殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 玉入れ面白くするとか無理だろ


三年Aクラスと玉入れ

 一年Aクラスの休憩所では。

 

「見事な勝利でしたね。学秀くん」

「あぁ。君たちのお陰だ。有栖」

「ふふふふ。ありがとうございます」

 

 浅野学秀と坂柳有栖は、達成感を滲ませながら、笑い合っていた。

 

「やはり綾小路くんは凄いですね。幸村くん達を切り離すとは、完全に予想外でした」

「それでも、見事な対処だったぞ。有栖」

「フォーメーションを赤羽くんと葛城くんも覚えていたからこそ、ですね」

 

 二戦目の実質的な総指揮官は、坂柳有栖だった。

 

「有栖。次、私玉入れあるから」

「えぇ。付き人さんは、学秀くんがやってくれますよ」

「そ、う」

「あぁ。心配するな。神室」

「そこは、心配してないんだけど」

 

 いや。幼馴染だし。私が口出す資格なんてないし。いやいやでも、幼馴染って、割とそう言う関係になるものっていうか。いやいやいやでも、あれは漫画とかドラマとかアニメとか映画の話なわけで。いやいやいやいや、こんな学校殆ど漫画じゃんっていうか、月の七割が蒸発するとか完全にフィクションじゃん、というか。

 

「安心して下さい。真澄さん。私と、学秀くんは、ただの幼馴染でしかないですよ」

「、…………そ、そう、なの」

「ところで学秀くん。さっきのチアガール、どうでした?」

「あ、有栖⁉︎⁉︎⁉︎」

「?あぁ。神室のことか?凄く可愛かったぞ」

「か、かわ………⁉︎」

 

 神室は、燃え上がって凍り付いた。

 まぁ、運動は、沢山していたので。赤くなっても不思議ではない。なら何故固まったのか?

 その答えは、秘密である。

 

「…………っ‼︎‼︎た、玉入れあるから、もう行くわね‼︎」

「うふふふふふ。いってらっしゃい。真澄さん」 

「あぁ、頑張れ」

「…………いってきます」

 

 浅野と目を合わせられず、神室は走り去った。

 

(やれやれ。恋する乙女は可愛らしいですね)

「全く。有栖のこと好き過ぎるだろう」

「………………えっ?」

 

 今。今なんと言ったこの男。

 坂柳有栖の優秀な頭脳は、瞬く間に答えを出した。即ち。

 

(────ま、まさか学秀くんクソボケ(情緒小学生)だったんですか⁉︎)

 

 四歳ごろからの付き合いの幼馴染の、衝撃の事実。

 カルマと似てるとの渚の評価に不愉快だと返した浅野学秀。

 しかしそれは、ある意味事実だったのかもしれない。

 

(頑張って下さい。真澄さん。応援してます)

「頑張れ、神室!」

 

 心の中で神室を応援する有栖の隣で、浅野は普通に応援していた。

 

 

 玉入れとは、何か。

 多くの人は言うだろう。

 

「カゴに球入れるだけでしょ?」と。

 

 しかし、天才達にとって、玉入れとは。

 即ち物理学である。

 

 森下藍は、坂柳有栖の教えを思い出す。

 

(最適な角度、最適な力、最適な場所で、リリースする)

 

 即ち、同じ動きをひたすら繰り返すだけで。玉は吸い込まれるように入っていく。

 Aクラス女子はこれを完全に身に付けている。

 まさしく、ターゲットを的確に打ち抜いていくスナイパーの如く。的中率は驚異の九十五%である。

 

 脅威の七十三個。一年AクラスとDクラス。即ち赤組の勝利である。

 

「ありがとうございます。森下さん。貴女達のおかげです」

「………今の私は、森下藍ではありません」

 

 変わらず無表情で、心なしかドヤ顔を決めながら。

 

「百発百中のスナイパー。デューク森下とお呼び下さい」

 

 つい先程まではチアガール森下。現在はデューク森下である。

 椎名ひよりは、困惑した。

 

「そ、そうなんですね。お見事でした。えっと、デューク、森下、さん」

「───フッ、合格、なのです」

 

 何に?

 椎名は、神室に説明を求めた。

 神室は静かに、首を振った。

 きっと、常人には見えないものが聞こえていて、聞こえないものが見えているのだろう。

 そう言うものだと諦めなさい。

 

 一年生グループは中々だったが、三年生も相当凄かった。

 

「さぁ、勝ちに行くわよ」

「うん!みんなで頑張ろう!」

「えぇ。全力で行きましょう」

 

 占藤、橘、金織が激励する中で。

 飛騨翔子は、とてもつまらなそうだった。

 

「もう。ちゃんとやりましょう?翔子」

「そうだよ翔子!ちゃんとやろうよ!」

「いやでも玉入れよ玉入れ。小学生じゃあるまいし」

「まぁ、その、同意はしますが」

「何言ってるの?玉入れは高度な物理学よ?式に当てはめて投げるのは、やってみると面白いわよ?」

「あのねぇ。それは一部の天才(変態)の楽しみ方なの。それが出来るのメメと元と学ぐらいじゃない」

「………へ、変、態………?わ、私、が………?」

「………まぁ、そう、ですね」

「いやいやいやいやいやいや!メメちゃんは頭良いだけで、別に変態ってわけじゃ、……………わけ、じゃ………わけ、ある、かも?」

「茜ちゃん⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 例の事件(愛の三女神)を思い出した橘茜は、擁護しきれなかった。

 金織美浪は、消極的に同意した。

 

「良いの茜ちゃん?その理論だと学くんも変態になるわよ⁉︎良いの⁉︎」

「その理屈はおかしいですよメメ。貴女が変態呼ばわりされるのは茜への態度が原因です」

「ぐはっ」

 

 血を吐いて倒れた。

 

「………どうしよっか」

「まぁ。メメは居てもいなくても変わらないしね。身体能力クソザコだもの」

「ぐえっ」

「………そうですね」

「ひでぶっ」

「………まぁ、うん。確かに」

「ぐすんぐすん」

 

 メソメソと泣き出す占藤。途轍もなく哀愁漂う背中である。

 

『三年生は入場して下さい』

 

 そのアナウンスが響いたが、占藤メメは体育座りで泣きながら、一向に動かなかった。

 

「ちょ、ちょっとメメちゃん。大丈夫だよ!玉入れに身体能力関係ないから!」

「………でも私、クソザコだもん」

「いえそんなことありませんよ。玉入れならば、貴女の頭脳はとても役に立ちます」

「………本当は居てもいなくても変わんないとか思ってるんでしょ」

 

 いやまぁ。うん。正直いてもいなくてもあまり変わらないけど。

 チラッと橘茜は浅野学秀に視線を向けた。出来れば復活してほしいので。

 その視線の意図を理解した浅野は、とてもめんどくさい顔で、有栖と神室に占藤を示した。

 ちょっとだけ笑いながら、三人は声を合わせて。

 

「メメ先輩、頑張ってください」

「えっと、その、応援してます。メメ先輩」

「メメ先輩のかっこいいところ、期待してます」

 

 占藤メメに声援を送った。

 一瞬固まった占藤は、しかし体育座りのまま泣いたまま、腕の隙間から、チラチラ一年Bクラスに視線を送っていた。

 それに気付いた長谷部と佐倉は、棒倒しで大ダメージを負った為に、現在佐倉の膝枕で休憩中の幸村の肩を叩いた。

 

「あ、あの、幸村くん。多分、メメ先輩が、こっち見てるというか」

「なんか泣いてるっぽい?いや嘘泣きだと思うけど」

 

 身体を起こしながら、三年Aクラスに視線を向ける幸村。

 ちょっと佐倉は残念そうだった。

 

「いくらなんでもいちゃつきすぎじゃないですかねぇ春樹くんどう思いますぅ?」

「皇国騎士団としての自覚が足らないのではないでしょうかねぇ。騎士道に背いた罪で斬首刑が妥当な気がするんですがどう思います健さん?」

「いやぁ斬首刑なんて生温いやり方はダメじゃないですかぁ?まずは、足首からゆっくりと落としていってぇ、最後にぃ、首を落とすべきだと思いますがねぇ?」

 

 三馬鹿は、一周回って冷静に狂っていた。

 

 

 さて、三年Aクラスの様子と、浅野達が声を掛けているのを見た幸村は、大まかな事情を推察し、深く溜息を吐きながらも、手でメガホンを作って声を掛けた。

 

「メメ先輩。頑張ってください」

 

 そんな幸村を見た長谷部と佐倉も、取り敢えず同じように。

 

「が、頑張ってください!メメ先輩!」

「メメ先輩のかっこいいところ、期待してまーす‼︎」

 

 腕で顔を隠したまま、それでも声援が届くたびに、微かに肩を振るわせる占藤メメ。

 三年Aクラス女子は、完全に呆れていた。

 呆れていたが、仕方ないので。

 

 橘茜は、二年B、C、Dクラスのテーブルゲーム部部員達に、頭を下げてお願いした。

 

 二年Dクラスでは。

 

「全くもう。メメちゃん先輩ってば、ワガママなんだからぁ。すぅ、がぁんばぁってくぅださい!メメ先ぱ〜〜〜い‼︎」

 

 二年Cクラスでは。

 

「ほらほら稔!メメ先輩が応援をご所望じゃぞ!せーので行くのじゃぞせーので」

「う、うん。いつも、お世話になってるし」

「せーのっ」

「メメ先輩!頑張ってほしいのじゃ〜〜‼︎」

「メ、メメ先輩、頑張ってください………‼︎」

 

 そして、二年Bクラスでは。

 

「ほらほら。声出しこう藤乃!」

「はいはい。分かったから引っ張らないで」

 

 どこからか持ってきたメガホンを二人分。

 一つを藤乃に手渡して、もう一つを使う九十九。

 

「───頑張ってください、メメセンパーイ。応援してまーす」

 

 心なしか、雑である。多分心とか篭ってはいない。

 

「───ちゃんとやってくださいメメ先輩。橘先輩達に迷惑かけないように!」

「ちょっと藤乃!貴女私への応援はどうしたのよ!」

 

 尊敬はしているし信頼してるし信用もしているが、それはそれとしてめんどくさい時は死ぬほどめんどくさいので、扱いは割と雑である。

 

「まぁいいわ。後輩達からたっぷり応援されたし。────皆。勝ちに行くわよ」

 

 颯爽と肩で風を切って会場に足を踏み入れる占藤に、呆れながらも着いていく三年Aクラス女子。

 

 注目の試合が始まった。

 

「やっぱヤベェぜ三年Aクラス!的中率まさかの百%だぞ今んとこ!」

「あぁ。それだけじゃない。役割分担も完璧だ!橘先輩の指揮の元、他の女子達が玉を集めて、金織先輩達の足元に集めている!」

「飛騨先輩やっぱヤベェぜ!自分で拾って自分で入れてるのに、入れてるだけの先輩達と同じくらい入ってやがる!」

 

 ある程度投げ入れた占藤メメは、多分これなら行けそうだな、と判断したので。

 籠に背を向けて座り、後ろ向きで無造作に放り投げ始めた。

 散らかり尽くした部屋で探し物をするときのように、邪魔なものを後ろ側に投げ捨てるような動きで。

 投げた玉は全て、完璧に籠に入っていく。

 

「うん。こっちの方が楽だし、効率も良いわね」

 

 そんな意味分からないことをし始めた占藤に、客席の後輩達は心からドン引きした。

 

「あ、あれ?メメ先輩、籠、に背を向けてますよね?えっ、私の見間違い、ですか?」

「安心して愛里。私も見間違いだと思ってるけど、同じものが見えてるから」

「俺にも同じものが見えているな。三人揃って同じものが見えているということは、おそらく現実なんだろう」

 

 一年Bクラス休憩所では、現実を受け入れる確認作業をこなしていた。

 

「………あれって、その」

「多分高度な物理学の応用です。最初の数回で誤差を修正して、籠の位置やら玉の重さやらを完全に把握したので、見なくてもこの角度からこれぐらいの力でこの辺りで投げれば入る、と結論付けたのでしょう」

「まぁ。確かに態々屈む動きも挟まないし、後ろ向きに投げる方が、人体の構造上飛びやすくはあるが」

「………ちょっと意味分かんないわね。あれ」

「心から同意します」

「以下同文だ」

 

 一年Aクラス休憩所では、分析の結果、意味が分からないということで合意した。

 

「はーーーーーーっ!やっっっっっっぱメメ先輩おっもしろーーーい!一個でも外してたら後で煽ろーーーっと」

 

 二年Dクラス休憩所では、チャンスを虎視眈々と伺っているメスガキが一人。

 

「うぉぉぉぉ!メメ先輩凄い!凄いのじゃ‼︎」

「う、うん。凄い、度胸、だね」

 

 二年Cクラス休憩所では、素直に先輩をリスペクトする後輩と、先輩の度胸にビビる後輩がいた。

 

「うっっっっっわ。めんどくさがりすぎない?」

「…………まぁ、結果は出してるし、良いんじゃないかしら?」

 

 二年Bクラス休憩所では、先輩に呆れる後輩二人がいた。

 

 

 訳がわからない入れ方をし始めた占藤メメに、三年Bクラスの黄乃玉紀はびびっていた。

 三年Bクラスの基本的な戦法は同じだし、命中率も殆ど同じ。まぁ、玉入れで大きな差が付くことは、稀だと思うけど。

 ただ、占藤メメの入れ方は、より効率的なので、そこで差が生まれ始めている。かといって、これと同じことができる生徒など。

 

「成程。その手がありましたか」

 

 真白珠莉は占藤メメと同じように、しゃがみながらのノールック後ろ投げで入れ始めた。

 

「理解します。確かにこれは、とても効率的ですね」

「……………アンタ、人間?」

「生まれた時から一緒にいるでしょう?」

 

 そう、なのだが。

 脳味噌スーパーコンピューターか?

 

 

 そして、三年Dクラスでは。

 

「………成程。ああいうのもアリか」

「………りったん?」

 

 後ろから聞こえた理解し難い内容に、天馬が恐る恐る名を呼びながら振り返ると、そこには。

 しゃがみながら後ろ向きノールックで、投げ入れ始める風間律がいた。全てしっかり籠の中だ。

 

「………流石です。りったん」

 

 尊敬の念を滲ませて、天馬は素直に称賛した。

 

「おい天馬。僕の元に玉を集めてこい」

「了解しました!カイザー!」

 

 玉入れの常識が、崩れ始めている気がする。

 

 三年Cクラスでは。

 

「…………紫苑。あれできる?」

「無理に決まってるでしょバカじゃないの?」

「…………なら、いえ、うん。うちのクラスで出来そうなのはいないわね」

 

 とても常識的な玉入れである。

 

 そして、各クラスの休憩所では。

 

「な、なんか、Cだけ普通だな」

「うん。BとDもおかしいことし始めたから、Cもやると思ったんだけどな」

「なんか、地味だね」

「うん。地味」

 

 とても常識的な玉入れなのに、なんて酷い言い草なのだろう。三年Cクラスはキレかけていた。

 

 さて、占藤メメと真白珠莉と風間律は、どんどんペースを上げていく。秒間三発程度である。

 ここまで来ると、彼女達に玉を集めた方が効率的だと判断したのか、各クラスの女子達は彼女の周りに玉を集め始めていく。

 籠はもう殆ど満杯だが、その辺りも考慮して、若干の調整を加えながら投げたので、玉は山積みになっていく。

 三人の競争はヒートアップし、秒間三発が秒間四発に上がり始め、五発に行きそうになったところで。

 

「あら」

「これは予想外です」

「ふん。貧弱な籠だな」

 

 玉の重さにやられて、籠が勝手に倒れてしまった。

 順番的にはA、B、Dである。

 

『え、ええっと、一旦、終了です!』

 

 タイムアップまで、後数十秒あったのだが。三クラスが実質的に継続不可になったので、Cクラスは完全に巻き込まれ事故で終わった。

 

 さて、注目の結果は。

 

 合計七百四十個で、赤組の完全勝利である。

 多分この結果を超えることは、未来永劫ないだろう。

 

 ちなみに、各クラス毎の順位だと、同率一位A、B、D。四位Cである。

 

 ちなみにちなみに、体育祭の翌日。玉の投げすぎで占藤メメと風間律は筋肉痛になった。

 

「………あの、メメちゃん。今度一緒にジム行こう?」

「玉入れで筋肉痛は流石にまずいですよ」

「その、小学生向けのトレーニングメニュー、あるわよ?」

 

 とても哀れまれた占藤メメは、泣いた。

 

「あまりにも貧弱すぎだ律。俺の上に立つお前がここまで貧弱であることなど認め難い。故に、暫くの間、俺と剣城でお前を鍛えることにした」

「………体育祭はもう終わっただろう」

「そうですが、医者志望として、このレベルの貧弱さは非常にまずいと診断しました。治療としてのトレーニングを推奨します。後食生活も改善しましょう」

「………サラダは、好きだぞ?」

「肉も食わないとダメだぞ律。安心しろ。ワタシ(水泳部部長)獅子上(自衛隊一家)ならば、完璧なトレーニングを実施できるからな」

 

 風間律は、体育祭が終わったのに、ジムに連れて行かれて深く絶望した。

 

「………珠莉は、運動もまぁまぁ出来るものね」

「平均より少し低いスコアしか出せませんが」

「それでもあの二人よりはマシね」

「………まぁ、確かに」

 

 ジムで二人に遭遇した園子と紫苑は、占藤と風間の貧弱さに、心の底からドン引きした。

 

 それはそれとして、綱引きに戻ろう。





 次の綱引きは多分一年生。
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