殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 タイトルは暗殺教室っぽく。


お叱りの時間

 23─25。

 

 俺たち一年生連合は、おおよそ七人の怪我人と引き換えに、何とか勝利した。

 ただ、もし、最初から先輩たちが本気だったら。

 きっと、目も当てられない試合になっていただろう。

 

「───凄まじいな。鈴音の兄さんは」

「───…………そうね。ここに来てからの三年間、それから、あの理事長に教えを受けた三年間で、あそこまで育ったわ。小学生の頃は、まだ常識の範囲内にはいたのだけれど」

 

 同じ人間とは思えないくらい強かった。

 そんな強かった会長は今。

 

 

「───それで?随分と楽しめたようね?大人気なくはしゃぎ倒して」

 

 占藤先輩の前で正座して、お叱りを受けていた。

 もしかしたら、一番強いのは占藤先輩かもしれない。

 

「ねぇ。学くん?翔子?貴方たち、理性を無くすのが早過ぎよ。自分の力は分かってるでしょ?手加減せずにそれをぶつけたらどうなるかも、分かっているはずよね?そんなことも分からないぐらい子供でした、とでも言うつもり?」

「……………その、学がマイナステンポとかしてるの見て、私もそれぐらいして良いのかなって」

「おい。俺のせいにするな飛騨。お前があんなサーブするから、俺もそれぐらいしても良いんだなって思ったんだぞ」

 

 大人気なく、お互いに責任をなすりつけ合う醜い三年生からは目を背けることにしよう。

 

「で、だから?」

「その、私にも一定の責任は間違いなくあるけれど、それでも私にだけ求めるのは違うっていうか。一年生が思ったよりも強くてテンション上がったっていうか」

「そうだな。一年生、特に鈴音や浅野の成長が思ったよりも凄かったから、ちょっと嬉しくなったのもあるし、綾小路が思ったよりもやるやつで、楽しくなったのもある」

 

 要約すると。

 あいつらが強かったのが悪い。俺たちは悪くない。である。

 

「で?」

「その、確かに私たちもやり過ぎたのだけれど、それはそれぐらいしないと勝てないと思うような相手だったからで。

 学っていう個人にそんなことを思うことはあったけれど、私と学、元に茜、美浪、藤巻のチームでそんなことを思う相手なんて初めてで、楽しくなっちゃって」

「そうだな。個人個人で俺に張り合うやつはいるだろうとは思っていたが、チームでそんなことを思わせるなんて初めてだったから。その、すごく楽しくなったのは否定しない」

 

 まぁ、うん。

 このチームに勝てるクラスなんていないだろうが。

 

「で?」

「だから、その」

「その、だな」

 

 必死に色々と捻り出すが、その殆どを「で?」の一言で粉砕していく占藤先輩。

 目が、笑ってないんだよなぁ。

 

「───そもそも、言葉遣いが違うわよね?」

「はい。すいませんでした」

「はい。おっしゃる通りでございます」

「それに、どれだけ一年生が強かろうと、彼らは後輩よね?」

「はい。その通りです」

「はい。その通りでございます」

「後輩に、手加減なくぶつかって、怪我をさせるなんて、それでも部長かしら?ねぇ、翔子?」

「はい。おっしゃる通りです。私は三年生で、部長という責任ある役職についていながら、自分の楽しさのために、後輩に不必要な怪我を合わせた、愚か者です…………」

「それで、部長の翔子はこんなこと言ってるけど、()()()()の貴方は、どうなのかしら?堀北学()()()()?」

「……はい。私は、生徒会長という、全校生徒の模範とならなければならない役職につきながら、自分の楽しさの為に、後輩に不必要な怪我を負わせた、愚か者です………」

 

 怖いって。

 占藤メメ先輩怖いって。

 

「良い?貴方たちはどちらも、後輩たちの上に立っている存在なのよ?それが、こんな、配慮も思慮も足りていない、理性のかけらも無い、野蛮で暴力的なことをするなんて。

 ───他の三年生が、これをやっていたら、貴方たちはどうするのかしら?」

「………でも、その、時には怪我とかも、成長には必要なのでは、とは思います………!」

「………その、傷付くことで、学ぶこともあると思います……」

「それは、試験での、話よね?」

「はい。その通りです………」

「返す言葉もございません………」 

「これ、試験だったかしら?」

「………いえ。全然そんなものではありません………」

「………その、私の個人的な感情に、後輩を巻き込んだ形になります……」

 

 ………そういえば、これ試験でも何でもなかったな。

 

「それで、貴方の個人的な感情に、私たちと後輩たちを巻き込んで、後輩たちに怪我を合わせたのだけれど。そこのところ、どう思っているのかしら。

 ()()()()の、堀北学くん?」

 

 うん。怒ると、本当に怖いな。占藤先輩。

 

「…………その、先輩として、許されないことでして。さらに、生徒会長という、責任と誇りある役職に就いている私が、してはいけなかったことだと、思います」

 

 あの堀北学が、あの化物が、あの人外が、あの理事長の教え子が、完全に、ボロ負けである。

 占藤先輩も、化物だったんだなぁ。

 

「ねぇ、()()()()()飛騨翔子。貴女は、どう思っているのかしら?」

 

 容赦ない。飛騨先輩は、すごく沈んだ顔で、絶望している。

 

「…………その、多くの部員の模範となるべき部長が、やってはいけないことでして………、先輩として、してはいけなかったことだと、思います」

「なら、二人とも、言わないといけないことが、あるわよね?」

「本当にごめんなさい」

「本当にすいませんでした」

「うん。謝る相手が違うわね」

「………はい」

「………はい」

「それじゃあ、まずは怪我を負わせた生徒たちに、謝罪と補償をして回ること。その後、出場した後輩たちにも、謝罪と補償をすること。

 良いわね?」

「分かりました」

「分かりました」

「じゃあ、私も美浪と茜ちゃんたちからお叱りを受けにいくから、あなたたちは行ってよし」

 

 そういえば、そんな話があったな。

 チラッと隣を見てみると、桔梗と橘先輩と金織先輩の前で、軽井沢は正座していた。

 涙目でお叱りを受けているその状況には、哀愁漂うモノがあるが。

 彼氏である平田は目を逸らし、殆どのDクラスの生徒も目を逸らしていた。

 

「ねぇ恵ちゃん。これから私、愛の三女神の一人とか言われるようになると思うんだけど、恵ちゃんはさ、自分だったらどう思うのかな?」

「その、凄く、恥ずかしいです………」

 

 うん。俺も三大筋肉の一人とか言われて恥ずかしかったな。

 

「軽井沢さん。お褒めに預かり恐悦至極、とは言っておきますが、百枚買いますとか、表紙を飾ってくれ、とか、些か言い過ぎですよ」

「それは本気ですっ‼︎‼︎‼︎」

「そ、そうですか。その、仮に表紙を飾ったとしても、出来ればそれよりも、服の方を買って欲しいのですが」

「勿論買いますっ‼︎‼︎‼︎」

「そ、そうですか」

 

 お叱りのはずなのに、完全に呑まれてるな。金織先輩。

 これが、オタクの力か。

 

「それはそれとして。ねぇ、軽井沢さん。それなら私達にも考えがあるんだけど」

 

 一体、どんなお手入れを?

 

「──今から、私と金織先輩で、ツーショを撮ります」

「まぁ、はい。それぐらいなら、良いですよ」

 

 …………割と自分の欲望もあるのでは?

 

「ついでに、写真にはサインを貰います」

「まぁ、はい。サインぐらいなら」

 

 …………金織先輩って、芸能人だっけ?

 

「な、な、な、な、なんてことを……!」

 

 そんなに動揺することか?軽井沢。

 

「そして、撮影するのは、平田くんです」

「えっ、僕?」

「そ、そ、そん、な………」

「自分の目の前で、それも彼氏の手で、推しと他の人がツーショを撮って、サインまでもらうところを、指を咥えて見ていてください」

「ひ、ひどい………」

 

 チェキを持って来ていた松下から借りて、金織先輩とノリノリでツーショを撮る桔梗。

 それを、目を見開いて涙を流している、軽井沢恵。

 

「鈴音!鈴音も撮ろうよ!」

「あら、良いわね」

「構いませんよ。撮りたい女子は並んでくださいね」

 

 そこから、カメラマン平田による、金織先輩とのツーショ撮影会が始まった。

 ちなみに、男子禁制である。何せ、ツーショを撮った男子は、撮れなかった男子から襲われかねないので。

 松下、佐藤、篠原を始め、一年生女子たちがサインと写真を見せ合って盛り上がっていた。一之瀬も楽しそうに撮っていた。茅野と金織先輩のツーショは、金織先輩だけでなく、茅野も自分のサインを書いていた。

 ………多分、いつかどこかでプレミア着きそうだなぁ。

 

 その十二年後。世界的なデザイナーとなった金織美浪と、世界で評価される大女優となった磨瀬榛名の共演の際、サイン付き水着ツーショット写真が公開され、専門家の査定の結果、数千万の値段が付いたとか。

 

 ツーショット写真を撮る人が増える度に、軽井沢の絶望はドンドン強くなっていた。最終的に、無表情で涙を流す人形になり。

 

「ね、ねぇ。もう、良いんじゃないかな?その、一枚ぐらい、撮らせてあげても」

「よ、ようずげぐん………」

「…………まぁ、お手入れはもう終わったし。良いですか?金織先輩?」

「構いませんよ。まぁ、一枚ぐらいは」

「ぐじだざん………がなおりぜんばい」

「恵ちゃん、写真撮るから、ちゃんと顔綺麗にしとかないと」

「ぢあぎぃ………ありがど」

 

 松下から受け取ったハンカチで、涙を綺麗に拭いた軽井沢は。

 倒れそうなぐらいに顔を赤くしながら、ガッチガチに固まった笑みを浮かべて、ツーショを撮ったが。

 

「…………あっ、ごめん。用紙切れてて、写真出ないみたい」

「────どゔじでよぉぉぉ〜〜〜」

 

 泣き崩れた。

 流石に可哀想だ。

 

「全く。仕方ありませんね」

 

 跪いた金織先輩は、泣き過ぎて酷い顔になっている軽井沢の顔を、丁寧に拭った。

 

「が、がなおりぜんばいぃ〜〜」

「ふふ、こっちを見てください、軽井沢さん」

 

 横向きにした端末を内カメにして、軽井沢の肩を抱き寄せながら、腕を伸ばして、写真を撮る。

 俗にいう自撮りである。

 

「───ふぇ?」

「連絡先、交換しましょう。写真、送っておきますよ」

「───────ふぇぇぇぇ⁉︎」

 

 あたふたしながら端末を操作して、金織先輩の連絡先から、写真を受け取った軽井沢は、涙と涎と鼻水を垂らしながら、満面の笑みで、気絶した。

 うん。まぁ、実況頑張ってたし、これぐらいはな。

 

「───もう、美浪ったら。私も軽井沢さんと連絡先交換したかったのに」

 

 とても残念そうな顔をしながら、占藤先輩が来た。

 もしかしたら、軽井沢は、割と先輩キラーなのかもしれない。

 さて、堀北先輩たちへのお叱りを終えた占藤先輩は、神妙な顔つきで、金織先輩と橘先輩、鈴音と桔梗の前で正座した。

 

「さて、メメちゃん。これから先、私たちはメメちゃんたちのせいで、あ、愛の三女神とか言われるんですが、メメちゃんは、反省していますか?」

「勿論。反省はしています。ただ、後悔はしていません。茜ちゃんが愛の女神なのはただの事実だもの」

「ぶ、ぶれないねメメちゃん」

「それはそれとしてですね。お仕置きの内容が、その、余りにも、その」

「少なくともメメちゃんに口を出す権利はないよね?」

「………はい、そうです」

「なら、文句は無いよね。メメちゃん?」

「………はい、無いです」

 

 占藤メメ、一週間、橘茜の半径五メートルに近づいてはならず、声もかけてはならないの刑、である。

 

 その後、堀北先輩と飛騨先輩の謝罪行脚からの、お詫びとしての一人当たり五万ポイントの支払いで、二回くらった浅野、高円寺、須藤、龍園は倍の十万ポイントもらっていた。

 ちなみに浅野が吹っ掛けた。龍園もノリノリで乗っかった。悪い奴らめ。

 

 

「鈴音」

「あら、兄さん。お詫びかしら?」

「それもあるが、個人的に聞きたいことがある。少し良いか」

「構わないわ」

 

 二人はそのまま人のいない物陰に移動した。

 流石に、家族の会話を盗み聞きしようとする輩は、いなかった。

 

 

 

 物陰で、堀北学は難しげな顔で、壁に寄りかかっていた。

 何かを、思案しているようだった。やがて、口を開く。

 

「────…………綾小路清隆。あの男は、異常だ。完成度が高すぎる」

「…………そうね」

「同じE組卒業生たちと比較しても、明らかにおかしい。サーブの完成度も頭ひとつ抜けていた。トスの精度も、スパイクの威力も。………少なくとも、たった一年で、あそこまでの万能性に育つことはない。

 俺も、小学校四年生の頃に、道場で浅野先生に会っていなかったら、このレベルの万能性にはならなかった。

 奴は、どこで、誰に育てられた」

「………兄さんには、話しておいても良いかもしれない。いいえ、話すべきね。私の家族だもの」

「───、……………成程。奴の秘密を知ったものは、親族すらも、命の危険に晒されるのか」

 

 鈴音は心から呆れた。そして同時に尊敬した。

 全く、やはりこの人は化物だな。

 

「────………ホワイトルーム。

 そう呼ばれる、野党第一党共栄党の国会議員、清隆くんの父、綾小路篤臣が作った、特殊な施設。

 友達も作らせず、親からも切り離して、幼少期から、過酷なカリキュラムをこなさせて、人工的な天才を作り出すことを目的とした施設。カリキュラムをこなさなければ即脱落。施設から追放されて、そして、カリキュラムをこなせたこなせないに関わらず、ホワイトルームで育成された人材は、大なり小なり精神的な疾患を患う。

 そんな施設に、彼はいたの」

「…………成程。椚ヶ丘も、この学校も、霞む程の地獄か」

「…………そうね。そして、私たちは、その施設を襲撃、爆破して、綾小路くんを連れ出した。

 平たく言えば、粛清対象なの」

 

 流石に。流石にそれは予想外だったらしく、眼鏡がズレた。

 

「────………襲撃に、爆破だと…………?」

「まぁ、そうね。

 卒業式は、全員で参加したかったもの」

 

 ……………もしかしたら。

 妹は、想像以上にアグレッシブに育ったのかもしれない。

 まぁ、うん。行動力があるのは、良いことだな。

 

「………事情は分かった。お前たちはいずれ、綾小路議員とことを構えるつもりだろう?」

「そうね。そうなるわ」

「………その時になったら連絡しろ。俺も手を貸す」

「………ありがとう。兄さん。心強いわ」

 

「それはそれとして、奴との関係について、色々言いたいことはあるが」

「さっきも言ったでしょう?少なくとも兄さんは、人のこと言えないと思うのだけれど」

 

 堀北学は、堀北鈴音にバッサリと切り捨てられた。

 

 堀北学は、落ち込んだ。

 

 

 夕暮れ時になっても、三年Aクラスの先輩たちと、一年生たちは楽しげに遊んでいた。

 

 先輩後輩入り乱れて、ボールを落とさないようにレシーブ回しで遊んでいたり。

 

 飛騨先輩に頼み込んで、プールに投げ飛ばされてみたりする後輩たちがいたり。

 

 プールサイドでチェスを始める(チェス盤どこから持ってきた)浅野と神室と占藤先輩だったり。

 

「ねぇ、なんで私は二面打ちに付き合わされてるの?」

「無論、ただのチェスだと飽きて来たからだな。神室、チェックだ」

「そうね。たまには二面打ちも、良い頭の体操になるもの。神室さん、チェックよ」

「……………せめて会長か綾小路とか堀北さんとやりなよ。こんなのただの虐殺じゃない」

「いやまぁ、メメ先輩と指しながらその人たちとも指すのは流石に疲れるからな」

「神室さんレベルだとちょうど良いのよね。程々に殴り返してくれるから」

「確かに。サンドバッグを叩いてたってつまらないですしね」

「気分的にはサンドバッグなんですけど」

 

 哀れなり。神室真澄。

 

 話は戻して、生徒会に興味があるのか、啓誠は神田先輩から話を聞いていた。

 

 高円寺と須藤は水泳で競っていた。

 なんであいつらあのレベルの試合の後であんなに動けるんだろうな。

 

 金織先輩は、桔梗や一之瀬、軽井沢達と穏やかに談笑していた。というかいつの間にかティーセットが用意されてる。さりげなく橘先輩が全員分の紅茶淹れてる。この辺りのホスピタリティというか、優しさの塊っぷりが、愛の女神たる所以なんだろうな。

 

 俺はのんびりとプールに浮かびながら、楽しそうだなぁ、とぼんやりと観察していたら。

 俺の顔に影が差した。

 見上げてみると、そこにいたのは仁王立ちする堀北先輩。

 

「鈴音から、お前の事情は聞いた。お前たちが、いずれ綾小路議員とことを構えるだろうことも。

 手を貸してやる。感謝しろ」

 

 ……………この人が手を貸してくれるのは、普通に心強いな。

 

「頼りにしてます。堀北先輩」

「………あぁ。それで、お前はなぜ、仰向けで浮かんでいる?」

「疲れたのと、流される木材の気分を知ってみたかったからです」

「………そうか。楽しいか」

「割と楽しいです」

「………そうか。良かったな」

「先輩もどうです?」

「………いや、いい」

 

 そんなやり取りをしていたところ、鈴音がやって来た。

 

「………成程。流される木材の気持ちでも、知りたかったのかしら?」

「………よく分かるな、鈴音」

「まぁ、彼のことは、よく見ているもの」

「………そうか」

「鈴音もどうだ?思ったよりも楽しいぞ」

「そうね。やってみようかしら」

「鈴音?」

 

 完全に脱力して、俺の隣に寝転がるように浮かぶ鈴音。冷たい水が、身体中を覆い、まるで超低反発のベッドに横たわっているような、そんな感覚。

 体が勝手に揺れるその感覚も、なんだか心地良い。

 鈴音はその顔に、仄かな笑みを浮かべた。

 

「なかなか、悪くないわね」

「だろう?」

 

 俺も、仄かに笑っていた。

 そんな俺たちを見ていた堀北先輩も、興味を抱いたのか。

 仰向けに、浮かんだ。

 

「……………何事も、やってみるものだな」

 

 気に入ったらしい。

 俺たち三人は、夕暮れ時になるまで、その体制でのんびりしていた。

 

 俺たち三人がそんなことをしているプールサイドを歩いていた池は、死ぬほどびびっていた。

 

 さて、そろそろ日も暮れるので、俺たちは帰ることにした。

 

「その、怪我させちゃったわけだし、鈴音も櫛田も、私が送って行くわね」

 

 そう言って、二人を連れていこうとした飛騨先輩は。

 

「いえ、大丈夫です。………………その、今日は、寮には帰らないので」

「…………その、先生とかには、秘密でお願いします」

 

 俺の方に視線を向けながら、そんなことを言う鈴音と桔梗を見て。

 戦慄した。

 

「…………こ、後輩たちが、爛れている………」

 

 仄かに頬を赤く染めながら、鍛え上げられた俺の肉体と、鈴音と桔梗の水着姿を交互に見て。

 

「た、確かに、二人同時も問題なくこなせそうね」

「そういうことはしません」

 

 俺のその宣言に、しかし飛騨先輩は、曖昧に頷いた。

 

「そ、そう、なのね。…………その、そろそろ、学校も始まる訳だし、あまり、夜更かしし過ぎないようにね。

 …………ちゃんと、誰にも話さないようにするから」

 

 そんな飛騨先輩の気遣いには、心から感謝した。

 もし堀北先輩にこのことがバレたら、間違いなく俺は殺される。あの男とことを構える前に、一応味方に殺されるとか、全く笑えない。

 

 

 そして、部屋に帰った俺は。

 

「今日の試合、よく頑張ったわね。清隆くん」

 

 過去最大級の危機を迎えていた。

 

「こんなに疲れているのに、ソファで寝るなんて良くないよね。私たちも疲れたし、三人で一緒にベッドで寝ようか」

 

 耐えてくれよ。俺の理性。

 




 次回、同衾の時間。
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