どちらもうろ覚えなので許してください。
どうやら、俺たち三人全員、同じDクラスらしい。
掲示板に貼られている生徒全員の名前を見て、驚く。知った名前がいくらかいる。
「知ってはいたけれど、
「いやーどうだろう。なんだかんだカルマ君色々やらかしてるし、そこで評価下がってても不思議じゃ無いと思うな」
「ま、E組きっての問題児だったからな。
「私はほら、2年の時にやらかしてたし」
「私もそうね。浅野くんとの大喧嘩のせいじゃないかしら」
「なるほどな。生徒の監視のために死角なく監視カメラを仕掛けるような学校だ。そう言った問題行為は相当の減点になるんだろう」
「監視カメラ………うわ本当だ、気持ち悪っ」
「やけに多いと思っていたけれど、そういうことなのね」
「ま、それなら二人のクラス分けも納得だな」
「私たちからすると何で清隆がDなの?って感じなんだけど」
「まさか入試で手を抜いていたなんてことはないでしょう?」
「……どうだろうな」
「…うわーマジでやったんだ」
「……清隆くんのことは置いておくとして。渚くんがBクラスなのは成績順だと考えると妥当じゃないかしら。個人的にはAクラスでもおかしくはないと思うけど」
「だねー
「成績だけでなく素行も評価に含まれるなら、茅野がBはおかしくないか?中々の素行不良が理由でE組行きだっただろう?」
「……名前、
「あーなるほど、理事長がなんかこう、なんかしてたのかもね」
「……、あの人がそんなことするか?」
「……まぁ、あぐり先生への義理立てじゃないかしら。そういうところはちゃんとしてる人だもの」
「ま、真実は当人のみぞ知る、て感じだね」
そう言って、桔梗は教室の扉を開けた。
思ったよりも人がいるな。ちょっと早めのバスに乗っていたのだが。
「あら、あの金髪、同じクラスのようね」
「みたいだね。まぁ、うん。割と納得のいくクラス分けかなぁ」
「……ま、頭は良いだろうが、人格的にはな」
「清隆くんがそれを言うの?」
「清隆がそれ言う?」
「………………二人の中での俺はそんなにアレなのか?」
「ま、人間一年生みたいな感じだしね」
「諸々のこと、忘れてはいないわよ」
「まぁ、その、色々申し訳なくは思ってるが」
ただ、その、二人の中で俺は人間を始めたばかり、みたいなイメージなら。
「だったらもうちょっと、その、距離感というか、その辺りをだな」
そう言うと、桔梗はあからさまににまーっと笑った。
いきなり右腕に抱きついてくる。勘弁してくれ。柔らかい感触が腕を襲ってくる。
こんなのもはや暴力だろ。駄目だろ、これは。
「その、こういうのをだな。俺はまだこの手のことに慣れてないから、勘弁してくれ」
とか言ってたら、後ろから鈴音が抱きついてくる。
あーーーー。駄目です。こういうの駄目です。
鈴音の体温とか匂いとか柔らかさとが猛威を振るう。くそ、耳が熱い。
「
上目遣いで、頬を赤らめながらそんなことを言ってくる桔梗。
やめてくれ。俺の心臓がもたない。
「えぇ。私たちのどちらかを選ぶまで、あなたを逃さないわ」
耳元で、良くないことを囁く鈴音。
吐息が、吐息がすごい。耳がやばい。くすぐったいのに抗いがたい。
もうやめてくれ。死んでしまう。ビッチ先生から学んだことを全力投球しないでくれ。
頼む誰か、助けてください。
「あー、ごめんね。みんな困ってるから、ドアの前でそう言うのはやめてくれないかい?」
「あぁ、すまない。すぐに席に着く」
爽やかイケメンがそう声を掛けてきてくれた。
ありがとうイケメン。フォーエバーイケメン。ナイスフォローイケメン。
二人を自然に振り払って、逃げるように、いや実際逃げてるんだけど、席に着く。
席は教室の後ろの方だった。窓際ではなくその一個隣。良い感じに目立たなくて助かる。
席に着いて天井を見上げる。
二人に迫られるのは嫌ではない。嫌ではないのだが、少し、その、頻度と濃度をどうにかしてくれ。頼むから。
とか考えてたら隣に誰かが座った。挨拶でもしておくべきかな、と思い視線を向けて、思わず突っ伏した。
「ふふ、これからもよろしくね、清隆くん」
「……あぁ、これからもよろしく、鈴音」
何よりも嫌なのは、隣が鈴音で嬉しいと思ってしまっていることだった。
生徒が全員着席して、数分経ったところ、教室に入ってきたのは、色々とすごい女教師だった。胸がでかい。顔が良い。佇まい的にはビッチ先生みたいなところがあるな。
「諸君。入学おめでとう。私は茶柱佐枝、Dクラスの担任だ。この学校ではクラス替えがないので、これから3年はお前たちを担当する」
そして、茶柱先生は説明を続けた。
この学校は、生徒を実力で測ること。
実力とは、生徒のあらゆる要素を総合的に評価したものだということ。
学校から支給されるポイントで生活すること。
ポイントで買えないものはないこと。
一円=1プライベートポイントであること。
入学祝いとして10万プライベートポイントが支給されること。
「嫌らしい説明ね」
「ま、そうだな」
月初めに振り込まれると言っただけで、それが変動しないとは言っていない。
本当に、嫌らしい。
「さて、ここまでで何か質問はあるか?」
鈴音と目配せし合う。
お先にどうぞ、の意を汲んで、発言するとしよう。
どうやら、俺が一番目らしい。
「お前、名前は?」
「綾小路清隆です。先生は
「…………ほう。良い質問だ。綾小路。その質問には、現段階では答えられない、と言っておこう」
「なるほど、ありがとうございます」
「他に質問がある生徒はいるか?」
茶柱の先の返答を聞いて、眼鏡の生徒とイケメンは考え込んでいた。あの二人は、質問するよりも茶柱の返答を検討することを優先しているようだった。
なので、次の質問者は鈴音になった。
「ほう、お前、名前は?」
「堀北鈴音です。先生は
「…………ほう。さっきの質問と同じくらいには良い質問だ、堀北。その質問には答えられる。ポイントは権利や点数も買えるという認識で間違いない」
「……なるほど。ありがとうございます」
なんというか、すごく嬉しそうだな、茶柱。
桔梗の様子を見てみると、俺と同じようなことを考えたらしい。桔梗もそう思っているなら、間違いはないだろう。
Dクラスに優秀な生徒が多いことで、嬉しくなる。
つまり、
「さぁ、他に質問のある生徒はいるか」
「はい、先生」
次は桔梗の番だ。
見てわかるぐらいに茶柱の雰囲気がおかしい。薄らとだが、頬も赤く染まっている。
「ふふふっ、あぁ、すまない。名前は?」
「櫛田桔梗です。
「────………何故、そう考えた?」
「前の学校が、そういったクラス分けをする学校だったので」
「………ふふふふふ。あぁ、すまない。残念ながら、その質問にも、現段階では答えられない」
と、そこで返答を整理してある程度の結論を組み上げたのか、イケメンも挙手をした。
「先生、質問よろしいですか」
「あぁ、あぁ良いだろう。名前は」
「平田洋介です。この学校は
「─────……………あぁ、本当に素晴らしい質問だ。平田。答えてやりたいが、その質問にも、現段階では答えられない」
その質問に答えたところで、チャイムが鳴った。
出遅れた眼鏡の生徒が、少し悔しそうな顔をしている。あの派手な金髪はすごく楽しそうだった。
他の生徒はまちまちだ。今までの質問から何かきな臭さを感じた生徒。あまり気にしてない生徒。多分よく分かっていない生徒。体感、あまり気にしてない生徒とよく分かっていない生徒が多そうだな。
なるほど、Dクラスか。
「
そう言い残して、茶柱は教室を出ていった。
「………予想は、殆ど正解と言って良いでしょうね」
「だな。だが、まさか
「えぇ。思ったよりも、生徒に厳しい学校のようね」
「それに、まさか
と、そこで桔梗が話し出した。
「皆っ!少し良いかな?これから三年間一緒のクラスみたいだし、今のうちに自己紹介でもしてみないっ?」
「うん。僕は賛成かな」
クラスの中でも、トップクラスに顔のいい男女がそう言ったので、自然と殆ど全員が受け入れていた。
賛成の声が教室のあちこちから上がってくる。
「じゃあまず私からっ。櫛田桔梗ですっ。できれば学校のみんなと友達になりたいと考えていますっ。まずはこのクラスのみんなから、友達になろうと考えていますっ。三年間、よろしくねっ」
クラスのあちこちから拍手が上がっている。
掴みはバッチリだな。
「ああ言うのは、桔梗さんの専売特許ね」
「まぁな。あのイケメン、平田、だったか?も同じくらい、そういうのが得意らしい」
そこで、数少ない例外の一人が声を挙げた。
「少し待ってくれ。自己紹介の前に、色々と整理した方が良いと思うんだが」
眼鏡をかけた神経質そうな生徒。俺の最初の質問から、メモを取り始めていた生徒が、そう提案した。
「えっと、ごめんね。名前を聞いても良いかなっ?」
「幸村だ。幸村輝彦。二人なら分かっていると思うが、この学校にはおかしな点が多すぎる。まずはそこを対策するべきだ」
うん。正論ではある。あるけれど。
「……………なんというか、反感を生みそうなやり方ね」
「………一年ちょっと前のお前なら似たようなことをしたと思うんだが」
「……否定はしないわ」
軽く冷えた空気をぶち壊すように、金髪のギャルが割って入った。
「えー、さっきの質問?よく分かんないけど、そんなに気にしなくて良いっしょ。まずはみんなで仲良くなるべきじゃない?ねー平田くん」
「えっと、そうだね。その、君は」
「あぁ、ごめんね。軽井沢恵だよ。これからよろしくね」
「割って入らないでくれ、今は大事な話を」
「幸村くん」
自然な動きで、いつの間にか幸村の懐に潜り込んだ桔梗が、下から見上げて、話を遮る。
上目遣い。ビッチ先生の必勝法の一つだ。
「その話は、後でちゃんと時間を取るから、今は、私たちに任せてくれない?」
「……良いだろう。だが、可及的速やかに時間をとってくれ。
「………うん。分かってるよ」
色仕掛けがあまり効いていないな。
なんというか、女性に苦手意識があるのか。
いや、それよりも。
「……どうして彼がDクラスなのかしら。そこまで分かっているのに」
「……見た感じ、運動とか出来なさそうだし、対人能力も高くなさそうだから、その辺じゃないか?」
「……はぁ、あの一年が無かったら、私も似たような理由で配属されてそうね」
「まぁ、それはそうだな」
軽井沢が壊した空気をうまく修正した桔梗の指揮の元、自己紹介は順調に消化されていった。
基本的には普通だったが、例の派手金髪はやっぱりとても派手だった。
「くくくっ。私は高円寺六助。かの高円寺コンツェルンの跡取りだ。卒業後の進路に不安があるマドモワゼル達は、私に声を掛けてくれたまえ。
それはそうと、この学校は実に面白いね。何より、どうやら私は、クラスメイトに恵まれたらしい。
まぁ、うん。
「これ以上にDクラスが納得できる生徒もいないでしょうね」
「あぁ。納得のクラス配置だ」
次は髪を赤く染めた不良だが。
「なんでそんなのしなきゃなんねぇんだ。小学生じゃねぇんだぞ」
凄く、不機嫌だな。
「さっきの言葉は撤回するわ」
「ん?」
「さっきよりも納得がいく生徒ね」
「ま、同意だな」
「ごめんね。気に障っちゃったかな?」
男子を抑えるのは桔梗の役目みたいだな。この短時間で役割分担できる辺りかなり似ているのか、平田と桔梗は。
「もし嫌なら、やらなくても良いし、帰っても良いよ。
でも、私は君と仲良くなりたいなっ」
流石に女子に荒っぽい真似は出来ないし、そんなこと言われたら男子なら嬉しくなってしまうだろう。
「これが平田くんだったらより反発を生んでたんじゃないかしら」
「それもそうだな」
舌打ちしながら目を逸らす不良。
「須藤健だ」
「うんっ、これからよろしくね須藤くんっ」
桔梗はそれ以上は声を掛けず後ろの男子に自己紹介を促した。触らぬ神には祟りなし、と言ったところだな。
そこから数人挟み、どうやら俺の番らしい。
「綾小路清隆だ。中学までは家から出たこともなかったから、あまり世間慣れはしていない。所々で迷惑をかけると思うが、どうか許してほしい。えっと、趣味は読書だ。最近はミステリーをよく読む。三年間よろしく頼む」
「うんっ!これからもよろしくね、清隆!」
やめて下さい櫛田桔梗様。
男子からの視線が痛い。すごく殺意に満ちている。
女子からはとても面白いものを見る目を向けられている。
「君たちは、本当に仲が良いみたいだね」
「うんっ!
瞬間。男子達が襲いかかってこなかったのが奇跡だと思えるほど、空気が怖くなった。
もはや視線じゃなくて死線だ。誰も一言も言ってないけど夜道には気をつけろよって聞こえる。
女子達からは何これ絶対面白いやつじゃんって声が聞こえる。
「うん。仲が良いのはとても良いことだね、うん。じゃあ次、隣の、堀北さん。改めてお願いしても良いかな」
「えぇ。分かったわ」
音を立てずに立ち上がる鈴音。
と、同時に軽く殺気を放って俺に死線を向ける男子達を威圧する。
急に寒気を覚えた男子達は、俺に向けていた死線を逸らした。
ありがとう鈴音。フォーエバー鈴音。変なこと言わないで鈴音。
「堀北鈴音よ。そこの綾小路清隆くんと櫛田桔梗さんとは同じ中学で同じクラスだったわ。趣味は読書。最近興味のあるジャンルは、そうね、
三年間よろしくお願いするわ」
はい、基本的には問題ないんだが、なんでミステリーのところで俺に流し目を向けたの鈴音さん。
あれか、匂わせってやつか。気付いた男子がまた死線を向けてきたんで勘弁してくれ。女子は盛り上がるのをやめてくれ。
「へぇ、三人とも仲が良いんだね」
「えぇそうね。私と桔梗さんは
「うん。
どうして二人とも俺を見るのか。
どうして男子達が
どうして女子達が
答えは分かるが分かりたくはなかった。
さて、自己紹介も終わり、入学式のために体育館に移動しよう、としたところで、
「少し良いかな、綾小路くん、堀北さん」
平田が幸村を伴って話しかけてきた。
「平田か、どうかしたか」
「うん。入学式が終わったら、少し時間をくれないかな。僕と幸村くんと堀北さんと櫛田さん、それから綾小路くんと、
なるほどな。
「まぁ、俺は良いぞ」
「ごめんなさい。私は少し、用事があるの」
「用事?お前なら、この話し合い以上の優先事項はないと、理解してくれると思ったんだがな」
「ごめんなさい、幸村くん。
私の兄は、この学校の生徒会長なの。だから、挨拶と
「…………なるほど、それは大事な用事だな」
「えぇ。大事な用事よ」
そこで眼鏡を直しながら、ため息を吐く幸村。
「正直、このクラス分けには納得していないが、お前達もDクラスである以上、納得するしかないだろうな」
「あっはは。他はともかく、僕を評価しすぎだよ、幸村くん」
「気にすることはない。クラス競争があると考えられる以上、実力順だけでなく、逆転の可能性も与えるために、一部能力の高い生徒を下位クラスに配置している可能性もある」
「……!なるほど。その考えはなかった」
「総合的に判断するって言ってたし、多分身体能力とかで落としちゃったのかもね。もう少し鍛えてみても良いんじゃないかなっ、細いしっ」
「…………その考えはなかった」
「はははっ、思ったよりも言うね、櫛田さん」
「私は提案してるだけだよっ?」
それはそれとして幸村の鈴音への態度に軽く腹を立ててたんだろうな。
「……その、さっきはすまない。きつい物言いになってしまった」
「別に気にしてないわ。謝意は不要よ」
「それでも、だ。あれは人として良くなかった」
「……そう。なら、受け取っておくわ」
「あぁ。…………こういうところも、Dの理由なのか?」
ふむ。思ったよりも頭がいいみたいだな。
まぁ、あの質問からここまで導けるぐらいだしな。
「そろそろ行こう。入学式に遅れちゃう」
「あぁ。そうだな」
「よしっちゃっちゃっと聞き流して、これからの話し合いを始めようっ!」
「そういうのは………その、いやなんでもない」
少し桔梗に苦手意識を抱いているようだな、幸村は。
「これから、楽しくなりそうね。清隆くん」
「まぁ、そうだな。できればもっと普通であってほしかったが」
中学最後の一年が、『暗殺教室』だったのなら。
これからの三年は、『ようこそ実力至上主義の教室へ』と言ったところか。
また、波乱の多い学校生活になりそうだな。
そんなことを考えなら、教室を後にした。
最初から本気の綾小路清隆+育成完了堀北鈴音+完全体櫛田桔梗が連携してくるDクラス。
他の生徒も引っ張られて成長するぞっ
誰が勝てんだコレ。