過去最長。
9─12。
一年生連合チームボールからで、サーブはカルマ。
「カルマくん!頑張ってください!」
「頑張ってくださいっ!」
「しっかりやりなさいよ赤羽〜〜!」
「そうだぞ、彼女が二人見ているからな。頑張れよ〜〜」
龍園の発言に、その場にいた生徒全員が目を剥いた。全員の内心は完全に一致していた。即ち──(((彼女が二人って何?)))。
「───よし、後で龍園殺す」
カルマは酷く落ち着いた顔と声でそう言った。
哀れ龍園。フルコース確定だ。
『さぁ、すごくスキャンダラスな応援が聞こえましたか一旦置いといて、赤羽くんのサーブです!』
『一旦置いときましょう。気にし始めたらキリがないもの。赤羽くんの強みは強烈なジャンプフローターサーブ。初回は学くんに取られたけど、二回目は、どうかしら』
ボールを回して、砂を落とす。
両手で掴んで、深呼吸。
(───ここで相手にサーブを渡したくない。ローテが回れば必然、飛騨先輩のサーブが近付く。
また一人減るのは、キツイ。
でもそれは、あの人のスパイクも同じことで、堀北会長にも言えること。
つまり、限りなく、詰みに近い。けど───)
あの二人のスパイクの、あの超高高度からのスパイクの、共通点。
(つまり、狙いは───)
橘先輩!
高めのサーブトス。
長めの助走。
高めのジャンプからの、フローターサーブ。
「───くっ!」
何とか拾った橘先輩はしかし、膝をついていた。
『狙ったのは橘先輩!』
『気付いたのね。学くんと翔子の超高高度からのスパイクのセットアップが出来るのは、茜ちゃんだけということに』
だが。
ボールを拾った堀北学は。
高く、完璧なオープントスを上げた。
『
また、殺人スパイクが、打ち下ろされて。
「──
『うおお!殺人スパイクを、完璧に拾ったぁー‼︎』
『───全身で衝撃を受けとめて、いや受け流している?成程、これなら腕を痛めることはない』
何度も見た。なら、腕を壊されずに、上げられる。
鈴音と桔梗のレシーブを見て漸く、受け流し方が分かった。
俺が上げたボールを、渚がセットアップする。
渚は、高円寺にアイコンタクトを送った。
渚もまた、意識の波長を読み取れる。
「高円寺くんっ!」
「アサシンボーイっ!」
完璧な、マイナステンポを。
『なんとぉ!完全初見の潮田くん高円寺くんのマイナステンポを、完っ璧にドシャットした神田先輩ぃ!』
『潮田くんのセットアップは見事だったわ。問題があるとしたら高円寺くんね』
完全初見のハズ。なのに。
「君は分かりやすいな。高円寺くん」
高円寺の瞳に、ほのかな怒りの炎が灯る。
「自分が一番目立つセンターで、
ポジションとコースさえ分かれば、マイナステンポだろうと関係ない。簡単に止められる。
───紳士であろうとするのは結構だが、少なくとも、この場にいる女性は、決して君に守られるような、
そんなことも、見定められないのかな?」
高円寺六助は、静かに怒りを燃やして。
「───アサシンボーイ。次もよこしたまえ」
───次こそ潰す、と宣言した。
10─12。
三年Aクラスチームのサーブ。
サーバーは、金織先輩だ。
『さぁ‼︎美しすぎる金織先輩のサァーブッ!というよりも凄くないですか⁉︎あの磨瀬榛名と金織先輩の共演ですよっ⁉︎誰かぁー!動画取っといてぇ〜〜‼︎これが地上波で流れないのは日本、いえ、世界の損失ですよ‼︎ていうか早く銀幕デビューして下さい金織先輩‼︎私チケットもグッズもしこたま買いますよっ⁉︎具体的には百枚と百個ぐらい‼︎』
『残念ながら、美浪は服飾デザイナー志望なの』
『なんと!デザイナーですかっ⁉︎』
『ま、デザイナーになったとして、美人過ぎるデザイナーとして、間違いなく話題になるでしょうね』
『間違いありませんっ‼︎そこらのモデルが先輩のデザインした服を着るよりも、先輩が着た方が宣伝にもなりますしっ‼︎デザイナーデビューしたらぜひ表紙を飾って下さい先輩‼︎‼︎百冊買いますっ‼︎‼︎‼︎』
多分、一番楽しんでるのは軽井沢だな。
深い溜息を吐いた金織先輩は、実況席に視線を向けた。
「───軽井沢さん。メメ。この試合が終わったらお話があります」
軽井沢は震えた。
占藤先輩は諦観の滲んだ、暗い瞳をしていた。
『せ、占藤先輩……』
『諦めなさい。軽井沢さん。私たちははしゃぎすぎたのよ』
『しょんなぁ………』
そんな二人に追い打ちをかける橘先輩と、鈴音と桔梗。通称愛の三女神。
「───私たちからもお仕置きがあるから。覚悟してよねメメちゃん」
『貴方に叱られるなんてもはやご褒美よ茜ちゃんっ‼︎』
「───具体的には一週間ほど、橘先輩の半径五メートル以内に近づく事を禁止します」
『───なんてことを』
「声を掛けるのも当然禁止ですよ」
『あ、貴女たちに人の心はないの………⁉︎』
『諦めましょう占藤先輩。私たちははしゃぎすぎたんです』
『そんなぁ』
ボールを持ったまま、金織先輩は律儀に待っていた。
「…………あの、そろそろ良いですか?」
『勿論です金織先輩!さぁ、先輩の美しくもカッコよく、それでいて強烈なサーブをっ‼︎』
「…………元気な後輩ですね」
「…………僕の彼女がごめんなさい」
審判の平田が謝罪した。
俺も頭を下げておいた。
うちの軽井沢がごめんなさい。
気を取り直してサーブトス。高め。
助走、長め。
跳躍、さっきよりも高め。
狙いは、茅野か。
「───とりゃぁ!」
「───見事です」
やはり茅野の身体能力なら、これを拾うのも容易だろう。
『見事なレシーブ雪村さん!』
『いつの間にか潮田くんはセットアップの体勢に入っているわね。凄まじく速いわ』
レシーブからのトスが速い。
ただのマイナステンポよりも、さらに速いマイナステンポ。
「高円寺くんっ!」
「パーフェクトっ!」
誰もついていけないはずの超速攻に、しかし神田先輩は追い付いた。
完璧なタイミングでのブロック。
だが、高円寺はその指先を狙って───
当然、高めの位置を狙って打ったスパイクは、明後日の方向に吹っ飛んでいった。
「───予想通り、ブロックアウトを狙ってきたね」
神田先輩は、高円寺に話し掛ける。
「───君は本当に、分かりやすい」
高円寺は、怖いぐらいに真顔だった。
11─12。
『あっという間に一点差!これは非常に厳しい展開になってきています!ここでこらえて!一年生連合!』
『逆転されるのが一番最悪よ。出来るだけ離し続けたいところね』
『さぁ、サーブは再び金織先輩!
綺麗!カッコいい!こっち見てーー!サービスエース決めてーー‼︎』
『さっきと一瞬で矛盾したわね』
『チームとしては一年生連合派ですが!現状再推しは金織先輩ですっ‼︎‼︎‼︎』
『うん。たまにいるのよね。いつの間にか美浪の事を大好きになっちゃう人。まぁ、割とよくいるのだけれど。叩けば治るかしら』
軽めの手刀をポスンと当てる。
正気に戻った軽井沢は、真面目に実況を再開した。
…………あいつ、どんどんおかしくなってきてるな。
『さぁ、金織先輩のサーブ!さっきは雪村さんを狙いましたが、果たして次は誰を狙うのか!』
『うーん。個人的には、潮田くんを狙いたいところね。彼のセットアップは脅威よ。高円寺くんを元くんが抑えているから、今はあまり目立っていないけれどね』
サーブトス。高め。
助走、長め。
跳躍、高め。
狙いは───渚かっ!
「───っ!」
「───今年の一年は、本当に素晴らしいですね」
コートの隅ギリギリを狙ったサーブを、飛び込みながら拾ってみせた。
金織先輩は、関心すらも見せて賞賛した。
『実に見事なレシーブですっ!潮田くんっ!』
『美浪の言葉を借りれば、本当に素晴らしいわね。今年の一年生。何より、全員考え続けながらプレーしている』
落下点には、俺。
(───誰にあげる?高円寺か?しかし神田先輩が付いている。ならカルマか、アルベルト。…………いや。ここは敢えて)
高めの、センターへのオープントス。
強気な笑みを浮かべた高円寺は、強く踏込み、高く跳んだ。
『再びの高円寺くん!三度目の正直なるか!』
『速攻ではなくオープンでの攻撃。成程、読み合い関係なしの真向勝負という事ね』
神田先輩はブロックに飛び、しかし捕まえきれない。
「───ワンタッチ!」
だが、神田先輩の手に阻まれて、スパイクの勢いは殆ど殺された。
高円寺の顔は悔しげに歪む。
緩い弧を描いて落ちてきたボールを、橘先輩は高いオープントスで再び上げた。
「───翔子!」
「───OK!」
超高高度からのアタック。スパイクの度に肉食獣の目をするのをやめてほしい。普通に怖い。
「───
アルベルトに指示を出しつつ、アルベルトの影に潜り込んだカルマは、俺の動きを完璧に再現して、スパイクを拾った。
「………痛ーーーー。こりゃやばいわ」
「ナイスレシーブ、カルマ!」
称賛しながらも、渚は落下点にいた。
完璧なレシーブだ。尊敬に値する。
「ナイスレシーブ。カルマ」
やっぱり渚は、
「───高円寺くんっ!」
「───やれやれ。人使いが荒いねぇ!」
再びオープンでの攻撃。
高円寺に合わせて飛ぶ神田先輩。その瞳が、楽しげに歪む。言葉よりも雄弁に、その瞳が告げる。
(君は、学ばないな)、と。
それに対し、高円寺は。
背筋、腹筋、胸筋、上半身と、下半身、全身の筋肉を、完璧に連動させて。
ブロックを真正面からぶち抜いた。
あまりの威力に、両手を弾き飛ばしてもなお、勢いを殺しきれずに、地面に叩き付けられた。
『ついに決めたーーー‼︎高円寺くんっ‼︎見よっ!これが我らがDクラスの誇る三大筋肉の一角!高円寺六助だぁぁぁ‼︎』
軽井沢の実況に答えるように、高円寺はバックダブルバイセップスを、観客席に見せつけた。
野太い声援と黄色い声援が同時に降り注ぐ。
『三大筋肉というと、残りの二人は誰なのかしら?』
『一人は綾小路くん!もう一人は須藤くんです!』
『確かに、綾小路くんの筋肉、美しいわね』
『最近は幸村くんも良い感じなので、その内四大筋肉、いえ、筋肉四天王となるかもしれませんっ‼︎』
…………そんなの初めて知ったんだが?
「観客は君のポージングも求めているよ。応えてあげたらどうかね、綾小路ボーイ」
「絶対嫌だ。断固拒否する」
「でもさぁ、綾小路、あっち見て」
カルマの指差す方を向くと、治療を受けながらも、鈴音と桔梗が俺に期待のこもった目を向けていた。
……………仕方ない。
高円寺の隣で、見せつけるようにバックダブルバイセップスを、決めた。
観客が更に沸き立つ。
鈴音と桔梗は鼻血を出して倒れた。
………頼むから安静にしててくれ。
膝をつく神田先輩に、高円寺はネット越しに話し掛ける。いや、煽り返す。
「───君は言ったね。そんなことも見定められないのか、と。見定めているとも。三年Aクラスは確かに強敵だ。男子女子問わずね。
だが、それでも私は、決して女性は狙わない」
今度は、神田先輩に見せつけるようにモストマスキュラーを決めて。
「なぜなら!」
フロントダブルバイセップス。
「それが、それこそが!」
アブドミナルアンドサイ。
「この私!高円寺六助なのだからっ‼︎」
高円寺は勝ち誇る。
渚の狙い。それは神田先輩の心を折ること。
恐らく神田先輩は、序盤のブロックアウトの瞬間から、高円寺を敵視していた。フローターサーブの狙いも高円寺だった。何が琴線に触れたのかまでは分からないが、だから渚は、止められる確率が高いとわかっても出し続けたし、俺もそれに乗った。
完全に下に見ていた相手に、完敗した。これほどの屈辱と敗北感なら───。
「───ふははははははははは‼︎」
…………笑ったな。神田先輩。
立ち上がりながら、前髪をかき上げて、隠れていた片目を晒し、両目で俺たちを見る。
「────いやぁすまないね。高円寺六助。綾小路清隆。そして、潮田渚。
────見定められていなかったのは、私のようだ」
屈辱も、敗北感も、見当たらない。
それどころか、
「────私も、本気で戦うとしよう」
…………。
「なぁ、渚」
「…………うん。失敗かも」
笑い合う高円寺と神田先輩を見て、俺と渚は冷や汗をかいていた。
11─13。
『さぁ、一年生連合ボール!サーブは雪村さん!元天才子役、磨瀬榛名ですっ!』
『そういえばさっきそんなこと言ってたわね。あとでサインもらわないと』
ボールを回し、砂を飛ばす。
(…………飛騨先輩と、堀北会長だけは打たせちゃダメ。でも、橘先輩に拾わせたとて、堀北会長が上げてくる。
なら、狙いは堀北会長?───ううん。堀北会長なら、レシーブからのアタックも問題なくこなせる。
………………綾小路くんとカルマくんの負担は、出来るだけ減らしたかったけど)
多分これが、現状ベストな選択。
高めのサーブトス。
かなり長めの助走からの、強烈なスパイクサーブ。
狙いは、橘先輩。
「───っまた、っ!」
拾い上げる、が。
『これで堀北会長の超高高度スパイクは封じました!ナイスサーブ!』
『学くんはどこにでも打つけど、翔子はひどく分かりやすい。
───アルベルトくんの影にさえいれば、綾小路くんと赤羽くんなら、取れる』
だからこそ、茅野は橘先輩を狙った。
しかし、落下点に居たのは、神田先輩。
アルベルトの影に隠れようとしたカルマは、すぐさま前に出た。
カルマは神田先輩の視線から、狙いを探ろうとして。
(────ボールしか、見てない。つまり、ツー!)
俺も渚も、殆ど同じことを考えて。
カルマが拾ったボールを、最高速で返せるように立ち位置を調整していたら。
神田先輩は、背を逸らしながら、ライトの金織先輩にトスを上げた。
慌ててブロックに飛び込もうとして、間に合わずに、コートに突き刺さる。
「あ、あり得ない。今神田先輩、誰も見ていなかった………!」
「………恐らく、味方の動きも完璧に予測していたんだろう。彼の頭の中で、
味方五人全員の思考をトレースして、どこにどう飛ぶのかを、頭の中でシュミレーションする。
そのシュミレーションは、現実と完全に一致している。
───やはり、この人も化物だ。
そして、それは、つまり。
リードブロックの半強制。
そして、そうなって仕舞えば。
「────……………神田先輩にも、マイナステンポはある」
────追いつけない。
『今の得点は、内容が特に痛かったわね』
『つまりどういうことですか?』
『今までは、赤羽くんの見切りがあったから、ブロックは確かに効果的だった。けれど本気になった元くんのトスで、視線は判断材料になり得ない。
つまり、元くんのトスは、トスを見てからブロックに飛ぶリードブロックの必要があるんだけど』
『マイナステンポで攻められ始めたら、追いつけない、というわけですか?』
『その通り』
12─13。
サーブは、神田先輩。
「さて、一年生諸君。───本気で行こうか」
再びの、ジャンプフローター。
だが、余りにも。
速すぎる。
「────っ!くうっ!」
「茅野っ!」
「大丈夫っ!」
一瞬で、目の前に来た揺れるボールを、茅野は何とかトスであげて。代償に、仰向けで倒れた。
心配する渚にすぐに声を上げて、渚はすぐさまボールを追う。
『強烈なジャンプフローターが炸裂っ‼︎雪村さん取りましたが倒れた!』
『セットアップは潮田くんね。ここからどうするのかしら?───あら、強気ね』
俺と高円寺、アルベルトにカルマ。
つまり今動ける全員での、総攻撃。
三年Aクラスは落ち着いて、渚を観察していた。視線から、カルマだと推測した堀北先輩がそっちに行って、金織先輩、藤牧先輩、飛騨先輩が、それぞれ高円寺、俺、アルベルトにコミットする。
ネット際のボールに両手を添えた渚は、そっと、導くようにボールを転がして、相手コートに落とした。
『上手いっ‼︎ここでツー‼︎』
『今のは完全に上がる流れだと、みんな思っていた。だからワンタッチしたボールを取るために茜ちゃんはブロックには参加しなかったし、視線を見て赤羽くんだと判断した学くんを、潮田くんは完全に欺いた。
実に素晴らしい嘘つきね』
12─14。
サーブは、アルベルトだが。
「
「
「
アルベルトは、一礼してからコートを去った。
『おおっと、ここでアルベルトくん交代です!誰が入るのでしょうか⁉︎』
『体格だけじゃ、どうにもならないものね。さぁ、今年の一年生を、もっと見せてちょうだい』
コートの中で、俺たちは話し合う。
このゲーム、タイムアウトは実質自由だからな。
「ピンチサーバー入れてアルベルトくんに戻ってきてもらう、はやめた方がいいね」
渚の案は、渚自身も良くないと理解している。
「リードブロックで止めなければならない以上、赤羽ボーイの指示が必須のビッグボーイでは、咄嗟の判断で遅れてしまうからねぇ」
………珍しく高円寺が真面目だ。まぁ、それだけの強敵だしな。
「サーブが上手い人が一番欲しいな。神田先輩に拾わせられれば、少なくともマイナステンポで一方的にやられることはないわけだし」
「でもそうすると飛騨先輩と堀北会長どっちもフリーになるよ?毎回一人ずつすり減らしながら戦う気?」
茅野の要望もカルマの懸念も理解できる。あちらを立てればこちらが立たず。非常に面倒な問題だ。
「私の身体能力ならば、恐らく飛騨先輩も私を狙ってくるはずだ。単純な跳躍力では私が一番優れている」
「簡易的なアルベルトの代役か。確かに、飛騨先輩は誰かを上から叩き潰すことを楽しんでいる」
高円寺が人を先輩呼びしているのは違和感しかないが。まぁ、高円寺すらも認めるほど、なのだろう。
「うん。あの人は多分、高円寺くんの上からスパイクを打ち込みたくて仕方ないと思う」
「つまり、高円寺くんの影にカルマくんか綾小路くんがいれば、飛騨先輩のスパイクは捉えられるわけだけど」
「…………問題は堀北先輩だ。あの人はどこにでも打ってくる」
「だね。最悪飛び込みで上げる必要があるけど、そんな不安定なレシーブじゃ、腕が死ぬ」
「…………一人づつすり減らしながら戦う、か?」
「あと十一人もいると思う?この試合について来れるやつ」
俺の荒唐無稽な案は、カルマに却下された。
うん。知ってた。
「…………悩ましいな。あのレベルの一撃を受けても、簡単に腕が死なない頑丈な生徒、か。…………………いや、一人いるな」
アイツなら、数発は持つはず。
それに、一定の技術もあると見ていい。何せ、
「────須藤!来てくれ!」
「はっ、Dクラスの三大筋肉最後の一角、ここに見参だぜ!」
それはやめろ。
『アルベルトくんに変わって入ったのは須藤くん!Dクラスの三大筋肉揃い踏みです!』
『なるほど。実に見事な筋肉ね。それで、何か運動部に入っているのかしら?』
『はいっ!何と須藤くんは、一年生でレギュラーに選ばれるほどの実力を誇るバスケットボール部の一員なのです!都大会優勝の立役者と言っても過言ではありません!』
『なるほど、確かに、心強いメンバーね』
コートに入った須藤は、拳を鳴らして、自信に満ちあられている様子だった。
「んで、俺に何しろってんだ、綾小路」
「ああ。あのロン毛の先輩、分かるか?」
「おう」
「あの先輩狙ってサーブしてくれ。あと、堀北会長のスパイク拾ってくれ」
「……………前者はともかく後者はキツいぞ?持って五発ぐらいじゃねぇか?」
「……………五発持つのか」
「まぁ、死ぬ気で持たせろっていうなら、もう二、三発ぐらいは持たせるけどよ」
「よし、死ぬ気で頼む」
「……………はっ、わぁったよ」
サーブは、須藤。
「…………あのロン毛の先輩、狙えば良いんだろ!」
高めのサーブトスから、全身の筋肉を躍動、連携させて、超強力なスパイクサーブ。
「────くっ!」
少なくとも球技に関していえば、間違いなく須藤は、一年生の中でも頭一つ抜けている。
単純な身体能力では俺や高円寺には及ばないが、経験の差は、それを埋めて余りある。
『うぉぉお!超強力なサーブっ!神田先輩上げましたが大きく後方に流れたーーっ‼︎』
『素晴らしいわね。威力コースともに完璧に近い。こんな隠し玉をまだ持っていたなんて』
後ろに流れるボールに、飛騨先輩がダッシュで回り込む。
(───この流れ。あの時と同じ!)
すぐさま俺は、エンドラインギリギリまで下がった。
予想通り、堀北先輩は、エンドラインからエンドラインへのアタックを選択。
だが、俺が完璧に拾い上げた。
『おおおっと!再びのド派手アタックを、完璧に読んでいた綾小路くん!』
『実に見事なレシーブね。これは決まったんじゃないかしら?』
落下点にいるのは渚。
そして、攻撃するのは、それ以外の全員。
───先のツーアタックが示すように、渚もまた、視線でのフェイントが可能。
つまり、五択の強制。
上げたのは、茅野。
しかし、金織先輩が完璧にブロックに飛んでいるのを見て、茅野はブロックを利用して、やり直した。
「リバウンドッ‼︎」
(───冷静ですね。実に見事です)
『占藤先輩!今のは!』
『リバウンド。敢えてブロックにスパイクをぶつけて、もう一度こちらのボールにする技術ね。咄嗟の判断力が求められるわ』
『ありがとうございます!さぁ、今度は誰が───綾小路くんもうトスを⁉︎』
『───速い』
リバウンドで浮いたボールを、すぐさま走り込んだ俺が、カルマにあげる。
俺とカルマの、マイナステンポ。
ボールは地面を抉った。
『速い上手い強い!リバウンドからの超速攻!ブロック追いつけません!』
『実に見事ね。あの速さでのセットアップを完璧にこなした綾小路くんも、それに完璧に合わせた赤羽くんも、実に見事よ』
12─15。
須藤のスパイクサーブを、神田先輩は今度は前に上げた。
トスを上げるのは橘先輩。つまり、殺人スパイクが、来る。
前に出る高円寺を見て、飛騨先輩は、楽しそうに、獰猛に笑った。
「────茜っ!」
「────ごめんそっちじゃないっ!」
「そんなぁ」
橘先輩が上げたのは、金織先輩。
強烈な、バックアタック。
俺も須藤も茅野も渚も、堀北先輩を最警戒していたから。
完全に、出遅れた。
『うぁっと!ここで決めたのは金織先輩っ‼︎‼︎カッコいい!綺麗!美しい‼︎こっち見てーー‼︎』
金織先輩は溜息を吐きながら、引き攣ったされど美しすぎる笑みを浮かべて、実況席にピースした。
『────ヤバい。わたししんじゃうかも』
『蘇生の心得はあるわ。心停止ぐらいなら何とかできるわよ』
『じゃあお願いします』
『でも実況はちゃんとやりましょう?美浪を見過ごしちゃうわよ?』
『───それはダメです』
………………アイツは、どこに向かってるんだろうな。
13─15。
サーブを打つのは、橘先輩。
高いジャンプからの、鋭いスパイク。狙いは───。
「──しゃおらっ!」
須藤か。
落下点に走り込んだのは、俺。
『綾小路くんトスに入る!』
『今回も全員飛んでいるわね。誰に出すのかしら?』
高めの、ライトへのオープントス。つまり。
「──ぶち抜け、須藤!」
「オーライッ‼︎」
高めのジャンプからの、全身の筋肉を躍動、連動させた、超強力なバックアタック。
しかし、ブロックに飛んでいた藤巻先輩に、勢いを殺された。
「いっつ。ワンタッチ!」
「ちぃ、クソ!」
「構えろ!次が来るぞ!」
飛騨先輩が、落ち着いた高いレシーブを上げた。
トスを上げるのは、橘先輩。
「───次はいくよ!」
「───待ってました!」
高めのオープントス。
化物じみた跳躍。
「高円寺、頼む!」
「任せたまえ!」
高円寺の大ジャンプの影に、俺は飛び込んだ。
(いい高さね。高円寺六助。だからこそ、潰し甲斐がある!)
糧を得るためではなく。自身の攻撃性を満たす為に。敢えて巨大で凶暴な草食獣をこそ、狙い続ける狼。
それが、飛騨翔子という人間である。
「──ふんっ‼︎」
「──シッ‼︎」
上からの叩き潰すようなスパイクを、俺は完璧に拾い上げた。
『再び殺人スパイクをあげてみせた綾小路くんっ!トスを上げるのは誰だっ‼︎』
『───落下点にいるのは、赤羽くんね』
ボールが落ちてくる一瞬で、熟考する。
(───ここでツーっていう手もあるけど、神田先輩には読まれそう。ていうか堀北会長も読んできそう。もう一度力押しって手もあるけど、ここは)
カルマの真後ろに走り込んだのは、渚。
カルマと渚は、殆ど同時に飛び上がる。
(───初見の技で、決める!)
渚はまだ、一本もスパイクを打っていない。
だからこそこれは、正真正銘の、完全初見。
カルマと渚のマイナステンポ。
ボールは地面を抉った。
『潮田くんっ‼︎潮田くん凄いです‼︎潮田くんもどっちもできるとは‼︎』
『赤羽くんもマイナステンポのトスを上げられたのね。本当に皆器用ね』
13─16。
『追いつかれそうになっては突き放して、突き放しては追いつかれそうになって!逃げる一年生連合の背中に、指をかけ続けます三年Aクラス!』
『最後まで、逃げ切れるかしら?』
サーブは渚。
低身長も筋力不足も、瞬発力でカバーしている。
(───さて、狙うべきは神田先輩。視線を読ませないマイナステンポは、止められない。
僕でもそこまでは出来ない。いや、そんな方はどうでも良くて。
───神田先輩はレシーブも上手い。多分、フローターもあげられる。なら)
ナイフの扱いで特に大切なのは、手首の柔らかさ。
それを応用して、強烈な、曲がるサーブ!
「───お見事、だね!」
しかし、神田先輩は何とか上げて見せた。
「…………くそ」
渚は悔しそうに一言溢す。
『うおおっと!何でしょう今のサーブ!すんごい変化してますよ⁉︎』
『手首が相当柔らかいのね。打つ瞬間、手首をしならせることで、強烈な回転をかけているわ。
それを拾う元くんも、化物ね』
しかし、神田先輩は膝をついている。
橘先輩は、決してあの二人だけを使うわけじゃない。だからこそ、択を一つ減らせたのは、決して無駄じゃない。
「───学くんっ!」
「───任せろ」
高めの、オープントス。
今度は、堀北先輩の、殺人スパイク。
須藤は、軽く飛んで、着地。自身の体勢を、一度リセットする。その目は、堀北先輩の右手に集中している。
打ち下ろされた瞬間に飛び出した須藤は、飛び込みレシーブでスパイクを上げた。
(───おっっっっも!いっっっっった!骨折れそうだわこれ!)
しかし須藤は、強気に笑って見せた。
『完璧に拾い上げた須藤くん!しかし膝をついています!』
『腕大丈夫かしら?』
トスを上げるのは、再び渚。
(高円寺くんのはもう見せたし、逆だけどカルマとのマイナステンポも見せた。ここは、綾小路くんか茅野だけど、何度も見せてる綾小路くんだと、多分捕まるから)
渚と茅野の、マイナステンポの速攻。
完全初見で、しかし、飛び込んだ橘先輩が拾い上げた。
「───っ!」
「あなたたちなら、できると思ってました!」
あぁ、もう。呆れるほかない。
三年Aクラスには、化物しかいないのか。
落下点にいるのは、金織先輩。
『橘先輩が拾ったボールを上げるのは、うぇっ、金織先輩⁉︎トスもできたんですか⁉︎』
『美浪は基本的に、何でもできるのよ』
堀北先輩と、金織先輩のジャンプは、殆ど同時。
「金織──」
「──学」
再びの、マイナステンポ。
須藤は飛び込むが、間に合わない。
『う、うぉぉぉぉぉ!金織先輩!金織先輩っ‼︎素晴らしいマイナステンポです金織先輩っ‼︎‼︎』
『ま、流石に茜ちゃん程、完璧ではないけれどね。今のは学くんが合わせたところもあるわ』
確かに、堀北先輩は今までよりも高さも速さも少しだけ控えめではあった。
だが、それらを踏まえても。
「合わせてくれてありがとうございます。学」
「いや。十分以上に見事なトスだ」
この人もやはり、化物だ。
14─16。
ここで、サーブは飛騨先輩。
「うっわ。最悪」
「…………誰が取る?」
「…………飛騨先輩は、恐らく、私を狙ってくるだろう」
高円寺は敢えて、少し後ろ目に下がった。
「────これしか手はあるまい。後は頼むぞ」
超高高度のサーブトス。
クラウチングスタートからの、超異次元の速度のスパイクサーブ。
───高円寺は、何とか捉えはしたが、大きく後ろに流れてしまった。
『うっっっっっわ!再び炸裂!殺人サーブ!高円寺くんの腕は大丈夫でしょうか⁉︎』
『一本で切れなかったのが最悪ね。もう一人減るわよ』
立ち上がった高円寺は、傲慢に、不敵に笑った。
「───浅野ボーイは二発耐えた。ならば私は、三発耐えて見せよう。
───次も私を狙ってきたまえ。完璧に捉えて見せよう」
その挑発を受けて、飛騨先輩は、凶暴で獰猛で残酷な笑みを浮かべた。
「───いいわ。高円寺。噛み殺してあげる」
15─16。
再びの、超高高度のサーブトス。
全力ダッシュからの、スパイクサーブ。
真正面から、完璧に受け止めた高円寺は、高く上げた。
このサーブは、ここで切らなければならない。ならば。
俺とカルマと渚は、殆ど同時にジャンプした。
『これは───』
『マイナステンポを、二択で迫るつもりね』
俺か、カルマか。
この二択を、どう答える。
堀北先輩は、俺に。神田先輩は、カルマにコミットして。
渚は、センターにオープントスを上げた。
「───最後の一発。カッコよく決めなよ」
「───フッ、素晴らしい花道だ!」
限界を迎えた腕で、高円寺の、超強烈な、バックアタック。
飛び込んだ飛騨先輩は、しかし間に合わなかった。
『ここで決めた!高円寺くんっ‼︎』
『壊れかけの腕でここまでやるなんて、凄まじい精神力ね』
高円寺は、震える腕を庇うこともなく、堂々と、コートに背を向けた。
「感謝する。潮田ボーイ。私の最後の輝きは、目に焼き付いたことだろう」
「うん。カッコよかったよ。高円寺くん」
高円寺に変わって入ってくるのが誰か、なんて、分かりきっていることだった。
「───後は頼むぞ、幸村ボーイ」
「───後は任せろ、高円寺」
幸村啓誠は、コートに足を踏み入れた。
15─17。
一年生連合ボール。
サーブは、俺。
『さぁ、綾小路くんです!実に見事なサーブを見せてくれることでしょう!』
『連続サービスエース。期待しちゃうわね』
サーブトス、完璧。
助走、完璧。
ジャンプ、完璧。
スパイク、完璧。
狙い、完璧。
飛騨先輩と橘先輩のちょうど間を打ち抜いた俺のサーブは。二人とも触られずに決まった。
『ここでノータッチエースっ‼︎‼︎』
『茜ちゃんと翔子の間を完璧に狙ったわね。あの一瞬、二人を迷わせた』
15─18。
サーブトス、完璧。
助走、完璧。
ジャンプ、完璧。
スパイク、完璧。
狙い、完璧。
橘先輩と神田先輩の間を狙ったサーブを、しかし今度は橘先輩が上げた。
『対応が早い!橘先輩!』
『茜ちゃんは、自分と左右の二人の間を狙ってくると読んでいたから、一番動きやすい自分が取ることにしたのね』
だがこれで、堀北先輩の殺人スパイクは封じた。
問題は飛騨先輩だが。次に狙ってくるとしたら、恐らくは俺。
ならば。
「やれるな、啓誠!」
「二、三発が限界だ!過大評価はし過ぎるな!」
堀北先輩の超高高度のオープントス。
飛騨先輩は、やはり俺を狙ってきた。
「最高ね!一年生!倒しても倒しても、まだ壁がある!」
飛騨翔子にとって、こんなに嬉しいことはない。
次は綾小路を噛み殺すつもりで、全力のスパイクを叩き付ける。
啓誠は俺とカルマの真似をして、何とかスパイクを拾って見せた。
『うおおおお!拾った!幸村くん拾いました!流石は次期筋肉四天王筆頭候補!』
『やるわね。ちゃんと全身を使って衝撃を受け止めている。目で見て盗んだのかしら?』
上がったボールは、ネットを超えて相手コートに入りそうになり。
全力で飛び上がった須藤が、ネットを超える寸前にスパイクを叩きつけた。
「っらぁ!」
飛び込んだ藤巻先輩は、間に合わなかった。
『決まった!決まりました!チーム一年生連合!後一点で二十点です‼︎』
『見事な判断ね須藤くん。あのままボールが帰って仕舞えば、学くんか翔子の殺人スパイクが決まるところだったわ』
15─19。
ここで俺は、隠してきた二本目の刃を抜くことにした。
すなわち。
(────さっきよりも助走が短い。まさか──!)
「元くん、翔子!前に出て!」
サーブトス、完璧。
助走、完璧。
跳躍、完璧。
スパイク、完璧。
狙い、完璧。
フローターサーブだと予想していた橘先輩は、揺れるのではなく曲がるサーブに、完全に不意をつかれた。
『ノータッチエース‼︎ここでノータッチエースです綾小路くん‼︎』
『今、浅野くんと同じように、助走距離を短めにすることで、フローターだと思わせて、実際には、手首のしなりを応用した強烈なスピンをかけたサーブで、茜ちゃんを完全に欺いた。
そしてこれで、二十点』
勝利まで、後少し。
15─20。
(助走距離は長め。でも手首の捻りを加えたものである以上、助走距離は関係ない。
………つまり、打つ瞬間まで、本当に一切わからない訳だけど)
なら、話は簡単。
賭けに、勝てれば良い。
サーブトス、完璧。
助走、完璧。
跳躍、完璧。
狙いは───橘先輩と飛騨先輩の間!
だが橘先輩は、完璧に拾って見せた。
『うおおおおお!完璧に拾いました橘先輩!カーブが来る可能性もあったはずですよね⁉︎スパイクサーブだと分かっていたんでしょうか⁉︎』
『…………いえ。そういう訳じゃなくて。
至極、単純な話、茜ちゃんは、賭けに勝ったのよ』
運を味方につけるなんて。
あぁ、クソっ。
強い。
『トスを上げるのは、神田先輩!』
『マイナステンポの可能性も考えて、学くんに張り付いているわね幸村くん。良い動きよ』
啓誠が堀北先輩を完全にマークしている。これなら───。
神田先輩は、トスを上げずに、転がり落とした。
咄嗟に飛び込んだ渚もカルマも、間に合わなかった。
『こ、こ、で、ツーアタックーー‼︎』
『今まで見せてこなかったものね。頭から消えていたとしても不思議じゃないわ』
───やられた。
次のサーブは藤巻先輩。そしてその次は。
「…………会長の、サーブ」
全員の顔が、暗くなる。
「…………須藤。サーブは、上げられるか?」
「…………保証はできねぇ。あの威力だと、後ろに流れる可能性が高けぇ。高円寺の一回目みたいにな」
「…………飛騨先輩がこっちにいれば、それでも良かったんだけどね」
できることなら、あそこでもう二点は取りたかったが。
「まず、藤巻先輩のサーブは、一本で切らないとまずい」
「うん。それが大前提だね」
俺と啓誠と渚は、腰を落として構えていた。
16─20。
「ったくよぉ。化物が多すぎて、俺みたいな普通なやつは、居心地悪いったらねぇ」
だが、だとしても。
「────俺も、やったりますか」
高い、サーブトス。
助走、長め。
ジャンプ、高め。
威力、強め。
一回目とは比べ物にならないぐらいの、普通の、強烈なサーブ。
何とか拾い上げた。
「───渚っ!頼む!」
「───オーライっ!カルマっ!」
高めのオープントス。
ここで切る為に。
全力の、アタック。
ブロックに飛んでいる、堀北先輩と神田先輩。
狙いは────。
アタックと見せかけて、カルマは指先で、軽くボールを押した。
ネットもブロックの指先も超えて、相手コートに落ちる。
飛び込んだ飛騨先輩は、指先だけで、掠った。
『───なんっだ今のはーー‼︎』
『フェイント。スパイカーが、直前までスパイクと見せかけて、敢えて指先でボールを押し出すことで、ブロックを欺く技よ。
ほんと、狡い子が多いわね。一年生』
16─21。
勝利まで、後四点。
そこで、ついに。
「すまない。待たせた」
腕の応急処置を終えた、浅野が戻ってきた。
『───戻ってきました!浅野くん戻ってきました!雪村さんに変わって、浅野くんが入ります!遂に、正真正銘、ABCD全クラス揃い踏みです‼︎』
『………腕、大丈夫かしら』
腫れもある程度は引いている。これならば、問題はないだろう。
「もうちょっと遅くても良かったのに。何だったら、君の出番がなくても勝てたかもよ?」
「そうだな。浅野抜きでも五点差だ」
「…………まぁ、あのクラスならば、五点差程度、容易く覆してくるだろうが」
「はっ、覆してくるより早く、勝てば良いだけの話だろ」
「兎にも角にも。
浅野は、いつもの性格の悪い、楽しそうな笑みを浮かべた。
「───あぁ。
サーブは、カルマ。
椎名と奥田と、それからCクラスの連中の応援が、響く。
「さぁて。───行くよ」
強烈な、ジャンプフローターサーブ。
強烈に変化するそのサーブを、藤巻先輩は普通に捕まえた。
「───っくそっ!」
「少しは良いとこ見せないとなぁ!」
セットアップは、橘先輩。
高めのオープン、じゃない!マイナステンポ!
「───っ!」
堀北先輩と橘先輩のマイナステンポを、咄嗟に飛び込んだ啓誠が、何とか上げて返すが。
飛騨先輩は既に、飛んでいた。
ネットを超えて、三年Aクラスコートに入ってきたボールを、速攻で叩き落として。
「やらせないよっ!」
今度はカルマが拾い上げる。
「二人ともナイス!」
渚は瞬時に、落下点に潜り込んで。
「──出せっ!潮田!」
「──打ってっ!浅野くん!」
マイナステンポの速攻で、カウンター返し。
飛び込んできた金織先輩と藤巻先輩は、間に合わなかった。
『カウンター返し炸裂ーーーーっ‼︎一年生連合!着々と追い詰めていきます!』
『あらあらあらあら。もしかしたら、入学以来初めて、
そんな解説を聞いた浅野は、呆れるように笑った。
敗北の危機に、楽しさを覚えているのは、占藤先輩だけじゃない。
三年Aクラスチームは全員、楽しそうに笑っていた。
───化物どもが。
16─22。
もう一度、カルマのサーブ。
ボールを回して、砂を落とす。
一年生全体からの声援を背に、カルマは、今までで一番高い、サーブトスを上げる。
(───今の今まで、俺はずっとフローターサーブだった。でもね。俺も、あの二人と同じように!)
強烈な、スパイクサーブ。
前目に出過ぎていた飛騨先輩は、上ではなく前に返してしまった。
必然ボールは、俺たちのコートへ。
『赤羽くん‼︎ここでまさかのスパイクサーブ‼︎』
『三人目の二刀流。この瞬間まで隠していたなんて』
山なりに弧を描いて、ゆっくりと入ってくるボール。
それ即ち。
「「「「「「チャンスボールッ‼︎‼︎」」」」」」
落下点には、渚が滑り込み。
俺たち全員が、飛び上がる。
『超攻撃的!防御を完全に捨てた、一年生連合‼︎』
『このまま勝ち切るつもりね』
三年Aクラスは、敢えてブロックに飛ばなかった。
打たれたボールを、確実に拾う為に。少し下がって。
だからこそ渚は、そこで落とした。
ネットから少し離れているからこそ。
このツーアタックは、確実に決まる!
「───やるわね」
そんな常識を、飛騨先輩はひっくり返した。
飛び込みながら、スライディングで。
仰向けに倒れながらも、片腕で拾って見せた。
『───何という反応!飛騨先輩‼︎』
『全く。常識外の、化物ね』
浅野たちが、ブロックの体勢に入るのと。
橘先輩と堀北先輩のマイナステンポは、ほぼ同時で。
だからこそ、俺が間に合った。
『ここで、ドシャットぉぉぉぉ‼︎』
全員が、スパイクの為に飛んだ直後のこの瞬間、ブロックに飛べるやつが殆どいないこの状況、マイナステンポで点を取るのに完璧なこのタイミングなら。堀北先輩たちは、必ずマイナステンポでくる。
渚が全員が下がったのを見て、ツーアタックを選んだ時点で。
俺は、敢えていつもよりも低めに飛んで、一足先にブロックできるように構えていた。
飛騨先輩なら、間に合うかもしれない、と、そう思ったから。
『───完璧な読みね。綾小路くん。実に見事よ』
俺は、堀北先輩を見つめながら、啖呵を切る。
「───この試合、俺たちが勝ちます」
無言で見つめ返す堀北先輩は、しかし、ほんの僅かに、唇の端を吊り上げて。
「───面白い。やってみろ」
そう、返した。
16─23。
『さぁ、さぁさぁさぁさぁさぁ!マッチポイントまで後一点!勝利まで、後少しっ‼︎』
『絶体絶命は、今度は私たちね』
さっきと同じように、一年生全体からの声援を背に受けて。
カルマは、とても悪い笑みを浮かべた。
高めのサーブトス。
長めの助走。
ジャンプからの、
そう。E組ナイフ術男子三位、赤羽業に、俺たちにできることが、できない道理はない。
完全に、予想外の一撃に、飛び込んだ橘先輩も、藤巻先輩も、間に合わなかった。
『こ、こ、で、ノータッチエエェース‼︎そ、し、て、マッチポイントぉ‼︎』
『───まさか、三刀流だなんて』
投げ返されたボールを片手で受け止めて、赤羽業は、悪魔のように笑う。
「────次で、決めます」
16─24。
観客席の一年生は、最高潮。
カルマのサーブは三刀流。
つまり、取るのは殆ど不可能。
(────締めは、カーブと見せかけてスパイク、と見せかけて、フローター‼︎)
トドメの一撃を、橘先輩は、完璧に捕まえて見せた。
「───っはぁ⁉︎」
「───今日の私は、運が良いみたいです!」
この、土壇場で、フローターサーブ一点賭け、だと⁉︎
完璧に捉えたボールは、山なりに飛んで。
堀北先輩が、高めのオープントスを上げた。
つまり───。
『炸裂します!飛騨先輩の殺人スパイク!』
『綾小路くんは飛んでいる。影に幸村くんも飛び込んでいる。でも』
全力で、飛び上がった飛騨先輩は。
これ以上ないくらい、残酷で、獰猛で、残忍に笑って。
「───らぁ‼︎」
取ろうとした啓誠の腕を、弾き飛ばして。
ボールは、地面に埋まった。
『なんっという威力!今までとは、比べ物になりませんっ‼︎‼︎』
『………久しぶりに見たわね。翔子の、全力』
得点を取られた、それ以上に。
啓誠の腕は、燃えていると錯覚するほど赤かった。
震えも、一向に止まる気配がない。
「───すまないっ、こんな、時にっ」
「───気にするな啓誠。よくやった」
「───僕らは必ず勝つ。信じて。幸村くん」
渚の言葉を背に、啓誠はコートを去った。
代わりに入ってきたのは、一之瀬帆波。
「大丈夫っ!今はこっちがマッチポイント!追い詰めてるのは、私たちだよっ‼︎」
「一之瀬さんの言う通りだ。確実に、拾うぞ」
17-24。
サーブは、堀北先輩。
「…………須藤」
「あぁ。最悪胸で受け止めてやる」
「頼んだぞ」
十メートルは、距離を取って。
高めの、サーブトス。
正真正銘、
超異次元の速度のスパイクサーブに、誰も、反応できなかった。
『ノータッチエース返しぃぃぃ‼︎えっ、というか今の、速すぎません⁉︎』
『大体百五十キロといったところかしら。正真正銘の、本気のようね』
『今まで本気じゃなかったんですかっ‼︎⁉︎』
───そう。
先の、飛騨先輩のスパイクを見た時から、その可能性は、頭にあった。つまり。堀北先輩と飛騨先輩は、ずっと手加減していたのではないか、と。
「お前たちの実力に敬意を表する」
堀北先輩は、告げる。
「この学校で、俺たちをここまで追い詰めたのは、お前たちが初めてだ」
絶望を。
「───お前たちを、
18─24。
再び、堀北先輩の、サーブ。
全く同じ、独特なモーションからの超異次元の速度の、
百五十キロの、揺れるボールに、俺たちの誰も、触ることなどできなかった。
『ふ、た、た、び、の、ノータッチエースっ‼︎‼︎‼︎ていうか今!揺れませんでしたボール⁉︎私の錯覚ですか⁉︎』
『いえ、今のは間違いなくフローターサーブよ。その上で、モーションは殆ど同じ。身体能力は、翔子と学くんは互角に近い。けれど、技術に関していえば、レベルが違うのよ』
19─24。
「誰か一人は犠牲になるが、そんなことを言ってる場合じゃない。何としても拾う。その為に──」
セッターの渚のみ、ネット際に残して、残り全員で、拾う構え。
『一年生連合!五人全員で、サーブを拾うつもりのようです!』
『後一点だもの。依然として、追い詰めているのは一年生連合よ』
十メートルの助走をとった堀北学は、一年生連合を見て。
「その程度か」
ほのかに、失望の色を織り交ぜた、独り言を溢した。
独特なモーションから、超異次元の速度の、
なんとか変化に食らいつき、レシーブしようとした須藤の腕を、嘘のような回転が、弾き飛ばした。
「っっっっっ、ぐぅぅぅ」
「須藤…………」
「…………下がった方がいい。それじゃあ、まともにプレイできないでしょ」
「………まだ、やれる………‼︎」
なんとか立ち上がる須藤の両目を見て、俺は、話した。
「───俺たちを信じてくれ。絶対に、勝つ」
俺の
震える両手で、俺の肩を叩いた。
「───信じるぞ」
須藤に変わって、柴田が入る。
「あのサーブは、俺が何としても拾う。後を、頼む」
そんな柴田の決意を、俺たちは信じた。
20─24。
独特なモーションからの、超異次元のスパイクサーブを。
柴田は、見事に上げて見せた。
『見事なレシーブ!柴田くん!』
これで、決める──‼︎
「───一之瀬さん!」
「任せて!」
渚のマイナステンポから、一之瀬のスパイク。
だが、飛び込んだ金織先輩に拾われた。
そのまま、神田先輩のセットアップ。
「───私によこしなさい」
「───全く、欲張りめ」
飛騨先輩の、通常のスパイク。
ブロックに飛んだ、カルマの両手を弾き飛ばして。
ボールは、地面を抉った。
『うわぁぁぁぁぁぁ‼︎なんっとかサーブを上げたとしても!三年Aクラスは落とせません‼︎』
『翔子のスパイクを一人で止めるのは、無理ね』
両手を赤く染めて、震えながら、柴田は、無理をして笑った。
「わっりぃ。レシーブ、ちょっと甘かったわ」
「ううん。柴田くんは完璧だったよ」
「失敗したのは僕たちだ。完全に拾われた」
「………あとは、頼むわ」
柴田が去って、代わりに、橋本が入ってくる。
「ま、やるだけやったりますよ。アレ、なんとか上げるから、あとは頼むわ」
21─24。
再び、独特なモーションから。
超異次元の速度の、
揺れながら落ちてくるボールを、橋本は見事に拾った。
『ナイスレシーブ!橋本くんっ‼︎』
トスを上げるのは、カルマ。
俺と、渚と、浅野と、一之瀬が同時に飛び込む。
四択の、マイナステンポ‼︎
カルマが選んだのは渚。
だが。
神田先輩は、完璧にドシャットを決めた。
『ここで、ドシャットぉぉぉぉ!』
「──赤羽。君はどうやら、潮田くんと仲が良いみたいだね。これまでの試合の中で、よく分かったよ」
前髪の隙間から、目を覗かせながら。
「────だからこそ、君はこの場面で、彼を使うと思っていた」
化物は、笑った。
「いやぁーきっちぃー」
「大丈夫か、橋本?」
「だいじょばない。でも、ここまで来たんだ。絶対、勝てよ」
「勿論だ」
そして、橋本に変わり、入ったのは。
龍園翔。
「まるで使い捨てだな。だがだとしても、必ず、あの化物どもに勝つぞ」
22─24。
独特なモーションからの、超異次元の、
拾い上げた龍園はしかし、その場に膝をついた。
『何とか上げました龍園くん‼︎そしてトスは‼︎綾小路くんです‼︎』
『さぁ、どんな手を使ってくるのかしら?』
再び、カルマと渚と一之瀬と浅野が、飛ぶ。
マイナステンポで、攻め続ける。
俺と、浅野で!
俺と浅野の、同時攻撃は。
「───おりゃっ!」
寸前で飛び込んできた、藤巻先輩に拾われた。
藤巻先輩は、普通だ。
普通の、化物だ。
「──戻って!すぐにブロック!」
一之瀬の指示は、的確で迅速だった。
俺たちの行動も、的確で迅速だった。
惜しむらくは。
「──修正は完璧です。学」
「──やはり見事だ。金織」
それよりも、二人の方が早かったこと。
マイナステンポの連携で、俺たちは反応すらできずに、ボールはコートに突き刺さる。
『こ、こ、でマイナステンポぉ‼︎さっきよりも速くないですか⁉︎』
『美浪が合わせて修正したのね。全く、大人気ないわね』
両手を赤く染めて、振るわせながらも。
龍園は、笑う。
「───はっ、こんなもんかよ」
「変わった方がいい。これ以上は腕が壊れるよ」
「知るか」
カルマの制止すらも、振り払って。
龍園翔は、コートに残った。
「───最後に勝てば、それでいい」
23-24。
『いつの間にか、六点差は詰められて、デュースまであと一点となりました。まさしく絶体絶命。どうする一年生連合‼︎』
『───さぁ、見せてちょうだい。貴方たちの強さを』
再び、独特なモーションからの、超強烈なスパイクサーブ。
壊れかけの両手で、それでも龍園は完璧に上げて見せた。
『見事なレシーブです龍園くん!二連続‼︎』
セットアップは、浅野学秀。
俺と、渚と、カルマと、一之瀬と、
(────
俺には、堀北先輩が。
カルマには、飛騨先輩が。
それぞれついた。
(────
浅野の視線が、一瞬だけコートに向き。
ツーを警戒した神田先輩が、前に出る。
(────この位置っ!)
一之瀬には、金織先輩が。
渚には、橘先輩がついて。
(────このタイミングっ!)
ワンタッチした後のこぼれ球を拾えるように、藤巻先輩が構えた。
(────この角度っ!)
三年Aクラスの全員が、
(────ドンッ、ピシャ‼︎)
浅野は、思い起こす。
龍園翔にしてやられた、船上試験を。
そう、あの日、あの時、あの瞬間から。
(────君もまた、僕の
俺たちは、知っている。
この男の、
腕が壊れる可能性ぐらいで、止まるわけがないことを。
浅野学秀と、龍園翔の、完璧なマイナステンポ。
それは、三年Aクラスのコートに、突き刺さった。
実は一万字超えたあたりで、サーブの順番ミスってたことに気付いた。
本当だったらカルマの前に高円寺だった。
でも気付いた時にはもう一万字も書いてたし、今から書き直すのもだるいしで突き進んだ。