殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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Dクラスとサバイバル試験

 さて、俺たちDクラスの試験がどの様に始まったのかというと。

 

「元気出して清隆。大丈夫、一週間もあるんだよ?試験しながらでもバカンスは出来るって」

「えぇそうよ。大丈夫。大丈夫よ清隆くん。バカンスはまだなくなってないわ」

 

 死ぬほど落ち込んでいる俺を慰めるところから始まった。

 

「う、うん。気にしないで綾小路くん。辛いだけが試験じゃ無いからさ」

「まぁ、その、何だ。俺は上手いこと言えねぇけどよ。無人島だし、なんか面白そうなのあるんじゃねぇか?」

 

 平田と須藤の励ましを聞いて、やっと顔を上げられた。それまでは体育座りで膝に顔を埋めていた。

 涙でぐちゃぐちゃというほどでは無いが、きっと目元は腫れているのだろう。

 そんな俺の顔を見て、鈴音と桔梗は固まった。

 

「────今キュンとした?」

「してないよ」

「してないわ」

 

 ぶっ込んできた長谷部の質問に動揺を見せずに答える鈴音と桔梗。返事が早すぎて疑わしいぞ。

 恥ずかしさと情けなさその他諸々から、咄嗟に顔を横に向ける。

 鈴音と桔梗はまた固まった。

 

「───今キュンとしたでしょ?」

「だからしてないよ」

「だからしてないわ」

 

 今度は軽井沢の鋭い質問。

 鈴音と桔梗の返答に、説得力は欠片も無い。

 俺の尊厳ももはや残っていない。しかし、分かっててもどうしようもないのだ。

 俺の無人島バカンス…………。

 

「まぁあまり気にすんなよ。みんなでキャンプなんて実質バカンスだろ?」

「そうそう寛治の言う通り。こんなの実質バカンスだって」

「………試験だろう」

「ゆ、幸村くん。今は正論はダメです」

 

 啓誠の言葉と、佐倉の追い討ちにダメージを受けて、また膝に顔を埋めた。

 

「幸村っ!お前さぁ!」

「綾小路泣いちゃったじゃないか!」

 

 池と山内は啓誠に怒る。が、それを聞くとより惨めになるからやめてくれ。

 

「いいや清隆。これは試験だ」

「やめなさい幸村くんっ!」

「それ以上清隆を追い詰めないでっ!」

 

 咄嗟に啓誠を制止する鈴音と桔梗。

 しかし、啓誠は譲らない。

 

「───……試験ならば、解答を埋めた後は自由時間だ。次の試験の対策をしてても良いし、見直しをしても良い。

 とっとと勝利を確定させて、後は遊べば良いだけだろう」

 

 ────啓誠の言葉に、俺は目を開いた。

 なるほど、確かに、その考えはなかった。

 やる気が湧き上がってくる。

 無人島試験は一週間。ならば。

 

「清隆っ!」

「清隆くんっ!」

「綾小路くんっ!」

「綾小路!」

「立った、綾小路が立った!」

 

 立ち上がった俺は、目元を拭いながら、啓誠の元まで歩き、拳を胸に突きつける。

 

「───最短で終わらせる。手を貸せ、啓誠」

「──その言葉を待っていた。やるぞ、清隆」

 

 三日で終わらせれば四日で遊べる。単純な、算数だ。

 

「………………何この茶番」

「恵ちゃんシーっ!」

 

 さぁ、さっさと終わらせるぞ。

 

「やべぇ、綾小路やべぇ!」

「あぁ、殆ど一人でクラス全員分のテント建ててやがる!速すぎて誰も、いや、ペグ打ちだけは池がやってる!」

「池やべぇ!ついていけてるのヤベェ!」

 

 池としては、ボーイスカウトで培ったアウトドアの経験値を総動員しているが、それでもなおペグ打ちしか追いつけない。

 速すぎる。残像すら見えそうだ。なんか『ヌルフフフフフ』って笑いながらやってる綾小路のやつ。

 ヤベェ、怖えぇ。

 

「くそっ!速すぎんだろぉ!」

「いいやお前が遅いだけだ。ほら、ギアを上げていくぞ」

「ぐうぅぅっ!」

「寛治ぃ!負けんなぁ!」

「追いつけぇ、寛治ぃ!」

 

 山内と須藤の激励に背を押されながらも、まだ追いつくことしかできない………!

 

 そんな中、佐藤に耳打ちされた篠原が、やれやれと言いながらも、掌でメガホンを作り。

 

「池、頑張れー!」

 

 と、声援を飛ばした。

 池寛治、覚醒。両目に炎が迸る。

 綾小路と同等のスピードでペグ打ちを始め、追いすがり、追いつき、ついに、綾小路がシートを広げ切るよりも早く、シートを掴み、広げ、ペグを打つ。

 そう、追い越したのだ。

 

 綾小路清隆の両目が光る。

 

「───やるじゃないか()()。もう一段、ギアを上げる。────付いて来れるか?」

「───付いて来れるか、じゃねぇぞ()()!──お前の方こそ、付いて来やがれぇぇぇ!」

 

 二人は数十秒で、八つのテントを建て切った。

 後半、池はポールを建てるところまでは追いついた。

 

「すげぇ!すげぇぞ寛治!」

「あの綾小路に追いついた!」

 

 山内と須藤を筆頭に、男子たちによるワッショイタイムだ。

 まだ初日なのに、寛治は胴上げまでされている。

 やれやれ。面白い奴らだな。

 

「ふふははははははは!中々の道化ぶりだキャンプボーイ!もっとこの私を楽しませてくれたまえ」

 

 馬鹿と何とかは高いところが好きだという。

 その諺の通り、高円寺は海辺の背の高い木の頂点の辺りから、寛治の胴上げを見下ろしながらそう嗤う。

 それに対して、寛治は挑戦的な笑みを見せながら見上げた。

 

「───あぁ。存分に楽しませてやるよ高円寺サマ!───この一週間!俺から目を離せると思うなよ!」

 

 とてつもなく挑戦的な、宣戦布告である。

 高円寺は一瞬真顔になり、その後、爆発的に嗤った。

 

「ふふふ、ふふはは、ふはははははは。はーはーはっはっはっはっ‼︎───良い!良いだろうキャンプボーイ!この一週間!私を楽しませてみろ‼︎」

 

 寛治。良くやった。

 

「これで高円寺くんがリタイアする事は無いわね」

「まぁ、池くんが頑張っている限りは、ね」

「安心しろ。手ならいくらでもある」

 

 俺は二本の釣竿を持ち、胴上げ中の寛治の元へ向かう。

 

「寛治」

 

 そう呼びかけると、一旦胴上げをやめ、寛治を下ろす。恐る恐るこちらに近づいてくる寛治に、釣竿を一本投げ渡す。

 咄嗟に受け取った寛治は、それが何を指すのかを瞬時に理解し、不敵に笑った。

 

「いいぜ、そう来なくっちゃなぁ清隆ぁ!」

「あぁ。今度は、釣果勝負だ!」

 

 俺たちは川にダッシュした。

 高円寺は木から木に飛び移りながら着いてきた。

 男子生徒と女子生徒の何人かは見物に来た。

 

「やっぱヤベェぜ綾小路!竿が、止まんねぇ!」

 

 釣り針を投げ込んで五秒で魚を釣っていく。

 何も難しい事は無い。

 川面から見える魚の影、群れの配置、水流の強さ、気温、水温、あらゆる要素を総合的に判断して、魚が食い付くであろうポイントを予測しているだけだ。

 逆に、寛治は苦戦していた。

 

「くっ、流石に苦しいか寛治っ!」

「釣れてないわけじゃない、十分以上に釣れている。ただっ!綾小路が異常すぎるっ!」

 

 寛治は確かに十分な量の魚を釣っている。しかし、俺には残念ながら及ばない。

 悪いな、寛治。

 しかしそこで、寛治は釣り場を離れて、俺の元まできた。

 

「どうした?教えを乞うつもりか?───教えたところで、寛治に同じことができるとは思わんがな」

 

 まるで悪役だな、俺は。

 

「───悔しいが、今は清隆、お前の方がうまい。今回は俺の負けだが、これ以上離されるつもりはない」

「ほう、ならば、どうするというのかな、キャンプボーイ」

「見てやがれ高円寺───こうするのさ!」

 

 俺が釣り上げたその直後、殆ど同じ場所に、寛治は釣り糸を投げた。

 なるほど、考えたな。凡そ五秒で、寛治は釣り上げる(1フィッシュ)

 

「──お前がどんなからくりで、こんなに釣り上げてるのかは分からない。だが!お前が釣り上げた直後なら!同じポイントにさえ落とせば、俺にも釣れる!」

「───ふっ!やるじゃないかキャンプボーイ!追いつけはしない。だが!確かにこれ以上は離されないだろう。───だがそれは、綾小路ボーイが釣り上げた瞬間から、一秒以内に、同じ場所に釣り針を投げ込み続ける必要がある!

 君に、それが出来るかい⁉︎」

「舐めんな高円寺!

 出来るかじゃない───やるんだよ!」

 

 その後、寛治は完璧に俺と同じポイントに投げ込み続けた。

 確かに、追いつけはしない、だが、寛治はそれ以上離されることも無かった。

 やるじゃないか。これならいずれ、俺と同じ釣り方が出来る様になるだろう。

 高円寺も満足げに見下ろしていた。あいつにとっては、暇つぶしの喜劇でしかないのだろうな。

 

「………っく、クソォ」

 

 寛治は、全く追いつけなかった悔しさから男泣きしていた。

 観戦していた男性陣も男泣きしている。女性陣は引いている。

 

「………泣くな、寛治。

 いつかのお前ならば、同じ釣り方が出来るだろう」

 

 だが、俺の慰めに、寛治は闘志を燃やした。

 

「───いつか?いつか、だと?

 舐めんな清隆!俺は、この一週間以内に!お前と同じ釣り方を、身に付けてやる!」

 

 …………ふっ。

 いい度胸だ。

 

「────やってみせろ。高みで待っているぞ、池寛治」

「──あぁ、やってやる。やってやるさ………!首を洗って待っていろ!綾小路清隆ぁ!」

 

 男性陣は歓声を上げていた。

 高円寺は高笑いしていた。

 女性陣はドン引きしていた。

 

「…………あの量一週間じゃ無理じゃない?」

「それはそう」

 

 軽井沢の疑問に、松下は完全に同意した。

 

「ここからは、私たちの時間よ」

「うん。行けるね、みーちゃん」

「も、勿論!任せて、桔梗ちゃん!」

 

 俺と寛治で釣り上げた魚の群れが、鈴音と桔梗とみーちゃんの三人で調理されていく。

 

「凄い!堀北さん、なんて鮮やかなナイフ捌き!」

「うん!魚が斬られていることに気付いていない!痛みを感じるまもなく、一瞬で腑を取っている!」

 

 鈴音が凄まじい速度と精度で魚を捌き。

 

「櫛田さん凄い!一ミリの狂いもなく串を打っている!機械よりも精密じゃない⁉︎」

「うん!完璧に中心を打ち続けている!乱れもハズレも一切ない!」

 

 桔梗もまた凄まじい精度と速度で串を打ち。

 

「みーちゃんすごい!完璧な焼き加減!完全に炎を操っている!」

「───ふふん!中華の真髄は、炎にあり!です!」

「────っっっっ‼︎そうか、みーちゃんは中国からの留学生!当然中華料理の達人!そしてっ!中華の真髄は炎っ!

 まさしく!炎の料理人、みーちゃんだ‼︎」

 

 完璧に焚き火を操り、みーちゃんは絶妙な焼き加減の魚を量産していく。

 塩だけでもこんなにうまいとは。醤油も合うな。意外と味噌もいけるぞ。案外素焼きも美味いな。わさびもつけてみるか。胡椒もありだな。

 

「さっきからずっと実況してるあの人たちは誰なの?」

「クラスメイトのはずなのに知らない人たちだよね」

「まぁみんないつもよりもテンション高めだから」

 

 テンション上がりすぎて豹変しているクラスメイトに、軽井沢と佐藤と松下は呆れていた。

 ただ、三人とも焼き魚を両手に一本ずつ持っていた。

 無人島の魅力には、誰も勝てない。

 

「やれやれ。些か盛り上がりすぎだな。───本番はここからだというのに」

「おうよ。さぁ、とくとご覧あれ。これが、俺と幸村でかき集めてきた───」

 

 焼き魚パーティ中のDクラスに、森中歩き回ってきた啓誠と須藤が、大きな籠を背負いながら戻ってきた。

 その籠に入っているのは───。

 

「野菜っ‼︎‼︎‼︎だけど、それだけじゃない‼︎‼︎‼︎」

「オレンジにバナナ、ブドウにメロン、イチゴにパイン、マンゴー、キウイ!そしてリンゴ!まさしくフルーツバスケット‼︎‼︎」

「凄い!凄いよ須藤くん幸村くん!極まっていく!パーティが極まっていくよ!」

 

 トドメにデザートの追加。

 初日のパーティーはこれ以上ないくらいに極まっている。

 

「しかし、やるなぁ幸村!まさか俺に着いて来れるとは!」

「ふっ、舐めるなよ須藤。俺がどれほど清隆のブートキャンプで鍛えてきたと思っている。

 ………それに、まさかお前が、場所を覚えていたとは予想外だったぞ」

「へっ綾小路式勉強会で磨かれたのは、学力だけじゃねぇ。

 観察力!そして記憶力もまた、磨かれているのさ。当然!無人島観察で見つけたそれっぽい場所は、完全に記憶済みだぜ」

「……ふっ、見事だ」

「お前の方こそ」

 

 半袖で二の腕の筋肉を見せつける須藤に対し、メガネを直しながら、同じく鍛えられてきた二の腕を見せつける啓誠。

 筋肉と頭脳を併せ持とうとする二人は、思ったよりも意気投合していた。

 なんか全体的にこいつらもテンションおかしいな。これが無人島マジックか。

 

「なんかいつの間にか試験とか気にしなくなってるね」

「まぁいいんじゃない?楽しい方がいいでしょ何事も」

「うんうん。次ぶどう食べよー」

 

 軽井沢と佐藤が雑談するその隣で、相槌を打ちながら篠原は果物を味わっていた。

 一人でめちゃくちゃ食べているな。

 

「じゃあ私オレンジ〜」

「オレンジと蜜柑って何が違うんだろう?」

「さぁ?でもこれ蜜柑って大きさじゃなくない?」

 

 ソフトボール程度の大きさの果物を片手に掴んでそんなことを言う軽井沢。

 

「確かに、その大きさはオレンジだわ」

 

 佐藤はそれを見てオレンジだと判断した。

 ちなみに蜜柑とオレンジは大きさ以外にも原産地や皮の剥きやすさなどでも区別されるぞ。

 

「おーい清隆ー!

 見て!鈴音が作ったフルーツ飾り切り!」

「フルーツカービングよ桔梗さん。

 それよりも、今回のはかなりの自信作。存分に楽しみなさい」

 

 桔梗の花と、鈴、そして鷹、背後には三日月をモチーフにしたのだろう、美しいフルーツカービングの盛り合わせだ。

 

「凄いなこれは。食べるのが勿体無いぐらいだ。

 ………しかし、何故鷹なんだ……?」

 

 桔梗と鈴と三日月は分かりやすいのだが。

 鷹は誰だ……?まさか鷹岡か……?

 

「まっ、分からないのも無理はないよね」

「正直無理矢理だもの」

「………?他のクラスメイトは分かるのか?」

 

 他のクラスメイトに意見を聞いてみると、思ったよりもたくさんのクラスメイトが、あぁなるほど、とでも言いたげな顔をしていた。

 

「ふふ、じゃあ答え合わせといこうか」

「正解は、あなたよ。清隆くん」

「…………いや俺に鷹要素はないだろう」

「名前だよ、名前」

「……名前……清隆だから鷹なのか?安直すぎないか?」

「正直私もそう思うわ。…………でも、私たち三人が入っているものが、欲しかったのよ」

 

 まぁ、素直に嬉しい、とは思う。

 俺と、鈴音と、桔梗、そして、殺せんせー。

 俺たちが過ごした、あの一年を思い起こされる様な、そんなフルーツカービングだ。

 

「…………覚えてる?修学旅行のこと」

「えぇ、覚えてるわ。……大変だったわよ。暗殺を進めながらも、桔梗さんとたまたま居合わせた他クラスの子の喧嘩を止めるのは」

「……あぁ、あれは大変だったな。

 その後泣いた桔梗を慰めるのも大変だった」

「……………話振ったのは私だけどやめて欲しいなぁ。それよりも卓球で烏間先生と互角にやり合った清隆の話とかしようよ。

 ていうか、二人とも分かっててそんな話してるんでしょ」

 

 多分、あの日があったから、俺たちは仲良くなったというか、一緒にいる様になったのだと思う。

 たまたま居合わせた、元2年C組の生徒に、桔梗はだいぶ酷い絡まれ方をしていた。

 まぁ、ある意味では自業自得なのかもしれない。

 勝手に気まずくなって俺と鈴音と矢田、倉橋、千葉、速水の修学旅行第五班から離れた結果、運悪く同じクラスだった元クラスメイトに見つかり、そのまま路地裏に連れ込まれて、殴る蹴るの暴行を受けていた。

 見つけた鈴音が単身割り込んで時間稼ぎしている間に、矢田と倉橋は桔梗を安全な場所へ連れて行き、俺と千葉と速水は少し遅れて現場に到着した。

 現場では、倒れ伏した生徒たちの丁度真ん中で、鈴音が一人立っていたのを覚えている。

 その後、メンタルが完全にやられたのか泣き喚く桔梗を女子全員で宥めていた。

 まぁ、四班がトラブって暗殺が無くなったのは、俺たちに取ってある意味で幸運だったのだろうな。

 その日の夜になって、たまたま居合わせた俺たち三人で、三日月を眺めながら、色々な話をしたのを覚えている。桔梗が演じる理由。鈴音が髪を伸ばしている理由。…………俺が、世間知らずな理由。

 それが、俺たちが一緒にいる様になった、きっかけなのだろう。

 

「千葉くんたち、元気にしてるかな?」

「千葉と速水は同じ高校だったな」

「倉橋さんと矢田さんも、同じ高校のはずよ。この辺りは、同じビッチ先生の弟子同士で、何かやりとりとかしていないのかしら?」

「まぁ、割と連絡取り合ったりしてるよ。向こうは向こうで楽しそうみたい」

「そういえば、あなたと千葉くんはかなり仲が良かったわね」

「まぁな。アイツ、いつ速水に告白するか相談してきた。……………俺がE組で一番そういうの向いてないだろう」

「あはははは。言えてる」

「矢田さんたちに言われるわ。『綾小路くんまだ返事しないの?』って」

「………………その、必ず、答えるから、その」

「……大丈夫。私たちは、待ってるよ」

「………えぇ。清隆くんが心から、誰かを好きと言えるまで」

「……あぁ」

 

 人を好きになるって、単純な様で難しくて、やっぱり単純なのかもしれない。

 崩れ始めている三日月を三人で見上げながら、そんなことを考えていた。

 

 

 

 一方、その頃。

 盛り上がっていくパーティーの中で一人、山内春樹だけは、夜の森で一人でいた。

 焦燥感、そして孤独感と戦っていた。

 

(寛治のやつ、あんな特技あったのかよ。

 健は相変わらず、体力使うのだと大活躍だし、最近成績も上がってんだよなぁ。期末だと、平均超えてるのも何個かあったし。

 …………綾小路は、相変わらず化け物染みてるよなぁ)

 

 そうしてポツリと、独り言を溢す。

 

「俺だけ、何もないわ」

 

 同じ学校、同じクラス、なのに、綾小路だけじゃない。寛治と健とも、間違いなく離されているのが、分かる。

 俺だけが、取り残されている。

 

(俺にも何か、取り柄があんのかなぁ)

 

 星空と壊れかけの三日月を眺めながら、そんなことを考えていた。ところ。

 足音が聞こえた。

 咄嗟に立ち上がってあたりを見渡すと、いつのまにか、木に寄りかかっている女子がいた。

 酷い怪我だった。

 

「ちょっ、おい大丈夫か⁉︎手当とか、その………」

 

 思わず声をかけて、すぐにその可能性に思い至る。

 

(───馬鹿か俺はっ!こんなの罠に決まってんだろ……!)

 

 クラスメイトではない。ならば、他のクラス。

 他のクラスが拠点の近くまで来る理由なんて、敵情視察ぐらいしかない。

 

(…………でも、怪我ひどいし。遭難とかの可能性も、ある、の、かな?)

 

「あん、たは……?」

「や、山内春樹……」

「……そう」

「そう、いう、君は……?」

「………伊吹、澪」

 

 Cクラスの悪意が、山内春樹を襲う。

 

 山内春樹、試練の時。

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