殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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一年Aクラスの秘策

 浅野学秀は、孤高の天才だ。

 誰かの上に立ち。誰かの前を歩き。そして、自分よりも強い誰かに挑み続ける。

 そんな、孤高の天才。

 

 それが、嘗ての浅野学秀であり。

 

 では、今の浅野学秀は?

 

 

 体育祭一週間前。

 その作戦を告げられたとき、神室真澄は心から拒否した。

 

『嫌よ!絶対に嫌!何でチアリーダーなのよ!他になんかないの⁉︎』

 

 何度も説明しただろう。

 

『これが一番効果的なんですよ、真澄さん。諦めて下さい。もう他の人たちは納得済みなんですから』

『だとしても、よ!私以外でも良いでしょう⁉︎』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。真澄さん以上の適任はいません』

 

 理屈は分かる。分かるが!

 ヘソ出しミニスカ生足ノースリーブは流石に嫌だ!

 

『あんたも着なさいよ有栖!』

『いや別に私は踊りませんし』

『道連れは他に四人もいるだろう』

『道連れって言葉の時点でアンタもどうかと思ってるんでしょ葛城‼︎』

『何を言う。有効な作戦だと理解しているさ』

 

 味方はいない。孤軍奮闘だが、ここで負けるわけには………!

 

『頼む神室。他の競技はともかくこれ(棒倒し)だけは負けられないんだ………!』

『あ、アンタが、何、言ったと、しても………』

 

 負ける、わけには…………。

 

『どうか力を貸してくれ。僕(の勝利)には、君(の協力)が必要なんだ………!』

『ひ、必、要……………私が…………?』

 

 負ける…………わけには………。

 

(…………もしかして、真澄さん)

『ところで学秀くん。チアリーダー姿の真澄さんは、魅力的だと思いますか?』

『急に何言ってんの⁉︎⁉︎⁉︎』

『………?まぁ、魅力的なんじゃないか?』

 

 神室真澄は、赤くなった。

 坂柳有栖は、楽しそうに笑った。

 

『学秀くんは、こう言ってますよ。真澄さん』

『だ、だから、何、よ』

『魅力的な、チアリーダーの、真澄さんを、見せてあげたらどうですか?』

『………………ほ、ほんとに、魅力的、だと、思ってんの。アンタは』

 

 有栖は、凄く楽しそうだった。

 葛城も、ちょっと面白そうだった。

 

 浅野は、それよりも彼らに勝つことに集中していたので、気付かなかった。

 

『?うん。神室は魅力的な女性だと思うが』

 

 普通に言った。普通に褒め言葉としてそんな事を言った。

 

『…………くぅ』

 

 真っ赤になって、神室真澄は悔しそうに俯いた。

 

『……………分かった。やるわよ』

 

 負けた。

 本当に、本当に渋々、神室真澄は受け入れた。本当だ。本当に渋々だ。

 坂柳有栖は、後でたくさん話を聞いておかないとな、と考えていた。

 

 

 さて、そんなチアリーダー姿の女子達の姿を見て、綾小路達がどんな表情を浮かべていたか、と言うと。

 

『なぁなぁ。見ろよ浅野、これ』

 

 吉田が前に見せてきた、宇宙を背負った猫の写真に、そっくりだった。

 

「………清隆?アレはなんだ?奴らの作戦か?」

「僕も聞きたいんだけど、綾小路くんは分かる?」

 

 綾小路清隆は、静かに首を振った。

 

「分からん。ただ、アレはこっちにも良い作用を及ぼしたことは、分かる」

「………?」

「何言ってんの?」

 

 綾小路清隆は、そっと丑組を指さした。

 丑組の須藤健と山内春樹と池寛治は、酷い顔になっていた。

 

「赤羽くんは二股しているらしいですよお二人さん………」

「とっっっっっっても仲がよろしいようで。何せ、わざわざチアリーダーやるぐらいですからねぇ」

「どうする二人とも。処す?処す?」

 

 二人は、凄く静かになった。

 

「…………赤羽には、あの三人を当てるか?」

「やめときなよ。多分血祭りにあげて失格になる」

「…………だよな」

 

 幸村はチラリとチアリーダー姿の五人を見て、神室がいることに、改めて驚いた。

 

「………神室は、ああいうのを嫌がると思っていたんだが」

「そう言えばテーブルゲーム部だったか」

「まぁ、最近は体育祭準備で会えていないがな」

「奥田さんも、絶対に嫌がると思ってたんだけど」

「椎名と、あと伊吹もだな。森下は、多分ノリノリだったんだろうが」

 

 実力だけは確かにある愉快犯。それが森下藍である。

 それはそれとして。

 

「………カルマのやつ、余り動揺してないな。あの二人のあんな姿見たら、もっと取り乱すと思ってたんだが」

「あぁ。多分バニーガールで慣れたんでしょ」

 

 綾小路と幸村の脳裏にある疑問が浮かんだ。

 即ち。((バニーガールって何?))である。

 

「まぁ、うん。綾小路くんは、近いうちに分かるんじゃないかな?」

 

 地獄の二日間(ツーデイズ)をお楽しみに。

 

 

 伊吹は、諦め切った顔で、深く、深ーく溜息を吐いた。

 

「………後で殺すわ。坂柳」

「突然の殺害予告やめて下さい伊吹さん。私の心臓は弱いんですよ?」

 

 確かに物理的には弱いだろうが。

 

「奥田さん。後で作って欲しい薬があるのですが」

「え、えっと………」

「それって本当に薬ですか椎名さん」

「ええ。薬と毒は紙一重ですから」

 

 もしかしたら暗殺されるかもしれない。

 

「作戦を提案したのは確かに私ですが、最終的にゴーサインを出したのは学秀くんです。つまり、責任はすべて学秀君にあります」

「つまり?」

「貴女は何が言いたいんですか坂柳さん?」

「…………殺すなら、学秀君を」

 

 神室と森下は驚いた。幼馴染をなんの躊躇もなく生贄に捧げるその姿勢に。

 

「それはそれとして、貴女にも後でお仕置きします」

「そ、そんな!」

「逃がさないわよ」

 

 浅野学秀。お仕置きの刑である。

 神室としても、助けるつもりは無い。何だったら自分もそのお仕置きに参加させて欲しいぐらいである。

 

「そうですね。取り敢えず今着てるこれ着てもらいますか」

「他にも色々着せましょう?お人形みたいだし、ね」

「その、ドレスとか、似合いそうですね」

「そうね。有栖だし、不思議な国のアリスのコスプレとか、どうかしら?」

「採用です神室さん」

「森下さん助けてください」

「こんなに楽しそうなものに私が参加しないとお思いですか坂柳有栖。和服いきましょう」

「素晴らしいです森下さん」

「ふざけないでください森下さん」

 

 坂柳有栖。着せ替え人形の刑である。

 神室真澄と森下藍も、積極的に参加するつもりである。

 

 

『さぁ、色んな意味で注目の第二戦!開幕です!』

 

 兎にも角にも開戦だ。一戦目と同じように、俺たちと攻撃陣はすれ違い、目を疑った。

 

「嘘でしょ⁉︎葛城くんも攻撃側⁉︎」

「なら誰が防御側の指示を───橋本だと⁉︎」

 

 橋本正義。確かに高い能力は持つ、が。

 

(俺と啓誠の指示を抑え切れるとは思えない。どういうつもりだ?俺たちが倒すよりも速く決めるつもりか?だが、平田と神崎は二人がかりだとしても簡単には崩せないぞ?)

 

 実際、浅野の奇襲が無ければもっと堪えきれていただろう。

 今回、攻撃側は十八人。恐らく八人ずつ分担してカルマと葛城が指示を出すつもりだろうが。

 防御側は、浅野を抜いて二十一人か。

 

「ふむ。私を放置する可能性も考えていたのだがねぇ」

「さっきも言っただろう。思う存分、遊んでやる、と」

「はっ、嘘つきめ」

 

 作戦は、変えない。

 

「…………このまま攻めるぞ」

「だが、いや、分かった」

「うん。速攻で決めれば良いだけだもんね」

 

 奥田たちの応援が目に入る。

 凄いな奥田。あんなに高く跳ぶのか。

 森下の両手を足場に飛び上がった奥田を、椎名と神室が完璧に受け止めていた。

 

「左翼Cグループ!右翼Cグループは前に出ろ!」

 

 ………、なるほど、上手いな。

 俺たちを閉じ込めるように陣を展開する事で、正面突破以外を封じるつもりか?これでは卯組の機動力を活かせない。だとしても身体能力は普通に高いから、卯組は十分な戦力だ。

 

「正面からぶち抜くぞ!啓誠!」

「あぁ!龍園が来たら俺が迎え撃つ!」

 

 今度は神室の両手を足場に、椎名が勢いよく飛び上がった。

 

「…………?どういう事だ?龍園が来ない?」

「くっ、綾小路!Dの奴ら強すぎる!」

 

 どういうことだ。俺を抑えることは、奴らの勝利の大前提のはず。なのに、龍園が動かない?

 駒の一人として、他の生徒達を抑えに回っている。確かに、よく防いでいる、が。

 この程度の指揮なら。啓誠に視線を向ける。

 啓誠は力強く頷いた。

 

 今度は、伊吹が両腕を真上に伸ばして、その両掌に、神室が立ち、両手のポンポンを勢いよく振る。

 

 柴田と渚が一瞬橋本の視線を塞ぎ、できた一瞬の隙をついて。

 俺の両手を踏み台に、啓誠が飛び上がろうとして。

 

「綾小路を崩せ!」

 

 小宮のタックルで俺の姿勢は崩れた。啓誠は衝突を回避するために踏みとどまった。

 見えていないはずなのに、橋本は完璧に俺達の攻撃を防いでいた。

 どういうことだ?渚と柴田は、確かに橋本を妨害できていたはず。

 

 今度は、神室と椎名が足を大きく振り上げた。

 

「今度は柴田だ!」

 

 俺と啓誠が同時に攻めかかり、俺たちに意識を向けさせて。

 柴田を踏み台に飛び上がろうとした渚も抑えられる。

 橋本の視野が広い、にしても限度がある。だとすれば、まさか。

 ───指揮をしてるのは、橋本じゃ無い‼︎

 

 視線を、場外の坂柳に向ける。

 

「───フォーメーションKです」

 

 椎名の両手を足場に、森下が勢いよく飛び上がる。

 他の三人が完璧に受け止めた。

 

 それを見た橋本は、すぐさま指揮を飛ばす。

 

 そうか。そういうことだったのか。

 

 

「成程。チアリーダーはあくまで手段。本命は───」

 

 話しながらの高円寺の右ストレートを受け流す。踏込みながらの正拳突きは、左手で受け止められた。

 そのまま手首を極められて投げられるが、空中で振り払い、着地する。

 お互いに走り寄って距離を詰めて、高円寺の肘打ちを伏せて躱し、足を払って転ばせて、顔面狙いの踵落とし。

 両手で受け止められて、思いっきり投げ飛ばされたが、空中で捻って体制を整え着地。

 

「───リトルガールの指揮、か」

「───御名答、だ」

 

 指揮官の質はともかく、数において、A、Dクラスは不利。何より、単独で動く高円寺を抑えるためには、同じく単独で迎え撃つのが得策。

 単独で抑えられるのは、浅野かカルマのみしかいない。

 即ち、指揮官は更に減る。だからこそ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 身体能力が高く、複数のフォーメーションを完全に暗記する暗記力も持つ生徒は、森下、神室、椎名、奥田、伊吹の五人。そして、そのフォーメーションを受けて理解できるのは、橋本ぐらい。

 これにより、指揮官は実質的に一人増える。

 つまり、葛城を攻撃側に使うことができる。

 

 

「フォーメーションAです」

 

 今度は椎名が奥田を、神室が森下を支えて、勢いよく持ち上げた。

 これの対象は、橋本だけじゃない。全体への指示。即ち。

 

「───一気に決める!アルベルト!」

Roger(了解)!」

 

 一度助走距離を確保したカルマへの、神崎の対応は早かった。

 

「須藤!アルベルトを崩せ!」

「了解だ!」

 

 須藤は、アルベルトに猛烈に突進して。そこで、平田が気付く。

 

「───そっちじゃない!葛城くんだ!」

 

 カルマは、アルベルトじゃなく、葛城のもとに走り、両手を足場に飛び上がって。

 

「背中を借りるぞ!レッドボーイ!」

 

 須藤の背を踏み台に飛び上がった高円寺と、揉み合って墜落した。すぐさまお互いに体勢を整える。

 ここに高円寺がいるなら、浅野は。

 カルマが視線を向けると、幸村と渚の二人がかりで抑えられている浅野がいた。

 

「俺が何とか隙を作る」

「分かった。その隙に、僕が」

 

 幸村が勢いよく突っ込みながら、飛び膝蹴り。

 しかし浅野は、完璧に受け流す。幸村の背後から仕掛けてきた渚を振り払い、幸村が掴もうとしてきた手首を捕まえ、引っ張り回して投げ飛ばす。

 

(やはり───)

「………強い………!」

 

 一戦目の逆だ。浅野を抑えることで、高円寺を動かす。だが、一手遅かったか。もしカルマが決める寸前でなければ、攻撃側に呼べたものを。

 いや。だからこそ、あのタイミングで、俺が啓誠と渚を切り離したタイミングで攻撃の指示を出したのか。坂柳。

 

 高円寺を、防御に向かわせるために。

 

(でもこれは同時にチャンス!ここで僕たちの手で、浅野くんを暗殺できれば!)

 

 防御に専念する必要がなくなった、丑組が自由になる!

 一瞬で幸村くんの背後に回り込んだ浅野くんは、首筋に手刀を落として気絶させた、けど──。

 

(波長が乱れた。ここで決める)

 

 幸村くんが崩れ落ちる刹那。

 トドメの一瞬の、致命的な隙、この瞬間!

 

 僕の奥の手(クラップスタナー)が、炸裂する。

 

 

『赤羽。潮田の奥の手(クラップスタナー)を、どうにかする方法はあるか?』

『喰らわないように細心の注意を払ったとしても、喰らわせてくる。基本的に、事前に防ぐのは無理だね』

『喰らった後なら、どうにかできると?』

『あんまおすすめしないけど。俺の場合は───』

 

 

 潮田渚は、目を疑った。

 確かに、奥の手(クラップスタナー)を喰らわせたはずなのに、首を掴まれて、抑え込まれたから。

 酸欠で意識が朦朧とする中で、浅野の口から、血が滴り落ちているのに気付いた。

 

「………似た、もの、同士、め」

「非常に、っ、不快な評価だ………」

 

 ()()()()()()()()()()()()

 嘗ての、赤羽業の様に………!

 

 潮田渚が気絶したのを確認した浅野は、すぐさま、攻撃に参加する。

 

「───ここで、フォーメーションZです」

 

 今度は、森下が神室を。伊吹が椎名を支えて、高く持ち上げた。

 このフォーメーションの意味は。

 防御側二十一人のうち六人が持ち場を離れ、攻撃側に参加する。

 

 隙、の様で隙じゃない。

 橋本が坂柳の指示を伝達し、その指揮の元、タフの塊(龍園)ゾンビ(Dクラス男子)が、組織的な防御を見せる。

 これを、啓誠と渚という戦力を欠いた状態で突破するのは、不可能。

 なら。

 

「申組、酉組は継続して攻撃!午組と卯組は防御に戻る!」

 

 建て直すためにも、一度防御へ。

 

 

「────作戦通り、ですね。流石に龍園くんも限界です」

 

 当たり前だ。龍園翔は一応人間なのだから。

 だからこそ。

 

「引っかかりましたね。綾小路くん。貴方が防御に手を割いてくれたおかげで、確実に守りきれます」

 

 坂柳有栖は、楽しげに笑った。

 

「仕上げです。フォーメーションC」

 

 奥田が踏み台になり、神室の、大ジャンプ。

 その意味は。

 

 

 平田は、走り寄ってくる浅野に気付いた。

 

(───不味い‼︎‼︎)

「須藤くん‼︎‼︎浅野くんを‼︎‼︎」

「了解だ‼︎‼︎」

 

 須藤健は、すぐさま浅野目掛けて走り出す。

 百メートル走。それからハードル走。そして一戦目の棒倒しの借りを、ここで返す!

 

 浅野学秀は、椚ヶ丘を卒業したあの日。

 

 五英傑(友達)と別れたあの日のことを思い出していた。

 

『──今日でお別れだな。浅野』

 

 たった三年、会えないだけだ。また会えるさ。

 

『あの学校でなら、きっと出会えるはずだ』

 

 おいおい。何に出会えるって、恋人か?

 

『………いや。対等な友達さ』

 

 君たち(五英傑)だって、そうだろう。榊原、荒木、瀬尾、小山。

 君たちだって。僕の友達だ。

 

『………僕らと君は、確かに友達だったけど。でも、君は僕たちに背中を預けたことは、預けることも、無いだろう』

 

 ……何を言う。僕は……!

 

『仕方ないんだ。浅野。俺たちでは、君の隣には、立てなかった』

 

 荒木……。

 

『だとしても、俺らは友達だぜ。浅野。だから、そんな悲しそうな顔すんなよ』

 

 瀬尾……。

 

『あの学校は、あの堀北会長がいる学校だ。あそこなら、きっと出会えるだろう』

 

 榊原……。

 

『君が、彼等なら背を預けても良い、と。そう、心から思える友達と』

 

 小山……。

 それでも、君たちは、僕の友達だ。

 

 

 

(あぁ。きっと、君たちの言う通りだったよ)

 

 三年A組も。五英傑も。ずっと、僕の後ろにいた。

 ずっと、僕が導いてきた。

 それを不満に思ったことは一度もない。彼等を煩わしいと思ったことも一度も無い。彼等を見下したことも。彼等は確かに、僕の友達だった。

 でも、この学校は。

 一年Aクラスは、違う。違ったんだ。

 

 有栖がいる。

 僕と同じか、それ以上に頭の良いやつだ。

 葛城がいる。

 僕と同じか、それ以上にリーダーシップがある。

 神室がいる。

 僕が、心から信じられる。大切な友達。

 森下がいる。

 僕でも予測出来ないぐらい、不思議で、でも強いやつだ。

 橋本がいる。

 いつも冷静で、周りをよく見ているやつだ。

 鬼頭がいる。

 強くて、外見からは想像もつかないぐらい穏やかなやつだ。

 山村がいる。

 僕でも見失うぐらい、特別な才能があるやつだ。

 

 皆凄いやつだ。もしかしたら、僕よりも凄いかもしれない。

 最初は、赤羽と、綾小路と、堀北さんにさえ勝てれば。堀北先輩を超えられれば、それだけで良かった。

 

 でも、今は違う。

 僕は勝ちたい。このクラスで。この友達達と。

 だから、僕は───。

 

 

 須藤とぶつかる数歩手前で、浅野は振り向いて、腰を落とした。

 それを見てすぐに、須藤は察知する。

 ()()()()()()

 振り向きながら、彼を呼ぶ。

 

「───高円寺‼︎」

 

 名を呼ばれた高円寺は、そちらに視線を走らせて、全てを把握する。最適な立ち位置にいるのは。

 

「───ピエロボーイ!」

「おう!来い!」

 

 春樹はすぐさま両手を構えて、踏み台を作る。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 カルマは、その肩を掴んだ。

 

「───俺と遊びたいんでしょ?駄目だよ。よそ見しちゃ」

 

 振り向き様に、強烈なヘッドバットをくらい、高円寺の動きは一瞬止まった。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 浅野の元に走り込むのは、防御側から離れた、六人のうちの一人。

 

 ()()()()

 

  Aクラスには、それから、君がいる。

 

「来いっ、吉田!」

「おうよっ!」

 

 僕の強さを知って。僕が特別だと知って。

 僕を敬い、後ろに立つのでもなく。

 僕に勝つ為に、向かい合うのでもなく。

 僕を恐れ、下に降るのでもなく。

 僕に追いつき、隣に立とうとするのでもなく。

 

『俺としては、浅野の親父さんよりも、浅野の方が凄いし好きだがな』

 

 当たり前のように、僕の、ただの友達でいてくれた。

 それにどれだけ救われたかなんて、君は想像もしていないだろうが。

 

「行けっ‼︎‼︎‼︎」

「おりゃぁぁあ‼︎」

 

 浅野に全力で投げ飛ばされた(背中を押された)吉田は、ミサイルよろしくかっ飛んで。

 棒の頂点に、思い切り飛び蹴りした。

 

 棒は、大きく揺れる。

 

「────畳み掛けろ‼︎」

 

 葛城の号令の元。

 鬼頭が、戸塚が、アルベルトが、カルマが、A、Dクラス攻撃側男子陣が、全力で突撃する。

 平田と神崎の指示の元、高円寺も含めて、全員で対抗するが。急いで戻ってきた綾小路は間に合わず。

 棒は、倒れた。

 

 

 堀北学は、声を出して笑った。

 

「ははははははっ、あぁ。そうか。夏休みを経て、お前がさらに強くなったのは。敗北を知ったからだけでなく、この学校で、類い稀なる友を得たからか」

 

 誰かの上に立つのでもなく。

 誰かの前を歩くのでもなく。

 誰かを下に従えるのでも無い。

 

 誰かの隣で、共に歩く、そんな最高のリーダー(今の浅野学秀)に。

 孤高の天才(嘗ての浅野学秀)は、成長したのだ。

 

 

 棒倒し。二戦二勝。

 赤組( A、Dクラス)の、完全勝利である。





 上に常に父がいて。クラスメイトはずっと、導くべき下の人たちで。それはきっと、五英傑ですら、例外では無くなって。
 そんな浅野くんにも、ライバルと友達がたくさん出来ました。と言うお話。
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