殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 サブタイトルは最後に全文出します。


山内春樹の──

 無人島試験最終日の点呼。

 数多くの生徒がパンデミックによりリタイアしたために、集まったのは一年生全体の凡そ四割程度。

 特にCクラスは、龍園翔を除き、一人も居なかった。

 

(凄まじい執念だな。龍園翔。尊敬に値すると言っていい)

 

 見れば分かる。間違いなく龍園も体調を崩している。

 だが、それでもなお、ただ一人残り続けている。

 Dクラスのリーダーを当てる。ただ、それだけの為に。

 

「───………はぁ。おい龍園。一秒でも早くリタイアしろ。そんな体調でいれば、最悪命に関わる可能性もあるぞ」

 

 流石に死なれたら目覚めが悪いので、一応の警告はしておく。

 まぁ、言って聞くような奴ではないだろうが、な。

 

「───はっ、粋がってられるのも今のうちだぜ、幸村ぁ」

 

 しかし龍園は、どこまでも挑発的で、好戦的な様子だった。

 ………まぁ、忠告は、した。

 

「ク、ククク」

 

 気付いてすらいない。それに堪えきれず、噛み殺しきれなかった笑い声が溢れる。

 AとBのクラスリーダーを掴めなかったのは惜しいが、一先ずはDをさらに落とすだけでも、全然良い。

 何れにせよ、最終的に勝つのは、龍園翔なのだから。

 

 …………そんな龍園を、啓誠は憐んでいた。

 

「全員、揃ったな」

 

 Aクラスの真嶋が、メガホンを使い、生徒たちへ告げる。

 

「───まずは謝罪を。我々の不手際により、諸君らに多大なる負担を被らせてしまった。

 申し訳ない」

 

 教師陣が一様に頭を下げる。

 …………常に学校が生徒の上に存在するこの学校としては、ある種異例の光景だった。

 

「───さて、それでは、今回の特別試験の最終結果を発表する」

 

 それぞれの生き残った生徒たちが、固唾を飲んで見守る中で、龍園翔だけが、強烈な笑みを浮かべていた。

 ………幸村が生き残っていることは確認済み。

 スポット占有の18ポイントに、リーダー当て、そして消費が帳消しになった300を加えた、合計368CP。元々持っている560CPに加算され、この一戦で、Bクラスとの差は、間違いなく縮まり、Dとの差は広がる。

 間違いなく、一位は、Cクラス───。

 

「───四位、Cクラス。250CP」

「……………は?」

 

 …………300から、50を引いた数。

 つまりそれは、リーダー当てに失敗し、スポットボーナスが帳消しになり、ペナルティのマイナス50ポイントを受けたことを、意味する。

 

「三位、Bクラス。318CP」

 

 順当な結果。

 一箇所のスポットを占有し続けることにより得た、スポットボーナスを加えた、ある種の満点。クラスリーダーである潮田渚がリタイアしてしまった為に、まず間違いなくリーダーを当てられることは無い、と分かってこそいたが、それでも。

 Bクラスは、ホッとしつつも、これより上のAとDに、仄かな驚きを見せた。

 

「二位、Aクラス。336CP」

 

 浅野が見つけた、もう一つのスポットを占有し続けることにより、占有ボーナスを単純に二倍した、満点以上の回答。

 クラスリーダーの森下がリタイアしてしまった後も、リーダーとなった神室の手により、確かに占有され、六日目も、占有ボーナスを獲得し続けていた。

 ………だが。

 

「一位、Dクラス。372CP」

 

 Dクラスを除く、生き残った全てのクラスが、驚愕する。

 リーダー当ては、行っていない。

 ということは、単純計算で、四箇所のスポットを、占有し続けていたことを意味する。

 ………だが、そんな動きは、どこにも……?

 

「…………っ、そうか……!池と綾小路、そして高円寺……!」

 

 葛城は、思い出す。競争だ何だと騒ぎながら、堂々とAクラスの拠点の近くを通り過ぎた、その三人を。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ………そう。Dクラスのクラスリーダーは、池寛治。

 競争そのものは、本物であり、育成のために行なっていた、というのも本当。

 他のクラスも、大なり小なり、遊んでいたが故に。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 唯一、その可能性に気付きかけていた浅野は、しかし、体調不良でリタイアしてしまった。

 だが、浅野がいたとしても、リーダー当ては行わなかっただろう。

 当たる確率は三分の一。そこに加えて、()()()()()()()()()()()調()()()()()()()ために、それ以外の生徒がリーダーになった可能性も生えてくる。

 ………こんなギャンブルに、浅野が乗る理由はない。

 

「よく隠し切ったな寛治!」

「………はぁー。まじで清隆のやつさぁ。俺の心臓壊す気かよぉ。島中歩き回って競争しながら占有して、って、本当に怖かったんだからなぁ?」

「ふふふふふふふふふ。それでも、見事に隠し切ったその演技、道化として、素晴らしいものであったよ」

「……お、おう。褒めてくれんのは、ありがたいわ」

 

 ………それが示すことは、つまり。

 

「………クハッ、味方すらも騙すか、綾小路清隆……!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 龍園翔は、そう結論付けて。

 

「───()()()()()()()()()()

 

 幸村啓誠に、その間違いを、突き付けられる。

 

「………はっ?」

 

 眼鏡を直し、憐れみながら、全ての真実を、話し出す。

 

 

 

 

 初日の、夜の森で。

 

 綾小路清隆は、頭を抱えて蹲る山内春樹に、失望を隠せないでいた。

 

「………はぁ。成長したと思ったんだがな。

 騙されるのは仕方ないが、せめて警戒心は見せろ」

 

 無警戒は、流石にいただけない。

 まぁ、怪我までしていたし、疑い切れるとは、思わないが。

 

「────…………少しは、見直してきたんだけどな」

 

 そんな綾小路清隆の言葉を聞いて、山内春樹は、堪えきれずに、笑い出す。

 

「……………?」

 

 理解できない。何故、今笑う?

 

「────…………あぁ。最高だぜ綾小路」

 

 山内春樹は、顔を上げた。

 そこにあるのは、自信に溢れた、満面の笑み。

 

「…………!まさか、お前」

 

 その笑みを見て、綾小路清隆は、その可能性に至った。

 無意識のうちに排除していた、その可能性を。

 

「──……わざと、なのか?」

 

 

 怪我をしている伊吹のために、救急箱を()()()持ち出しながら、山内春樹は思考を回す。

 

(…………もし、伊吹が、リーダーを探る為のスパイだったとして。………監視するか、追い出すかの、二択。

 ()()()()()()。第三の選択肢、利用して、騙し切る)

 

 ………リーダーを隠し切り、偽リーダーを指名させる。

 そうすれば、クラス間競争で、大幅に有利が取れる。

 

(……………そんで、俺ならきっと、()()()()()()()()()、はず)

 

 山内春樹は、まず間違いなく、一年生の中で、最下位に近い。

 ───だからこそ、疑われない。

 

(………寛治は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ならば、自分も。

 山内春樹が、池寛治の、友達ならば………!

 

(………俺だって、やってやる………!)

 

 山内春樹は、覚悟を決めた。

 

お前(綾小路清隆)すら、俺が愚かだと疑ってねぇ……!自信がついたぜ、綾小路……!俺なら、伊吹を、騙し切れる……!」

 

 ()()()()()()

 ………だが、それは。

 

「…………そんなことをすれば、お前は、龍園に目をつけられるぞ」

「上等だ……!」

 

 綾小路清隆の忠告に、山内春樹は即答した。

 

「………寛治は、役目を果たそうとしている……!」

 

 クラスリーダーの指名。

 そんな重荷を背負わされながらも、しかし、()()()は、確かな覚悟と、決意を見せた。

 ………きっと、高円寺はだからこそ、寛治の行く末を見るつもりで、ここに残ったのだろう。

 池寛治(凡人)が、潰れるのか、潰れないのか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………俺が、あいつの、友達、なら………!」

 

 綾小路清隆と、幸村啓誠のような。

 お互いが、お互いの実力を認めているからこそ、成り立っている関係ではなく。

 ただただ、気が合うだけの、関係だからこそ。

 

「………あいつにだけは、負けられない……!」

 

 綾小路清隆は、その瞳に、全てを賭けた(オールイン)

 

「───いいだろう」

「──っ、!」

「俺は動かん。俺が動けばそれだけで、伊吹の警戒度は跳ね上がる。鈴音たちに共有はする、だが」

 

 Dクラス、どころか学年でも、最強クラスの実力者だと、警戒されている綾小路清隆が動けば、それだけで。

 

「──最後まで、お前が騙し切ってみせろ」

「………!あぁ!自己紹介んときに、分かり切ってんだろ!俺は、()()()()()()()()()()()()()!」

 

 山内春樹は、自慢げに笑い。

 綾小路清隆は、楽しそうに笑った。

 

 

 二日目。

 

 

「なぁなぁ伊吹ちゃん、塩使う?やっぱスイカは塩振った方が上手いよな?」

「…………はいはい。分かったわよ」

 

 ()()()()()()()

 伊吹どころか、クラスメイトすらも。

 

(掴みは完璧!二日目にして、もうここまで……!)

 

 達成感すらも感じさせながら、伊吹に見られないように、不敵な笑みを浮かべたところで、()()()と、目が合った。

 

(───やばい!今の見られた!)

 

 咄嗟に目を逸らして、何事もなかったかのように、曖昧に笑って誤魔化した。

 

「………ふぅん。なるほどねぇ」

 

 赤羽業は、さっきの笑みを見た時点で、全てを見抜き切った。が。自身の利益のためにも、表に出すことは、しなかった。

 

 第一の受難は、こうして去った。

 

 

 三日目。

 

 

 鞄の中に、明らかに女性物の下着が入っているのを見て、山内は一瞬動揺し、納得し、好機だと思った。

 

(───多分、いや、間違いなく伊吹の仕業!だけど、これでうまく孤立出来れば大チャンス!

 綾小路なら、絶対に孤立するように誘導してくれる!)

 

 だが、鞄を確認しに来たのは、啓誠だった。

 

(───やっばい!平田なら知ってるし、多分手伝ってくれたけど、幸村は不味い!

 コイツなら絶対、俺じゃなくて伊吹がやったことまで見抜くに決まってる!)

 

 慌てふためく山内を見て、寛治は鞄を覗き見て、下着があることに気付く、が。

 

(うっわ。ここまでやるか伊吹のやつ。まぁ、幸村だし大丈夫だろ)

 

 寛治がそう考えた通りに、啓誠は鞄を確認して、すぐさま伊吹の仕業だと理解して、そこで、一瞬熟考する。

 

(………『伊吹は最高の武器だ』と清隆は言っていた。十中八九、偽リーダーの情報を掴ませるつもりだったのだろうが。

 ───なるほど、武器を振るうのは、山内か)

 

 ならば、今自分のやるべきことは。

 

「────山内っ!お前っ!これはどういうことだ‼︎」

 

 ここで、山内を孤立させること(援護すること)

 啓誠が気付いた事に気付いたのだろう。すぐさま、山内は、()()()()()情けなく映るように、嘘をつく。

 

「ま、待ってくれ……!知らない。俺は、知らないんだ……!」

 

 そんな二人の様子を見て、池寛治は一瞬思考を停止した。

 

(──いや、いやいやいやいや。あの幸村がこんなのに騙される?いくらなんでもあり得ないだろ。

 ていうか、春樹も大袈裟すぎるし怪しすぎんだろ。こんなの、みんな春樹がやったって思っちまう)

 

 咄嗟に、そう咄嗟に、二人を止めようとして、思い出す。

 

『今となっては、伊吹は最高の武器だ』

 

 あの時は、その言葉の意味が、一切分からなかったが。

 

(………も、しかして、そういうこと、なのか?)

 

 目の前で、大袈裟なぐらいに声を荒げる幸村と、大袈裟なぐらいに情けない春樹を見て。

 もし、自分の結論が、正しいなら。

 

(───俺に、何が出来る)

 

 ここで、春樹が孤立したとして。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(もし、仮に、伊吹を騙し切ることが、春樹のやっていることなら。

 少しでも、伊吹が、騙されるように!)

 

 ───嫌だ、と。

 そう心から言える。きっと、春樹を、傷付けるけど。

 友達が、頑張っているのなら。

 

(助けてやるのが、友達だろ!)

 

「───春樹てめぇ!何してやがんだ!」

 

 ───完璧だ。

 

(これでいい!これでいい‼︎最高だぜ二人とも!

 ───これなら、完全に孤立できる!)

 

 殴られながも、山内春樹は笑いを堪えるのに必死だった。

 さぁ、さぁ、さぁ。

 騙されろ!伊吹澪………!

 

 もう十分だと判断した高円寺の誘導によって、自然と山内は拠点から離脱できた。

 森の中で、綾小路清隆は、話しかける。

 

「──……その、大丈夫、か?」

 

 あの二人が、伊吹を騙すために動いたことぐらいは、綾小路清隆なら分かる。

 だが、他の生徒もそうだとは限らない。

 大多数は、本気で山内がやったと思うだろう。

 

「………はっ!何言ってんだよ綾小路……!ここまで完璧だ……!あとは、伊吹に、写真撮ってきて欲しいだとか、頼ませるだけ……!」

 

 ………そう。

 ここまでで、もはや勝利は確定した。

 伊吹は、完全に騙されている。自分が、山内を貶めた事に、罪悪感すら抱いている。

 ────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「───……もう、お前の仕事は無いぞ、綾小路……!」

「ふっ、そのようだな」

 

 後は、寛治と高円寺を引き連れながら、島中を遊び歩くだけ。

 宣言通り、三日で終わりだ。

 

「──後は頼むぞ、山内」

「───おう!任せろ!」

 

 声を顰めながら、そう笑い合った。

 

 その日の夜。

 

「いくらなんでも殴るのは酷いだろ」

 

 いかにも落ち込んでいます。というようなポーズを見せながら、思わず漏れ出た本音。

 ちなみに体育座りは、初日の綾小路を参考にした。

 

「──大丈夫、山内?」

「──伊、吹、ちゃん」

 

 第二の受難は乗り越えた。

 さぁ、後は、引き出すだけだ。

 

 四日目。

 

 どこまでも、情けなく。

 どこまでも、弱々しく。

 ───山内春樹の嘘は、完璧だった。

 

「────信じるよ」

 

 その言葉を、引き出せた時。

 山内は、勝利を確信した。

 

 五日目。

 

 伊吹がカタログを燃やしたのは、最終確認だろう。

 Dクラスを裏切っても良いと、山内春樹が、思っているのか、どうかの。

 

 だが、それは、山内春樹最大の受難を呼び寄せた。

 

「──はっ?健お前、伊吹ちゃん疑ってんのか?」

 

(ばっか、健、おま、お前!

 せっかくここまできたのに……!)

 

 これで伊吹が、山内を利用することを諦めて仕舞えば。

 これまでの全てが、水の泡……!

 

(ぁぁぁぁぁああああ!

 馬鹿っ!ほんっとに馬鹿!それはダメだって!『伊吹がやったんじゃねぇかって疑ってるやつもいる』はダメだって!

 もう、マジで、速く帰れ!)

 

「………すま、なかった」

「………おせ、ぇんだよ」

 

(ほんっとに、帰るの遅すぎ)

 

 伊吹と隣り合って夕飯を食べながら、山内は悩む。

 

(……やっべぇどうしよ。最悪俺から持ち込むかぁ?)

 

 なんてことを考えていたところ。

 

「さっき、龍園にあった」

 

 嘘ではなく本当に咽せた。

 えっ、何何。

 クラスリーダー見つけたら許してやる。写真撮ってこい。と。

 えっ、それを俺に話すって、つまりそういうこと(勝ち確)

 高揚感を必死に押し殺しながら、嘘八百を並べ立てた。

 デジカメを受け取って、テントに向かう間、山内はスキップしそうだった。

 最大の受難は、乗り越えた。

 

(───よしっ!よしっ!よぉし!

 後はカメラ落としたとか嘘吐いて、偽リーダー教えるだけ!)

 

 ───そこで、立ち止まる。

 そう、そこだ。

 

(───誰、を、偽リーダーって言う?)

 

 伊吹を。

 裏にいるだろう龍園すらも。

 完璧に納得して、一切の疑いを持たない、偽リーダー。

 最後の受難が、立ち塞がる。

 

(───綾小路?堀北ちゃん?櫛田ちゃん?いやいやいやこの三人は逆に怪しいだろ。じゃあ平田、も駄目だろ普通に疑われる。えっ、じゃあマジで誰?いっそのこと逆に寛治──いやあいつがリーダーじゃねぇかよ!)

 

 蹲って悩む。

 伊吹は、誰であっても信じるだろうが。

 龍園は、騙せるか───?

 

「──春樹?どうした?」

「うおっ、寛治かよ。てか幸村もいんのかよ。ビックリさせんな」

 

 そんな山内を、寛治と幸村が見つけた。

 

「………はぁ。何故お前がここに居る。作戦はどうした?」

「まぁじで順調。リーダー教えてくれって言われたわ。今勝ち確!」

「うぉっ、マジか春樹!やったな!」

「へへっ、だろぉ?」

 

 まだ五日目なのに、とは思う、が。啓誠としては素直に感心した。ここまで、やるとはな。

 だが、そこで悩んでいた、ということは。

 

「───説得力のある偽リーダーで、悩んでいる、ということか?」

 

 いやもうそこまで分かると逆に怖い。

 コイツ、綾小路か?

 

「──……当たってるけど普通に怖いわ」

「全面的に以下同文」

「黙れ。………俺の名前を使えば良いだろう」

 

 幸村、かぁ。

 いや、割とアリでは……?

 

「一定の説得力はあるし、何より俺は、龍園に喧嘩を売っている。

 そして龍園は、俺のことを見下している。

 そんな中で、俺がクラスリーダーだと言われたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 山内春樹は、それに心から納得したし、感謝した。

 

「──さいっこうだわ幸村!

 これで、勝てる………!」

 

 デジカメをそこら辺に投げ捨てて、伊吹との合流場所まで走り出した。

 そんな山内の背中に、寛治と啓誠は声をかけた。

 

「──頑張れ!春樹!」

「──勝て!山内!」

 

 山内は一瞬立ち止まり、振り向きながら親指を立てた右手を突き出し、すぐさま走り去った。

 

 

 ────深夜。

 伊吹との合流場所で。

 山内は、最後の締めに入っていた。

 伊吹がトランシーバーで、『リーダーは幸村』と言った時、ガッツポーズを堪えるのに必死だった。

 

(──勝った!勝った‼︎勝っっっった‼︎)

 

 そんな風に内心で喝采を上げる山内に。

 ───本当の、最後の受難が、やってくる。

 

『───そいつに変われ』

 

 投げ渡されたトランシーバーを、まともに掴めなかったのは、演技なんかじゃない。

 声が震えるのも、手が震えるのも、演技なんかじゃない。

 

『よう。お前がDクラスの生徒か?』

 

 声だけだ。

 顔も見えない。

 殴られることもない。

 なのに、なのに。

 

『───そんで、Dのクラスリーダーは、誰だ?』

 

 ───なんて、恐ろしい。

 

 全て、洗いざらい話して、許しを請いたくなる。

 

 騙そうとしてごめんなさい。本当は違うんです。本当は池寛治なんです。許して下さい。

 

 そんな言葉が、喉元まで上がってきて。

 

『──頑張れ!春樹!』

『──勝て!山内!』

 

『──後は頼むぞ、山内』

 

 池寛治、幸村輝彦、池寛治、幸村輝彦、池、幸村、池、幸村、池幸村池幸村池幸村───

 

「幸村、幸村輝彦、だ」

 

 山内春樹は。

 最後まで、嘘を吐き通した(戦い抜いた)

 

「…………下着盗んで、あんたの鞄に入れたのは、私」

 

 知っている。

 

「……カタログ焼いたのも、私」

 

 知っている。

 

「……アンタが、利用できそうだったから、利用した。他の奴らよりも、頭、悪そうだったから」

 

 ──知っている。

 

 全部、知っている。

 

 心から、笑う。笑う。笑う。笑う。

 

「………壊れたか。……悪かったとは、思ってるよ」

(──あぁ、こっちこそ、悪かったな)

 

 仰向けで倒れ伏した山内春樹。しかし、右腕を、壊れかけの三日月に突き出した。

 

「───……ざまぁみろ。……ざまぁみろ!ざまぁみろ伊吹!ざまぁみろ龍園!

 この、特別試験っ、お、れ、の……」

 

 そこまでで、力尽きたのか。

 天に突き出した腕は、倒れかけて────。

 

 そこで、俺が掴んだ。

 ───全く。勝利宣言なら、最後まで、やっとかないとな。

 

 レフェリーよろしく、腕だけを天に突き上げさせて。

 勝者に変わって、俺が宣言する。

 

「────お前の大勝利だ。春樹」

 

 

 

 

「お前が負けたのは、綾小路清隆(一年最強の化け物)じゃない」

 

 そう。龍園が、負けたのは。

 

堀北鈴音(一年生女子最強の女帝)でもない」

 

 完全に、予想外で。

 

櫛田桔梗(もう一人の死神)でもない」

 

 最初から、敵だとも思っていなかった。

 

高円寺六助(孤高の天才)でもない」

 

 雑魚だと、見下し切っていた。

 

平田洋介(優秀なサブリーダー)でもなく」

 

 少しは見どころのあるやつだと、そう思っていたわけでもない。

 

「───無論、(有数の秀才)でもない」

 

 ───道端の石ころとしか、思っていなかった。

 

山内春樹(嘘つきな愚者)に、負けたんだ」

 

 そこまで聞いて、体力の限界だったのか、それとも。

 龍園翔は、砂浜に倒れた。

 

 

 ───今回の、特別試験。

 文句のつけようもないくらい。

 

 

 山内春樹の、大勝利である。

 

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