殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 カルマくんのターン。


赤羽業の後始末

 期末試験も終えて、数日後。

 赤羽業は、ある先輩の部屋で、ポーカーをしていた。

 勝率は、完全に五分。勝つこともあるが、負けることもある。

 ただしそれは、真っ当にやった場合の確率である。

 お互いに真っ当とは程遠いので、イカサマがバレたら負け、というルールがある。

 ちなみに、それでも勝率は五分である。

 ───お互いに、イカサマを見抜けないので。

 

『今回は、ストレートだ』

『悪いね先輩。フラッシュだ』

 

 今回は、赤羽の勝ちである。

 

『はっ、やってくれんじゃん。んで、何が望みだ?』

『夏休みに特別試験があるって言ってたね、()()()()。先輩ん時は、どこでやったの?』

 

 南雲雅は、笑いながら答えた。

 

『俺の時は、ていうか毎年。夏休みの特別試験は、無人島さ』

 

 ───それ(無人島試験)を知った日から。

 

 カルマは、動き出していた。

  

 今の段階で、龍園が、他のクラスに勝てるかは不安があったので。

 最悪、試験そのものをぶち壊すために。

 以前、暴力未遂事件が起きた実験棟で、カルマは奥田に、ある頼み事をしていた。

 

『えっ?スモッグさんが作っていた、あのウィルスを再現できないか、ですか?』

『うん。出来れば、四日程度の潜伏期間があると嬉しいんだけど』

『……ん〜〜〜、多分、出来ます』

『ん。じゃ、お願いね。愛美さん』

『………はい!分かりました!』

 

 まずは、一つ目。

 

『………へぇ。スパイ作戦、ねぇ』

『はい。どうやら、怪我を負わせたりした生徒を各クラスに潜り込ませて、クラスリーダーを探る作戦、のようです』

 

 木の影に隠れながら、椎名ひよりから、作戦の概要を聞いた。

 

『……………馬鹿だね。龍園』

『………まぁ、そうかも、知れませんね』

『………でも、好都合だ』

 

 ………もう少しまともな作戦なら、使う機会は無いと思っていたんだが。

 ただ、この作戦に便乗すれば、赤羽の仕込みは問題なく進む。

 

『………。』

『……ねぇ、ひよりさん。ちょっと、浅野くんと会ってきて欲しいんだけど』

『………なるほど。分かりました。A()()()()()()()()

『……ん、頼むわ』

 

 これが、二つ目。

 

 初日の深夜、赤羽業は、目をつけていた畑まで来た。

 腕時計の位置情報は、律の手により偽装済みだ。Cクラスの拠点にいることになっている。

 

『ま、夏と言ったら、スイカでしょ』

 

 そうして、カルマは口の中から、注射器とウィルスが入ったアンプルを取り出した。

 ビッチ先生仕込みの、脅威の収納術である。

 全スイカの六割程度まで、ウィルスを打ち込んだら、準備は完了だ。

 アンプルと注射器は、粉々に砕いて海に撒いた。

 

(律の予報だと、六日目の夕方から夜にかけて、大雨が降る。おあつらえ向き、だな)

 

 初日の痕跡は、五日近い時間経過と、大雨の影響で、殆ど残らないだろう。

 ウィルスの特定も不可能だ。

 何せ、発症後一日二日で完全に死滅するので。

 まぁ、ちゃんとした治療を受ければ、の話だが。

 拗らせたとしても、長くて四日。重症化のリスクは、殆どない。

 

『完璧だよ。愛美さん』

 

 後はこれを、各クラスにばら撒いていくだけ。

 0ポイントスパイ作戦も踏まえれば、Cクラスの誰かがやったのでは、とある程度の生徒は疑うだろうが、証拠は残らないので、何の問題もない。

 学校側の管理問題、ということになるだろう。

 何より、疑われる分には、別に良い。

 

うち(Cクラス)は元々、ダーティな手も使うクラスだって認識。だけど、そのダーティさはあくまでルールの範囲内って認識だった。

 だからこそ、渚とか櫛田さんの暗殺は、大きな抑止力だった。だけど、今回の事件で、やろうと思えば全クラスを巻き込めるってことを示した。

 ───的をかけられる、可能性もあるけど、それをしたらどこまでやらかすか分からないっていう意識が、向こう側には働く。ていうか今回、どのクラスもある程度は得をする。

 だからこそ、狙われない)

 

 ───そう。

 パンデミックの結果、Cクラスだけが、莫大な利益を得られた、となれば、他のクラスの気付いた生徒は、Cクラスを標的にする、が。

 実際には、どのクラスもそれなり以上の利益が得られる。

 そもそも、リーダー当てを一気に難しくさせるパンデミックを起こした生徒が、Cクラスにいるはずがない。と考えるだろう。

 だからこそ、気付いた生徒たちも、何も言わない。

 

『ま、Cクラスの被害者が一番多くなるように動くから、頭良いやつしか気付かないだろうけど』

 

 全ての情報が出揃って尚、Cクラスの誰かの仕業だと看破できるとしたら、葛城を筆頭とした首脳陣ぐらい。

 赤羽業がやったのでは、という考えにまで至れるとしたら、元E組と、浅野ぐらい。あとは、高円寺もか。

 気付く生徒は殆どいない。

 学校側も動かない。

 ───まさしく、完全犯罪だ。

 

 こうして、三つ目。

 

 無人島試験、二日目。

 

『やっほー。堀北さん。櫛田さん。少し良い?』

『───何か用かしら、赤羽くん?』

 

 さぁ、ここからが、大一番だ。

 

『いや、伊吹いるじゃん?アイツ保護してくれた礼でさ、スイカ、持ってきたの。

 包丁とまな板、あったら借りて良い?』

 

 ───さて。

 問題は、櫛田桔梗を騙し切れるか、だな。

 意識の波長を読み解く精度は、渚よりも上。まぁ、対人能力は渚どころかE組でもトップクラスだし、納得なんだけど。 

 というか、Dがスパイを受け入れたってのが、完全に予想外だ。 

 

『まぁ、それぐらいなら良いわよ』

『───うん。私もそれで良いかな』

 

 敢えて二人の目の前で毒入りのスイカを食べて、二人もまた、スイカを食べる。

 この時点で、作戦の最も大きな難所は乗り越えた。

 意外だったのは、幸村の存在。

 結局最後まで食べなかった。

 想像以上に慎重で、警戒心が強い。総じて、優秀だ。

 

 ───そして赤羽は、山内春樹が、伊吹澪に見られないように笑った瞬間、目が合った。

 そこで、全てに納得した。

 

(───Bクラスに渚がいる以上、出し抜くのは不可能に近いから、普通に受け入れるだろうことは予測してた。元々優しい生徒が多いしね。

 Aクラスは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ひよりさんなら、特定できなくても、逆に特定されるような失敗はしない。

 だからAクラスとBクラスが、スパイを受け入れるだろうとは思っていたけど、D、というか綾小路たちが、伊吹さんを受け入れるとは思えなかった。けど。

 ───………山内春樹に賭けたのか、綾小路)

 

 堀北と櫛田も、知っていると見て間違いない。

 もしかしたら、平田も。

 ───全く、やってくれる。

 

『あら、なら、お裾分けとして、(黙ってなさい)何個かフルーツあげるから持っていったら?(あなたの計画に乗ってあげる)どうせ食べ切れないし(交換条件よ)

うんうん賛成(受け入れなかったら)スイカ美味しかったし(あんたを訴える)みんなはどう(それでいい)?』

 

 ………スイカ以外にも、全クラスが口にしたものがあれば、計画の完全性は、増す。

 ……だから、進んで食べたわけね。

 全く、腹黒コンビだこと。

 

 スポットボーナスは取れなくなるが、まぁ、仕方ないな。

 

『───ありがとう(分かったよ)せっかくだし受け取っておくね(交渉成立)

 

 こうして、四つ目は、クリア。

 

 櫛田桔梗ならば、ともかく。

 渚を騙すのは、実はそんなに難しくない。

 

(本当のことだけを話す。金田を保護してくれた礼は本当。お詫びとして、フルーツ持ってきたのも本当。全部が本当なら、渚だったら疑わない)

 

 何かを隠してる波長が見えたとして。

 ───それは、スパイ作戦を隠している波長だと、勘違いするだろう。

 

 Bクラスの仕込みは成功。

 

 五つ目は、完了。

 

 最後の仕上げ、Aクラス。

 

(…………ここまでを踏まえたら、ひよりさんと愛美さんにも毒を盛った方がいいんだけど)

 

 というかこの二人だけに毒が盛られてなかったら絶対に怪しまれる。

 自分も毒を食らって倒れたとしても、あの二人が無事なら、流石に。

 ────だとしても。

 

 カルマの手は迷いなく、兎リンゴを選び取っていた。

 カルマは、ひよりにだけはスイカを渡さなかった。

 

兎を愛でながら(旧友には毒を盛ったのに)兎を食べるとは(私には盛らないんですね)実に冒涜的ですね(些か詰めが甘いのでは?)

でしょ(ほっとけ)

 

 だから、ひよりは。

 

『──ところでカルマくん。どうやら他のクラスにも行ってきた(計画は順調ですか)ようですが』

『……うん。まぁね(今のところは、ね)

ふふふ(そうですか)毒味でスイカを食べすぎないで下さい(自分で毒を飲むのはやめて下さい)ね。今更ですが(これ以降は)

『……ま、そうだね(分かった。そうする)

 

 ───だからひよりは、兎にスイカを食べさせようとする戸塚を制止した。

 

『戸塚くん。兎にあげる果物は、種がないものが望ましいですよ。スイカはやめておいたほうがいいかと』

 

 その時点で、浅野は察した。

 

 二人きりで、ヘッドハンティングを断られたあと。

 

『────お前にしては、随分と思い切ったようだな。赤羽』

『何の話かな?』

『惚けるな。盛っただろう、毒を。スイカに』

『───………やらかした、か』

『………露骨過ぎる。他の奴らは気付かないだろうが』

 

 もし坂柳有栖もこの場にいたのなら、必ず気付いていただろう。

 

『………まぁ、うちにとっても利が無いわけじゃない。訴えはしないぞ』

 

(リーダー当ての危険性を完全に排除できる上、恐らくはそれまでの消費も無くなると見ていい。

 ………当然、最悪の事態にならないように、僕がどうにかする必要はあるが)

  

 熱で倒れるという前提があれば、すぐに動けるだろう。

 問題は。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ───綾小路ならば、この罠には引っかからないだろう。

 他二人も、現時点では海釣りに行っているのを確認済み。

 つまり恐らく、三人全員が、最終日まで残る。ならば──。

 

(──必ず僅かに安心する六日目の夜までは、僕が倒れるわけには行かないな)

『……、しかし、まさかお前が気にかけているのが、あの少女だったとはな』

 

 赤羽業が期待して、目をかけているであろう生徒。

 それは龍園翔と見せかけて、椎名ひよりだったのだろう。と、浅野は結論づけた、が。

 

『───………あー。うん。……ひよりさんは、そういうんじゃないよ』

 

 ──赤羽のそれに、浅野は心から驚いた。

 

『………なら、お前は本当に龍園に目をかけているのか……?こ、こんな馬鹿な作戦を考えた奴に……?』

『………まぁ、否定はしないけどさ』

 

 他者の善性に頼り切った上で、他者を完全に見下し切っていないと出来ない作戦。

 そのくせ、自クラスのクラスメイトを信頼しすぎている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を考えていないとしか思えない。

 ………いや、考えてはいるのだろうが。注視しているのが、首脳陣だけだから、他の生徒に、足元を掬われるのだろうな。

 

『────………はぁ。どれだけカマをかけても、どれだけ威圧しても、どれだけ洗脳しようとしても、椎名さんにはまるで通じなかった。

 だから彼女が、お前が目にかけている生徒だと、思っていたんだがな』

 

 ────恐らく、単純な話だったのだろう。

 赤羽業が、彼女を気にかけているのは、きっと。

 

『────なるほど。そういうこと(好きになった)か』

『全然違うよ。何言ってんの』

 

 赤羽業は本気で呆れ果てた。

 

『──……えっ、いやもうそれ以外にないだろう?態々毒を盛らない選択をするぐらいだろう?』

『そういうんじゃなくて、ただの友達だよ。ひよりさんは』

 

 あの一晩。

 殺せんせーの思い出話を、語り通した一晩。

 あの思い出が、赤羽業にとっては、何よりも大きなものになったから。

 だからカルマは、ひよりの友達なのだ。

 

『……………つまらんな』

『はっはっはっ。殴られたいならそう言いなよ浅野クン』

 

 自分は綾小路のような二股野郎とは違って、一途なのだ。

 

 

(────何故かは知らんが、後でカルマを弄り倒さなければならないような気がする)

 

 スポット占有する寛治を隠しながら、綾小路清隆はそんなことを考えていた。

 

 

 ───戻ってきた浅野は、驚いた。

 椎名が、スイカを食べていたので。

 

『───てっきり椎名さんは、スイカが苦手だと思っていたんだけどな(毒入りだと分かっていないのか?)

『───あまり好きではありませんよ(そんなこと分かってますよ)。ただ、せっかく取ってきてくれたカルマくんに悪いので(カルマくんが疑われるでしょうから)

 

 ─────本当に。赤羽業は、罪深いな。

 

 浅野は心から、そう思った。

 

 六つ目と、カルマが埋められなかった七つ目は、完了した。

 

(さぁて。最後の仕上げだ)

 

 後は、Cクラスにスイカをばら撒くだけ。

 まぁ、全体的に見たら、利益になっているが、Cクラスからは、大きな反感と敵意を買うだろう。

 というかそうなるように、龍園が仕向けるだろう。

 試験が終わって、落ち着いて考える時間さえ取れれば、龍園ならカルマがやったことにも気付く。

 

(────だから、愛美さんに毒は盛らないし、毒を盛らせない)

 

『はっはっはっ。愛美さんが包丁使うのは怖いから良いや』

『何おう⁉︎わ、私だって、ナイフの使い方は、心得てますよ⁉︎』

『んじゃ、他のフルーツやっといて』

 

 龍園もスイカを食べたのを見て。

 赤羽は、後始末は全て終わったことを、確信した。

 

(ま、流石にこんなのは今回限りだけど。()()()()()()()()()()()()()0()

 それはさすがに、ヤバいからね。せめて318は欲しかったけど、もうどうしようもないな。山内の仕掛けた罠に、伊吹も龍園も殆どハマりかけてる。

 ───よくて、250、か。 

 …………まぁ、ここは相手が一枚上手だったってことで)

 

 

 最終目的。

 試験そのものをめちゃくちゃにして、Cクラスの敗北を可能な限り0にする。これは達成したと見ていい。

 

 

 

『──あれ、石崎くん。スイカ、食べないんですか?』

『おう、奥田か。いやなぁ、スイカ、苦手なんだよな』

『───そうですか!なら、私のと交換しませんか?』

『おういいのか?助かるぜ』

『──はい!』

 

 

 

 初日の夜。

 奥田愛美は、椎名ひよりに呼び出されていた。

 

『あの、こんな夜更けにどうしたんですか、椎名さん?』

『──確認です。奥田さんは、パンデミックを起こせるようなウィルスを、作るよう頼まれましたか?』

『えぇと、はい』

『────…………やはり、ですか』

『あ、の、つまり、その、カルマくんは何を?』

 

 カルマが、何かするつもりなのだ、ということは、何となく分かっていたが。

 実際に何をするのかは、多分、椎名には、分かっているのだろう。

 

『──………恐らく、人為的にパンデミックを起こして、CPの消費を無くすつもりでしょう』

『……な、なるほど』

 

 確かに。赤羽業なら、やりかねない。

 夏休みのとき、カルマはグリップに毒を盛った。

 ───目的のためなら、手段を選ばない。それが赤羽業だ。

 

『───………そして恐らく、あなたに、毒を盛ることはないと思います』

 

 その言葉を口にしたときに走った()()()()に気付かないふりをして、椎名ひよりは話し続ける。

 

『──……あなたは、きっと、カルマくんの大切な人なので』

 

 何故か、何故か、何故か。

 ()()()()()は、泣きそうだった。

 

『──……それは、椎名さんも、だと思います』

『───……えっ』

『多分、カルマくんは、椎名さんにも、毒を盛らないと思います』

 

 奥田愛美は、愛しそうに、美しく笑う。

 

『椎名さんも、カルマくんの、大切な人なので』

 

 二人は敢えて、毒を飲んだ。

 赤羽業自身が、最も重症になるだけでなく、彼に最も近く、分かりやすく特別扱いしている女子二人も、毒に倒れたのだとしたら。

 

 赤羽業の犯罪は、真の完全犯罪となる。

 

 

 だから、椎名ひよりは、嬉しかったのだ。

 あの時、赤羽業が、リンゴ(特別扱い)を選んだ時。

 

 本当に、心の底から、椎名ひより(恋する乙女)は、嬉しかったのだ。

 

 

 ───報われないとしても。





 綾小路くん以上に罪深いかも知れない。
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