。

 

『殴る時は、腰を入れろ。肩から先だけじゃない。足、膝、腰、全身の力で、ぶん殴れ』

 

 左足を、強く踏み込む。

 腰を捻り。

 全身の力を、体重を、右手に、込めて。

 遠心力を生かし。

 思いっきり、振り抜く!

 

 ストーカーの左頬を撃ち抜いた幸村の拳は、これまでの練習の中で、一番会心の出来だった。

 

 盛大に吹っ飛んだストーカーは、泣きながら立ち上がった。

 また、ナイフを構えて突っ込んでくる。

 

(………さっきのを、もう一度は、無理)

 

 幸村の体力は、まだそこまで鍛えられていない。技術も当然付け焼き刃。さっきの一撃は、運も良かった。

 

(……俺が、すべきことは)

 

 来る時に電話してきたあの声が、すぐに助けを呼ぶと言っていた。

 ならば。

 

(時間、稼ぎ……!)

 

 今度は、弾くのではなく、上から右手を押さえ込む。

 重心の位置をうまく制御して、真上から体重をかけるようにして、押さえ込む。ストーカーは、両手で押し出そうとする、が。

 

(さっき弾いた感じ、普通の一般男性……!筋力は普通!技術も無い!なら、体重を生かして、押さえ込む……!)

 

 力関係は完全に互角。

 膠着状態が長引くのなら、幸村にとって好都合……!

 

「お前、お前、がぁ!」

「いい加減喋んな!妄想野郎!」

 

 幸村の両手を振り解いて、ストーカーは出鱈目にナイフを振り回す。

 こうなると、幸村に対処は出来ない。切先が、頬を軽く切る。

 佐倉の悲鳴が、聞こえてくる。

 

(流石に、刃に触れずに振り回される腕を止めるのは、無理……!)

 

 なので、ナイフが届かないように、一歩下がって、間合いから離れるか。

 あるいは。

 

(思いっきり、近づく!)

 

 腕を振り上げた瞬間。抱き付くようにタックルする。

 相手の鳩尾のあたりに力を込める。これなら、テコの原理で。仰向けに倒せる。

 馬乗りになって右手を押さえ込む。

 出鱈目に暴れ回るストーカー。左手が、幸村の顔面を強打する。幸村の眼鏡が吹っ飛んだ。咄嗟に転がりながら距離を取る。

 

「幸村くんっ!」

 

 佐倉の悲鳴が響く中、幸村は必死に思考を回す。

 

(やばい!視界がぼやける。間合いが、測れない!)

 

 ナイフを振り回しながら突進してくる。どうする。さっきのように前に突っ込んで、間合いを間違えたなら。 

 間違いなく、深く、切り裂かれる。

 

(────だが、逃げる、訳には、いかない!)

 

 もう一度突っ込もうとして。

 後ろから、引っ張られた。

 幸村を引っ張ったそいつは。突進してきたストーカーが振り回す右手を、絶妙な力加減で受け流した。

 勢い余って体勢を崩してストーカーの顔面に、鋭い膝蹴りが叩き込まれた。

 ストーカーは仰け反りながら、仰向けに吹き飛んだ。

 

「よく頑張ったね。ありがとう」

「お、前、は?」

「潮田渚。1年Bクラスの、綾小路くんの友達だよ」

「二人とも、大丈夫⁉︎」

 

 一之瀬も来たらしい。佐倉を守るように、前に立っている。

 

「一之瀬さん。二人を連れて少し下がってて」

「で、でも渚くん!あいつ刃物持ってる!危ないよ!」

「………大丈夫。僕を信じて」

 

 まるで、いつもの日常のように。

 まるで、通学路を歩くように。

 無造作に、渚は、ナイフを振り回しながら突進してくるストーカーに、接近する。

 

「僕と雫ちゃんの、邪魔をす─────」

 

 破裂音が、響く。

 大きな、音では無い。良く響くが、ただ、それだけ。少なくとも、幸村たちには、そう見えた。

 どこまでいっても、ただの、猫騙しのように。

 だが、ストーカーにとっては。

 目の前で、核爆弾が、爆発したような。そんな、錯覚を覚えていた。

 

 ストーカーが、崩れ落ちる。

 全身を痙攣させながら、意識を失う。

 

「ね。言ったでしょ」

 

 (死神)は、笑いながら振り返った。

 路地裏に差し込む夕焼けが、渚の横顔を照らし、仄かな影を生み出す。微かな光が、暗闇に、微かで、それでいて暗い影を生み出していた。その影に存在感は無く、違和感も無く、恐怖すらも、感じない。 

 

 だからこそ。

 

 幸村は、目の前の現実が理解できなかった。

 佐倉は、目の前の光景に恐怖した。

 一之瀬は、渚から目を離せなかった。

 

 

 

 その後、何か難しい顛末があったわけでは無い。

 然るべきところに連絡して、そのストーカーは、然るべき報いを受けた。

 ただ、その日以降。

 そのストーカーは、音に過剰に怯えるようになった。

 正面から、普通に歩いて近付いてくる、ただの少年に、過剰に怯えるようになった。

 

 

 肩に毛布をかけられながら、佐倉は治療を受ける幸村を心配そうに見つめていた。

 

「……幸村、くん。大丈夫?」

「……まぁ、どれもかすり傷程度だからな」

「……制服、破けちゃったね。新しいの、わたしが、お金だす、ね」

「…………気に、すんな」

「で、も」

「………友達、のためだ。やりたくてやったことだし」

「……、でも、わたしの、せいで」

「……………………あぁ。佐倉のせい、だろう」

 

 幸村の肯定を受けて、佐倉は辛そうな顔で俯いた。

 

「……だから、気にするな」

「……えっ、?」

「……俺は確かに、勉強を教えたり、助けたりしたが。………それでも、俺たちは、友達だ」

 

 綾小路には、色んなことを教えられたり、助けられたりしたが。

 それでも。

 

「友達は、迷惑をかけ合うものだろう。だから」

 

 幸村は、佐倉と目を合わせながら、慣れない笑みを浮かべた。

 

「だから、もし、俺が困ったら。

 助けて、くれないか」

 

 佐倉の瞳から、涙が零れ落ちる。

 

「…………うん。うん………!もし、そうなったら、今度は、わたしが、助けるね……!」

 

 そこに、必死に走り回ってきたのだろう、汗だくで髪も乱れた長谷部が、佐倉と幸村に、まとめて抱き付いてきた。

 泣きながら、笑い合う三人。

 

「心、心配、したん、だからね。あ、愛里ぃ」

「うん。うん………。ありがとう。波瑠加ちゃん」

 

 卜部と桃井は、少し後ろから、そんな三人を見守っていた。

 

『緊急事態だと判断したので、幸村さんに話しかけちゃいました。ごめんなさい』

「いや、気にするな。啓誠なら、大丈夫だ」

「何というか、随分と、幸村くんを買っているのね」

「まぁ、確かに優秀だけどさ」

 

 律の謝罪を受け取った清隆に、鈴音と桔梗は、そんな質問をしてきた。

 昨日の夜の長電話を思い出す。

 無駄話も含めて、色々な話をしてきたが、最後に、幸村は。

 

『なぁ、清隆』

『………な、んだ?』

『今度から、そう呼んでいいか?』

『……あぁ、良いぞ。輝彦』

『……その、なんだ。出来れば、啓誠って呼んで欲しいんだ。色々と、事情があってな。輝彦って名前は、正直、嫌いなんだ』

『………そうか。まぁ、話したく無いことは、あるよな』

『まぁ、うん』

『…‥俺も、話してないことあるし』

『……そう、だとしても』

『……あぁ、そうだとしても』

 

「………まぁ、友達だからな」

 

 笑いながら、綾小路清隆(ただの男子高校生)は、そう言った。

 

 きっと、あの一年(E組での日々)があったから。

 

 だから、綾小路清隆と、幸村啓誠は、友達なのだ。





 次回から無人島編
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