殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 正直体育祭って旨味少ないよね。

 それはそれとして祝五十話!


一年生と波乱の始まり

 九月一日。

 まだ暑さの残る秋の初め。

 始業のベルが鳴り、実力至上主義の二学期が、始まった。

 

「おはよう諸君。まずは、言わせてくれ。おめでとう。この二十数年の歴史を誇る高育において、Dクラスとして選ばれたクラスが、これほどの躍進を遂げたことは、未だ嘗てないことだった。

 諸君らは、間違いなくこの学校の歴史に名を刻んだ。歴代最速で、Bクラスに昇進した、『歴代最高の元Dクラス』、と」

 

 茶柱の賞賛と共に、朝のホームルームが始まる。

 殆どの生徒は満足げだった。特に、無人島試験MVPの寛治と春樹は、凄く自慢げに笑っていた。

 だが、鈴音は立ち上がって、茶柱の言葉を訂正した。

 

「先生。あなたの言うとおり私たちの名は、確かにこの学校の歴史に残るでしょう。しかしそれは、歴代最速でBクラスに昇進したから、ではなく、歴代最速でA()()()()に昇進するからです」

 

 それは、ある種の宣戦布告だった。

 生徒たち全員が、頷いた。

 

「…………ふっ、Aクラスへの昇進を目指すお前たちに、無視できない話がある。心して聞け」

 

 体育祭についての話だ。

 

 

 一方、一年Dクラスでは。

 

「皆さん。おはようございます。今日から二学期が始まりますが、その前に、大事なことをお知らせします。体育祭についてです」

 

 プリントを配りながら、坂上は体育祭の話をしていく。

 

「この学校の体育祭では、全学年のA、Dクラスを赤組。B、Cクラスを白組とします。我々Dクラスは、赤組ですね」

 

(それは、運がいいね)

 

 赤羽業は、話を聞きながら、そんなことを考えていた。

 

(全学年ってことは、必然、三年Aクラスも赤組。あの人たちが味方なら、全体での負けはまずあり得ない。それだけの化物たちだから、ね)

 

「そして同時に、各学年のクラス間でも、競争が行われます」

 

 一番重要な話が来て、龍園とカルマを筆頭とした何人かの生徒が、真剣に耳を傾ける。

 

「合計得点で競い、一位となったクラスは50CP。二位は変動なし。三位はマイナス50。四位はマイナス100CPです。

 赤組と白組で分かれて競いますが、勝ったとしてもCPが得られるわけではなく、逆に負けると、一律マイナス100CPのペナルティがあります。

 つまり、この体育祭でポイントを得るためには、組として勝った上で、学年で一位になるしかありません」

 

 すごく微妙。

 全員同じことを考えていた。

 無人島試験では、最大で150ポイントを超えるボーナスのチャンスがあり、船上試験に至っては、最大450ポイント。

 それに比べれば、はるかに微妙である。

 

(…………まぁ、Cを上手いこと四位にした上で、俺たちが一位なら、話しは別だけどさ)

 

 単純計算で350ポイントの差を縮めることができる。

 逆転の可能性は高まる、が。

 

(…………あのクラス、普通に手強いからなぁ。渚もいるし)

 

 

 その一年Cクラスでは。

 

「それから、体育祭では、優秀選手が選ばれます。

 全学年での最優秀選手には、十万プライベートポイント。各学年の最優秀選手は、一万プライベートポイントです」

 

 渚は、その話を聞きながらも、正直それにはあまり惹かれなかった。

 

(一年で選ばれるとしたら、綾小路くんか、浅野くん、あとは堀北さんかな?

 二年は正直よく分からないけど、三年と最優秀選手は、堀北会長か飛騨先輩のどちらかでしょ)

 

 あの身体能力を見て、あれより上がいるとは到底思えない。

 あの二人は、正直烏間先生の領域に踏み込みかけている。ぶっちゃけ正面からの暗殺は中々厳しい。もし仮に、あの二人を暗殺しなければならないとしたら、正面からではなく、油断する瞬間を狙っての不意打ちしか無い。

 それはともかく。

 

「で、体育祭の競技には、個人競技と、団体戦があります。

 このうち、個人競技には報酬があって、一位が五千ポイントと、中間試験で任意の科目に三点増、二位だと、三千ポイントに、任意の科目に二点増、三位だと、千ポイントに一点増、だね。このどちらかを選択できます。

 それから、ペナルティもありまして、最下位の生徒は、マイナス千ポイント。払えなかったら、試験でマイナス一点のペナルティ、といった感じです」

 

 成程。団体戦はともかく、個人での勝利は割と馬鹿にならない。

 とはいえ。

 

(正直運の要素も強いよね、これ)

 

 綾小路くんやカルマ、浅野くん、高円寺くんといった奴らさえ、別のグループなら、渚も一位を取る自信はあるが。

 彼らと同じグループになったら絶対無理だ。

 

「それから、全員参加と推薦参加があります。

 推薦参加は文字通り、他薦で選ばれる種目です。で、推薦参加を欠席したら、代役を立てるのに十万ポイントが必要になります。留意してください」

 

 そのポイントを聞いて、渚としては溜め息を吐きたかった。

 

(十万はかなり多いなぁ。まぁ、割とどのクラスも余裕あるし、払えなくは無いけどさ)

 

 特にAクラスからしたら、端金みたいなものじゃ無いかな?

 

 

 一年Aクラスでは。

 

「ここまでが体育祭の説明だ。何か質問がある生徒はいるか?」

「真嶋先生。この推薦競技には、回数制限がありますか」

「回数制限は無い。出たい生徒が複数回出ても大丈夫だ」

 

 成程。なら、自分が複数回出たほうが良いな。と、浅野は思考する。

 

「先生。先輩方と話し合う機会などは、設けられるのでしょうか」

「あぁ。始業式の後、赤組と白組で集まって話し合いをしてもらう」

 

 坂柳の質問にそう返す真嶋。

 殆どの生徒は、三年Aクラスのことは知っているが、三年Dクラス、二年Aクラス、二年Dクラスのことは知らない。

 必要なことである、と同時に、浅野は複雑であった。

 

(…………赤羽とも、堀北先輩とも、味方、か。無論、クラス間競争もある以上、赤羽とも競い合うことになるだろうが)

 

 まぁ、得難い経験と思えば。

 

「なぁ、浅野。同じ生徒会だろう?南雲先輩は、どんな人なんだ?」

 

 葛城のその質問に、浅野は少し、苦い顔をした。

 九重九十九から、『一年Aクラス女子脅迫事件』の詳細を聞いた身としては、この男はすぐに学校から追い出すべきだと心から思う。

 それはそれとして、こんな話を葛城にする訳にはいかないだろう。

 やむを得ず、お茶を濁すことにする。

 

「…………まぁ、すごく個性的な先輩だ。実力も確かにある。ただ、個人的には、それなりに嫌いだな」

「…………お前、人を嫌いだと思ったりするんだな」

「僕をなんだと思っている」

「あぁ、いや、悪い意味じゃなくてな。浅野は普通に良いやつで、合理的だから、なんだかんだで、実力のある人は好ましく思うだろう?そんなお前が、実力を認めながらも、そんなことを言うとは、と思っただけだ」

「…………まぁ、どれだけ実力があったとしても、超えてはいけない一線があるだろう」

「…………その一線を、超えたのか?南雲先輩は」

「…………あぁ」

 

 何より最悪なのは、この一線を超えたと証明できる証拠が無い、ということだ。

 

「────十分以上に気をつけろ、葛城。あの人は今、僕を敵視している。お前や吉田、橋本も狙われるかもしれない」

 

 堀北学が、この学校に入学してくるのを、楽しみにしていた生徒。

 堀北学が、目をかけている後輩は、これまででたった数人。

 卜部藤乃、浅野学秀、堀北鈴音、綾小路清隆のみである。南雲が、あの事件を裏から操ったその瞬間まで、堀北学は、南雲雅に興味すら抱いていなかった。

 今、南雲雅は生徒会副会長という立場でこそあるが、それは一重に監視の為に他ならない。

 堀北学は、ただの一度も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だからこそ、南雲雅は彼らを憎んでいる。

 憧れの視線を、興味を、関心を、敵意を、何もかもを掻っ攫っていく、一年生どもを。

 …………今までは、お互いに利用し合う関係だから、赤羽業と南雲雅は、上手くやっていたが。

 赤羽業は、あの一日で、堀北学の興味を引いた。引いてしまった。

 ────じきに、あの二人の関係は、崩壊するだろう。

 

 

 体育祭で、始業式を終えて。一年Bクラスと、一年Cクラスは、白組に合流していた。

 俺は今、渚と対峙している。

 

「………今回は、味方、だな」

「………だね。なんだか懐かしいかも」

「確かにな。お前と一緒に戦うとなると、E組の頃を思い出す。敵も、浅野だしな」

「カルマと奥田さんも敵だけどね」

「だな」

 

 なんだか懐かしさすら感じて、穏やかに笑い合っていく。

 俺の中にも、渚の中にも、あの一年は、確かな形を伴って残っていた。

 それが、なんだか嬉しかった。

 

「体育祭はよろしくね。櫛田さん」

「うん。一緒に頑張ろう。あかりちゃん!」

 

 一年Bクラスの天使と、一年Cクラスの女神が微笑み合っていた。

 あの辺りだけ花が飛んでいる。

 

「一緒に頑張るけど、私たちは、負けないからね!堀北さん!」

「勿論よ。一之瀬さん。正々堂々、競いましょう」

 

 一年Cクラスの大天使と、一年Bクラスの女帝が火花を散らす。

 そこで、三年Bクラスの先輩の声が響いた。

 

「───すまない!二年生、一年生のBCクラス諸君!僕は三年Bクラスの、金石博(かないしひろ)だ!今回の体育祭で、白組の代表を務めさせてもらう!」

 

 金織先輩の男性バージョン、というべきだろう。蜂蜜色の美しい髪を無造作に伸ばして、独特な色の瞳を持った、とても美しい顔立ちの先輩だ。自然と、二年生と一年生の視線は、彼に集まっていく。

 

「さて、とても残念なお知らせから入ろう。僕がこの学校に来てから、体育祭で白組が赤組に勝てたことは一度もない!今回も、勝てない可能性の方が、圧倒的に高いだろう」

 

 …………まぁ、三年Aクラスの化物たちがいるからな。

 

「───だが、勝てる可能性は、決してゼロじゃない。ゼロじゃないなら、賭けるに値する」

 

 なんか、面白そうな先輩だな。

 

「僕は、僕たちが勝つ方に、四千万ポイント賭けた!今出せる僕の全財産だ!」

 

 ………ただのギャンブラーか?

 後輩たちが見る前で、金石先輩は端末を操作して、四千万ポイントを払った。

 払われたのは、三年Bクラスの教師、長杖巡(ながづえめぐる)

 苗字の通り、杖をついた草臥れた服装の、美形のおじさんだ。

 

「確かに、受け取った」

 

 長杖先生は、三年Aクラスの星穹先生に目配せする。

 うなづいた星穹先生は、堀北先輩に声をかけた。

 

「───学!君はどうする?」

 

 呆れと、それから楽しみを滲ませた笑みを浮かべた堀北先輩は、同じように端末を操作して。

 

「───なら俺は、赤組が勝つ方に七千万ポイント賭けよう。今出せる俺の全財産だ」

 

 そんな二人に、深く溜め息を吐きながら、三年の女子の先輩が前に出てきた。

 長い銀髪を二つにまとめた、綺麗な姿勢の美女だ。

 

「性懲りも無く、今年もやるのね。博。なら、私も乗ってあげる。私の全財産、三千万ポイント。白組の勝利に賭ける‼︎」

 

 今年もってことは、毎年恒例なのか。これ。

 

「…………なぁ、桔梗。あの先輩、知ってるか?」

「うん。結構有名だよ。白銀園子(しろがねそのこ)先輩。三年Cクラスのリーダーで、北海道の結構な名家の出らしいよ」

 

 その白銀先輩は、担任の門脇千尋(かどわきちひろ)先生に、三千万ポイントを支払った。

 赤い髪の、すごい包容力を感じる聖女のような先生。

 困ったような笑みを浮かべながらも、その先生は受け取った。

 

 最後に、赤組の女子の先輩が前に出る。

 

 なんというか、すごく小さいな。中学一年生と言われても納得できそうで、でも、水色のその瞳は、確かな知性を感じさせる。

 その先輩は、静かに端末を操作する。

 

「───初対面の後輩たちも多いからな。自己紹介だ。僕は三年Dクラス、風間律(かざまりつ)。この体育祭、赤組の勝利に僕の全財産、二千五百万ポイントを賭ける‼︎」

 

 担任の黒井千歳(くろいちとせ)先生は、薄らと微笑みながら受け取った。

 鍔の広い帽子を被った、凄まじい美女。

 どことなく、魔女のような雰囲気の先生だ。

 

 ていうか全員ポイント多くないか?普通に2000万超えてるんだが?普通にクラス移動できるんだが?

 ………あれか、自分たちだけがAクラスで卒業するよりも、クラスをAクラスにする為に、戦っているのか。

 

「ふふふふふふふ。毎年恒例のこの儀式、出来れば来年もやって欲しいわね」

「無理言わないでよ千歳ちゃん。こんなの普通はやらないからね?」

「ま、全財産賭ける馬鹿なんて、普通はいないからな」

「────いや?今年の一年は、面白いのが多いみたいだ」

 

 三年の担任たちが見る中で、赤い髪の、背の高い優男が、風間先輩に話しかけた。

 

「───ねぇ先輩。俺もこれやりたいんだけど、誰に払えば良い?」

 

 その男、赤羽業は、とても楽しそうに笑っていた。

 

「………お前、名前は?」

「赤羽業。一年Dクラスだよ。風間先輩」

「ふん。一年生の持つポイントなんてたかが知れている。雀の涙ほどの上乗せなどいらん」

「うん。確かに、先輩たちに比べたら大したことないけど。──俺の全財産。三百万ポイント、賭ける」

 

 風間先輩は、とても楽しそうに、カルマを観察した。

 

「───ほう。三百万、か」

「うん。三百万。赤組の勝利に賭けるよ」

「いいだろう。───黒井!」

 

 名を呼ばれた三年Dクラス担任、黒井千歳は、端末を操作しながら、カルマに近付いて来た。

 カルマの目の前に立った黒井先生は、その顎を指先で掴んで、丹念に観察する。

 

「────ふふふふふふふふ、本当に面白いお子ちゃまね。良いわ。私のアドレス、教えてあげるから、これに送りなさい」

 

 そうして、三百万ポイントの賭け金が追加された。

 

 そうなれば当然、彼女も動き出す。

 

「────なら、私も良いかな?」

「あ、あかりちゃん……?」

「一年Cクラス、雪村あかりです。ねぇ、白銀先輩。私の全財産、四百万ポイント、白組の勝利に賭けたいんだけど」

「あかりちゃん⁉︎」

 

 一之瀬の制止も聞かず、茅野は白銀先輩にそんなことを言って来た。

 その瞳を見て、本気だと悟った白銀先輩は、右手で額を押さえていた。

 

「…………貴方のせいよ。博。後輩によくない見本を見せるから………。はぁ………。門脇先生。お願いします」

「は〜〜い。雪村ちゃん、だよね?これ、私のアドレスだよ」

「ありがとうございます!」

「じゃなくてっ!何してるのあかりちゃん⁉︎」

「まぁまぁ。私のポイントだし」

「だとしてもだよっ!」

 

 …………この流れは。

 ────俺の番、か。

 

 一歩、また一歩、数歩ずつ歩いて、金石先輩の元まで行く。

 金石先輩は、俺に気付いて、とても、楽しそうに。不思議な色彩と、輝きの瞳を歪めた。

 

「────君、名前は?」

「一年Bクラス、綾小路清隆です」

「そうか。綾小路か。────で、幾ら賭ける?」

「俺の全財産。五百万ポイントで」

 

 その瞬間、金石先輩は大笑いした。

 

「ははははははは、はー、はっはっはっ!───素晴らしいギャンブルだ!綾小路!───長杖先生」

「はいはい。無駄遣いは良くないぞ。おじさんからのアドバイスだ」

 

 そのアドバイスを受け取った瞬間に無視して、五百万ポイントを支払った。

 

 となれば、当然。

 

「───ふっ、お前も賭けるのか?浅野」

「───えぇ、こんなに楽しそうなの、見過ごすわけにはいきません」

 

 浅野もまた、動く。

 

「一年Aクラス。生徒会副会長。浅野学秀。───赤組の勝利に、僕の全財産、七百万ポイントを、賭けます」

「───良いだろう。ヨウ先生、頼みます」

「了解した。───本当に、今年の一年は、面白い」

 

 あまりの展開に、体育館は静寂に包まれた。

 その静寂を切り裂くように、杖の音が、体育館中に響き渡る。

 カツン、カツン、カツン、カツン、カツンカツンカツンカツン‼︎

 神室が、葛城が、一年Aクラスの生徒たちが、全校生徒が、その少女に視線を向ける。

 

「ふっふふふふふふふふふふふふ。───狡いですよ。学秀くん。貴方だけ、こんなに面白いものに、参加するなんて」

 

 その少女を見据えて、堀北学は、笑う。

 

「───名前は?」

「───一年Aクラス、坂柳有栖。赤組の勝利に、私の全財産、六百万ポイントを、賭けます」  

 

 その宣言を耳にした、スキンヘッドの、体格の良い男子生徒が、前に出る。

 

「───お前たちが乗るのなら、俺も乗ろう。一年Aクラス、葛城康平。五百五十万ポイントで、赤組に賭ける」

「浅野学秀達だけがこんなに面白いのに参加するのは狡いのです。一年Aクラス森下藍。二百五十万ポイントを賭けるのです」

 

 それぞれの宣言を聞き遂げた堀北先輩は、笑った。

 

「───今年の一年は、本当に素晴らしいな。……ヨウ先生」

「了解だ。………今までで一番、楽しい体育祭になりそうだな」

 

 星穹先生の視線の先には、金石先輩に歩み寄る、二人の女子生徒を写していた。

 

「───貴方だけ、これに参加するなんて、許さないわよ。清隆くん」

「───うん。私たちも、参加するよ!」

 

 金石先輩は、本当に、心から、楽しそうだった。

 

「あぁ、あぁ、あぁ‼︎本当に素晴らしいな‼︎今すぐに踊り出したいぐらいだ‼︎───君たち、名前は?」

「一年Bクラス。生徒会会計。堀北鈴音。私の全財産、四百万ポイント」

「一年Bクラスの櫛田桔梗です。私の全財産、三百五十万ポイント」

 

 自然と、二人の声は揃った。

 

「「白組の勝利に、賭けます」」

 

 拍手の音が、体育館に響き渡る。

 孤高の天才、高円寺六助は、賞賛するように手を叩きながら、全員の注目を集めながら、堂々と、楽しげに、金石先輩の元に、やって来た。

 金石先輩の目が細まる。

 本当に、楽しそうだ。

 

「今年のBクラスは、本当に優秀だね。名前を、聞こうか」

「一年Bクラス、高円寺六助。全財産、五百万ポイントを、賭けよう」

 

 一年生四人から、合計千七百五十万ポイントを受け取った長杖先生は、慄いていた。

 

「ちょっと、今年の一年生、金遣い荒すぎない?おじさん怖くなって来たんだけど」

「───追加、良いですか。長杖先生」

「嘘でしょ。まだいるの?」

 

 眼鏡を指で押し上げながら。

 幸村啓誠は、堂々と、前に出る。

 

「ふふふふふふふふふふふふふ……………はーーーっ!はっはっはっはっはっ‼︎‼︎───名前は?」

「一年Bクラス。幸村………啓誠。二百五十万ポイントで、この賭けに、乗ります」

 

 さらに追加で一人分受け取って、合計二千万。

 金石先輩の分を合わせて、六千万である。

 

「……………おじさんもうついていけないよ」

 

 疲れ果てた様子で、長杖先生は溜め息を吐いた。

 

 高円寺は、Cクラスの方へ視線を向け、声を張る。

 

「───君も乗りたまえ!潮田ボーイ‼︎」

 

 名前を呼ばれた渚は、深く、ふか〜〜〜く溜め息を吐きながら。

 白銀先輩の元に向かった。

 

「……………はぁ………。今年の一年は、ヤバいやつだらけね」

「はははははは。なんかごめんなさい。白銀先輩」

「───で、名前は?」

「──一年Cクラス。潮田渚。高円寺くんの挑発に乗って、四百万ポイントで、参加します」

 

 そんな渚の背を追うように、神崎隆二も、前に出る。

 

「──俺も乗ろう。白銀先輩。一年Cクラス、神崎隆二。二百万ポイント。白組に賭けます」

 

 隣の茅野だったり、前に出た二人だったりの間で、視線をあちこちに飛ばした一之瀬は、顔を青くしながらも、前に出た。

 

「────わ、わわわわ私も乗ります!」

「…………別に、無理しなくても良いのよ」

「い、いいいいえ。む、むむむむむりなんてててて、してませんよよよ」

「…………そう。名前、聞いて良い?」

 

 大きく深呼吸を、数回繰り返して。  

 落ち着きを取り戻した一之瀬は、震える指先で、全財産を支払った。

 

「一年Cクラス、生徒会庶務、一之瀬帆波。三百五十万ポイントで、参加します………!」

 

 支払った後、一之瀬の口から魂が抜け出した。

 一之瀬の魂は、『ごめんなさいお母さん。ごめんなさいいるか。お姉ちゃんは、悪い人になっちゃいました…………』とか言っていた。

 

 

「───ハッ、コイツは、乗るしかねぇな」

 

 今度は、龍園翔が、前に出た。

 

「───名を聞かせろ、一年生」

「一年Dクラス、龍園翔だ。二百五十万ポイントで、参加する」

「───良いだろう」

 

 風間先輩にそう答え、龍園は二百五十万ポイントを支払った。

 なんてことないように、Dクラスから、さらに二人の女子が、風間律先輩の元に向かう。

 

「お前たちも、参加するのか」

「えぇ。一年Dクラス、椎名ひより。少々勿体無いですが、百三十万ポイントを、赤組に賭けます」

「お、同じく、奥田愛美、です。ひ、百二十万ポイントを、赤組に、賭けます……!」

 

 そして。

 

「はいはーい‼︎二年Dクラス!花咲ほむら!五百万ポイントで、参加しま〜〜す‼︎」

「うむ!二年Cクラス、桃井緋音!五百三十万ポイントで参加じゃ!」

「ニ、二年、Cクラス………、狐判、稔………五百二十万ポイントで、参加、します」

「何これ、すっごく楽しそうなゲームじゃん‼︎良いね‼︎二年Bクラス九重九十九‼︎千六百万ポイントで参加するよ‼︎」

「ならば私も乗るとしよう。二年Bクラス、鬼龍院楓香。千五百万ポイントで参加だ」

「…………はぁ。二年Bクラス。生徒会書記。桐山生叶。一千万ポイントで、参加だ」

「……………………二年Bクラス。卜部藤乃。千七百万ポイントで、参加するわ」

 

 続々と、二年生も乗ってきて。

 

「楽しそうな祭りね。今年は私も参加するわ。三年Aクラス。陸上部部長。飛騨翔子。三千六百万ポイントを、赤組に賭けるわ」

「三年Aクラス。生徒会広報。金織美浪。三千七百万ポイントを、赤組に賭けます」

「これがないと始まらないな。三年Aクラス。生徒会会計監査。神田元。三千九百万ポイントを、赤組に賭けよう」

「毎年恒例、でも、こんなに参加するのは初めてね。三年Aクラス。テーブルゲーム部部長。占藤メメ。四千二百万ポイントで、赤組に」

 

 三年Aクラスも乗り。

 

 最後に、全員の視線が、ある生徒に向く。

 

「────ハッ、最高のゲームをありがとう、金石先輩。二年Aクラス。生徒会副会長。南雲雅。五千万ポイントで、赤組に」

 

 いつの間にか壇上に上がっていた金石先輩は、その目をギラギラと輝かせて、心から楽しそうに笑っていた。

 成程。この人も、化物か。

 

「総額なんときっかり五億ポイント‼︎勝った組が、全額受け取れる───なんて、それじゃあつまらない」

 

 金石先輩と同じクラスなのだろう、ショートボブの女子生徒は、本当に呆れ返った顔で、深い溜め息を吐いているのが分かった。

 前提条件を唐突にひっくり返しながらも、誰も何も言えなかった。

 

「───この五億ポイントを受け取れるのは、この体育祭で最も点数を稼いだクラスだ‼︎

 さぁ、始めよう‼︎獲得賞金は五億ポイント‼︎学年もクラスも関係なし‼︎

 全学年全クラス入り乱れて、争奪戦、開幕だ‼︎‼︎‼︎」

 

 金石先輩の手によって。

 旨味の少ないはずの体育祭は、全学年の全クラスが死に物狂いで挑む、狂気の体育祭へと変貌した。

 

 

 波乱の二学期の、幕が上がる。





 五億ポイント貰えるならみんな本気でやるよね。
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