殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 次回から船上試験。


Aクラスの報告会

 場所は変わって高育。

 

 絶品お菓子屋ハッピーパレットで、テーブルゲーム部は、坂柳有栖の接待をしていた。

 

 流石にクルーザーは一隻しかないので、一年生の試験が終わったら二年生、二年生が終わったら三年生、といったように試験が行われていくので、先輩とはちゃんと遊べるのだ。

 

 それはそれとして坂柳有栖は非常に不機嫌である。

 

「どうして私は参加できないんでしょうね?」

 

 分かりやすく頰を膨らませている。突っついてやりたい気持ちを堪えながら、微笑みを浮かべて坂柳を宥める。

 

「もう。そんなに拗ねないの。主治医さんがそう言ったんだもの。仕方ないでしょう?」

「……むぅ……」

 

 テーブルゲーム部部員総出で接待中だが、有栖の機嫌は中々直らない。

 既にプリンアラモードパフェは食べ切った後である。大変美味しそうに食べてこそいたが、それだけではどうにもならなかったのだろう。

 唇の端についていたクリームはメメが拭いた。

 

「ほうら有栖殿〜〜?ハッピーパレットの絶品ショートケーキじゃぞぉ?頰も落ちること間違いなしじゃ!」

「ふんっ!………はむっ。……………ふんっ!」

 

 緋音が差し出してきたショートケーキを一口食べて、すぐさま有栖はそっぽを向いた。

 ちょっと頰が緩んでいる。かなり美味しかったのだろう。

 流石はハッピーパレット。ならばお菓子攻撃の追撃と行こう。

 

「坂柳さん。こっちはどうかしら?ハッピーパレットの手作りアイスクリーム、爽やかソーダ味よ。ほら」

「………ふんっ!……………あむっ…………ふんっ!」

 

 藤乃がスプーンで掬い出したアイスを一欠片食べて、またそっぽを向いた。

 しかし、頬はさらに緩んでいる。

 

「有栖さん。ハッピーパレットの特製マシュマロよ。市販のものよりもずっとふわふわなの。ほら」

「………ふん。…………はむっ…………ん〜〜〜!……………あっ、ふんっ!」

 

 メメが有栖の口元に近付けたフワッフワのマシュマロを食べて、その甘さとフワフワっぷりに思わず歓喜の声を上げてしまい、すぐに体裁を整えてそっぽを向いた。

 しかし、九十九と稔とほむらをチラチラ見ている。

 やれやれ、と肩をすくめた九十九は、自分が食べていたチョコレートパフェを差し出した。

 

「………ふんっ!…………はむっ!……甘くて美味しいぃ〜〜………あっ、ふんっ!」

 

 多分自分の流れだな。と思った稔は、ハッピーパレットの特製ぷるぷるゼリーを差し出した。

 

「………ふんっ!…………はむっ!…………ん〜〜〜、美味しい〜〜………ふん」

 

 最後に、花咲ほむらはお菓子を差し出した、が。

 

「なっ、ななななぁんでわたしのは食べないの有栖ちゃぁぁぁん!?」

 

 当たり前だ。

 何だその地獄のように赤いポテトチップは。

 ハッピーパレットの極激辛ヒリヒリチップス。〜ホントに火を吹く辛さ!〜。である。

 流石は性格の終わっている花咲ほむら。激辛好きでもないと食べないだろう。ちなみにほむら本人は激辛好きではない。

 今までの傾向から見て、坂柳有栖は普通に甘党である。

 

「流石は有栖さんね。こんな簡単なのには騙されないもの」

「………当たり前です。私を騙すにはあまりに手抜きすぎですよ。ほむら先輩?」

「っぐぅぅぅぅぅ」

「それ、ちゃんと食べないとダメだよほむら。ハッピーパレットは残すとダメだからね」

「な、なんか罰金とかあった、かな?」

「いえ、罰金制度とかそういうのは無いわ。ただ、メインでお菓子を作っている子犬系の店員さんが、すごく悲しそうな顔をするの。…………その、罪悪感が凄いわよ」

 

 嘗て藤乃と九十九は、ここでホールケーキを頼んだ際に、どうしても食べ切れなくて帰ろうとしたが、お会計の際の店員の顔が、あまりにも悲しそうで罪悪感が凄かったので、残りを半分ずつ頑張って食べ切った。

 

 その後、二人は一週間は走り込みをしていた。

 

「さて、そろそろ映画の時間ね。行きましょうか。………ほむらは、それ食べ切ってから来てちょうだいね」

「待って!待ってメメ先輩!メメ先輩辛党でしたよね!辛いの得意だし何なら好きでしたよね!」

「ごめんなさいねほむら。今日は甘いものの気分なの」

「あら、ならポップコーンはキャラメル味にしましょう」

「え、ポップコーンは塩でしょ」

「ハーフ&ハーフで良いじゃない」

「………ねぇー。わたしは塩が良いー」

「た、多分ほむらさん間に合わないんじゃないかな?」

「うむ。思ったよりもあるからな!」

 

 小さめのポテチ袋ぐらいはある。

 目算で凡そ三十枚程度である。

 哀れほむら。自分の判断を呪え。

 

「ここって、お持ち帰りは出来るよね………?」

「映画館は持ち込み禁止よ」

 

 僅かに見えた希望も、藤乃の一言にぶった斬られる。

 いと哀れ。花咲ほむら。

 しかし自業自得である。部員一同は特に抵抗なくほむらを見捨てた。

 ちなみに、興味本位に一枚だけ食べてみた稔は大慌てで水を五杯は飲み干した。

 ほむらは絶望した。

 

 

 さて、映画館に一同が着き、メメが全員分──一応ほむらの分も──のチケットを買っている間、いまだに塩かキャラメルかで言い争う有栖と九十九を宥めながら、藤乃はハーフ&ハーフが一つと、キャラメルが一つ、塩が一つの計三つを買った。まぁ、六人いるしちょうど良いだろう。いや五人か。

 

 ドリンクは、九十九と緋音はコーラ。稔はカルピスソーダ。有栖はカフェラテ。藤乃はコーヒーである。メメはいつもジンジャーエールなので、今回もジンジャーエールで良いだろう。

 

「やはり映画は映画館で観るに限るのぉ!」

「だよね。サブスクも悪くないけど映画館で観る体験には敵わないよ」

「しかし効率を考えるならサブスクでは?」

「う、うん。正直映画館は人が多くて苦手……」

「いやいや映画館じゃろ。大迫力のスクリーンにあの音響!自宅では到底味わえぬぞ」

「ですがサブスクならば気に入ったところを何度も巻き戻せますしトイレに行っている間一時停止も出来ますよ」

「リクライニングは圧倒的に映画館だよ。何せ映画を見るために考え抜いて作られた特製チェアなんだからね」

「で、でも、自宅のソファやベッドで横になりながら見れるのはサブスクです」

 

 緋音・九十九ペア対有栖・稔ペアの、映画館かサブスクかの論争が始まった。

 やがて両者は、傍観していた藤乃に顔を向ける。

 

「藤乃はどっちじゃ⁉︎」

「何言ってんの藤乃は映画館派に決まってんじゃん」

「いいえ藤乃先輩ならばサブスク派です間違いありません」

「う、うん。藤乃さんは、サブスク派だよね……?」

 

 心の底からどうでも良い。巻き込むな。

 藤乃は額を抑えながら盛大なため息を吐いた。

 

「チケット買ってきたわよ。………あら?」

 

 五人、いや違う六人分のチケットを買ってきたメメが合流すると、そこには。

 

「ふぐぬぬぬぬぬぬ、藤乃は映画館派なんだから諦めなよ有栖ぅぅぅぅ!」

「いいえ!藤乃先輩はサブスク派なんです!あなたが諦めて下さい九十九先輩!ぐぬぬぬぬぬ」

 

 ポップコーンとドリンクを抱える稔と緋音が見守り、声援を飛ばす中で、有栖と九十九が死んだ目の藤乃を取り合っていた。

 大岡裁きと言えば分かるだろうか。

 ………しかし、仮にも有栖と張り合うぐらい貧弱なのは流石にアレではないか?

 互角の九十九を見てメメはそう思った。

 

「メメ先輩は映画館派じゃろう⁉︎」

「ち、違うよ!メメ先輩は、サブスク派だよ!」

 

 緋音と稔はメメを自陣営に引っ張り込もうと必死である。

 取り敢えず写真撮っておこう。動画も残しておかなければ。

 

「………助けて下さいメメ先輩」

「ごめんなさいね藤乃。今忙しいからもうちょっと待っててね」

「………写真撮りながらいう言葉ですかそれが!」

「いえ、動画よ」

「そんな訂正どうだって良いんですよ!」

「ちなみについ数秒前までは写真だったわ」

「だからなんですか!」

 

 その数十秒後。

 体力の限界を迎えた有栖と九十九が膝をつく中で、あまりにも非力なので全く痛くなかった藤乃は過去最大級のため息を吐いた。

 

「………別にそんなの気分で良いじゃない」

「いいえ違います藤乃先輩!サブスク派と映画館派には大きな隔たりがあるんです!」

「そうだよ藤乃!これはきのこたけのこ論争に並ぶ論争なんだから!」

「………、分かったわよ。その勝負、メメ先輩がついた方の勝ちよ」

 

 膝をついた有栖と九十九が殆ど同時にメメを見た。

 

「どっちですか!」

「どっちなの!」

 

 押し付け成功。

 藤乃はチケット片手に優雅にシアター4に足を運んだ。

 

 考え込むメメに、四人の視線が集中する。

 やがてメメは、ある結論を出した。

 果たして、プレミア感のある映画館が、利便性のサブスクか。

 四人に緊張が走る。誰かの唾を飲み込む音すらもよく聞こえるぐらいには、静寂が支配していた。

 

「───私はBlu-ray派ね」

 

 ───Blu-ray!

 映画館に並ぶプレミア感に、サブスクに匹敵する利便性!

 

 全員その手があったか……!とでも言いたげな顔である。

 

「───取り敢えず、今日はみんな、映画館派ってことで」

 

 そして、全員がシアター4に足を踏み入れようとしたとき。

 

「───間に合ったぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 花咲ほむら、滑り込みセーフ。

 

「ちゃんと全部食べたんだろうねほむら?」

「うむ。残したりしたら次から申し訳ないぞ」

「失礼な!ちゃんと食べたよ!…………半分は」

「も、もう半分は?」

「………素直に事情話したら背の高い店員さんが『ダルいダルい』言いながら半分食べてくれたの。『食べ物で遊ぶな』ってお説教もされたけど」

「ほらほむら、コレ、ほむらの分のチケットよ。もうそろそろ上映だから、一緒に入りましょう」

「ありがとうございます、メメ先輩。ですが、ちょっと───」

 

 チケットを受け取ったほむらは、全速力で反転し、売店に向かった。

 

「───ソフトクリームとコーラ買ってから入場するのでぇぇぇぇぇ!」

 

 相当、限界だったらしい。

 

 

 

 さて、今回見る映画はというと。

 

「元々サブスク独占のはずだったんだけど、人気のあまり映画館でも上映されたんだっけ?」

「…………いや外部からの情報は制限されておるからそんなの知らんぞ」

「………あっ、そういやみんなはそうだったね」

「…………………まさか九十九先輩」

「……はっはっはっはっはっ。…………ヤバい、口が滑った」

 

 一同の鋭い視線に全力で目を逸らしながら、九十九は吹けない口笛で誤魔化していく。

 

「…………父に、報告しておきましょうか」

「……あ、有栖さんのお父さんって、確か………」

「うむ。理事長じゃな」

「ほんっとに勘弁して下さい有栖様。何でもしますので!」

「………言質、取りましたよ」

 

 ………そういえばIT関連は得意とか言ってたな。

 いやでも、まさか、そんなことまでしていたとは。

 

「…………藤乃は知っておったのか?」

「……まぁ、知らなかったけれど、そこまで驚きはないわね」

 

 まさしくいつかはやると思ってました、というやつである。

 

 政治やら何やらのニュースは入ってくるが、芸能関係は中々の検閲というか、制限がかけられている。

 個人のブログやら配信やらは、学校の情報を外に出さないならそういった活動はできるが、もし少しでも表に出して仕舞えば相応のペナルティを受けてしまう。

 なので自撮り写真だけを上げている佐倉はリスクヘッジがちゃんとしている。

 普通に配信者として活動しているほむらは常にギリギリのラインで踊り回っている。もはや狂気である。

  

 まぁ、つまりは。

 

火遊び(ハッキング)は程々にね、九十九。私からは、これ以上は言わないけれど」

「うぐっ、はーい」

わたし(配信者)よりもよっぽど狂ってるね」

「ほむらうるさい」

 

 九十九はほむら以上に狂っていると言う結論である。

 思わず反論してしまったが。

 

「事実でしょう」

「事実じゃな」

「事実ですね」

「事実だと思う」

 

 他の同級生と後輩たちの反撃を受けて、九十九は完全に撃沈した。

 

 そんな九十九が沈むように席に着く中、暗転し、映画が始まる。

 

(まぁ、安っぽそうなアニメ映画ですし。皆さんの付き合いで見ているだけですし。正直あまり期待はしていませんが。…………まぁ、こういう(大人数で映画を見る)のも、良い思い出、というやつなのでしょうね)

 

 そうして、予告編を挟み、本編が始まった。

 

 

 

 上映後、パンフレットとCDとTシャツとポスターを買う坂柳有栖がいた。

 

「違いますこれはただの思い出です初めて大人数で映画を見た記念です別にハマったわけではありません思ったよりも面白かったからパンフレットを買っただけですし思ったよりも歌も良かったからCDを買っただけです本当ですTシャツも思ったよりも素材が良くて着心地が良さそうな気がするから買っただけですしポスターは何だか最近部屋が寂しいような気がするから買っただけです本当です決してハマったわけではありません」

 

 必死にそんな言い訳を重ねる坂柳有栖。

 しかし、花咲ほむらとしては、煽れる大チャンス。

 

「あっれぇぇぇぇ有栖ちゃぁん?『私はこんな低俗なものそんなに好きじゃないですが皆さんはお好きなんですね』って言ってたのにぃ、なぁんでぇ、たっかぁいポイント払ってぇ、外で着れないTシャツとかぁ、パンフレットとかぁ、いっつも音楽はアプリで聞いてるのにぃ、わざわざぁ、CDなんてぇ、買ってるのかなぁ?

 そぉんなのぉ、たぁだの、ファンだよねぇ。て・い・ぞ・くとか言ってたのにぃ、ファンになっちゃたんだぁ?」

 

 しかし花咲ほむら。同じくらいにはグッズを買い込んでいる。

 

「同じ穴の狢ね」

「───ちっがぁうからぁ!リスナーはこういうの好きそうだから話し合わせるために買ってるだけだからぁ!」

「は、話合わせるなら見るだけで良いんじゃ?」

「やめてあげなさい稔。こういうのは見逃してあげるものよ」

 

 必死に言い訳を重ねる二人を、生暖かい目で見守るテーブルゲーム部であった。

 

 

 普通に体力の限界らしく、シャットダウンしたコンピューターよろしく突然寝落ちした有栖を背負いながら、緋音は有栖がしこたま買い込んだグッズを片手に、一年生女子寮まで向かうことにした。

 

「荷物ぐらい、私も持つわよ?」

「はっはっはっ、こういう時こそ、妾の体力の使いどころじゃ。藤乃の手を借りるまでもないわ」

「………そう。じゃあ、安全には気をつけて」

「うむ!」

「一応担任の先生経由で理事長に知らせておいたわ。多分大丈夫でしょうけど、もし万が一の事態があったら、すぐに知らせてちょうだい」

「かしこまりじゃ!」

 

 有栖としても、ここまで興奮したのは多分初めてだろう。

 万が一、心臓に負荷がかかり過ぎて倒れたりしてしまったら、すぐにでも対応できるようにしておかなければ。

 

 夕暮れ時の太陽が照らす中、緋音は楽しそうに帰路に着いていた。

 

「大勢で遊ぶことなど、きっと初めてじゃったろう?

 楽しかったなら、妾としても大満足じゃ!」

 

 そんな緋音の声が聞こえたのか聞こえていないのか、有栖は、眠りながら笑っていた。

 

 

 

 

 さて、その日の夜。

 部屋に着いたところで目を覚ました有栖は、緋音も協力して色々飾りつけた。

 ポスターは壁に、フックをつけてハンガーにかけたTシャツも壁に。後、棚にはCDを飾り付けて。

 最後に、一番目立つ壁の中央に、コルクボードと、映画館で撮った集合写真を飾り付けて。

 

「ふふっ♪」

 

 坂柳有栖は、楽しそうに笑った。

 

 と、そこで坂柳有栖のスマホが鳴る。

 見てみると、そこにある名前は、『神室真澄』。

 なるほど、試験が終わったので、その報告だろう。

 

「もしもし、真澄さん?」

『………何だか機嫌が良さそうね』

「……まぁ、そうですね」

 

 ベッドに腰掛けた有栖は、コルクボードに貼られた写真を見ながら。

 

「初めての体験が、たくさん出来ましたので」

 

 その後、試験の報告会が終わった後。

 坂柳有栖は眠るその瞬間まで、今日の思い出を、話し続けていた。

 

『坂柳?坂柳?…………寝たのね』

 

 部屋の外で、夜空を眺めながら。

 こんな時間まで付き合わせてくれやがった呆れと、それから、ほんの少しの友情と、祝福を込めて。

 

「………おやすみ。有栖」

 

 神室真澄は、そう言って電話を切った。

 

 

 

 

 

 部屋に戻ろうとした神室は、こっそり様子を見ていた山村と森下に気付き。

 

「あんなに坂柳有栖に文句を言っていたのにそんなに情緒たっぷりに『有栖』とか言うんですね神室真澄。知っていますか神室真澄。そういうのをツンデレと言うんですよ」

「……その、坂柳さんと、仲が良いんだね。神室さん。ちょっと、羨ましいな……」

 

 二人の記憶を消すために、全力で襲いかかった。

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