殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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一年Dクラスと棒倒し

 並びあって、軽くストレッチをする浅野とカルマは、何だか不思議な気分だった。

 

「棒倒しだよ、浅野くん。何だか懐かしくない?」

「………僕としては、苦い思い出だがな」

 

 リーダーとして、磯貝悠馬に完敗した、あの棒倒し。あの時と同じように、綾小路や潮田が敵にいる。だが、今回は。

 

「まぁ、君と棒倒しで同じチームなんて、何の因果だか」

「ふっ、違いない」

 

 カルマと浅野の視線の先には、同じように並び合う、渚と綾小路がいた。

 

 最強タッグVS最強タッグの、幕が上がる。

 

 

 この棒倒しは、体育祭でも屈指の点数を誇る競技だ。だからこそ、本気で勝ちに行く。

 そんなものは当然、あいつらも同じわけで。

 

「ま、いつどこで知ったのかは知らないけど、多分どさくさに紛れて渚は殺しに来る」

「あぁ。一度目にしたが、あれ(猫騙し)を正面からどうこうするのは不可能に近い」

「んで、多分綾小路を単独で止めるのは無理」

「それも知っている」

 

 平均的な実力でなら、こっちが有利。

 何せ、ゾンビと米国軍人だ。あっちが鎌倉?薩摩?武士と皇国近衛騎士団だとしても、基礎スペックで負けは無い。

 ただ。

 

「綾小路、潮田、高円寺という化物がいる」

「一人で全部ひっくり返しかねない化物が三人。勘弁して欲しいよね」

 

 まぁ、こっちも化物が二人はいるのだが。

 

「高円寺は僕が抑えよう。綾小路は」

「俺が抑える、って言いたいところだけど、実は、アイツに挑みたいってうるさい奴が一人いる」

 

 そのうるさい奴は、静かに、綾小路清隆を睨んでいた。

 

「奴で抑えられるか?」

「ぶっちゃけ賭け。どう浅野くん。乗る?」

「────乗った」

 

 

 一方その頃、B、C連合軍は。

 

「綾小路騎士団長。指示を頼みます」

「承った。平田副団長」

 

 堀北鈴音皇国近衛騎士団団長として、務めを果たさなければな。同盟国の帆波あかり幕府の武士たちもまた、俺の実力を認め、指示を待っている。

 

「事前の通達通り、五人八組に別れて戦う。各々、自身の組は覚えているな?」

『はっ!』

 

 うん。良い返事だ。

 この八グループは、クラス混合で、体育テストの結果を参照して作った。例外として三人グループが一つ。単独で一部隊と数える二人が居るから、実質的には十組と言って良い。

 

「子組、点呼!」

「一!」「ニ!」「三!」「四!」「五!」

 

 数字で呼び分けても良いんだが、干支の方がかっこいいだろ?

 

「丑組、点呼!」

「一!」「ニ!」「三!」「四!」「五!」

 

 子組には連合軍で最も身体能力の低い生徒たちを集めて、須藤、春樹、寛治、神崎、Cクラスの、野球部一年生レギュラーの星穹拓人(ほしぞらたくと)の身体能力トップ層と愉快な仲間たちの丑組と組み合わせて運用するのが基本スタイル。

 基本は防御寄りの遊撃。神崎の指揮能力と視野の広さなら、自己判断で動いてもらった方が都合が良いからな。場合によっては攻撃にも参加してもらう。その場合は、子組を切り離して丑組だけを先行させる。

 

「寅組、点呼!」

「一!」「ニ!」「三!」「四!」「五!」

 

 寅組は平田副団長筆頭に、BCクラスの中堅層で纏めてある。基本的に防衛専門だ。平田は防御組の指揮官を担当してもらう。

 

「卯組、点呼!」

「一!」「ニ!」「三!」「四!」「五!」

 

 その名の通り、柴田筆頭に足の速い奴らを集めた組だ。こっちは子丑組とは違って攻撃寄りの遊撃。

 引っ掻き回してその機動力で隙を作ってもらうのが役目だ。

 

「辰!」

「問題なし、さ」

 

 辰は高円寺。コイツには好き勝手に暴れてもらうのがベスト。だから個人にした。啓誠と組ませるのも考えたが、俺の補助がどうしても欲しかったからな。仕方ない。

 

「巳!」

「ハッ!」

 

 巳は渚。高円寺と同じく単独で動いてもらう。

 卯組の作った隙をついて、浅野かカルマを暗殺してもらう役割だ。

 

「午組!」

「了解した」「準備よし、だ」

 

 午組は俺と啓誠と三宅。

 攻撃側の指揮官兼最高戦力の俺が基本的に前線で指揮を出す。もし、俺が単独で戦う必要ができたなら、啓誠に指揮を引き継ぐ算段だ。

 

「未組!」

「一!」「ニ!」「三!」「四!」「五!」

 

 未組は体重の重い奴らを集めた組だ。機動力は最弱だが、防衛力は間違いなく最強。そんじょそこらのやつでは押し除けることなど出来ない。

 防衛専門で、副団長の指揮下で動いてもらう。

 

「申組!」

「一!」「ニ!」「三!」「四!」「五!」

 

 申組は丑組の次に高い身体能力の生徒たちを集めた組。俺たち午組と組んで攻撃に参加する。

 

「酉組!」

「一!」「ニ!」「三!」「四!」「五!」

 

 酉組も同じく。攻撃側の組。寅組のように中堅層を纏めた組だ。

 

 防御に寅と未で合計十人。防御寄りの遊撃で、子と丑の十人。合わせて二十人。

 攻撃は午と申と酉で合計十三人。攻撃寄りの遊撃で、卯組の五人、と、巳の渚。後は辰の高円寺の合計二十人。

 攻防共に優れた布陣。ただ、どちらかというと攻撃に意識を向けていくスタイルだ。

 

 さぁ、棒倒し、開幕だ。

 

 笛の音と共に、戦争が始まった。

 

 攻撃側の指揮官は、成程、カルマか。

 浅野は単独で高円寺を抑えに行っている。

 

「ほう、君が相手か。浅野ボーイ」

「あぁ。思う存分遊んでやる。感謝しろ」

「ふふふふふふふふ。君と赤羽ボーイのどちらとも遊べるなんて、なんて贅沢なんだろうね?」

 

 高円寺と浅野の1:1交換、か。指揮官を潰せると考えたら、寧ろこっちが有利。

 

「よし、一気に攻め切るぞ」

『ハッ!』

 

 攻撃側はお互いに戦わずにすれ違う。棒倒せば勝ちだから、態々ここで潰し合う利点は、お互いに無い。

 防御側指揮官の葛城は、すぐさま指示を出した。

 

「綾小路を最警戒!必ず二人以上で当たれ!」

 

 防御に多めに人数を割いているな。二十七人。浅野を除いた十二人だけが攻撃部隊だと?随分と思い切りが良いな。

 数の差がある以上、真正面からしか無い。

 

「総員!突撃!」

「衝撃に備えろ!」

 

 俺の体当たりを真っ向から受け止めた三人は吹っ飛んだ。

 そのまま他の生徒をちぎっては投げ、ようとしたところで、龍園翔が突っ込んできた。

 カウンター気味に投げ飛ばしたが、背中からかなりの勢いで墜落したはずなのに、平然と立ち上がってまた突っ込んでくる。ゾンビかよコイツ。

 幸いにも土煙のお陰で、俺たちの様子は殆ど分からない。

 

「クククク、さぁ、遊ぼうぜぇ!あ、や、の、こ、う、じぃ!」

「後にしてくれ」

「そんなこと言わずにさぁ‼︎」

「はぁ。仕方ない。啓誠、しばらく指揮を頼む」

「了解だ。何だったら戻ってこなくても構わんぞ?」

「期待してるぞ」

 

 突っ込んでくる龍園を真正面から受け止める。結構力強いなコイツ。成程。奥田印のプロテインか。

 

「お前とやりあえんの、楽しみだったぜぇ?」

「そうか。悪いが、手早く終わらせるぞ」

 

 お互いに距離を取って、緩く構えを取る。

 突撃してきた龍園の、右の大振りを躱し、左の牽制を捌き、頭突きを防ぐ、そして、一瞬の隙を見逃さず、的確に掌底を下顎へ。

 だが。

 

「おいおい。モロに入っただろ今の」

 

 口の端を切りながらも、龍園は凄絶な笑みを浮かべながら、また突撃してきた。

 何だコイツ。ゾンビか?猛牛か?

 今度は右頬左頬を的確に打ち抜いてからの強烈なアッパー。

 いやこれでも倒れないのかよ。

 急所に二度、強烈な攻撃を受けながらも、龍園はすぐさま復活してきた。何なんだ。この耐久力。

 

 …………………盛ったな。奥田のやつ。

 

 

「龍園くんが接種しているプロテインは皆さんに渡したものや伊吹さんに渡したものとはまた違うものです。元々身体能力は高い方だったので、上昇幅は少々抑えめに、代わりに、痛覚を鈍化させています。そうですね。今の龍園くんは、強いていうなら、理性のあるゾンビというやつです」

「…………アンタ、相当マッドだね。知ってたけど」

 

 Dクラスの休憩所では、そんな会話があった。

 

 

 

 コイツいつになったら倒れるんだ?もう四回は急所に打ち込んだんだが?脳みそ揺らしまくってるんだが?

 

「まだまだ遊ぼうぜぇ‼︎」

「────チッ」

 

 膝蹴りを鳩尾に捩じ込み、前屈みになった後頭部に、両手を組み合わせて打ち下ろす。

 衝撃で地面に倒れ伏した。すぐに指揮に。

 とか思ってたら右足首を掴まれた。嘘だろコイツ。俺が振り払うよりも早く、龍園は立ち上がりながら思いっきり引っ張り上げてきた。流石に体勢を崩して仰向けに倒れ込む。

 やられた。マウントポジションを取った龍園は、怒涛のラッシュを仕掛けてくる。体重かけられて身動き取れない。何とか腕でガードする。何であんなに殴ったのにこんなに元気なんだよコイツ。

 

「ただ、その、あくまで痛覚を鈍化するもので、あれだけ脳を揺らされたら普通に気絶しますし、普通はもっと弱るんですけど」

「…………すごく、元気一杯ね」

「はい。もう科学的な説明は無理ですね。多分気合いだと思います」

 

 奥田愛美は理解を放棄した。

 伊吹澪は恐怖を抱いた。

 

(やられた!綾小路くんが完全に抑えられてる!高円寺くんも浅野くんに抑えられてる!幸村くんの指揮のおかげで、何とか成立してるけど、このままだと攻めきれない!時間をかけ過ぎればカルマならいくらでも崩せる!

 しょうがない。葛城くんを落とす!)

 

 渚は防御側の要である葛城を暗殺するために、自陣防御側の神崎に手を振った。

 それを見た神崎はすぐさま状況を把握する。

 

「───平田!丑組は攻撃にまわる!そっちは任せた!」

「うん!この人数なら大丈夫!」

 

 攻撃に須藤を筆頭とした身体能力上位陣を投入すれば、必ず隙ができる。

 その隙をついて。

 

(───葛城くんさえ落とせば、勝てる!)

 

 指揮官のいない軍隊などただの烏合の衆。

 だからこそ、どさくさに紛れて猫騙し(クラップスタナー)で決めようとして。

 

「───丑組!防御に戻りたまえ‼︎」

 

 高円寺の声が響く。

 B、C連合軍が高円寺の元に視線を向けると。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()。小宮、石崎、橋本に抑えられている高円寺がいた。

 

「────やられた」

 

 丑組が離れ、一瞬だけ防御が弱くなった隙を、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 最初からずっとこれが狙い。

 攻撃陣を少数にして、防御陣を手厚くすることで、包囲戦を封じた。

 単身でくるだろう高円寺くんを浅野くんが抑えることで、()()()()()()()()()()()()()()

 綾小路くんに吹き飛ばされた三人は、態と。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、三人と浅野くんが入れ替わって、浅野くんが、攻撃に!

 

(───以前君たちにしてやられた手だ。使わせてもらった)

 

 嘗ての椚ヶ丘体育祭で、E組にしてやられた、伏兵作戦!

 

 急いで丑組が防御に戻るが、間に合わない。

 

「───赤羽!」

「オッケ!」

 

 カルマの両手を踏み台に、浅野くんが一気に棒の頂点に飛び乗った。

 棒の頂点を足場に飛び回りながら、掴み下ろそうとするB、C連合軍を蹴り落としていく。

 

「棒を抑えて!浅野くんを掴み下ろすんだ!」

 

 そして、浅野くんに防御側が意識を向けた隙に。

 

「アルベルト!」

Roger(了解)

 

 屈んだアルベルトくんを足場に、今度はカルマが飛び乗った。

 

 完全に、詰みだ。

 

 丑組は、間に合わなかった。

 殆ど同時に、棒が倒れて、一戦目は、完敗した。

 

 二戦目の前に、僕たちは作戦会議を始めた。

 

「すまない。俺のせいだ。葛城の防御を落とせなかった」

 

 悔しそうに幸村くんは言う。代理で攻撃側の指揮を任されながら、しかし期待に応えられなかった事を懺悔するけど、これに関しては葛城くんの指揮が巧みだったことに尽きる。

 綾小路くんでも、きっと手を焼くだろうなと思うぐらいには、葛城くんの指揮は巧みだった。

 

「それを言うなら俺もだ。龍園を振りきれなかった」

 

 綾小路くんは申し訳なさそうだった。龍園くんのしつこさとタフさは完全に想定外だったみたい。正直、あそこまでタフだとは誰も思っていなかったから、しょうがないとは思うけど。

 

「いや、僕のせいだよ。僕が神崎くんたちを動かさなければ」

 

 丑組が防御にいたままなら、浅野くんの奇襲も防げたはずだった。

 カルマたちの狙い通りの動きをしてしまったのは、僕だ。

 

「潮田ボーイの判断は的確だったさ。もっと速くあの三人を振りきれなかった私の責任だ」

 

 小宮と石崎と橋本。

 身体能力だけならトップクラスの生徒三人をギリギリで振り払った高円寺くんだけど、防御は間に合わなかった。

 

 そこで、平田くんが手を叩いて一旦中止させた。

 

「今は誰が悪いとかそんな話よりも、次はどうするかを決めないと」

 

 確かに。平田くんの言う通りだね。僕たちはすぐに切り替えた。

 

「次はどうする?防御を固めるか?」

 

 綾小路くんの案。確かに、二連続で負けるよりは遥かにいいけど。

 

「いや。葛城の指揮を落とすのは並大抵のことじゃない。攻撃側は多い方がいい」

 

 実際に苦戦させられた幸村くんが言うんだから間違いない。幸村くんでも崩せないなら、綾小路くんが指揮に回るか、僕が暗殺するかしかない。

 

「だね。向こうは次も防御を固めてくるんじゃないかな?」

 

 正直向こうの勝ち筋はこれぐらいだと思う。

 カルマが攻撃側の指揮。浅野くんは高円寺くんの抑え。そこまでは良いけど、龍園くん単独で次も綾小路くんを抑え切れるとは思えない。龍園くんのタフさが分かった今の段階なら、綾小路くんなら問題なく対処できる筈。

 それは向こうもわかっているから。

 

「浅野かカルマのどちらかが防御に回る可能性は高い。というか浅野は殆ど防御に回っていたようなものだしな」

「浅野ボーイは私を抑えてくると見ていい。ドラゴンボーイが綾小路ボーイを抑えようとするように」

「だが、次は龍園をどうにか出来る」

 

 龍園くんはタフ、でもそれだけだね。

 敢えて相手する必要は無い。幸村くんは次も綾小路くんと動く。なら、次は幸村くんに龍園くんを抑えて貰えば良い。

 幸村くんなら、問題なく抑え込める。その間に、綾小路くんなら、葛城くんを打ち倒せる。

 

「龍園は俺が抑える。清隆。お前は」

「あぁ。葛城をどうにかする。平田、神崎。それまで」

「うん。次こそ耐えてみせるよ」

「あぁ。次は防御に専念する」

 

 高円寺くんを浅野くんかカルマが抑える必要がある以上、向こうで指揮できるのは必然葛城くんともう一人しかいない。防御側にも指揮が必ず必要だから、必然平田くんと神崎くんの相手は一人だけ。

 それなら、僕たちが棒を倒すまで防ぎ切れる。

 さっきの試合は、龍園くんに綾小路くんが抑えられたから負けた。そこさえどうにかできれば、勝てない相手じゃ無い。

 

 それが、僕たちの導き出した結論だった。問題は。

 

「向こうも、同じことに気付いているということだな」

「あぁ。浅野とカルマが、こんな見落としをするはずがない」

「私を放置するか、或いは」

「いずれにしろ、俺たちは後手に回るだろうな」

 

 でも、綾小路くんの指揮が万全なら、僕の暗殺を通す隙も必ず出来る。

 

「基本は間違っていない。この辺りは変えずに行くぞ」

 

 指揮官の数では有利を取っている。

 僕っていう奥の手もある。まぁ、向こうも奥田さんっていう奥の手を切ってきてるけど。

 その有利を活かして、確実に、仕留め切る。

 

 

 とか思ってたら。

 

『おおーっと⁉︎一年A、Dクラス!これはどういうことでしょうか⁉︎』

 

 彼らが取った手は、僕らの予想を、大きく超えていた。……………斜め上の、方向に。

 みんなが心から困惑している。僕も心から困惑している。

 何故なら、A、Dクラスの女子、合計五人、と一人。

 神室真澄さん。(羞恥と、興味の波長?)

 森下藍さん。(羞恥と、好奇心の波長)

 伊吹澪さん。(羞恥と怒りの波長)

 奥田さん。(羞恥と興味の波長)

 椎名さん。(羞恥と興味の波長)

 以上五人が、優雅に腰掛ける坂柳有栖さんの周りで。

 

 ヘソ出し、ミニスカ、生足、ノースリーブ。即ち。

 

『チ、チアリーダーです‼︎A、Dクラス女子生徒による、応援、なのでしょうか?』

 

 何故かチアリーダーの服を着て、待機していたんだから。

 

 いや、どういうこと?

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