殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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元Cクラスの推理劇(ミステリーショー)

 初回の全グループの話し合いが終わった夜、龍園含めた現Cクラス首脳陣は、カルマも含めて、学級会議を開いていた。

 ………何故か、クルーズ船内の舞台劇場で。

 

「ねぇ、何で劇場でやるの?というかそもそも使っていいの?」

 

 龍園と金田は、無言で赤羽業を見た。ここでやろうと言い出したのはカルマで、積極的に賛成したのは椎名である。

 しかし二人は、何も言わない。

 ならば、龍園も金田も何も言わないことにした。

 全員が思い思いの席に着く中で、伊吹だけはどうすればいいのか分からず立ち尽くしていた。

 席に着く気にはなれなかったので、仕方なく壁際に佇むことにした。

 

 開演を示すように、何故か劇場が暗転する。

 すると、何故かスポットライトが点灯する。ちなみにスポットライトを操作しているのは、暗視ゴーグルをつけた奥田愛美である。

 

 最初にスポットライトが照らすのは、最前列の辺りに座り、端末で情報を確認していた金田である。

 多分、話したほうがいいんだろうな、と察したので、少しばかり演劇チックに声を張って話し出す。

 

「報告された情報によると、私たちのクラスの優遇者は、それぞれ蛇グループの中泉氏、羊グループの西野氏、犬グループの山下氏の三名のようですね」

 

 色々ツッコみたいことがたくさんあった。

 何故劇場なのか。そもそも使っていいのか。思いっきり設備使っているがそれは良いのか。だが、スポットライトは今度は伊吹を照らし出した。

 

 仕方なく、そう仕方なく、伊吹はそれぞれの生徒について考え込み、発言した。

 

「……ダメね。共通点が見つからない。

 ………それよりもこれは何なの?」

 

 成績、部活、交友関係、あらゆる要素を踏まえても、この三人に共通点は無い。少なくとも伊吹は見つけられない。

 そこでスポットライトは、最奥の席に着くカルマを照らし出す。

 カルマは、まるで舞台役者のように、長い足を組み、頬杖をつき、舞台中に響く声で、演じるように話し出す。

 

「───でも、完全ランダムなんて運任せな学校じゃない、だろ?」

  

 スポットライトは客席中央を照らし出した。そこに座る龍園翔は、スポットライトを浴びながら、その長い足を勿体ぶった動作で振り上げ、前の席の背もたれに乗せて、ふんぞり返りながら、芝居がかった仕草で堂々と話し出す。

 

「あぁ。コイツらには何らかの共通点があるはずだ。この学校は、正攻法以外の裏道を用意するのが大好きみたいだからな」

 

 だとすれば、今回の試験にもあるはずだ。

 議会で優待者を見抜く以外の、特定方法が。

 伊吹澪としては、そんなことよりも知りたいことがたくさんあった、というか現在進行形で増えていった。

 何故男子どもは適応している。

 

「問題は、現在の情報だと、()()()()()、特定しきれないってとこなんだけど」

  

 再びスポットライトを浴びたカルマが、龍園に対抗するように足を組み直しながら、その視線を斜め前の先に向けた。

 その視線を追うように、スポットライトは、ほっそりとした顎に、しなやかな指を添えて考え込む古典的で伝統的な探偵服のひよりを照らし出した。

 

 伊吹は眉間を揉んで、もう一度古典的で伝統的な探偵服の椎名ひよりを見る。

 

 次に目を擦って、もう一度古典的で伝統的な探偵服の椎名ひよりを見る。

 

 今度は天を数秒仰いでから、もう一度古典的で伝統的な探偵服の椎名ひよりを見る。

 

 ………おかしい。記憶が確かなら、暗転するまでは制服だったはずだ。

 

 ひよりの推理力はよく分かっている。彼女は、カルマの知る中で最も優れた探偵である。

 ちなみにたった今、伊吹の知る中で、最も奇抜な女子生徒になった。

 

「───何か気付いた?名探偵、椎名ひよりさん」

「───えぇ、恐らくは」

 

 椎名ひよりは客席から立ち上がり、スポットライトに照らされながら、舞台の上へと上がっていく。

 

「この試験には、必勝法が存在します」

 

 スポットライトを浴びる舞台役者のように、名探偵椎名ひよりは、ショーを開催した。というか本当にスポットライトを浴びていた。

 

「まず結論から話しましょう。なぜ彼ら三人が、優待者に選ばれたのか。

 これには、ある規則性が存在します」

 

 スポットライトが一瞬消え、再び灯る。それは伊吹を照らし出していた。

 ………多分、何か言うべきなんだろうな。

 

「………でも、その三人にある共通点といったら、同じクラスなことだけよ。成績も部活も何もかも、共通点なんてありはしない。

 ………というかこのライトは何?その服は何?今私は何に付き合わされているの?」

 

 伊吹のツッコミは、スルーされた。

 

「初歩的なことですよ。伊吹さん」

 

 再びスポットライトを浴びた舞台上の椎名ひよりは、とても楽しそうにその台詞を発した。

 ミステリマニアとしては、話すだけでテンションが上がる台詞である。

 ちなみに伊吹は死んだ目で虚空を見上げていた。

 

「────視点を変えるんです。もっと大きく、広く、遠く。そうすれば、自ずと答えは導かれます」

 

 スポットライトは次に、金田を照らし出す。

 眼鏡を逆光で輝かせ、人差し指で押し上げて、精一杯カッコつけて話し出す。

 

「つまり、共通点は優待者個人ではなく、もっと大きなものにあると?」

 

 再び、スポットライトは椎名ひよりを照らし出した。

 

「──その通りです」

 

 そこで、椎名ひよりは指を鳴らした。

 舞台袖に待機していた石崎大地の手によって、スクリーンが降ろされる。

 そして、映写機を操作する小宮叶吾の手により、それぞれのグループの名簿がスクリーンに映し出された。

 

「………ねぇあんたらは何やってんの?ていうかこれいつ作ったの?」

 

 堪えきれなかった伊吹のツッコミは、スルーされた。

 

 スポットライトは次に、龍園翔を照らし出す。

 前髪をかきあげながら、胸元をいつもよりも開き、何かこう、男の色気のようなものを演出しながら、龍園はどことなく掠れた声で話し出す。

 

「……こいつは、各グループの名簿かぁ………?」

「あんたは何やってんのよ」

 

 自身の正気を保つためのツッコミに、龍園は再び髪をかきあげ、そして払いながら答える。舞い散る花びらか、あるいは風に靡くカーテンのように、長い髪を翻しながら。

 

「ふっ、サービスシーンだよ言わせんな」

「………需要ないでしょ」

 

 ちなみに、映写機を操作していた小宮は、『龍園さんマジで男の色気ムンムンっす!カッケェっす!』とか言っていた。

 ………割と需要あるかもしれない。

 伊吹澪は心から帰りたかった。

 

 スポットライトは再び、舞台上の椎名ひよりを照らし出す。

 パイプのようなものを吸いながら、椎名ひよりはステッキを突いて、大きな音を出した。

 一体いつの間に持っていたのだろうか。

 

「───そう、各グループの名簿。今見せているこれらは、クラス毎に分かれています、が。

 思い出して下さい。先生はこうおっしゃっていました。クラスの垣根を越えて、試験に臨め、と。  

 その言葉に従うと」

 

 再び指を鳴らすと、名簿は違う名簿に切り替わった。

 いや、同じ名簿でこそあるが、並びが違うのだ。

 

 スポットライトは、今度は赤羽業を照らし出す。

 何故だ、何故半裸なのだ赤羽業。何故上裸に制服を羽織っているのだ赤羽業。龍園翔に対抗しているのか。それで良いのか。腹筋割れてるのも腹立つな赤羽業。

 

「………へぇ、クラス関係なしの、五十音順、かな?」

「そんなことよりも服着なさいよ風邪ひくでしょ馬鹿なの馬鹿だったわねじゃあ風邪引かないわね心配して損したわ」

 

 伊吹澪、もはやキレ気味である。

 ちなみに突然のサービスシーンにひよりは杖を落とした。

 慌てて拾い上げ、咳払いして誤魔化した。

 

「──こうして並べ替えると、ある共通点が見えてきませんか?」

 

 今度は伊吹にスポットライトが当たる、が。

 

「いやそんなの分かんないわよこれだけじゃ」

 

 一瞬時が止まる。

 男子(バカ)三人衆の溜息と同時に、一瞬止まった秒針は動き出した。

 

「───全く、分かんないなら分かんないなりに、もっとかっこいい台詞ってものがあるでしょ」

「───あぁ。全くだぜ。情緒も何もありゃしない。そんなぶった斬るような台詞じゃなく、もっと勿体ぶれ」

「───御二方の言う通りですよ、伊吹氏。我々は演者。観客を魅せる台詞を意識するべきなのです」

 

 伊吹澪は、完全にブチギレた。

 地団駄を踏みながら完全に言語を喪失し、男子(大バカ)三人衆に罵声のような唸り声のような何かを叩きつけていた。

 

「では、伊吹さん。こうしてみれば、どうでしょう?」

 

 再び指を鳴らすと、今度は名簿に書かれてあったグループ名が、数字に変わっていく。

 鼠は1、牛は2、虎は3と続き、猪が12で終わる。

 そして同時に、6に変わった蛇グループの名簿の中泉に、6が、8に変わった羊グループの西野に、8が、11の犬グループの山下に、11が示される。

 

 そこまで見せられれば、伊吹でも分かる。

 

「そうか!干支に沿って、選ばれていたのね……!」

「えぇ。アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』になぞらえているのでしょう。ちなみにこの作品は『そして誰もいなくなった』『オリエント急行殺人事件』に並ぶ名作で、本格古典ミステリー代表格であり、実に独創的で魅力的なそのトリックに魅了された作家たちの手により、類似したミステリー小説は後を絶たず、今もなお愛される名作中の名作なのです。何より───」

「ごめんひよりさん。後で聞いてあげるから今一旦そこまでで」

「───一晩コースですよ覚悟してくださいね」

「はいはい分かったよ」

 

 さて、話を戻して。

 

「────この規則性に当てはめていくと、それぞれのグループの優待者はこうなります」

 

 名簿に数字が割り振られていく。

 兎に4の数字が割り振られ、名簿の一之瀬帆波に、4が割り振られる。

 

「………やっぱりか」

 

 それを見て、カルマは納得するように呟いた。

 

 龍には5の数字が割り振られ、名簿の櫛田桔梗に、5が。

 

「───なるほどな」

 

 龍園は、悪い笑みを浮かべながら、納得した。

 

 

 こうして、椎名ひよりの手により、全てのグループの優待者が、導き出された。

 

「分かってみれば、こんなに単純なのね」

 

 劇場を後にした伊吹の言葉に、いつの間にか制服に戻っているひよりは肯定した。

 

「一定人数の優待者が分かれば、決して難しい仕掛けではありません。恐らく現一年生ならば、どのクラスもこの規則性に辿り着くでしょう」

 

 しかしこの答えに一番最初に辿り着いたのは、現Cクラスである。

 

「それで、どうしますか龍園氏。このまま各グループの優待者を当てていけば、破格のCPが手に入ります。返り咲いた上で、Bに追いつくのも夢ではないでしょう」

 

 単純計算で、プラス450CP。

 そして各クラスに、マイナス150CP。

 まず間違いなくCに返り咲けるし、Bの背中を捉えられるだろう。

 だが。

 

「………いや、ここで勝てたとしても、それだと他クラスに的をかけられる」

 

 何せ、三年間競い続けなければならないのだから。

 急激に伸びすぎれば、それだけ警戒されるし、敵対される。

 それに対応するには、まだ地力は付いていない。

 

「3対1はもう辞めだ。まずは、Bを落とす」

 

 龍園のその方針に、カルマはその真意を問う。

 

「──何で、Bクラスな訳?」

 

 それに対し、龍園は強気に笑った。

 

「完璧で盤石なAと、予想外の才能(タレント)を数多く抱える元Dクラスよりは、格段にやりやすい。理不尽な化け物が潜んでやがるようだが、その化け物は一人しかいない。

 複数人居るなら、他のクラスに忍び込むことも出来ただろう。だが、金田がBに入り込んだおかげで、奴は動けなかったと見て良い」

 

 そう。スパイ作戦で導き出せたのは、金田を一切気付かせることなく気絶させた化け物がいること。

 そして、それだけの隠密能力を持ちながらも、Bクラスは他のクラスのリーダーを探ることはしなかったこと。

 つまり、その化け物じみた隠密能力を持つ誰かは、一人しかいないのだ。

 

 その一人さえわかれば。

 Bクラスは決して、勝てない相手じゃ無い。

 地力は高い。二人のリーダーにより、確かな統率力と団結力を有している。

 だがだからこそ、隙とも言えない隙がある。

 リーダーが追い詰められているのなら、クラスも当然そうなる。

 

「───アイツらと現Dクラスのポイントを縮めさせて、ぶつける。あるいは、抜かせる」

 

 差が縮まり、追い抜くチャンスを与えれば。

 必ずぶつかり合うだろう。

 

「そんで、俺たちは現Dクラスに助太刀する。昨日の敵は今日の友ってやつだ」

 

 Aクラスならば、2クラス合同ぐらいなら、如何様にでも捌けるだろうが。

 Bクラスでそれは、無理だ。

 

「しかし、そんなに上手くいくでしょうか。そもそも彼らが我々の共闘を受け入れるとはとても」

「………そうよ。私がやった事は全部バレてる。今更アイツらが私たちを信じるなんてあり得ないでしょ」

 

 そう。伊吹が山内を陥れようと動き回っていた事は、既に全部バレている。今、あちら側のこちらに対するイメージは最悪と言っていい。

 同盟なんて、結べるわけが。

 

「───なんか勘違いしているようだが、俺らは()()()()()()()()()()。俺らは、アイツらの()()()()()()()。───優待者の規則性を、手土産にしてな」

 

 敗者から、勝者への懇願。

 これだけの情報を集めましたよ。あなたたちを裏切る事はありませんよ。だからあなたたちの傘下に入れてください。

 

 これならば、彼らは断らない。断る理由もない。

 Cに昇格した以上、次の相手はBクラス、最後の敵はAクラスなのだから。

 ───好きに使い潰せる戦力など、あって困る事はない。

 

「───赤羽。アイツらとのパイプを繋げ。()()()()()()()()()

「………オッケー」

 

 情報は鮮度が命。ならば、早ければ早いほどいい。

 薄ら笑いを浮かべながら、カルマは端末を取り出し、綾小路と堀北と櫛田を呼び出した。

 

『龍園がお前たちの軍門に降りたいってさ』

『手土産もあるよ』

『この試験の必勝法だ』

 

『分かったわ。話を聞きましょう』

『甲板には誰もいなかったよ』

『なら五分後にそこ集合で』

 

『了解』

 

 

 

「話はついた。五分後に甲板で」

 

 現Cクラス首脳陣は、すぐさま甲板に向かった。

 軍門に降る以上、待たせるのはダメだからな。

 

 

 少し距離を離して着いていく赤羽業は、とても楽しそうな笑みを浮かべた。

 そこへ、撤収作業を終えた奥田愛美が、追いついた。

 

「……ふぅ。撤収完了です。カルマくん。指紋も痕跡も何も残っていませんよ」

「ありがと。完璧だよ愛美さん」

 

 劇場の使用許可も設備の使用許可も勿論とっていない。

 バレなきゃ犯罪じゃないのである。

 

「それで、これからどうするんですか?」

「Cクラスと話をつける。俺たちDは、そちらの軍門に降るってさ」 

「……………降参、というわけではなさそうですね」

「まぁだろうね。いつかは寝首を掻くための仕込みと見ていい」

「でも、何だか嬉しそうですね。カルマくん」

「…………まぁね」

 

 カルマ(悪魔)は、とても楽しそうに笑っていた。

 

 さぁ、龍園(暴君)の成長を、見届けるとしよう。

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