殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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悪夢の三日間(スリーデイズ)と3年E組

 さて、カルマのお手入れ、二日目の朝。

 

 目を覚ました椎名ひよりは、なんだか心地良い少し刺激的な匂いに包まれているのに気付いて。

 ぼんやりと、目を覚ました。

 起き上がった椎名ひよりは、部屋を見渡していく。

 男の子の部屋だ。必要最低限、のようでよくわからない用途のものが点在している。炭酸水メーカーもある。

 勉強机には、教科書が沢山。傍には、解き終わったのだろう問題集が無造作に捨て置かれている。

 そして、隣には背中を丸めて眠っている奥田愛美。

 部屋に響くのはシャワーの音。

 

 成程。昨日は二人とも疲れ果てて寝落ちして、部屋を見る限り男の子の部屋なので、多分カルマの部屋に泊まったのだな、と理解して。

 

 ベッドから転げ落ちた。

 

「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 言葉すら出せずにひたすら動揺した椎名ひよりは、ひとまず立ち上がって数回深呼吸した。深呼吸するたびに、刺激的で好ましい香りが、鼻腔に飛び込んできて。

 

 慌ててベランダに飛び出て深呼吸し直した。

 新鮮で匂いのしない酸素をたっぷりと吸い込んで、二酸化炭素として吐き出して。

 脳みそがようやく回り始めた。

 

「……………お、大人の階段、登ってしまったのでしょうか」

 

 やっぱりまだ冷静じゃないかもしれない。

 

 そこで、シャワーの音が止む。

 ドライヤーの音が響く中で、椎名ひよりは心臓をこれ以上ないくらいに高鳴らせながら、ゆっくりと、振り向いた。

 やがて、脱衣所の扉が開く。

 完全に、油断していたのだろう。そこに寝巻きのハーフパンツに、上裸の赤羽業が。

 

「………お、おはよう、ひよりさん………」

 

 多分、起きてくるとは思わなかったのか、動揺で声が震えていた。

 椎名ひよりは、カルマの鍛えられた上半身をつぶさに観察して。

 

「………きゅう」

 

 気絶した。

 

 

 奥田愛美は、ぼんやりと目を覚ました。

 起き上がってから、伸びをして。

 

(………はて、ここはどこでしょう?)

 

 昨日は確か、疲れ果てて遊園地で寝落ちしてしまった記憶まではある。

 それで、ここにいるということは。誰かの部屋に泊まったということなのだろうか。

 

「………お、おはよう愛美さん」

「おはようございます。カルマくん。……………カルマくん⁉︎⁉︎」

 

 何故か制服姿の赤羽業を見て、奥田愛美は飛び上がった。

 つまり、おそらく、自分は。

 

「カ、カカカカルルルルママママくんののののへへへへ部屋とととということですかかかかか」

 

 異性の部屋でお泊まりしたのだと理解して、爆発した。

 動揺のあまり噛んでしまったが。しかし、なんとか状況を受け入れようとして、隣で寝ている椎名ひよりを見た。

 

「……………そ、そんなことが」

 

 よもや、私は。

 ビッチ先生の仰っていた、3Pとやらを。

 

「違うから‼︎‼︎俺は一晩中起きてたし、二人には指一本触れなかったから‼︎‼︎」

 

 明後日の方向。いやそこまで遠くは無いかもしれないが。それでもカルマ視点では明後日の方向に飛んでいきそうな思考を、全力で引き戻した。

 

「律‼︎律‼︎‼︎お願い‼︎俺の潔白を証明して‼︎‼︎」

 

 カルマはスマホの中の第三者に必死で潔白を証明してもらおうとしたが。

 

『すいませんカルマさん。昨日は綾小路さんたちから頼まれて、カルマさんたちの様子は一切確認しておりません。証拠となるビデオもございませんので悪しからず』

「────…………あんのアホどもがーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 カルマの絶叫が寮中に響き渡り。

 カルマの一つ上の部屋に住む綾小路清隆は、その絶叫を聞いて大満足であった。

 

 隣の龍園は合掌していた。

 全く。だからお守りを渡したというのに。

 万が一があったら責任取れよな。

 

 すごく、その。

 見当違いである。

 

「ほ、本当に私たちは、そういったことはしていないと」

「してない‼︎絶対にしてないから‼︎‼︎」

 

 ………一応、信じるべき、だろう。

 そう納得した奥田は、椎名を起こそうとして。

 

「………カルマくん……服を……」

 

 そんな寝言を聞いた。聞いてしまった。

 

「………カ、カルマくん………?」

「違う違う違う違う違う‼︎本当に違うそれは違う‼︎さっきその、シャワー浴びてて、で、まだ目を覚まさないだろうと思ったから上裸で出てきたら、ひよりさんがたまたま起きてただけだから‼︎」

 

 な、成程。確かに筋は通っている。

 ひとまず、そうひとまず奥田は納得しようとして。

 

「………カルマくん、の………えっち…………」

 

 そんな寝言を聞いた。聞いてしまった。

 

「カルマくん⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

「待って違う本当に違うそれは違う‼︎なんでそんなこと言ったのかは分かんないけど本当に違う‼︎‼︎」

「え、えっちって言われるようなことを私たちにしたんですか⁉︎⁉︎」

「違う‼︎とにかく違う‼︎そんなことは一切してない‼︎」

「じゃ、じゃあ椎名さんはカルマくんにえっちなことされてる夢でも見てるとでも言いたいんですか⁉︎」

「なんでそうなんの‼︎‼︎⁉︎⁉︎」

 

 人それをムッツリスケベという。

 態とそんな寝言を溢していた狸寝入り中の椎名ひよりは真っ赤になった。

 カルマへの仕返しのつもりが、自分も大きなダメージを受けるとは。やはり恐ろしき奥田愛美。

 

「あ、そうだ服‼︎服昨日のままでしょ二人とも‼︎脱がせてもいないし触ってもいないって証明になるでしょこれなら‼︎」

 

 一体俺は何を言っているのだろう。

 カルマはそんなことを思っていた。

 

 さて、ようやく落ち着いた三人は、取り敢えずカルマが用意した朝食を食べることにした。

 どシンプルなミニサラダにトーストと茹で卵。なんというか実にお手軽なメニューである。

 ………さて、三人はあえて直視していなかった問題に直面していた。

 すなわちどうやって女子寮に戻ろう、である。

 

「これ見つかったらだいぶ不味いですよね」

「最悪退学も大いにあり得ます」

「だから女子寮に連れてってって言ったのにあのバカどもはさぁ」

 

 E組で鍛えてきたカルマと愛美ならば、窓から帰ることも充分にできるが。ひよりの細腕と貧弱さでそれができるだろうか。

 ………いや待て。

 奥田愛美は画期的な解決策を見つけ出した。

 

「………カルマくんが椎名さんを抱えて窓から帰れば万事解決では?」

「………それだ」

 

 待ってくれ。

 椎名ひよりは全力で拒否に入った。

 

「私が絶叫系が苦手なのはよく知っているでしょう。窓から飛び降りるなんて絶叫系以外のなんだと言うのですか。絶対に無理です嫌です!」

 

 絶対に腰が抜けるしもしかしたら悲鳴もあげてしまうかもしれないぞ。もはや脅迫のような剣幕で命乞いをするが、カルマと愛美はもはやこれしか無い、と思っているので聞くつもりは無い。

 

「本当にごめんなさい椎名さん!」

「大丈夫、絶対に落としたりしないから!」

「そう言う話じゃなくて‼︎」

 

 ひよりを姫抱きしたカルマは、手摺を踏み台に勢いよく空中に飛び出した。愛美もその後を追うように飛び出した。

 ベランダに出て洗濯物を干そうとしていた龍園は目を疑った。

 ベランダからカルマの部屋の様子を伺っていた綾小路は懐かしいな、と思っていた。

 

 ひよりはカルマの腕の中で姫抱きにされていることに赤くなって、身体が宙に浮く感覚に青くなって、カルマが排水管やら何やらを蹴って勢いを殺す度に白くなった。

 多分昨日のアトラクションよりも圧倒的に怖い。

 ダッシュで女子寮の入り口まで辿り着いたカルマは、ひよりを下ろして、やっぱり腰が抜けて産まれたての子鹿よろしく足が震えているひよりにしがみつかれた。

 

「馬鹿なんですか馬鹿なんですか馬鹿なんですか‼︎何であんなに激しく動き回るんですかやっぱり腰が抜けちゃったじゃないですか‼︎だからやめてって言ったのに‼︎」

「いやでもこうするしかなかったし」

 

 側から見たら完全な痴話喧嘩である。

 

 少し遅れて奥田愛美が追いついたタイミングで、走り込みをしようとした伊吹澪と、玄関で出会した。

 

 伊吹澪は、目の前の光景を見て、一瞬固まった。

 

 赤羽業の右腕にしがみついている椎名ひよりは足が震えているし、内股で腰が引けている。

 その少し後ろには(パルクールで)服が乱れて(パルクールで)汗をかいて(パルクールで)息が乱れている奥田愛美がいる。

 

 伊吹澪(思春期女子)の思考はある結論に達し、真っ赤になって目を逸らした。

 

「…………………その、お盛んなのね」

 

 多分カルマのカルマが大暴れした結果なのだろう。

 朝方まで暴れ回るとは。

 

「違うから‼︎‼︎‼︎‼︎」

「違います‼︎‼︎‼︎‼︎」

「違います‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 余りにも明後日の方向にぶっ飛んでいるので、必死に戻そうとしているが。

 

「……いえ、そう言う形の付き合いもあるものね。私からは何も言わないわ」

 

 しかし一向に引き戻せる気はしない。

 

「違う‼︎‼︎‼︎」

「違います‼︎‼︎‼︎」

「違います‼︎‼︎‼︎」

「………その、避妊は、したの?」

 

 だからそもそもそんなことをする必要があるようなことをしたわけではなくて。

 

「違うっ‼︎‼︎‼︎」

「違いますっ‼︎‼︎‼︎」

「違いますっ‼︎‼︎‼︎」

「……その、まさか、してないの………?ま、まさか、重婚……?か、海外移住……?」

「そもそもそういうことは一切してない‼︎‼︎」

 

 カルマの全力の訂正に、しかし伊吹は納得がいっていない。

 

「……じゃ、じゃあ何で椎名はそんなに足が震えてるのよ。立つのもやっとになるぐらいには、その…………」

「ムッツリか‼︎‼︎」

 

 カルマの全力のツッコミに、しかし伊吹はキレた。

 

「は、はぁ⁉︎言うに事欠いてそれ⁉︎わ、私がムッツリなんじゃ無くてあんたらがいやらしいんでしょうが!」

「だっかっらっ、そのいやらしいことしたって認識が間違ってんだよっ‼︎」

 

 伊吹の誤解が解けるまで、凡そ五分は掛かった。

 カルマたちはまだ朝なのに疲れ果てていた。

 嘘だろう。

 本番(渚のお手入れ)はこれからなのに………。

 

 二人が女子寮に入るのを見届けた後、カルマは顔を出してきた太陽を見上げていた。

 

 あぁ、頼む。すぐさま沈んでくれ。

 

 しかし残念、一日はこれからなのだ。

 

 朝のランニングのために玄関から出て来た堀北鈴音は、既に疲れ果てている様子の赤羽業を見て。

 

「おはよう赤羽くん。今日も頑張りなさい」

 

 それだけ言って、走り出した。

 

 

 悪夢の三日間(スリーデイズ)、二日目である。

 

 

 

 渚と茅野は、すごくいい笑顔で、三人を待ち構えていた。

 

 三人、特にカルマは疲れ果てていたが、そんなのは一切関係ない。

 

「さて!三人には今日一日中コスプレ祭りだよ!」

「めぼしい店はいくつかあるから、順番に回っていこう」

 

 元々子役だったのもあって、そういった衣装系に大きな興味を持っていた茅野は、色々なお店を探し回ったが。

 実際に着るのは流石に……。みたいなお店もあったので、そこをメインで回っていこうと思う。

 

「ねぇそれおかしくない?何で実際に着るのを避けるような服のお店ばっかり行くのさ」

「だって着るのは私じゃないし」

「これはお手入れだよ。口を挟んじゃダメだから」

 

 そんな二人が案内した店に、流石に三人は全力で拒否した。

 

「これはダメでしょう⁉︎流石にこれはダメでしょう⁉︎」

「と、と言うよりこんなの学校の敷地内にあってはダメなんじゃ……?」

「と言うか二人は何で知ってんの⁉︎」

 

 渚と茅野はそっと目を逸らした。

 担任がこの店に男を連れて入り込んだことは絶対に秘密である。

 

 その店の名は、『兎の園』。

 つまりバニー服専門店である。

 ちなみに紹介制なので学生は利用できない。

 何故彼らは利用できるのか?

 渚と茅野は答えない。

 お互いにとってよくないので(担任の弱みを握って強請った)

 秘密が役に立った、とは言っておこう。

 

 

「………いらっしゃいませ。紹介状はお持ちですか?」

「こちらを」

「……確認できました。ようこそ、『兎の園』へ。……………あの馬鹿教師、生徒に紹介状渡すなよ」

 

 店員のぼやきに、渚と茅野は完全に同意した。

 それはそう。

 

「……当店は、男女の仲をより進展させることを目的とした、レクリエーションを提供する店でございます」

 

 広めのカラオケ個室ぐらいの部屋に、五人は案内された。

 

「こちらの部屋は、完全防音となっておりまして、監視カメラも窓も御座いません。中でナニをしようと外にバレることは絶対にございませんのでご安心ください」

 

 具体的にどういうお店かを聞かされるとここで担任の星之宮知恵がナニをしてたのかまで分かってしまい、とても気まずくなった。

 ………なるほど。だから紹介状を渡すときとてもニヤついていたのか。

 二人はだいぶ赤くなった、が。それはそれとして。

 

「衣装はこちらに」

 

 店員はクローゼットを開ける。

 そこには白いバニー服と黒いバニー服が数着ずつ掛けられていた。

 

「カメラはここに」

 

 やけに高性能な一眼レフも貸してくれるらしい。

 

「現像サービスには一枚2000ポイントほど頂きますので」

 

 ちなみにカルマに現像する気は一切ない。もちろん撮る気も一切ない。まぁ、渚と茅野は現像させるし撮らせるが。

 

「それでは、当店は二時間制でございます。もし延長をご希望でしたら、一時間につき一万ポイント頂きます。それでは、節度を守ってご利用ください」

 

 …………まぁ、学生にはそう言うよね。

 店員は最近の学生は進んでるなぁ、と。感心と呆れ半々の視線を向けて、個室から出ていった。

 さて、それでは始めよう。

 

「嫌です!これだけは絶対嫌です!」

「は、はい!他のお手入れを希望します!」

「残念ながら、二人に拒否権はありません!さぁ、そこの更衣室でちゃっちゃっと着替えて来なさい!」

「大丈夫だよ。僕はアイマスクするから」

 

 流石に異性にバニー服姿を見られるのは嫌だろうし、渚はアイマスクをして仮眠を取るつもりである。

 ちなみにアイマスクは一人分しかない。

 

「…………ねぇ、俺は?」

「今から二人の撮影会するから、私の指示通りに写真撮ってね」

「……………………渚!アイマスクよこせ‼︎」

「ごめん無理」

「これはお手入れだよカルマくん」

 

 どれだけ拒否しようとも、もう逃げられないのだ。

 

 更衣室にバニー服と共に放り込まれた二人は、嫌々、本当に嫌々それに着替えた。

 

「さて、それでは────ご開帳!」

 

 ノリノリの茅野の手によって、更衣室の扉が開かれて。

 白いバニーガール服の椎名ひよりと、黒いバニーガールの奥田愛美が現れた。

 二人は縮こまって体を隠そうとする。が。茅野は強引に引っ張り出して、本場の撮影場と勘違いしてしまいそうなぐらいには、ちゃんとした照明とパラソル付きの撮影場に連れて来た。

 谷間が強調されたバニー服。網タイツに膝上丈のミニスカート。流石にこれは危なすぎる。

 

「さて!それでは撮影会を始めます!」

 

 何故茅野はテンションが上がっているのか。夏のせいか?夏のせいなのか?

 

「…………見、見ないでください………」

「…………カ、カルマくん、えっちです………」

 

 カルマは、首を全力で回して、後ろを見ていた。

 

「…………本当に、ごめん………」

 

 一瞬だけ見てしまったことを、誠心誠意謝罪する、が。

 茅野はそんなことでは止まらない。

 

「さぁ!カルマくん!今日の君はカメラマンなのだ!早くカメラを構えたまえ!」

 

 渋々。本当に渋々カメラを構えたカルマに、二人も燃え上がりそうになりながらも覚悟を決めた。

 

 撮影会が、始まる。

 

「よぅし!まずは前屈みになろうか二人とも!カルマくんは真正面から撮ってね!」

 

 茅野としては、グラビア撮影をする側に回るのは初めてなので、とても楽しい。

 三人としては、撮るのも撮られるのも恥ずかしいので、一刻も早く終わりにして欲しい。

 

 まずは谷間を強調するような前屈みで。

 カメラは羞恥と緊張で震えていた。被写体も羞恥で震えていた。

 だがしかし、人間は慣れる生き物である。

 

 撮影会が進むにつれて、三人とも心なしか真剣に取り組んでいた。茅野の声掛けがうまかったのもあって、被写体は積極的になったし、撮影者も一瞬を切り取るために神経を集中させていた。

 げに恐らしきは、全員の緊張と羞恥を上手く取り除く空気の作り方と演技力である。

 

 茅野に乗せられて、三人の気分は完全にプロのモデルとカメラマンだ。

 

「そう!そんな感じ!振り向きながら流し目で!良いよ!良いよ!奥田さん!すっごく色っぽい大人の女って感じしてるよ!」

 

 大胆に切り抜かれた背中を見せながら、振り向きざまに流し目でカメラを見やる。

 すごく大人な感じがしている。

 

「良いよ椎名さん!そうその死ぬほど可愛い上目遣い!法に触れちゃいそうなぐらいに可愛い‼︎みんなの心臓を乱れさせちゃえ‼︎」

 

 床に寝そべり肘をついて顔を上げ、目を潤ませて上目遣いでカメラを見やる。

 頸動脈からアイラブユーが飛び出てしまいそうだ。

 

「カメラ!もう少し下から!そう、そのあたり!ギリッギリを狙って!見えるから見えないかのチラリズム!この写真こそ青少年の性癖を拗らせる一枚になるんだから‼︎」

 

 指示に従い見えるから見えないかのギリッギリを攻めるカルマ。見えそうで見えないチラリズムこそが茅野にとっては至高のようである。

 動揺よりもどれだけ魅力的に二人を写真に収めるかに集中している。

 

「そう!そうだよそれだよ‼︎その表情‼︎バニーガールは草食動物の皮を被った肉食動物なの‼︎ちょっとだけ舌出そう二人とも‼︎目の前のご馳走に舌なめずりする感じで‼︎」

 

 興奮と羞恥で頰を赤く染めながら、二人は少しだけ舌を出して、軽く唇を舐めた。

 蕩けた瞳で、カメラを構えるカルマを見ているような気がする。

 シャッターは凄まじい勢いで切られていく。

 

「…………すごい張り切ってるなぁ皆」

 

 アイマスクをつけてるので何も見えないが、シャッターを切る音と茅野のテンション高めの指示から、撮影会がどんな感じなのか大まかに把握した渚は、後で三人とも大変そうだな、とは思った。

 

 撮影会は、どんどん熱気を増していった。

 

 

 

 カラオケよろしく、受話器が鳴った。

 渚は音を頼りにそれを探り取り、耳に当てると。

 

「───ただいま2時間が経過しました。いかがなさいますか?」

 

 延長するかしないか、ということだろう。

 あくびを噛み殺しながら、渚は全員の意見を聞くことにした。

 

「みんなぁ、延長する?」

「もっちろんだよ‼︎ねぇ皆‼︎」

 

 そんな茅野の声かけに、しかし、カルマたちは静まり返っていた。

 ………多分、受話器が鳴ったのを聞いて、正気に戻ってしまったのだろうな。

 カメラを壊さないように丁寧に机の上に置いたカルマは、顔面を両手で抑えながら転げ回った。

 椎名と奥田はダッシュで更衣室に向かい、バニー服を壊してしまわないように丁寧に、しかし最速で着替えた。

 

 まぁ、分かりきったことではあるが。

 

「もう良いからっ‼︎‼︎」

「もう良いですっ‼︎‼︎」

「もう良いですっ‼︎‼︎」

 

 三人の声と思考は、完全に一致していた。

 

 さて、サービスとして、写真を現像してもらえるのだが。

 

「嫌だ!絶対に現像なんかしないっ!」

「────ふぅん?そんなこと言って良いのかなぁ?」

 

 茅野は、カルマを脅迫した。

 

「良い、カルマくん?これを現像する権利は私たちにもあるわけで。私がポイントを払えば、この二人のエロ可愛い写真は、私のものになる。二人とも、学年でも上位の美少女だよ?

 ────一体、幾らで売れるのかなぁ?」

 

 な、なんて事を………!

 

「か、茅野さん………?そんな、酷いことしませんよね………?」

 

 涙目で茅野を見つめる奥田に、一瞬狼狽えたが。

 これはお手入れなのだ。お仕置きなのだ。嫌だけれど、いやほんとだし。別に可愛いとか思ってないし。

 

「…………雪村さん。その、出来れば、その写真を売るのだけは、その………」

 

 恥ずかしげに、許しを乞うように見上げる椎名に、一瞬胸を高鳴らせる。

 いや別に可愛いとか思ってないし。ほんとだし。

 

「───さて、もし写真を売られたくないなら、分かるよね?」

 

 ………くっ、卑怯な……!

 

「………何枚、買えばいい……!」

 

 うーん、と。

 

「ちょっと待ってね。ベストショット何枚か選ぶから」

 

 茅野は一眼レフに収められた写真を見ていく。

 さて。お、これは良い写真だな。これも良い。これと、これと、これと、これと…………これだな。

 

「ざっと十二枚だね」

 

 合計二万四千ポイントである。

 

「お支払いありがとうございます」

 

 現像された写真を受け取ったカルマは。

 それを、本人たちに渡そうとした。まぁ、それが一番良いのだが。

 とても良い笑顔で、渚は止めた。

 

「───ダメだよ、カルマ。買ったのは、カルマでしょ?」

「………悪魔かよ………」

「そ、の。私たちとしても、自分のそんな写真を持っておくのは、その………」

「は、はい。カ、カルマくんなら、安心ですし………」

 

 渚も茅野も良い笑顔で。

 カルマは、深く、とても深いため息を吐いて。

 写真を、懐に忍ばせた。

 

 

「さて、次に行こっか」

「…………えっ」

 

 言っただろう。コスプレ祭りって。

 

 

 

 まぁ、バニーガールよりもキツいのは殆ど無かったので、二人は割とあっさりとこなしていった。

 代わりに、カルマの財布が大きなダメージを受けていった。

 

 メイド服、プリキュア、和服、ステージ衣装。

 

 そして、チャイナドレス。

 

 バニーガールと同等かそれ以上にはキツい、が。

 そこはやはり敏腕プロデューサー茅野カエデ或いは雪村あかりの腕の見せ所である。

 乗せに乗せられた二人は、ノリノリでポーズを取り、カルマはノリノリで写真を撮っていった。

 正気に戻った三人は真っ赤に燃え上がり蹲った。

 

 

 最終的に、カルマは十五万ポイントを失い、合計五十三枚の写真を入手した。

 

 

「…………今更ですが、お二人もE組の卒業生だったのですね」

「まぁね」

「うん。そうだよ。ちなみに、みんなが呼んでる茅野ってのは、私がE組にいた頃の名前だよ。事情があって茅野カエデって名乗っていたんだ」

 

 椎名のそんな確認に、二人はあっさりと頷いた。

 ………成程。この二人のどちらかが、元Bクラスの化物なのだろう。

 何となく、渚のような気がする。

 櫛田桔梗に雰囲気が少し似ているのだ。色々なものを、見透かされている。

 

(…………まぁ、この二人に関しては、分かったところでどうしようもなさそうですが)

 

 今日は疲れ果てて(睡眠薬を盛られて)眠ることはなかったので、女子寮と男子寮にちゃんと分かれて帰ることができた。

 

 カルマは、心から安堵した。

 

 愛美は、ちょっとだけ残念だった。

 

 ひよりは、正直もう一晩ぐらいは泊まってみても良いかなって思ってしまった。

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