まぁ飛び降りたり舌血が出るぐらいに噛むやつですし。
四日目、五日目は、何事もなく過ぎていった。
寛治との競争は続いている。
魚の釣り方、果物の探し方、森の歩き方、などなどなど。島中を歩き回りながら、競争の形で、寛治にその手のことに関する知識と経験を仕込んでおく。
後は、まぁ。
「………俺が、学年中に毒を盛るとしたら、ここの源泉を使う。効果的だし、必ず飲むだろうからな」
考えられる、妨害行為についても、いくつかは仕込んでおく。
「……………な、るほど」
心なしか、寛治は少し引いていた。
上から見ていた高円寺は、同意するように頷いていた。
まぁ、こういうことが出来る、と分かっていれば、実際にそうなったときに対応できるだろう。
そして、六日目の朝。
また、事件は起きた。
「そろそろ点呼の時間だ。清隆。起きろ」
試験終了まで、あと一日。
全ては問題なく進んでいく中で、それは起きた。
「……清隆?おい清隆……、?っ!清隆っ‼︎」
啓誠が掌で熱を測ってみると、明らかな高熱だった。
あの清隆が、体調を崩した?いや、清隆でも人間だし。そうなるのも、当たり前、か?
「───おい、幸村っ!そっちはどんな感じだ!」
「須藤?どうかしたのか?」
「あ、あぁ。こっちのテントで、平田達が、熱を出した……!」
…………これは、とんでもないことが、起きているのかもしれない。
船上のCクラスでも、同じことが起きていた。
「おい小宮!しっかりしろ!」
「ア、アルベルト!大丈夫か!」
ベッドに寝そべったまま、一向に動かない小宮やアルベルトを心配する生徒達。
そんな生徒達を尻目に、一人っきりで部屋にいた赤羽業も、とてもつらそうだった。
「赤羽!少し良───お前大丈夫か⁉︎」
「………うるさい金崎。………静かにしろ……」
金崎大地はノックもせずに扉を開けて、見てわかるぐらいには重症な赤羽を心配した。
「……………で、何のよう?」
「………あ、あぁ。椎名のやつが、自分も辛そうなのに、お前の様子を見てきてほしいって言うから」
「─────……………待って、今なんて言った?」
「いやだから、椎名が、後は奥田もか。自分も熱出て辛そうなのに、お前の様子を見てきてくれって」
カルマは、咄嗟に身を起こした。
熱と諸々で辛そうなのに、ベッドから滑り落ちながら、何とか立ち上がる。
「お、おい動くな!見た感じお前が一番ヤバいんだぞ!」
「……愛美、さん、………、ひ、よりさん」
壁に寄りかかるように手をつきながら、フラフラと歩いて二人の元に行こうとする、が。
力がそれ以上入らなかったのか、その場で膝をつく。
限界が来たのか、意識を失いそうになりながらも、赤羽業は意識を失うその瞬間まで、二人の名を、譫言のように呟いていた。
そして、Bクラスのテントでは。
「か、神崎くんどうしよう!帆波ちゃんとあかりちゃん、熱が凄い!」
「なぁ神崎!潮田が起きない!後、男子も半数以上は倒れてる……!」
「……っ!動ける奴は倒れた生徒を抱えてクルーザーまで行け!ペナルティは一旦気にするな!」
「う、うん!」
「わ、分かった!」
首脳陣で唯一無事だった神崎の指示の元、Bクラスは倒れた生徒達をクルーザーまで運んで行った。
もはや、試験がどうこう言っている場合ではない。
(……っ!限定的なパンデミック、か?だが、毒を盛られた可能性も……、今はそんなのどうでも良いだろう!)
例え、この試験を放棄することになったとしても。
そんなことよりも、早く彼らを……!
Aクラスの拠点の洞窟では。
「動けるものは倒れた生徒を連れてクルーザーへ!
だが無理はするな、転んで怪我したら最悪だ!」
(まさか、よりにもよってこの日にこんなことが──!クソ、
何よりも、クラスメイトの安全と、それから保護を優先しなければ。
ペナルティは今は無視して良い。この規模のパンデミックなら、必ず帳消しになる………!
とにかく、急がないと、少しでも治療が遅れれば重症化のリスクもある。時間との勝負だ!)
浅野は指示を出していた。本人も隠してはいるが熱と倦怠感に襲われている。これほどの体調不良の中でさえ、思考に一切の曇りはない。
げに恐ろしきは精神力、ボロボロになりながらも、それでも責任を果たそうとしている。
そんな浅野を葛城は叱った。
掴んだ肩は、間違いなく熱かったので。
「────良いから黙って寝ていろ!後のことは俺たちでどうにかする!」
「……っだが!」
このクラスのリーダーとなったのは、自分だ。
ならば、責任を、果たさなければ………!
「………俺を信じろ、浅野……!」
葛城の、その言葉に、浅野は、救われたような気持ちだった。
「………っ、頼む、葛城………!」
それだけ言って、浅野は意識を失い、崩れ落ちた。
とっくのとうに、限界が近かったのだろう。
葛城は浅野を支え、背負った。
「動ける奴らは倒れた生徒を!抱えきれなかったら複数人で行け!森を抜ける必要がある!安全が最優先事項だ!」
「は、はい!」
「おい、こっち誰か来てくれ!」
「今行く!」
Aクラスは、すぐさま役割を分担し、動ける生徒が他の生徒を運び、手伝い、森を抜ける。
そんな中で。神室は森下を背負って葛城の隣に並んだ。
「………今考えることじゃないのは分かってるんだけど、やったとしたら誰?」
自然に起きたパンデミックと捉えるよりは、そっちの方が自然だろう。
やったとしたら、これが、最大のメリットになるとしたら。
それは、唯一、リタイアのペナルティが存在しない。
「Cクラスをおいて、他にはあるまい」
唯一、無人島に残っていた
明らかに、体調を崩している。間違いなく平熱ではないし、今すぐにでも、倒れてしまいそうだ。
だが、リタイアするわけには、いかない。
Dクラスの見せた隙を、必ず、突く。AとBに少しでも追いつき、Dを少しでも引き離す為に。
「………誰の仕業か、知らねぇが………!最後に勝つのは、俺だ……!」
朝日の差し込む森の中で、龍園は、笑った。
清隆を背負って、クルーザーの波止場に着いた啓誠は、そこで異常に気付いた。
「………っ!他のクラスにも、こんなに……!」
自分たちDクラスだけではない。
AクラスとBクラスも、こんなに、倒れた生徒が。
今は、クラス間競争だとか、言っている場合じゃない。幸い、Dクラスの拠点は、最も波止場に近い。
今、まともに動ける男子の中で、力の強い生徒は───!
「須藤!高円寺!運び終わったら他のクラスも手伝う!良いな⁉︎」
啓誠の指示を聞いて、みーちゃんを含めた女子四人を運んでいた高円寺と、男子を二人纏めて背負っていた須藤は、すぐさま頷いた。
「ことがことだ。手を貸そう。幸村ボーイ」
「……あぁ。分かった!お前も手伝えよ、幸村!」
「言われるまでもない……!」
「………っ、俺もやる……!」
寛治は一人を送り届けるだけで疲れ果てながらも、すぐさま動き出した。これでも一般男子なのだ。こんなところで、倒れるわけにはいかない………!
単純な身体能力において、Dクラスは一歩抜け出している。
拠点の近さも噛み合って、3クラスで最も早くクルーザーに全員を送り届けられた。
だからこそ、彼らはすぐ様他のクラスを手伝い始めた。
「すまん。恩に切る………!」
「礼を言われるまでもない。口よりも足を動かしたまえ」
Aクラスの生徒達を、纏めて三人運びながら、高円寺は礼を言ってくる葛城にそう言い返した。
助かったのは事実だが、些か慇懃無礼が過ぎるというか、何というか……!
今はそんなこと気にしている場合ではないけれど………!
「──他に倒れた生徒は⁉︎」
「まだ拠点に何人か……!今は女子達が看病してる……!」
「うっし、すぐに行くぞ寛治!」
「っおう!」
Dクラスの誇る体力馬鹿と、お調子者は、Bクラスの生徒を運び出している。
神崎としては、心から助かったと思っている。
………大きな貸しが、出来てしまったな。
雨が降り始めた頃に、漸く、倒れた生徒達を完全に運び込めた。
その後、クルーザーの中で、緊急会議が行われた。
「星之宮先生。生徒達の容態は?」
「今は落ち着いてきている。具体的な症状としては、熱と倦怠感。嘔吐した生徒は幸いにも居ない。拗らせた風邪、と言ったところかな?
生徒達みんなの対応が早かったから、万が一は起こり得ないよ」
養護教諭、星之宮知恵は、そう言った。
教師達は、その診断に一様にホッとした。
………ならば、次は試験についてだ。
「リタイア分のポイントは取らない、ここまでは確定でいいか?」
「あぁ、私はそれでいい」
「うん。私もそれでいいよ」
「私としても同意です」
原因不明のパンデミック。
クラスリーダーも含めた、一年生のおおよそ四割近くがリタイアした。………これでは試験にならない。
リタイア分のマイナス30ポイントは取らない。
────そこまでは、確定した。
「俺としては、全クラスに一律300CPは、与えるべきだとは思う。つまり、それまで消費したポイントを無しにする形だ。
無論、スポットポイントの加算と、リーダー当てのボーナスとペナルティは、きちんと反映させるが」
真嶋の提案に、茶柱は同意した。
「……………私としては、異論はない。
今回の原因が、
しかし、星之宮は、懸念を口にした。
「………でも、もし、どこかのクラスの生徒が、やったとしたら……?」
だが、坂上はそれに異を唱えた。
「────証拠もないのに、処罰を下すわけにもいかないでしょう。毒を持ち込んだ生徒は、一人も居なかったのですから」
そんな坂上に、茶柱は鋭い視線を向けた。
「───だが、今回の件、Cクラスの生徒が行なった可能性が、最も高い。何せ、一律300CPを与えられて、最も得をするのは、
「──言い掛かりはやめて頂きたい。最も被害者が多いのは、Cクラスなのですよ」
「………それは、そうだが」
そう。既にリタイアしてクルーザーにいたCクラスは、全体の七割近くが倒れた。
人数で言えば、最多のクラスであるので、他クラスの担任達は一応納得した。
ただ、証拠が見つかったら、話は別だが。
…………生憎、この雨のせいで、それらしい痕跡は完全に洗い流されてしまうだろう。
(………狙っていたとしたら、とんでもない大局観、と言っていいな。これほどの生徒がいるかもしれないとは、今年の1年は、化け物揃いだ)
茶柱が思ったそれはきっと、その場にいる全ての教師が、思ったことだった。
これほどの異常事態の中で、しかし彼らは完璧に、やるべきことをこなしていた。
その時点で、彼ら彼女らは、これまでの入学生の中でも、上位の実力を持っていると言って良い。
「犯人がいるにしろ、いないにしろ、証拠はもはや見つけられないだろう。
ならば、全クラス一律300CPは与える───つまり、それまで消費したポイントは完全に無しにする、ということで良いな?」
「異議なし」
「異議なし、だね」
「異議なし、です」
そうして、ここまでに消費したポイントは、完全に無しになった。
その通達を受け取って、啓誠は思わず顔を顰めた。
(これだけのことが起きながらも、尚もまだ試験を続行する、か)
ため息を吐きそうになりながらも、取り敢えずは自分がリーダーとして、全体の方針を決めた方がいいだろう。
まぁ、後一日、否、一晩だけだが。
「──皆、聞いてくれ。
試験は続行だ。後一日、いや、今晩を乗り越えれば、それで終わり。
ただ、体調を崩したらすぐに行ってくれ。今回に限り、体調不良のペナルティは無くなるからな」
しかし、Dクラスからリタイアする生徒はいなかった。
高円寺も含めて。
「───お前は、リタイアするものだと思っていたんだけどな」
「ふふふっ、せいぜい後一晩だ。私の時間は貴重だが、一晩を惜しむほど切迫しているわけでもないのだよ、キャンプボーイ。
それに、君たちの戦果を、見届けてから終わるのも悪くない」
「…………そうかよ」
正直、啓誠としても同じ気持ちだ。
Cクラスとの情報戦の結果を、見届けてから終わりたい。
そういう意味では、倒れなかったことは、啓誠にとって幸運だと言える。
最後の一晩、雨も上がったので、啓誠は須藤と寛治、高円寺と焚き火を囲んで語らっていた。
まぁ、もう深夜ではあるが、全員、目が覚めていたので。
「まさか最後の最後で、こんなことになるとはなぁ。運が無いぜ」
「……まっ、だよなぁ。春樹のやつも、怪我でリタイア、か。悪いことしちまったよなぁ」
「………あ〜〜うん。あんま気にすんなよ健。春樹も、きっと気にして無いさ」
「……だと、良いんだがなぁ」
寛治と須藤が、そんな会話をする中で、啓誠は、高円寺に向かい合っていた。
「──俺としても、大まかな予想はついているが、お前の意見も聞かせてくれ、高円寺。
誰が、
「───
「………やはり、か。ただ、この雨で、証拠は殆ど……」
「だと、思っていたんだがね」
「………?
清隆は、海釣りから戻ってきてすぐ、残った最後の一つのスイカを、勝者の特権とか言って寛治の目の前で見せつけるように食べていた。
寛治は悔し涙を溢していた。
───つまり。
赤羽を警戒して、スイカに一切の手をつけなかった須藤と啓誠。
丁度海釣りに行って、スイカを食べる機会のなかった、寛治と高円寺。
男子の中で、この四人の共通点は、スイカを食べなかったこと。
他の生徒達も、スイカが苦手だったりで、食べてはいなかった。だからこそ、スイカこそが、毒入りだったのだと、啓誠は結論付けた、が。
「───赤羽ボーイは、自分からスイカを食べたのだろう?
「…………確かに、無作為にスイカを選んでいたし、何か印があるようには見えなかったが」
「それに、赤羽ボーイが実際にスイカを切る瞬間を、堀北ガールと櫛田ガールは目の当たりにしていたそうじゃないか。
あの二人を出し抜いて、自分が食べないスイカにだけ毒を盛るのは、不可能だろう?
そもそも、スイカを食べたが無事だった生徒も、数人いる」
そう、なのだ。
スイカを切るのに使った包丁は、Dクラスの物だし、まな板もそう。
スイカを食べても無事だった生徒はいる。長谷部はそのうちの一人だ。だがそれは、スイカに毒がない証明にはならない。毒なしと毒ありがあった。それだけだ。
ただし、スイカそのものに毒を仕込んでいたのなら、赤羽は、
だが、だとすれば。
「………無人島に植えられていたスイカに、何らかのウイルスが紛れ込んでいた。
つまり、学校の管理問題、か?」
「学校側は、そう捉えているのだろうね。
それに、全クラスが手をつけたであろうものは、堀北ガールと櫛田ガールが持たせた、私たちが取ってきた果物も同じだ。そちらにウィルスがあった可能性もある。
だからこそ、それまでのCPの消費が、無かったことになったのだろう」
学校側の、補償と謝罪、ということなのだろう。
「…………だが、もし赤羽が、
「───その可能性は大いにあるが、それだと、メガネガールと文学ガールが倒れた説明がつかない」
「………奥田と、椎名。赤羽に近い女子二人、か」
須藤の話では、奥田に被害が及びそうだったので、赤羽は小宮に報復したのだという。
椎名もまた、あれだけ近い位置にいるということは、赤羽にとっての庇護対象なのだろう。
恐らく、綾小路清隆にとっての、堀北鈴音と櫛田桔梗のように。
「…………天地がひっくり返っても、赤羽が二人を傷つけることはない。お前は、そう見ているんだな」
高円寺は、焚き火を見つめていた。
ぼんやり、とはまた違う、そんな目でいた。
「───天才とは、往々にして孤独だ」
啓誠は、いつの間にか須藤と寛治も、静かに高円寺の話に聞き入っていた。
「………他者より優れ、他者を上回り、他者が理解できず、他者に理解されないゆえに。
幸村ボーイ。君のような秀才には、分からない話だろう」
秀才。その言葉に、啓誠としては、頷くしかない。
一段ずつ積み重ねていくしかない幸村啓誠の前で、綾小路清隆や、高円寺六助を筆頭とした天才達は、容易く十段、二十段を積み上げ、縦ではなく横に伸ばしたり、と思ったら斜めに伸ばしたり、かと思ったらAからZを積み上げたり。
とにかく、理解はできないが、あっさりと上回ってくる。
「だからこそ、天才は他者に冷たく、理解も放棄し、孤高を選ぶ。
──時としてそれは、冷酷で、無慈悲で、機械的に見える」
天才とは、そんなものだ。
「しかし時として、天才は出会うこともある。
自身を理解し、尊重し、共に歩むことができる。そんな存在に。
その存在は、同じ景色が見えているわけではない。同じくらい頭がいいわけでもない。
だがそれでも、天才のそばにいる」
「だからこそ、天才はその存在に執着する」
「その存在に出会えたからこそ、天才は孤独でもなく、孤高でもなく、当たり前の人間となる」
嘗て、
「だからこそ、天才はその存在を傷つけることができない。守り続けようとする。───そして時として失う」
「────…………だからこそ赤羽ボーイは、あの二人に毒を盛ることだけは出来ない。
自身が毒を飲むことも、旧友に毒を盛ることも出来るが、あの二人にだけは、それができない」
…………それこそが。
天才を人間たらしめる楔である。
「………それは、お前の
啓誠は、そう問いかける。
高円寺六助という天才が至った、天才を人たらしめる理論なのか、と。
「────………あぁ。それが私の
その理論の、通りならば。
未だ、その存在に出会えていない、高円寺は。
「………よくわかんねぇけどよぉ。多少頭良くっても、同じ飯食って同じ寝床で寝て、同じものを綺麗だとか美味しいだとか思えれば、それは友達になるんじゃねぇのか?」
「───そんな単純な話でもないから、高円寺は悩んでんじゃねぇの?」
「私は悩んでなどいないが?」
寛治は、目の前の炎を眺めながら、須藤の理論に反論する。
「………この一週間、ずっと、清隆と競っていて、あぁ、コイツは、俺と違うんだな、って思ったことは、沢山あった」
テントの建て方、魚の釣り方、果物の集め方、森の歩き方、色んなものを競い合って、その度に、心から思う。
コイツは、化け物だな、と。
「同じことをしてても、同じものを見てても、何かが違う人間だっている。
いやまぁ、人間なんてみんなそんなものって言っちまえばそれまでなんだけど、でも、常識とかモラルとか、そういったものがあるように、ある程度の共通認識、みたいなものがあるんだ」
社会を生きる上で、守らなければならないとされるもの。
そういうものを、生きていくうちにいつのまにか身につけている。
「───でも、天才と呼ばれる人種には、そんなものが無いんじゃないかって、考える。
『馬鹿と天才は紙一重』って諺あんだろ?あれってそういう意味なのかな、とか、この一週間で考えたんだ。
そういう、社会を生きていく上で、必要不可欠な、倫理や、道徳、常識といったものが、天才と呼ばれる人たちには理解できない。だからこそ、あいつらはある側面から見たら、馬鹿って呼ばれるんじゃないかって」
この一週間、綾小路清隆の化け物振りを間近で見る度に。
高円寺六助が、池寛治を道化扱いする度に。
理解できない恐ろしさのようなものを感じ取った。
色んなことを教わりながらも、時々、綾小路清隆に人の心はないんじゃないか?と思った。…………なんで効率的な毒の盛り方とか、その手の情報を教えてくんだよ。何でお前はそれがわかんだよ。
高円寺六助が、寛治の努力やら何やらを、喜劇として消費する度に。それを、本人の目の前で行っていく度に。コイツ頭おかしいんじゃないか、と思ったりした。
だがそれでも、二人が、天才であることは、疑う余地もない。
「………まぁ、お前の考えも分かるぞ。池」
…………あの、ストーカー事件の時。
綾小路清隆ならば、佐倉が一人で動き出すことまで、予測できていたのでは、とそんな疑いを抱いてしまう。
『誰の為だと、お前は考える?』
………まるで、幸村啓誠の思考を、導くように。
この問題を、どうやって解こうか、と、教師が生徒に優しく声をかけるように。
そんなふうに、誘導されていたのではないか、と今になって思う。
…………きっと、幸村啓誠がその可能性に行き着くよりも早く、綾小路清隆は気付いていた。
────まぁ、だからなんだ、という話なのだが。
「…………まぁ、清隆は、俺にまだ話していないことがあるし、俺もまだ、話していないことは、いくつもあるが。だとしても。
俺たちが友達だということに、変わりはない」
─────天才を人たらしめる楔。もしかしたらそれは、案外単純なものなのかもしれない。
彼らは、確かに人なのだ。
やがて、夜が明ける。
焚き火を消しながら、四人は立ち上がり、最後の点呼に向かった。
無人島特別試験、その全てに決着が、着く。