殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

57 / 85

 体育祭編スタート!


体育祭の時間
波乱と狂気の体育祭


 十月初週の金曜日。

 凡そ一ヶ月近くに渡る準備期間を経て、狂気の体育祭の幕が上がった。

 

 三年Dクラスの教室では。

 

「───この一ヶ月、貴様らはよく、俺のトレーニングについてきた。もはや、言うことはない」

 

 野生の気配を漂わせる、ウルフカットの美男子。

 その肉体は極限まで磨き上げられており、ギリシャ彫刻のような美しさと、強靭さが垣間見える。

 三年Dクラス、獅子上玲央(ししがみれお)。古くは陸軍に遡る、軍人一家の血を引くサラブレッドである。

 

「本番でも、決して無理しすぎてはいけません。賞金も大切ですが、それよりも、怪我なく、この体育祭を乗り越えましょう」

 

 髪を緩くツインテールにした、声から何までゆるふわな女子。

 天久天馬(あめくてんま)。東久留米市に所在する大病院の、院長一族の末っ子であり、医者志望の、小柄な女子である。

 

「さて、お前たちの望みは、何だ」

 

 風間律は、そう問い掛ける。

 

「貴方へ捧げる勝利です!カイザー!」

 

 三年Dクラスの生徒たちは、風間律(カイザー)へ答える。

 

「お前たちは、この戦いの果てに何を得る」

 

 風間律(カイザー)は再びそう問い掛ける。

 

「貴方へ捧げる栄光です!カイザー!」

 

 三年Dクラスの生徒(兵士)たちは、風間律(カイザー)へ答える。

 

「お前たちは、この戦いに何を求める」

 

 風間律(カイザー)は三度そう問い掛ける。

 

「貴方から賜る名誉です!カイザー!」

 

 三年Dクラス(風間律帝国)生徒(兵士)たちは、風間律(カイザー)へ答える。

 

「ならば、最早言葉は不要」

 

 厳かに、堂々と、偉大に。

 

「僕の手足となり、僕の武器となり、僕の道となれ」

 

 厳粛に、厳正に、尊大に。

 

「───然すれば、勝利を与えよう!」

 

 激烈に、鮮烈で、剛列な、その宣言に。

 

「カイザー万歳!カイザー万歳‼︎カイザー万歳‼︎‼︎」

 

 三年Dクラス(風間律帝国)は、沸いた。

 何というか、生徒たちが来ているのは体育着のはずなのに、何故だろう。スパルタ染みた鎧を、身につけている気がする。

 

 風間律の傍に仕える、高い身体能力と、芸術的センスを併せ持つ、水泳部部長にして、天才バイオリニストの剣城海(つるぎうみ)は、内心を溢した。即ち。

 

「───世界観、おかしくないか?」

 

 で、ある。

 

 風間律は、小柄な女子だ。

 だからこそ、問題行動を起こすような不良たちの集まる元一年Cクラスで頂点に立つのは、並大抵のことではない。

 しかし、彼女は、その圧倒的な頭脳と、強烈なカリスマ性で持って、確かにクラスを統一した。

 確かに存在したクラス内の反乱分子は呑まれ、砕かれ、潰された。

 彼女の容赦の無さ、凄まじい覇気、類稀なる頭脳が故に。

 三年Dクラスは、三年生の中で、最も凶悪なクラスである。

 

 

 

 そして、一年Dクラスの教室では。

 クリップボードに留めたプリントに書き込みながら、観察していく理系少女がいた。

 

「経過は完璧です。実験の結果は、まず違いなく成功です」

 

 奥田愛美は、実験対象を観察し、成功を宣言した。

 

「最高だよ。愛美さん」

「あぁ。完璧な仕事だ」

 

 カルマと龍園の視線の先には。

 筋骨隆々で、血走った目と、涎を垂らしながら、呻き声のような何かを溢す金田悟だった化け物がいた。

 他にも、真鍋志保といった、一年Dクラスで、運動があまり得意ではない生徒が、男女問わず、化け物(ゾンビ)みたいになっていた。

 

「───自作プロテインの効能は完璧です。成長率、筋強度、骨密度共に、六十%以上の上昇を確認。少々のデメリットこそありますが、それを補って余りある効果と言って良いでしょう」

 

 奥田愛美の自作プロテイン。

 あくまでプロテインである。

 そのプロテインの効能により、何ということでしょう。ヒョロガリであったはずの生徒たちが、筋骨隆々ムキムキマッチョマンの変態になったではありませんか。

 デメリット?そんなものは些事である。

 

「…………ねぇ。何なのこれ?」

 

 まとも代表伊吹澪は、同じくまともなままの椎名ひよりに質問した。

 

「何って、体育祭で勝つための秘策ですよ?」

「そういうんじゃなくて。あのプロテインどんだけやばい代物なのって話なんだけど」

「あぁ。まぁ奥田さんですし」

「ていうか私もアレ飲んだんだけど。大丈夫な訳?」

 

 今の所、いつもより疲れが取れたぐらいで、やけに筋肉が付くとか、理性を無くすとかは無いが。

 

「───伊吹さんに渡した自作プロテインは、疲労回復効果を強めた逸品です。ただ、疲労を打ち消すという訳ではなく、あくまで先送りしているだけなので、今日から数えて三日後に、これまでの疲労が纏めて来ることになる、はずです」

「………………つまり、私はいつの間にか、()を盛られてたわけね。これって、Bとの協定に違反してない?」

 

 確か異物混入はダメじゃなかったか。

 

「───いいえ。他クラスへ盛ったのではなく、自クラスへ盛ったのです。何の問題もありませんよ」

 

 まぁ、うん。

 椎名が言うなら、そうなんだろうな。

 

「今更だけど、私は実験台になってた訳ね。というか、椎名が盛られて無いのが意外なんだけど?」

「……………その、アレを飲むか、死ぬほど鍛えるか、どちらかを選ぶように言われまして…………」

「成程。後者を選んだ訳ね。ていうか金田たちはずっとこのままなの?嫌よ私。ゾンビがクラスメイトなんて」

 

 そういえば、椎名だけ特訓メニューがだいぶキツかったな。赤羽にマンツーマンでイジメ倒されていた。…………心なしか、椎名は楽しそうだったが。

 金田悟は、Dクラス屈指の頭脳なので、こんな形で失いたくは無いのだが。

 

「安心してください。プロテインの摂取をやめれば、三日程で理性は戻ります。代償として、鍛え上げた肉体の六十五%は失われますが」

 

 なら、良しとしよう。

 これで良し、と思えるぐらいには、伊吹の倫理観は壊れかけている。

 

「────さて、出来るだけの準備は進めた。勝ちに行くぞ、龍園」

「────あぁ。勝つぞ」

 

 龍園翔(暴君)は、赤羽業(悪魔)奥田愛美(魔女)の手を借りた。全ては、勝利の為に。

 何せ、一年Dクラスは。

 最も予想外な、クラスなのだ。

 

 

 

 三年Cクラスでは。

 

 完璧な整列で、直立不動の生徒たち。付けていないはずの鎧と剣が見えるぐらいには、規律正しい。

 

「───諸君!この一ヶ月。よく鍛えてきた。我らの成果を見せるときだ!敵は強大だ、しかし臆することはない。何故なら我々には、───聖女がついているのだから‼︎」

 

 三年Cクラス。犬山護(いぬやままもる)。北海道におけるスポーツの名家、犬山家の血筋を引く青年であり、高身長で筋骨隆々の身体をしている。

 彼が聖女と仰ぐ者こそ、白銀園子である。

 

 その、白銀は。

 

「……………ねぇ、聖女とか恥ずかしいからやめて。ホントに」 

 

 凄く、嫌そうだった。

 

「何をおっしゃるのですか園子さん!Dクラスは皇帝(カイザー)、Bクラスは命知らず(ギャンブラー)煽動者(アジテーター)叛逆者(リベレイター)で、Aクラスは常勝無敗の騎士王(キング)なのですよ!ならば我らがCクラスも、純白の聖女(ヒロイン)で対抗するべきでしょう⁉︎」

「薄ら笑いでふざけないで遊真(ゆうま)。私を揶揄いたいだけでしょう?」

 

 香月遊真(こうづきゆうま)。常に浮かべている薄ら笑いと、余りにも胡散臭い喋り方、そしてその立ち振る舞いと行動の結果、殆どの生徒から遠巻きにされている三年Cクラスの生徒であり、実際頻繁にカスの嘘をつくので、余り関わるべきではない。

 それはそれとして能力は確かだ。そこは彼を知るすべての人が認めることである。

 

「しかし園子様、彼らは貴女へ勝利を捧げる為に、この一ヶ月を鍛え続けていたのです」

「……………はぁ。分かったわよ」

 

 クラスメイトの前に出る白銀は、その白銀の頭髪を煌めかせて、背筋を伸ばし、胸を張り、よく通る声で、激励する。

 

「────貴方たちのこの一ヶ月、いえ、この学校に来てからの二年間、よく私についてきてくれた」

 

 生徒たちは、傾聴する。

 

「至らぬ点も多かったでしょう」

 

 彼女は、始まりから優れていたのではない。この学校で進み続けた果てに、これほど強くなった。

 

「あの三年Aクラスに敗北し続けることは、悔しかったでしょう」

 

 どれほどクラスが成長しようと。どれほど彼女が成長しようと、埋まらない差は、確かにある。何せ、長い間、Bクラスとして、ずっとその背を追いかけていたのだから。

 だとしても。

 

「───それらはすべて、今日勝つ為にあった、私たちの試練よ」

 

 勝利を諦めたことなど、ただの一度もない。

 

「今日こそ!私たちは勝つ‼︎

 私たちはこれまで、試練を乗り越えてきた‼︎

 これは、最後の試練であり、そして私たちの、最初の勝利となるでしょう‼︎‼︎」

 

 このクラスの誰よりも諦めず、このクラスの誰よりも挑み、このクラスの誰よりも学び続けてきた。

 だからこそ、彼女は、皆を導くのではなく。

 

「───総員‼︎‼︎──────共に、勝ちましょう」

 

 皆と共に進む、指導者(リーダー)聖女(ヒロイン)なのだ。

 

 一年生の頃からの彼女の親友である女子生徒、蝶乃紫苑(ちょうのしおん)は、白銀園子の堂々とした姿に、憧憬と感動を覚えた。

 

(あの、堀北学に負け続けて泣き喚いたあの頃(一年末)から、本当に、強くなったわね)

 

 誰よりも敗北を胸に刻み、誰よりも敗北を悔しがってきたからこそ、彼女は、このクラスの誰もが認める、聖女(ヒロイン)なのだ。

 

 犬山護も、香月遊真も、蝶乃紫苑も、このクラスの誰も彼も。

 彼女の為に戦うことを惜しまず、彼女もまた、皆の為に戦うことを惜しまない。

 圧倒的な頭脳で持って、全員を従える風間律とは違い、彼女はその人徳のみでもって、クラスを完全に統率している。

 三年生において、団結力最強のクラス。

 それが、三年Cクラスである。

 

 

 そして、一年Cクラスでは。

 

 静かに姿勢を正し、瞑想する雪村あかりの傍に、神崎隆二は膝をついて報告する。

 

「御時間です。あかり姫」

「───いよいよ、ですか」

 

 着ているのは体育着でこそあるが、その演技力、表現力に引っ張られて、まるで着物を着ているように錯覚する。

 それどころか、頭巾を被って頭を隠しているようにすら見える。完全に尼将軍である。

 

「兵たちの準備は?」

「整っております。姫」

 

 引っ張られて受け答えする神崎も、鎧を身に纏っているとすら錯覚する。

 

「─────で、ありますか」

 

 雪村あかりは、摺り足で生徒たちの前へと歩き出す。

 生徒たちは皆、片膝をついて平伏していた。

 

「─────面をあげなさい」

 

 生徒(御家人)達が、一切に面を上げる。

 全員体育服ではなく、鎧を着ている。ような気がする。

 

「─────あれから、一ヶ月が経ちました」

 

 生徒(御家人)達は、悲しげな顔をした。涙を流す者さえもいた。あかり姫もまた、仄かに涙を溢していた。

 

「この戦に勝つ為に、身を捧げ(全財産を賭け)、誰よりも私たちの勝利を祈っていた帆波姫。

 身を捧げた(全財産を賭けた)故に、儚くもその命の灯が消えてしまった(罪悪感で気絶した)

 その帆波姫の御姿は、記憶に新しいでしょう」

「いや、私死んでないよ?」

 

 生徒(御家人)達の脳裏に過るのは、精も魂も尽き果てて(全財産を賭けたので)、口から()を吐きながら、この世への無念(母と妹への謝罪)を溢した、一年Cクラスの二大美姫の一人、帆波姫の、無惨な姿。

 

「彼女の死は、私たちに深い悲しみを齎しました」

「だから私死んでないよ?」

 

 そう。帆波姫の死からずっと、このクラス(この国)は沈み続けてきた。それほどまでに、帆波姫の無念(一之瀬の罪悪感)は、このクラス(この国)を苛んだ。

 

「それに関してはごめんね?」

「なればこそ!この戦、勝たずして何が武士かっ‼︎」

「いつの間にみんなはお侍さんになったの?」

 

 生徒(御家人)の瞳に炎が灯る。全ては、そう、全ては、天下を前に(五億の為に)無念の死を遂げた(全財産を賭けてしまった)帆波姫の無念を、晴らす為に。

 

「今こそっ!命を賭けるときなのです!我々が帆波姫から受けてきた恩は、海よりも深く、山よりも高い‼︎それに報いる為ならば、我々もまた、命を賭けなければなりません。

 ────者ども!死ぬ準備はいいかっ‼︎⁉︎」

「えいっ‼︎えいっ‼︎おーーーー‼︎‼︎」

「み、みんな本気じゃないよね………?」

「この戦!勝たねば武士の名が廃りまする‼︎」

「柴田くん?」

「今こそ!帆波姫の無念を晴らすとき‼︎」

「だから私死んでないって千尋ちゃん」

「一つでも多くの首を、帆波姫の墓前に供えましょう」

「それは余り嬉しくないかなユキちゃん。私死んでないけどね」

 

 全ては、今は亡き帆波姫の為に。

 

「だから!私!死んでないって!」

 

 帆波姫の無念を晴らす為に。後ついでに五億欲しいので。

 

「────皆の者‼︎出陣ですっ‼︎‼︎‼︎」

『えいっ‼︎えいっ‼︎おーーーーー‼︎‼︎‼︎』

『えいっ‼︎えいっ‼︎おーーーーー‼︎‼︎‼︎』

『えいっ‼︎えいっ‼︎おーーーーー‼︎‼︎‼︎』

 

 ─────負ける気はしない。

 何故なら、一年Cクラスは。

 団結力最強の、クラスなのだ。

 

「……………あー、もー、私の言うこと聞け〜〜〜‼︎」

 

 一之瀬、キレた‼︎

 

 クラスメイトが校庭に向かった後の、一人しか残っていない教室で。

 雪村あかり、否、茅野カエデは、手を鳴らした。

 

「───はっ、ここに」

「我が最強の懐刀よ。───必ず、勝ちなさい」

「………御意に御座います」

 

 そして何より。

 一年Cクラスは、最も恐ろしいものが居るクラスなのだ。

 

 

 

 三年Bクラスでは。

 

「準備は完璧です。ヒロ。私たちの勝率は、おおよそ十三%───勝算は殆どありません」

「百%なんて存在しないさ、珠莉(じゅり)。零%もまた然り。────だからギャンブルは面白い」

 

 金石博、黄乃玉紀と同じ施設出身。数学の天才、真白珠莉(ましろじゅり)が導き出した勝率に、金石はそれは面白く無い、と告げる。

 

「…………いや面白い面白くないとかじゃなくてさ。私たちの勝率は、殆ど一割だって話なんだけど?」

「玉紀の言う通りです」

「だからなんだって話だよ。九割だろうと一割だろうと、僕らのやることは変わらない」

  

 彼はずっと、そうやって来た。

 そうして、細くも確かな可能性に勝利し続けて、しかし、堀北学とAクラスにだけは、勝てずに居る。

 

「────僕らの始まりは、不良品だ」

 

 そんなこと、この学校に来る前から、ずっと言われて来た。

 一年Dクラスとなって、長杖先生に、そう言われるよりもずっと前から。

 親が居ない、それは、子供達を、その親を、これ以上なく残酷にさせてきた。

 可哀想。親が居ないから仕方ない。あの子達とは関わっちゃダメよ。

 ────で、だから?

 誰一人として、そんな言葉にも扱いにも、負けたことはない。

 彼らは常に敗者だった。そこから、ずっと、勝ち上がって来た。

 

「────今も昔も、僕らは叛逆者(リベレイター)命知らず(ギャンブラー)挑戦者(チャレンジャー)だ。これまでも、これからも、変わらない」

 

 相手がどれほど強大でも。

 相手がどれほど強力でも。

 

 それでも。

 

「……………だからこそ。ワタシは、アナタに着いていくと決めました。その果てに、今ワタシ達は、頂点の一歩手前にいる」

 

 三年Bクラス。天才ピアニストにして、敬虔な宗教家。嘗て一年Dクラスのリーダーの座を争った、日鞠曜(ひまりよう)は、宿敵(ライバル)にして戦友(しんゆう)に、改めて問い掛ける。

 

「─────彼らに勝つ算段は、あるのですか?」

「無論、ある」

 

 自信に満ちた金石に、クラスメイト達は、確かな期待を寄せた。

 金石はコインを弾く(トス)する。

 

「前哨戦だ。曜。僕は表に賭ける」

「ならばワタシは裏で」

 

 全員が息を呑んで見守る中、金石の掌に収まったコインは、表だった。

 

「前哨戦は、アナタの勝ちですね」

「あぁ。今日は運がいい。玉紀!次は君とだ!」

「はいはい。私は裏で」

「ならば僕はもう一度、表だ!」

 

 再び、コインは表。

 

「次は私ですね。裏です」

「表だ!」

 

 コインは、表。

 

猫実(ねこざね)!次は君とだ!」

「はいはい。あたしは裏で」

「ならばもう一度、表だ!」

 

 表。

 

(からす)!次は君だ!」

「ふふふふ。なら、私も裏で」

「表だ‼︎」

 

 表。

 

 表。表。表。表。表。表表表表表表表表表表。表表表表表表表表表表表表表表表。

 

 三十五人のクラスメイト、一人一人に勝負を仕掛けて、その全てに勝利した。

 故に、彼らは、金石博を信じている。

 自身の幸運を確信している。

 

 何故なら。三年Bクラスは。最も運の良いクラスなのだ。

 

「さぁ、ゲームを始めよう」

 

 命知らずで煽動者で叛逆者で、そして、支配人(ゲームマスター)は、楽しそうに笑っていた。

 

 

 一年Bクラスでは。

 

 椅子に深く腰掛ける堀北鈴音は、その覇気と美貌と殺気で持って、王冠を幻視させていた。

 正しく、女皇陛下といった雰囲気である。

 傍に仕える綾小路清隆もまた、近衛騎士団の制服のようなものを着ている。同じく仕える櫛田桔梗もまた、同じ制服を着ていた。

 少し離れた位置で、壁に寄りかかり腕を組む高円寺六助もまた、綾小路清隆と同じ服を着ていた。その隣で、直立不動の姿勢をとる幸村啓誠もまた、同じように。

 

 彼らは今、女皇陛下に仕える忠実な騎士にして、一年Bクラス(皇国)最強の近衛騎士。

 

 そして、一年Bクラスの生徒達は皆、直立不動の構えを取っていた。

 彼ら彼女らは、この一ヶ月で生まれ変わったのだ。一年Bクラス(皇国)の勝利の為に、全てを賭ける騎士達へと。

 

「…………みんな、どうしたの?」

 

 そんな中で、軽井沢だけはまともだった。

 

「傾聴!」

 

 清隆のその声が響くと同時に、全員が視線を鈴音に集中させる。

 

「何?何?何なの?」

 

 軽井沢は着いていけなかった。

 

「女皇陛下の御言葉である‼︎」

 

 今度は桔梗が声を張った。

 

「…………私たちは、不良品の烙印を押された、劣等生だった」

 

 何となく、大事な話な気がしたので、軽井沢も話を聞いてみた。

 

「それでも今、私たちは頂点まで後一歩のところまで来ている。これは、貴方達全員のお陰よ。貴方達が変わる為に動いて、その果てにここまで来た」

 

 須藤健、池寛治、山内春樹は自慢げだった。

 

「そして今、私たちの前には、過去最大級のチャンスがある」

 

 軽井沢も含めて、全員が真剣に話を聞く。

 

「───この五億を得た暁にこそ、私たちの勝利がある。私たちに着いて来なさい。さぁ、勝ちに行くわよ」

「「女皇陛下、万歳‼︎」」

『女皇陛下、万歳‼︎』

「「女皇陛下の為に‼︎」」

『女皇陛下の為に‼︎』

 

 清隆と桔梗の言葉に続いて、一年Bクラスの生徒達は、そう答えていく。軽井沢は目眩がした。鈴音は死んだ目をしていた。

 

「ねぇ清隆くん?ねぇ桔梗さん?私はどうして、女皇陛下とやらになっているのかしら?」

「全体の統率を図るならリーダーが必要で、それには鈴音が最適だと思っただけだ」

「私は、その、今みたいに、困って疲れてる鈴音の顔が見てみたいから、かな?」

 

 サラッととんでもないことを口走りおったな櫛田桔梗。

 

「ねぇ桔梗さん。後でお話があるのだけれど」

「まぁまぁ。五億が手に入ったら見逃してよ」

 

 軽井沢は、『女皇陛下、万歳!』と、『女皇陛下の為に‼︎』を繰り返している友達達を正気に戻そうとしていた。

 

「お願い!千秋!元に戻って‼︎目を覚まして‼︎堀北さんは女皇陛下なんかじゃないよ‼︎」

「違うよ恵。堀北さんは女皇陛下なんだよ。私たちを勝利に導いてくださる方なの。私たちは女皇陛下の為に、この身を捧げれば良いの」

「ち、千秋………?」

「恵も、全てを女皇陛下に捧げよう?大丈夫。女皇陛下を信じて、女皇陛下の為に、私たちは身を捧げれば良いの。それだけなんだよ?」

「ち、千秋…………」

「そうだよ。恵。女皇陛下に身を、努力を、成果を捧げるだけなんだよ?こんなに素晴らしいことはないよ」

「さ、さつき………」

「大丈夫。最初は怖いかもしれないけど、やっていくうちに、清々しい充実感と達成感が得られるんだよ。安心して、私たちも一緒だよ、恵」

「麻耶………」

「女皇陛下に、忠誠を誓おう。軽井沢さん。僕らの全てを、あの方に捧げるんだ」

「洋介くん……………」

 

 それを見ていた鈴音は、若干の冷や汗をかいていた。

 

「あ、貴方達は何をしたのよ。怖いのだけれど」

「別に普通のことだ」

「うんうん。鈴音の良いところをたっくさん聞かせてあげただけだよ?元から鈴音がみんなから好かれてないと、ここまで上手くいかなかったよ」

 

 いや、うん。それは、まぁ、うん。取り敢えずは置いといて。

 

「…………その、あの子達は元に戻るのかしら?」

「…………まぁ、うん。特訓が大分ハードだったから、その逃避の側面も少しはあるし、体育祭が終わって落ち着いたら、多分治るだろ。うん」

「…………うん。多分、治る、はず。まぁもし戻らなかったとしても、鈴音が女皇陛下呼びされるだけだし。大丈夫だよ」

 

 堀北鈴音は、絶望のため息を吐いた。

 

 一年Bクラスは、最も成長性のあるクラスではあるのだが。

 

 ちょっと、間違った方向に、成長しているのかもしれないのかもしれなくもないのかもしれなくもない。

 

 まぁ、取り敢えず、勝ちに行くぞ。

 

 

 二年Aクラスでは。

 

 ふんぞり返っている南雲雅の傍に、女子生徒達が侍り、男子生徒達は跪きながら頭を垂れていた。

 

「俺の勝利の為に、お前達は死ぬ気で動け。良いな?」

『はっ‼︎』

「CとDの奴らにも伝えろ。死ぬ気で俺たちを勝たせろってな」

『了解いたしました‼︎』

 

 さて。

 二年生において、もはや自分の相手は居ない。

 桐山の指揮するBクラスなど、脅威には到底ならないし、卜部も鬼龍院も九重も動かないのなら、何も恐れることはない。

 この二年A、C、D(大魔王軍)クラスを使って戦う。即ち。

 

「実質三対一。単純に三倍の戦力差だ。さぁ、あんたにこれが覆せるか?堀北学?」

 

 南雲雅(大魔王)は笑う。

 自らの勝利を、確信するが故に。

 

 

 そして、三年Aクラスでは。

 

 優秀な生徒(兵士)達が、最強の指示を待っていた。

 

 最強の生徒会長(騎士王)、堀北学に仕える、五人の生徒(騎士)

 

「策は完璧。仕込みも上々。さぁ、勝ちに行くぞ、学」

 

 生徒会長(騎士王)の相棒、最賢の生徒(騎士)、神田元。

 

「策も仕込みも必要無いわ。全部私の足でぶち抜いてあげる」

 

 生徒会長(騎士王)の宿敵、最強の生徒(騎士)、飛騨翔子。

 

「ならば、策も力も両立してこそ、でしょう?」

 

 生徒会長(騎士王)が信を置く、最美の生徒(騎士)、金織美浪。

 

「油断も慢心も厳禁よ?何せ、私たちは一度、負けているんだから」

 

 生徒会長(騎士王)が恐れる、最優の生徒(騎士)、占藤メメ。

 

「頑張りましょう!学くん!皆!」

 

 生徒会長(騎士王)の最も大切な、最愛の会長秘書(姫騎士)、橘茜。

 

 そして。

 

「今年もまた、優勝を狙うのは当然のこと」

 

 最賢にして最強にして最高にして最優。

 

「だが、今年の相手は、今までで一番手強い相手だ」

 

 常勝不敗にして、一騎当千にして、万夫不当。

 

「だとしても、俺たちが勝つ」

 

 歴代最賢最高最強最優の生徒会長(騎士王)、堀北学は、その眼鏡を輝かせた。

 

 

 

 一年Aクラスでは。

 

 男子生徒達は完全に仕上がっていた。

 嘗て浅野が言った、大木にしてやるの言葉は嘘ではなく。

 腕も足も胴も何もかも、一ヶ月前とは見違えていた。まず何よりも、顔つきが違った。

 命懸けの修羅場を乗り越えて来たのか、と錯覚するほどの、深い貫禄が刻まれている。

 

「ことここに至って、最早僕が言うべきことは何も無い。───言葉は、ただ一つだけ。……………勝つぞ」

 

『サァー‼︎イエッサァーーー‼︎‼︎』

 

 三週間前とは比べ物にならない程、大きく強く、そしてよく響く返事だった。

 

 それを見ていた、神室、山村、森下、白石は、心の底から、引いた。

 

「…………やり過ぎじゃ無い?」

「う、うん。ちょっと、軍人さんみたいな人が、多すぎ、かな?」

「心まで完全に軍人に染まっていますね。浅野学秀の本気、相当に恐ろしいのです」

「まぁ、勝てれば全ては問題なしです」

 

 そしてAクラスは、最後に作戦参謀坂柳有栖から、本体育祭における作戦の、最終確認を受けていた。

 

「────この作戦のキーは貴方です。葛城くん。必ず、役目を果たしてくださいね」

「サー!イエッサーー‼︎」

「…………私には、普通に答えてください」

「了解した。全力で取り組もう」

 

 浅野学秀(支配者)は、暗く笑った。

 

「今回の、体育祭」

 

 

「僕が」

 

 皇帝が。

 

「俺が」

 

 暴君が。

 

「私たちが」

 

 聖女が。

 

「私たちが」

 

 尼将軍が。

 

「僕が」

 

 叛逆者が。

 

「私たちが」

 

 女皇陛下が。

 

「俺が」

 

 大魔王が。

 

「俺たちが」

 

 騎士王が。

 

「僕たちが」

 

 支配者が。

 

 

『勝つ』

 

 己の勝利を、宣言した。

 

 波乱と狂気の体育祭の、幕が上がる。





 世界観がおかしい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。