Bクラスというより一之瀬さん。
無人島試験も終わって、僕たち1年Bクラスは、穏やかにクルーズ旅行を楽しんでいたのだけれど。
流石はこの学校、ただで帰らせてはくれないらしい。
『ただいまより、『夏季グループ特別試験』を始める。メールを確認して、待機するように』
また、試験の時間が始まる。
『夏季グループ特別試験』。
十二のグループに分かれて、クラス関係なく話し合い、そのうちの一人の優待者を当てる試験。
優待者と優待者の所属するクラス以外の全員の答えが一致して正解していたら、全員に50万PP。優待者には100万PP。コレが結果1。
誰か一人でも答えを間違えていたら、優待者だけが50万PP。コレが結果2。
試験終了前に、優待者あるいは優待者とは別のクラスの生徒が解答し、正解していた場合、正解した生徒は50万PPと、所属クラスに50CP。優待者のクラスは、マイナス50CP。コレが結果3。
そして、解答が不正解だった場合。答えた生徒のクラスは、マイナス50CP。優待者のクラスは50CPと、優待者個人に50万PP。コレが結果4。
優待者が自クラスにいたとして、理想を言えば、結果1。
次善もしくはある意味最高は、結果4。
その次は、結果2。
最悪は、結果3。
つまり、この試験。
優待者が所属するクラスが、基本的には有利なんだけど、代わりに他の全クラスから狙われる試験。
さて、僕は卯グループな訳で、同じクラスからは。
「よろしくね!渚くん!」
一之瀬さんと。
「よろしく、潮田」
別府くん。
ちなみに、ハンターのなり方を教えてくれって言ってきたのは別府くん。
さて、どうやら会場には僕たちBクラスが一番最初についたらしい。
というか、僕がついた頃にはもう二人は会場に来ていて、一之瀬さんが一番乗りだったんだとか。
「優待者誰なんだろう?案外この三人の誰かだったりして!」
「はっはっはっ、嫌だぁ優待者やりたくねぇ」
「まぁ、その気持ちよくわかるよ別府くん。針の筵って感じだよね」
「……うん、そうだね!優待者とか、今回の試験だとハズレくじだもん!」
……………えっ、うそ。
「少し遅れてしまったかな?」
Aクラスの浅野くん。
嫌だなぁ浅野くんが相手なの。
「さぁさぁ、今回の試験ではもっと面白いものを見せるのです浅野学秀」
森下藍さん。
なんか、すごく愉快犯な言動してる。
「………はぁ。何でこんなにめんどくさいのよこのグループは」
神室真澄さん。
確か、坂柳さんの側近みたいな人だったっけ?
「…あ、浅野くん!良かった、知ってる人が相手で!」
「あぁ、僕としても、君たちと試験ができるのは、楽しみだよ。………にしても、いつもよりも随分と早いね、一之瀬さん」
「ん?そうかなぁ?」
「あぁ。いつもだったら、集合時間の五分前ぐらいに来ているだろう?相手に待たせすぎたと思わせるのが、申し訳ないから」
「…そっか!まぁ試験だし、いつもよりも気合入ってるからね!」
僕と一之瀬さんを見ながら、怖い笑みを浮かべる浅野くん。………本当、理事長を思い出すからやめて欲しい。
「まさか、お前と同じグループとはな、清隆」
「まぁな。思いの外、実りのある試験になりそうだ」
Dクラスの幸村輝彦くんと、綾小路くん。
綾小路くんと浅野くんを相手にするのかぁ。嫌だなぁ。
「………まぁ、この二人に任せてれば良い感じかな?」
「まぁそうでござるな。我々にできるのは賑やかしぐらいでござろう」
軽井沢さんと、えっと、確か、外村くん、だっけ?
多分積極的に参加することはないっぽいな。
まぁ、自クラスの強い人がいるなら、自分は変に動かないのも手なんだろうな。
「………ほう。お前も同じグループとはな、綾小路」
「………浅野か。楽しくなりそうだ」
二人の視線がぶつかり合って、火花が散る。
希望を言えば、勝手に潰しあっていてくれ。
「図書館以来だね、よろしく、綾小路くん!」
「……あぁ、よろしく、一之瀬。お互いに頑張ろうな」
「うん。頑張ろうね、お互いに!」
「………?」
二人の会話を聞いていた幸村くんは、何か違和感を抱いたみたい。
「…………全く、せっかくのクルーズ旅行なのに、無人島の後も試験なんてさ。少しは学校も休ませて欲しいよね」
…………、カルマ。
嘘でしょ。同じグループなの?
「……げっ、渚じゃん。浅野くんに綾小路も。嘘でしょ?集まりすぎじゃない?」
「………はぁ、こっちのセリフだよ。馬鹿カルマ」
「………ふぅーん?」
………やばい、ミスったかも。
「………はぁ。取り敢えず、あんたを全力でサポートする感じでいいのね?」
伊吹澪さん。確か、 Dに潜入してた生徒。
「……よろしく!頼りにしてるね!カルマくん!」
真鍋志保さん。すっごくギャルって感じ。
なんか露骨にカルマに媚び売ってるけど、カルマそれなりに鬱陶しがってるなぁ。
「うん!頼りにしてるね!赤羽くん!」
藪菜々美さん。真鍋さんと仲が良いみたい。
媚は売ってるけど、カルマに近すぎはしない絶妙な立ち位置だな。
…………、たぶん、本能的に危険だとわかってるんだろうな。
…………、それよりも、綾小路くんと、浅野くんと、カルマが、同じグループなのか。
それもこんな、露骨に頭脳戦してくれって言ってるような試験で。
本当に、勘弁してくれ。
一之瀬さんも同じようなことを考えていたのか、嫌な汗を流していた。
「取り敢えず、部屋に入ろうか!確か一時間しかないんだよね!」
僕と別府くんが扉を開けて、みんなを誘導するけど、ちらっと見た感じ、すでに四人くらい、優待者に目星をつけている生徒がいる。
綾小路くん、浅野くん、カルマ、それから幸村くん。
それぞれ全員が隠してはいるけど、視線を一人に向けている。
まぁ、多分当たっているんだろうなぁ。
勘弁して欲しいなぁ。
視線を向けられている一之瀬さんを見ながら、僕はそんなことを考えていた。
あぁ、ほんと。
嫌になる。
万が一がないように、僕らにも隠しておいたんだろうけど。流石に相手が、悪すぎる。
「さて、試験を始めるに当たって、まずは私たちの目標を話しておくね!」
一之瀬さんは必死に押し殺している。
不安と、恐怖、それから孤独感を。
必死に、いつも通りを演じているけど、だからこそ、分かる人には、分かりやすい。
………殆どの生徒は、騙せるけど。
騙せないごく一部が、集まりすぎている。
「私たちBクラスとしては、結果1を目指します。コレなら誰も損はないからね!だから、優待者は正直に名乗り出て欲しいんだけど、まぁ、無理だろうから、ひとまず、他のクラスはどんな感じか、教えて欲しいな!」
さて、浅野くんが動き出したな。
「僕たちAクラスとしては、結果3を目指すよ」
「……そっか。まぁ、仕方ないよね」
「ただし、優待者のいるクラスが、コレから先も僕たちAクラスと友好な関係を築いてくれるのなら、考え直す余地はある」
「……へぇ。貪欲だね、浅野くん」
「そういうCクラス、いや、 Dクラスは、どうするのかな?」
煽るなぁ浅野くん。
でもそのお陰で、殆どの生徒の意識は一之瀬さんから外れた。多分、浅野くんとなら、協力関係を結べるかもしれない。
「ま、結果3しかないでしょ。CPは欲しいからね」
無人島試験で完敗したDクラスとしては、ここで少しでもCPが欲しいのは当たり前。
だからカルマと協力関係結べるとは思っていなかったけど。
「そんで、お前らはどうなの?綾小路」
カルマの視線が綾小路くんたちに向く。
綾小路くんは、薄っすらとした笑みすらも浮かべながら、宣戦布告する。
「俺たちとしても結果3が狙いだな。…………だが一之瀬。この場で結果1を目指すと公言するということは、優待者はBクラスと宣言しているようなものじゃないか?」
早速仕掛けてきたな。
「そうかなぁ?それだけで私たちのクラスに優待者がいるって判断するのは弱いんじゃない?」
………上手い。
殆ど表情も変わってないし動揺もしていない。
僅かにでも、優待者じゃない可能性を抱かせられたら、それで良い。
「………なるほどな」
綾小路くんはあっさりと下がった。でも、いくら何でもあっさりすぎる。
何か他に狙いがあるのか?
「取り敢えず、全クラスの目的は分かった訳だし。まだ時間もあるし、簡単な自己紹介でもして、親睦を深めたいんだけど、どうかな?」
「あぁ。俺も賛成だ。全員のことをよく知っておきたいからな」
…………隠し事の波長。
幸村くん、他にも何か目的がある。優待者を探る、というより、一之瀬さんを探るつもりか。
全会一致と言うか、誰も拒否しなかったので、自己紹介は順調に消化していった。
人数はそれなりにいるし、自己紹介だけでも十五分は使えた。……でもまだ、あと四十分はある、か。
「そうそう、トランプを持ってきたんだ。こんな風に、色んなクラスの奴らが集まる機会なんて殆どないからな。人数も多いし、そうだな。ダウトとか、どうだろう?」
幸村くんはトランプを取り出しながらそう言った。
…………ダウト。試験を連想させるようなゲーム。当然、今嘘をついている一之瀬さんは、僅かに緊張した。
「…そうだね!人数も多いし、ババ抜きだと時間かかっちゃいそうだもん!」
さて、幸村くんから始まったダウト。
六から進めて、時計回り。綾小路くん、薮さん、真鍋さん、伊吹さん、カルマ、別府くん、僕ときて、一之瀬さんの番。
「次は私だね。1!」
一之瀬さんが、カードを出したその瞬間。
「ダウト」
四人のダウトの声が重なった。
一種固まった一之瀬さんは、しかし楽しそうに笑いながらトランプを表にする。
「残念!1でした!」
ハートのエース。
されど、綾小路くんたちに動揺はなかった。
「ちょうど八枚だし一人二枚ずつにする?」
「それで良いんじゃないか」
「も、もうみんなあっさりし過ぎだよ〜。外しちゃったのにさぁ」
カルマと綾小路くんのそんなやり取りを見て、一之瀬さんは笑って誤魔化そうとして。
でも、逃げられない。
「───今回は外してしまったが、次は当たるかもな」
「っ、あっははははははっ、幸村くん、ダウトはそういうゲームじゃないよ〜」
「───あぁ、ダウトは、な」
本当に、嫌な人だ。
含みに気付いた一之瀬さんは、一瞬、本当に一瞬膠着した。してしまった。
………不味いな、コレは。
幸いにも流石に初日で気付くようなのはこの四人ぐらい。他に気付いた人はいないっぽい。
───でも、この流れをずっと続けられたら、流石に不味い。
だとしたら、僕がすべきことは。
「次は僕だね。2」
「3です」
波長が乱れた。
嘘をついたね。
「ダウトだよ。森下さん」
渋々裏返したそれは、クラブの5。
成功だ。
カルマと綾小路くんの視線が鋭くなる。でも、この二人にはどうせバレる。だったら、他の生徒に気付かせないためにも。
「ダウトだよ、真鍋さん」
「幸村くん、ダウト」
「カルマ、ダウト」
「ダウト」
「ダウト」
「ダウト」
意識の波長が読み取れる僕にとって、このゲームは圧倒的に優位。最終的に僕は、ダウト成功率100%で、一抜けした。
「な、何この子、怖いんですけど……」
軽井沢さんは怯えている。当然だ。小柄でひ弱、全く男らしくもなく、怖そうな気配を漂わせているわけではないのに、僕は完全に、場の空気を支配している。
さて、ここからが、本番だな。
「────今のゲームで分かったと思うけど、僕は
そして、ここに入ってからずっと、嘘をつき続けている人がいた。───君だよ、幸村くん」
僕の殺気を真正面から浴びた幸村くんは、しかし、震える手を強引に抑えて、反撃する。
「───それこそが、嘘の可能性はあるだろう?潮田は他人の嘘がわかることは、確かに証明されたが。
それは、自分も嘘をつかないという証明にはならない」
………全く、めんどくさいのを育ててくれたな、綾小路くん。
「……そうかな。嘘がわかる僕にとって、この試験はイージーゲーム。僕らのクラスが結果1を目指す以上、手っ取り早く優待者を指摘するのは、おかしいことじゃない」
「──お前がいる以上、結果1を目指す理由はないだろう?Aクラスになることを諦めていないなら、優待者を見抜いたなら、誰にも言わずに裏切るはずだ」
「一之瀬さんは、皆が損しない為に結果1を目指すって言った。今回の試験は、クラス間の勝利よりも、個々人の利益を優先しただけだよ」
「だとすれば、俺は不利益を被っているな。こんな言い掛かりをつけられてしまった以上、苛立ちのあまり、
僕と幸村くんの間の空気が、加速度的に冷えていく。
綾小路くんは静観の姿勢。カルマは顎を引きながらも笑っている。他の生徒は混乱していて、いや、森下さんはすごく楽しそうだ。
唯一、冷静だった浅野くんが動き出した。
「───そこまでにしておけ。初日の段階で踏み込み過ぎれば、お互いにとって良くない結果になる可能性もある。幸村がついている嘘が、
そうなれば、優待者のクラスの一人勝ちだ」
中立としての意見、
一之瀬さんが優待者だと、
浅野くんは論理で、僕たちが二人とも、間違えた生徒を優待者だと考えている可能性があることをこの場の全員に示した。
………だから、リスキーだ。
幸村くんの名前を告発することも、Bクラスの誰かを告発することも。
そしてそれは、時間を稼ぎたい僕としては、渡りに船だったりする。
「…………そうだね。もしかしたら、
「………いや、俺の方こそ、疑われて苛立っていた。浅野と潮田の言う通り、
そこで、時間切れのアナウンス。
──取り敢えず、初回はどうにかなったか?
カルマだって、これ以上のマイナスは避けたい以上、リスクの高い手は取れないはず。
綾小路くんと幸村くんも、決定的な証言は掴めなかった以上、どれだけ怪しんでいても報告はできない。
最悪の可能性、失敗して再逆転もあり得る以上、どうしても慎重になる。
………だけど、このやり方だとどこかで限界が必ず来る。
多分、この試験では僕たちの負けは確定。
これに関しては運が悪かったとしか言いようがない。
問題は、負け方。
少しでも何かプラスになるものを掴んで負ける形が理想。となると。
そこまで思考を回していたところ、一之瀬さんが申し訳なさそうに声を掛けてきた。
まぁ、嘘が分かるって言っちゃったもんね。
「……ごめんね。渚くん。足、引っ張っちゃったね」
「……いや、そんな事ないよ。あの三人がいる以上、遅かれ早かれバレていた。………幸村くんがあそこまで詰めてくるのは、予想外だったけど」
「……多分、負けは確定、かな」
「…少なくとも、このグループはそうかも」
だけど、一之瀬さんは、強かった。
「───でも、ただで負けるわけにはいかないよね」
そう。ただで負けるわけにはいかない。
その為に最も確実な手は、最初に示されていた。
『ただし、優待者のいるクラスが、コレから先も僕たちAクラスと友好な関係を築いてくれるのなら、考え直す余地はある』
僕たちが、最も理想的な形で負けるには。
「Aクラスと手を組もうと思っているんだけど、どう思う?」
「……ちょうど僕も、同じことを考えていたよ」
………さて。
取り敢えず、浅野くんと話をしよう。