さて、体調も完全に回復したので、春樹も含めた全員が甲板に集合して、祝勝会を始めた。
平田が代表して音頭を取っている。
「無人島特別試験!完全勝利+来学期からCクラス昇格!おめでとう!」
鈴音が十万ポイントで甲板の使用権を買い取ったので、この一晩は、俺たちの完全貸切だ。
各々が書い集めたソフトドリンクとお菓子類を思い思いに食べ、飲みながら、この祝勝会を楽しんでいた。
「うぉぉぉぉ!春樹ぃぃぃ!がんばっだなぁぁぁ!」
男泣きしながら春樹に抱き着き号泣する須藤。
だが春樹は、流石に鬱陶しいのか全力で拒否していた。
「おま、力、強、離れ、ろ!」
しかし残念。須藤の力には勝てなかった。
「その、疑ってごめんね。山内くん」
軽井沢を筆頭とした女子たちが、春樹に謝罪した。
春樹は、笑って受け流していた。
「別にイイって。クラスメイトも騙せたから、伊吹だって信じたんだし」
敵を騙すには、まず味方から。と、いったところだな。
「想定以上の成長ね。ここまでとは、あなたも予想できなかったでしょ?」
「あぁ。寛治も春樹も、俺の想像以上だった」
殺せんせーの言った通り。
世界はこんなにも、面白い。
崩れ始めた三日月を眺めながら、俺は、あの一年を思い起こしていた。
「───しかし、些からしくなかったな。カルマのやつ」
「………そうね。龍園くんの作戦だと、自クラスだけ0ポイントっていう最悪の結果になりかねないから、動いたのでしょうけど」
「ま、私たちとしても、損だけじゃなかったから、別にいいんだけどね。貰えるCPとしては、単純に+60ぐらいはあったし」
食材を含めた諸々は、ほとんど自給自足だったから、そこではポイントを殆ど使ってこそいないが。
仮設トイレを含めた生活基盤を整えるのに、60ポイント以上は使う必要があった。
リーダー当て+三日の占有ボーナス分の追加と考えれば、決して悪い話じゃない。
「奥田と椎名は、自分から毒を飲んだ、ということか?」
「多分そうでしょうね」
「まぁ、赤羽くんがあの二人に毒を盛れるとは思えないからね」
俺と答え合わせをした時、高円寺は少し悔しそうだった。
その可能性を見落としていた、という顔だったな。まぁ、これに限ってはカルマというより、奥田と椎名の功績だ。
「まぁ、やってくれたわね。というのが正直なところね。あれさえなかったら、Cをかなり突き放して昇格できたのに」
「あはははは。うん。後でたっぷり仕返ししないとね」
………まぁ、うん。
利益があったとしても、それで納得できるかは、別の話だから、な。
学校に戻った後、かなり可哀想なことになるだろうな、カルマは。
主に、浅野と渚と茅野と鈴音と桔梗の手によって。
逆に、その程度で済むとも考えられるだろう。この辺りも、奥田と椎名の功績だな。
多分椎名は、そこまで考えて毒を飲んだのだろうが。
本当に、罪な男だ。
人のことをどうこう言えないだろう。
「まぁ、俺がリタイアしたおかげで、リーダーを絞られる可能性は殆どなくなったが、な」
毒入りと毒なしが混ざり合っていたとしても、見分けることは難しいことじゃない。
疑われない為に最初に切ってカルマが食べたスイカなら、必ず毒がある。カルマ本人が毒で倒れる必要があるからな。
寛治がリーダーである可能性は、殆どバレていなかったが、浅野は、俺か寛治のどちらかである可能性までは、絞れていたと見ていい。だから敢えて毒を食べて他の残った生徒がリーダーになった可能性を生やした。
こうなれば、指名の難易度は跳ね上がる。
浅野は慎重な男だ。余計なリスクを取る選択は、しない。
まぁ、浅野もリタイアするというのは、予想外だったが。
「何れにせよ、今回の試験で勝てた最大の功労者は、山内くんでしょうね」
「ま、そうだな」
………きっと、春樹の動きが無かったら。
カルマは、俺たちと契約して、ABクラスに仕掛けるプランを取るつもりだった。つまり、Cクラスのスパイを囮に、カルマと俺たちが、クラスリーダーを特定する作戦だ。
Cのスパイで、伊吹だけが動き出しが早かったのは、その為だろう。俺たちがスパイを受け入れるのか受け入れないのか、それをどうしても知っておきたかった。
スパイという建前を作らなければ、便宜上リーダーでもなんでもないカルマが他クラスを訪れる説得力のある理由はない。他クラスに門前払いを喰らう可能性も高い。
そして、伊吹が受け入れられてしまった以上、カルマが取れるプランは、全クラスでパンデミックを起こして、消費分を無しにするしかなくなった。何せ俺たちは、Cクラスに仕掛けるつもりなのだから。
まぁ、やってくれたな、とでも思っていたのだろうが。
「…………まぁ、特に頑張ってたわけだし」
桔梗は、グラスのオレンジジュースを飲み干して、空きグラスを置きながら、歩き出した。
桔梗の歩く先では、春樹がクラスメイトからもみくちゃにされていた。
桔梗が近づいてくるのに気付いたクラスメイトは、自然と距離をとった。
春樹は、息を呑んで桔梗を見つめていた。
夜の闇に浮かび上がるような、ブロンドの髪。歩き方一つとっても、美しさと色気を感じさせる所作。息を呑むような、という言葉がこれ以上なく似合うような、そんな雰囲気。
春樹のネクタイを軽く引っ張り、頭を突き出させる。
「────よく頑張ったね。
名前呼び。その上で、頭を撫でる。色仕掛けとも言えない、ご褒美、だが。
滝のような涙を流しながら、春樹は喜びのあまり気絶した。
「は、春樹ぃぃぃ!」
「死、死んでる……」
「いや違うから!死んだように気絶してるだけだから!」
「櫛田さん、恐ろしい人……!」
「流石に心外なんだけどなぁ」
魔性の女、というやつだな。
…………少しだけ、胸がざわついたが。
流石に、今回はな。
戻ってきた桔梗の手を握りしめながら、そんなことを思った。
「やっぱり綾小路くん悪い男なんじゃ………」
「無、無自覚独占欲……!」
真っ赤になって俯く桔梗を見ながら、軽井沢と松下はそんなことを話していた。
会話を聞いていた鈴音としては、全面的に同意であった。
幸村啓誠は、少し離れた場所で、ミネラルウォーターを飲みながら、思考に耽っていた。
(───パンデミックの犯人は、赤羽だった。
………つまり、それだけ追い込まれていたということ。だが、赤羽ならば、龍園すらも従えて、クラスリーダーの座につくこともできるだろうに。
…………それをしない、ということは。赤羽は、龍園を、育てている、ということか?
────清隆たちと、同じように)
綾小路清隆、堀北鈴音、櫛田桔梗が、赤点組を育成していたように。
あるいは清隆が、自分を育成しているように。
赤羽業は、龍園翔を育成している、と捉えていいだろう。
………つまり。
「───赤羽ボーイと綾小路ボーイたちは、どこか似ている、とでも考えているのかな?」
「………まぁな」
いつの間にか隣にいた高円寺に、そう声をかけられた。
高円寺六助ならば。
幸村啓誠が抱えている違和感の答えを、既に把握しているのだろうが。
彼に聞くのは、癪なので。
思考を一旦整理する為に、夜空を眺めることにした。
(…………
三日月。
月の七割を蒸発させた化物。
椚ヶ丘中学校3年E組。
清隆たちは、同じ中学の同じクラス。
───赤羽と、清隆たちは、似ている。
(────つまり、そういうこと、か?)
自身が至った結論を、何度も逆算して、見直しして。
幸村啓誠は、納得した。
「………どうやら、答えに行き着いたようだね」
「………お前は、いつからだ?」
「──………初めから」
「あの歩き方は、
重心の位置も、脱力具合も、何もかも。
すぐに人を殺せるような、そんな動きで。
なのに、一切の恐怖を、感じなかったから。
「────………………やはりお前は、
「
天才と秀才は、そう言って笑った。
「───だが、清隆は、それだけか?」
「……くくく。やはり君は、想像以上に優秀に育っている」
一年間、暗殺教室にいたのならば、堀北鈴音と櫛田桔梗、そして赤羽業の優秀さに、説明がつく、が。
間違いなく綾小路清隆は、そこから頭一つは、抜けている。
無論それは総合力の話であって、それぞれの得意分野においては、綾小路清隆を上回っているところもある、が。
───同じ教室で、同じ教師に教えを受けていたにしては、些か不自然だ。
「───………ただの、天才だった、というには、E組の制度を考えると、おかしいよな?」
「あぁ。元から優秀な天才が、あの教室でより磨かれた、という可能性は低い。そもそも、問題を起こすか、落ちこぼれるかしなければ、E組になることはない」
………公表された制度を元に逆算すると、綾小路清隆が、E組に落ちるのは、おかしい。
問題を起こすような性格ではなく、落ちこぼれるような成績でも無い。対人能力も決して低くは無い。
そもそも、何故、あれほどの男が、 Dクラスなのか。
──隣の天才は、よく分かるのだが。
「………堀北は、どことなく俺と似ているように思う。おそらく、俺と同じような理由で、E組に落ちたのではないか?」
堀北鈴音は、天才ではない。
ある種の、極まった秀才である。
だからこそ、同じ秀才の幸村啓誠としては、対人関係のトラブルが原因で、E組に落ちたのだろうと、推測する。
「概ね同意だね。そしてそれは、
高円寺の推論は、確かに、啓誠の所感に合致する。
そう考えれば、全ての筋が通る、と。啓誠は納得した。
「───………櫛田は、怒る時や、注意するときに、一瞬裏が見える」
優しいだけ。明るいだけ。
それだけでは決してないことぐらい、全員分かっている。
だがもし、E組に落ちるまでは、それを隠し続けていたのだとしたら。優しくて、明るい面だけを、見せていたのだとしたら。
「───…………恐らく、ボロを出した結果、大規模な事件を引き起こしてしまった。と、考えられる」
「うむ。ただ、櫛田ガールがそう簡単にボロを出すとは思えない。相当運が悪かったのではないか?」
「まぁ、そうだな。考えられるものとしては、偶々愚痴を吐いているところを見られた、とかか?」
「或いは、ネットに吐き出しているところを見られた可能性もある」
高育での評価にまで影響するのだから、学級崩壊まではいったのではないだろうか?
何れにせよ。
本人のミスとも言えないミスのせいで、E組に落ちたのだろう。
この二人は、まだ分かる。
「───では、清隆は、何故だ?」
何故。
綾小路清隆は、E組に落ちたのか。
「───分からない」
「……………お前でも、か」
「勘、ではあるが」
「……お前の勘なら、殆ど当たっているだろうな」
「───綾小路ボーイは、特殊な施設で、特殊な訓練を受けた、暗殺者だったのではないか?」
………………なるほど。
それなら確かに、辻褄は合う。
中学までは家から出たこともなかった。
本人が、そう言っていた。
「………巻き込まれたのではなく、送り込まれた。
幸村啓誠が感じた違和感に、完璧な説明がつく。
しかし。
「本当に暗殺者としての訓練を受けていたのなら、今、何故
既に、暗殺者としては、合格しているといって良い。
何せ、地球を破壊し得る超生物を、暗殺したのだから。
それほどの存在を、何故、こんな風に、学校に閉じ込めるのか。
「………もしかしたら綾小路ボーイは、暗殺者になるのが嫌で、ここに逃げ込んできたのかもしれない」
私立ならば、金を積めば。
公立ならば、自治体を脅せば。
そうすれば、綾小路清隆を、学校から追い出すことができる。
まず間違いなく、綾小路清隆を育成していた暗殺組織は、非合法で、莫大な資金を持っている。
そうでなければ、日本人の未成年を、暗殺者に鍛え上げるようなことが、許されるはずはない。
だがだからこそ。
「国営のこの学校には、手を出せない、か」
───その組織が、どれほどの規模なのかは分からないが。
流石に国を相手にすれば、どうしようもないのだろう。
清隆が、話していないこととは、きっと。
「────それで、君はどうする?」
「…………。」
「私には、高円寺コンツェルンという後ろ盾がある。だからこそ、多少の暗部に触れても、問題はない」
「………。」
「しかし、君にはそう言った後ろ盾が無い。もし、君が、その組織の存在を知ったと、知られて仕舞えば」
「……俺が、消される可能性がある、か」
だから、清隆は話さない。
………いや、話せない。
国が必ず守ってくれる、3年E組の生徒を除き、他の生徒にまで、秘密を共有するわけにはいかないのだろう。
だが、ここで、清隆に頼る、というのは、流石に。
「───………私のところに来るかい?」
「………⁉︎」
幸村啓誠は、目を見開いて驚いた。
思わず数歩後退り、目の前の男をマジマジと観察する。
………えっ、偽物とかでは無いよな?
「………流石に失礼では無いかね?」
「………いや、すまん」
………確かに、高円寺コンツェルンの後ろ盾さえあれば。
非合法な暗部の組織であったとしても、何とかなるだろうが。
いや、だが、しかし。
天上天下唯我独尊。七つの大罪傲慢担当。キングオブKY。ナルシスト界のレジェンド。
高円寺六助が、ヘッドハンティング、だと………?
「──………君は、私の想像よりも優秀になってきている。だからこそ、天才たる私の思考を、私が使う社員たちにも伝えることができると、そう思っているのだよ」
いずれ会社の経営にも携わるからこそ。
社員の人生を預かるからこそ。
自身の思考を理解して、他者に伝えられる存在は、必要になる時が、必ず来る。
自分だけが優れている。それだけでは、人も社会も、回らない。
「……………まぁ、考えておく」
「前向きに検討しておいてくれたまえ」
同じ
「──……それで、お前は、平田をどう考える?」
平田洋介は、優秀なサブリーダーだ。
成績、身体能力、対人能力。
あらゆる要素を踏まえて考えても、 Dクラスに落ちるような生徒では、決してない。
ならば、恐らく。
何らかの、事件を起こしてしまったのだろう。
「───………彼には、ある種の凄みがある」
思わず、高円寺六助すらも、怯んでしまうような。
「あれは、暴力に慣れている特有のものだ」
そういう要素を、一切見せていなかったからこそ。
それを初めて目の当たりにしたとき、思わず怯んでしまった。
「……………なるほど、な」
幸村啓誠は。
平田洋介の裏の顔に、大まかな予想がついた。
「おーい、ゆきむー!なーに壁の花決め込んでんの!今からビンゴ大会だよ!」
「うわっ、ちょ、長谷部、おまっ」
長谷部に見つかった啓誠は、引き摺られるように、ビンゴ大会の会場となった甲板に連れ出された。
ちなみに一等はまさかの最新ゲーム機である。出品したのはまさかまさかの茶柱佐枝。本人曰く、買ったは良いものを遊ぶ機会が無かったので丁度いい、とのことだが。
一体どこまでが本当なのか。とても気になるところである。
「───おーい高円寺ー!どうせお前運もいいんだろ?見せてくれよ!お前の豪運!」
────誰も期待しない。理解しない。尊重しない。
それが、高円寺六助の生き方であり、ここでも変えるつもりは無かったが。
(彼らには、感謝してもいいかもしれない)
綾小路清隆、堀北鈴音、櫛田桔梗。
この三人が居なければ。
きっと自分は、もっと孤独で、孤高だった。
だが、この三人が、このクラスを変えていった。
変わっていったその先で、その輪の中に、
「───ふふっ、いいだろう。キャンプボーイ。一等は私のものとなるが、それでも良いかな?」
高円寺六助も、高校生らしく。
友達と、遊んでみるとしよう。
その後、宣言通り一等を獲得した高円寺六助の手により、オークション大会が急遽開かれて。
最終的に、綾小路清隆におねだりされた堀北鈴音が、貯金の殆どを使って落札した。
「ダメンズ好きじゃん」
軽井沢恵のその言葉に、殆ど全員が頷いた。