殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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二年Cクラスと二百メートル走

 女子の騎馬戦は特に凄かったな。

 渚のやつに触発された、というか元々やるつもりだったのだろう茅野も同じように、騎馬を飛び回りながら鉢巻を奪い始め、負けじと鈴音も飛び回り始めた。

 ぶっつけ本番で何とか受け止め続けた小野寺筆頭の鈴音の騎馬には、心からの賞賛を贈ろう。彼女達はすごく神経をすり減らしていた。

 最終的に、飛び回ろうとして普通に墜落した森下の所為で、白組の勝利だ。

 

「坂柳裁判長。判決を」

「死刑で」

「そんな!あんまりです!せめて弁護人を用意してください裁判長!」

「では弁護人。神室弁護士」

「死刑で」

「弁護人⁉︎」

「普通に擁護できないわ。何してんの馬鹿じゃないの?」

「いや、その、行けると思って……」

「良いですか森下さん。あれをぶっつけ本番でやれる堀北さんがおかしいんです。復唱して下さい。堀北鈴音はぶっ壊れの変態である、と。さすれば減刑も考えましょう」

「ほ、堀北鈴音はぶっ壊れの変態である……」

「声が小さいですね」

「堀北鈴音はぶっ壊れの変態である‼︎‼︎‼︎」

「では死刑で」

「そんな‼︎」

 

 森下藍は心から怯えた。  

 堀北学(学校最強)綾小路清隆(学年最強)から本気の殺意をぶつけられたので。

 しばらくは夢に見るだろう。

 

 さて、二年生三年生の騎馬戦はというと。

 三年生の獅子上先輩と堀北先輩による、白組蹂躙劇である。うん。蹂躙。

 可哀想なぐらい何も出来なかった。仕方ない。身体能力お化けが二人だもん。ただ大将騎以外の鉢巻は殆ど金石先輩がとっていたな。その後、たった一騎で時間切れまでなんとか粘り切ったのヤバすぎる。

 なんか致命的な瞬間も何度もあったはずなのに、騎馬がうっかり足を滑らせて奇跡的に逃れるのを何回も繰り返していた。

 ここまで来ると怖いなぁ。

 堀北先輩の初黒星である。

 

 二年生の方は南雲の完勝、かと思っていたら、BCクラスが本格的に抵抗というか、戦闘を開始して、Dクラスの退学者が多すぎて頭数で不利になってそのまま敗北。

 今回初黒星だな。

 

 三年生の女子の方は、その、飛騨先輩と猫実先輩の頂上決戦っていうか。一年生の真似で飛び回り始めた二人により、お互い以外の騎馬は完全に全滅した。ちょっと世界観おかしかった。なんで空中で鉢巻を奪い合っているんだ?

 最終的に時間切れで引き分けである。ただ多分一番盛り上がったのは間違いない。

 

 二年生の女子はというと、なんか三人まとめて背負ったあたおか騎馬の桃井先輩と一応騎手の狐判先輩が無双していた。

 その、組体操じみた姿勢のまま走る他の生徒とは違って、普通に全速力でダッシュしてるし。他の騎馬は殆ど何も出来なかった。白組、というかCクラスの完全勝利である。

 

 

 そして、二年Cクラスはその後の二百メートル走でも躍進した。

 

 

 第一レースは桃井先輩。

 二年Dクラスは巻き込んで転倒しようとした。しかし先輩は受け止めながらも倒れた。完全に百メートル走の焼き直しだな。少し違ったのは。

 

「おっと、大丈夫か?」

「えっ………と、全然、大………いたっ」

「ふむ。足を捻ったようじゃな。うーむ、困った。妾としてもレースは走り切りたい。しかし怪我人を放置するのも、むむむむむむむ」

 

 そこであることを思いついたのか、左手に右手をポン、と乗せた。

 

「そうじゃ、この手があったな!」

 

 騎馬戦のノリで先輩は倒れたDクラスの生徒を背負った。ガッチリと両脇で太腿を挟んで、万が一がないように固定する。

 

「えっ、ちょっ、桃井さ、待っ」

「舌を噛むでないぞ!」

 

 返答も聞かずに猛烈ダッシュ。背負われた生徒は悲鳴をあげてた。追い着かれた生徒も悲鳴をあげた。分かる。あんなの怖いもんな。

 

「………なぁ啓誠。あの人テーブルゲーム部なんだよな。陸上部とかではなく」

「そうだな。なんでテーブルゲーム部なのか心の底から不思議だが」

「すぐに陸上始めさせた方がいいぞ。あの人が陸上競技に参加しないのは多分世界の損失だ」

「同意はするが、流石にこればかりは本人の意思だからなぁ」

 

 俺と啓誠がそんな会話をしているころ、三年Aクラスの待機所では。

 

「お願いメメ!あの子を説得して!陸上部に入れて!」

「あたしからもお願いメメちゃん!兼部でいいから!なんだったら大会だけの助っ人でもいいから!」

「えっ、と、その………本人の意思だから、その………」

「同意を取れば良いのね⁉︎行くわよ詭々‼︎」

「おっけー‼︎」

 

 猫実先輩と飛騨先輩は、全員ごぼう抜きして人一人背負ったまま一着でゴールインした桃井先輩の元に猛烈ダッシュを決めた。

 というかゴールテープぶっちぎった後そのまま保健室に向かっていった。うん。怪我人運んでるもんな。

 一位桃井先輩。二位背負われてたDクラスの生徒。三位はAクラスの朝比奈先輩である。朝比奈先輩も凄く早かった。多分相当練習を重ねてきたんだろうけど、これに関しては災害だろう。仕方ない本当に仕方ない。

 

「やっっっっっばーーーー!緋音ちゃんさいっっっっっこうだよ!本っ当におもしろーーーい‼︎‼︎」

 

 テーブルゲーム部の花咲先輩?だったか、その先輩はテンション爆上がりしていた。めっちゃくちゃ爆笑していた。

 いやまぁ正直面白さよりも恐怖が勝つというか。意味分からなすぎて怖いというか。アレを見て爆笑できるその精神にはビビるというか。まぁ高円寺も爆笑してんだけど。

 ………烏間先生でも、でき、でき…………でき、るな。うん。烏間先生ならできるだろう。

 

 二年Cクラスの待機所は死ぬほど盛り上がっていた。

 

「桃井パイセンに続けーー‼︎」

「桃井パイセン素敵!抱いて‼︎」

「桃井パイセン!俺らも頑張ります‼︎」

「桃井パイセン!」

「桃井パイセン!」

「「「「「桃井パイセン‼︎‼︎」」」」」

 

 いつの間にか桃井パイセンの大旗が作られてて振り回されてた。凄い盛り上がりだな。二年生全体的に沈んでたのに。

 Cクラスは怒涛の躍進。二年生の二百メートル走一位最多だ。

 

「あ、緋音ちゃんやっぱり凄いな…………わ、私も頑張らないと………!」

 

 狐判稔も、釣られて奮い立っていた。

 

「……………チッ」

 

 

 さて、一年生の二百メートル走はというと。

 

「わぁ。浅野くんと?マジ?」

「ほう。赤羽とか。叩き潰してやる」

「へぇ。自分が叩き潰されるとは考えないんだ?」

 

 浅野とカルマがバッチバチだ。

 宿命のライバル対決ってやつだな。

 

「何だ?椎名と奥田のチアガールは居ないのか?」

「そっちこそ。森下さんと神室さんのチアガールは居ないわけ?」

 

 うーん。すっごい舌戦、か?

 巻き添えくらった四人(森下除く)は大ダメージ受けてた。可哀想に。

 真っ赤になって蹲る椎名と奥田を、伊吹は励ましていた。

 

「大丈夫だよ二人とも。私も恥を晒したから」

「伊吹さん………」

「辛かったら泣きな。胸貸すよ?」

「…………姐御だ」

「姐御っすね」

「姐御だな」

 

 石崎小宮龍園の三人はそんな馬鹿みたいな言葉を漏らしていた。伊吹は睨んだ。

 三人はそっと目を逸らしていた。ただ、一年生の殆どが同じことを思ってた。  

 即ち。伊吹澪は姐御である、と。

 

 Aクラスの方はと言うと。

 神室が顔面を覆い隠して蹲っていた。

 

「………有栖。絶対許さない」 

「許さないのです」 

 

 神室は振り絞った声ではあったが、森下はすごく棒読みだ。まぁ、うん。あいつはこう言うの気にしなさそうだもんなぁ。

 

「………有栖の着せ替え写真を学年中にばら撒いてやる」

「ばら撒いてやるのです」

「それは話が違います真澄さん」

 

 うん。なんか人気が出そうだな。なんだかんだ、坂柳は『可愛い女子ランキング』第三位だし。因みに一位は一之瀬。二位は桔梗だ。

 桔梗はブツクサ文句言ってたな。『何で私が一位じゃないわけ?』って。  

 まぁ、所々で裏が漏れているというか。実は怖いのでは?みたいな認識は薄ら持たれているからなぁ。

 他人の秘密を握らなくなってはいるから、まぁそれでもそんなに問題はないんだが。

 一位一之瀬は納得しかない。というか『可愛い女子ランキング』、『結婚したい女子ランキング』、『付き合いたい女子ランキング』、『デートしたい女子ランキング』、『ナイスボディ女子ランキング』で一位の五冠達成者だからな。後二冠で金織先輩に並ぶぞ。それが遠いが。

 だって一年生の『美女ランキング』一位は茅野だからな。可愛い系の一之瀬と綺麗系の茅野の並びが強い。

 うちのクラスも負けてないが。『美女ランキング』二位は鈴音だし。可愛い系の桔梗と綺麗系の鈴音の並びも強いからな。

 そうそう。『美女ランキング』三位は椎名だった。まぁ、納得の行く順位ではあるな。

 因みにこの情報は全て外村から聞いたものだ。まぁ、その、何だ。

 三馬鹿がクラス最下位、というか最も嫌われている枠から脱出した影響で、そこに今落ち掛けている。

 ちょっと、その、何とかしないと、なぁ。

 平田と啓誠と軽く相談はしているが、気は滅入る。俺に人間関係を期待しないでくれ。浅野だったり鈴音だったりの地雷を豪快に踏んづけて来た男だぞ?

 まぁ、出来るだけのことはしているが。例えば今。

 

「なぁ外村。順位的にはどの辺りだ?」

「少々待つでござる綾小路殿。さっきのレースを踏まえまして………今のところは、一位三年Aクラス。二位二年Aクラス。三位三年Bクラス。四位は同率で一年AクラスとBクラスとDクラスでござる。まぁ、どこも殆ど誤差みたいな点数でござるな」

「やはりそうか。俺の計算ともあってる。なら間違いはないだろう」

「……ぶっちゃけこれ吾輩必要でござるか?」

「一人よりも二人の方が確実だろう?」

「綾小路殿がミスするようなら吾輩もミスしてると思うのでござる。ぶっちゃけ吾輩のミスの可能性の方が高いのでござる。幸村殿が堀北殿の方が適任でござろう?」

「鈴音は女皇陛下で忙しいし、啓誠も運動と並行で計算できる程ではまだ無いからな。俺と外村が最適な人選だ」

「ふむ。まぁ、これのおかげで推薦は借り物競走ぐらいになったわけだし、感謝するでござる」

「おう。そうだな」

 

 うん。今なら分かる。こういうこと言っちゃうのは良くないよな。うん。

 

「それはそうと最優秀選手でござるが。先の騎馬戦の結果を踏まえると、綾小路殿か堀北殿が現状最有力でござるな。今回の二百メートルで、一年生の候補二人のいずれかは必ず一歩出遅れるわけでござるし」

「………そっちもやってたのか」

「まぁ、余裕があったのでね」

 

 うん。思ったよりも有能だな。

 

 

 さて、カルマと浅野のレースに入ろう。

 

 序盤のスタートダッシュは完全に互角。だが、中盤以降で徐々に徐々にカルマが突き放していく。

 やはり、な。百メートルという短距離なら、俺でも勝てたが、二百メートルになると大きく変わる。

 …………多分。カルマも奥田作のプロテインを飲んでいるな。効能としては、スタミナ増加か?二百メートル走と、最高獲得点の全学年混合千二百メートルリレーのためか。

 全く。鬼に金棒。カルマに奥田、だな。

 

「───今回は、俺の勝ち、だね」

「ふっ。だからどうした。何度負けようと関係ない。生きている限りお前たちに挑み続けてやる。───最後には必ず勝つ。覚悟しろ」

 

 浅野の目は、カルマとBクラスの休憩所、それからDクラスの休憩所に向いていた。

 良いだろう。望むところだ。

 早速レースに向かう。

 

 この二百メートル走は、俺にとっても大きな挑戦だ。何せ。このレース、一緒に走るのは。

 

「───ふっ、昨日の敵は今日の友、昨日の友は今日の敵、というやつだ。勝たせてもらうよ。綾小路ボーイ」

「生憎と、このレースではお前が負ける。最優秀選手は取れなくなるが、残念だったな」

 

 俺と高円寺のレースに巻き込まれた他のクラスの生徒たち、特に渚は、心から、『勘弁してよ』、とでも言いたげな顔だった。うん。仕方ない。本当に仕方ない。

 なんか、ごめんな。

 

 それはそれとして、レースが始まる。

 スタートダッシュは完全に互角。自然な動きで内側のレーンに入っていく。

 高円寺は外側に押し出された。単純な身体能力だけなら向こうが上。だからまずは距離の有利を取る。

 さて、一歩分だけ俺が前に出ている、が。百メートルを超えた辺りで更に加速してくる。負けじと俺も加速する。

 距離の優位があるにも関わらず完全に互角。持って生まれた才能だけなら、まず間違いなく高円寺が上だろう。が。

 

 生憎こっちは、()()()()()()()()()()()()

 

 更に加速する。

 飛騨先輩の走り方を可能な限りトレースする。

 あの人の走り方は野生的な合理性の塊だ。

 機械的なまでの合理性の塊な堀北先輩の走り方は、既に俺も身に付けている。

 意味不明なまでの非合理的な猫実先輩の走り方は、簡単に真似できるモノじゃない。

 天性の壊滅的な桃井パイセンの走り方なんて真似できるわけがない。

 

 だからこそ、最も真似しやすく、最も加速しやすい飛騨先輩の走り方をトレースする。僅かに前に出る、が、僅かな差は一瞬で塗り潰される。

 だろうな。だが、この一瞬でほんの僅かだが、高円寺は無理な加速をした。

 その分だけ、ほんの僅かにスタミナが削れる。それに伴い、ほんの僅かに速度が落ちる。それでも尚、俺と互角。

 だからあとは、気合いと根性と。

 

「清隆くん!頑張ってー‼︎」

「頑張れ‼︎清隆‼︎」

 

 恥ずかしながら、きっと愛ってやつの力だな。

 

 僅かに抜け出して、俺は一着だった。

 

 清々しい気持ちだ。本当に。あぁ。

 やっぱり、競い合うってのは、楽しいな。

 

「………やはり私には、それ()が足りないか」

「………まぁ、人と人との縁は運だ。出会える時もあれば、出会えない時もある」

 

 俺は、本当に運が良い。

 競い合える同格の奴らに。

 共に歩んでくれる友達達に。

 隣に立とうと足掻いてくれる、………いつかの相棒に。

 俺の為に身を捧げることも惜しまないでいてくれる、…………勝手に、父親だと思っている人に。

 そして、俺に、『ひと』を教えてくれた、今も心の中に生き続けている、恩師に。

 頼りになる、先輩達に。

 そして何より。

 

「………心から愛しいと思える大切な人たちに、出会えたからな」

 

 ………今の所、それが二人ってのが、ちょっと問題だがな。

 

 

 

 

 

 誰にも目につかない、校舎裏。

 Cクラスの、最初の百メートル走で桃井を巻き込んだ女子は、震える手で、電話に出ていた。

 電話越しに聞こえるのは、ボイスチェンジャーでくぐもった、男の声。

 

『おいおい。何でCクラスがこんなに勢いづいてんだよ?』

「ご、ごめんなさい」

『………っ、謝んなって。そんなことよりも、約束はどうすんだ?』

「ご、ごめんなさい。必ず、必ず約束は果たします………!」

『……………っ、だから、謝んなよ』

「ごめんなさいっ…………。ごめんなさい………」 

『─────謝んなって言ってんだろ‼︎』

「ひぃ………」

『、あ、あぁ悪い悪い。ちょっと冷静じゃなかったわ。ま、ちゃんと約束は守れよ?でないと、青井雀(あおいすずめ)みたいな奴が、Cクラスから出るかもな?』

 

 その名は、ニ年生にとっての、禁句に等しい。

 何故なら、彼女は。

 元一年Aクラスの生徒で。

 自主退学した、卜部藤乃の親友で。

 

 無人島試験における()()()()A()()()()()()()()()()()()

 D()()()()()()()()()()()()()()()()()

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 体育祭編の後、南雲雅過去編やります。
 入学してから一学期で何があったのか。
 それから事件の詳細も書きます。

 まぁ、その、南雲だけが悪いってわけじゃない話にはなってると思います。多分。
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