殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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元Dクラスの不平等契約(アンフェアコントラクト)

 

 初日の夜、俺は啓誠とどうやって一之瀬を詰めていくのかを話し合っていた。

 同じ部屋の三宅は若干引いていた。

 高円寺は腕立てしながらも耳を傾けていた。

 

「潮田がいる以上、決定的な証言を出させるのは無理かもな」

「だな。渚の嘘がわかるという特技が明らかになった以上、あの場で嘘をつくことは致命傷だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だとすれば。

 

「証言を引き出すのではなく、他の方法で特定するのが最適解だと考えるが、清隆はどう思う」

 

 合格点だ。それ以外に、証拠を引き出す術はないだろう。

 だがその為には。

 

「恐らくあるはずの規則性。それを見つけることが必須だ」

 

 啓誠の手元にあるノートには、現Cクラスの優待者の名前が書かれていた。

 辰グループの櫛田桔梗。寅グループの沖谷京介。午グループの南節也。

 そして推定、卯グループの一之瀬帆波。

 

 この四名に、何らかの共通点があるはず。

 

「───追加の情報だ。申グループの優待者は南方こずえと見て間違いない」

 

 腹筋しながらも高円寺はそう言ってきた。

 なるほど、高円寺は優待者を見抜いていたか。

 まぁ、だろうな。

 

「……現時点で分かったのは、この五人。恐らく何らかの共通点があるはず………」

 

 五人の名を書いた啓誠は、その五人の共通点を探ろうとしていた。

 俺も思考するが、この五人に直接的な共通点は見つからない。だとすると。

 

「………規則性は、優待者個人には無い……?……だと、すれば───」

 

 なるほど。だとすれば───。

 

 そこで、唐突な通知音。端末を開くと、カルマからのメッセージ。

 ……なるほど。僅かに、遅かったようだな。

 

「───啓誠。五分後、甲板でDクラスの連中と交渉する。お前も来い」

 

 突然のそれに、啓誠は一瞬停止したが、すぐさま動き出した。

 

「了解だ。だが、規則性の法則は良いのか」

「あぁ。必要無くなった」

 

 端末とメモ帳だけを持って俺と啓誠は外に出た。

 甲板へと向かいながら、さっきまでのカルマとのやりとりの画面を見せる。

 それを読んだ啓誠は、納得した。

 

「───なるほど。だが、奴らをどこまで信じるつもりだ?」

 

 その疑問は当然のものだ。何せ、奴らは手段を選ばない、が。

 

「この試験に関しては、手を組む余地があるだろうな」

 

 俺たちの利害は一致している。

 昇格した以上、次はBクラスを落としたい俺たち現Cクラスと、少しでもCPが欲しい龍園たち現Dクラスは。

 それに、向こうは軍門に降ると言ってきた。のならば。

 

「───こっちが優位な立ち位置だ。使える駒を増やしておくのは、悪い手じゃない」

 

 ……さて。龍園翔が、果たしてどれほど成長しているのか。見ものだな。

 そうして。

 皆が寝静まっている、夜11時7分。

 現Cクラス首脳陣は、龍園翔率いる、Dクラスの首脳陣と、対面した。

 

「夜分遅くに悪かったな。さて、来てくれたってことは、俺たちを傘下に入れるってのは、受け入れるってことで良いのか?」

 

 一応、一応、謝罪から入ってはいるのだが。こいつ本当に傘下に入る気があるのか?態度がデカすぎないか?

 同じようなことを考えたのだろう鈴音は、呆れながらも、しかし冷静に返した。

 

「──それは、あなたたちが見つけたという、『優待者の法則』が正しいと示してからよ。あなたたちは、私たちの軍門に降るのでしょう?なら、先に出せるものは全て出すのが筋じゃないかしら?」

 

 その指示を受けて、龍園は傍の伊吹をチラリと見た。

 伊吹はため息を吐きながら、一枚のメモを片手に近付いてくる。

 桔梗がその紙を受け取り、閉じられていたそれを開くと、そのメモには、『干支 数字 五十音順 クラス混合』と書かれていた。

 ────なるほど。俺がついさっき至った答えと、完全に一致している。

 

「啓誠」

「確認できた。俺たちのクラスの優待者にも、この法則は当てはまると見て良い」

 

 啓誠は自分のメモ帳に書いていた各グループの名簿に、その規則性を当てはめていった。

 つまり、この『優待者の法則』は、間違いなく正解と見て良い。

 俺は、鈴音の目を見て頷いた。

 

「………なるほど。あなたの誠意は確かに受け取ったわ、龍園くん。───それじゃあ、本題に入りましょう。私たちの傘下に入る、その理由も含めて、ね」

 

 さあ。ここからが、本題だ。

 

 龍園は、意外そうな顔で鈴音を見ていた。

 

「お前なら、分かってると思っていたんだがな、鈴音」

それ(名前呼び)はやめて」

それ(名前呼び)はやめろ」

 

 俺と鈴音の意見というか、要求はほぼ同じタイミング。

 殆ど無意識だったが、その、流石に気まずいな。

 暗がりでも薄らわかる赤さの鈴音から目を逸らした。

 平田と啓誠はまたやってる、と言いたげな顔だった。

 カルマはおもちゃを見つけた顔だった。まぁ、船から降りたらたっぷりと弄り倒すし。

 鈴音は咳払いをして気を取り直した。

 

「───とにかく。あなたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、何故私たちに降参するのかしら?」

「逆だよ鈴音」

「やめて」

「やめろ」

「…………お前ら本当に付き合ってないのか?」

 

 龍園は少し奥の方に立つカルマを見た。

 多分確認しているのだろう。カルマは悪い笑顔で頷いた。

 

「…………お前(情緒小学生野郎)の同類か……?」

 

 龍園は凄くゲンナリした顔でカルマと俺を見比べていた。まぁ、うん。その、なんていうか。

 

「告白されはしたが、その、答えを保留している関係だ」

「最低じゃねぇか」

 

 取り敢えず、俺の口から説明した。龍園は呆れ果ててそう答えた。

 否定はしない。できない。

 

「ちなみに、櫛田さんも告白したけど、答えは保留しているよ」

「最低最悪ね」

 

 楽しそうにカルマは追加の情報を出した。伊吹は便所裏に張り付いたガムを見る目で俺を見ていた。

 否定はしない。できない。

 

「その癖こんなに独占欲見せてくんのか?」

「まぁ、その、櫛田にもこんな感じだ」

「あっはははははははは。その、同じクラスメイトとして擁護すると、綾小路くんは別に、二人を都合よく使っているとか、そんなわけじゃ………わけじゃ………うん。その、何でもない」

 

 おい啓誠。いまそれ(桔梗にも似たような対応)言う必要あったか?

 平田は庇うなら最後まで庇え。………流石に祝勝会でのアレ(ゲーム機おねだり)はやりすぎたと思っているが。

 

「…………悪かったな赤羽。お前(情緒小学生)と比較すんのも申し訳ないぐらいにはレベルが違った(最低最悪すぎる)わ」

 

 おい龍園。お前本当に傘下に入る気があんのかよ。

 他のDクラス首脳陣も心から同意するような顔をするな。何だったら平田と啓誠も似たような顔をするな。

 

 鈴音と桔梗は、そっと目を逸らしていた。

 

 俺は、泣いた。

 

「その、話を戻すが」

 

 よし戻そう。すぐに戻そう。と言うかそもそもさっきまでのは脱線だったし。ここからが本題だし。

 

「ズタボロになってまで勝とうとしたが、お前たち(首脳陣)どころか山内春樹にしてやられて完敗したんだ。俺がお前たちには勝てないと思って、降参するのも、決しておかしくはないだろう?」

「ならどうして、あなたはまだ、そこ(クラスリーダー)にいるのかしら。責任をとって辞めるのが、あなたの通すべき筋ではないの?」

「そこに関しては赤羽に文句言ってくれ。俺はこいつに任せようとしたのに、こいつがそんな面倒なの嫌だとか言ってきたんだからな」

「………俺そんなことは言ってないんだけど?」

「似たようなもんだろ」

「……まぁ、否定はしないけど」

 

 ここまでのやり取りで、()()()()()()()

 桔梗は、俺たちにだけわかるサインで、そう伝えてきた。

 

「なら仕方ない。敗戦処理は、やっておかないとな」

 

 これにも嘘はない。

 ………だが、春樹とは違って、こいつの真意が違うことぐらいは、簡単に分かる。

 少なくとも、俺には。

 

「そう、ならあなたは、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「あぁ。そう受け取ってもらって構わぇぜ」

 

 嘘ではないが、()()()()()()()()

 桔梗は、俺と鈴音にそうサインしてきた。

 

 まぁ、大まかな予想はついている。どうせ、()()()()()()()()。とか、そんなところだろう。

 だが、平田と啓誠は、少なからず納得している。俺と鈴音も、桔梗の目がなければ、納得していたかもな。

 

 この諦めの悪さ。

 この立ち直りの速さ。

 この大胆さ。

 

 ──なるほど。カルマが気にいる訳だ。

 

「取り敢えず、納得しておきましょう。──それじゃあ、この試験をどうやって終わらせるのか、あなたたちに何を要求するのか。細かく詰めていくわ」

 

 さて、ここからは、交渉、いや、要求の時間だな。

 

「まず、優待者の指名は五人分、うちのクラスでやっておくべきだ。それでBを追い越せる。奴らにも一応、一人分は譲ってやろう」

「まぁ、そうだね。余りにも搾取しすぎれば、必ず反発する生徒は出るだろうし、その対処まで考えるのは面倒くさいから」

 

 啓誠の案に同意する平田。

 俺たち三人としてもそれに異論はない。一応、『優待者の法則』を見つけた功績はあるからな。

 

「お互いのクラスの優待者は、お互いに指名し合うことで帳消しにするのが良いと思うんだけど」

「……そうね。CPが減る機会は、可能な限り減らしておきましょう」

 

 2クラスが実質的に共闘しているから使える裏技だな。

 お互いに優待者を指名し合うことで、指名されるペナルティを実質0にする。

 

 敢えて不正解を解答させて、結果4を量産し、自クラスのCPにする手もある、が。

 

 降参してきた相手にそこまでするのは、流石にな。それに、追い詰めすぎて、退学覚悟で暴れられても困る。

 

「後は、そうだな。卒業まで毎月一人当たり2万ポイント、こちらに支払わせる。一月あたり80万ポイント。今は八月だから、二年と四ヶ月、合計二十八ヶ月で、2240万ポイント。これだけのポイントがあれば、相応のことができるだろう」

「………性格悪いね、綾小路くん」

「全額と言わなかっただけ慈悲があるだろう」

「………それも、そうだね」

 

 ………出来れば、この契約で、奥田やカルマを封じておきたかったが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 奴らがこの契約を破ったとしても、()()()()()()()()()()()()()()と言われて仕舞えば、代表者である龍園に責任を問うのは難しい。

 ……まぁ、流石に、いやでも、カルマだしなぁ。

 平田はそこに、さらに追加する。

 

「後はまぁ、今後一切の暴力行為、窃盗行為、恫喝、詐欺行為、性暴力、これらの行為を禁ずる、とか?」

「異物混入も加えておけ」

 

 ………そうだな啓誠。それが一番大事だ。

 一先ずは、こんなところか。

 俺はそれぞれの内容を纏めた契約書を作成した。

 法律よろしく、抜け目がないように。

 

 首脳陣を代表して、鈴音は俺の作成した契約書を持っていき、そこで不意打ち気味に尋ねた。

 

「この契約書に、代表者の指名をお願いするわ。この契約に反した場合、その代表者には退学してもらう。───ところで龍園くん。この『優待者の法則』。見抜いた人は、誰かしら?」

 

 ………!なるほど。確かにそれなら、カルマも奥田も封じられる。

 それに気付いたカルマは、苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「……あぁ、そいつは」

「私ですよ。堀北さん」

 

 名乗り出てきたのは、予想通り。

 

「───あなたとは、あの早朝以来でしたね。椎名ひよりです」

 

 やはり、椎名だったか。

 そういえば、鈴音は椎名と、あまり関わりが無かったな。

 

「そう。やっぱり椎名さんなのね。───赤羽くんたちとは、随分と仲が良いと思うのだけれど」

「えぇ。そうですね。大切な人たちですよ」

 

 …………まさか、これで気付いてないのか、カルマのやつ。

 いやまぁ、あいつ、他人の恋愛には敏感でも、自分のには鈍感そうだからなぁ。

 

「───そう。『優待者の法則』に気付くほどのその頭脳。あなたたちとしても、無くすのは惜しいでしょう?だから、椎名さん。あなたが、この契約書に指名して頂戴」

「分かりました」

 

 特に動揺も見せず、椎名はその契約書に署名した。

 

 カルマは、悔しそうな顔を隠すように、口元を押さえていた。

 

 完全に、してやられたな。カルマ。

 これでこの契約は、お前の動きを雁字搦めにする、絶対に断ち切れない鎖になった。

 何せ、この鎖を強引にでも断ち切れば。

 

 断頭台(契約違反のペナルティ)は、椎名ひより(代表者)の首に、ギロチン(退学)を落とす。

 

 全く、恐ろしい一手だな、鈴音。

 

 カルマの盤外戦術を、殆ど完璧に封じ込めた。

 

「それじゃあ、明日の試験終了後、この契約書の通りに進めて頂戴。もし違反したら、分かっているわね」

「あぁ。俺らはお前らの傘下に入ったんだ。裏切るわけがないだろう?」

 

 ………どうせ。上手いこと鎖から抜け出すつもりなんだろうが。まぁ、今は良いだろう。

 さて、後は消化試合だな。

 と、その前に。

 

「誰に優待者の指名をさせるか、決めておくか?」

 

 指名した生徒は50万貰えるしな。

 

「一人は山内くんで良いんじゃないかな?無人島試験でのMVPは彼な訳だし」

 

 平田のそれに、全員納得した。

 多分、クラスメイト全員が納得するだろう。

 

「それなら、もう一人は池で良いだろう。リーダーであることを隠し通してみせたし、山内への援護も完璧だったからな」

「なら三人目はお前だ、啓誠。これまでの功績に加えて、龍園の策を見破ったこと、春樹への援護が完璧だったことも踏まえて、お前にもそれ相応の報酬があるべきだ」

「うん。幸村くんにはそれだけの報酬があっても良いと思うな」

「そ、そうか。なら、うん。受け取っておく」

 

 これも、クラスメイト全員が納得するだろうな。

 さて後五人は、どうするか。

 

「…………高円寺にしておくか?なんだかんだで、やつには色々と助けられているしな」

「……まぁ、そうね。少しでも借りを返しておくに越したことはないわ」

 

 後四人。

 

「じゃあみーちゃんはどう?あの子の調理スキルのおかげでだいぶ楽ができたし、成績優秀者として、他の子たちへの講師役もやってくれてるし。これくらいは良いんじゃない?」

 

 桔梗の提案に、全員が納得した。

 次に鈴音が提案する。

 

「そうね。長谷部さんはどうかしら。佐倉さんのストーカー事件では、とても助けられたし、幸村くんの偵察にも付き添ってくれていたもの」

 

 これで、後二人。

 続けた鈴音。

 

「小野寺さんを推薦するわ。彼女の身体能力は、今後も大いに役に立つでしょうし、女子の中では一番、食糧集めに貢献してくれたもの。……まぁ、今後への期待も含めて、といったところかしら」

 

 さて、後一人か。

 

「パンデミックの時に大きな戦力になってくれたし、それから食糧調達の際にも、大きく貢献してくれたからな。最後の一人は須藤で良いんじゃないか?」

「………そうしたいのは山々だが、寛治と須藤は同じグループだからな」

「……そういえばそうだったな」

「佐倉さんも、そうだったわね」

「………軽井沢さんは、綾小路くんたちと同じだったね」

 

 と、なると。

 

「三宅で良いんじゃないか?啓誠の偵察に付き添ってくれていたし、須藤には劣るが、同じくらい食糧調達に役立ってくれていたからな」

 

 これで全員揃ったな。

 

 こうして、俺たちは解散した。

 

 

 部屋へと戻る道すがら、啓誠は今まで考えていたのだろうことを俺に話した。

 

「なぁ清隆。二日目で終わらせてよかったのか?三日目四日目で、他クラスの情報を収集するのも手の一つじゃないのか?」

「その通りだが、それよりもDクラスを傘下に入れる方が優先事項としては上に来たからな」

「………確かに、奴らとの契約の方が優先だな。Bクラスに昇格する、千載一遇のチャンスでもある」

「それに、他クラスの情報収集なら、明日一日使えば良いだろう?」

「それもそうだな」

 

 丁度いい。明日の話し合いは、啓誠の模擬試験と行くべきだろう。

 

「……も、模擬試験?」

「あぁ。嘘を付かずに、渚に全てを隠し通せ。それから、A、Bクラスの情報を、可能な限り集めてみろ」

 

 その後、三宅と高円寺に報酬の話をすると、前者は驚きながら、後者は当たり前だねとでも言うように(実際言った)受け入れた。

 

 後で鈴音が教えてくれたんだが、長谷部は佐倉に抱き付きながら喜んでいたとか。佐倉は目を回していたらしい。小野寺は鈴音の期待の重さに僅かに冷や汗をかいていたとか。

 

 桔梗も教えてくれたんだが、みーちゃんは驚きのあまり固まってしまったらしい。同じ部屋の佐藤と松下は、全力で祝福していた。全員で胴上げしたらしいな。悲鳴なのか嬌声なのか分からない声を上げていたみたいだ。

 

 平田が言うには、寛治と春樹は飛び上がって喜んでいたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 船上試験が終わった翌日。

 

 俺は、茶柱佐枝に呼び出されていた。

 

 …………まぁ、予想はついているが。

 

「───綾小路、イカロスの話は知っているか」

 

 蝋で固めた翼で持って、島を脱出しようとして、太陽に近づき過ぎて墜落して死んだ、ダイダロスの息子。

 

「まぁ、教養としては」

「……………そうか。………哀れだとは思わないか。イカロスは、ただ自由を求めていただけなのに」

「………そうですね」

 

 きっと、今。

 イカロスのすぐ近くに、太陽が迫っているのだろう。

 ───だが。

 

「………イカロスが、ダイダロスの言う翼ではなく、船を作っていたとしたら、何の問題もないでしょう」

 

 空を飛ぶのでは無く、航海に出ていたのなら。

 

「─────だが、一人の航海では、いずれ限界が訪れる」

「いいえ、イカロスは一人ではありませんよ。茶柱先生」

「はいっ。彼を手伝う為に、迷宮に入り込んだ、二人の天使がいますからっ」

 

 イカロスに手を差し伸べる、強く賢い天使と、怖くて狡い天使がいる。

 

「それに、天使は二人だけじゃありませんよ」

 

 最も怖くて優れた天使と。

 

「少なくとも、ここに四人はいます」

 

 最も嘘つきで優しい天使と。

 

「もしかしたら、後二十四人ぐらいは、来るかもね」

 

 最も悪戯で容赦の無い天使と。

 

「そ、それに、神様も二人、手伝ってくれます!」

 

 最も無邪気で恐ろしい天使がいる。

 

 彼らに並ぶ天使たちも二十四人いるし、最も強い戦神と、万に通じる美の女神もいる。

 

 太陽が、イカロスを堕とそうとしても。

 ダイダロスが、イカロスを閉じ込めようとしても。

 

「───イカロスが迷宮で出会った妖精たちも、手伝ってくれるかもしれませんし」

 

 イカロスが迷宮で出会った、賢く鋭い妖精と、愚かで力持ちな妖精と、平凡で愚直な妖精と、愚かで嘘つきな妖精と、傲慢で優れた妖精。

 気弱で美しい妖精も、明るく友達想いな妖精もいる。

 きっと、優秀で暗い面も持つ妖精も、手を貸してくれるかもしれない。

 

 それに、天使たちが出会った、虚弱で賢い妖精。善良で輝かしい妖精。諦めの悪い狡猾な妖精。聡く優しい妖精。彼ら彼女らも、手を貸してくれるかもしれない。

 

 かつてイカロスと天使たちが争った悪魔も、手を貸してくれるかもしれない。

 

 確証は無くても、可能性は信じられる。

 孤独に自由を求めたイカロスは、もう居ない。

 いるのは、仲間たちと海に出て、自由を探すイカロスだけ。

 

「────…………なるほど。ダイダロスは、もう必要ないか」

「えぇ。イカロスと天使たちは、ダイダロスよりも前に、ケイローンに出会っていますから」

「────…………ふっ、ケイローンが相手では、流石に勝ち目はないか」

 

 茶柱は、夜空と、壊れかけの三日月を背に、俺たちに笑いかけた。

 

「ならば、太陽から逃げ切って見せろ。イカロスと天使たち」

「えぇ。逃げ切るどころか、殺してみせます」

 

 ────何せ、ケイローンに師事したイカロスと天使たちは。

 

 凄腕の、暗殺者なのだ。

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