これで夏休み編は終わるかもしれない。(大嘘)
因みに好きな漫画の一つはハイキュー!!です。
※作者のバレー知識はハイキュー‼︎のみ。
男女混合ビーチバレー。
本来ビーチバレーは2体2だが、チーム戦ということで、便宜上バレーのルールを適用している。
25点先取のワンセットマッチ。
ハンデとして、三年Aクラスは交代無し。一年生連合は交代あり。
チーム三年生は、堀北学、神田元、飛騨翔子、藤巻、橘茜、金織美浪。
「占藤先輩はいないのか?」
「あぁ。メメ先輩の身体能力はクソザコだ」
「聞こえてるわよ浅野くん?」
チーム一年生は、綾小路清隆、浅野学秀、赤羽業、堀北鈴音、櫛田桔梗、高円寺六助。
「いつの間にいんだよお前」
「ふっ。私の美を磨くためにプールトレーニングに来てみれば、こんなに面白そうなゲームが開かれていたんだ。参加しないわけには行くまい」
「…………はぁ。唐突にプールから上がったと思ったら全速力でダッシュしやがって。追いつくの大変だったんだぞ?」
「お疲れ!幸村くん!」
「お、お疲れ様です!」
「あぁ。長谷部と佐倉もいたのか。それで、何で先輩方と遊んでいるんだ」
かくかくしかじか。
「なるほど。全面的に清隆が悪いと」
「裁判では無罪だったぞ」
「だからこのバレーで裁く」
怖いって。
堀北学怖いって。
初手のサーブは堀北学。俺は前にいたかったが、他の全員に後ろに引っ張られた。
嫌だぁ。絶対狙ってくる。
「頑張って、清隆!」
「頑張りなさい、清隆くん」
二人の声援に、いつもならやる気を出すところだが。
ネットを挟んだ向こうに見える、堀北学の、顔が怖い。
審判平田のホイッスルと共に、試合が始まった。
『さぁ、始まりました、男女混合三年Aクラス対一年生連合のビーチバレー大会!実況は私!軽井沢恵と!』
『解説の占藤メメです』
『私は正直バレーそんなに知らないんですが、占藤先輩は知ってますか!』
『えぇ。ついさっきルールブックを読んできたわ。完璧よ』
『ついさっき‼︎』
この人の場合はこれで完璧な解説が出来る。出来てしまうのだ。
0─0。
サーブトス、高め。
助走、長め。
かなり高めの跳躍からの、叩きつけるようなスパイクサーブ。
重い衝撃が両手に響く。だが。
『開幕強烈な堀北会長のサァーブッ!しかし綾小路くん、完璧に上げて見せた!』
『上手いレシーブね綾小路くん。腕だけじゃなく体全体で受け流して見せた』
『なるほどっ!よくわからないけれど凄いのは分かりました!』
ボールの落下点に桔梗は移動して、俺にアイコンタクトを送る。
全く。しょうがないな。
柔らかくも鋭いトス。
ボールが最高到達点に行き着くのとほぼ同時に、俺のジャンプも最高到達点に来た。
スパイク一線。
レシーブの構えを取る堀北学の腕に掠って、ボールは地面に突き刺さった。
『カウンターはやっ!えっ、今の何っ⁉︎』
『───なるほど、マイナステンポのバックアタックとはね』
『ま、マイナス?バック?』
『そうね。とんでもなく早い速攻よ。これを実戦で決められるなんて、とんだ変人ね』
『な、なるほど!よく分かりませんが凄いことは分かりました』
流石だな。桔梗。
意識の波長の延長線だ。俺がどこで飛ぶのかを、波長を読み取ることで見分けている。俺の身体能力を殆ど把握している桔梗にとって、どこから飛ぶのかさえわかれば、ドンピシャの場所にトスを出すのくらい、訳はない。
「ナイスキー!清隆!」
「ナイストス、桔梗」
俺と桔梗のハイタッチ。
すぐさま切り替えて、相手コートを観察する。
『恐るべきは学くんね。完全初見のマイナステンポを、それでもギリギリで捉えかけた』
『えっ、あっ、確かに!ボールは堀北会長の腕を掠っていたようです!』
堀北先輩の腕に残る、僅かな切り傷に気付いた占藤先輩と軽井沢がそういったように。
完全初見のはずなのに、捉えかけていた。
眼鏡を、指で持ち上げながら。
堀北学は、笑う。
「───予想以上に、楽しいゲームができそうだ」
俺たち全員に、震えが走った。
『さぁ、続きまして一年生ボール!サーブは赤羽くんです!因みに赤羽くんは、学年イケメンランキング五位にランクインしています!』
『その情報今必要かしら?』
掌の上でボールを回して、砂を振り落とす。
両手でしっかり握って、一回深呼吸。
「頑張ってください!カルマくん!」
「が、頑張ってください!カルマくん!」
椎名と奥田の声援を聞いたカルマは、楽しげに笑った。
(───生憎、会長みたいなド派手なサーブは打てないけど)
度肝は、抜いてやる。
0─1。
軽いサーブトス。
助走は程々。
最高到達点もそこそこ。
軽めにボールをスパイクして、ボールは揺れながら飛ぶ。
「───っ‼︎」
寸前ですぐさまトスに切り替えて、堀北学は、そのサーブを完璧に上げて見せた。
「っ、……くそっ………!」
カルマの顔が、悔しそうに歪んだ。
『凄まじいわね学くん。赤羽くんがジャンプフローターを打つとは、分からなかったでしょうに』
『ジャンプフローターとは何ですか!』
『ボールの真芯を的確に打ち抜くことで、無回転のまま飛ばすサーブよ。空気の抵抗を強く受けて、レシーバーの手元で大きく変化するの。だから、トスであげるのが基本中の基本なんだけれど。
反応が、早すぎるわね』
膝すらついていない。
───バケモノかっ!堀北学っ‼︎
俺たちは全員、同じことを考えていた。
だが、それすらもまだ、甘い評価だった。
体勢を整えた堀北学は、すぐさま走り出した。
「───橘っ」
「───はいっ」
橘先輩と堀北先輩は殆ど同時にジャンプして。
橘先輩のトスと、堀北先輩のスパイクは、殆ど同時だった。
俺たち全員、完全に固まって。
ボールは地面に突き刺さった。
『ま、まさか今のは!マイナステンポのバックアタックですか⁉︎』
『──その通りよ軽井沢さん。まさか、学ぶくんたちも出来るとはね』
浅野学秀と堀北鈴音は、尊敬する超えるべき壁の、圧倒的な高さに。
高円寺六助は、自分よりも高いかもしれない踏み台に。
綾小路清隆は、今年の三月に
赤羽業は、想像を遥かに超える強者に。
櫛田桔梗は、自分の才能を持ってすら殺せないかもしれない怪物に。
全員、笑った。
『さて、1点ずつ取り合って膠着状態!三年生チームのサーブですが、打つのは金織先輩!
やっぱり顔が良い!背高っ!胸でかっ!腰細っ!尻でかっ!足細っ!そんで長っ!何あの人!あの人銀幕デビューさせて無いとかハリウッドは節穴かっ!』
『因みに彼女、三年生の美女ランキング圧倒的一位よ』
『でしょうねっ』
『それだけじゃないわ』
『なんとっ‼︎』
『ナイススタイル女子ランキング、結婚したい女子ランキング、彼女にしたい女子ランキング、デートに行きたい女子ランキング、同棲したい女子ランキング、母性溢れる女子ランキング。それら全てで圧倒的一位。
我らが三年Aクラスの誇る、七冠女王よ』
ボールを下ろした金織先輩は、実況席に視線を向けて。
「騒がしいですね」
絶対零度の視線に晒された軽井沢は震えた。うん。美人が凄むと怖いもんな。
一方、原因の占藤先輩は。
『怒られちゃった………。テヘッ⭐︎』
舌を出して頭を自分で小突いていた。
顔が良いのは得だな。とても似合っている。
1─1。
サーブトス、堀北先輩よりは、ちょっとだけ低め。
長めの助走。
高い跳躍。
身長も生かした高高度から、しなやかな腕を鞭よろしくしならせて、強烈なスパイクサーブ。
「───っ!」
「───お見事です」
鈴音が完璧に拾い上げた。
落下点には浅野。
俺と高円寺、カルマは殆ど同時に飛んだ。
『さぁ強烈なサーブを完璧に上げました堀北さん───ややこしい!鈴音で!鈴音さんのレシーブをトスするのは、浅野くんです!』
『スパイカーは三人同時に飛んでるわね。誰に出すのかしら』
浅野が選んだのは───高円寺。
高円寺の強烈なスパイクが、ブロックで飛んだ神田先輩の腕を弾く。
『ああっとブロック!しかしボールは、三年生チームのコートの外へ!』
『見事なブロックアウトね。だけど』
飛騨先輩が、走り出す。
二十メートル近く飛んだボールの落下点に、一瞬で先回りして、強烈なレシーブで、ボールを強引に戻した。
『な、何という脚の速さ!飛んでいくボールよりも速い人なんているんでしょうか⁉︎』
『インターハイ優勝の実績は、伊達じゃ無いわよ』
『な、なんですと⁉︎』
帰ってきたボールを、今度は堀北先輩が、完璧なバックトスで、ネット際の藤巻先輩に飛ばす。
藤巻先輩のスパイクは、しかし。
完璧に読んでいたカルマにドシャットされた。
性格の悪い笑みを浮かべるカルマに、椎名と奥田の声援が降り掛かった。
『おおおおお!完璧なブロック!』
『上手いドシャットね。どこから打ってくるのか完璧に予想してた』
『ほぇ〜〜〜。つかぬことを伺いますが、先輩はバレーボールの経験などは』
『さっきルールブック呼んだっていったでしょ?』
『…………三年Aクラスやべぇぇぇ!一年生連合がんばれぇぇ!』
今のところは、互角。
だが、俺たち全員、全力でやっててギリギリ。
対して相手は、まだまだ余力を残している。
「今は一点、僕らがリードしている。このリードを守るのではなく、広げるつもりでいく。
つまり狙いは、
浅野の方針に、すぐさま全員が同意した。
1─2。
サーブは、高円寺。
両手を広げて、何かを待つ。
高円寺の性格言動これまでの行動その他諸々から、全てを理解したDクラス女子は、Aクラスの女子も巻き込んで。
『高円寺くんの!かっこいいとこ見てみたーい!』
そんな声援を送った。
満面の笑みを浮かべた高円寺は、強烈なスパイクサーブを叩き込む。
しかし神田先輩が、完璧に上げて見せた。
『お互いにサーブが決まらない‼︎レベルが高いことがよくわかりますっ!』
『上げたのは元くんね。セットアップは誰がやるのかしら』
落下点にいるのは───橘先輩。
───マイナステンポ!
全員の思考にそれがよぎり、全員が堀北先輩を警戒した。
それを嘲笑うように、橘先輩は金織先輩にトスを上げた。
「美浪!」
「完璧ですっ!」
完璧なオープントス。
ブロックに飛んだカルマの上から、叩きつけるようなスパイクが決まった。
「………くそっ」
(読みはあってたのに!)
単純な身長差と、つられた一瞬の遅れでやられた。
『打ったのは金織先輩!いやぁ、またマイナステンポが来ると思ってたんですがねぇ』
『一度でもマイナステンポを見せたら、その強烈さは一瞬で全員に刻み込まれる。
これからずっと、一年生は茜ちゃんのセットアップの度に、学くんに集中せざるを得ない。
囮としても完璧ね』
2─2。
次のサーブは、神田先輩。
「お返しと行こうか、一年生諸君」
さっきのカルマのお返しのように、強烈なジャンプフローター。
だが、高円寺はギリギリで間に合った。
「この私に膝をつかせるとは………!」
しかし体勢は大きく崩れてしまっている。
『神田先輩のサーブを拾ったのは高円寺くん!』
『けれど、膝をついてしまったわ。今回のアタックには参加できないわね』
セットアップは桔梗。
だが全員、俺にだけ意識を向ける訳ではない。
俺を堀北先輩が。浅野を飛騨先輩が。カルマを藤巻先輩が。鈴音を金織先輩が。それぞれマンツーマンで集中している。
一対一で、確実に落とすつもりか?
だが、甘い。
桔梗と俺のマイナステンポ。
で、ブロックアウト。
狙い通り。堀北先輩の指先。
『ああっとこれは再びのブロックアウト!しかし、飛騨先輩が走り出した、が!』
『マイナステンポでさっきよりも落下が速い。流石の翔子でも追いつけなかったようね』
2─3。
サーブを打つのは桔梗。
緩めに飛んで、ネット際ギリギリ。
ネットに掠ったボールは、転がるように相手コートに落ちる。
『完璧なネットインね。狙ったとしたら大したものよ』
『あれってありなんですか?』
『ありよ』
だが、橘先輩が咄嗟に飛び込んでボールを生かす。
しかし、これはつまり。
『レシーブしたのは橘先輩!今のをよく拾いましたが、これでマイナステンポは使えません!』
『セットアップは、学くんね』
堀北先輩のセットアップ。
カルマは完璧に合わせて、金織先輩を止めようとして。
堀北先輩は、飛騨先輩に出した。
(───読んだのを、読まれたっ!)
飛騨先輩の、圧倒的な脚力を生かした、理不尽なまでの上からの強烈なアタック。
ブロックの意味など、殆どなかった。
『うわぁ飛騨先輩高っ!さっきの金織先輩よりも高くないですかっ⁉︎え、身長差はそんなにない筈なのに!』
『美浪は翔子よりも7センチぐらい高かったはずよ。それでも、二人の最高到達点は、30センチぐらい、翔子の方が上よ』
『さ、さすがインターハイ優勝……』
3─3。
サーブは橘先輩。
高めに飛んで、鋭いスパイク。狙いは。
「───っ!」
桔梗か。
『櫛田さんナイスレシーブ!しかし!』
『これじゃあマイナステンポは使えない。やり返した形ね』
今、出すとしたら。
鈴音とアイコンタクトを取る。
殆ど同時に、俺と鈴音は飛んで。
『綾小路くんのトス、と殆ど同時ぃ!』
マイナステンポの鈴音のスパイク。
ブロックは、間に合わなかった。
『まさかまさかのマイナステンポ!綾小路くんそっちもできるのか!』
『完全にしてやられたわね。全員マイナステンポはないと思っていた』
3─4。
次のサーブは、浅野。
『ちなみに浅野くんは、学年イケメンランキング四位です!』
『浅野くんで四位だなんて、そのランキング気になるわね』
『因みに三位は綾小路くん!二位は私の彼氏、洋介くん!現在審判をしています!一位は一年Aクラスの里中くんです!』
『なるほど。あの場にはイケメンランキングトップ5のうち四人が集まっているわけね』
(
長い助走で、超強烈なスパイクサーブ。
狙いは当然、橘先輩。
レシーブは弾かれ、ボールは大きく後方へ。
すぐさま、飛騨先輩が走り出す、が。
『一度触った以上、もうトスはできない!レシーブからのアタックで返すか三年Aクラス!』
『けれど後方に流れすぎたわ。翔子が間に合ったとしても、あの距離からアタックは難しいでしょうね。レシーブで相手コートに返すのが、正しくて安全な選択』
占藤先輩の言った通り、飛騨先輩のレシーブは、三年Aクラスコートの真ん中辺りで落ちるはず。
そこからレシーブで返すのがセオリーだと、俺たちは思っていたから。
その動きに、理解ができなかった。
『はっ?えっ⁉︎堀北会長、ネットに背を向けて助走⁉︎』
『───学くんが、そんな安全策を取るとは思えないけど』
十分な助走をとった堀北先輩は。
エンドラインギリギリで踏み切って。
高く飛びながら、体を捻って、殆どこちらのコートも、それどころかネットも見ずに、スパイクを打ってきた。
それは、完璧に、俺たちのコートのエンドラインスレスレに落ちて───寸前で、鈴音が拾った。
一瞬、浅野と鈴音の視線が交錯する。
一年生の中で、その二人だけが。
浅野学秀と、堀北鈴音だけが、堀北学の強さを、よく知っていたから。
二人の動き出しは、早かった。
「───赤羽っ!」
「おっけ!」
鈴音が拾ったボールを、浅野はすぐさまセットアップした。
(───マイナステンポは、もう何度も見た。
浅野とカルマのジャンプは、ほぼ同時。
(──
浅野の両手が、一瞬ボールに触れる。
(───この位置)
お互いの位置を、瞬時に把握。
(───このタイミング)
カルマの動き出しを、完全に把握。
(───この角度)
トスの角度を、微調整。
発射。
(───ドン、ピシャ!)
完璧な、マイナステンポのカウンター。
ブロックも間に合わず、ボールは地面を抉った。
『ううぉぉぉぉ!ド派手なエンドラインからエンドラインへのアタックを、完全に拾い上げた鈴音さん!』
『そして、完璧なマイナステンポでカウンターを決めた、浅野くんと赤羽くんも、実に見事ね。こんなにマイナステンポが決まるなんて、バーゲンセールかしら?』
『あんま難しくないのかなって思っちゃいますね』
『彼らが異常なだけよ。それに、きっと本場でプレイしている人たちからすれば、これでも全然遅いんでしょうけど』
『ほぇーーー。本場やばっ!』
『それよりも、
3─5。
浅野は、ボールを持ったまま、数歩下がって。
橘は、違和感に気付く。
(───今、さっきよりも、二歩短い?)
高くボールを投げて。
高い打点から、強烈な、
強烈に変化するサーブに、橘は殆ど触れなかった。
『おおおっと!ここでサーブがついに決まったー!』
『実に見事なノータッチエースね。何より、浅野くんが二刀流とは、予想外ね』
『二刀流、ですか?』
『えぇ。スパイクサーブとフローターサーブ。状況によって、これらのサーブを使い分けられる。まさしく天才ね』
『つまり、打つ瞬間までどちらのサーブが来るか分からないってことですか⁉︎何それやばっ!最強じゃん!』
『───そうとも、限らないみたいね』
「橘───」
「大丈夫です。学くん」
自身が原因の、二連続失点。
だが橘茜は、Aクラスの生徒であり。
この程度で、折れる気配は微塵もない。
「次は、取ります」
3─6。
ボールを持って、浅野は
(───つまり、スパイクサーブ)
予想通りの、強烈なスパイクサーブを。
橘茜は、完璧に上げて見せた。
神田元が、セットアップに入る。
その視線を見たカルマは、堀北学を最警戒して。
「上げろ、元───」
「───飛べ、学」
既に、アタックの体勢に入っていることに気付く。
咄嗟にブロックを飛ぼうとして、それより早く、マイナステンポのカウンターを決められた。
『ま、ままたマイナステンポのカウンター!そこもすごかったですが、橘先輩のレシーブ完璧すぎません⁉︎』
『気付いたようね。浅野くんの癖に』
『はぇっ、癖?』
『えぇ。浅野くんは、スパイクサーブは八歩、フローターサーブの時は六歩分、距離を取るの』
『───つまりそれぞれ一回見ただけでそこまで読み切ったということですか』
『えぇ。茜ちゃんは凄いのよ』
なんかテンション上がってきてるな占藤先輩。
『良い?茜ちゃんは、決して最初から優秀だった訳じゃないの。私たちの様に、自分の為に自分を磨き上げることには熱心じゃなかった。
けれど、学くんに会ってから全てが変わったのよ。誰よりも学くんの隣に居られる様に、支えられる様に、尋常じゃない努力を重ねて、強くなっていた。
誰よりも誰かを見て、自分に無いものを自分のものしようとし続けるその姿勢、誰よりも前に居続ける学くんの隣で立ち続ける為に、彼女は強くなっていった。学くんを支える、その為だけに!
自分の発言も撤回できず、無駄な意地を張り続ける学くんを、それでも尊重して‼︎
最初のマイナステンポにしてもそう!あれは今まで常に、学くんを、学くんだけを見続けていたからこそ出来る技!
茜ちゃんは、決して天才じゃない。それでもAクラスの全員が彼女を認め、愛しているのは!
茜ちゃんの、学くんへ向ける愛の深さと尊さを、誰よりも知っているから!
茜ちゃんこそ!現代日本に降り立った、唯一無二の愛の女神なのよ‼︎』
「メメちゃん黙って‼︎‼︎‼︎」
運動とは違う要因で真っ赤になった橘先輩は、占藤先輩への制止を、全力で叫んだ。
三年Aクラスの女子は喝采を挙げた。
『───橘先輩は素晴らしい、それは分かりました』
『分かってくれたのね、軽井沢さん』
『ですが、唯一無二の愛の女神、というのは同意しかねます』
『………ほう?』
『何故なら、我らが一年Dクラスの誇る、堀北鈴音と櫛田桔梗もまた!愛の女神なのですから!』
「軽井沢さんっ⁉︎」
「恵ちゃんっ⁉︎」
どうした急に。
『良いですか、よく聞いてください!
あの二人は、綾小路くんという一人の男の子を取り合うライバルでありながらも、お互いを尊重し、尊敬する親友同士でもあるのです!
殆どの女子なら、恋愛の前に友情を崩壊させてしまうでしょう。しかし!彼女達は、決して友情を捨てなかった!それこそが、まさしく愛!
未だに答えを出せないヘタレ小路くんを、それでも待ち続けるその姿勢もまた愛!
それどころかあの二人は、クラスメイトを誰よりも思い、誰よりも最前線で動き続けています!その愛はっ、疑いの余地もありませんっ‼︎
それだけでは無く、あの二人は、自身の想いをぶつけることに何の躊躇いもありませんっ‼︎時々行き過ぎることもありますが、想いを直球ストレートでぶつけ続けるその姿勢は、海よりも深く、山よりも大きい愛があればこそっ‼︎
橘先輩は、確かに愛の女神でしょう‼︎しかし‼︎我らが一年Dクラスの堀北鈴音と櫛田桔梗もまた‼︎愛の女神なのですっ‼︎‼︎‼︎』
「軽井沢さん黙って‼︎‼︎‼︎」
「恵ちゃん黙って‼︎‼︎‼︎」
今まで聞いたことのないぐらいの大声で訴える軽井沢に、同じくらい大きな声で、鈴音と桔梗は叫んだ。
運動と暑さだけが理由じゃ無いんだろうな。あの赤さは。
一年Dクラスの女性陣も、喝采を上げていた。
「ついでとばかりに罵倒されていたがそれは良いのか?」
「ふっ、もう慣れたさ」
「……………慣れるのは良く無いと思うぞ」
「うむ。難しいのは分かるが、どんな形であれ早く答えを出すべきだと思うぞ、綾小路ボーイ」
「そうそう。なぁなぁが一番最悪だぞ、綾小路」
「お前が言うな」
「君が言うな」
「赤羽ボーイが言えたことでは無いねぇ」
「なんでだよっ!」
カルマにだけは死んでも言われたく無いわ。
相手側のコートを見てみると、堀北先輩の眼鏡に、大きなヒビが入っていた。
「む、無駄な意地、だと………」
「うん。無駄だよ」
「藤巻………」
藤巻先輩の軽い肯定に、堀北先輩は大きなダメージを受けていた。
お互いに大きなダメージを受けつつも、試合を再開する。
4─6。
サーブは、飛騨先輩。
『さぁ、気を取り直して試合に戻りましょう!三年Aクラスチームのサーブ!打つのは飛騨先輩!インターハイ優勝の実力は如何程か!』
『ふふふふふふっ、驚いたらダメよ』
『それはどういう───助走長っ‼︎』
凡そ目算で十メートル越え。
非常に高いサーブトス、クラウチングスタートの構えを取り、ダッシュ。
エンドラインギリギリで踏み切って大ジャンプ。
嘘みたいな高度から、ダッシュの勢いを乗せて、超異次元の速度の、スパイクサーブ。
反応すらも出来ずに、ボールは地面を抉った。
『うっっっっっわ!何あれ怖っ!えっ、何キロ出てたんですか今のサーブ!』
『う〜〜〜ん。多分百四十キロぐらいじゃ無いかしら』
『やっっっっっば!野球じゃあるまいし!あれ取ったら腕死にますよ!』
5─6。
さっきと同じ独特なサーブ。
ただ、速さは異次元。当然、威力も異次元だ。
だとしても。
(打点が見えているなら、取れる!)
完璧に上げて見せた浅野。
三年Aクラスに勝つには、マイナステンポで点を取り続けるしかない。通常のスパイクでは、ブロックアウト出来たとしても、飛騨先輩に拾われる。
だからこそ、ブロックの難しいマイナステンポで、攻め続ける!
「───鈴音っ!」
「───清隆くんっ!」
完璧な、マイナステンポの速攻で。
しかし、ボールが落ちたのは、俺たちのコートだった。
「────同じセッター、同じスパイカーのマイナステンポならば、簡単に捉えられる」
俺たちの連携を、完璧に止めて見せた。
「先のブロックアウトは確かに上手かったな。だが、同じ手を二度は食わんぞ」
「───さぁ、次はどうする?」
浅野学秀 cv宮野真守
後編で終わる、と良いなぁ。